デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
1節 綿業
4款 大日本紡績聯合会
■綱文

第10巻 p.338-355(DK100030k) ページ画像

明治23年11月15日(1890年)

是日大阪商法会議所ニ於テ臨時総会ヲ開キ、棉花
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輸入税免除ニ付キ追願並ニ綿糸輸出税免除及ビ綿糸輸入税増額ノ請願ヲナスコトニ決ス。棉花輸入税免除追願書ハ先ニ発表サレタル農商務省三等技師平賀義美ノ免税反対意見ニ対シ反駁ヲ加ヘタルモノニシテ、是月農商務大臣陸奥宗光ニ提出ス。栄一追願ニツキ意見ヲ述ブ。


■資料

臨時聯合会議事録(大日本綿糸紡績同業聯合会明治廿三年十一月十五日開会、同廿一日閉会)(DK100030k-0001)
第10巻 p.339-342 ページ画像

臨時聯合会議事録
         (大日本綿糸紡績同業聯合会明治廿三年十一月十五日開会、同廿一日閉会)
○出席会員及席次 ○略ス (明治二十三年十一月十五日午前十時二十五分開議)
 右席次定マリ各員着席ノ上、委員長大阪紡績会社山辺丈夫ハ説明員席ニ着キ、予テ御通知セシ如ク今回臨時会ヲ開ケル趣意ハ、当紡績業モ当春以来種々ノ困難ニ遭遇セシガ当秋ニ至リテハ益々其度ヲ進メ、目下ノ有様ニテ荏苒打過ギナバ当業者ノ不利益ハ申迄モナク、或ハ不測ノ危境ニ陥ランモ料リ難キニ付、此ノ際各社ガ一場ニ会シテ此困難ニ対スル救済策ヲ議シ、且ツ将来ノ方針ヲモ相談セバ大ニ利益アランカトノ考案ヨリ、同業五ケ所以上ノ発議ニテ臨時会開会ノ事ヲ請求セラレタルヲ以テ、乃チ爰ニ臨時会ヲ開キテ各員ノ御足労ヲ煩ハシタル次第ナリ、就テハ調査委員ニ於テ取調ベシ事項ハ差向キ別紙ノ如ク印刷ニ附シテ前刻各員ニ配布致シ置キタル故、各員ニ於テモ御熟覧ノ上充分ノ審議アランコトヲ望ム、尚ホ此他ニ就キ各員ニ高案モ之レアルベケレバ其レ等ハ御都合ニヨリ臨時ニ建議セラレンコトヲ希望ス、又例ニ依テ議長副議長ノ選挙ヲ此際ニ行フコトトセン、尚ホ又彼ノ棉花輸入税免除請願ノ件ニ就テハ鐘ケ淵・尾張・大阪ノ三紡績会社ガ委員トナリテ斡旋セラレ、就中尾張紡績会社ノ岡田令高氏ハ先般来上京ノ上種々奔走尽力セラレタルニ依リ、同氏ヨリ今日迄ノ顛末ヲ議事ニ取掛ル前ニ一応報告アルベキニヨリ、此段モ併セテ御披露致ス旨ヲ述ベテ復席ス、而シテ配布セシ原案ハ左ノ如シ
    原案
○第壱項
本邦紡績糸外国輸販之拡張ヲ計リ、輸出税免除ヲ請願ノ事(第壱項ニ対スル説明)
○中略
曩ニ原料ヲ低廉ナラシムルカ為、棉花輸入税免除ヲ請願シ目下尚追願中ニ在リト雖モ、不幸ニシテ未タ聴許ノ指令ヲ得サル際、更ニ綿糸輸出税ノ請願ヲナスモ其成否ハ素ヨリ期ス可ラズト雖モ、此両税免除ノ事タル当業者之隆替ニ関スル重要ノ件タルヲ以テ、我同業者協同一致百折不撓輿論ニ訴ヘ公議ニ問ヒ飽迄其要望ヲ達スルヲ期シ、若シ政府之ヲ容レサルノ場合ニ於テハ進ンデ国会ニ請願スルモ亦可ナリ
○第弐項
輸入綿糸防遏ノ策ヲ講究ス可キ事
一此項ハ殊更ニ説明ヲ要スル迄モナク英竺ノ輸入綿糸ハ我同業者共同ノ一大強敵ニシテ、其勢力ノ消長ハ直接ニ当業ノ盛衰ニ関スルモノ
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ナルカ故、各位ノ夙ニ焦心経画セラルヽ所ナレトモ其方法宜シキヲ得サルトキハ折角ノ経画モ画餅ニ属シ、赤手其衝ニ当ランコトヲ期スルハ素ヨリ無謀ノ挙ナリ、同業者宜シク相提携シ戮力一致各自共同ノ負担ヲ分任スルニ非ザレバ其効ヲ奏スルコトヲ得サルヘシ、現今ノ如ク各社製糸所謂和風紡績糸ノ販路壅塞セルトキハ、各社協同製糸工程ニ多少之変更ヲナシ、輸入糸ノ重ナルモノ即チボムベー左撚廿手ノ如キ綿糸ヲ紡出シ、将来ボムベー糸ノ占拠セル市場ヲ侵撃シ我製糸ノ新販路ヲ開クト共ニ輸入糸防遏ノ功ヲ奏スルヲ期ス可シ、之レ最モ目下ノ急務タルノミナラス実ニ当業将来ノ基礎ヲ確定スルノ一方案タリ、此方案ヲ実施スル場合ニ於テハ同業者聯合左ノ件々ヲ確定シ、之ヲ決行センコトヲ望ム
一聯合同業者ハ其ツム数ニ応シ左ノ割合ヲ以テボムベー糸風ノ左撚廿手ヲ紡出スヘキコト
 五千ツム以上  壱万ツム迄ノ工場ハツム数ノ弐割以上
 壱万ツム以上  弐万ツム迄ハツム数ノ   参割以上 
 弐万ツム以上  参万ツム迄ハツム数ノ   四割以上
 参万ツム以上ハツム数ノ          五割以上
一ボムベー風左撚廿手ハボムベー糸価格ニ比シ一定ノ市価ヲ定メ、各自競争ノ弊ヲ予防スル事
 左ニボムベー糸五年以来輸入ノ消長並前記ノ割合ニ依リ、本邦紡績ニテ製出ス可キ同種綿糸ノ製額ヲ記ス可シ
  明治十八年  ボムベー糸輸入高  三万〇八百俵
  同 十九年  同         三万三千六百俵
  同 廿年   同         五万六千八百俵
  同 廿一年  同         八万〇五百俵
  同 廿二年  同         八万〇四百俵
  前記ノ約束ニ依リ(ツム数合計十一万四千二百八十六本)
  日本紡績廿手製出ノ高
  壱ケ年ニ付  五万七千二百五十俵
   ○第参項、第四項、第五項略ス。
 右畢リテ岡田令高ハ起立シテ左ノ旨趣ヲ述ブ、自分ハ只今山辺氏ノ紹介セラレタル如ク幸ニ滞京セシユエ、彼ノ免除請願一件ニ就キ彼是斡旋セシヲ以テ其成行上ノ大略ヲ各員ニ報導セント欲スルナリ、当五月東京ノ会ニ於テ願書提出ノ事ニ一決シ、爾来同件ニ就テハ渋沢栄一君モ種々尽力ノ労ヲ取ラレ、願書ハ外務・大蔵・農商務三大臣ヘ各一通宛捧呈スル事ニシ、同君及ヒ鐘淵紡績会社ノ駒井英太郎氏ト三人同伴ニテ三省ヘ出願致セシガ、農商務省ニテハ折節大臣・次官共ニ出省ナカリシガ故、斎藤工務局長ニ面シテ委細ヲ陳述シ願書ヲ局長ニ差出セリ、其際同局長ノ話ニ請願トアレハ彼ノ請願条例ナルモノニ依リテ公然ノ手続ヲナサヽル可カラサルカ、元来今度ノ件ハ名ハ請願ナレトモ其実事柄カ三省ニ渉リ、尚ホ請願者モ其所在各府県ニ跨ル事ユヘ一種別物ト見做シテ受理シ置クベシトノコトナリシ、又大蔵省ニ於テモ其日ハ大臣居合サレザリシヲ以テ渡辺次官ニ謁シテ農商務省同様委細陳述セシニ、願書ハ其儘ニ受理セラレタリ、又外務省ニテハ親シク青
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木次官ニ面謁シテ縷々事情ヲ述ベ、尚ホ河上通商局長ニモ面会シテ詳細ニ願意ヲ陳シ、是又願書ハ受理セラレ、三省何レモ尤モノ事ユヘ成ベク丈ケ詮議シ置クトノコトナリシガ、爾来今日ニ至ル迄未ダ何等ノ沙汰ニ接セズ、以上ハ先ツ三省ニ請願書ヲ提出セシ今日迄ノ成行上ノ大略ナリ、尚ホ平賀三等技師ガ意見書ヲ呈出セラレタルコトハ諸君ニ於テ御承知ノコトナルベキガ、自分ハ該意見書ヲ渋沢君ノ手ヨリシテ一見スルヲ得タリシニ彼ノ意見書モ或ハ一理アルモノノ如クナレトモ事実ニ適合セズ、又紡績業ノ実際ノ有様ニ見透シノ附カザル如キコトモ往々之レアル様見受ケタリ、右ニ附テハ委員長ヨリ各自ノ意見ヲ諮問セラレ、自分等モ其レニ依テ願書ヲ認ムルヲ得シハ深ク欣ヒ謝スル所ナリ、而シテ此願書ハ一応渋沢君ニ示シテ相談セシニ、同君モ他ニ考案ノ之レアル由ニテ今一応吟味ノ上十六七日頃迄ニハ山辺氏及ビ自分ニ宛テヽ同君ノ意見書ヲ送付セラルヽ筈ナリ
○中略
又東京ノ時事新報ナリ中外商業新報ノ如キハ、彼ノ免除請願ノ件ハ到底行ハレズトノ旨ヲ記載シ居リシガ、是ハ農商務省ヨリ発シタル報道ニアラズ、否ナ農商務省ハ決シテ斯ル事ヲ新聞社ニ向テ告ゲラルヽ如キコト無キ筈ナレバ、該記事ノ如キハ畢竟彼ノ平賀技師ノ意見書ノ事ヲ聞込ンデノ推測ナラント思ハルヽナリ、而シテ自分等ハ斯ル記事ノ新聞紙上ニ現ハレタルヲ寧ロ喜ブナリ、其ハ彼ノ免除請願ノ事ガ世間一般ニ広マリテ自然ト世上ノ一問題トナリ当局者ノ注意ヲ促スコトナレバ、願意ヲ徹底セシムルニ於テ却テ利益アルベク、又新聞社トテモ請願果シテ理由アルト見ル上ハ、嘖々其説ヲ述ブベケレバ大ニ幸福ノ事ト信ズルナリ、左様ノ次第ニテ今日迄ノ成行ハ大ニ手緩ルキ所アル様ナレドモ、事情斯ノ如クナレバ各員ニ於テ充分ノ御諒察アランコト只管ニ希望スル所ナリ○下略
○同十八日午後第三時五十五分開議(百三十二頁)
議長(岡田)前刻ニ引続キ議事ヲ開クベシ、○二十一番(山辺)原案第一項ト連帯シテ一ノ建議アリ、即チ輸入綿糸関税増額請願之件ナリ元来此請願ノ件タル今日始メテノ建議ニアラズ既ニ一二度ハ提出セシコトアリシモ条約改正未タ成ラス、輸入棉花関税免除ノ請願未タ聞届ケラレサル時ニ当テ、又々是等ノ請願ヲ為スモ到底行ハレサルコトナルベントノ事ニテ始終立消トナリ居ル件ナリ、然ルニ国会議員ニシテ綿布金巾類ノ製造業ニ従事スル人ノ内ニテ、綿布金巾類ノ輸入税ヲ増加センコトヲ国会ニ請願セントテ頻リニ奔走ヲナシ居ル人アリ、其人ヨリ本員ニ向テ綿糸ノ輸入税モ増加スルコトヲ請願シテハ如何ト申込ミシ事アルガ、本員ハ我ガ同業聯合会ニハ彼ノ棉花輸入税免除ノ追願並ニ綿糸輸出税免除ノ請願モアル故、此際是カ非カハ分ラザレトモ輸入綿糸ノ増税請願ヲ今年ノ国会ニ持出シテハ如何ヤト思フナリ、尤モ請願スルトナレハ最早国会ノ開期ニ間モナキコトユエ、成ルベク至急ヲ要スルコトナルガ国会ニ提出スルニ付テハ議員ニ談シテ奥印ヲ貰フコトモ必要ナリ、依テ参考ノ為メニ試ミニ紡績業者所在ノ各府県選出ノ衆議院議員ノ員数ヲ調ベシニ凡ソ百五十人許リモアリ、之等ノ人ニ就テ充分理由ヲ陳述シ奥印ヲ貰ヒ、尚ホ議場ニ於テ充分賛成ノ議論ヲ
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為サンコトヲ説クハ是亦必要ノコトナルベシト信ズ、而シテ彼ノ棉花輸入税免除ノ件及ビ輸出綿糸免税ノ件ノ如キモ、本件ト共ニ便宜ニ依リテハ国会ヘ請願シ今年可決セラレズバ明年、明年可決セラレズバ明後年ト飽迄モ願意ヲ貫徹センコトヲ勉メント欲ス、○議長(岡田)只今廿一番ヨリ臨時会原案ノ外ノ条件ニ付テ建議ヲ提出セラレタリ、付テハ之ヲ当臨時会ノ議題トシテ討議スベキヤ否ヤ一応満場ノ意見ヲ問フ、○十二番(小松原)是等ノ建議説コソ聯合全体ノ公共ニ関スル問題ナレバ無論議題トシテ討議スルヲ可トス、○議長(岡田)満場異議ナキ様ナレトモ念ノ為メ可決スベシ、廿一番ノ建議説ヲ採用シテ議題トナスヲ可トスルモノハ起立セヨ、○満場惣起立、○議長(岡田)既ニ可決シタル以上ハ議題トシテ是ヨリ討議スルコトヽスベシ、○十二番(小松原)此建議スル事ハ臨時会ノ原案ヲ議了シタル上カ、又ハ明日ニ延バサレンコトヲ望ム、此等ノ事ハ一朝方法順序ノ議シ方ヲ誤レハ何ノ効モナキコトヽナルノ恐レアリ、且ツ本日ハ最早四時モ過キタレハ旁タ明日迄延バサレヨ、○二十一番(山辺)一日ヲ争フ程ノ急件ニモ之レナク、且ツ此件ニ付テハ大体ノ方法丈ケハ発議者ヨリ案ヲ具ヘテ提出スル方纏マリモヨロシカルベキニ付、明日マデ延バス方可ナリ、○議長(岡田)既ニ発議者ヨリ案ヲ具ヘテ提出スルトノコトナレハ提出ノ上議スルコトヽスベシ、尚ホ本日ハ最早四時ヲ過ギタレハ是レニテ散会スヘシ、○時ニ午後四時十分


臨時聯合会議事録(大日本綿糸紡績同業聯合会明治廿三年十一月十五日開会、同廿一日閉会)(DK100030k-0002)
第10巻 p.342-343 ページ画像

臨時聯合会議事録
          (大日本綿糸紡績同業聯合会明治廿三年十一月十五日開会、同廿一日閉会)
○同十九日午前十時五分開議
    出席会員 二十六名
議長(岡田)ハ是ヨリ開議ス 昨日本案第二項ノ輸入綿糸防遏方案修正ヲ委託セシ委員ヨリ提出シタル報告アレバ議ニ附スベキ旨ヲ述ベテ之ヲ朗読セシム、其報告書ハ左ノ如シ
    輸入綿糸防遏方案調査委員報告
一、外国糸ヲ防遏シ販路ノ伸張ヲ謀ル為メ、四千錘以上ノ工場ハ廿手以上ノ糸ヲ製造スベシ
  但シ四千錘以上ノ工場ト雖モ工場ノ組織上実際廿手以上ノ製造ヲ為シ能ハザル事実アリト委員長ニ於テ認ムルトキハ、其製造ヲ免スコトアルヘシ
一各工場ニ於テ製造シタル綿糸ノ梱数ヲ各番手ニ区分シ、並ニ毎月末日及十五日ニ於ケル現在高ト共ニ毎月一日十六日二回聯合事務所ニ通報シ、事務所ハ臨時報トシテ直チニ各所ニ報告スヘシ
 但シ此報告ハ同業者ノ外漏洩スルヲ許サズ
一此約束ハ明治廿四年一月ヨリ実施スヘシ
一予テ出願シアル輸入綿花関税免除ノコトヲ追願スベシ
一輸入綿糸関税増額ノコトヲ委員ヲ選ミ請願スルコト
○中略
  第四項 ○報告ノ第四項ナリ
説明員(金沢)此項ノ事ハ先般ノ東京ノ会ニテ討議シ悉シタルモノナ
 - 第10巻 p.343 -ページ画像 
レハ、今又タ此ニ喋々スルヲ要セズ、請願委員ニ於テモ追願スルコトニナリ居リ、而シテ此事ハ防遏ノタメニハ主眼ユエ更ニ此所ニ掲ケタルナリ、○廿一番(山辺)追願ノ事ハ無論為《(サ脱)》ザルベカラズ、就テ諸君ニ御披露申スハ今朝渋沢氏ヨリ書信アリ、追願書ハ岡田氏ノ意見ニ基キテ起草中ナレバ、多分二十日頃ニハ脱稿スベシ、岡田氏ノ意見ハ平賀技師ノ意見ヲ反駁セシモノユヘ、之ヲ直チニ大臣ニ呈出スルハ不穏当ト思ハルヽニ付、改メテ平賀技師ヘ差出ス体ノ文面ニセハ可ナラントノ趣意ナリシ、○説明員(村上)追願ノコトハ只今モ二十一番ヨリ渋沢氏ノ書状ノ趣旨ヲ披露アリ、前日モ岡田氏ヨリ此事ニ関スル顛末ノ報告アリシコトナレバ、追願スベシトハ疾クニ諸君ノ熟知セラレ是認セラルヽ所ナレドモ、今此項ヲ特ニ此ニ提出セシハ、此事タル防遏策ノ要領ナルガユヘニ、此調査報告中ニ省クヲ不都合ト考ヘテナリ、○二十三番(赤城)委員ノ報告ニテ了解セリ、原案ヲ可トス、○議長(岡田)他ニ異議ナシ原案ニ決スヘシ
第五項
○二十一番(山辺)此事ハ昨日本員ノ建議ニヨリ成立チタルモノナルガ昨日ハ一応建議書ノ体裁トナシテ提出スベシトノコトナリケレバ其積リナリシモ今ヤ此ニ原案トナリテ出テタル上ハ其レニテモ宜シ、只タ更ニ少シク詳細ニ為シ置ク方、将来実行ノ際便ナラン、仍テ本員ハ左ノ如ク修正セント欲ス「本会ノ原案第一項輸出綿糸関税免除請願ト共ニ輸入糸関税増額ノ件ヲ政府若クハ国会ニ請願スル事、但シ輸入税額割増高並ニ第一項及ヒ本案ニ係ル請願文案等ハ委員五名ヲ設ケテ調査セシメ、委員ノ互選ヲ以テ三名ノ請願委員ヲ設クル事、請願ノ順序手続ハ総テ委員ニ委托ノ事」ト修正セン、此割増ノ高ヲ調査スルニハ外国ノコトマデ取調ベネバナラヌコトユエ、大体丈ケヲ議シテ委員ニ任セ委員ハ出来上リタル上各所ニ報告書ヲ出サシムルコトニセバ可ナラン○下略



〔参考〕大日本紡績聯合会月報 第一二四号・第一四―一七頁 〔明治三六年一月〕 ◎大日本紡績聯合会沿革史(三)(DK100030k-0003)
第10巻 p.343-346 ページ画像

大日本紡紡績合会月報 第一二四号・第一四―一七頁 〔明治三六年一月〕
    ◎大日本紡績聯合会沿革史(三)
○上略
不景気の風は都鄙に吹荒みて其勢凄烈、凡百の事業は益々沈衰し実業界裡亦活気あるものなし、此時に方り紡績業は会々初夏の頃一時英竺系の輸入高減却したるにより、稍々需給の平準を得んとするの状ありて少時愁眉を開きたるも、外国為替相場の騰貴するや非常の影響を蒙り、最も困難境遇に陥りたり、独り英糸の格安は地方の顧客を惹き、市場思惑買をなすもの多きに反し孟買糸の如きも之が為め販路を縮少せられ、我製糸は勿論最早減価する能はさる迄に低下したる場合なるに拘はらず、其割高なるか為め市場全く之が需用者を絶つに至り、販路は日々に縮退するの姿なりしかは時勢上止むを得す、奮然相場を引落して競争を試みたりといへとも、奈何せん英糸は拾円方も下直に売捌きたるにより到底之れに圧倒せらるゝを免かれす、殆んと進退谷まりたるに際し支那棉は山東省よりの需用起りたるか為め、壱割以上の
 - 第10巻 p.344 -ページ画像 
高直を現はしたれは我紡績業の前途は実に暗陰たるの状を呈したり、去れは埼玉紡績会社の如き新設の設計を中止し、今宮紡績会社は解散し、難渡紡績会社は公売に付するの已むなきに至りたりと云ふ、此際大阪紡績会社は大に考ふる所あり、印度棉を以て左撚二十手を製し赤標の名称を以て孟買糸と同価にて試売し果然好評を博したりしかハ、鐘淵・天満・堂島其他の会社に於て踵て之に做ふに至り、為之聊か同業者窮迫の度を軽ふするを得たりといへとも、大勢の非なる若し荏苒経過せは終に不測の逆境に陥らんも料られさるに及ひ、各社合同して之か救済策を講し且将来の方針を画定せんと欲し、同盟紡績十一ケ所より総会の開会を請求したりしかは、此年○明治二十三年十一月五日を卜し、臨時会を大阪商法会議所に開きたり、今当時の議件中救治策として掲けられたる項目を挙くれは左の如し
 第一 本邦紡績糸外国輸販の拡張を計り輸出税免除を請願する事
 第二 輸入綿糸防遏の策を講究すへき事
 第四 倉庫会社を利用し銀行と予約し抵当割引の金融を謀る事
 第五 同業者金融の便を謀り大蔵大臣に請願並に日本銀行へ稟議の事

 (一)渋滞多数の糸製造止めの件
 (二)各社製糸目下の正味売直段を極抵点と定め糸価下落を防止する事
之に加ふるに宿題たる輸入棉花税免除及輸入綿糸税増課の二項を以てせり、以て当時の窮状如何に深甚なりしかを察すへし、今左に順次各項説明の要を記し事躰の判明に資し併せて其決議を掲けん
 第一項の説明に曰く、今本邦棉布の需用高を案するに人口三千五百万(実際四千万)とし、一人三封度の棉布を要すとせは一俵五百万斤《(衍カ)》にして、之を原料たる棉糸の重量に改算せは二十六万二千百五俵に相当す、是れ本邦人一ケ年の消費高なり、之に対する現在将来の供給高は左の如し
  竺糸輸入高  廿一廿二両年平均  八万俵
  英糸同    同         七万俵
  金巾類同   四万三千俵
   (此碼数七千百五十二万五十碼、五十碼る《(を)》英十二斤と見積)
  棉織物同   同
  本邦棉糸   九万四千八百俵
   (本年十月頃の製類により十一十二両日《(月)》を予算し)
   (錘数は実際運転 九万乃至十万本)
  手挽糸    計算外
   総計   二十八万七千八百俵
 然るに本邦紡績業全錘運転の期に到らは三十八万本の錘数八十匁の割合とするも、尚二千万俵前後《(マヽ)》に達する難きにあらす、然るときは十二万七千五百俵の超過にして需給既に其度を先す《(失カ)》前途の困難想ふへし、況んや一朝商況不振の年柄に合せは実業の困難名状すへからす、現今当業の困難は恰も前途の予徴と到る《(マヽ)》へし、故に当業目下の
 - 第10巻 p.345 -ページ画像 
急務は本邦棉糸外国輸販の拡張を謀るに在り、其目的とする輸出先は支那朝鮮地方其重なるものにて、其輸販の順序販売の方法同業者中合輸出の費用並負担の方法等に至ては、更に詳細の協議を要すへきなれとも差向き考案を要すへきは、輸出先に於て我紡績糸か他の輸入糸と競争し能く其販路を維持し得へきやを推究すへきに在り
  本邦糸 (孟買風左燃廿手) 上海市場にて発売し得へき価格
  孟買左撚廿手並上海織布局製糸上海にて買売価格
                     (表略す)
 吾製品の彼より不廉なること正に四円三拾四銭五厘七毛なれとも、輸出税三円八拾弐銭八厘を差引くときは其差僅に五拾壱銭七厘五毛に過きす、此小差は大計上敢て重を置くに足らさるへし
 将来我製糸海外輸販拡張の目的に於て已に前記の如き成算ありとせは、此際我聯合同業者は進んて棉糸輸出の関税免除の請願を為すこと、原棉輸入関税免除の請願の如くなるへし
 曩に原料を低廉ならしむるか為め棉花輸入税免除を請願し、目下尚追願中に在りといへとも不幸にして未た聴許の指令を得さる際、更に棉糸輸出税の請願を為すも其成否は素より期すへからすといへとも、此両税免除の事なる当業の隆替に関する重要の件たるを以て、我同業者協同一致百折不撓輿論に訴へ公義に問ひ、飽迄其重量を達するを期し若し政府之を容れさるの場合に於ては、進んて国会に請願するも可なり云々
抑も我国の綿糸紡績業は手挽糸を掃蕩するに興り、其製糸は使用原棉の佳良なる為め歳月に需用を増すのみならす、外糸殊に孟買糸に対しては常に拾円内外の高価を保ち、超然として之を深く相関せさりしか支那棉を使用するに迨ひて終に竺糸と市場に其輸贏を争はさるへからさるの運命に会し、その圧迫を受くること漸く重く、当時に於ては之を製するに従ひて益々その販路の梗塞するに苦しみ、結局方嚮を一転するの已むなきに及ひたり、是より先き大阪紡績会社ハ前年既に五十俵を輸出し、尋て東京紡績会社に於ても亦輸出を試み(棉布は此年小名木川のチヾラ織五千余反を上海に輸出したるを以て嚆矢とす)、略ほ其成算を認めたり、元来清国に於ては竺糸の需用莫大にして四川地方及北清方面に於ては二十手を以て其主要なるものとし、広東地方は沓底に充つるか為め多く六手を用ひ来りしか、大阪紡績会社は実に十二手以上二十二手の数種を併せて輸出したりしなり、又朝鮮は税金に代へ木棉を上納するの制規なれは、その材料として下等竺糸の需用多かりしに対し、大阪紡績会社は亦嘗て其製糸を輸出したりしか十分の成果を得る能はす、独り織布のみ当時引続き需用ありたると云ふ、即ち海外輸販の道は是等の会社によりて既に開拓せられたるなり
然れとも此議案の一たひ議場に上るに方りては、海外の事情に明かならさる同業者は、其方法等に就き衆論紛々たるを免れすして之を危むもの多かりしといへとも、大阪紡績会社の川村氏は其視察及ひ実験せる所を挙けて弁解甚た力めたりしに加へ、三井物産会社よりは此計画を賛し輸出棉糸は当方無手数料にて扱はんとの意を通し来り、猶ほ河上通商局長は朝鮮出張の次を以て来場し朝鮮に於ける紡績糸の商情を
 - 第10巻 p.346 -ページ画像 
通報せんことを約せられたる等の事ありしかは、満場翕然として此案を容れ支那地方紡績業試費方案取調委員七名(大阪・金巾・平野・尾張・摂津・岡山・三重)を撰み、之か立案を托したり、委員は更らに報告して曰く
 一外国輸販の拡張を実行せんか為め同業聯合一ケ年凡三万梱以内損益に拘はらす五ケ年間継続輸販するものとす、差向き左の方法を以て第一着見本として輸出すへし
 一輸出製糸は同盟各紡績所錘数一千本に付大俵一梱の割合とし一万錘以上の工場は必らす此割合に応し出荷すへしといへとも、一俵未満の時は四捨五入すへし、又番数は廿手左右撚を七分とし残る三分は十二手十四手及十六手に限る事
  但右制限外の出荷は各社の都合に任すといへとも、其損益は荷主の負担とす
 一各社製糸輸出価格は荷物取纏の際、正味売価より弐円減を原価とすへし
 一輪出糸売上の時其損益勘定に於て利あるときは総出荷数に配当すへし、若し又損あるときは之を同盟錘数に割当負担せしむるものとす
  但出荷せさる紡績所といへとも其損金は割当を負担すへし
 一前条損益負担法は第一回の試売に限る、第二回に至らは前に協議を要すへし
 一各所荷物取纏め荷造積出し及上海地方試売の手続等は実行委員三社を投票を以て選定し之に依托すへし
以上の各条は多数を以て通過し、尋て実行委員を撰挙し着々所期遂行の歩を進めたり
斯くて紡績業者外攻の策既に定まりたりと雖とも、内守の計亦豈に之を忽にするを得んや


〔参考〕大日本紡績聯合会月報 第一二五号・第六―一二頁 〔明治三六年二月〕 ◎大日本紡績聯合会沿革史(四)(DK100030k-0004)
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大日本紡績聯合会月報 第一二五号・第六―一二頁 〔明治三六年二月〕
    ◎大日本紡績聯合会沿革史(四)
即ち輸入棉糸の防遏を急務なりとして之か方策を講究せんか為め、先づ其説明を掲けて曰く
 英竺の輸入棉糸は我同業者共同の一大強敵にして其勢力の消長は直接に当業の盛衰に関するものなるか故、各位の夙に焦心経画せらるる所なれとも其方法宜を得さるときは折角の経画も画餅に属し、赤手其衝に当らんことを期するは素より無謀の挙なり、同業者宜しく相提携し戮力一致各自共同の負担を分任するにあらされは其効を奏するを得さるへし、現今の如く各社製糸所謂和風紡績糸の販路壅塞せるときは各社協同、製糸工程に多少の変更を為し輸入糸の重なるもの即「ボンベイ」左撚廿手の如き棉糸を紡出し将来、「ボンベイ」糸の占拠せる市場を侵撃し、我製糸の新販路を開くと共に輸入糸防遏の功を奏するを期すへし、是れ最も目下の急務たるのみならす実に当業将来の基礎を確定するの一方法なりと
而して其方案なるものを見るに左の如し
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 一聯合同業者は其錘数に応し(ミユールを除く)左の割合を以て、「ボンベイ」糸風の左撚廿手を紡出すへきこと
   五千錘以上壱万錘迄の工場は   二割以上
   一万錘以上弐万錘迄同      三割以上
   二万錘以上三万錘迄同      四割以上
   参万以上同           五割以上
 一「ボンベイ」風左撚廿手は「ボンベイ」糸価格に比し、一定の市価を定め各自競争の弊を予防すること
其意前記の約束に拠り当時我国の現在錘数中之か紡出に適せる十一万四千三百八十六本を以て一ケ年五万七千二百五十俵の廿手棉糸を製出し、「ボンベイ」糸の五ケ年間(十八年より廿二年まて)平均輸入額五万六千四百俵に抵り、其販路を奪ひ其輸入を防遏せは我製糸の停滞を見ることなからんと期したるものゝ如し、蓋し我国紡績事業は去る廿年以来三ケ年間に於て頗る発達し、約二十ケ所の工場、廿一万余本の紡錘は此間に於て新設せられ、之に旧工場の増加に係る錘数を合せは無慮二十七八万本の多きに達し、三年前に比すれは殆んと其数を倍したり、是等新旧紡錘より製出する器械糸は既に手挽系を圧倒し、今や進んて十四手乃至十六手を主として紡出したれは、十四手十五手の両種は此頃最も停滞したりしなり、本来流通資本に乏しき我紡績工場は此製品の渋滞に会し痛苦尋常ならす、而かも利息は逐次累加して其金庫に薄るを以て各工場其支持に苦しまさるはなし、殊に斜針器を使用せる工場及ひ二三千錘の小工場に至りては、割合に多額の工費を要するか為め、随て製すれは随て損失を重ね其困難殆んと名状すへからす、然れとも斯業果自然の推勢は未た全く和紡績の範囲を脱し得す、二三会社の外其以上の細番手を製紡し以て孟買糸の陣地に闖入するの概なかりしなり、左れは当時棉糸商の敵愾心を発して外糸を販鬻せさるへしとの好意を我に寄せたるに対し、又棉花輸入税免除の請願は久しからすして我紡績業の悲運を転化せしむへきにより、之に依頼し本議件の何等方法を具へさりしを鳴らし、是等の約束を廃せんとの説を為すものありしか、結局修正委員七名を投票し、当撰者岡山・金巾・摂津・平野・大阪・尾張・三重等各社の審議を以て左の方案を報告せり
    輸入綿糸防遏方案調査委員報告
 一外国糸を防遏し販路の拡張を謀るか為め、四千錘以上の工場は廿手以上の糸を製造すへし、尤も其錘数は各社の便宜に増《(マヽ)》る
  但四千錘以上の工場と雖とも工場の組織上、実際廿手以上の製造を為し能はさる事実ありと委員長に於て認むるときは其製造を免す事あるへし
 一各所毎月綿糸製造高及月末現在の梱数(一梱は四十玉入)を各番手に区分し、翌月一日聯合事務所に通報し事務所は臨時報として直に各所に報告すへし
  但此報告は同業者の外漏洩するを許さす
 一此約束の実行は第一項は明治二十四年二月より第二項は廿三年十二月より実行すへし
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同業者は此報告を領して未た満足せす、嘗て一たひ同業者の口に上り尋て輸入棉花関税免除請願の聞届を待ちて、更らに請願せんとせし、輸入棉糸関税増額を請願し、以て外糸の跋扈を制するの便を得んと欲し、第一項(輸出税免除)と共に政府へ請願することに決し五名の調査委員を設け、其中三名を以て請願委員に充つることに議決し、先つ調査委員として尾張・大阪・鐘淵・金巾及泉州の五社を挙けたり
又此際同業者の窮蹙に対する救治の一策として掲けられたる第四項倉庫会社を利用し、銀行と予約し抵当割引の金融を誹るの件に就き説明を付して曰く
 製造会社金融の要は其貨物の運転円滑を得るに在り、目下成立の倉庫会社は其受托の方法完全ならすといへとも、商法実施の時期に至るときは欧米共同倉庫の組織に準拠し政府特別の取締を為し、各地に確実の会社を成立し、而して一般貨物を受托して其蔵荷証書を発行し之を以て裏書転売の道を開くは論を俟たさる所なり、仏国共同倉庫の制度に拠るときは、倉庫会社は一貨物の受托に対し二葉の証書を発行し、貨主をして一は抵当用に供し、一は転売の用に供せしむ、其抵当と転売との間に於て間違なからしむるは法律に規定する所ありて之を束制す、実に至便の法なり、将来我商法に拠り確実の倉庫会社を設立するものあるか又我同業者の聯合を以て其会社の設立を促かし、果して之を成立するときは之に対し我同業聯合の約束を以て各自製出する棉糸は便宜其会社に寄托することとなし、又我同業聯合を以て一大銀行に依頼して抵当割引の契約を結ひ、而して倉庫会社より受領する一の証書を以て取引処の売買に供し、一の証書を以て銀行の抵当となし以て金融を計るの策を講するは、当業将来金融円滑を謀るの要務たるへし
と、抑も倉庫の利用は製貨の最も稽滞し易き紡績業に在りて関係する所頗る大にして、本案の如き当時の当業者に取りては饑者の食を獲たるか如きの状ありて、一旦多数の賛同により成立したるも遠隔の地に在る同業者は之か便益を享くる能はす、強ひて之を行はゞ少数者圧倒の嫌あるを以て有志者の協同して作すに任せ、同業一般の業としては未た其期に達せさるものとして之か実行を延期したり
第五項同業者金融の便を謀り大蔵大臣に請願し、併せて日本銀行へ稟議の件は或部分の同業者に於て最緊急の問題たるへしと叫破せられたるものにして、其方法として提案せられたるもの左の如し
 一日本銀行抵当貸の区域を拡め、現今同業者に貸付ある金高の外目下同業者の持棉並持糸の金額を程度とし抵当貸付の便を開く事を大蔵大臣に請願のこと
 一商業手形利用の事を大蔵大臣に請願し、並に割引の事を日本銀行に稟議のこと
 一担保品の入換法を簡便にし尚ほ中途引出しの便を与へ、及内金に対し幾分の割戻をなさんことを日本銀行に稟議のこと
 一他所割引の道を開くことを日本銀行に稟議のこと
説明員田村正寛氏は本案提出の趣旨を述へて曰く
 金融上の事今日の儘にては致方なきも、幸ひ政府は明治十七年に為
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替手形・約束手形の両手形条例を発布し、其機関を日本銀行となし布告の当時松方大蔵大臣は、大阪・京都・大津等の商工業者に向ひ懇々条例の精神を説明して奨励せられ、尚ほ田尻銀行局長を派して奨励せしめられたるにて政府の意の在る所既に明なり、元来商工の業たる、僅少の資本にて多大の運営を作すを以て其本事となし、手形の如きは亦実に之か用に供するを以て其目的となすものにして、今や此手形条例は本年商法の実施と共に消滅するも、手形に関する規定は亦商法に之を設けたるを以て其精神は長く滅せす、偏に商工業を保護するか為め、その流通上混雑の起らさるを期するか如し、故に所謂道具立は既に出来居るも、実際に於て大阪抔は古来手形の利用ありしに拘はらす一時中絶の姿なりしか、近来は又稍々之を用ゆるに及ひたるも一利一害相伴ふは事物の数とはいへ、種々の名目を付し手段を用ひて一己の融通手形を作り、日本銀行にて再割引を乞ひ低利の資金を利用するもの往々にして之あり、其用途を見るに多くは固定資本となすものゝ如し、是等を称して商業手形と言は非なり、元来手形は流通資本ならさるへからさるに、之を用ふるものは其本旨を没し、日本銀行は為めに詐騙せられたるを悔ひ、今や真性の手形に対しても余程の注意を加へ容易に之を割引せす、於是金融の途大に杜塞し現下の状態を呈するに至りたるは、一般商工業の為め遺憾の極と云ふへし、而して手形の再割引は、一個人の資格にて直ちに日本銀行に求むるを得す、必らす中間一銀行を経由せさるへからす、故に又中間銀行は往々自家の利殖を謀るか為め、其手形を取りて故らに日本銀行通過の如何を云々し、自己庫金の融通を求めしめんとす、是れ其銀行にて貸付くれは日歩三銭を徴し得るも、取次けは僅に一銭六厘の割合に過きさるか故なり、事業者は竟に中間銀行の肉となるを免かれす迷惑の至にあらすや、抑も我同業者は一千万円以上の資本を抛ち、独立の有志者に於て経営し、其盛衰は輸出入の権衝及全国経済の隆替に関係するを以て政府の感も深く、又信用も自から厚かるへきを信す、而も政府は一面既に手形条例を示し居るを以て此挙は正に政府の意に副ふものと言ふへく、是を以て多少の介錯を大蔵大臣に請願するも不可なかるへしと思料す、然れとも固より直接に保護に任せよと要請するにあらす、既に発布せられたる条例を充分に利用せんことを希望するのみ、彼の奸徒に做ふて不定手形の融通を看過せよと言ふにあらす、正当なる手形に対し円滑に融通し、我々同業者をして之か模範たらしめよと請求するに在り、之を再言せは此針路に由り我々同業者の発したる手形は日本銀行に於て故障なく割引せられんことを大臣と総裁とに稟請するにあり、抑も手形の受授は信用より来るものにして例之は旦に資本を借りて夕に之を償ふ小賈と雖も、之に応するの信用あり、我々同業者は日本銀行と対峙するに足るの信用の質あるにより、同行に対し其路を求むるに難きことあらさるへし、既に大阪の住友、伊丹の小西等に於ては銀行同様の資格にて取引し、其便を与ふるにあらすや、故に日本銀行と直接に取引を為し中間銀行者の翻弄を免かるは最も同業者の努むへきことたるを信するなり、而して其請願手続は
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種々あるも各社の固定資本・流通資本及ひ積立金と一年間営業上の運転資金等を一覧表に製し、充分事躰を分明ならしめ其何割を割引せんことを要望せんとす、如此んは万日本銀行を欺くか如きこと之なかるへく、若し空手形を発するか如き者あるに於ては以後取引せさることとするは勿論なりとす、昨今聞く所によれは輸出生糸横浜に堆積し其額既に三万梱に上ると云ふ、生糸の荷主は多く己人なり然るに尚ほ克く今日まて之を支持して売崩さゞるものは、政府か正金銀行に一千万円を出し割引を為さしむるに職由す、生糸と紡績糸と物は相異なるといへとも其帰趣は同一なり、故に我々同業者も上陳の理由を提け一は大蔵大臣に、一は日本銀行総裁に申願せんと欲す、且其際之に附帯して担保品の入換及他所割引の件をも請ふ所あらんとす云々
日本銀行は其定款に於て三様の貸出方を規定し保証(倉庫会社の証券類)、担保(鉄道株券類)、又抵当(現品)の目を掲け以て其再割引に応することを示せり、而して紡績当業者は抵当貸区域の推拡、商業手形の割引及担保品入換法の簡略とを以て之に要望せんとせり、是実に已むを得さるに出るものにして当時日本銀行は既に内規を定め各普通銀行に向ひ貸出の定額を決し居たれは、中間銀行の歛飽は兎に角渠等に向ひて多大の融通を求むる能はされは、少なくとも日本銀行に向ひ現品抵当無制限貸出の詮議を請望するの必要ありしなり、然も本案も亦各地其利害を殊にするにより其事情を参酌せさるへからさるを以て一先調査委員を撰み其取調を委托したり、既述の如く十四・十五両番手棉糸多数の製造は当時当業者困難の大本源にして、之に対する需用家の購買心を微弱ならしめたるは掩ふへからす、之を一般の不景気に由り購買力を減殺したりと云ふは非なり、即ち竺糸の輸入は依然として阻絶せらるゝことなきに見て明かに之を証すへく、畢竟我紡績業者かその製造糸類を択ふ能はさりしの結果なりとす、故に大阪・尾張・平野等の各社は夙に之に鑑み又外糸防遏上一臂を尽さんと欲し、左撚二十手を紡出し市場に売出すに方り、爾余製糸の未曾有なる安価を現はしたるに拘はらす、超然として其価値を保ちたるを見る、是を以て渋滞多数の糸製造止の件は全紡績業者の声にあらさるなり、其撤回の已むを得さるに至りたるは当然なりとす、然れとも当時竺糸の販路は主として大和紀伊及東京等にして其輸入糸も亦二十手のみにあらす、他番手と相半したれは我製糸堆積の結果として竺糸二十手以下の輸入を防阻したるを疑はす、窮通の機頭亦自から慰むるに足らすとせんや又糸価の低落を防止せんとして当下の正味売直段を極低点と定むるの議は、前次総会に於て三円値上の不結果に照して均しく本案を撤回し同業者の任意に付したり
又此際第三項として掲けられたる内国販売の便を謀るの件は、其要棉花・棉糸・棉布の共同取引所を設立するに在りて直接に救済策たるを認むる能さるも、当時の情勢に鑑みれは亦救治の一方法たるを失はさるへし、蓋し交通の不便にして同業者中事情の相通せさるや、綛糸商は之に乗して到る処甲紡績所は何割を割引したり乙紡績所は何歩を歩引したりと唱へ、以て只管其減価を要求したるを以て結局市場に於て
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無暗に売崩し其声価を墜したるのみならす、産地貴ふして市場廉く本末顛倒の奇観を呈したれは、今取引処を設け公定相場を発表し糸価の標準を示すは、正に此弊を匡す所以にして亦同業者の困厄を軽ふする所以なりとす、其説明に曰く
 本邦器械紡績業開始日浅きも夙に同業聯合会たるものありて一団体をなし、業務上互に気脈を通するの便あれとも其製品売買上に至ては、各自分立競争の弊あるを免れす、此際宜しく一の共同取引所を設け、且当業の消長得失に於て直接の関係を有する棉花棉布の両業と連絡し、三業一場に会合し、現品又は予約の取引を為さは啻に売買上の利便のみならす、全般の市況を推察し一般需要の景情を知悉し、内外棉糸の販路を比較し経営上の方嚮を定むることを得、我同業者の便益少なからさるへし、其上我同業者倉庫会社を利用し(第四項)其蔵荷証書を以て現品授受の手数を省くときは、尚一層の便利を得へし、而して其位置の如きは内国商業の中心たる大阪市と定め、其取引の方法順序は本会に於て委員を選定し調査せしむるを要す云々
是れプールス条例に仍り株式取引所又は米商会所等に則らんとするにあらす、その組織を簡略にし只所謂市場を立てんとするに在り、然れとも当時に在りては進歩したる事業の一と称するを憚らす、蓋し従来の如くんは売買両者互に往来奔走して其対手を索め纔に之を索め得たるも亦品質の取調及価格の交渉に時間を費やし、煩労を重ぬるを免かるゝ能はされはなり
而して今這箇取引所設立説の胚胎する所を考ふるに、元と木棉商及棉商との間に其議あり、事十日会に伝ふるや十日会は之を紡績業者主導の下に置かんと欲し、平野・金巾・泉州・天満及大阪の各社に於て先つ之か調査に従事し、又部署して交渉を重ねたる後、稍々方案を考索したるに因り提議同衆に諮りたるものなりとす、然も会員中其利害上往々規約に遵はさるの例あれは、該取引処設立の暁に於て表面取引処にて定めたる価格に順ふも、陰に出張所又は支店(当時紡績業者は多く其出張所又は支店を大阪市に設置し居たり)に於て価格の競争を為し、取引所の効能を没するか如きことなきを必せされは、更らに取調委員を置き深く査究せしむることなし、大阪・泉州・金巾・摂津及平野の五社撰まれて之れに当りたり


〔参考〕大日本紡績聯合会月報 第一二八号・第一七―二〇頁 〔明治三十六年四月〕 ◎大日本紡績聯合会沿革史(五)(DK100030k-0005)
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大日本紡績聯合会月報 第一二八号・第一七―二〇頁 〔明治三十六年四月〕
    ◎大日本紡績聯合会沿革史(五)
悪棉の排斥すへきは固より論を俟たすして、其必要は紡績業者各自に於て操業当初より之を識得せんも、原棉の獲難き深く自から抑忍したりしか、此項米棉《(頃カ)》も輸入の端を開き印度棉も続々入津し、従来唯一の原料たりし支那棉の供給と相伴ふて原棉の潤沢を示したり、然るに支那棉は打繰の方法疎略にして軟豊なるを得す、既に産地に於て新旧両種を混交するを常とするのみならす、輸出商は又相場の高底に従ひ約定品に取捨を加ふるを憚らす甚しきに至りては量目を増さんか為めに水分(熱湯)を注加し棉緯を巻縮せしむるもの少なからす、苞を解け
 - 第10巻 p.352 -ページ画像 
は団塊累々たるを見る、之を器械に上すに方りては針帯を鏽蝕し製糸番手の正整を失ふを免れす、之を将て織成したる棉布は地合粗雑にして量目軽く大に品位を墜したれは、織布家及綛糸商間に製糸不正量目匡正の声を聞くに至りたり、然れとも排斥すへき悪棉は独り支那棉に止まらす、印度棉と雖とも塵芥を混入し、器械棉の注文に対して手繰を混合するあり、米棉の如き亦往々砂を混するを以て、動もすれは工場に於て火を失するの虞あり、而も其弊年を逐ふて甚しく英国に於ても此頃紡績業者は米棉に対し是等の意弊《(悪カ)》を防遏せんと欲して委員を撰任し其取締法を議定し厳に之を実施したり、而して我国に於て悪棉の頻々として発見せらるゝ、実に棉花商の故意を以て敢て之を為すと云ふにあらさるも、紡績業者の之か為めに被りたる損害は莫大なりしを以て、此次の総会に於て遂に悪棉の排斥を以て一議題となすに至り、其方案に就き委員を撰み起草せしめたり、其報告書左の如し
    悪棉排斥取調委員報告書
 一棉花売買は見本並に商標に依て売買約定を為すこと
 一見本を以て売買を為すときは売買者双方見本に封印し、他日取引の証拠と為すへし
 一売買授受に際し違約の条件ありて双方意見を異にし熟議調はさるときは、調査委員へ立会審査鑑定を請ふへし
 一前項の場合に於けるも一旦現品及ひ予定金額を授受するものとす
   但本文予定金額に付双方意見を異にしたるときは調査委員の指定に依るへし
 一調査委員の審査鑑定は双方共に之を拒むを得す
 一調査委員は紡績業者及棉商の双方に於て、紡績業者は其聯合会の理事、棉商は組合取締の指名を以て各三名宛選定すへし
 一売買棉花湿気を含みあるか又は他物の混合しあるときは、調査委員の鑑定を請ひ其価格を定むへし
 一売買約束の後、価格の高低により其約定を履行せさるか又は詐偽の手段を行ふか又は調査委員の判定を拒む者あるときは、理事は其趣を同盟に報告し其者と向ふ一ケ年以内取引を絶つへし
   但取引を絶ちたる後、其損害を弁償したるときは其趣を理事に申告し、理事は其手続を同盟に通知し、再ひ取引を為すを得
 一外国商人及同盟外なる内国商人と棉花売買上其約定を履行せす又は詐偽の行跡あるとき、被告者は其趣を理事に申告し理事は委員長及棉商組合取締と協議の上、相違なきを認むるときは取引を絶つへき旨同盟に報告するものとす
   但取引を絶ちたる後、其損害を弁償したるときは其趣を理事に申告し、理事は其手続を同盟に通知し再ひ取引を為すを得
斯くて悪棉排斥案は総会の議決を経たりと雖とも、実地家の少なき、大に之を研究するものなく、画竜終に点晴を欠きたり
然れとも此悪棉排斥の案ハ輸入税免除及販路拡張の二案と相待ちて、端なく棉花商及綿糸販売商を迎へて我会員と為し、准会員の称を与ふるに至りたり、初め組織の異同あるものと挙止を一にするは寧ろ不可なりとして否決したりしも、三井物産及内外棉両会社より左の照会書
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を送らるゝに及ひ、再議の結果、聯合提挈の必要を認め綿商糸商に論なく総て紡績業に関係ある営業者と相連結し、共同の利益を図るの趣旨を以て其加盟を聴容したり
    御照会書
 一今般貴会に於て棉糸輸出免除請願の件、悪棉改良の件、其他営業上必要の数件御協議有之候趣、曩には棉花輸入税免除出願と云ひ我同業者に於ても一大関係を有するものと確信致候、就ては貴会に加盟し其運動を共に致し度候得共、素より営業の殊なる組織の別なる点も有之候間、其方法等を御協議致度候間、其諾否御確答に預り度、此段御照会に及ひ候也
   二十三年十一月十六日
           内外棉会社副支配人  斎藤善徳

 弊店儀、従来紡績器械並元棉輸入販売上に付ては各位の御愛顧を蒙り候処、将来益該業勉励外品貿易上に関することは勿論、悪棉防止等の事杯《(抔)》に付ては貴聯合会と運動を共にし、内外貿易上の実利を期し、元棉輸入並に棉糸輸出等の御計画有之に於ては精々御便宜相謀り申度に付、貴聯合会へ加入相成候様御評議被下度、此段及御依頼候也
  二十三年十一月十七日
            中の島三井物産会社出張所
                副支配人  南一介

日本綿繰会社も亦社長矢野亨氏より照会せらるゝ所ありて、同しく其入会を承認したり、而して之か為めに新定せられたる規約条文は左の如し
 第 条 当聯合同業者に直接共通の利害を有する棉屋・棉糸売買及棉布製造の業を営むものにして、当聯合と連絡を通し其業務上亘《(互)》に協議せんと欲するものあるときは、其聯合体なると一個人なるとに拘はらす、左の条項に照し本会准会員たるを許すへし
 一准会員たる者は其営業上に関する本会々議に列し、意見を提出し決議の数に加はるを得
 一本会に於て准会員の営業と連合したる事項あり、之か計画又は実行をなすに於て費用を要するときは、当会員五千錘の比準に依り臨時其費額を分担すへし
 一准会員臨時費用の賦課は五千錘を目安とす
 一准会員は本会経常費に対し一ケ年に付、金四拾円を出金すへし
 一准会員は信認金の出金を要せす
於是始めて三社の准会員たるを許し議席を与へたり、而して是等数氏の所論は能く棉花商の事情を闡明し、益々利害共通の連鎖を緊結せしめたり、此会に於て又会費徴収法を改め左の一条を規約に附加し
 第廿七条 新に加盟せしもの及増錘計画の届出あるものには、第三十条(旧第二十条)に定むる標準に依り経費を徴集すへし、其割合は半年度に区分し其加盟又は増錘九月以前のものは全額、十月以後のものは半額たるへし
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尋て経費未納者に対し左の議決をなしたり
 本会経費並に臨時費等、若し出金せさるものあるときは其信認金より差引き計算し、其不足は一ケ月以内更に出金補充せしむへし
  但本文の処分は出金期日より三ケ月以上延期したるものに限るへし
是れ長崎・埼玉の二社、久しく懈つて経費を納付せさりしを以てなり以上の外、此総会に於て諸多議決せられたる最要件中の一として算へさるへからさる者は聯合会組織の改正なり、前年既に幹事制を更めて委員組織となし、三名の常務委員を置きたるも既に一社を担当する者は余間の以て他に及ふへきなく、加るに或は遠隔の地に在る者ありて協商に便ならす、去れは同業会員にして折角機を得て遠来一堂に聚り或は定期に或は臨時に総会を開き、熟議研賛の余協定し得たる多少の策議も実蹟を挙くるの便を欠き、又請願委員の如き随時之を選ふも其選を辞する能はさるを以て、只其名を掲くるに過きさるものあり、又夫の規約と云ひ約束と云ふも機関の不備なる為め、其遵行を会員に強ゆる能はす往々竜頭蛇尾の憾を遺したりしかは、是に至りて更に専任の人を置き事務執行の任に膺り、本会活動の中軸たらしめ以て首脳たり代表者たる委員長と相待ちて会務の成績を挙けしむることとなし、其職を称して理事と命したり、理事の職任既に如斯重大なり、幸に其人を得れは会団の砥柱となり大小の事務均しく挙るを得へしと雖とも倘し其人を誤れば啻に綱目共に張らさるのみならす、会費を加へ弊を滋すに過きさるを以て大に其撰任を慎み、理事撰任委員七名を挙け常務委員と等議して之を選定せしめたり、而して此際其選に当りたるものは尾張紡績会社の商務支配人岡田令高氏なりとす、氏は謭劣の才を以て此の栄位を涜すへきにあらすとて固く之を辞したりと雖とも衆議之を容さす、氏は遂に社長に請ふて進退を決せんことを約するに至りたり、然るに同氏は曩に尾張紡績会社を代表して請願委員たりしを以て、先つ氏か理事就任を強ひ、岡山紡績会社を挙けて之に代はらしむることとし、又之と同時に鐘淵紡績会社の諾否未定の趣を以て、東京紡績会社をして請願委員の予備員たらしめたり
此会合は実に前後七日の長に渉り、議件一として焦眉の急務ならさるなけれは同業者は最も其言動を慎み大に其心力を竭したり、其閉会に方りてや平野町堺卯楼に於て懇親会を催ふし、府下の棉糸及棉花売買業者一同を招待したり、蓋し協同援護の主旨に出つ、示後首として准会員に加盟したるものは大阪市内棉糸売買業者組合にして委員中村善太郎・松居吉蔵及前川善三郎三氏の名を署し入会を申込みたり、是より棉花商中加盟する者漸く其数を加へたり
本会事務一切の管理者たる理事の撰任に就ては、爾後前記撰任委員及尾張紡績会社頭取との間に幾回の知照を重ねたりしか、頭取奥田正香氏も岡田氏の去就は輒ち同業一般の利害に関する所浅からすして、又其請の益々切なるか為め終に之を承諾したれは、岡田氏は此歳十二月初三日を以て就任せり
先是各会社に於ける製糸販売主任者は各自相識るの必要を感し五日会なるものを組織し、毎月五日を期し適宜の場所に会聚し以て其懇親を
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敦ふしたりしも、未た記するに足るものなかりしか此年十二月五日阪地三好亭に於て会同したる際、棉糸棉花業者の出席を請ひ棉花棉糸共同売買所の組織方法を詢りたり、然るに該会は諸主任者熟面の後は、固より無用の長物にして十日会と並立の要なけれは、未た幾ならすして十日会に合併し聯合会の別働隊となりたり、而して共同売買所規約は起案の後其筋の内意を諮ひ、允許を得るの難からさるを知り望を属する者少なか《(ら脱)》さりしなり