デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治26年6月（1893年）

第十五国立銀行延期請願ノ発議ヲナシ栄一ノ同意ヲ得ントス。蓋シ栄一ノ内意ハ行政処分ニヨリテ国立銀行延期問題ヲ解決セントシ第十五国立銀行ノ意ハ法律ノ変更ニアルナリ。栄一当初ノ希望達スルノ場合ニハ之ニ拠ルベシトノ条件ヲ附シテ、東京同盟銀行ニ諮リ此ノ請願ニ関スル特別委員トナル。

国立銀行営業延期始末　　第八―一六丁　　（渋沢子爵家所蔵）
○上文ハ明治二三年九月一二日ノ項ニ続ク
十三、大阪同盟銀行ノ発議並東京同盟銀行ノ評決　前陳ノ如ク大阪同盟銀行モ亦営業延期ノ請願ヲ為シヽト雖トモ、或ハ其希望ノ達セサランコトヲ憂ヒ全国々立銀行大会ヲ開キテ紙幣消却ニ関スル事項ヲ協議シ、同業者間ノ親密ヲ厚フシ且鞏固ナル一団体ヲ組織シ来ル廿五年一月ノ衆議院議員ノ撰挙ニ際シ延期ノ素願ヲ貫カンコトヲ企テ東京同盟銀行ノ同意ヲ要求シタリ、因テ東京同盟銀行ハ廿五年一月ノ定式会ニ当リ之ヲ衆員ニ謀リシニ、論議ノ末要スルニ実業家ハ政治以外ニ独立スヘキ者ニシテ国政ニ干渉スルカ如キハ其本文《（分）》ニアラス、且同業者ノ大会ノ如キハ他日時機ヲ図リ之ヲ挙行スルハ固ヨリ希望スル所ナレトモ、目下議員撰挙ニ際シ会同スルハ穏当ヲ欠クコトナキニアラサルヲ以テ断然同意セサルコトニ評決シタリ
十四、東京同盟銀行第二回ノ協議　紙幣消却ノ営業年限内ニ完結セサルヲ憂ヒ、屡評議セシコトアリト雖トモ未タ何等考案ノ確定セシ
 - 第6巻 p.325 -ページ画像 
モノ無キヲ以テ、廿五年三月第十五国立銀行ノ発意ニ基キ特ニ同盟国立銀行ノ会同ヲ催シタリ、開会ニ臨ミ委員長渋沢栄一ハ此方法ヲ講究スルノ必要ト又廿三年九月以還各団体ヨリ陸続稟請（十二）スル所アリシト雖トモ、荏苒今日ニ至リ猶其目的ヲ完遂スルコトヲ得サル次第ヲ叙シ、且加藤監査局長ノ言フ所ニテハ「本局ニ於テモ決シテ等閑ニ附スルニハ非サレトモ管掌スル所ノ事務頗多端ニシテ唯本件而已ニアラサレハ急速ニ処理スヘカラス、況営業満期ノ日モ猶遠キニアレハ敢テ急迫セサルモ可ナラン、宜ク当業者ハ本局ニノミ依頼セス自ラ進ミテ適正ノ考案ヲ立テ差出サレタシ、大蔵省モ亦十分ニ之ヲ審査シテ採否スル所アルヘシ」ト、因テ同盟銀行中ヨリ若干ノ委員ヲ挙ケ、托スルニ数種ノ方案ヲ起草スルコトヲ以テシ之ヲ当局者ノ参考ニ供シ、其処分ヲ促スノ動機トシテハ如何ト討論審議ヲ尽シヽ後チ、今新ニ数種ノ方案ヲ草スルモ当局者ノ意向ト一致ヲ欠クカ如キコトアラハ或ハ全ク無用ニ帰スルコトナシト謂フ可ラス、依テ過般田尻前局長ヨリ日本銀行ヘ廻附セシト聞ク国立銀行処分案ノ内覧ヲ求メ、之ヲ標準トシテ我々銀行者ノ意思ニ適スル方案ヲ定ムルコトトナサハ、彼我ノ意向ニ大ナル径庭ヲ生スルコト無クシテ可ナラント、之レカ為ニ渋沢栄一、池田章政、山本真成、安田善次郎、山中隣之助ノ五名ヲ委員トシテ其筋ニ請フ所アリシト雖トモ終ニ其内覧ノ許諾ヲ得サリキ
十五、東京同盟銀行稟請（十二）ノ成行　廿三年九月東京同盟銀行ハ行政処分ニ依リ紙幣消却始末ヲ整理セラレンコトヲ田尻銀行局長ニ請願シ（十二）爾来屡渋沢栄一等ヨリ事情ヲ縷陳シ、或ハ意見書ヲ呈シ大ニ其利害得失ヲ弁論痛議シ、年来ノ宿望モ漸ク当局者ノ容ルヽ所トナリテ今ヤ貫徹セントスルノ時ニ際シ、不幸ニモ局長ノ交迭アリテ加藤高明其任ヲ襲フコトトナリヌ、然ルニ新任局長ハ前局長ト其執ル所ノ方針ヲ異ニシ為ニ殆成効ノ望アリシ請願モ採納ノ運ニ至ラスシテ前日ノ勧喜《（マヽ）》ハ化シテ現在ノ憂患トナリヌ、因テ渋沢栄一ハ更ニ加藤局長ニ就キ其処分方法ノ確立ヲ促迫スルコト数ナリシト雖トモ、当時本局ノ事務多忙ナリシ故ニヤ毫モ要領ヲ得サリキ、其後数次局長ノ更迭アリケレハ其都度之ヲ歴訪シテ旧来ノ意志ヲ陳情シ孜々トシテ之ヲ貫カンコトヲ務メタリ
　廿五年八月大蔵大臣ノ更任ニ当リ、帝国ホテルヘ新旧両大臣ノ来臨ヲ請ヒシ時モ本件処分方法ヲ急速ニ規定セラレンコトヲ要求セシニ、松方旧大臣ハ其処理ノ速ナランコトヲ渡辺新大臣ニ望マレ渡辺新大臣モ亦務メテ速ニ決定スヘキ旨ヲ答ヘラレタリ、爾後渡辺大臣並田尻次官ヘモ屡稟請シタリシニ其回示ノ旨趣ハ終始渝ルコトナク、頻ニ審査中ナレハ遠カラス其方案ヲ示スヘシトノ事ニテ、遷延時日ヲ空過スル而已ナリキ
十六、第十五国立銀行延期請願ノ発議　紙幣消却始末整理ノ請求ハ東京同盟銀行ニテハ明治廿三年来ノコトニテ、営業満期ノ日ハ将ニ数年ノ内ニ来ラントスルニ、当局者ノ措置ハ前項ニ述ヘシ如ク甚緩慢ニシテ、曠日弥久殆終局ノ期ヲ予想スヘカラサルヲ以テ当業
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者ハ皆不安ノ念ヲ抱カサルモノナカリキ、爰ニ第十五国立銀行ハ行政処分ニテハ到底実効ノ挙ルヘカラサルヲ思ヒ、廿六年六月主動者トナリテ東京同盟銀行ノ重ナルモノヲ招集シ、精密ノ計表ヲ提出シテ従来ノ手続ヲ履ミ、紙幣ノ消却ヲ行フトキハ明治四十七年ニ至ラサレハ其完了ヲ観ルコト能ハサルヲ告ケ、一同商議ノ後「明治十六年改正国立銀行条例第百十二条ニ於テ発行紙幣消却ノ方法ヲ定メラレタリト雖トモ、十九年以来公債整理方法ノ施行ニヨリ六分以上利付ノ公債ハ本年四月ニ於テ悉皆償還セラレ、之ヲ補塡スヘキ公債モ亦非常ニ騰貴シ、額面百円ノ市価百十円ニ達セリ、故ニ発行紙幣消却ノ実況ハ明治十六年国立銀行条例改正ノ節大蔵省ヨリ示サレタル計算書ニ対シ、其差異凡八百余万円ノ巨額ニ上リ其高ハ即チ国立銀行全体ノ損失ニ帰スヘキモノナレハ之ヲ補償セント欲スルニハ営業年限ヲ延期スルノ外他ニ方法ナシ、且我邦ノ形勢ヲ通観スルニ維新以還政治文学ノ進歩ハ実ニ著明ナリト雖トモ之ニ反シテ商工業ノ発達ハ常ニ遅々逡巡ノ姿アリ、此間ニ在リテ我々百五十有余ノ国立銀行ハ金融ノ機関トナリテ聊実業ノ啓発ヲ助ケタルニ力アリト思惟スレトモ全体ノ商工業ハ尚未タ幼稚ノ域ヲ脱スル能ハス、此際ニ当リテ俄ニ国立銀行ノ制度ヲ変更セハ各行中ニハ勢ヒ解散トカ更設トカノ不幸ヲ生シ、其変動ノ為メ或ハ大ニ商工業ニ妨害ヲ与フルコト無シト云フヘカラス」トノ旨趣ニテ遂ニ国立銀行営業年限一期二十年間ヲ延長セラレンコトヲ帝国議会ニ請願センコトニ一決シ、直ニ渋沢栄一ノ同意ヲ得ンカ為メニ委員数名ヲ派遣シタリ
十七、東京同盟銀行延期請願ヲ決議ス　斯テ数名ノ委員ハ渋沢栄一ヲ訪ヒ、前項協議ノ要旨ヲ陳弁シテ其賛同ヲ求メタリ、抑渋沢栄一ハ紙幣消却始末整理ニ関シ廿三年九月東京同盟銀行カ稟請（十二）ヲ為シヽヨリ以還、専ラ行政処分ニ依ランコトニ尽力シ来レリ、然ルニ此協議ノ精神ハ法律ノ変更ニ依ランコトヲ要ムル者ナリ、故ニ彼此ノ目的ハ相同シト雖トモ其方便ハ相異ルモノト言ハサル可ラス、因テ此勧誘ニ対シ俄ニ其思想ヲ翻スコトラ望マス、然レトモ自己ノ意志ヲ果シテ徹底スルヤ否ヤハ予期スヘカラサル所ナルヲ以テ、此延期請願運動中タリトモ若シ当初ノ希望達スルノ場合ニ至ルトキハ之ニ拠ルヘシトノ事情ヲ附シテ之ニ応シタリ、依テ此議決ノ可否ヲ諮詢センカ為ニ特ニ東京同盟銀行会議ヲ開キ、衆員ノ意見ヲ問ヒシニ全会一致ヲ以テ之ヲ賛成ヲ表シケレハ、此件一切ノ事務ヲ処弁スルカ為ニ渋沢栄一、山中隣之助、園田孝吉、中上川彦次郎、安田善次郎ノ常任委員ニ加フルニ安田善四郎、山本真成、佐々木勇之助、佐々木慎思郎、池田謙三、三輪信次郎、三村君平ノ七名ヲ特別委員ニ推撰シタリキ
十八、紙幣銷却追加約定書成立セス　渋沢栄一ハ前項ノ如ク同業者ノ延期請願運動ニ同意シタリト雖トモ、固ヨリ其本位ニアラサレハ渡辺大蔵大臣、田尻同次官、川田日本銀行総裁ヲ訪ヒ、爾後ノ事情ヲ縷陳シ請願ノ旨趣速ニ貫徹センコトヲ要シメタリシカ、遂ニ廿六年七月ニ至リ田尻次官ヨリ「国立銀行営業満期ニ至リ私立銀
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行トナリテ其営業ヲ継続スルトキハ、予テ日本銀行ニ預ケ置タル準備金及積立金ヲ以テ買入タル公債証書ヲ売却シ、其内ヨリ最初預ケ入タル準備金ハ通貨ニテ返却シ、其余ヲ以テ紙幣消却ノ基金ニ充テ、不足ノ分ハ日本銀行ヨリ無利息ノ貸付金トナシ、而シテ其貸付金ハ従前ノ如ク毎半季発行紙幣ノ壱分弐厘五毛ニ相当スル金額ヲ以テ返済方ヲ結了スルナリ」トノ紙幣消却順序ヲ内示セラレタリ、是ニ於テ東京同盟銀行ハ臨時会同ヲ開キ、討議ノ末通貨ニテ交付スヘシトアル準備金ヲ公債証書額面ニテ交付セラルヽコトトナラハ同意スヘキコトニ一決シ、其旨田尻次官ヘ答申ニ及ヒ聴許セラルヽニ至リシト雖トモ、日本銀行ニテ不同意ノ為メ此協議モ一時破裂セントスル有様ナリシカ、再三ノ合議ヲ経テ漸ク其望ヲ達シ、既ニ日本銀行ニ於テ該行ト各国立銀行トノ間ニ訂結スヘキ追加約定書案ノ取調ヲナシ、不日其草案ヲ東京同盟銀行ヘ示スヘキ約ナリシ、然ルニ其何ノ故ナルヲ知ラスト雖トモ、追加約定書ハ遂ニ成案ニ至ラサリキ、今左ニ田尻次官ヨリ内示セラレタル紙幣銷却順序略ヲ掲ケン
　　　国立銀行紙幣消却順序略
　甲、満期ニ至リ解散スルモノハ
　　　一、満期前ニ議決ス
　　　二、解散ハ商法ニ依ル
　　　三、準備公債ヲモ売払ヒ一時ニ紙幣ヲ消却ス
　乙、継続スルモノハ
　　　一、満期前ニ議決ス
　　　二、継続ノ事ハ国立銀行条例第十二条ニ依リ新設ノ手続ヲ要セス
　　　三、積立金公債ヲ売払ヒ紙幣消却ニ充ツ
　　　四、右ニテ不足スル分ハ（無利子）ニテ兌換券ヲ日本銀行ヨリ借入レ消却ス
　　　五、準備公債ヲ受取ル
　　　六、抵当公債ヲ受取リ直ニ日本銀行借入金ノ抵当ニ充ツ
　　　七、散失紙幣ハ日本銀行ノ所有ニ帰ス
　丙、満期ニ至リ他ノ国立銀行ニ合併スルトキハ其合併ヲ受ケタル銀行処置ニ依テ定ム