デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.345-353(DK060094k) ページ画像

明治26年12月15日(1893年)

是ヨリ先、二十六年七月一日ヲ以テ銀行条例及貯蓄銀行条例施行サル。是日右ノ改正法律案ヲ第五議会ニ提出スベキコトヲ決議ス。後明治二十八年ニ至リ両条例ハ何レモ改正セラレタリ。


■資料

銀行通信録 第八五号・第六〇頁〔明治二五年一二月二八日〕 雑録 銀行条例及貯蓄銀行条例延期(DK060094k-0001)
第6巻 p.345 ページ画像

銀行通信録  第八五号・第六〇頁〔明治二五年一二月二八日〕
    ○雑録
○銀行条例及貯蓄銀行条例延期 明治廿三年法律第七十二号銀行条例及同年法律第七十三号貯蓄銀行条例ハ、商法第一編第二章、第四章、第六章、第十二章及第三編施行ニ至ルマデ、其施行ヲ延期スル旨本月二十六日法律ヲ以テ公布セラレタリ


東京経済雑誌 ○第六五六号・第二一―二二頁〔明治二六年一月七日〕 銀行条例及貯蓄銀行条例施行延期法律案の可決、地租条例改正案の否決(同廿三日)(DK060094k-0002)
第6巻 p.345-346 ページ画像

東京経済雑誌
 ○第六五六号・第二一―二二頁〔明治二六年一月七日〕
    ○銀行条例及貯蓄銀行条例施行延期法律案の可決、地租条例改正案の否決(同廿三日)
 - 第6巻 p.346 -ページ画像 
銀行条例及ひ貯蓄銀行条例施行延期法律案は政府の提出に係り、衆議院の議決を経たるものにして、其全文は衆議院の部に掲載せり、渡辺大蔵大臣演説して曰く
 此法律は商法と相待ちて施行すべきものなるに、商法を延期して七月一日より施行と修正したる上は、独り本条例を一月一日より施行する能はざるは当然の次第なるを以て、時日切迫の際速に可決せられんことを望む
本案は特別委員の審査及び二三両読会を省きて可決確定せり

東京経済雑誌 ○第六七四号・第六六一―六六二頁〔明治二六年五月一三日〕 銀行条例の実施(DK060094k-0003)
第6巻 p.346-347 ページ画像

 ○第六七四号・第六六一―六六二頁〔明治二六年五月一三日〕
    ○銀行条例の実施
日本銀行に日本銀行条例を要し、横浜正金銀行に横浜正金銀行条例を要し、国立銀行に国立銀行条例を要すとせば、爾余一般の私立銀行にも亦之が条例を要することは多弁を要せざるべし、日本帝国第十一統計年鑑に拠れば全国に於ける私立銀行の数資本金積立金及び純益割賦等の統計左の如し
                              資本金百円に対する
  年  行数   資本金        積立金       純益   割賦
                 円         円    円    円
 廿一年 二一一 一六、七六一、六〇九 四、一三三、二〇〇 一〇・九四 六・四七
 廿二年 二一八 一七、四七二、一七〇 四、七三五、四三三 一二・三一 七・六七
 廿三年 二一七 一八、九七六、六一六 五、〇三九、八五九 一二・〇〇 七・八〇
 廿四年 二五二 一九、七九六、八二〇 五、四五九、八〇二 一三・三二 七・九三
又銀行類似会社の数及び資本金の統計は左の如し
  年   社数  資本金        年   社数  資本金
                  円                  円
 廿一年 七一三 一四、四五三、五五三 廿三年 七〇二 一四、五一二、六一六
 廿二年 六九五 一四、四二一、〇〇四 廿四年 六七八 一三、八七二、四三四
然り而して此等の私立銀行及び類似会社本支店の所在地は殆んど全国の名邑大都に亘り、重要有力なる金融機関たるにも拘らず、之を支配するの条例なく全く各自の自由に任せり、左れば之を称して照代の一欠典と謂ふ蓋し不可なきなり
明治廿三年法律第七十二号銀行条例は此欠典を補はんが為めに発布したるものにして、其施行期限は翌廿四年一月一日なりしが、商法延期の為めに再次延期せられ、漸く来る七月一日より実施せらるヽこととなれり、条例第一条に曰く
 公に開きたる店舗に於て営業として証券の割引を為し、又は為替事業を為し、又は諸預り及貸付を併せ為す者は何等の名称を用ゐるに拘らず総て銀行とす
思ふに銀行条例の実施と共に私立銀行の数は大に増加するなるべし、何となれば銀行類似会社の多きが如く、銀行類似の営業者(各人)の数も亦甚だ多かるべし、而して右の定義は此等の類似者をも悉く包括すべければなり、但し貯蓄銀行は貯蓄銀行条例に拠るべきこと勿論なり、然り而して銀行の事業を営まんとする者は其資本金額を定め地方長官を経由して大蔵大臣の認可を受くるを要し、且営業上左の如き制限規定あり
 毎半箇年営業の報告書を製し大蔵大臣に送付すること
 - 第6巻 p.347 -ページ画像 
 毎半箇年財産目録貸借対照表を製して公告すること
 一人又は一会社に対し資本金高(資本金総額の払込を了ざる銀行に於ては其払込高)の十分の一を超過する金額を貸付又は割引の為めに使用するを得ざること
 大蔵大臣は地方長官又は其他の官吏に命じて銀行業務の実況及財産の現況を撿査せしむるを得ること
然り而して之に違背するときは商法上の制裁あり、科料若くは禁錮に処せらるゝこととなり、余輩は此銀行条例を以て銀行に存在せる弊を除去し、将来生出する害を矯正するを得べしとは信ぜずと雖も、此等の制限規定は蓋し必要なるものなるべし
銀行条例と同時に貯蓄銀行条例も亦実施せらる、普通の銀行は合名会社、合資会社、株式会社若くは各人何れにても設立するを得と雖も、貯蓄銀行は資本金三万円以上の株式会社にあらざれば設立するを得ざることと為し、且営業上左の制限を立てたり
 貯蓄銀行は左に掲ぐる事項の外其資金を運転することを得ず
 (第一)貸付(第二)証券の割引(第三)国債証券及地方債証券の買入
 貯蓄銀行に於て貸付を為すは其期限六箇月以内にして、国債証券地方債証券を質と為したる場合に限る、其割引を為すは支払資力に付疑ふべき理由の存せざる者二名以上の裏書ある為替手形約束手形に限るべし
 貯蓄銀行は国債証券及地方債証券の定期売買を為すことを得ず
 貯蓄銀行は最も確実ならざるべからざるものなれば、其営業上に普通銀行よりも更に厳格なる制限を加ふるの必要あることは余輩之を認むと雖も、其貸付を以て国債証券及び地方債証券を質と為したる場合に限りたるは余輩の同意すること能はざる所なり、何となれば公債は未だ地方人民の財産とならざるを以て是れ寧ろ貯蓄銀行の設立を禁止するものなればなり、夫れ貯蓄銀行条例制定の目的は何ぞや、貯蓄銀行を保護して其健全なる発達を期するに外ならざるべし、然らば則ち之を禁止するの悖理たるや何ぞ多弁を要せんや


集会録事 自明治二六年一月(DK060094k-0004)
第6巻 p.347-350 ページ画像

集会録事 自明治二六年一月    (東京銀行集会所所蔵)
    ○臨時集会録事 ○明治二六年一二月七日
次ニ銀行条例修正及貯蓄銀行条例廃止ノ件ハ当集会所並ニ関東銀行会ノ決議ニ基キ、去月二十日之ヲ大蔵大臣ヘ稟請セシカ、頃日衆議院議員タル銀行者諸氏ノ協議ニテ、銀行条例ニハ其第六条ニ於テ時間ヲ改正スヘク、貯蓄銀行条例ハ廃止ト云ハンヨリ寧ロ修正ト云フヘシト《(ノ脱)》説多クシテ、終ニ本月六日衆議院議員タル銀行者ト京浜間貯蓄銀行当任者トノ協議会ヲ開キ結局其第四条第五条第六条ヲ修正スヘキコトト為シ、速ニ議会ヘ提出スヘキコトニ決シタリ、故ニ貯蓄銀行条例ニ於ハ当集会所並関東銀行会ノ意思ニ背馳シタルカ如クナレトモ、其精神ニ至リテハ殆ト大差ナキモノト信スルニヨリ、之ヲ各位ニ報道スルトノ旨ヲ告ケ同四時下退会セリ
      当日出席員
 - 第6巻 p.348 -ページ画像 
         第一国立銀行   渋沢栄一 ○外二三名氏名略
    修正案
第四条 貯蓄銀行ハ貯蓄預金払戻ノ担保トシテ預金総高ノ四分ノ一ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券又ハ地方債証券ニテ備ヘ置キ之ヲ供託所ニ預ケ入ル可シ
  但担保金額カ資本金半額以上ニ及フトキハ商業手形及確実ナル会社ノ債券又ハ株券等ヲ用フルコトヲ得
第五条 前条ノ金額ハ毎半ケ年末日現在ノ預金高ニ依リ之ヲ定ム
第六条 預ケ人ハ第四条ノ供託諸証券ニ就キ優先権ヲ有ス
    ○第百三十八回定式会議録事 ○明治二六年一二月一五日
次ニ渋沢氏ハ曾テ当集会所並関東銀行会ニ於テ決議セシ銀行条例修正並貯蓄銀行条例廃止ノ件ハ、去月二十日大蔵大臣ヘ稟請セシカ、頃日衆議院議員タル銀行者諸氏ノ協議ニテ、銀行条例第六条営業時間ハ日本銀行条例並国立銀行条例等、皆午前九時ヨリ午後第三時迄トアリテ独リ本条例ニ限リ午前十時ヨリ午後四時迄トナスハ、従来ノ慣例ニ背馳シテ不都合ヲ生スヘキニ付、本条モ亦同一ニ修正ヲ要スヘキニ決セリ、右ハ当集会所モ亦嘗テ同見ヲ存スル所ナリシカ、其修正ノ多端ニ渉ルヲ厭ヒ之ヲ省キタルカ、今ヤ議員諸氏ノ同見ナルヲ聴キ直ニ之ニ同意ヲ表シ、本案ハ是ヲ以テ已ニ議会ニ提出シ目下委員付託ニテ其考査ニ属シ、又貯蓄銀行条例ハ已ニ関東銀行会ニ於テモ廃止修正ノ両説ニ分レ遂ニ全然廃止ニ決セシカ、是亦或議員ハ本条例必要ナルノ説ヲ持セリ、因テ過日同議員五七名並京浜間貯蓄銀行ノ業ヲ営ム者数名会合審議ヲ経、結局其第四条、第五条、第六条ヲ修正シ、速ニ議会ヘ提出スヘキニ決セリ、而シテ此案ハ当集会所ノ意思ト稍々背馳シタルカ如クナレトモ、其精神ニ至リテハ敢テ大差アルニアラス、蓋当集会所ノ決議ニテ廃止案ヲ提出セシ理由ハ要スルニ銀行条例第五条営業区域ノ拡張ニアリシナレハ既ニ之ヲ修正シ、又貯蓄銀行条例中ノ第四五六条ヲ修正スルニ於テハ更ニ妨クル処ナカルヘシ、故ニ各位モ亦此事由ヲ諒セラレ、相共ニ知己ノ両院議員ニ向テ本案ノ通過ニ尽力アランコトヲ請フト、衆皆之ヲ領意セリ
次ニ来二十七年一月新年会ハ例ニ依リ初六日当集会所ニ於テ開クヘキ事ニ決シ、同五時下閉会晩餐ノ後退会セリ、当日出席員左ノ如シ
        第一国立銀行   渋沢栄一 ○外三二名氏名略
 (別紙)
     銀行条例改正法律案
   明治二十三年法律第七十二号銀行条例第五条ヲ削除シ、第六条中「午前第十時ヨリ午後第四時マテ」トアルヲ「午前第九時ヨリ午後第三時マテ」ト改正ス
     銀行条例中削除改正スルノ理由
 第五条 銀行ハ一人又ハ一会社ニ対シ資本金高ノ十分ノ一ヲ超過スル金額ヲ貸付又ハ割引ノ為ニ使用スルコトヲ得ス
  資本金総額ノ払込了ラサル銀行ニ於テハ、一人又ハ一会社ニ対シ其払込高ノ十分ノ一ヲ超過スル金額ヲ貸付又ハ割引ノ為ニ使用スルコトヲ得ス
   本条ハ一人又ハ一会社ニ対シ巨額ノ貸金ヲ為ストキハ、其借主
 - 第6巻 p.349 -ページ画像 
ノ損失ハ直ニ銀行ニ影響スヘキヲ以テ、営業ノ鞏固ヲ謀ルカ為メニ設ケラレタルモノナルヘシト雖モ、往々其趣旨ニ反スルモノアリ、今其一例ヲ挙クレハ玆ニ資本金拾万円ヲ有スル銀行アリ、其信用厚ク預リ金多額ニシテ之カ運転ヲ為スニ当リ、偶々確実ナル抵当ヲ以テ金融ヲ望ミ、若クハ生糸其他ノ荷為換ヲ望ムモノアルモ、其金額壱万円以上ナルトキハ、本条ノ制限アルヲ以テ之ヲ謝絶セサルヘカラス、然ルトキハ銀行者ハ運転ノ利ヲ失ヒ、実業者ハ活用ノ便ヲ欠クニ至ル、故ニ動モスレハ雇人等ノ名義ヲ仮用シテ其金額ヲ分チ、貸借ヲ弁スルカ為メニ実際ニ於テハ其目的ニ反スルノミナラス、却テ危険ニ陥ルノ結果ヲ生スヘシ、且資本ヲ小分スルノ益ハ本条ノ規定ヲ俟タス、荀モ銀行者トシテ之ヲ知ラサルモノハアラサルナリ、然ルニ如斯条文ヲ設ケ之ヲ束縛スルハ、実業ノ発達ヲ妨クル而已ナラス、彼我ノ利益ヲ奪フト一般ナリ、是レ本条ノ削除ヲ要スル所以ナリ
 第六条 銀行ノ営業時間ハ午前第十時ヨリ午後第四時マテトス、但営業ノ都合ニヨリ之ヲ増加スルコトヲ得
   本条ハ思フニ欧洲ノ慣例ヲ取テ之ヲ直チニ我国ニ施行シタルモノナルヘシ、聞ク英国倫敦ノ如キハ常ニ如斯慣例ナリト、然レトモ我国ノ状態ニ於テハ大ニ之ト異ルモノアリ、現ニ同一ノ業務ヲ行フ日本銀行、国立銀行ノ如キ午前第九時ニ始メ午後第三時ニ終ルノ法規ナリ、然ルニ私立銀行ニ於テノミ午前第十時ヨリ午後第四時迄ノ執務時間ヲ制限スルモ、啻ニ其効用ナキ而已ナラス季節ニヨリテハ実際ノ不便不利尠カラス、是レ本条ノ改正ヲ要スル所以ナリ

    貯蓄銀行条例改正法律案
明治廿三年法律第七十三号貯蓄銀行条例第四条、第五条、第六条左ノ通リ改正ス
第四条 貯蓄銀行ハ貯蓄預金払戻ノ担保トシテ預金総高ノ四分ノ一ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券又ハ地方債証券ニテ備ヘ置キ、之ヲ供託所ニ預ケ入ル可シ
  但担保金額カ資本金半額以上ニ及フトキハ商業手形及確実ナル会社ノ債券又ハ株券等ヲ用フルコトヲ得
第五条 前条ノ金額ハ毎半ケ年末日現在ノ預金高ニ依リ之ヲ定ム
第六条 預ケ人ハ第四条ノ供託諸証券ニ□《(欠)》キ優先権ヲ有ス
    現行法参照
  第四条 貯蓄銀行ハ貯蓄払戻ノ保証トシテ資本入金額ノ半額ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券ニテ備ヘ置キ、之ヲ供託所ニ預ケ入ルヘシ
  第五条 貯蓄銀行ハ左ニ掲クル事項ノ外其資金ヲ運転スルコトヲ得ス
   第一 貸附金
   第二 証券ノ割引
 - 第6巻 p.350 -ページ画像 
   第三 国債証券及地方債証券ノ買入
  第六条 貯蓄銀行ニ於テ前条ニ拠リ貸附ヲナスハ其期限六ケ月以内ニシテ、国債証券地方債証券ヲ質トナシタル場合ニ限ル、其割引ヲナスハ支払資力ニ付キ疑フ可キ理由ノ存セサル者二名以上ノ裏書アル為換手形約束手形ニ限ル可シ、貯蓄銀行ハ国債証券及地方債証券ノ定期売買ヲ為スコトヲ得ス
現行貯蓄銀行条例ハ明治廿三年八月ニ発布シ、本年七月ヨリ施行セラレタルモノナレトモ、其方法実際ニ適合セサルヨリ施行前ニ在リテハ全国殆ント三百ニ近キ営業者アリシモ、本法施行以来貯蓄預リ金ノ営業ヲ為スモノハ僅カニ十ケ所ニ減セリ、斯ノ如ク頓ニ其数ヲ減シタル所以ノモノハ取締役ノ責任等異アル為メ、普通銀行ニ於テ兼業ノ為ス能ハサルト、預リ金運転上ニ甚シキ検束アルトニ由ル、故ニ現今本条例以外ニ於テ種々ノ名目ヲ設ケ之レカ取扱ヲ為スモノアリト云ヘトモ、貯金者ニ不便ニシテ本条例施行ノ目的タル細民ノ貯蓄金ヲ保護スル能ハサルニ至ル、是ヲ以テ本条例ヲ改正シ、之レカ利便ヲ得セシメ併セテ保護ノ目的ヲ達セントス、是レ本案ヲ提出スル所以ナリ
  ○銀行条例及貯蓄銀行条例修正案ハ第五議会ニ上程サレタルモ同会解散ノタメ審議未了ニ終リタリ。
    ○第百四十八回定式会議録事 ○明治二八年一月九日
次ニ昨年第六議会ヘ提出シタル銀行条例及貯蓄銀行条例改正案ハ当時衆議院ニ於テ大多数ヲ以テ可決シタリシモ、其後議会解散ノ為メ遂ニ成立セサリシヲ以テ今回第八議会ニ対シ更ニ同案ヲ提出スヘキコトヲ問ヒシニ皆従前ノ通之ヲ望ミ、而シテ其手続ハ委員ニ一任スヘキコトニ議決セリ


銀行通信録 第一一一号・第五三―五四頁〔明治二八年二月一〇日〕 銀行条例改正案通過(DK060094k-0005)
第6巻 p.350 ページ画像

銀行通信録 第一一一号・第五三―五四頁〔明治二八年二月一〇日〕
○銀行条例改正案通過 曾テ東京銀行集会所同盟銀行カ再三協議ノ上、実業家出身議員中ヘ再議ヲ経テ修正シタル法律第七十二号銀行条例改正案ハ、昨年第六議会ヘ提出シ、衆議院ハ多数ヲ以テ原案ノ如ク通過シ、貴族院ニ於テ審査中議会解散ノ為メ遂ニ通過スルニ至ラサリシカ、該案ハ本年モ亦小坂善之助氏外六名ヨリ提出シ、既ニ貴衆両院共通過シタレハ法律トシテ公布セラルヽモ蓋シ近日ノ内ニアルヘシ、其修正案左ノ如シ
 明治二十三年法律第七十二号銀行条例中左ノ如ク改正ス
 第五条 刪除
 第六条 銀行ノ営業時間ハ午前第九時ヨリ午後第三時迄トス
  但営業ノ都合ニヨリ之ヲ増加スルコトヲ得


集会録事 自明治二六年一月(DK060094k-0006)
第6巻 p.350-351 ページ画像

集会録事 自明治二六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
    ○第百四十九回定式会議録事 (印)
明治廿八年二月十五日午後四時ヨリ同盟銀行第百四十九回定式会議ヲ開キ、来会スルモノ三十名委員山中隣之助氏ハ会長席ニ就キ左ノ事項ヲ報告シタリ
 - 第6巻 p.351 -ページ画像 
一前月定式会ノ協議ニ係ル銀行条例並貯蓄銀行条例改正案提出ノ件ハ、前例ニ依リ委員ヨリ小坂善之助君ヘ打合、同君ヨリ衆議院ヘ提出セラレタル処、銀行条例ハ異議ナク両院ヲ通過シ、已ニ去ル九日法律第一号ヲ以テ公布セラレタリ、又貯蓄銀行条例改正案ハ多数ヲ以テ衆議院ヲ通過シ、当時貴族院特別委員付托中ニアレハ其結果ヲ見ル蓋シ遠キニアラサルヘシ


銀行通信録 第一一二号・第四三―四四頁〔明治二八年三月一〇日〕 貯蓄銀行条例ノ通過(DK060094k-0007)
第6巻 p.351 ページ画像

銀行通信録  第一一二号・第四三―四四頁〔明治二八年三月一〇日〕
○貯蓄銀行条例ノ通過 貯蓄銀行条例ハ去ル二十三年法律第七十三号ヲ以テ公布サレ、昨年七月ヨリ施行セラレタルモノナルカ、其規定非常ニ厳密ナルヨリ東京銀行集会所同盟銀行ハ之カ改正ヲ望ミ、再三協議ノ上議員小坂善之助氏外数氏ト謀リ議会ヘ提出シ、両院共多数ヲ以テ原案ノ如ク可決シタレハ貯蓄銀行営業上大ニ便利ヲ得ヘシ、其案左ノ如シ
明治廿三年法律第七十三号貯蓄銀行条例第四条、第五条、第六条左ノ通リ改正ス
 第四条 貯蓄銀行ハ貯蓄預金払戻ノ担保トシテ預金総高ノ四分ノ一ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券又ハ地方債証券ニテ備ヘ置キ、之ヲ供託所ニ預ケ入ル可シ
   但担保金額カ資本金半額以上ニ及フトキハ商業手形及確実ナル会社ノ債券又ハ株券等ヲ用フルコトヲ得
 第五条 前条ノ金額ハ毎半ケ年末日現在ノ預金高ニ依リ之ヲ定ム
 第六条 預ケ人ハ第四条ノ供託諸証券ニ就キ優先権ヲ有ス
    現行法参照
 第四条 貯蓄銀行ハ貯蓄払戻ノ保証トシテ資本入金金額ノ半額ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券ニテ備ヘ置キ、之ヲ供託所ニ預ケ入ルヘシ
 第五条 貯蓄銀行ハ左ニ掲クル事項ノ外其資金ヲ運転スルコトヲ得ス
  第一 貸附金
  第二 証券ノ割引
  第三 国債証券及地方債証券ノ買入
 第六条 貯蓄銀行ニ於テ前条ニ拠リ貸附ヲナスハ其期限六ケ月以内ニシテ、国債証券地方債証券ヲ質トナシタル場合ニ限ル、其割引ヲナスハ支払資力ニ付キ疑フ可キ理由ノ存セサル者二名以上ノ裏書アル為換手形約束手形ニ限ル可シ、貯蓄銀行ハ国債証券及地方債証券ノ定期売買ヲ為スコトヲ得ス


帝国議会史綱 明治篇 第三四七―三四八頁〔昭和二年五月二五日〕(DK060094k-0008)
第6巻 p.351-352 ページ画像

帝国議会史綱 明治篇 第三四七―三四八頁〔昭和二年五月二五日〕
    第八回帝国議会
      第六章 雑纂
○両院通過法案件銘 当期議会の接受したる法律案の数は百四十余件にして、其両院を通過したるものは左の三十二件なり
 ○中略○銀行条例改正法律案○貯蓄銀行条例改正法律案
 - 第6巻 p.352 -ページ画像 
  ○明治二十六年十月十四日、明治二十七年三月十五日、及ビ本篇第一章第二節「関東銀行会」明治二十六年十月二十三日ノ項参照。



〔参考〕明治金融史 第一一三―一一六頁〔明治四五年五月一日〕(DK060094k-0009)
第6巻 p.352-353 ページ画像

明治金融史 第一一三―一一六頁〔明治四五年五月一日〕
二十三年制定せられたる貯蓄銀行条例は、実に其以前地方官に令達せる貯蓄銀行管理内規を基礎とせるものなり。今其制定の理由を見るに曰く、貯蓄銀行は一般人民をして節約勤勉の良習を養成し、各自生計の安全を保持する要具にして決して単に営利を目的とするものゝ事業にあらず。従て其性質決して人民相互の契約に拠り設立するを許さず須らく完全なる法律の支配を受けしめざるべからず、今や商法、普通銀行条例発布に際し、之が監督法を設けて十分の制裁検束を加へ、以て勤勉貯蓄の良習を助成せざるべからざるの好機会に際会せり且つ貯蓄銀行は特に其特色とする事項に関する条項を設け、管理の方法を厳にし、弊害を防止し、人民をして其便に頼らしむるの必要ありと。
今条例の規定する所を見るに
 (一)複利の方法を以て、公衆の為め預金事業を営むものを貯蓄銀行とし、新たに一口五円未満の金額を定期若くは当座預金として引受くる時は、貯蓄銀行業者として此の条例に依らしむること
 (二)貯蓄銀行は資本金三万円以上の株式会社とし、以て銀行以外の事業の成敗によりて累を貯蓄事業に及ぼさゞらんことを期すると共に、特に其取締役に連帯無限の責任を負はしめ、尚ほ其責任は退任後一ケ年間継続するものとし
 (三)貯蓄払戻の保証として、資本金の半額以上を利付国債証券を以つて供託所に預入せしむること
 (四)貯金資金の運転は、(イ)期限六ケ月以内の国債、地方債証券を質とする貸付(ロ)支払資力に付き疑ふべき理由の存せざる二名以上の裏書ある為替約束手形の割引(ハ)及び国債地方債証券の買入に限定し、且つ国債、地方債の定期売買を禁ぜり
 (五)尚ほ貯蓄銀行にあらずして其業務を営むことを禁じ、設立定款の変更は主務大臣の認可を受けしむることゝせり
由是観之、条例の精神は全く慈善主義に基けるものにして、其資本、及組織、預金払戻準備、資金運転等に関する制限を見るも、以て其一般を推測するに難からず。而して此条例は二十四年一月より実施する筈なりしが、商法施行の延期せられたるが為めに、二十六年七月より施行せらるゝことゝなれり。此新条例に依り貯蓄銀行を営むもの同年末二十二行、預金残高六百三十余万円なりき。
二十八年条例の改正あり、其理由は取締役が銀行の義務に付き負担する無限責任期間の短きに失すること、及預金払戻の準備、資金運転に関する制限酷に過ぎ、却つて其発達を沮害すとの二点にあり。改正の要点を見るに左の如し。
 (一)取締役が銀行の義務に付き退任後負ふべき無限責任期間、一ケ年なりしを改めて、二ケ年と為せること
 (二)貯蓄預金払戻担保として供託所へ預入する金額を預金総額の四
 - 第6巻 p.353 -ページ画像 
分の一以上の利付国債及地方債証書と改め、且つ此の担保金額が資本金半額以上に及ぶ時は、商業手形及確実なる会社の債券又は株券等を用ふることを許し、而して右の金額は毎半ケ年末現在の預金高に依りて之を定め、預け人は此供託諸証券に付き優先権を有することゝせること
 (三)旧条例に規定せる資金運転に関する制限は全然之を削除したること
玆に於て乎、貯蓄銀行条例の精神は全く没却せられ、今日貯蓄銀行の多くは、表面独立の姿を装ふと雖、其実大体親銀行なるものを有し、其資本及預金の大部分を之に諸預け金と為し、或は他銀行の預金吸収の機関となれる嫌あるのみならず、其貸付金の如きも不確実の会社株券又は債券、若くは価格変動極りなき商品等を担保とし、又は此種有価証券を所有するものあり、斯くて私営の貯蓄機関は久しき以前より発達し、今日に於て其状態、略々備はれりと雖も、制度に至りては未だ完備したる者と云ふべからず。