デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治26年12月15日（1893年）

是ヨリ先、商法実施セラレルニ付テハ大蔵省監査局長ヨリ国立銀行ニモ登記並ニ株式会社ノ名称ヲ冠スルノ要アル旨通達セラレタリ。ヨツテ協議ノ結果登記ハナスモ株式会社ノ文字ハ之ヲ附記スル必要ヲ認メザル旨ノ決議ヲナス。是日右ニ関スル法律案ヲ議会ニ提出中ナル旨ヲ報道ス。後右ノ法律案ハ両院ヲ通過シ法律第十八号ヲ以テ公布セラレタリ。

集会録事　　自明治二十六年一月　　　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○臨時集会録事
明治廿六年七月三日午後一時同盟国立銀行臨時会議ヲ開キ、渋沢委員長、山中委員、岡村法律顧問等来会スルモノ二十五名ナリ、是日客員トシテ日本銀行筆頭書記山本達雄氏来会シタリ
渋沢氏ハ会長席ニ着キ、去ル六月廿二日監査局ヨリ通知アリシ国立銀行登記ノ事、並ニ株式会社ノ四字ヲ冠スルノ件ハ、国立銀行ハ蓋シ特別ノ条件ニ拠リ組織セシモノニシテ、商法ノ規定ニ依リ登記並株式会社ノ文字ヲ付スルニ及ハサルヘシト雖、右ノ通知ニ接シ各行其取扱区区トナリテハ不都合ヲ生スヘキヲ以テ、過日監査局長ニ面会シテ其意見ヲ問ヒシニ、未タ省議ヲ尽サヽルヲ以テ貴問ニ応シ難シト雖、株式会社ノ文字ハ或ハ之ヲ付スルニ及ハサルヘシト考フル処アレハ、不日省議ヲ尽シ小子迄参考ノ為メ其意見ヲ通スヘシトノ事ナリシカ、其翌日渡辺大蔵大臣ニ面会セシニ、昨日添田局長ヘ談話ノ件ハ同局長ヨリ省議ノ上回答スヘキヲ約セント雖、先ツ同盟銀行ノ意見ヲ聴キ然ル後更ニ省議ニ及ヒ、同盟銀行ノ意見ト同一ナリシトキハ、当省ヨリ司法
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部ヘ再議ヲ要求スヘキヲ以テ、銀行者ヨリ其意見ヲ定メラレタシトノ事ナルヲ以テ、玆ニ臨時会ヲ開キ、岡村博士ノ出席ヲ請ヒシ所以ナリ抑国立銀行ハ特別ノ条例ニ拠リ設立セシモノニシテ、商法実施ニ拠リ之カ登記ヲ為スカ如キハ誠ニ無用ノ手数ニシテ、国立銀行ハ既ニ条例ニ拠リ毎月其計算表ヲ作リ之ヲ大蔵省ヘ呈示シ、尚其業務ノ如キモ常ニ厳重ニ監督セラレ、其利益金ハ大蔵大臣ノ認可ヲ得テ配当シ、且支店ノ開閉ノ如キモ同省ヨリ告示セラレ、殆ント登記ヲナスモ同様ノ手続ヲナシアレハ今更新ニ登記ヲ為スノ必要ナシ、又株式会社ノ文字ヲ付スルカ如キハ、国立銀行ハ条例ニ拠リ株式会社ニ非ラサレハ之ヲ設立スル能サレハ、殊更株式会社ノ文字ヲ付セサルモ既ニ其組織分明ナリ
岡村顧問曰　今渋沢君ノ述ヘラレシ如ク国立銀行ハ特別ナル条例ニ拠リ支配セラルヽモノニシテ、決シテ商法ノ規定ニ拠ルヘキモノニアラス、若シ登記ヲ為ストセハ特リ本件ノミナラス、今後銀行条例ト商法ト牴触スルトキハ皆商法ニ拠ラサルヘカラサルカ如キ奇観ヲ呈シ、国立銀行条例ハ遂ニ死物ニ類スルニ至ルヘケレハ決シテ商法ニ拠ルノ理由アラサルヘシ
山本達雄氏曰　日本銀行ヘモ同様ノ通知アリテ登記ノ件ハ今ニ議論区区ナリト雖、名称変更ノ事ハ既ニ条例ニ拠リ定リ居レハ商法ニ拠ルノ必要ナキノミナラス、英仏独国等ノ中央銀行ニ株式会社ノ名称ヲ付スルモノアルヲ見サレハ無論之ヲ付セサル事ト為シ、其旨大蔵省ヘ届出タリ、又登記ノ事ハ前述ノ如ク本行ニ於テハ意見確定セサレトモ、未タ六ケ月ノ猶予アレハ其間自ツカラ世論一定スヘキヲ待チ、且本行ノ如キハ条例ニ依リ利益金ハ総テ主務省ニ届出、尚監理官常ニ其営業ヲ監査シ、苟モ条例ニ違反スルトキハ直ニ処罰セラルヽカ如キ厳格ナル法律ノ下ニ立ツモノナレハ、登記ヨリ寧ロ堅確ナル事ト信スルナリ
会長曰　多数ヲ問フ迄モナク、各員皆同意ナラント考フレト、如何ナル手続カ道理アル事トシテ我々ノ意思ヲ司法部ヘ貫通セシムヘキヤ、想フニ大蔵大臣ニ具状シ同大臣ヨリ司法部ヘ照会スルノ外ナカルヘシ
池田謙三氏曰　司法部ト雖今日ハ矢張行政部ニ隷属スルモノナレハ、委員長ヨリ大蔵大臣ヘ具状シ同大臣ヨリ照会スル方都合宜シカルヘシ
山中隣之助氏曰　登記及名称変更ノ二件共道理上商法上ニ拠ルニ及ハサルカ如クナルヲ以テ、両点共之ヲ為ササル事トナシ而シテ仄カニ聞ク処ニ拠レハ或ル有力ナル大臣及商工局長ノ如キモ国立銀行ハ無論登記等ヲ為ス範囲内ニ非ラスト云フノ説ヲ聞キ且司法部ニ於テモ其説アリシトノ事ナレハ岡村君ノ説ノ如ク両点共為ササル事ニシタリ
山本達雄氏曰　登記ノ件ハ特別法ニアラサルカ故ニ普通法ニ拠ルヘシト云フ者アリト雖、特別法ノ下ニ立ツモノハ皆夫々厳重ナル手続ヲ経テ営業スルモノナレハ今更登記ヲナスモ何ノ効力アラスシテ徒ニ煩労ヲ増スニ止マルヘシ
会長曰　特別法以外ノモノハ皆商法ニ拠ルヲ法律ノ原則トスルトキハ或ハ登記ハセサルヘカラスト雖、株式会社ノ名称ノ如キハ殆ト其理由アラサルカ如クニシテ若シ之ヲ付スルトセハ尚其上ニ有限又ハ無限ト付セサルヘカラサルカ如キ奇観ヲ呈スルモ保シ難シ、兎ニ角両点共之
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ヲ履行セサル事トナシ小子ヨリ其理由ヲ大蔵大臣ニ具状シ同大臣ヨリ司法部ノ反省ヲ請フ事トセハ如何ト云ヒシニ衆皆異議ナキヲ以テ渋沢氏ヨリ早々渡辺大蔵大臣ヘ具状シ司法部ノ反省ヲ請フヘキコトニ一決シ同四時閉会セリ
　　　　　　当日出席員
　　　　　　　　　第一国立銀行　　　渋沢栄一　○外二四名氏名略
　　　　○臨時集会録事　○明治二六年一二月一〇日
　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治二十六年十二月二日午後五時ヨリ、同盟国立銀行臨時会議ヲ開キ渋沢委員長首メ来会スルモノ総テ二十六名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、本年六月二十二日添田監査局長ヨリ通知アリシ国立銀行登記並株式会社ノ文字ヲ付記スルノ件ハ、向ニ審議ヲ経テ国立銀行ハ特別法ニ拠リ其営業ニ従事スルモノナレハ、商法ノ制裁ヲ受クヘキ理由ナキコトハ同条例第九条及第十条ニ拠リ明カナルニ付登記並株式会社ノ文字ヲ付記スルノ必要ナシト認ムル旨ヲ以テ、大蔵大臣ヲ経テ司法部ノ反省ヲ請フヘキ事ニ決シ、之ヲ渡辺大蔵大臣ヘ具状シ爾来屡々其意向ヲ伺候シタリシニ、十一月廿九日ニ至リ同省官房第三課長添田寿一氏ヲ以テ指示セラレテ曰ク、本省ノ意見ニ依レハ登記ハ之ヲ為サヽルヘカラスト雖、株式会社ノ文字ハ之ヲ附スルノ必要ナカルヘシト為スモ、司法部ノ意見ハ登記スヘキハ固ヨリ株式会社ノ文字モ亦必ス附記セサルヘカラストノコトニ付、之ニ服従スルノ外他法ナカルヘシト、是ニ因テ本日ノ会議ヲ開キタル旨ヲ告ケ、且曰ク小子モ亦一二ノ法律博士ニ本件ヲ諮問セシニ、皆株式会社ノ文字ハ要セサルモ、登記ハ必セサルヘカラスト答ヘタリ、然ルニ本件ハ独リ国立銀行ノミナラス、日本銀行、横浜正金銀行モ亦同様ナルヲ以テ、過日川田日本銀行総裁ニ面会、同行ノ意見ヲ問ヒシニ、可成社名ハ附記セサル事ニシタシト雖、川上謹一氏担当ノ事ナルニ付、巨細ハ同氏ニ協議アリタシトノ事ナリシカ、翌日川上氏来訪其事ヲ談セシニ、未タ日本銀行ノ意見ト云フニアラサレトモ、川上一己ノ考案ニテハ登記ハ之ヲ為スモ、株式会社ノ文字ハ附記スルノ理ナキヲ以テ飽迄之ニ服従セサルノ決心ナリ、就テ各国立銀行ノ意見ハ如何トノ問アルヲ以テ、本夕臨時会議ヲ開キ協議スヘキ筈ナリト答ヘ、尚又横浜正金銀行園田孝吉氏ニモ之ヲ諮リシニ同氏亦同案ナリシ
要之司法部ノ意見此ノ如クナレハ、此上ノ挙措ハ如何スヘキヤ、若シ司法部ノ意見ニ服従スル者トセハ発行紙幣ヲ首メ、印章手形切手ノ類皆之ニ関係シ実際営業上ノ不便枚挙スルニ暇アラス、是ヲ以テ大蔵省ノ意見ニ依リ、株式会社ノ文字ヲ附記セス、現在ノ名称ヲ以テ登記請求シ、万一之ヲ斥ケラレタルトキハ、則商法第廿一条ニ依リ即時抗告ヲ為スノ法有アレハ、此方法ニ従フヘキヤ、諸君ノ意見ヲ定メラレンコトヲ要スト、是ニ於テ或ハ当初ノ意見ヲ執リ、登記ヲモ要スヘカラストノ説ヲ為スモノアリシカ、結局登記ハ之ヲ為スモ社名ハ附記セサルコトトナシ、而シテ若シ裁判所之ヲ拒絶セシトキハ商法第二十一条ニ拠リ、即時抗告スヘシトノ説ニ帰スルニ因リ、渋沢委員長ヨリ之ヲ日本銀行及横浜正金銀行ニ照会シ、両行同案ナル時ハ聯合シテ登記ス
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ヘク、且此議決ノ趣旨及登記ノ手続ハ全国各国立銀行団躰ニ通牒スヘキコトニ決定セリ
　　　　○臨時集会録事
　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治廿六年十二月七日午後一時ヨリ同盟国立銀行臨時会議ヲ開キ、渋沢委員長首メ来会シタル者二十四名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ就キ、本日臨時会同ヲ要シタルハ本月二日協議シタル国立銀行登記ノ件ヲ以テナリ、本件ハ当日議決ノ通リ日本銀行及横浜正金銀行ヘ照議セシニ、両行ハ商法第百六十八条ノ規定ニ随ヒ登記ヲ為スヘシト雖、株式会社ノ文字ヲ附記スルノ理由ナシトノコトハ我同盟国立銀行ノ意思ト異ナルナシ、因テ現在ノ社号ヲ以テ速ニ登記ノ手続ヲ為スヘシト云フニ在ルヲ以テ、我同盟銀行モ登記ノ準備ヲ為シ、並ニ之ヲ全国銀行同盟会其他ヘ通牒スルニ当リ、岡村法律顧問ヨリ注意シテ曰ク、裁判所ノ事情ヲ仄聞スルニ、国立銀行ト雖、株式会社ノ文字ヲ附記セサレハ受理セサルノミナラス、仮令抗告ヲ為ストモ其効ナカルヘシ、加之裁判所ハ名称附記ノコトヲ固執スルトノコトナレハ、万一是等取扱ノ為時日遷延セハ、或ハ商法施行条例第五条ノ規定ニ準シ、営業ノ差止ヲ為スヤモ測知スヘカラサルノ懸念アレハ再案アルヘシト、是ニ於テ種々費心探窮シタルニ、嘗テ大審院ノ決議ヲ以テ各裁判所ヘ内訓シタル如キ者アリテ、到底株式会社ノ文字ヲ附記セサレハ登記スヘカラサル如キ事情アルニ似テ、是ニ於テ小子ハ更ニ此取扱ニ慎重ヲ加フヘキモノト思惟シ、再ヒ日本銀行ヘモ協議シタルニ、同行ノ意見ハ仮令如何ナル事情アリト雖、最前ノ意思ハ決シテ変更セサルヘシト固ク前議ヲ主張シ、已ニ登記ノ準備ニ在リト云ヘリ、小子ハ固ヨリ同行ト同見ナレトモ、本会ノ決議ハ自カラ全国同業者一般ノ唱道タルカ如クナレハ、此際更ニ各位ニ於テ審案討議セラレンコトヲ要スト告ケ、乃チ審議ヲ経テ日本銀行ト同シク本月二日議決ノ如ク履行シ、飽迄特別法律タル国立銀行条例ノ旨意ヲ主張スヘキニ決議セリ
　　　　○第百三十八回定式集会録事
　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治廿六年十二月十五日午後三時同盟銀行第百三十八回定式会議ヲ開キ、渋沢委員長首メ来会スルモノ三十四名ナリ
渋沢氏ハ会長席ニ着キ各員ニ諮リテ曰、過日来再三協議セシ国立銀行登記申請ノ件ハ、日本銀行率先シテ之ニ当リシカ果シテ予想ノ如ク拒絶セラレタリ、此例ニ依レハ当地国立銀行ノ請求モ亦同シク拒絶セラルヘキヲ以テ、之ニ処スル方法ヲ岡村、菊地両博士ニ諮問シタルニ尋常ノ抗告ハ其上級裁判所ニ止マリテ控訴ノ途ナシト云ヘハ、充分其意思ヲ徹底セシムルノ余地アラサルヲ以テ、更ニ訴訟ト為スノ考案ヲ需メ置シカ未タ其答案ヲ得ス、然ルニ先是小子ハ商法施行条例第八条ニ「特別ナル条例ニヨリ設立シタル株式会社ハ附記スルヲ要セス」ト云フカ如キ但書追加ヲ為スヲ捷径ト思考セシヨリ渡辺大蔵大臣ニ稟議シ之ヲ議会ニ政府案トシテ提出セラレンコトヲ求メタレトモ、已ニ時日切迫ナルヲ以テ政府ヨリ提出ノ運ヒニ至リ難シトノ意見ナルニヨリ、
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止ヲ得ス衆議院議員タル銀行者二三氏ニ謀リ、其同意ヲ得テ衆議院ニ提出シタルニ、本日已ニ大多数ヲ以テ同院ヲ通過セシトノ報アリ、此上ハ貴族院ヘ廻付シ同院ヲ通過シ政府モ同意セハ遅クモ本月十八九日頃ニハ発布ノ運ヒニ至ルヘケレハ、其経過ヲ俟チテ請求スルモノハ如何ト、衆皆答フルニ尚其日子アレハ無論彼結果ヲ待テ後挙措スヘキコトヲ以テシ、依テ登記請求ノ事ハ数日間猶予スヘキコトニ議決セリ

帝国議会史綱　明治篇　第二五七頁〔昭和二年五月二五日〕
　　　　第五回帝国議会
　　　　　　第七章　雑纂
○両院通過法律案件銘　当期議会の接受したる法律案の数は百余件に上り、其両院を通過したるもの左の二件あるのみ。
　商法施行条例中追加法律案○大蔵省証券条例中改正法律案（政府提出）

法会全書[法令全書]　明治二六年
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル商法施行条例追加法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
　　　御名御璽
　　明治二十六年十二月十九日
　　　　　　　　　　　　内閣総理大臣　伯爵　伊藤博文
　　　　　　　　　　　　司法大臣　　　　　　芳川顕正
法律第十八号
明治二十三年法律第五十九号商法施行条例第八条第二項ニ左ノ通リ但書ヲ追加ス
　但特ニ法律ヲ以テ定メタル株式会社ハ附記スルヲ要セス