デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治13年3月1日（1880年）

栄一古今手形ヲ彙述スルノ議、開会時間ヲ繰下ゲルノ議、及ビ臨時委員ヲ設置スルノ議ヲ発ス。何レモ衆ノ同意ヲ受ク。

東京経済雑誌　第二二号・第一七五―一七九頁〔明治一三年三月一五日〕
　　　　○択善会第三十次会録事
三月一日、択善会第三十次会ヲ木挽町商法会議所ニ開ク、幹事第一銀行渋沢栄一・西園寺公成、同第十五銀行河鰭公篤・永沢仲之助、同三井銀行田中茂兵衛、第三同安田忠兵衛、第四同原田銀造、第五同市来広治・加藤兵吉、第十同小野金六、第十三同蘆田順三郎、第十八同代理第一銀行佐々木勇之助、第二十同杉山勧・川杉義方、第二十三同代理第一銀行大沢正道、第二十七同礒与吉、第三十同下村忠清・宮崎代七第三十二同北川清七・上田吉輔、第三十三同種田誠一、第四十四同市原政樹・奥村正雄、第六十同島田英次郎・関根太郎次郎、第七十四同草薙尚志・阪本七三郎・高桑覚二、第九十五同福田敏修・丸岡勘造、第百同宮部久、第百十三同鈴木重恒・鈴木退蔵、第百十八同青木浩蔵第百十九同村瀬十駕・堤正峯、久次米銀行北室貞八、以上三十七名来会ス、第二・第六・第十二・第十四・第二十二ノ五行ハ欠席ヲ告ケタリ、午後六時会員一同議場ニ上ル
○中略
第三次、会頭ハ頃銀行課長ヨリ嘱托セラレシ古今諸手形ヲ彙述スルノ議ヲ発シ、先ツ其嘱托書ヲ読ミ、而シテ謂テ曰ク、此書ハ前日輪札ヲ以テ回覧ニ付シ、諸君了知スル所ナリ、夫レ古今ノ諸手形タル者其類頗ル多ク、今敢テ遠邈ニ溯ツテ稽ヘント欲スルモ恐ラクハ其詳ヲ得ル能ハス、要スルニ江戸政治ノ日ニ在テ行ハルヽ所ノ者ヲ考究セハ、猶文献ノ未タ亡ヒサル有ルヲ以テ其大体ヲ徴スルヲ得ヘシ、其札差ナル者ニ在テ行フ所ノ諸手形ノ如キハ前年已ニ彙述アツテ略之ヲ悉セリ、其他両替屋・掛屋等ノ如キ旧法ヲ討尋セハ庶幾クハ其要領ヲ知ルニ足ラン、現行ノ者ニ至テハ諸銀行々フ所ヲ挙テ彙集セハ亦以テ遺ル所ナカルヘシ、因テ此捜求彙述ニ従事スルニ於テ諸君何ノ方法ニ従フトスルヤ、或ハ委員ヲ設テ従事スルト為スカ、思フニ此彙述ノ如キ甚タ為シ易キ者ニアラスト雖トモ畢竟銀行ニ在テ不問ニ措クヘカラサル者ニシテ、実ハ今日捜述スルノ秋ナリ、願クハ諸君高見ヲ叙ヘヨ、杉山氏曰、別ニ委員ヲ設ケ幹事三行ニ委托シ、而シテ各紀聞ヲ挙ケテ幹事ニ報道スルヲ要ス、原田君・市来君等之ニ同ス、宮部氏曰ク、或ハ商法会議所ニ委托シテ捜求スヘシ、会頭曰ク、諸君ノ望ム所アレハ幹事ニ在テ担当スルモ亦辞スヘカラス、然レトモ諸君モ亦各現行ノ方法及ヒ紀聞ヲ以テ幹事ニ報知スルヲ要ス、幹事ハ其報知ト自ラ捜訪スル者トヲ蒐集シ、而シテ現行箇目ノ方法ハ何ノ点迄ニ達スルヲ究明シ、古法ニ属スル者ハ濫觴沿革存亡ノ因由ヲ論セス、捜求シ得ヘキヲ以テ極度ト為シ、各之ヲ彙述シテ以テ開具スヘシ、諸君之ヲ望ムカ、諸員皆之
 - 第5巻 p.660 -ページ画像 
ヲ望ム、会頭曰ク、既ニ然ラハ諸君日ヲ刻シテ幹事銀行ニ報道アルヲ要スト、皆之ヲ領ス
○中略
第七次、宮部君会頭ニ建議シテ曰ク、自今更ニ集会時間ヲ展放スルコト一時間、即チ午後五時ト定メ、而シテ其時限ニハ必ス上場スルヲ要ス、会頭之ヲ可トシテ諸員ニ問フ、皆同意セリ
第八次、種田君議シテ曰ク、小子本会ノ濫觴ヲ詳ニセス、而シテ今日ヲ以テ之ヲ見レハ只其懇親談会ヲ以テ足レリトスル如シ、今夫本邦銀行ノ営業ヲ考レハ、姑ク目前ノ利ヲ収メテ遠大ノ事業ヲ務メサルカ如シ、若シ長ク之ニ安ンスルトキハ試ニ百年ノ後ニ於テ其経歴セシ事跡ヲ追観スルトセヨ、一ノ功績ヲ留ムル者アルヘカラス、若シ鉄道及工場器械場等ノ事業ヲ経営スル時ハ歴然不動産ノ存立スルヲ以テ功益トモニ今日ニ幾倍スルヲ計ルヘカラス、此目的ヲ達セント欲セハ宜シク本会ノ体裁ヲ改良シ、且委員ヲ設置シ、大ニ経済ヲ請求シ、及財務ノ得失ヲ考覈スヘシ、是大ニ本会ニ望ム所ナリト、渋沢君曰ク、本会ハ初メ懇親会ニ起リ、同盟漸ク加ハリ会務亦随テ生ルニ至テ、更ニ衆議ニ因テ会規ヲ改正シ、則議事ニ渉ル者ハ其規則ニ従テ之ヲ処分シ、論話演説ノ如キハ一場一会ノ間議事ト其経界ヲ区別シ、各所志ヲ吐露スルニ便セリ、又幹事ヲ設ケテ一切平常ノ事務ヲ委任セリ、是現今ノ体裁タリ、故ヲ以テ論説アル者ハ之ヲ述ヘ、同盟ノ従違ニ因テ十分伸張スルヲ得ヘシ、豈惟懇親談話ニ止リ、会務整頓セスト謂ハンヤ、銀行ノ営業ヲ鞭励スル如キ其論意ハ喜フヘシト雖トモ、一ニ不動産ヲ以テ功績ヲ効ハサント欲スルハ復タ甚タ穏当ナラス、仮令其実際ニ従事セスト雖モ、能ク営業ヲ精励シ、間接ニ工業生産ヲ賛助スルヲ得ハ、亦無形ノ功績ト雖トモ有形ノ功績ト何ソ撰ハン、然リト雖トモ今君カ論スル所ノ精神ヲ見レハ、大ニ銀行営業ニ慨憂スルヲ以テ小子深ク喜ンテ賛成ス、願クハ高論ヲ吝ム勿レ、委員ノ如キハ小子或ハ臨時委員ヲ設クルヲ望ミ、平常委員ヲ置クヲ求メス、何ントナレハ未タ平常委員ヲ以テ処理スヘキ事務アラサレハナリ、然レトモ此一項ハ小子敢テ弁解セス、諸君ノ高議ニ従テ決スヘキナリ、原田君・市来君・宮部君等皆平常委員ヲ要セサルヲ論ス、種田君曰ク、強テ委員ヲ設クルニアラス、実ハ会務ヲ整理センコトヲ求ムルニアリ、会頭曰ク、委員ノ一項ハ諸君尚熟慮ヲ以テ議スルヲ要ス、小子ノ意ハ畢竟臨時委員ヲ設クルニ過キスト、玆ニ於テ議ヲ已ム
右会議事畢テ十一時三十分会散ス