デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.614-616(DK060162k) ページ画像

明治38年11月17日(1905年)

是日、東京銀行集会所・東京交換所・銀行倶楽部共同シテ聯合艦隊凱旋祝賀会ヲ行フ。栄一出席シテ歓迎ノ辞ヲ述ブ。


■資料

銀行通信録 第四〇巻第二四二号・第七四七―七四九頁〔明治三八年一二月〕 聯合艦隊凱旋祝賀会(DK060162k-0001)
第6巻 p.614-616 ページ画像

銀行通信録 第四〇巻第二四二号・第七四七―七四九頁〔明治三八年一二月〕
    聯合艦隊凱旋祝賀会
東京銀行集合所[東京銀行集会所]、東京交換所及銀行倶楽部にては聯合艦隊凱旋に付東郷司令長官以下各将校を招待し、十一月十七日午後六時より連合祝賀会を開きたり、当日招請に依りて出席せる来賓氏名左の如し
  東郷司令長官   片岡司令長官   上村司令長官
  出羽司令長官   三須司令官    小倉司令官
  中尾司令官    加藤参謀長    藤井参謀長
  山屋参謀長    秋山参謀     永田参謀
  飯田参謀     山中参謀     田中参謀
  山本参謀     山路参謀     奥田参謀
  山本軍医総監   斎藤軍医大監   永嶺機関大監
  下条機関大監   伊東機関大監   斎藤海軍次官
  橋本人事局長   村上経理局長   上泉参謀
  財部参謀
主人側にては渋沢会長、豊川、園田両副会長、池田謙三、相馬永胤、添田寿一、志村源太郎の諸氏を始め五十余名出席し軈がて来賓の打揃ひたる頃一同撮影の上陸軍々楽隊の吹奏に伴れて食堂に入り、宴酣なる頃「君か代」の奏楽に続き渋沢会長の発声にて 天皇陛下の万歳を三唱し次て渋沢会長は再ひ起て来賓一同に向ひ左の如く挨拶ありたり
 聯合艦隊司令長官及び各将校、臨場の諸君閣下、今夕は当銀行集会所、手形交換所及び銀行倶楽部の三団体が申合せまして今般無上の大成功大名誉を担はれて凱旋されました所の東郷大将閣下及び諸将校閣下を玆に歓迎の為めに尊臨を乞ひ上げましたのでございます、幸に諸公の尊臨を得ましたのは吾々どもの光栄此の上もございませぬ、先づ第一に此の尊臨を辱うしました感謝の意を玆に申述べます、続いて私は此の会員を代表致して聊か歓迎の辞を述べやうと存じまする、凡そ世の中に最も愉快に感じますことは人の大任を担はれて遠方に赴かれて其の任務を果されて玆に首尾好く帰られた時に之を迎へる志といふものは是れ位ひ喜ばしいことはございませぬ、仮に此の比喩を小さく致しまして一身一家のことに譬へて申しませうな
 - 第6巻 p.615 -ページ画像 
らば、此処に或る一家庭で其家に係かる重要事件で或は其戸主若は家人が他方に赴いたと仮定致しませう、其跡に残る家人は如何なる感情を以て他に赴いた人の前途を想像致すでありませうか、或は其旅行が、何ぞ障害がありはせぬか、又其の身体に故障を生じはせぬか、果して負ふ所跡に任務が完全に果されるであらうかと日夜此の旅行中を心配致すは家人たるものゝ人情免れぬことであらうと思ふのでございます、而して此任務が幸に望外の結果を以て其人が帰られた場合に其人も家人を思ふでございませうが、其家人の喜び迎へる感情といふものは如何でありませう(拍手)、一身一家のことにして尚ほ然り、然るに我帝国の大国難に当つて国家の安危存亡を担はれて、而も其歳月は殆ど二年に近うして其間幾多の困苦艱難を嘗められて着々成功を奏されて殊に其最終に於て日本海の大勝利大成功などゝ申すものは、殆ど吾々歴史あつて以来未だ曾て見ざる大名誉を奏されてお帰りになつたる聯合艦隊でございます(拍手)、之をしも歓迎せざる者は凡そ生ある人にはなからうと私は申上げて宜からうと思ふのでございます、宜なり全国の人々殆ど狂する如く東郷大将並に司令官、諸将校、其他の方々を歓迎すること日も亦足らず左もあるべきことゝ吾々実に喜ばしきに堪えませぬのでございます(拍手)、玆に於て吾々は平常冷静を主とし沈着を貴ぶ銀行業者でございますけれども、何分にも雀躍の情之を禁ずるに堪えませぬ、玆に小宴を設けて尊臨を乞ひ上げた次第でございます
 閣下、諸君、私は更に一歩を進めて此歓迎に対する愚見を陳述したいと思ひまする、蓋し左様な大成功実に赫々たる名声を奏されましたがこれは即ち今咲く花であつて是には蓋し培養するものがあつたであらう、即ち此の結果に対する原因があつたであらうと申さねばならぬのでございます、吾々門外漢の之を知り得ることは甚だ難うございますけれども併し凡そ事物の道理から推察致しますれば斯る成功を奏される大将其他諸将校のこれまでの御注意御苦心といふものは蓋し容易なことではなからうと私は考へるのでございます(拍手)、既に前に申上げましたる通り二年に近い歳月を海の上に経過されたといふことすら容易ならぬことゝ思ひまするが、又もう一歩進んで考へますれば平常其訓錬指揮の宜しきを得て而して事に臨んでは画策其機に中つて或は場合に依つては飢寒酷熱総てのものに打勝つて、而して漸く斯る大成功を遂げられたのであらうと斯う考へますると吾々は今玆に光彩の燦然たる現在の東郷大将及諸将校閣下否なもう一歩進んで今述べた困苦の間を経過せられたる大将及諸将校閣下を歓迎せねばならぬと存ずるのでございます(拍手)、勿論此戦機戦術等には吾々決して一言だも喙を容れる訳ではございませぬが蓋し其原因があればこそ斯る結果を来したのであらうと思ふと実に吾々感謝の意を殆ど言語にも尽せぬ次第でございます、想ふて玆に至りますると実に欣喜雀躍、歓呼万歳湧くが如き中に自ら悲愴凄然たる感情をも亦籠めざるを得ぬやうに存ずるのでございます(拍手)
 折角の尊臨を辱うしました此小宴に甚だ設備の不完全又食膳の不行届は蓋し諸閣下を迎へるの敬礼を失するかも知れませぬが、併し大
 - 第6巻 p.616 -ページ画像 
将閣下其他の諸君にも仮令百珍を列ねるとも華美を飾るともそれを以てお喜び下さる諸公ではなからう、吾々の熱誠をお受け下さる方方であらうと考へまするで玆に最も清楚淳朴なる設けを以て諸公をお迎へ申上げた次第でございます、又此宴を設けまするに付きまして、大に遅延致しましたといふことも前に申上げまする沈着を主とし冷静を貴ぶ銀行業者としては成るべく丈け天下の楽みには後れかし、天下の憂には先立てかしと考へるのに出たのでございます、臨場の諸閣下にも蓋し此の微意を御諒納下さるであらうと私は考へるのでございます、玆に会員を代表致しまして東郷大将閣下及び諸閣下の万歳を祝し上げます
斯くて渋沢会長の発声にて東郷大将の万歳を三唱し、次で東郷大将より左の如く答辞ありたり
 閣下、諸君、今夕は渋沢男爵並に豊川君より御招待を受けまして吾吾軍隊の凱旋に就きまして此宴会をお開き下さいまして誠に我軍人の名誉とする所でございます、又唯今渋沢男爵より鄭重に又沈重に御賞辞を受けまして実に感佩の至りでございます、吾々軍人一統を代表して玆に渋沢男爵及び豊川君並に銀行団体の諸君の益々御健康を祝して盃を挙げたうございます
斯くて東郷大将の発声にて銀行団体の万歳を三唱し、次で豊川副会長の拶挨、及片岡中将の答辞あり、夫より更に別室に移り余興の活動写真を観覧に供し、東郷大将伊勢湾上陸の景、同新橋凱旋の景、岩崎家歓迎会の景況等十数種を映出し一同歓を尽して午後十時散会せり