デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治12年11月17日（1879年）

是ヨリ先、大阪ニ於ケル贋札事件ヲ機トシ、栄一銀行営業ニ関スル事変アル時ハ本会ヨリ全国一般ノ銀行ニ通報スベキコトヲ議ス。衆ノ賛同ヲ得タルニヨリ第一国立銀行ニ於テ臨時報告略程ヲ立案
 - 第5巻 p.649 -ページ画像 
シ、是日衆議ニ付ス。字句修正ノ後衆異議ナク之ヲ可決ス。

東京経済雑誌
　○第一三号・第四四七頁〔明治一二年一〇月三〇日〕
　　　　○択善会第廿六回録事
○中略
第五次、原六郎君建議シテ曰ク、当春二円紙幣ノ件ヲ以テ同盟会議セシ以来、敢テ憂虞スル所ナキカ如シ、而シテ頃大坂ノ変起リシヨリ俄ニ其影響ニ因テ人々紙幣ヲ嫌フノ情ヲ生シ、洋銀又ハ貿易銀トノ比対ハ忽チ復タ旧轍ニ回リ、商賈ノ困難スル甚タ少ナシトセス、而シテ其二円紙幣ニ贋札アルト云ニ至テハ未タ実際ニ発見セス、或ハ風声鶴唳ニ属スト雖モ、万一又銀行紙幣ニ於テ浮説ノ起ルアラハ忽チ銀行ノ信ヲ失フコト豈恐レサルヘケンヤ、今ハ已ニ大坂ノ変ヨリシテ生スル紙幣ヲ厭忌スルノ世情ハ稍々平静ニ復シタリト雖トモ村落僻邑ニ至テハ猶或ハ流言ニ惑ハサルヽ者ナシトセス、因テ之カ治安ヲ計リ当会ヨリ全国ノ銀行ニ一般通知ヲナシ以テ実際ノ情況ヲ知悉セシメ彼ノ「パニツク」ノ変ヲ未然ニ防範センコトヲ要スト、渋沢君曰ク、聞ク所ニ依レハ大坂ノ変ハ一時頗ル沸騒ノ情ヲ為シ、商法会議所ノ議ヲ以テ在坂各銀行ニ謀リ無手数料ヲ以テ二円紙幣ヲ交換スルコトニ決定セシヨリ敢テ復タ交換ヲ望ム者ナシト、今如シ建議ニ従ヒ諸銀行ニ通知スルトセハ先ツ其東京ニ於ル影響ノ情態ヲ詳ニセサルヘカラス、目今聞ク所ニ依レハ、小商細賈ノ間少シク二円紙幣ヲ厭忌スルノ情態アリト雖トモ敢テ拒絶スルノ形勢アル見ス、又敝行ノ取引上ニ於テモ未タ曾テ故ラニ二円紙幣ノ交換ヲ求ムル者アルナシ、諸君店舗ノ情況ハ如何ト安田善次郎君・平池玄四郎君・辻金五郎君等未タ親シク其支障アルヲ見聞セス、又其交換ヲ要求スル者アルナシト答フ、渋沢君曰ク、若シ当会ヨリ通知スヘシトセハ贋札ノ有無ヲ明言セサルヲ得ス、之ヲ明言スル固ヨリ其有無ヲ究メサルヲ得ス、而シテ之ヲ究ムルヤ甚タ難シ、辻金五郎君曰ク、本議ノ如キハ其村落僻邑ノ為メニ防害ノ注意ニ出テタリト雖トモ、時已ニ後レタリ、今日復タ通知スルヲ要セスト、安田善次郎君曰ク、今後此ノ如キ大事アルニ際セハ或ハ商法会議所ニシテ本議ノ如キ事宜ニ及フコトアルヘシト雖トモ、此会同ニ於テ之ヲ議スルハ少シク穏当ナラサルニアラスヤ、渋沢君曰ク、此会同ハ業既ニ銀行敗裂紙幣交換法施行並ニ実際報告等ノ事務ヲ以テ全国ノ諸銀行ニ通知スルノ挙アリ、況ヤ十数行同盟シテ会同スル者ナレハ臨械公共ノ事務ヲ以テ報告スル如キ決シテ僣越ニアラサルヲ信セリ、因テ爰ニ要スル所ハ此会同ニ於テハ特リ大坂ノ如キ変ニアラス、今後凡ソ同業上緊切ノ事件ニ係リ風説飛語ノ為メニ世人ノ誤惑スルヲ恐ルヽコトアラハ其情状ヲ確悉シテ全国ノ銀行ニ報道スヘキヤ否ヲ議定シ、若シ其報道スヘキナレハ乃チ又其規程ヲ設立スヘキナリト、原六郎君曰ク、小子ハ切ニ「パニツク」ノ起ランヲ恐ルヽノ余リ建議セシカ、遂ニ議論ノ玆ニ至ルヲ得ハ更ニ渋沢氏ノ説ニ従テ決議センコトヲ欲スト、安田善次郎君・辻金五郎君モ同意ヲ述へ、衆モ亦同シ、且其規程ヲ撰定セン
 - 第5巻 p.650 -ページ画像 
コトヲ請ヘリ、渋沢君曰ク、諸君同意ナレハ此立議ノ大旨ハ今夕已ニ議定ヲ得ル者ナリ、因テ他日其規程ヲ立案シ以テ之ヲ再議スヘシト、衆皆領意セリ

　○第一五号・第五一七―五二〇頁〔明治二一年一一月二九日〕
　　　　○択善会第廿七回録事
○中略
第三次、渋沢君ハ前会ノ決議ヲ以テ制定スル所ノ臨時報告略程ヲ示シ之ヲ宣読シ、而シテ議シテ曰ク、本案ハ前会決定ノ如ク、銀行営業上ニ関スル事変アル時ニ当リ本会ヨリ全国一般ノ銀行ニ通報スヘキ規程ニ係リ、其要旨ハ前会既ニ決議ヲ得タレハ、本議ノ要スル所ハ但タ其条章字句ノ可否ヲ議スルニ在リト、肥田昭作君・三輪振次郎君・原六郎君・原田銀造君等相議シテ原案第二項議目ノ内「貨幣流通法ノ錯乱即チ（パニツク）ノ変」トアルヲ「金融上ノ錯乱即チ（パニツク〕」ト改メ、又「銀行鎖店ノ変」トアルヲ「銀行破産ノ変」ト改メ、其他ハ原案ニ従ハンコトヲ欲シ、衆異議ナクシテ此ノ如ク決定セリ（本文下ニ載ス）
○中略
第六次、同氏○渋沢栄一ハ名古屋第百三十四銀行ヨリ本会幹事ニ通知セシ銀行紙幣五円ノ贋札一枚発見ノ事由ヲ報告ス、但シ其贋タル極メテ粗拙ニシテ一見シテ贋タル判スヘキモノナリト云
○中略
　　　　臨時報告略程
択善会第二十六回ノ会同ニ於テ自今若シ銀行営業上ニ関スル事変アレハ速ニ会議ヲ開キ、其情状ヲ審査シ治済回護ノ方法ヲ設ケ以テ全国ノ諸銀行ニ報道スヘキコトヲ議定セリ、因テ其略程ヲ立ツルコト左ノ如シ、一臨時報告ノ為メニ会議ニ付スヘキ事件ハ左ノ数項トナス、銀行紙幣流通上ノ変、贋札発見ノ変、金融上ノ錯乱即チ「パニツク」一右ノ変事ニ因テ銀行営業並ニ財政上ニ影響シ、又ハ影響セントスル時ニ於テ、治済回護ノ意見ヲ陳ヘ、又ハ其方法ヲ講求セント欲スル者ハ速ニ之ヲ幹事銀行ニ照会シ、臨時会議ヲ開設センコトヲ要スヘシ、一幹事銀行右ノ照会ヲ得レハ其緩急ヲ量リ会日ヲ卜シ同盟諸行ニ通知スヘシ、但幹事銀行ヨリ開会ヲ要求スル時モ本文ニ準シテ処分スルヲ得ヘシ、一此会同ニ於テハ凡ソ其開会ヲ要求セシ銀行ヨリ其意見ヲ陳述シ又同盟ノ考案ヲ問ヒ然ル後報告ノ順序ヲ決議スルヲ法トス、然レトモ事宜ニ従ヒ之ヲ幹事銀行ニ托シ、同銀行ヨリ代ツテ陳述ヲ為シ、諸行ノ考案ヲ詢問スルヲ得ヘシ、一此会同ノ議事決行ハ総テ議事小則ニ従テ処分スヘシ、一凡ソ決議ヲ得テ全国諸銀行ニ報告スヘキ事件ハ総テ幹事ニ在テ処分スルコト通常ノ事務ト一般タルヘシ

　○第二〇号・第一〇〇頁〔明治一三年二月一四日〕
　　　　○択善会第二十九回録事
○中略
第六次、会頭ハ名古屋第十一銀行ニテ銀行新紙幣五円贋札一枚ヲ発見セシハ極メテ拙浅ナル贋造ニテ一目シテ判別スヘキ者ナリシトノ報道アリシヲ告ク
 - 第5巻 p.651 -ページ画像 

東京日日新聞
　○第二三四四号〔明治一二年九月三〇日〕
大坂府下にてハ此ごろ各銀行へ二円札を引換に来るもの陸続として絶えざるが、遂にハ此の紙幣の一銀行に偏して交換に差支ゆる事あらんも計り難し、若し然る場合に至らバ、同業者ハ互ひに相助けて必らず不都合なからしむべし、万一各銀行とも交換し尽すの時に至らバ其の事情を大蔵省に上申し、商法会議所に報告して良法を請求すべしと、此ほど各銀行の主任者が会同して議決したるよし、大坂の新聞に見えたり。

　○第二三五〇号〔明治一二年一〇月七日〕
　　　　○大坂ノ疑獄
○上略
玆ニ今日マデニ新聞紙ニ記載シ若クハ道路ニ流伝シタル紙幣贋造ノ評判ヲ撮要センニ、抑モ藤田中野以下ノ諸氏ガ大坂ニ逮捕セラレタルハ蓋シ紙幣贋造ノ事ニテ其贋造紙幣ハ先年我邦ヨリ新紙幣ノ製造ヲ独乙国ノ或ル製造所ヘ依托セシトキ、同国ヘ派出シタル某ガ紙幣製造器械ヲ密買シ、二円・五円・十円・五十円ノ紙幣凡ソ三百万円ヲ贋造シテ之ヲ我邦ニ舶送シ、藤田等ガ秘計ヲ以テ一昨年西南戦争ノ際ニ会計部ノ準備紙幣三百万円ト密ニ取換ヘタルニ、二円札ノ如キハ其贋造寔ニ精密ニシテ容易ニ其真贋ヲ分チ難ク四百倍顕微鏡ニ照シテ漸ク裏面右円輪ノ蜻蜒ノ足ノ一本足ラザルヲ見ルノミト云フニ過ギズ、我輩請フ明日ノ紙上ニ於テ此ノ評判ノ容易ニ信ズベカラザル所以ヲ陳述セン
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（此稿未完）