デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.2.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
29節 其他
6款 東京水道会社
■綱文

第15巻 p.254-300(DK150021k) ページ画像

明治21年12月5日(1888年)

是ヨリ先、東京市水道ノ改良問題ニツキ栄一等調査ノ結果、東京水道会社創立ノ計画ヲタテ、発起人ノ会合数次、案既ニ成リシモ偶々市区改正委員会並ニ市区部会ニ於テ実施ノ意向アルヲ知リ、是日東京府知事ニ其計画調査書類ニ副申書ヲ添付シテ提供シ、知事ノ意向ヲ糺ス。


■資料

中外物価新報 第一九八六号 明治二一年一一月一〇日 水道会社発起人総会(DK150021k-0001)
第15巻 p.255 ページ画像

中外物価新報 第一九八六号 明治二一年一一月一〇日
    水道会社発起人総会
府下十五区内飲料水道改良の件ハ渋沢・大倉・梅浦其他の諸氏が主唱者となり、昨年七月廿二日初めて銀行集会所にて其相談会を開かれし以来屡々中外物価新報に記載せし通り、内務省雇英国工兵少将パーマー氏の設計に基きて工事一切の取調を為し、且会社組織に関する定款其他の調査も悉皆整頓したるに付、来る十四日午前十一時より右発起人渋沢・福地・芳野・須藤・田口・角田・山中・藤田・安田・大倉・渡辺・西村・荘田・梅浦等の諸氏が東京商工会へ参集し、該取調書類に就て緻密に評議を遂げらるゝ筈なる由、但本件ハ東京市区改正委員会にても区債を起して布設せんとの発議もあり、旁々以て秘密を要する会議なるを以て関係者の外ハ堅く傍聴を禁ぜらるゝ由


中外物価新報 第一九九〇号 明治二一年一一月一五日 東京水道会社発起人会(DK150021k-0002)
第15巻 p.255 ページ画像

中外物価新報 第一九九〇号 明治二一年一一月一五日
    東京水道会社発起人会
兼て記載したる通り渋沢栄一・大倉喜八郎・角田真平・山中隣之助其他の諸氏都合七名ハ昨日東京商工会議事堂へ参集し、東京水道会社の件に付て発起人会を開き、予て内務省雇パーマー氏に依嘱して調査せしめたる鉄管水道布設計画及定額草案等に就て協議あり、聞く所に拠れば自今東京市区改正委員会にても此程別に委員を選ひ、東京市内改良水道布設の義に関して政府へ一篇の建議書を差出せしが、其要旨ハ工費総額を金五百万円と見積り、之に対し一ケ年金廿五万円宛向十五ケ年間下附あり度を云ふにあり、又東京府庁にても水道の事に付て別に取調べ居らるゝ次第もあれば、兎に角東京水道会社発起人の手にて是迄に取調べたる要領を書面に認めて市区改正委員長及東京府知事等へ建議し、私立会社を設立するか又ハ区民の共有として布設工事に着手する等の事ハ宜しく当局者の詮議に任すベしとの説もありしが、結局決議の要旨ハ水道の今日に於て必要なるハ固より論を俟たざる所なれば、我らハ進んて建議を提出し飽迄も素志を貫くべし、然れども其の説の容れらるゝや否やハ未だ容易に定め難しと雖も、兎に角此の事業たる、営利を以て目的となすにあらざれば府庁に向て発企一同より一片の書面を提出する事とすべし、就てハ水道設置の収支其他一切の手続書等を発企者一同の回覧に附し、然る後府庁に伝達すべし云々と云ふにありしよし


東京経済雑誌 第一八巻第四四五号・第六五一頁 明治二一年一一月一七日 ○東京水道会社発起人会ノ評決(DK150021k-0003)
第15巻 p.255-256 ページ画像

東京経済雑誌 第一八巻第四四五号・第六五一頁 明治二一年一一月一七日
    ○東京水道会社発起人会ノ評決
去る十四日東京商工会に於て水道会社発起人渋沢・大倉等の諸氏が集会して評決したる大要を聞くに、吾々発起人は予てより府下水道の改良せざるべからざる事を思ひ、昨年七月以来屡々会議を開き調査手続等を協議し、此程に至り改良工事の方案、会社収支の予算等大略其調査を完結したるを以て、近々私設水道会社の創立認可を其筋へ出願せんと思ひ居たるが、近日聞く所によれば市区改正委員会に於ても水道
 - 第15巻 p.256 -ページ画像 
布設の義に付其の筋へ建議する所ありしと云へり、其の建議は果して政府の採容する処となりしや否なや其の辺は未だ之を知る能はずと雖も、兎に角市区改正委員会に於て既に此議あり、同一の事業を官民双方に於て経営するは吾々の願ふ処にあらず、殊に吾々が水道改良事業を発起したるは純良の水を十五区内に供給し府民の健康と利益とを高めんとの趣意に出でたるものにして、敢て営利の目的を以て発起したるにあらざれば、他日公共事業として区部会此事業を担任し純良の水を十五区内に供給するに至らば吾々は既に其目的を達したるものなれば、吾々は最早会社設立の義を出願するにも及ぶまじ、尤も今日に於ては公共の事業とすべしと云ふに一決したるに非ざれば、此際府知事に一書を呈出し、吾々は府下水道の改良を熱望する者にして昨年来其改良方案等に就き種々調査を尽したり、去乍ら吾々は営利の目的を以て此事を発起したるに非ざれば若し区部会に於て之を担任する事となるも更に憾むる処なし、唯だ区部会が此の事業を担任することを辞するに於ては従前よりの行懸りもあれば吾々に於て此の事業を経営いたしたしとの希望を陳じ、且つ水道事業発起以来の事歴及び要書類をも添へて上申するに決したり
   ○右ノ水道改良調査委員ハ英国工兵少将エツチ・スペンサー・パーマルニ嘱託シ調査セシム。ソノ報告書ニヨレバ、従来ノ玉川上水・神田上水ノ木樋ヲ鉄管二改メ、水源ハ玉川上水ニ求メ、十五区ヲ四部ニ分チ、各部ニ給水塔ヲ設ケ部内ノ給水ニアタラシメ、工費五百六十万円、百三十三万ノ市民ニ対スル給水力アラシメントスルナリ。後出「東京市史稿」所収ノ東京水道報告書(本巻第二七〇―二九六頁)参照。


中外物価新報 第一九九八号 明治二一年一一月二五日 東京水道会社設立の出願(DK150021k-0004)
第15巻 p.256 ページ画像

中外物価新報 第一九九八号 明治二一年一一月二五日
    東京水道会社設立の出願
当府下の紳商渋沢栄一氏外十二名の発起にて、先頃より工事方法収支予算等を取調られし東京水道会社設立の件ハ、去十四日の発起人総会の決議に随ひ先づ府知事へ向て差出べき設立願書及副申書・工事方法書・定款・収支予算書等も最早略ぼ出来したれば、発起人諸氏の調印済次第多分明後廿七日頃其筋へ差出す都合なる由、聞く所に拠れば改良水道布設の事ハ市区改正と共に百年の大計にして、第一区民の衛生と経済とに関係する大事業なるを以て、之を区民の共担として起工せしめんか、又ハ私立会社の手に委ねんかとの事に就てハ、市区改正委員諸氏の意見もあり、且内務大臣の詮議に出るものなれば、其孰れに決するかハ予め今日に於て確知する能ハざれど、兎に角其筋に於てハ改良水道布設事業に付てハ一ケ年金二十万円宛向十五年間ハ之を補給すべしとの内議ありと云ふ


中外物価新報 第二〇〇六号 明治二一年一二月五日 水道会社の設立出願(DK150021k-0005)
第15巻 p.256-257 ページ画像

中外物価新報 第二〇〇六号 明治二一年一二月五日
    水道会社の設立出願
是迄屡々報道したる東京水道会社設立の件ハ去月十四日発起人総会の決議に由り、工事方法書・工事予算書・結社定款其他一切の附属書類を取揃へ去月下旬にハ其筋へ進達する積りなりしに、何分数多き書類を十数名の発起人の宅へ廻して一々閲読し居りし為め大に日子を費せ
 - 第15巻 p.257 -ページ画像 
しが、漸く一同の廻覧も済みしかば本日愈よ発起人総代渋沢栄一氏より府知事の許へ差出す筈なりとぞ、又聞く所に拠れば従来の発起人中田口・藤田・角田・芳野の四氏ハ都合に由り出願人たるの名義を差除きたる由


東京経済雑誌 第一八巻第四四八号・第七五六―七五七頁 明治二一年一二月八日 ○東京水道会社(DK150021k-0006)
第15巻 p.257 ページ画像

東京経済雑誌 第一八巻第四四八号・第七五六―七五七頁 明治二一年一二月八日
    ○東京水道会社
同会社発起人総代渋沢栄一氏ハ予て発起人相談会に於て議定したる趣意に基き、水道事業に関する方案書収入予算書定款及び諸規則に副申書を添へて去る五日東京府知事へ差出したる趣なるが、右副申書の要旨を聞くに抑も飲料水の良否は衛生及経済上に至大の関係を有すること固より論を待たず、而して府下水道の如きは今より二百年前の計画に成り其構造粗雑にして衛生及び経済上に害を及すこと少からざるに付、余輩数名水道会社の発起人となり昨年七月以来孜々其調査に従事し、此程に至り大略調査を了りたれば会社創設の義を出願せんとするに際し、今般市区改正委員会に於ても水道改良の事を取扱はるべきやの趣を仄聞せり、思ふに若し其筋に於て此風聞の如き計画あるに於ては、将来府下の水道事業は区部会の担任となり発起人等多年の宿望を達するの日ハ最早遠きにも非ざるべし、依て是迄調査したる諸要書類を差出し当局の参考に供すること吾々の最も希望する所なり、併乍ら其筋に於て若し右計画を実施せられざる場合に於ては発起人は更に会社創設の義を出願し、敢て此事業に当らんことを期す、依て其筋の御都合御詢議の上何分の義御垂示ありたし云々」と云ふにあり、左れば世上にては水道会社は既に創立願書を差出したるが如く云ふ者あれども是は何かの誤聞なるべし
   ○右東京府知事宛提出書類、東京府庁ニ訊ネテ得ズ。


東京市史稿 (東京市役所編) 上水篇第二・第一〇二五―一一三八頁 大正一二年一月刊(DK150021k-0007)
第15巻 p.257-300 ページ画像

東京市史稿 (東京市役所編) 上水篇第二・第一〇二五―一一三八頁 大正一二年一月刊
 ○東京市地史各記八 上水史第二 第二節本記
    帝都時代ノ上水(一)
○上略
十二月五日(原注)○明治廿一年(紀元二五四八年)渋沢栄一等、東京水道会社設立ヲ東京府ニ出願ス。(原注)○公文類纂。水道会社設立ノ件引継書類。
 東京水道会社設立出願 渋沢栄一等十名、私設会社ノ手ヲ以テ改良上水道ヲ府下ニ布設センコトヲ企画シ、明治廿年七月以来之ガ調査ヲ為シ、是ニ至リテ出願ス。後水道条例ノ発布ニ由リ、私設水道ヲ許サレザルコトヽ為ルニ及ビ、事竟ニ已ムト雖、其調査ガ水道改良事業ニ有力ナル参考ト為リタルコト、調査書類ヲ一瞥シテモ容易ニ首肯シ得可キ所也。
 明治廿一年十二月六日出、十二月七日判決。
                      属福島甲子三
 十二月八日送達。第四九一一号
 知事  第一部長  第二部長       土木課長
    水道会社設立願之義ニ付申牒案
    東京市区改正委員長宛       東京府知事

 - 第15巻 p.258 -ページ画像 
 水道会社設立之儀ニ付、大倉喜八郎外八名惣代渋沢栄一ヨリ別冊之通リ願出候処、副申書ノ趣モ有之ニ付、右書類及御送附候条、御参考相成度、此段申進候也。
  逐テ別冊ハ御熟覧ノ末、御送付相成度候也。
 東京府下水道ノ不完全ニシテ、到底改良セサル可カラサル事ハ、今更贅弁ヲ要セザル儀ニ付、今般私共水道会社創立ノ事ヲ計画シ、先ツ起工ノ方法並収支ノ予算等、精密調査致候処、別冊甲乙号ノ如ク充分見込相立候ニ付、別紙丙号諸規則ニ依リテ、愈々会社ヲ設立シ用水供給ノ業務ニ従事仕度候間、何卒御許可被成下度、且右御許可ノ上ハ、別紙丁号件々特ニ御命約被成下候様仕度、依テ書類相添、此段奉願候也。
  明治廿一年十二月 日
            東京府深川区福住町四番地
        発起人大倉喜八郎外八名惣代 渋沢栄一
    東京府知事 男爵 高崎五六殿
    書類目録
 甲号 一、東京水道第一報告書     壱冊
    二、同   第二報告書     壱冊
    三、絵図面           五葉
 乙号 一、水料収入予算表自甲号至癸号 九葉
    二、参考表           四葉
    三、水道会社収入予算説明書   壱冊
 丙号 一、東京水道会社定款草案    壱冊
    二、東京水道給水規則      壱冊
    三、東京水道共用栓規則     壱冊
 丁号 一、特許要件          壱冊
    副申書
 飲料水ノ得失ハ、衛生及経済ノ一大関鍵ニシテ、健尩貧富ノ因テ生スル処ト申モ、敢テ不可ナキ者ト相信シ候処、東京二水道ノ義ハ、今ヨリ二百年前ノ計画ニ成リ、当時工芸技術等未タ精緻ニ至ラス、材料モ亦十分便益ヲ得ズ候ニ付、既ニ今日ニ於テハ、其構造ノ拙劣ナルハ、仮令不問ニ措キ候モ、衛生及経済上ニ於テ、其儘ニ放任シ難キモノ有之候間、其事業ノ重大ニシテ、要資ノ巨額ナルヲモ憚カラズ、私共数名水道会社ノ発起人ト相成、昨年七月以来、孜々其取調ニ従事シ、頃日ニ至リ、別紙之通、諸図諸計算ノ取調モ、大略出来候ニ付、会社創立ノ義、請願可仕場合ニ際シ、今般市区改正部内ニ於テ、水道改良ノ事モ御取扱可相成哉之趣仄聞仕候。果シテ其計画ニ候ハヽ、将来水道ノ事業ハ、総テ府民ノ共担ニ帰シ、誠ニ私共ノ素望ニ御座候間、前掲諸図諸計算ノ書類ハ、当路ノ御参考ニ相供申度奉存候。若シ又実際其御計画ニモ無之義ニ候ハヽ、私共ニ於テ会社創立之義更ニ出願可仕候間、其筋ノ御都合御詢議之上、何分之御垂示被成下度、此段副申仕候也。
  明治廿一年十二月五日
            東京府深川区福住町四番地
 - 第15巻 p.259 -ページ画像 
        発越人大倉喜八郎外八名惣代《(起)》 渋沢栄一
    東京府知事 男爵 高崎五六殿
                   ――水道会社創立ノ件引継書類
丙号
    東京水道会社定款
東京水道会社ヲ創設スルニ付、其株主ノ衆議ヲ以テ決定スル所ノ定款左ノ如シ。
  第壱章 総則
第壱条 当会社ノ営業ハ、東京府下十五区内ニ鉄管水道ヲ敷設シ、一般ノ飲料及家事用・営業用・其他道路撒布・消防等ノ使用水ヲ供給スルヲ以テ目的トス。
第二条 当会社ノ名号ハ東京水道会社ト称ス。
第三条 当会社ハ本社ヲ東京 《マヽ》ニ設置スヘシ。
第四条 当会社ノ営業年限ハ、満三拾五ケ年ト定メ、毎年第十二条ノ趣旨ニ拠テ、其株式ヲ会社ニ買受、悉皆会社ノ所有ニ帰シタル上ハ、無代価ヲ以テ現在ノ水道及附属ノ財産ヲ挙ケテ、東京区部会ニ引渡スモノトス。
第五条 当会社ハ有限責任トシ、負債弁償ノ為メニ株主ノ負担スヘキ義務ハ、株金ニ止マルモノトス。
第六条 当会社ハ営業年限中、東京区部会ヨリ其払込タル株金ニ対シ年六朱ノ利子保証ヲ受ケ、創立セルモノナルヲ以テ、会計ノ事ニ関シテ、特ニ区部会ノ監督ヲ受クルモノトス。
 但、利子保証ノ割合ハ、別ニ区部会ト会社トノ間ニ相当ノ会計法ヲ設ケテ、予メ之レヲ定ムヘシ。
第七条 当会社ノ業務ハ、都テ理事委員会ヘ委任シ、日本政府及地方庁ヨリ下附セラルヽ特許命令書ト、此定款トニ拠リ、之レヲ処理セシムヘシ。
  第二章 資本金
第八条 当会社ノ資本金ハ五百万円ト定メ、壱株ヲ金百円トシ、総計五万株ヲ内国人民ヨリ募集スベシ。
 但、営業ノ都合ニ依リ、株主総会ノ決議ヲ以テ、区部会ノ承認ヲ得此株ヲ増減スルヲ得べシ。
第九条 当会社ノ株主ハ、其引受高ヲ凡ソ三年間ニ会社カ指定スル期限ニ於テ、入金スヘシ、而シテ其時日ハ必ス三十日前ニ通知スヘシ。
第拾条 株主第一回ノ払込ヲ為タルトキハ当会社ヨリ仮株券ヲ交附シ第二回以後ハ其金額ヲ右仮株券ニ記入シ、主任者之レニ捺印スヘシ。
 但シ、最終ノ入金ヲ為シタルトキハ、本株券ト交換スヘシ。
第拾壱条 株主若シ此払込金ヲ怠ルトキハ、其ノ金高ニ対シ、一日百円ニ付、金四銭ノ延滞日歩利息ヲ徴収スベシ、而シテ日数六十日ヲ経過シ、尚入金ヲ為サヽルトキハ、当会社ニ於テ其株式ヲ売却シ、買受人ヲシテ補欠員タラシム。
 但、此場合ニ於テハ、売却ニ係ル諸費及延滞日歩利息ヲ計算シ、不足アレハ原株主ヨリ徴収シ、余金アラハ之ヲ還附スヘシ。
第拾弐条 当会社ノ株式ハ、工事落成ノ後壱ケ年ヲ経テ、向三十年間
 - 第15巻 p.260 -ページ画像 
毎年一月ノ定式総会ニ於テ、抽籤法ニ依リ株券金額ヲ以テ之レヲ会社ニ買入ルヽモノトス。
 但シ、株式買入資金ハ、毎年総益金ノ内ヨリ金六万五千円ヲ引去リ之ニ充ツルモノトス。而シテ第二年以下ハ、之レニ会社所有ノ株式ニ対スル利益配当金ヲ合算シテ、買入ノ資金トスヘシ。
  第三章 役員
第拾三条 当会社ノ役員ハ左ノ如シ。
 理事委員 七名以上
   内
  社長   壱名   副社長  壱名   検査委員 壱名
  幹事   壱名   幹事補  壱名   技術長  壱名
  技術補  壱名   事務員  壱名   技手
第拾四条 理事委員ハ、株主総会ニ於テ五拾株以上ヲ所有スル株主中ヨリ、記名投票ヲ以テ之ヲ撰挙スルモノトス。
第拾五条 理事委員ハ、互撰ヲ以テ社長・副社長及撿査委員各壱名ヲ撰定スヘシ。而シテ社長・副社長ハ東京区部会ノ承認ヲ得テ就職スルモノトス。
第拾六条 社長ハ総会及ヒ理事委員会ニ於テ定メタル諸規則ヲ施行シ毎季ノ予算決算明細表ヲ調製シ、又幹事以下ノ役員ヲ任免黜陟シ、及総会理事委員会ノ決議ヲ要セサル営業上一切ノ事務ヲ担理スルノ任アルモノトス。
第拾七条 社長ハ会社営業ノ都合ニ依リテハ、他ニ向テ負債ヲ起スコトヲ得ヘシト雖トモ、其証書ニハ必ス理事委員一同之ニ連署スヘシ。
第拾八条 副社長ハ社長ヲ扶翼シ、社長若シ事故アルトキハ、其代理者タルヘシ。
第拾九条 理事委員ハ日本政府及地方庁ヨリ下附セラルヽ特許命令書並ニ総会ヨリ委任セラレタル事務ヲ負担シ、諸命令書及本社定款ニ於テ、区部会ノ承認又ハ株主総会ノ決議ヲ要スル明文ナキ本社ノ諸規則ヲ議定シ、諸般ノ事務順序ヲ定メ、社長以下役員ノ所行ヲ監察シテ、之ヲ総会ニ報スル者トス。
第二拾条 撿査委員ハ本社ノ会計一切ノ事ヲ監査スルモノトス。
第二拾壱条 理事委員ハ少クモ毎月二回当会社ニ於テ会議ヲ開キ、会社一切ノ事ヲ処弁スヘシ。
 但、其議長ハ社長或ハ副社長之ニ任スヘシ。
第二拾二条 幹事以下ノ役員分掌ノ事務及其規程ハ、理事委員会ノ議決ニ拠リ、当会社ノ営業規則ヲ以テ之レヲ定メ置クヘシ。
第二拾三条 社長・副社長・理事委員・撿査委員ハ在任中所持ノ株式五拾個ノ券状ヲ当会社ヘ預ケ置クヘシ。当会社ハ之レヲ格護シ、其券状ノ保護預リ証書ニ禁授受ノ印ヲ押シ、之レヲ渡スヘシ。
第二拾四条 社長・副社長・理事委員・撿査委員ハ三ケ年ヲ以テ任期トシ、毎三ケ年ニ之レヲ更撰スヘシ。
 但シ、再撰挙ヲ得タル者ハ重任スルヲ得ベシ。
第二拾五条 社長・副社長・撿査委員事故有テ退職スルトキハ、理事委員中ヨリ互撰ヲ以テ撰挙スヘシ。而シテ理事委員欠員スルトキハ、
 - 第15巻 p.261 -ページ画像 
臨時総会ヲ開キ、更ニ株主中ヨリ撰挙スベシ。
第二拾六条 社長・副社長・理事委員・撿査委員ハ、同僚中職任不適当ノ行為アリト認ムルトキハ、社長ニ通知シ、臨時株主総会ヲ開キ、三分二以上ノ多数説ニ従ヒ、之レヲ退職セシムベシ。
 但、此場合ニ於テハ、其行為不適当ナル理由ヲ株主ニ証明スベシ。
第二拾七条 社長・副社長・理事委員・撿査委員ノ給料ハ、株主総会ニ於テ決定スルモノトス。
  第四章 株主ノ権利責任
第二拾八条 当会社ノ株主ハ、即当会社ノ本主ナルヲ以テ、株数相当ノ権利ヲ有シ、且当会社ノ営業ニ差支ナキニ於テハ、何時ニテモ金銭出納諸帳簿諸計算ヲ撿査スルヲ得ヘシ。
第二拾九条 当会社ノ株主ハ、理事委員会ノ議決ニ不適当ノ事アルヲ認ムルトキハ、第三拾七条ノ順序ニ照シ、臨時総会ヲ催シ、三分ノ二以上ノ多数説ヲ以テ社長・副社長・理事委員・撿査委員ノ全数、或ハ其幾名ヲ解任スルノ権アルベシ。
第三拾条 当会社ノ株主ハ、其所有株拾個マテハ、壱株毎ニ壱個宛ノ発言投票ヲナスノ権アリ、而シテ拾壱株以上百株マテハ、五株毎ニ壱個宛ヲ増加シ、百壱株以上ハ拾株毎ニ壱個宛ヲ増加スベシ。
 但シ、当会社カ所有スル株式ニ対スル発言投票ノ権ハ無効ノモノトス。
第三十一条 当会社ノ株主ハ、其引受ケタル株式一個ニ付、株券状壱通ヲ受領スルヲ得ヘシ、其券状書式ハ第壱号雛形ノ如シ。
第三十二条 当会社ノ株主ハ、所持ノ株式券状ニ磨滅敗裂等ノアルトキハ、其趣ヲ書面ニ認メ、之レカ書替ヲ乞フベシ。若シ又焼亡紛失スルコトアレハ、其事実ヲ明瞭ニ認メ、二人以上ノ証人ヲ立テ、各之ニ記名調印シ、更ニ新株式券状ノ交附ヲ乞フベシ。
 但シ、株式券状ヲ書替ル時ハ、当会社ニ於テ定メタル手数料ヲ仕払フベシ。
第三十三条 前条株式券状焼亡又ハ紛失等ノ場合ニ於テハ、会社ハ之ヲ新聞紙ニ広告シ、三十日ヲ経タル後新株式券状ノ交附ヲ為スヘシ。
 但、広告料ハ其株主ヨリ之ヲ会社ニ支払フヘシ。
第三十四条 当会社ノ株主ハ、何等ノ事故アルモ、当会社営業年限ノ間ハ、株金ノ取戻シヲ請求スルコトヲ得ス。
 但、当籤者ハ此限ニアラス。
第三十五条 当会社ノ株主ハ、第五十四条ノ手続ヲ為セハ、其所有株式ヲ売却譲与スルコトヲ得ヘシ。
  第五章 株主総会
第三十六条 株主総会ハ定式臨時ノ二類ト為シ、定式総会ハ毎年両度一月七月社長ノ指定シタル時日ニ之レヲ開キ、臨時総会ハ理事委員会ノ議決ニ拠リ、適当ナリト認ル場合ニ於テ、何時ヲ論セス之レヲ開設スルヲ得ヘシ。
第三十七条 株主人員三拾名ニ下ラス、其株数当会社ノ総株高ノ五分ノ一ニ下ラサル者ニシテ、臨時総会ヲ要スル時ハ、之レヲ社長ニ通牒シテ開会スルヲ得ヘシ。
 - 第15巻 p.262 -ページ画像 
第三十八条 右ノ通牒ニハ其総会ヲ要スル事件ノ目的ヲ詳明ニ記載スルヲ要ス。而シテ社長之レヲ落手シタル後、理由ナク開会ノ手続ヲ怠ルコト二週間ニ及フ時ハ、通牒者自カラ招集開会スルヲ得ヘシ。
第三十九条 第三十七条・第三十八条ノ手続ヲ以テ開会シタル総会ニ於テ、株主出席ノ数第四十四条ノ限員ニ満タサル時ハ、此議按ハ全ク之レヲ棄却スヘシ。
第四十条 株主総会ノ議按ハ、定式臨時共予テ理事委員会ノ議決ヲ以テ之レヲ定メ、書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ提出スヘシ。(第三十七条・第三十八条ノ場合ヲ除クノ外)故ニ其総会ニ於テハ、社長・理事委員ノ許可ヲ得ルニ非サレハ議題外ノ事ヲ討議スルヲ得ス。
第四十壱条 株主総会ノ決議ハ、過半数ヲ以テスヘシ。(第二十六条・第二十九条及ヒ第五十九条ヲ除ク外)故ニ病気其他事故アリテ会同セサル株主ハ、必ス当会社ノ株式ヲ有スルモノヲ以テ(役員ヲ除ク)代人ニ立テ、之レニ其委任状ヲ授クヘシ。此規定ヲ履マサルモノハ、決議ノ後異議ヲ発スルモ決シテ採用スヘカラス。
 但、代人ニ附与スヘキ委任状ノ書式ハ、第二号雛形ノ如シ。
第四十二条 株主遠隔ノ地ニ住シ、又ハ旅行ヲ以テ会同シ難キモノハ定式臨時総会ノ為メ代人ヲ立テ、其姓名ヲ当会社ニ通知シ置ク事ヲ得ベシ。
第四十三条 株主総会ノ議長ハ、社長之レニ当ルヘシ。社長若シ差支アレハ副社長之レヲ務ムヘシ。
第四十四条 株主総会ニ当リ、其会員株主総数ノ三分ノ二(委任状ヲ有スル代人モ之ニ算ス)ニ満タサルトキハ延会シ、必ス五日以内ニ更ニ招集開会スルヲ得ベシ。
 但、利益配当ニ係ル総会ハ此限ニ非ス。
  第六章 純益金配当
第四十五条 当会社ノ総勘定ハ、毎年両度六月十二月ノ末ニ於テ決算シ、総収益金ノ内ヨリ一切ノ諸経費及ヒ株式買入資金ヲ引去リ、其残額ヲ純益トナシ、之レヲ配当スル事左ノ如シ。
純益金百分ノ五 役員賞与金
是ハ役員賞与トシテ、毎半季純益金ノ内ヨリ引去リ、其五分ノ一ヲ以テ臨時慰労積立金トナシ、其残額ヲ社長以下ノ賞与ニ充ツベシ。而シテ役員ハ各等級ニ従ヒ其割合ニ等差ヲ立テ、一般ノ勤惰ヲ鑑別シテ、理事委員会ノ考按ヲ以テ、毎半季之レヲ給与スヘシ。
臨時慰労積立金ハ、理事委員会ノ考按ヲ以テ、役員中万一災厄ニ罹リ又ハ特別功労アル者ニ対シ、臨時相当ニ支給スヘシ。
純益金百分ノ九十五 割賦金
是ハ各株ニ対シ配当スルモノニシテ、其配当金年六歩ニ上ラサル時ハ東京区部会ヨリ補給セラルヽヲ以テ、毎季ノ配当金ハ年六歩ノ割合ヨリ下ラサルヘシ。而シテ其配当金年壱割以上ニ上ル時ハ、其余ハ株式買入ノ資金ニ充ツルモノトス。
第四十六条 各株主ニ対シ割賦スル金額若年六朱ノ割合ニ達セサル時ハ、本款第六条ニ依リ、東京区部会ヨリ年六朱ニ達スル迄ノ補助支出金ヲ受クヘキモノトス。
 - 第15巻 p.263 -ページ画像 
 但シ、此場合ニ於テ、役員ノ賞与金額ハ補助支出金額ニ対スル百分ノ一ヲ減少スベシ。
  第七章 簿記計算報告
第四十七条 当会社ノ簿記計算書類ハ、簡明ナル表式ヲ設ケ、其主任者ヲシテ之ニ遵拠セシムヘシ。
第四十八条 当会社ノ計算ハ、日表月表季表ヲ以テ整頓シ、日表ハ毎日幹事之レヲ点撿シ、月表季表ハ社長之レヲ撿閲シ、均シク之レヲ撿査委員ニ差出スヘシ。
第四十九条 社長ハ毎季一切ノ事務及ヒ営業ノ事情ヲ編述シタル考課状ヲ作リ、理事委員会ニ提出シテ、其議決ヲ経、株主総会ニ於テ報告ノ後、季表ト共ニ印刷シテ各株主ニ配付ス。
  第八章 印章並ニ記録
第五十条 当会社ニ於テ使用スル印章左ノ如シ。(原注)○次ニ余白有リ。
第五十一条 当会社ノ印章及社長・理事委員・幹事ノ印章ハ、其印鑑帳ヲ作リ、之レヲ管轄庁ニ具申シ、改刻スルトキハ速ニ之レヲ再具スヘシ。
第五十二条 営業規則及理事委員会録事・株主総会ノ録事・官庁ニ具申スル書牒ハ、皆社長・理事委員・撿査委員及ヒ幹事ノ捺印ヲ以テ証トナシ、之レヲ存録スヘシ。
第五十三条 官庁ニ具申スル諸牒及重要ナル文書等、当会社ノ名ヲ以テスルモノハ、皆社印ヲ押捺スヘシ、而シテ其金銭出納ニ係ル重要ノ書類、又ハ約定書等ニハ、社長・幹事之ニ署名捺印スヘシ。
  第九章 株式売買授受
第五十四条 当会社ノ株式ヲ売買授受スルニ、必ス当会社ノ准認ヲ受クヘシ、故ニ其売買授受スル者ハ、券状裏面ニ主任者ノ証印ヲ受ケサル間ハ、売買授受ノ約アル者ト雖トモ、当会社ノ損益ハ必ス株券状ノ名前人ヲシテ負担セシムヘシ。
第五十五条 当会社ノ株式ヲ売買授受スルニハ、第三号雛形文例ニ照ラシテ証書ヲ造リ、之レヲ当会社ニ差出シテ書替ヲ求ムヘシ。
第五十六条 当会社ノ定式総会前十日間ハ、株式記名書替ヲ停止シ、株式帳ノ書替ヲ為サヾルヘシ。
第五十七条 当会社ノ株主死亡ノ後、所有株券ヲ其嗣子又ハ遺族ノ名前ニ書換ヘキトキハ、其親族弐名連署ノ証書ヲ以テ、書替ヲ要求スルヲ得ヘシ。
第五十八条 総テ株券書替ニ於テハ、其買人又ハ譲受人ヨリ、当会社ニ於テ定メタル所ノ書換手数料ヲ差出スベシ。
  第拾章 定款改正
第五十九条 此定款ハ株主ノ衆議ニ依リ、東京区部会ノ承認ヲ経テ、増減更正スルコトアルヘシ。尤其総会ノ議決ハ三分ノ二以上ノ多数説ニ従フヘシ。
 但、改正ノ項目ハ速ニ管轄庁ノ認可ヲ請クヘシ。
右拾章五十九条ハ、当会社株主ノ衆議ヲ以テ相定メタルニ付、一同記名捺印シテ以テ之ヲ証明致候也。
                      株主連署印
 - 第15巻 p.264 -ページ画像 
第一号雛形

図表を画像で表示第一号雛形

 此券状ヲ売買譲与スルトキハ本社ニ持参シ相当ノ検査ヲ受ケ券状裡面ニ所有権移転ノ事ノ証明ヲ受クヘシ  番号有限責任東京水道会社株券状                         何府県郡区                         何町何村何番地 何某  右ハ有限責任ナル東京水道会社ノ定款ヲ遵奉シ、明治何年何月ヨリ本社株式ノ内百円即壱株ノ持主タル事相違ナキヲ以テ、此券状ヲ交附シ、爰ニ之レヲ証明スルモノ也。      年 月 日 [img 図]社印                                社長印                               協議員印 



第二号雛形
    委任状
拙者ノ名義ヲ以テ何某ヲ部理代人ト相定メ、左ノ権限ノ事ヲ代理為致候事。
一、東京水道会社株主惣会ニ出席シテ、発言投票ヲ為ス事。
右委任状依テ如件。
  明治 年 月 日            住所
                        氏名
第三号雛形
東京水道会社株式ノ内、第何号株券状何枚何某所有ノ分、今般何某ヘ売渡(又ハ譲渡)候処実正也。然ル上ハ向後右買受(又ハ譲受)人ハ従前所有人カ遵奉スル処ノ諸規則及約定ハ確守可致候。依テ証券如斯。
  年 月 日         住所
                  売渡(又ハ譲渡)人氏名印
                同
                  買受(又ハ譲受)人氏名印
    東京水道会社御中
丁号
    特許ヲ要スル条件
東京水道会社ヲ設立スルニ付、左ノ件々ハ御庁ニ於テ其筋ヘ御協議ノ上、御許可被下候様致度候。
第一 玉川上水ハ沿道住民ニ必要欠ク可カラサル分量ヲ除クノ外、総テ当会社ニ於テ引用シ得ル事。
第二 神田上水ハ当会社ノ工事落成ノ日ヨリ、御庁ニ於テ水門ヲ杜絶セラルヽ事。
第三 神田支流及戸田支流ト称スル玉川上水ノ分水ハ、倶ニ当会社ノ水道工事着手ノ日ヨリ、会社ニ於テ自由ニ開閉シ得ル事。
第四 府下十五区内ノ堀井ニシテ、其水質ノ玉川上水ヨリ劣等ニ属スルモノハ、当会社ノ開業以後飲料トスル事ヲ禁セラルヽ事。
第五 本支管ノ敷地及ヒ其他当会社ノ営業上ニ必要ノ地所及家屋ノ私有ニ属スルモノハ、公用土地買上規則ニ依テ下附セラレ、且一般ノ地租モ亦免除セラルヽ事。但、政府ノ所有ニ係ル土地並建造物ハ、凡テ無代ニテ下附セラルヽ事。
第六 当会社ノ営業場ヨリ最近ノ停車場ヘ社費ヲ以テ鉄道線路ヲ布設
 - 第15巻 p.265 -ページ画像 
シ得ル事。及其布設地ノ私有ニ属スルモノハ、公用土地買上規則ニ依テ下附セラルヽ事。
第七 鉄道線下ヲ横断シテ水道ヲ設敷スルヲ得ル事。及水道線路ヲ横断スル河川及城池ニ石柱又ハ支柱ヲ建設シ得ル事。
第八 事業経営ノ目的ヲ以テ、当会社カ其場所ノ面積及水準ヲ測定スルノ必要アル時ニハ、治安ヲ妨害シ、又ハ他ニ損害ヲ加フルノ憂ナキ以上ハ、何レノ場所ヘモ一時立入ルコトヲ得ル事。但、宮城内ハ此限ニアラス。
第九 政府及地方庁ノ都合ニ依リ、当会社ノ水道線路ノ変換ヲナストキハ、其実費ハ会社ヘ下附セラルヽ事。
第十 当会社ニ対シテハ諸税ヲ免除セラルヽ事。
第十一 当会社ノ営業年間ハ、其払込株金ニ対シ、東京区部会ヨリ年六朱ノ利子ヲ保証セラルヽ事。
丙号
    東京水道給水規則
  第一章 通則
第一条 東京水道用水(以下単ニ用水ト称ス)ヲ別チテ三種トス。
 第一種 飲料・爨炊・洗滌・沐浴等、普通家事用ニ供スルモノ(以下単ニ家事用ト称ス)。
 第二種 家事用ニアラズシテ、商業・製造・洗湯・諸会社・馬匹等ノ用ニ供スルモノ(以下単ニ営業用ト称ス)。
 第三種 官衙・学校・病院・消防・噴水泉・庭池・撒水若クハ前掲ノ外、他ノ諸用ニ供スル者(以下単ニ例外用ト称ス)。
第二条 用水供給ノ方法ヲ分チテ二種トス。
 第一種 水量ヲ計量セズシテ給水スルモノ(以下単ニ放任供給ト称ス)。
 第二種 水料ヲ計量シテ給水スルモノ(以下単ニ計量供給ト称ス)。
第三条 前条給水ノ方法ハ、専ラ消費者ノ撰ニ任スト離《(雖)》トモ、或ル場合ニ於テハ当会社ノ見込ヲ以テ決定スルコトアルベシ。
第四条 用水供給ハ昼夜不断トス。然レトモ火災・早魃・不測ノ起事若クハ水道各部ノ失序等、已ヲ得サル場合ニ於テハ、水量又ハ給水時間ヲ制限スルコトアルヘシ。此場合ニ於テ生スル損失又ハ不便ニ対シ当会社ハ其責ニ任ゼズ。
第五条 配水栓・水弁・防火栓・其地邸宅外ニ係ル水道器具ハ、当会社員ノ外何人タリトモ之ヲ開閉シ、若クハ之ニ触ルヽベカラズ。
第六条 放任供給水ハ、家事用若クハ特ニ指定シタル用途ノ外ニ使用スヘカラス。
  第二章 配水管及量水器
第七条 配水管ノ中、水留栓ヨリ邸宅迄ノ部分ハ、消費者ニ於テ設置及維持シ、其他ノ部分ハ(水留栓ヲ込ム)総テ当会社ニ於テ之ヲ設置及維持スヘシ。
第八条 計量供給ニ係ル配水管ハ、量水器ヨリ流末ノ方長サ三英尺迄ヲ限リ社有トナシ、其以外ハ消費者ニ於テ随意ニ配水ノ装置ヲ為スヲ得ベシ。
 - 第15巻 p.266 -ページ画像 
 但、水道ヲ害スルノ恐アル場合ハ此限リニアラズ。
第九条 放任供給及計量供給ノ配水管ニシテ、修繕・改造・摸様換・増設又ハ撤去ヲ為サント欲スルモノハ、其私有ニ係ルモノト雖トモ、予メ当会社ノ承認ヲ受クヘキモノトス。
第十条 消費者若シ配水管又ハ其他ノ属具ニ異状アルヲ認ムルトキハ其原因ノ何タルヲ問ハズ、速ニ其旨ヲ当会社ヘ報告スベシ。
第十一条 量水器ハ社有ニ属シ、社費ヲ以テ設置及維持シ、借料ヲ徴収シテ消費者ニ貸与スべシ。
第十二条 当会社員ハ配水管若クハ量水器撿査ノ為メ、午前八時ヨリ午後五時ニ至ルノ間、何時ニテモ配水管ノ設ケアル邸宅内ヘ立入ルコトヲ得ヘキモノトス。
第十三条 私有配水管及其属具ノ設置及維持法不行届ニシテ、水道ヲ傷害スル恐レアルトキハ、当会社ハ直ニ充分ノ修繕ヲ消費者ニ為サシムヘシ。若シ消費者ニ於テ之ヲ怠ルトキハ、当会社ハ自カラ工事ヲ執行シ、消費者ヲシテ其費用ヲ負担セシムヘシ。
第十四条 当会社ハ毎月撿査掛ヲ派シテ量水器ヲ点撿シ、消費水量ヲ消費者ニ報告スべシ。若シ量水器其作用ヲ錯リ、水量ヲ定メ難キ時ハ前月分ノ水量ニ準シテ之レヲ定ムルモノトス。
第十五条 消費量水器ノ試験ヲ望ムトキハ、第二十九条《(七)》ニ定ムル手数《(料脱)》ヲ添ヘテ申出ツべシ、当会社ニ於テ試験ノ上、若シ量水器ニ損傷アルヲ発見スル時ハ、前納ノ手数料ヲ返附スベシ。
第十六条 消費者ハ常ニ量水器ヲ保護シ、且外函ニ塵芥ノ入ラサル様注意スベシ。
  第三章 用水ノ供給及工費
第十七条 用水ノ供給ヲ要スル者ハ、第一号ノ書式ニ依リテ当会社ヘ申込ムベシ。
第十八条 当会社ハ前条ノ申込ヲ受クルトキハ、鉛工ヲ派出シ、実地臨撿ノ上、費用予算書ヲ調製シ、此規則書ヲ添ヘテ申込人ヘ送達スべシ。
申込人此送達ニ接スルトキハ、予算費用十分ノ二ト共ニ第二号ノ書面ヲ当会社ヘ差出スヘシ。但申込人ノ都合ニ依リテハ、全額ヲ予納スルモ妨ゲナシ。
第十九条 配水管取付工事竣工ニ至ルトキハ、当会社ハ直チニ工費決算書ヲ申込人ヘ送達スヘシ。
申込人ハ決算書ノ送達ヲ受ケタル翌月ヨリ、毎月分ノ水料ヲ納ムル時工費総額ノ十分ノ一宛ヲ当会社ニ分納スベシ。
第二十条 自家用ノ防火栓ヲ設置セントスル者ハ、当会社ヘ申出、別段ノ約定ヲ取結ブべシ。
第二十一条 当会社ヨリ特別ノ承認ヲ受クルニアラザレハ、自儘ニ厠圊洗滌用ノ為メ導水スルヲ得ス。
第二十二条 消費者其用水供給ノ廃止ヲ要スルトキハ、遅クモ十五日前ニ書面ヲ以テ当会社ニ通知スヘシ。若シ再ビ用水ノ供給ヲ望ムトキハ更ニ第三号ノ書式ニ依リ申込ムベシ。
  第四章 水料
 - 第15巻 p.267 -ページ画像 
第二十三条 家事用ニ供スル用水料ハ、一戸人員十人以下一ケ月ニ付金壱円トス。一戸人員十一人以上ハ十人ヲ増ス毎ニ金六十銭ヲ加フ。
第二十四条 洗湯・旅店・理髪店・飲食店・料理屋・洗濯屋・染物屋・諸会社・諸製造所・牛馬車営業者等ノ如キ、完ク営業ノ為メ計量器ニ由テ供給スル水料ノ割合ハ、一千「ガロン」ニ付金拾銭トス、其一ケ月ノ消費高五万「ガロン」ヲ超過スルトキハ、一千「ガロン」ヲ増ス毎ニ金七銭ヲ加フ。
前項営業用水ヲ放任供給ニ依テ給水スルトキハ、消費者ト約束ノ上、消費高ノ概算ニ基キ、其水量ヲ定ムルモノトス。
第二十五条 「例外用水」ノ水料割合ハ、一千「ガロン」ニ付金弐拾五銭トス。若シ其放任供給ニ依ルトキハ、前条第二項ノ例ニ依ル。
第二十六条 量水器貸料ハ左ノ如シ。
 一、径二分ノ一英寸量水器 一ケ月ニ付金
 一、径八分ノ五英寸同 同金
 一、径四分ノ三英寸同 同金
 一、同 一英寸同 同金
第二十七条 量水器試験手数料ハ左ノ如シ。
 一、径二分ノ一英寸量水器 金
 一、径八分ノ五英寸同 金
 一、同四分ノ三英寸同 金
 一、同 一英寸同 金
第二十八条 放任供給ニ係ル水料ハ、毎月五日迄ニ其月分ヲ前納スヘシ。但、水料ノ計算ハ毎月一日ノ現在員数ニ拠ル。其中途ニ於テ人員ニ異動アルモ水料ハ之ヲ増減セズ。
第二十九条 放任供給ノ場合ニ於テ、十五日前ニ給水ヲ始ムルトキハ全月分、十六日以後ニ係ルモノハ半月分ノ水料ヲ徴収スベシ。又十五日前ニ給水ヲ止ムル場合ニ於テハ、前納金ノ半額ヲ返附シ、其以後ニ係ルモノハ前納金ヲ返附セス。
第三十条 計量供給ニ係ル水料並量水器貸料ハ、毎月五日迄ニ前月分ヲ納附スベシ、若シ中途ニ於テ給水ヲ止ムルトキハ、其水料ヲ五日以内ニ納付スヘシ。
  第五章 違犯者処分
第三十一条 消費者ニ於テ量水器ヲ傷害毀損シタルトキハ、之ヲシテ其価ノ全額ヲ弁償セシム、但天災地変ノ為メ傷害毀損シタルトキハ此限ニアラス。
第三十二条 当会社ハ左記ノ項目ニ該当スル者アルトキ、配水ヲ停止スルコトアルベシ。但第一項第三項ノ場合ニ於テハ、予メ其旨ヲ告知シ、第二項第四項ノ場合ニ於テハ、別ニ告知ニ及バズ直チニ之ヲ施行スルモノトス。
 第一、水道ニ関スル仕払金ヲ指定ノ時限内ニ納付セザル者。
 第二、第十二条ノ場合ニ於テ故ナク当会社員ノ邸宅内ニ立入ルコトヲ拒ミ、若クハ其職務ノ執行ヲ妨グル者。
 第三、故意又ハ不注意ヲ以テ用水ヲ浪費濫用スル者。
 第四、前諸項ノ外此規則ニ違背ノ廉アル者。
 - 第15巻 p.268 -ページ画像 
第三十三条 前条配水ノ停止ハ、違背者ニ於テ其違背ノ廉ヲ改メ、不都合ナキニ至ル迄ハ、決シテ解除セザルモノトス。
此場合ニ於テ当会社ハ、違背者ヨリ前納ノ金員アルモ、之ヲ留置、並ニ該停止ノ日迄ノ諸料金ヲ取立ルコトアルベシ。
第一号書式
 東京何区何町何番地ニ有之家屋ヘ今般配水相受度候ニ付テハ、配水管布設費用調査被成下度、尤モ其位置等ハ其節陳述可致候也。
                   住所
                     何 某印
    東京水道会社御中
第二号書式
 東京何区何町何番地ニ有之家屋ヘ配水管布設ノ費用予算書並規則書御送附被下、御通報之趣承知致候。就テハ右予算高十分ノ二即金何円封入差上候間、御落掌被下度候。将タ配水管落成ノ上ハ、御規則第二十条ニ拠リ、工費未済額月額上納可致候。且同家屋ヘ給水ニ付テハ、東京水道ニ関スル諸規則渾テ遵守可致候也。
  年 月 日            住所
                     何 某印
    東京水道会社御中
第三号書式
 東京何区何町何番地ニ有之候家屋ヘ接続ノ配水管ヘ、明治 年 月 日以降用水配送相成度、然ル上ハ同家屋給水ニ付テハ、東京水道ニ関スル諸規則渾テ遵守可致候也。
  年 月 日              住所
                        何 某
    東京水道会社御中
丙号
    東京水道共用栓規則
第一条 共用栓ハ衆人ノ共用ニ供フル用水汲取ノ装置ニシテ、一家専用ノ給水装置ヲ為シ能ハザルモノヽ家事用ニ供フル為メ設クルモノトス。
第二条 共用栓ハ東京水道会社ニ於テ社費ヲ以テ、市内ノ公道ニ装置シ、又ハ差配人ノ請求ニ依リ、其費用ヲ以テ私有地内ニ装置スルモノトス。
第三条 差配人前条ニ依テ其私有地内ニ共用栓ノ装置ヲ望ムトキハ、別紙甲号書式ニ依リ、会社ニ通知シ、装置費ノ予算書ニ従テ、其全額ヲ予納スヘシ。
第四条 公道ノ共用栓ヲ使用セント欲スル者ハ、相合シテ組合ヲ設ケ連署ヲ以テ別紙乙号書式ニ依リ、会社ニ申出、承認状ヲ受クベシ。
第五条 共用栓使用者に異動アリテ、其数制限以外ニ増減セシトキハ即時其惣代人(私有地内ノ共用栓ニ係ルトキハ差配人)ヨリ、別紙丙号書式ニヨリ、会社ヘ通知スヘシ。
第六条 公道共用栓使用者ノ組合、十五戸以下ナルトキハ、惣代人壱名、其十五戸以上ナルトキハ、惣代人弐名ヲ該組合中ヨリ撰定シ、予
 - 第15巻 p.269 -ページ画像 
メ其姓名ヲ水道会社ヘ通知シ置クヘシ、其惣代人ニ交迭アルトキモ亦同シ。
第七条 惣代人又ハ差配人ハ、其組合中ノ水料ヲ取纏メ、之レヲ会社ニ支払フ等都テ共用栓使用上ニ関スル一切ノ事ヲ負担スルモノトス。
第八条 共用栓一個ニ依リ供給スル用水水料ノ割合ハ左ノ如シ。
一、十五戸以下共用スルモノ 一ケ月 金九拾銭
一、十五戸以上弐十五戸以下共用スルモノ 同 金壱円四十銭
一、弐十五戸以上ハ十戸ヲ増ス毎ニ金四拾銭ヲ加フ。
第九条 水料ハ毎月一日ノ現在戸数ニ依リ計算シ、翌月五日迄ニ会社ヘ払込ム可シ。
第十条 十五戸以上ノ共用栓ニシテ、其使用者使用制限ニ対スル過半数ヲ減少シタルトキハ、毎月一日ノ現在数ニ依リ、第八条ノ割合ニ準シテ其水料ヲ逓減ス可シ。
第十一条 共用栓ノ使用ヲ始ムル時、十五日以前ナルトキハ、其月全月分、十六日以後ニ係ルトキハ半月分ノ水料ヲ、其使用ヲ始メタル日ヨリ五日以内ニ会社ヘ支払フベシ。
第十二条 共用栓ノ使用ヲ止メント欲スル者ハ、其旨三日以前ニ会社ニ通知スルヲ要ス、其水料仕払ノ割合ハ、惣テ前条ノ例ニ拠ルモノトス。
甲号書式
    共用栓設置ノ件
 一、何戸以下共用栓
 右共用栓私差配地東京何区何町何番地ヘ新設、給水御依頼致度候ニ就テハ、御規則遵守可致候間、可然御取計被成下度候也。
  但、使用者ハ誰々総テ何名ニ候也。
  年 月 日             住所
                      姓名 印
    東京水道会社御中
乙号書式
    東京水道共用栓使用ノ件
 一、何戸以下共用栓
 右共用栓私共何名ニテ使用致度、就テハ御規則遵守可致ハ勿論、使用中ハ何某ヲ総代人ト相定メ置、水料仕払其他使用上ノ事ハ、右総代人ニテ総テ処弁可致、若シ右総代人ニ事故有之候節ハ、更ニ総代人ヲ定メ、御通知申候。此段連署ヲ以テ及御依頼候也。
          住所        住所
  年 月 日
            姓名 印      姓名 印
    東京水道会社御中
丙号書式
    東京水道共用栓使用者増減ノ件
 一、何戸以下共用栓
 右共用栓何某外何名ニテ使用致居候処、本月何日限リ、何某加入ノ為メ、使用制限以上ニ増加(過半数減少セシトキハ其旨記入スルコト)候間、此段及御通知候也。
 - 第15巻 p.270 -ページ画像 
                    住所
  年 月 日
                   惣代人 姓名 印
    東京水道会社御中
    東京水道報告書
貴下余ニ諮ルニ当大都府ノ為メ、当世風ノ水道敷設ノ事ヲ以テス、是レ誠ニ重大ノ工事ナリ。則チ東京府下ハ十五区ヨリ成立シ、二十四平方英哩ノ面積ヲ蓋包シ(墨田川ヲ除キ凡ソ日本四方里)市街及道路ノ延長ハ四百七十三英哩(日本百九十二・七里)ニシテ、千八百八十六年十二月三十一日ノ人口ハ、百十五万五百三十(一時滞留者トモニ)、戸数ハ二十七万八千七百ナリ、当府面積ニ比シ、人口配分数ハ千八百八十一年英国竜動府公会議定境界内《バーレメンタリーバウンダリー》ノ「シチー」区及「メトロポーリス」区ノ平均人口配分数ト大略相同シ、則チ面積ニ対スル人口ノ割合ハ、一平方「エカル」ニ七十五人即チ各十六坪ニ一人ノ割ナリ。水道敷設ニ関シ東京ハ重要ナル一事ニ付、大ニ便利ノコトアリ、則チ多少遠隔セル水源ヨリ、府下近傍ニ水ヲ導クノ費用ハ、貴下ノ事業ニ於テ之ヲ要セサルノ一事是ナリ。此費用タル他ノ水道工事中ニアツテハ多額ヲ占メ、全費ノ過半ヲ要スルコトモアリ、当府ノ至極接近地ニ於テ、已ニ使用ニ堪ヘル夥多ノ良水二ケ所ニアリ、一ツハ西辺ナル四ツ谷大木戸ニシテ、他ハ小石川区ノ西北境ニアル関口町是ナリ、第一ハ多摩川辺上ニアル羽村ヨリ無蓋運河《ヲープン》ニ依テ来ル、此運河ハ承応二年即チ二百三十五年以前、徳川将軍ノ時代堀設セシモノニシテ、頗ル巧妙ニ出来セシモノニシテ、玉川上水ト呼ヒ、羽村入水場ヨリ四ツ谷大木戸ノ終尾迄、延長凡二十七・五英哩ナリ。其平均勾配ハ一哩ニ付一〇・八八呎ニシテ余カ調査スル処ニ依レハ、季節ニヨリ一秒時間凡百四十立方呎乃至三十立方呎ノ水量ヲ運フモノトス。第二ノ導水渠モ又運河ニシテ、多摩川上水路ト同時代ニ敷設セシモノナリ、其水ハ武蔵国中ニ在ル三箇ノ噴水池ヨリ供給シ、又玉川上水ノ一支流ヨリモ多ク流入ルモノナリ、其長ハ十四哩、平均勾配一哩ニ付凡九・七呎ナリ。而シテ東京府技師ノ言ニヨレハ、関口ニ於ル其平均水量ハ、一秒時間百〇七立方呎ニシテ、此四分ノ一ハ水道用ニ充テ、其残余ハ両国橋ニ於テ隈田川《(隅田川)》ニ流入ス、是レ所謂江戸川ナリ。此二水ハ已ニ延長一百哩ノ木管ニヨリテ、東京ノ大部分ニ配水スト雖トモ、其使用ハ何レモ輿論ノ非トスル所ナリ。如斯管ハ阻水ノ力アルモノハ稀有ニシテ、速ニ腐朽スルモノナリ。而シテ管内ノ水ト管外ノ汚水ノ交通ニヨリ、管内進行ノ水分ヲ汚穢ニスルモノナリ、此事タル市中木管ニ従フテ順次ニ進行シ、管内ノ水ヲ採リテ之レヲ多ク分析セルヲ以テ善ク確定セリ、此分析ノ結果ニヨリテ見ルトキハ、汚穢ノ増加ハ水分ノ進行ニ従フモノナリ。
神田上水ハ玉川上水ニ比シテ、其清浄只少シク劣レルノミ、敢テ差支ナシト雖トモ、玉川上水ノ位置、其神田上水ニ比シ、遥カニ高キヲ以テ、東京水道ニハ玉川上水ヲ用ユル大ニ便利ナリトス。即神田上水ハ関口ニ於テ霊厳島平均干水面ヨリ高キコト只二十二呎ナレトモ、玉川上水ハ四ツ谷大木戸ニ於テ該基点ヨリ高キコト凡ソ百〇九呎ナリ、其差八十七呎、是レ甚タ緊要ナルモノニシテ、玉川上水ノ量現今及将来ニ於テ、東京水道ノ需用ニ充分ナレハ、該上水ヲ以テ水道用ニ供スル
 - 第15巻 p.271 -ページ画像 
至当ナルコト明カナリ。下条ニ於テ示ス如ク、玉川上水水量ハ、此回新工事ノ為メニハ充分ナレハ、今後神田上水ヲ以テ水道ノ水源トシ論及セサルヘシ。
偖前述ノ序言ヲ終ヘタレハ、本論ニ立入ルヘシ。併シ此本論ヲ講スルニハ、目下全備セル報告図面及計算ハ後ニ譲リ、貴下ノ希望スル新工事ノ綱領ヲ明解スルニ足ルヘキ概略ノ設計・予算及略図ヲ以テ貴下ニ奉呈スヘシ。
    第一章 設置スヘキ工事ノ性質
水道工事ハ当時流行スル最良ノ原理ニ基キテ敷設シ、公私万般ノ需用ニ余裕アル水量ヲ給シテ、其十五区ノ境内ニ行渡リ、火災ノ時ニ於テ其水量ヲ利用シテ、高所マテ勢強キ噴水ヲ注射セシメンカ為メ、其圧力ハ最高ナル家屋ノ最高階ニ給スルニ足ル充分ナル圧力ヨリハ尚強キ圧力ヲ要スルコト、又其供給方ハ所謂不断法《コンスタントシステム》ナルモノニシテ、昼夜ヲ論ゼズ、何時ニテモ東京市中ニ流ルベク、彼ノ冗費タル世間一般ニ非譏スル所謂間断法《イントルミツテントシステム》ニテ、東京中不断給水ヲ得サルモノニアラサルコト、是レ貴下ノ希望スル所タルハ余ノ理得スル所ナリ。
    第二章 需用水ノ分量
需用水量ヲ考究スルハ、元ヨリ第一ノ問題タリ、而シテ此ノ水量ハ二因ヨリ起ルモノニシテ、第一因ハ需用人口数ニシテ、第二因ハ一箇人ノ消費スル水量ナリ。千八百八十八年《(六)》(明治十九年)十二月三十一日マテ六年間ノ統計報告表ニ依リテ、十五区ノ人口(一時滞留者共)ハ左ノ如シ。

図表を画像で表示--

 統計年月日           人口             増加 千八百八十一年十二月卅一日   八十七万六千二百二十九 千八百八十二年十二月卅一日   八十八万五千四百四十五      九千二百十六 千八百八十三年十二月卅一日   九十一万八千七百九十六   三万三千三百五十一 千八百八十四年十二月卅一日   九十一万八千七百九十八           二 千八百八十五年十二月卅一日   九十九万九千〇二十三      八万二百二十五 千八百八十六年十二月卅一日   百十五万五百三十        十五万千五百七 



此表ヲ一見スレハ、到底其信スヘカラサルコト明カナリ。余ハ又統計院ノ証言ヲ聞クニ、千八百八十五年以前ノ統計法ハ、敢テ信スヘカラス、而シテ終リ二年間ノ総額ニ於テ見ル夥多ナル増加ハ、職トシテ統計法ノ改良ニヨルモノトセリ。当今ノ法ハ至当ノモノナルヲ以テ、千八百八十六年十二月卅一日ノ統計ハ、真ニ確定シタルヲ以テ信ヲ置クニ足ルヘシト云フ。
偖之ヲ確実ノモノトシテ、次キニ考究スヘキモノハ、信拠スヘキ人口増加ノ割合ト、一定ノ年限ニ相当スル人口制限ヲ固定スルコトナリ。
此事タル新工事ノ範囲及其拡張法ヲ意匠スルニ当リ、始終心ニ銘スヘキモノナリ。斯ル場合ニ於テハ平常三十年間ヲ定度トス。然レトモ不幸ニモ統計表ハ信拠スヘキ人口増加ノ割合ヲ算出スルニ必用ナル材料ヲ示サス、前表ハ兎モ角前年ノ表ニハ十五万ノ不足アリテ、五年間ノ真ノ増加ハ、凡ソ十二万四千ナルヘシ。即チ一年ニ付二万五千程ナルヘシ。是ハ英国竜動ノ増加ト殆ント同比較ナリ。竜動ノ人口ハ凡ソ東京ノ四倍ニシテ、其一年ノ増加ハ殆ント七万人ナリ。東京ノ人口ハ向
 - 第15巻 p.272 -ページ画像 
フ三十ケ年ニ二百万人ニ達スヘシトノ説ヲ貴下ヨリ承レリ、此ノ説ニハ余モ同意ナリト雖トモ、客月三十一日人口表ヲ承知スルヲ得ハ、此問題ニ付尚今余輩ノ好参考トナルヘシ。目下余ハ水道工事ヲ仮リニ設計スルニ於テハ、千九百十六年ノ終迄ニハ二百万ノ人口ニ昇達スルモノト仮定スヘシ。其割合ヲ以テ計算セハ、千八百九十三年ノ終迄ニハ人口ハ殆ント百三十三万三千三百三十三ニ達スヘキヲ認ムヘシ。今後一年ヲ経テ該工事ニ取掛レハ、千八百九十一年ノ終リニ開業スルヲ得ヘシ、故ニ当初ヨリ真ニ百三十三万三千三百三十三ノ人口ニ対シテ用意セハ、開業後第三年目迄ニハ事業ヲ拡張スルニ及ハス、然レトモ其第三年目ヨリ第二十五年目ノ終リ迄ニハ(則チ二十三年間)百三十三万三千三百三十三ヨリ二百万ニ達スル漸々増加ニ対シテ用意セサルヘカラス、是レ正ニ五割ノ増殖ナリ。
次キニ一個人需用水量ニ付、公私百般ノ需用ニ対シ、尚船ニ宿泊スルモノヽ需用ヲモ込メ、一人ニ付一日二十英「ガルロン」ノ最大平均量ヲ余ハ貴下ニ勧告シ、貴下モ亦是ニ同意ヲ表セリ。余ノ此勧告ハ経済ニシテ善ク整頓シタル水道工事ノ最近ノ形状ニ照ラシ、稍広遠ナル知識ト実験トニ基クモノナリ。余ハ一言セン、消費額ノ旧統計表ハ、現今実際不用ニ属セリ、近年ノ器具及其研究ハ、現今ノ水工技師ヲシテ大ニ旧想ヲ変化セシメタリ。過去ノ水事ニ於テハ、有心或ハ過チテ妄冗ニ消費セシ水量アリテ、而シテ此無用ニ捨テシ水量ハ、全消費高ノ大部分ヲ占メ、少ナクモ三分ノ一ハ妄用セシモ、簡易ナル器具ト正当ナル取締法ニテ、殆ント之ヲ拒クヲ得ルコトヲ近来発見セリ。故ニ余ハ確信ス、一人一日ニ付二十「ガルロン」ハ、東京府下ニ於テ頗ル充分ナル平均最高量ナルコトヲ、而シテ余ハ又一言ヲ加フヘシ、則チ過ル二ケ月間横浜新水道工事ノ水量撿測ハ、余カ此説ヲシテ誣言ナラサルヲ充分ニ証明セリ、則チ横浜ニ於テ冬期中一人一日ニ付、其消費高ハ十六「ガルロン」ヲ越ユルコト稀レナレハナリ。
水ノ需用ハ下項ノ如ク之ヲ区別シ、一日ノ平均量ヲ附加スレハ、則チ左ノ如シ。但英「ガルロン」ヲ以テ水量ヲ示ス。
                   ガルロン
 家内用(最モ充分ナル算当ナリ)    八、
 公私ノ浴湯用             七、
 商用及製造用             一、五
 防火用及公共用            一、五
 総テ妄用ニ属スルモノ         一、
 夏期中別段ノ消費量          一、
 最大全量              二十、
前顕浴湯用七「ガルロン」ハ、余カ横浜ニ於テ同港市民ノ公私ノ温湯高ニ付キ、深ク研究シテ得タル数ナリ。
然ラハ余輩ハ当初ヨリ百三十三万三千三百三十三ノ人口ニ対シ、一人二十「ガルロン」ノ水量ヲ供シ、而シテ成ルヘク丈ケ経済ノ点ニ注目シテ、二百万人口ニ対シ、一人一日ニ付キ二十「ガルロン」ノ制限マテ拡張シ得ル様水道工事ヲ設計スヘシ。
 第一ノ場合ニ於テハ一秒毎ニ四九・五立方呎ノ水量ヲ要ス。
 第二ノ場合ニ於テハ一秒毎ニ七四・二五立方呎ヲ要ス。
 - 第15巻 p.273 -ページ画像 
    第三章 水源ノ事
余ハ已ニ序論ニ於テ、玉川上水ハ水道用トシテ用ユルニ足ルヘキコトヲ陳述セリ。此陳述ヲ確定スル為メニ、該上水ハ前川ノ水量ニ勝ル供給ニ堪ユルコトヲ述ヘサルヘカラス、則チ左ノ如シ。
 東京府下供給用       一秒時毎ニ七四・二五立方呎
 此ニ加フルニ濠中流通ノ為メ充分ナル水量ヲ供ヒサルヘカラス則チ先ツ 同 五・七五立方呎
  総計           同    八〇・〇〇立方呎
目下ノ形況ニテハ、玉川上水ノ四ツ谷大木戸ニ達スル最少量ハ、一秒時毎ニ三十立方呎トス。四ツ谷ニ於テ流水ノ此少量ニ減スル時季ニ二種アリ、第一ハ年中最モ乾燥ノ時ニ於テシ、第二ハ羽村ニ於テ玉川上水ニ入ル水量ハ極減少ノ時ヨリ多少余分ナレトモ、上水路ニ沿フタル所ニ於テ、田地灌漑及其他ノ為メ抜去スル所ノ水量、平時ヨリ大ニ超過スル時ニ於テスル是ナリ。即チ羽村及四ツ谷間ニ斯ノ如キ場所十九箇アリテ、其該所ニ於テ抜取スル水量ハ、平均一秒時間毎ニ一立方呎以内乃至六十六立方呎ノ間ナリ。此等支流中二箇ノモノハ、当時利用スル土民ノ利水権ヲ害スルコトナク、全ク此回新水道ニ用ユルヲ得ル則チ一ハ曩ニ述ヘシ神田上水ノ支流、其二ハ千川上水ト呼ハレタルモノ是ナリ。而シテ此二支流ハ、目今水道用ニ充テ、東京下部ニ供スルモノナレハ、此回新事業ヲ開ク時ニ於テハ、最早不用ナルモノナリ。玆ニ又第三ノ少ナル水車仕掛ノ支流アリテ、若干面積ノ地ニ給水ス、此事ニ付後章之レヲ論スヘシ、其名ヲ戸田支水ト云ヒ、余ハ此支水ヲ新事業ノ為メ買上ヲ勧告スルモノナリ。此等三支流ヨリ得ル別段ノ水量ハ、最少ノ見積リニテモ一秒時毎ニ三十七立方呎ヲ得ヘシ。而シテ此三十七立方呎ヲ現今四ツ谷大木戸ニ達スル一秒時毎ニ三十立方呎ノ最少量ニ附加スヘシ。
 爰ニ陳述スルコトハ余ノ為メニ必要トス、現今東京府技師ノ手ニアル玉川神田両上水ノ水量調ハ、至極不完全ナリ、因テ余ハ可ナリノ憑拠且之ヲ助クルニ余ノ自ラ実地上ノ検査ヲ以テシタレハ、玉川上水及其支流ノ前出計算ハ、先ツ信ニ近シト思ヘリ。最モ爰ニ新事業ヲ起行スルニ於テハ、直ニ第一着手スヘキモノハ、毎季節ニ玉川上水ノ諸点ニ於テ、其全水量ヲ精細測定スルモノナリ。
然ラハ余輩ハ一秒時毎ニ六十七立方呎ヲ容易ニ利用シ得ヘキモノトス此水量ハ一人百二十「ガルロン」ノ割合ニテ、百六十五万ノ人口ニ供シ、併セテ濠渠流通用ニ給シテ充分ナルモノナリ。
 百六十五万人ニ付       一秒時毎ニ六一・二五立方呎
 濠渠流通用          同    五・七五立方呎
   合計              六十七立方呎
之レヲ詳言スレハ、人口ノ増加シテ百六十五万ヲ超過スル迄ハ、水量ノ増加ヲ講スルニ及ハス、前出ノ水量ニテ充分ナリトス。而シテ此百六十五万以上ノ増加ヲ見ルハ、千九百五年頃ヨリ以前ニハ非サルヘシ即チ開業後十三年或ハ十四年後ナルヘシ。
偖千九百五年後人口ノ増加シテ百六十五万ヲ超過スル後ハ、多摩川水源ハ如何アルヘキヤヲ考究スルヲ要ス。予定ノ二百万人口ニ対シテ要スル水量ノ増加ハ、六十七ト八十ノ差異、即チ一秒時十三立方呎ナリ
 - 第15巻 p.274 -ページ画像 
トス。兎モ角余ハ該水源ハ此目的ニ向テモ充分ナルコトハ疑ハサルナリ。然ト雖トモ供給増加ノ時ニ当テ、水源ハ如何ニシテ、又如何ナル方法ヲ以テ、該水源ヲ利用シ得ヘキヤ、余ハ今云フ能ハス、勿論此一秒時十三立方呎ノ増加ヲ得ルニハ、現今諸処ノ支流ニ於テ引去ル水量ヲ減少セサルヘカラス。兎ニ角一年乾燥ノ時ニ於テ、羽村流入水量ノ現時ノ量額ヲ越ユル能ハサル時ニ、此計画ヲ施行セサルヘカラス。此引去ル処ノ水量ハ、重モニ郷村ニ供給シ、水車或ハ灌漑ニ用ユルモノナリ。余ノ東京府ヨリ得タル不完全ナル水量調ヘニ依レハ、四ツ谷ノ最少量ハ一秒時三十立方呎ノ時ニ於テシ、又余カ新工事ニ使用セントシテ陳述セシ三支流ノ最少量一秒時三十七立方呎ナル時ニ於テハ、其他十三支流ノ為メ引去ラルヽ最少量ハ、多分一秒時百九十二立方呎ナルヘシ(是ハ年中乾燥ノ時ノ事ナリ。他時ニ於テハ彼ノ支流ニテ引去ル水量ハ、此水量ヨリハ大ニ超過スルコトアルヘシ、而シテ屡々超過ス)。然リ而シテ一秒時八十立方呎ノ最大量ヲ得ルニハ、此一秒時百九十二立方呎ノ内、只十三立方呎ヲ要スル而已、即チ其十五分ノ一ナリ。偖此ノ多摩川上水ノ一秒時百九十二立方呎ハ、必ス其大部分ヲ妄用ニ損失シ、余カ実地見分ノ上思案スル処ニヨレハ、学理上及経済上ニ基キテ、其水ヲ支配シタランニハ、其大部分ノ損失ニ属スルモノヲ利用シ得ルハ、余カ心ニ於テ信スル処ナリ。余ノ此陳述ヲ精細ニ確定スルニハ、心ヲ尽シテ手数ナル研究ヲ為サヽレハ能ハス、如斯研究ハ其時ニ当テ、敏達ナル日本技師諸氏ヲシテ従事セシメサルヘカラス若シ然カスルトキハ此等ノ技師ハ土民ノ正当ナル需用ヲ妨害セスシテ現今ノ放恣ナル方法ニテ引用スル全量ノ十五分ノ一ヲ大ニ超過スル水量ヲ新工事ニ必用トシテ得ルコトハ難カラサルヘキヲ見出スヘシト確信ス。余ノ所説ニハ比等技師ハ、此等ノ支流ニ於テ各給スヘキノ最少量ヲ定限スル為メ、簡易ニシテ且廉ナル制水器ナルモノヲ用ヒナハ、其結果ハ貴下及関係諸氏ニ満足ヲ与フルヲ見出スヘシ。然ルトキハ此等ノ技師ハ、田地灌漑用ノ外、村落用及水車用水ヲ減省スル点ニ自カラ第一ニ注意ヲ引起スヘシ。当今鄙村ヲ通過スル美麗ナル玉川上水々量ハ、村人ノ需用ヨリ大ナルコト十倍ナルハ論ヲ俟タス、余ハ又水車用水モ過大放恣ニシテ、水車所有者ヲ害セスシテ、貴下ノ必用トスル減水ヨリモ尚減省スルヲ得ヘシト信ス。然レトモ田地灌漑用水ハ、村落用水又ハ水車用水ノ如ク、大ニ減省シ得ルヤ否ヤノ点ニ付テハ、余ハ未タ知ル能ハス 田地灌漑用水減省ハ、若シ其為メ損害要償ヲ保証シ、之ヲ請求スルニ至テハ巨額ノ出金ヲ要セストモ云ヒ難シ、此要償金額ハ水田地ト畑地ノ直段ノ差額ヨリ少ナカラサルヘシ、先ツ一坪毎ニ拾三銭即チ一町毎ニ四百六十八円ナリ。然ラハ一秒時毎ニ一立方呎ノ水量ハ、田地三十三町ノ灌漑ニ必用トセハ、一秒時毎ニ一立方呎ノ減省水量ハ少ナクトモ一万五千四百四十四円ノ要償金ニ相当ス。
然ト雖トモ余ノ前述セシ如ク、必需ノ時ニ当テ田地灌漑水ヲ減省セスシテ、支流ノ口ヨリ充分ナル水量ヲ減却シ得ルコト、而シテ若又幾分カ費用ヲ要スル場合ニ至ルモ、要償金額ノ些少ニ事足ルハ、余ノ充分ニ保証スル処ナリ。
玆ニ一秒時十三立方呎ノ水量ノ論点ニ付、焦慮ヲ減少スヘキ第二ノ重
 - 第15巻 p.275 -ページ画像 
要ナル事アリ、左ニ申述スヘシ。
 第一。余ハ保安ノ為メニ二十「ガルロン」ヲ一日ノ消量ト称シタレトモ、余ノ思考ニハ十七「ガルロン」ニテ充分ナリトス、然ルトキハ人口増加シテ二百万ニ達スルトモ、一秒時十三立方呎ノ別段水量ヲ要スルニ及ハス、貴下ニハ一秒時一・九立方呎ヲ得ハ可ナリ、是レ大ニ論題ヲシテ容易ナラシムルナリ。
 第二。一秒時八十立方呎水量中ニ包括セル一秒時毎ニ五・七五ノ水量ハ、東京濠渠流通ノ為メナリト雖トモ、該渠ハ別段水量ノ幾分ヲ要スル以前、全ク或ハ幾分カ埋立ニナルコトアルヘシ、然ルトキハ通常給水ニ幾分カノ水量ノ増加ヲ見ルノ理ナリ。
 第三。稲田ヲ変シテ桑茶或ハ其他畑地トナスハ、近世人気ノ向フ所ナルハ信スルニ足レリ、何ントナレハ稲田耕作ハ日本農業貧民上ニ鄙劣ナル結果ヲ呈シ、競争シテ品行及智育ヲ高尚ナラシムルコトヲ務ムル此世紀ノ傾向ニ相反スレハナリ。
然ラハ困難ヲ感セス、且ツハ巨大ナル出費ヲ要セスシテ、人口二百万或ハ二百万ヲ超過スル頗ル大数ニテモ、玉川上水ノ水量ヲ以テ供給ニ足ルハ、敢テ配慮スルニ及ハス。仮令前述セシ余ノ処論其当ヲ得サルモ、必要ノ場合ニ於テハ、関口ニ於テ、神田上水ヨリ給水ヲ得ヘシ。而シテ尚江戸川流通ニハ余裕ナル水量アリ、若シ此策ノ施行ヲ必要トセハ、神田上水ヲ以テ玉川上水ヲ補助スルノ法ハ、玉川上水量ノ夥多ナル時ニ於テ、該上水線路ニ於テ数箇ノ大貯水池ヲ設立スルノ法ヨリモ寧ロ採用スヘキモノナリ。然レトモ、此論点ニ付テハ、該上水及其支流ノ流動ニ付、精密ナル測定ヲ得ル迄ハ余ハ請フ明言セサルヘシ。余ハ少クモ百六十五万或ハ二百万ニ近キ人口ニ直チニ供給シ得ル充分ナル水量ヲ得、而シテ此二百万人ニ達スル後ハ、前述ノ諸方法ニ依リテ其一ヲ取リ、以テ其水ヲ増加シ能フコトヲ証明スレハ、目下ノ処ニテハ足レリトス。
    第四章 水質
玉川上水ニヨツテ四ツ谷ニ来ル水ノ甚タ良質ナルコトハ、信拠スヘキ数箇ノ分析ヲ相対照シテ確定セリ。此上水ハ著明ナル良水中最上位ヲ占ムヘキモノトスルモ敢テ過誉ニアラス。其原質ニ於テ水中浮泛スル固形物ハ甚タ僅少ニ、至極無灰質ニシテ、百般ノ家用ニ当リ、清浄並ニ健康ヲ来ス、茶用・料理用・染物用・洗濯用・醸造用、及其他種々ノ製造ニ用ヒテ、無灰水ハ有灰水ヨリ大ニ勝レリトス。
次ノ表ハ種々ノ水質ノ混合物分量ヲ示シ、良悪ヲ一覧ノ下ニ明カニスルモノナリ。

図表を画像で表示--

 水量十万分ニ付 水之質              固形物   クロリン      アンモニア         有機物ヲ酸化スルニ必用ノ酸素  分析者                              フリー    アルビユメノイト 羽村ニテ玉川ノ水         七、三〇  〇、八八      〇      〇       〇、一〇〇          コルスケルト 四谷大木戸ニテ玉川ノ水      六、二一  〇、七八      〇      〇       〇、一二〇          前同人 麹町五丁目ニテ玉川ノ水      六、〇五  〇、六五  、〇〇二八  、〇〇三六       〇、〇九〇          アトキンソン  以下p.276 ページ画像  「グラスゴー」ニテ        三、八三  〇、七六  、〇〇四三 〇、一四三        記載之レナシ         ヴヲエルカルン 「ロフカタリン」水 前同断              三、二八  〇、七六  、〇〇〇四  、〇〇八〇       〇、〇三一          フンノンクランド マンチエスタル          六、八〇  〇、九〇  、〇〇一〇  、〇〇六〇       〇、〇〇一          前同人 (竜動)(テームス)河水家用時 三〇、九四  一、七〇  、〇〇一五  、〇一〇五       〇、三四六          前同人 (竜動)「ニユリバー」水    三〇、二〇  一、五七  、〇〇一二  、〇〇七〇       〇、三六一          前同人 チント会社(竜動)       四四、八〇     ―  、〇〇一〇  、〇〇二〇       〇、四〇八          前同人 ラスト(竜動)         三六、〇〇     ―  、〇〇一七 〇、一〇三        〇、三〇七          前同人 関口ニテ神田ノ水         六、五〇  〇、九八  痕迹    痕迹           〇、〇五〇          コルスケルト 前同断              九、八〇  〇、七九  、〇〇六〇  、〇一二一       〇、〇八一          アトキンソン 



此表ニヨリテ之ヲ観レハ、玉川ノ水分中ニ先ツ嫌悪スヘキ物体ナキコト、該水ハ「マンチエスター」及「グラスゴー」ニ供給セル如キ用水ト同等ニ位スヘキコト、神田上水ヨリハ寧ロ善良ナルコト、而シテ竜動ノ諸用水ヨリハ大ニ勝ルコトヲ見ルヘシ。コルスケルト氏ノ羽村及ヒ四ツ谷ニ於テノ玉川上水ノ分析ニ依レハ、該水ハ東京ニ達スル流通中、聊カ清ラキシモノナリ。同氏分析シタル水ハ、羽村ニテ得タル半日ノ後ニ、四ツ谷ニテ得タルモノナリ。此水ハ流ルヽニ従テ自ラ清浄トナルモノナルコトト、而シテ玉川上水ハ他ヨリ給水又ハ下水ノ汚穢ヲ受ケサルニ依ルモノナリ、然リト雖トモ上水ハ東京ニ於テ給スル前ニ濾清セサルヘカラス、且ツ沈澄法ヲ施行スルヲ良トス。何ントナレハ他ノ日本河川ト同シク強雨ノ節ハ、大ニ混濁スレハナリ。余カ東京水道工事ニ関係セシ以来、未タ四ツ谷ニ達スル上水ノ混濁ノ度ヲ自ラ撿スル時宜ナカリシ。当今ノ水道工事ヲ管理スル東京府技師倉田吉嗣氏ノ通知スル所ニヨレハ、該上水ハ折々甚タ混濁シ、而シテ混濁ノ度ハ沈澄法ヲ必要トスト。夫故余ハ此略目論見ニ於テ濾過法ヲ備フルノミナラス、又適宜ナル沈澄法ヲ設クヘシ。目下ノ計画ハ将来ノ経験ニヨリ、変更スル所アルヘキカモ計リ難タケレトモ、此報告書中ニ於テハ水ノ濾過床ニ達スル前ニ、十八時間純静ニ沈澄スルコトヲ計算スルモノナリ。余ハ今順序ヲ追テ種々必要ノ工事ヲ説明スヘシ。
    第五章 引水場及運河
現今玉川羽村ニ於テ設置シアル引水工事ハ、新工事ニ適スヘキ充分ニ堅牢即チ永久ノモノニ非ルナリ、此引水工事ハ左ノ部分ヨリ成立ス。
 第一、流水ヲ引水場ヘ転向センカ為メニ、該河ノ岸ヨリ突出スル長サ五十「ヤルド」ノ粗製ナル木堰。
 第二、流ニ沿フテ斜ニ引水場ニ向ヒ、対岸ノ高地マテ凡ソ四分ノ三距離ノ処ヨリ起ル蛇籠、此長サ三百五十「ヤルド」ナリ。
 第三、本流ヲ横キツテ材木・粗朶、及砂利ヲ以テ建築シ、其状漁師ノ堰ノ如シ、而シテ此堰ヲ強固ニスル為メ四箇併列シ、堅牢ニ組立タル木製ノ水刎アリ、而シテ此水刎ハ石ヲ用ヒテ重シトナシ、而シテ其働キハ堰ノ木材ヲ負持シテ、抂壁即チ柱トナルモノナリ、而シテ其堰ハ長サ四十五「ヤルド」アリテ其下部ニ於テ堰ニ接続ス。
 第四、此堰ハ木製ノ水門堰ニシテ、石塊ヲ以テ其重シトシ、運河則チ上水ノ水頭ナリ、而シテ其方向ハ河岸ニ正角将タ殆ント正角ヲナス。
 - 第15巻 p.277 -ページ画像 
 第五、運河ヲ下ルコト凡ソ五十「ヤルド」ニシテ、石造ノ第二水門堰アリ、此レハ前木製水門堰損害ノ時ノ用意ニ備フルモノナリ。
第二堰ノ面ハ通常洪水ノ水準ヨリ高キコト凡ソ一呎ナリトス。然レトモ在勤役人説ク処ニヨレハ、千八百八十四年九月及千八百八十五年七月ノ如キ大水ノ時ニ於テハ此堰ヲ踰ユルコト凡ソ一呎半ナリト云フ。此堰ハ該河ノ出水スル時ニ当テ、甚タ破害シ易ク、実際ノ経験ニ依レハ、蛇籠ノ第一段ハ、毎年ノ修理ヲ要シ、第二段ハ毎二ケ年更換ヲ要スルモノトス。然レトモ、第二段以下ハ尚久シキニ堪ユルコトヲ得ヘシ。尤モ大洪水ノ節ハ、時トシテ破損スルコトアリテ、其広キ六十呎ナル摧ケ目ヲ生シタルコトモアリキ。蛇籠ヨリ下而シテ河床ノ下則チ堰ノ天場ヨリ以下、凡ソ五呎半ノ所ニ於テ、木製ノ水刎則蛇籠ノ基礎アリ、此水刎ハ深ク地中ニ沈伏シテ、堅牢ニ且広ク、如何ナル水害ニテモ能ク堪ユルト云フ。此基礎ハ水門堰ノ端ヨリ二百五十「ヤルド」拡ガリ、四方及其深サ六呎、四方及底ハ木板ヲ張付ケ、石塊及砂利ヲ以テ充満セシモノナリ。
第三堰ノ基礎ハ前同様ノモノナリ。然レトモ該堰ノ前面及其間ノ堰ハ堅牢ニ築造セスシテ、本河ノ全力ヲ此処ニ敵抗スルニ当リ、該堰ハ破損シテ、水刎間ニ一滝水ヲ生ス、此レハ大洪水ノ時ニ水刎ノ上部ヲ漸ク洗フノミト。此格別ナル築造ノ説明ヲ聞クニ、該水刎堰ノ修繕ヲ大ニ容易ニシ、而シテ大水ニ抵敵スルニ足ル堰ヲ建造スルノ費用及困難ヲ考フレハ、寧ロ手軽ク早速ニ修繕シ得ル様ナスカ得策ナリトスルニアリト。此堰ハ旱水ノ節ハ、引水場ノ上ヨリ幾分ノ水、河底ノ砂石ヲ通過シテ、下流ニ再顕スレトモ、堰其モノハ先ツ水ヲ阻ムモノト称シテ可ナリ。
第一ノ水門堰ハ堅牢ナリト雖モ、其構造粗ニシテ、其計画及細部モ当時風ノモノニアラス。第二水門堰モ同様ノ欠点ヲ有ス。
水道新工事ニ着手スルニ至テハ、当今既成ノ工事ノ大略ハ断続シ置クモ尚可ナリト雖モ、堰ハ大概再築シ、堅牢ニシテ而シテ当時風ニ改良スルヲ至当トス、河底特ニ堰ノ背後ニアル河底ヲ堅牢法ヲ設クルハ必要ニシテ、流水ノ当リ最モ烈シキ所ニ於テハ、之ニ抵抗スル様方法ヲ設ケサルヘカラス、セメテ第一水門堰ハ、当時ノ良法ニヨリ再建シ、便利ニシテ扱ヒノ容易ナル樋門ヲ設ケサルヘカラス、此等ノ改良ハ夥多出費ヲ要セス、該地ニモ此建築ニ必需ナル材料ヲ供シ(只得ル能ハサルモノ「セメント」ナリ)、而シテ其基礎ハ已ニ多ク堅牢ニ且又旱水ノ時ニ於テ工事ヲ施行スルニ、其位置モ又好都合ナリ、即チ毎六・七ケ月間ナリトス。
二水門ノ間ニ於テ上水ノ河側ノ堤防ハ、砂利土及ヒ河石ヲ以テ建造シ堅牢ナリ。第二水門ヨリ以降、先ツ五十「ヤルド」ノ間ヲ河岸ノ外部ハ、石ヲ畳ミテ築造シ、其下部ノ堤防ニ河流ノ衝撞セサル様ニナシタルモノナリ。此下部堤防ハ、粘土・土塊及砂利ヲ以テ造リタルモノナリ。是ヨリ降リテ凡ソ一哩ノ処ニ至リ、上水ハ渓谷ヲ離レテ、低キ岡地ニ入リ、堀割シタル水路ヲ流レテ東京ニ達ス(此堀割水路ハ阻水法ヲ以テ築造ノモノニアラス)。上水通路ノ土質ハ、「タッフ」即チ火山焼灰ナル堅硬ナル粘土ニシテ、此焼灰ハ阻水質ニアラスト雖トモ、水
 - 第15巻 p.278 -ページ画像 
ノ流過ニ頗ル抵抗シ、而シテ又流水ノ力ニテ洗ハルヽニモ堪ユルモノナリ。
 余ノ東京府技師ヨリ承ケシ計算ニヨレハ、上水ヲ流ルヽ水量(其平均流量ノ時ニ於テ)ノ凡ソ四分ノ一ハ、東京ニ達スル途中ニテ地ノ為メニ吸入セラルト。
此上水運河ニ付テハ、余ハ頗改良スルモノアルヲ見ス。此運河ハ二百年以上善ク其職ヲ尽セシヲ以テ見レハ、向後其取締法ニ当ヲ得ハ、無数ノ年月ヲ経ルモ依然其職ニ堪ヘキハ疑フヘカラサルナリ。然レトモ其注意スヘキ点ト維持ノ法ニ付、敢テ一言ヲ呈スヘシ。余ハ運河ヲ悉皆柵囲スルコトヲ勧告セスト雖トモ、村落中ヲ通過スル処ニ於テハ、柵ヲ設ケテ不注意或ハ故意ヨリシテ上水ヲ汚穢ナラシメ、又ハ人民ノ水流ヨリ直接ニ水ヲ汲ミ取ルコトヲ拒クヘク、人民ヲシテ水ヲ使用セシムルニハ、他ノ方法ヲ以テスヘシ。余ハ又運河中ニ放置シタル牛馬飲水場モ廃止センコトヲ勧告スヘシ、然レトモ同上水ニ柵ヲ設クルハ不要ニシテ、費用丈ケノ良結果ナカルヘシ、此レハ只生活ヲ嫌ヒシ人民ノ水死ヲ幾分カ拒ク功能アル而已トス。然レトモ此設ケモ深ク考フレハ誤ト云フヘシ、何トナレバ人ノ入水シテ死ヲ決シタル者ニハ、監獄ノ柵ニハイサ知ラス、此ノ如キ柵ヲ破入リ、又ハ打越ユルコトハ容易ナルヘク、且上水ニ架設セル諸橋梁アリテ、此等ハ何時ニテモ開通シ置カサルヘカラサルカ故ニ、死ヲ欲スル者ノ為ニハ運河ニ達スル容易ナリ。余ハ前述セル村落接近ノ場合ニ構柵スル外ニ(此レハ全長先ツ二三哩ナリ)、運河保護ノ最良法ハ、二三哩毎ニ在駐運河番人ヲ置クコトナリ、而シテ此等番人ノ役ハ、定時運河々畔ヲ巡行シ、百般ノ汚穢或ハ損傷セントスルモノヲ予防スルニアリ。此等番人一人ニ二三人ノ工夫ヲ附属セシム(先ツ一哩ニ一人ヲ配ス)ヘシ、此工夫ハ注意上及管理上番人ヲ扶助スルノ外、河畔上ニ生スル草木ノ生長ヲ適宜ニ保護シ、而シテ一般ニ河畔ヲ保護修繕シ、又時々運河中水草ノ分外ニ生長スルヲ拒除スヘシ。尤モ水草ハ水ヲ清浄スルニ効力ヲ有シ、河底ノ減滅スルヲ拒クコトヲ記念スヘシ、番人ノ詰所ハ上水河畔ニ設ケ、重要ナル橋梁横断ノ処、殊ニ大ナル支流ノ口、或ハ又向来其支流ノ口ニ正当ナル制水法ヲ設クルトキ、此等番人ヲシテ其撿測器ヲ管理且ツ撿測セシムル為メ其処ニ設クヘシ、此制水法ノ事ハ本報十二頁ニ申述ヘタリ。
    第六章 清水工事《クラリフヒケーション》
沈澄池。此報告書第三章ノ終リニ於テ、都府ニ分配スヘキ初メノ水量ハ一秒時四九・五立方呎ナルコトヲ説明セリ、此水量千九百十六年ノ終ニハ漸ク増加シテ五割ノ比例ニ達シ得ルコトヲ又心ニ記スヘシ。
沈澄方ニ付テハ、余ハ沈澄池ヲ濾過ノ前ニ当リテ、此内ニ水ヲ充分ナル時間ヲ以テ沈澄セシムヘシ、余ハ一応ニ運河ニ沿テ、一箇乃至一箇以上大沈澄池ヲ設クルノ可否ヲ一応考究セシコトモアリキ。然レトモ濾過床ノ筋違ノ所ニ於テ、通常形ノ沈澄池ヲ設クル方廉価ニシテ且良好ナルヘキヲ考定セリ。余ノ今仮リニ告知スル所ノ法ハ、一秒時四九・五立方呎ノ水ヲ出ストキ、十八時間沈澄セシムヘキ容量アル数箇ノ水池ヲ備フルニアリ、勿論需用水量ノ増加スルニ従テ沈澄面積ヲ増サヽ
 - 第15巻 p.279 -ページ画像 
レハ、此十八時間ハ充分給水量ノ二百万人ノ為メニ達スル時ニ至リテハ、漸減シテ十二時間トナルヘシ、然ルニ此間沈澄時間十八時若シクハ、其以上ヲ緊要トスレハ、夫レニ応シテ水池ノ数ヲ増スヘシ、然レトモ余ハ此沈澄時間ヲ平均十二時間トシ、時宜ニヨリテハ二十四時ニ増加スルコトヲ得ハ充分ナルコト敢テ保証スル所ナリ、今陳述スル方法ハ、当今余輩ノ智識ニヨリテ計画シ得ル最良法ニシテ、最モ実地ニ適スルモノナリ。偖爰ニ三箇ノ池アリテ、第一池ハ満水シツヽ、第二池ハ沈澄シツヽ、而シテ第三池ハ其沈澄水ヲ濾過床ニ排出シツヽアリ而シテ沈澄ノ時間ハ十八時間ナレハ、各池ハ其幾分カ清澄シタル水量ヲ排出スル水位上ニ於テ、十八時間ノ供給水量ヲ有セサルヘカラサルコト明カナリ、而シテ此等受取水池ハ時々掃除ヲ要スル故ニ、絶ヘス三箇ノ水池ヲシテ働カシムルニハ、第四ノ水池ヲ設クルヲ必要トス。然リ而シテ此第四池ハ適当ナル取扱ヲ以テセハ、大ニ混濁スル時ニ於テ働カシメ、以テ沈澄ノ時間ヲ二倍ニスルコトヲ得ルナリ。
沈澄池ノ水ヲ其頂上ノ水面ヨリ八呎以上マテ引出スモノトセハ、東京水道工事用ノ各水池ノ平均面積ハ、十万九百五十平方呎ナラサルヘカラス(一秒時毎ニ四十九半立方呎ノ水量ヲ出ストキ)然レトモ余ハ諸ヲ分ツテ二組トナシ、各組ヲシテ全用ノ半ヲ為サシメントス、斯クスルトキハ八箇ノ水池アルヘク、而シテ各地ハ二十万四百七十五平方呎ノ平均面積ヲ有スヘシ、即チ先ツ長七百呎巾六六・四呎ノモノナリ。沈澄池ノ深サハ十二呎アリ、是レ即チ水ヲ引キ出ス水位ノ下四呎ニ達ス、故ニ池ノ下底ノ最モ混濁ナル水層ハ、動揺セサルナリ。沈澄十八時間ノ外ニ、池内ニ入水トシテ十八時ト、又池ヨリ水ヲ引出スニ十八時間アルコトヲ了解スヘシ。此満水スルコト及出水スル時間中ニモ、多少沈澄スルヲ以テ、五十四時間ノ終ニ於テハ、池ノ水面以下八呎ノ処マテノ水増ハ、最モ濁リシ水ト雖モ、充分自ラ沈澄シ濾過ニ適スルナルヘシ。余ハ此ノ略報告書ニ於テ、水ヲ注入及引出ノ法及溢流排除ノ方法及掃除等、細部ハ講究セサルヘシ、併シ貴下参考ノ為メ、第一号図面中ニ此種ノ水池ニ通常用ユル格好ト材料ヲ示ス為メ、二箇ノ断面図ヲ製セリ。第一図ノ水池ハ第二図ノ水池ヨリ尚堅牢ニシテ、其費用ハ少々嵩ムヘキモ、之ヲ建設スルニ土地ヲ潰スコト少ナク、水道用ニハ最良ナルモノナリ。濾池水ハ一時間毎ニ六吋ノ平均割合ニテ、即チ一日十二呎ノ割合ヲ以テ濾池ヲ直過スヘシ。前出ノ水量ヲ以テスレバ(一秒時四十九半立方呎)、濾池ノ全積ハ三十五万六千四百平方呎ナカラサルヘカラス。而シテ之レヲ二組ニ分チ、各組ニ四箇ノ濾池ヲ備ヘ、而シテ掃除及修繕ノ為メ二割五分即チ他ニ一箇濾池ノ有余ヲ見込ミ、総テ十箇ノ濾池ヲ要スルモノトセハ、各箇四万四千五百五十平方呎ノ濾過積面ヲ有スヘシ、即チ先ツ長サ二百九十七呎ニ幅百五十呎ノモノナリ。
第一号図面第三図ハ、濾池ノ一部ノ断面図ヲ示ス。此図面ヨリ深サ二呎ノ水ハ三呎ノ砂ヲ蓋フコトヲ見ルヘシ、此砂ノ下ニ凡ソ六寸ノ砂利アリ、此砂利ノ大サハ下底ニ於テ豆大ヨリ、頂上ニ於テ銃丸及麦粒ノ大トナル、此砂利ハ只上部ノ砂ノ土台ヲナシ、砂ノ下底ニアル排水渠ニ流レ入ルコトヲ防遏スルノ用アルノミニシテ、濾過シテ水ヲ清ムル
 - 第15巻 p.280 -ページ画像 
ノ質ヲ有セサルモノナリ。略図面ニ示ス如ク、砂利ノ下ニ漆喰ヲ用ヒタル煉化石アリ、水ハ煉化石上層ノ接目ヲ通シテ下層ノ小溝ニ至リ、下底ノ中央ニアリテ濾池ノ床ニ敷設シアル石造或ハ三和土製《コンクリート》ノ排水渠ニ出ツ。水ハ此排水渠ノ端ヨリ管ヲ通シテ浄水池ニ至リ、直チニ飲用ニ適ス。此出入濾過ノ速力溢流及其他ノ細目ニ至テハ、種々手数ヲ要スル多クノ仕組アリト雖モ、今コノ所ニ於テハ論及セサルヘシ、各組ニ附加スヘキ一箇ノ濾池ハ(五箇ノ内四箇ハ常ニ働クモノトス)、人口二割五分ノ増加ニ備フルニ足レリ、即チ各組ニ二箇ノ濾池ヲ附加スレハ、二百万ノ人口ニ用ルコトヲ得ヘシ、余ノ此仮設計ニ於テモ(第一号第五図)此予備池築造ノ為メ余地ヲ残セリ、而シテ諸水管及其他ノ附属物モ此濾池増加ヲ予考シテ計画セサルベカラサルナリ。
濾池掃除ハ只上部ノ砂ヲ半時乃至一時抓キ去ルヲ以テ通常トス、而シテ之ニ更ルニ新鮮ノ砂ヲ用フルカ、又抓キ去ラレタル砂ヲ洗浄シ再用ユルカニアリ、此洗浄法ハ水質ニヨリ、二十日乃至四十日毎ニ施行スルヲ必用トス、依テ砂囲場ヲ此内ニ目論メリ、沈澄桶濾池等ノ守護者ノ詰所モ(日本風ノ家)亦此内ニ目論ミ第一号図面第五図ニ示セリ。
浄水池ノ目的トスル処ハ、本府ノ水量需用高昼夜時ニヨリ差異アリト雖トモ、其差異ニ関セス、一定平均速力ヲ以テ水ヲ常ニ濾過セシムルニ在リ(此一定平均速力ハ、至当ナル経済法ニシテ、他ニ良法ナシ)。凡ソ一都府ノ一日消費スル全水量中、先ツ十分ノ九ハ午前五時頃ヨリ午後十一時ノ間頃、即チ十八時間ニ消費スルモノナリ、多分一日需用水ノ全水量ノ三分ノ二ハ、午前七時ヨリ午後五時迄ノ間、即チ十時間ニ消費スルナラン、而シテ一日中時ニヨリテハ、平均水量ノ二倍或ハ二倍以上ヲ消費スルコトアリ、然ルニ夜中ニ於テ数時間ハ、消費至極少量ナルベシ、如斯不規則ナル需用ニ応スル為メ、浄水池ハ消費少量ナル時ニ浄水(此水ハ一定速力ヲ以テ流入ス)ヲ蓄蔵シ、以テ大費量ノ時ノ需メニ応ス、又大火及他ノ急変ニ応スル為メ、恒ニ適宜ノ水量ヲ手近ニ予備シ置クヲ必用トスレハナリ。
浄水貯蔵池ノ容量ヲ百卅三万三千三百卅三人ノ十五時間ノ費量ニ足レルモノトセハ、二百万人十時間ノ費量モ亦足ルヘキ也、是レ余カ目下ノ計画也。諸浄水池ヲ充満シテ午前七時ヨリ流出セシメ、一日全費量ノ三分ノ二ハ(二十四分ノ十ノ代リニ)午後五時迄ニ消費スルモノトセハ、其時間内ニ已ニ二十四時平均量ノ六時間ヲ失ヒシモノ也、故ニ其引出シ水面迄ノ全量ニテ、十時間ノ供給アレハ、濾過ノ速度ヲ増加セストモ、充分ニ大急変ニ応スルノ余裕ヲ得ヘシ、余ハ故ニ十時間供給ニ足ルヘキノ水量ニテ過余ナルモノトス。
貴下ハ第一図面第四図ニ於テ、浄水池堤壁断面ヲ見ルヘシ。此池ノ深サ水面ヨリ底マテ十四尺アリ、此深サヲ以テ百三十三万三千三百三十三人ニ十五時間ノ供給水ヲ貯蔵スルニハ、其平均面積ニハ十九万九百二十平方呎ヲ要ス、今之ヲ二箇ニ区分シ、一箇ハ掃除及修繕ヲ要スルトキ、之ヲ空虚ニシ得ヘキモノトセハ、各箇九万五千四百六十平方呎ノ面積ヲ有スベシ、即チ先ツ長サ三百八十六呎ニシテ、幅二百四十七呎半ノモノナリ。
測水池。此測水池ハ浄水貯蔵池ニ附属シ、其面積ハ長サ百呎幅三十呎
 - 第15巻 p.281 -ページ画像 
ナリ、一箇ツヽ浄水池各組ノ両側ニ設置シ、各之レヲ交通スルモノナリ、池中端近キ所ニ横壁アリテ、其中ニ都府使用ノ為メ流出スル水量撿測器ヲ設置ス、此横壁ノ外部ハ又二分シテ吸水井トナリ、此処ヨリ蒸滊器械ヲ以テ水ヲ汲揚クルモノトス、此事ハ後段ニ解明スヘシ。
    第七章 水量抽揚ケノ事
本論ノ初メニ於テ、給水法ニ関シテ水準論ヲ考究スルヲ必要トス、先ツ基点即零点ニシテ、下条記載スル水準ハ皆此基点ニヨリテ算出ス、而シテ此基点ハ霊巌島ニ於テ、四年間潮水ヲ撿測シ、確定シタル平均低水面ナリ、平均高水面ハ該零点ヨリ高キコト二・九二呎ナリ。
余ハ第一ニ使用ニ充ツヘクシテ、浄水池ニ入レタル水準ハ幾何ナルヤヲ定メン、此事ハ勿論水ヲ清澄ナラシムル事ニ充ル為メ撰定シタル場所ニヨルモノナリ、此工事ノ為メニ緊要ナル土地積面ハ、凡ソ十万坪即チ二七・八町頗ル大ナラサルヲ得ス、故ニ府下ニ便利ノ接近地ヲ撰フヲ必要トスレトモ、又人口多キ地面ノ地価ノ高貴ナルハ避ケサルヲ得ス、種々考究ノ上、余ハ東京近傍玉川上水ニ近キ処ヲ探リ、漸ク旧戸田屋敷跡ニ於テ、此工事ニ要用ナル面積ノ地ヲ撰フヲ勧告セン、此地ハ北甲州街道・東品川赤羽根鉄道ニ界シ、該工事ニハ至極適当ノ場処ニシテ、耕作地ナレハ廉価ヲ以テ購フコトヲ得ルナリ(一坪七拾五銭乃至八拾銭位ニテ)。且新宿ノ端ニ位シテ、府下ニ都合ヨク接近セリ、然而シテ鉄道線路ニ近キノ故ヲ以テ、工事中物品運送ノ便アルノミナラス、又併セテ将来ニ望ミアリ。
此場所ヲ購求シ得ルモノト仮定セハ、余輩ハ上水ヲ導ヒテ沈澄池ニ入ルヽニ、其水準ハ基点上殆ント百十四呎ナルモノヲ得ヘシ、然レトモ十呎ハ水ヲ清浄ナラシムル内ニ低下シ、而シテ浄水池ノ水面モ急変ノ時ニ於テハ、又十四呎ヲ低下スヘキニ付、之ヨリ市中ヘ配水スヘシト云フ地ニ於テハ、基点以上水準ハ前出戸田邸ニ於テノ事ナリ、第四号図面ノ端ニ於テ黄色ヲ付シ、其場所ヲ示ス。
偖府下区内ノ高低ヲ一覧スレハ、府下最高地ハ基点上百十呎ニシテ四ツ谷ニアリ、此レヨリ南方ニ当リ、外濠ノ外ニ千駄ケ谷又青山地方アリ、其高サ百呎許リ、又麻布仲ノ町及其他麻布ノ高地ハ、八十五呎ト九十五呎ノ間ニアリ。三田(芝区)ノ高地ハ六十五呎、愛宕山ハ八十五呎。而シテ芝区田町及高輪ノ上ニアル地ハ八十五呎ナリ。四ツ谷ノ北ノ方ニシテ右濠外ニアル地方ニ戸山アリ、其高サ九十呎、其次ニ牛込矢来町アリ九十五呎、而シテ上富坂(丁度小石川砲兵工廠ノ後ロ)八十呎、夫レヨリ東ニ当リ本郷弓町七十五呎、駒込西六十五呎乃至七十呎、帝国大学ノ高キ処ニテ七十五呎、而シテ、湯島天神ハ七十呎ナリ。外濠ト内濠トノ間ニアリテハ、麹町紀尾井町ハ百呎、永田町ハ百呎、麹町六番町ハ百五呎、招魂社(九段坂)ハ九十呎、英国公使館ノ近傍ハ九十五乃至百呎、駿河台(袋町)ハ七十五呎アリ。府下ノ低部ハ基点上五呎乃至三十呎ナリ、高部ハ前出ノ通リ百十呎迄ナリ、府下区内ノ地勢ヲ貴下ノ一覧ニ供スル為メニ、第三図ニ於テ基点上二十五呎毎ニ彩色ヲ異ニセリ。
前述ノ事柄ヨリ二要点アルヲ見ルヘシ、即チ
 第一。府下ノ人口稠密ナル幾多場所ハ、浄水池水面ヨリ高ク、之ト
 - 第15巻 p.282 -ページ画像 
同高ノ処モアリ、又尚大ナル場所ニ該水面ヨリ低キコト僅々数呎ナリ、故ニ浄水池ノ水面ハ、一般府下ノ供給ノ為メ到底低キニ過クルモノナリ、府下全部ノ低地ハ、戸田邸ヨリ六哩ノ外ニモ広カリテ、浄水池水面ヨリ効能多ク経済ニ水ヲ供給スルニハ、九十呎ノ高サハ全ク不足ナリトス。斯ノ如ク僅ニ九十呎ノ高サニテ、水頭即チ水圧力ニ不足ヲ生スルノミナラス、此不足ハ市中配水本管ノ費用ヲ大ニ増加スルモノナリ、夫レ水管ノ勾配急ナルトキハ、水ノ速力大ニ、勾配緩ナルトキハ速力少シ。今速力少ニシテ、一定ノ水量ヲシテ管中ヲ通過セシムルニハ、其直径ハ速力ノ大ナルトキノ直径ヨリハ頗ル大ナラサルヲ得ス、是レ大ニ費金ノ増加ヲ要シ、蒸滊ニテ適当ノ高所ニ水ヲ汲揚クル費金ヨリハ遥カニ大ナルヘシ。
 第二。府下ノ形勢ヲ見ルニ、蒸滊力ヲ用ヒテ戸田邸ヨリ水ヲ汲入ルヘキ数箇ノ用水貯蔵池《サルピスレヲルベル》ノ建設ニ適スル程ノ高キ場所ナシ。府下ノ高部ニ要スル基点上百六十呎乃至百五十呎ノ高処ハ、用水貯蔵池建設ニ適当ナリトス。然ルトキニ斯ノ如キ高地ナキハ、府下工事ノ為メ稍々不幸ノコトナリ、何トナレハ是レ水道営業費ヲ増加スルモノニシテ、前出浄水貯蔵池ノ如ク、同一ナル経済的ノ作用ヲ有スレハナリ、之ヲ詳言スレハ、日夜不絶ニテ平等ナル速度ヲ以テ、該諸用水貯蔵池ニ水ヲ汲揚クルコトヲ得、以テ水ノ消費緩ナルトキハ、急ナルトキノ需用ニ備フル為メ、汲ミ込貯蔵シ置クコトヲ得ヘケレハナリ。
前条ノ事柄ヨリ論結スレハ、一般府下ニ向テ給水スルニハ、蒸滊力ニヨリ水ヲ汲ミ揚ケサルヘカラス(絶ヘス水力ヲ用ユル場所ナケレバナリ)。余ハ又経済上ヨリ高地ト低地ト区別スルコトハ、実行シ得ルヤ否ヤヲ考究セリ、低地ハ高地ヨリ尚低キ水頭ニヨリ給水シ能フヘケレハナリ、然レトモ之ヲ為シ能ハサルノ事タルヲ発見セリ、何ントナレハ高部ハ殆ント全部ノ端ヨリ端マテ広カリタル大面積ニ散布シ、且ツ低地ト相結シテ解クヘカラサレハナリ、然レトモ余ハ前区分法ニ付、稍行ハルヘキ只一法アルヲ見ル、是ヲ後段ニ陳述スヘシ。
次ノ論題ハ府下管中ノ水ニ幾多ノ圧力ヲ与ヘサルヘカラサルコト、而シテ其圧力ヲ得ルニ最良法ハ如何ニシテ可ナルヤノコトナリ、此等ノ論題ヲ決スルニハ、府下ノ地形ヲ考究シ、併セテ人民ノ員数、及其諸区ニ散在スル現今ノ員数、及得来《(将カ)》ニ散在スヘキ略数、並ニ此ノ水道ニ必要トスル大ナル仕組ヲ以テ用水ヲ供給スル法、及其管理法ヲ考究セサルヘカラス。第二図面ハ十五区ノ境界ト千八百八十六年十二月三十一日ノ各区人口員数ヲ示ス、其人口数ハ左ノ如シ。
 麹町区     五万千三百五人
 神田区     十二万三千二百四十一人
 日本橋区    十五万三千九百九十六人
 京橋区     十七万八百十六人
 芝区      十万四千三百十一人
 麻布区     三万九千六百九十人
 赤坂区     二万四千百九十八人
 四谷区     三万七百八十八人
 - 第15巻 p.283 -ページ画像 
 牛込区     三万六千三百五十四人
 小石川区    二万六千四百五十七人
 本郷区     六万二千二百五人
 下谷区     七万三千六百一人
 浅草区     十一万二百二十七人
 本所区     七万七千百十九人
 深川区     七万二千二百二十二人
   合計  百十五万五百三十人
右人口員数其各附属地面積及人口予期増殖ヨリ考究スレハ、配水上百般ノ目的ニ於テ、此大都府ヲ小部分ニ分ツハ良策ナルコトヲ示ス、府下全供給水ヲ扱ヒ易キ様幾分ノ小部ニ分テ、而シテ水道ノ一部ニ於テ破損スルトキハ、其部分ニ幾分カ他ノ一ケ所又ハ二ケ所以上ノ部分ヨリ救援シ得ル様ニ全水量ヲ整理シ、又配付スルハ緊要ノミナラス、又供給事務ノ為メ役員ヲシテ相当ノ区分ニ配置スルハ緊要ナルヘシ、之ヲ約言スレハ、一大都府ノ代リニ百般給水ノ為メニ三箇又ハ四箇ノ小都府アリテ、各都府ハ各通常独立ニ給水シ、然レトモ急変ノ時ニハ他ノ都府ヨリ救援ヲ得ルナリ、又給水役員ヲ適当ノ数ニ配置スヘシト雖トモ、此等役員ハ勿論中央局管理ノ下ニ属スルモノナリ、又現今ニ於テ能ハサレハ、責テハ将来ニ於テナリトモ、各都府ノ人口員数相互ニ大差違ナキ様ニ配ルヘキナリ。千八百八十六年及千九百十六年ノ終ニ於ケル人口ヲ見ルニ、千八百八十六年ノ終ニ於テハ、人口百十五万五百三十人ニシテ、千九百十六年ノ終ニ於ケル推算人口ハ二百万人、即チ三十年ニ於テ凡七割四分ノ平均増殖ナリ。然リ而シテ日本橋区京橋区ノ如キ中央ノ区ニ於テハ、背後ノ明キ地アリテ尚薄少ナル人口ノ諸区ニ於テノ如ク、人口増殖ノ割合ノ大ナルコトハナカルヘシ、余ハ今般仮リニ人口ノ区分トシテ次ノ四部ヲ示ス。
此部分ハ現今存在スル境界ニ殆ント符合スルモノナリトス。
     A部
 芝区          十万四千三百十一
 麻布区         三万九千六百九十
 赤坂区         二万四千百九十八
 麹町区         五万千三百五
 四ツ谷区        三万七百八十八
 牛込区ノ半区      一万八千百七十七
   計 二十六万八千四百六十九
     B部
 牛込区ノ半区      一万八千百七十七
 小石川区        二万四百五十七
 本郷区         六万二千二百五
 神田区         十二万三千二百四十一
 下谷区ノ三分二     四万九千六十七
   計 二十七万三千百四十七
     C部
 下谷区ノ三分一     二万四千五百三十四
 - 第15巻 p.284 -ページ画像 
 浅草区         十一万三百二十七
 本所区         七万七千百十九
 深川区         七万二千二百二十二
   計 二十八万四千百二
     D部
 日本橋区        十五万三千九百九十六
 京橋区         十七万八百十六
   計 三十二万四千八百十二
前部分ヨリ観レハ、D部ノ外各部ノ人口ハ殆ント同数ナリ、人口二百万ニ至リタラハ、各部人口相同シカランニハ(各部五十五万人ツヽ)、三十年ニ於テ人口増殖ノ比例ハ次ノ如クナルヘシ。
 A区          八割六分ノ増殖
 B区          八割三分ノ同
 C区          七割六分ノ同
 D区          五割四分ノ同
此事ハ只推察ノ事ナリト雖トモ、其結果ハ此予期ヨリ大差違ナシト想像スルモ不当ニハアラサルヘシ、前顕ノ部分ハ第四号図面ニ於テ彩色ヲ異ニシ以テ之ヲ示ス。
若シ右ノ部分ヲ採用スルモノトセハ、C及D部ニ於テハ基点上二十呎ヨリ高キ地アリ、A部及B部ニ於テハ基点上各百十呎及九十五呎ノ地アリ、斯ノ如クセハ高低二地ノ区分ハ稍ヤ実施スルヲ得ヘシ、A及Bハ高地トシ、C・Dハ低地トスヘキナリ。
都府ノ本管ニ於テ強圧力ヲ得ル為メニ(已ニ利用シ得ヘキ基点上九十呎ヨリ生スル圧力ノ外ニ)蒸滊力ニ関シテハ二法ノ一ヲ採ラサルヘカラス、第一法ハ水塔ヘ水ヲ汲揚クルノ法ニシテ、石煉化或ハ鉄製ノ高キ建物ノ頂上ニ水桶ヲ設ケ、起立管《ライシングメーン》ト称スル鉄管ヲ接合シテ、蒸滊喞筒ヘ通セシム、喞筒ハ水桶ヘ水ヲ汲ミ揚ケ、以テ配水管ニ相当ナル圧力ヲ生スル為メニ必要ナル水位ヲ保持セシメ、而シテ此等ノ配水本管ハ、水桶ノ底部ヨリ地ニ達シ、夫ヨリ市街ニ達スルモノナリ、又第二法蒸滊喞筒ニテ直チニ配水管ニ水ヲ汲込ミ、以テ圧力ヲ得ルコト。
前二法ノ内、第一法ハ第二法ヨリ尚便利ニシテ効能多シ、水塔ノ大利益トスル処ハ、配水管中ノ圧力ヲ殆ント平等ナラシムルコト是ナリ、尚其利益トスル処ハ、頂上ニアル水桶ヲ大ニセハ、幾分カ貯水池ノ作用ヲ為ス、依テ機関手ハ都府消費高ニ応シテ、汲揚ケノ度ヲ変スルノ(是レ石炭ノ消費ニ不経済ナリ)必要ナク、該消費高ノ小上下ハ水桶ノ作用ニテ整理シ得ヘシ、此水桶ハ平均三十分乃至一時間ノ平均供給水量ヲ入ルヽヲ得ルナリ、又水塔ヲ煉化若シクハ石造ニナサハ、美麗ニシテ壮観ヲ添ヘ、而シテ幅広ク且重大ニセハ、地震又ハ大風ノ時モ殆ント害ヲ受ケサルヘシ、併シ費用ハ廉ナラサル可シ。
第二法即チ直チニ配水管ニ水ヲ汲込ムコトハ、其費用少ナキノ利益アレトモ、種々ノ不都合アリ、此不都合甚タ大ナラスト雖トモ、他ニ尚良法ノアルアラハ、此法ヲ採ルコトハ大ニ欲セサル所ナリ、此不都合ノ大ナルハ、本管及其接キ目及室内附属管中ニ生スル圧力ノ不同、及管中ニ空気ノ侵入ヲ拒ク能ハサルコト是ナリ、又此法ハ石炭消費ニモ
 - 第15巻 p.285 -ページ画像 
不経済ニシテ、其他尚種々ノ小不利益アリ、圧力ノ不同ハ高キ(但シ高価ノモノ)直立管、貯槽或ハ空気槽ニヨリテ稍除クヲ得レトモ、此法ハ西洋ニ於テ費金ノ途ニ於テ万不得已トキヲ除クノ外採ラサル所ナリ。
此報告ノ下条ニ記載セル計算ニ於テ、二法ヲ比較シテ其費用ノ差違ヲ示スヘシ。目下ノ処ニテハ余ハ前条ヲ逐フテ第一等ノ水道工事ヲ計画スルモノナレハ、各部ニ一箇ノ水塔ヲ備フヘキヲ仮定スヘシ、而シテ此等ノ水桶ハ銅鉄或ハ錬鉄造リニ、直径ハ略六十呎深サ十五呎、即各桶五十万人ニ凡ソ三十八分間平均水量即チ凡三十三万三千三百三十三人ニ五十七分間ノ平均水量ヲ容ルヽ、前水塔ノ仮位置ハ第四号図ニ於テ紅色ヲ以テ示ス、此等ノ位置ハ殆ント各部ノ中央ニアリ、併シB塔ハB部ノ端ニ近キ高地ニ設クルコトヲ欲ス、各水塔位置地面ノ現今高サハ左ノ如シ。
 麻布三河台町ニ在ル水塔 A      基点上九十五呎
 牛込矢来町ニ在ル水塔        同 同呎
 浅草並木町ニ在ル水塔        同 十八呎
 日本橋畳町ニ在ル水塔 D       同 十六呎
斯クシテ二対アルヲ見ル。前顕各水塔ノアル地面上水塔A及Bノ水桶水位ハ六十五呎ニシテ、C及Dノ水桶水位ハ大略百八呎ナリ。水塔C及Dハ不幸ニモ重量ナルヲ以テ、其基礎工事ニ或ハ困難アルカモ計リ難シ、若シ土質柔軟ニシテ泥土ナレハ、大ナル堀取ヲナシ、而シテ水塔ノ基礎ナル幅広キ重大ナルコンクリトノ土台ヲ支ユル為メニ、其穴ノ底ヘハ深ク砂ヲ塡充セハ、充分安全ナルヘシ。水塔ハ其重量一様散配スルヲ以テ、些少ナル沈ミハ平等ニシテ割合ニ害ナカルヘシ、若シ不得止レハ鉄製ノ水塔ヲ用ユヘシ、此ハ前述水塔ノ如ク美麗ナラスト雖トモ、軽クシテ費用ハ廉ナリ、地面ヨリ以下十呎或ハ十二呎ノ深迄各塔ノ土基ヲ分離スルコトハ、地震予防ニ良策ナルヘシ(分離トハ各土基ヲ囲周ノ土ト分離スルコト)。此ト同一ナル目的ヲ以テ、A及B塔ニ於ケルモ、余ハ嶮ナル丘端ヲ離レシ位置ヲ撰定セリ、第五号図面中第二図ニ於テ、余ハ只都府修飾ニモナルヘキ建物ノ説明トシテ、余カ計設セシ円形水塔ノ前面ヲ示ス、前述諸点ヲ論定セルニ付、余輩今水道ニ要用ナル蒸滊力ヲ考究スル位置ニアリ。
其廉々ハ左ノ如シ。
水ヲ汲揚クル場所ニ於テ最低ノ水準ハ、基点上九十呎ナリ。
水塔A及Bノ供給水準ハ、基点上百六十呎ナリ。
同C及Dノ供給水準ハ、基点上百二十五呎ナリ。
蒸滊器械ハ当初ヨリ一口一人二十「ガルロン」ノ割合ニテ、百三十三万三千三百三十三人ニ供給スルニ足ルモノト仮定シ、又此人口数ハ可ナリ平等ニ四区部ニ分配シ、各部ニ於ケル蒸滊器械力ハ三十三万三千三百三十三人ノ供給ニ適スルモノト仮定セリ。
然レトモ二十一頁ニ説明セシ如ク、全二十四時間供給水量ノ三分ノ二ハ、午前五時ヨリ午後七時迄ノ十時間ニ消費シ、即チ平均十六時間ノ供給水ハ、十時間ニ汲揚ケサルヲ得ス、是レ汲揚水量ハ平均供給ノ量ヨリ一・六倍ヲ要スルコト明カナリ、而シテ非常ノ急変ニ応シ、且ツ
 - 第15巻 p.286 -ページ画像 
ハ前十時間中ニ消費スル水量ノ短劇ナル変動ニシテ、水桶ノ予備水量ニテ充分之ニ応シ能ハサル処ヲ助クル為メニ、前汲揚ケ水量ノ外ニ尚少々余裕ヲ与フヘシ、余ハ故ニ蒸滊器械及喞筒ハ、平均割合ノ一・七五倍ヲ汲揚クヘク、計画セサルヘカラサルコトト思考ス。偖一日二十「ガルロン」ノ消費ニテ、百三十三万三千三百三十三人ノ平均割合、此レニ一・七五ヲ乗スレハ、
 一分時毎ニ八千百「ガルロン」トナル。
水塔A及Bノ場合ニ於テハ、此量ヲ七十呎ノ高サニ、C及B《(Dカ)》ニ於テハ三十五呎ノ高サニ汲揚クルヲ要ス、此仮定ヨリ計算セハ、A及Bニ用ユル蒸滊器械ノ各組ハ、百八十実馬力、又C及Dニ用ユル各組ハ、百十実馬力ナカルヘカラズ、然レトモ破損等ノ為メA及Bニ二割五分ノ予備ヲ見込ミ、而シテC及Dニモ同一ノ見込ヲナセハ、即チ全計
 A及Bニ     四百五十実馬力
 C及Dニ     二百七十五同
  計 七百二十五実馬力ナリ。
又喞筒及蒸滊器械力ハ、人口二百万ニ達スル推算増加ニ最モ経済ニテ応スル様ニ計画セサルヘカラス、将来人口ノ百三十三万三千三百三十三人五割増ニナルモ、多分夫レニ応スル丈ケノ滊鑵力ヲ増加セハ此人口ニ応スルヲ得ン。而シテ器械ハ従前ノモノニテ充分事足ルナラン。如斯法式ヲ施行セハ、水塔A及Bハ、各喞筒蒸滊器械ヲ以テ一対ヲナシ、而シテC及Dモ同様一対ヲ為ス。余ハ次ニ起立管即《ライジングメイン》チ水揚場ヨリ水塔ノ頂上ニアル桶中ニ水ヲ運送スル為メノ大管ノ直径ヲ考究セン、二百万人ノ極限ニ対シテ、此等起立管ノ直径ヲ算出スルハ得策ナリトシテ、余ハ若シ単ニ一管ヲ用ユレハ、各三十三吋ノ径ヲ要スルヲ見出セリ。然レトモ若シ斯クスルトキハ、Aノ起立管ヲ破裂シテ、Bノ起立管一時ABノ両部ヲ供給スルコトナラハ、ABハ只供給ノ半額ヲ得ルノミナリ。然ルニ若シ各塔(A及B)ニ三十三吋ノ起立管一箇ヲ用ユル代リニ、廿五吋ナル二箇ノ起立管ヲ使用セハ、通常ノ時ニ於テ同一ノ水量ヲ得、又若シ此等二箇ノ内一箇破裂スルカ、或ハ又他ノ変事ニヨリテ、一時其働キヲ妨害セラルヽトキ、他ノ一管其水塔ニ半量ノ水ヲ供給シ、而シテ尚二部ヲ交通セシメハ、二部共ニ彼ノ破裂管ノ修繕終ルマテ、供給水ノ四分ノ三ヲ受クヘシ。此起立管ヲ二箇ニスルコトハ稍費用ヲ増シ、即チ二十五吋管二箇ト三十三吋管一箇ノ費用ノ割合ハ、凡テ三ト二トノ如シト雖トモ、距離近キヲ以テ、余ハ前出道理上ヨリ其使用ヲ勧告ス。C及Dノ二部ニ於テ、前文同様ノ法ヲ行フヲ要セス、何ントナレハ此等二部ハ地面低キカ故ニ、C或ハDノ三十三吋ノ起立管一時働キヲ止ムレハ、其部ハ一時ABナル二箇ノ高地ト相通スルヲ得テ、三部共ニ供給水量ノ三分ノ二ヲ受クヘシ。
前文説明ノ意思ヲ挙クル左ノ如シ。
 第一、ABCDノ諸部通常相互ニ関係セスシテ、独立ニ給水スト雖トモ、給水本管ニヨリテ互ニ水ヲ交通スルコトヲ得、最モ此交通ハ普通止水弁ヲ以テ閉塞ス。
 第二、ABノ水塔上水桶ハ、各二箇ノ径二十五吋起立管ニテ送水シCDハ各一箇ノ三十三吋起立管ニテ送水ス。
 - 第15巻 p.287 -ページ画像 
 第三、若シ高地ニアル一ツノ起立管(例ハA部ノ一箇)破裂セハ、他ノ一箇ハ水ヲ供給シ、而シテAB両部水ノ交通ヲナスヘシ、左スレハAB両部ハ共ニ四箇ノ起立管ヨリ送水スル代リニ、一時三箇ノ起立管ヲ送水スヘシ、即チ供給水量四分ノ三ヲ得、而シテ若シ又C或ハD部ニ於ケル三十三吋起立管ノ破裂セハ、其破裂セシ部ハA及Bト交通セシメ、而シテABモ互ニ相交通セシメハ、三部共ニ受クル全量ハ供給水量三分ノ二ナリ。
 第四、若シ水塔ノ一時動キヲ止ムルコトアラハ、其所在ノ部ハ蒸滊器械ヨリ直接ニ給水ヲ得ルナリ。
 此レハ水ヲ水桶ニ上ケスシテ、起立管ヨリ直チニ給水本管ニ注入スル様、水塔ノ底部ニアル仕掛ニヨリテ為スヲ得ルナリ。
 第五、一時高区ト低区ヲ接続スル水管ノ弇ヲ開ヒテ、両地ノ水ヲ交通セハ、水ノ底部水塔上水桶ニ昇ルヲ停ムヘシ。
 第六、A又ハB部ニ於テ水塔内水ノ圧力ニテ、水力不充分ナル位ノ高所ニ於テ失火スルトキハ、一時水ノ該水塔ニ昇ルヲ閉切リ、蒸滊喞筒ヲシテ直接ニ給水々管ニ送水セシムルヲ得ヘシ。
 第七、又防火ノ為メ、C或ハD区ニ於テモ、尚水圧ノ増加必要トセハ、A或ハBノ高部ト一時水ヲ交通セシムヘシ。尤モ其節ハ両部ノ交通管ニ在ル止水弁ヲ開クモ、低地ニ在ル水塔上ノ水ノ昇ルヲ閉ツヘシ。
前条ノ仕組ニテ、貴下ハ完全ナル配水法及防火法ヲ得ヘク、破損ニ向ツテハ充分ノ予備アリ。即チ一部ノ一時破損スルコトアラハ、其近隣一部或ハ二部以上ヨリ扶援スルコトヲ得ルナリ。
    第八章 配水法
二十五万人ヲ有シ又ハ有スト定メタル面積ニ給水スル都府ノ給水本管ハ、二十五吋ノ直径ヲ良トス、次ノ給水管ノ径ハ十六及十吋ナリ、是レ八万人及二万七千人ニ適当ス。量水器ヲ設置スヘキハ、直径六吋ノ水管ニシテ、凡ソ七千人ノ区ヲ供給スベシ。支街ニ敷設スル小管ハ、其径四吋ナルヘシ。防火栓ハ直径十六吋以下ノ水管ニ附置シ、而シテ完全ナル法ニヨレハ、全市街中三百呎ノ距離ニ配置セサルヲ得ス。家用水及市街用水ハ、只六吋管及四吋管ニ限リ、其給水ヲ取ルベシ、諸水管ニ附置シアル止水弁ノ配置ハ、圧力ヲ要スル場処ニ向テ圧力ヲ集合シ、而シテ冗費或ハ洩漏ヲ発見シ、又ハ修繕ノ為メニ、小面積ヲ区別シテ水ノ流通ヲ停メル様セサルヘカラス。
配水管及之レニ要スル諸器ノ費用計算ハ前述ノ事情ニ基クモノナリ、右計算ハ実際極限人口二百万人ニ配水スルニ充分ナリトス。最モ当今人民ノ居住セサル市街ニ延長シテ、而シテ家屋新築ノ漸々区外ニ布延スルトキハ、随テ増立スヘキ水管等ノ費用ヲ除ク。然レトモ此費用ハ当初ノ資本ニ比スレハ極小額ナリトス。商店又ハ事務所ヲ有スル如キ総テノ上流社会ニハ、市街小管ニ鉛管ヲ取付ケ、以テ其家屋事務所等ニ水ヲ取ルヘシ(横浜ニ於テ現今大ニ行ハルヽ如ク)。而シテ如斯接続等ノ費用ハ、費用者其一部ヲ払フノミ、此場合ニ於テハ用水ノ代金ハ、水税トスルカ又ハ家屋ニ設置スル小形量水器ニヨリテ、各戸ニ於テノ費水量ヲ以テ勘定スヘシ、上法ニ依ル能ハス而シテ其住家ハ此法
 - 第15巻 p.288 -ページ画像 
ニ適セサルヲ以テ、横浜ノ裏町ニ何時ニテモ一見シ得ル如ク、共同水取場ニヨリテ供給スルヲ得ルナリ。此水取場美形彩色アル鋳鉄製円柱ニシテ、各柱自閉手柄《ハンドル》ヲ有ス。横浜ニ於テ施行スル法ハ、此水取場ノ近傍ニ住スル凡二百人ノモノ団結シテ一小組合ヲナシ、而シテ其中ヨリ二人頭分ヲ指命ス、此頭分ハ県庁ニ伺テ、一月或ハ三ケ月分水取場使用料ヲ払フヘキ責ニ任ス、此使用料ハ水代一ガルロンニ付、金何と容程ト消費水量ヲ予算シテ定メシモノナリ、頭分ハ各戸ヨリ之ニ応スル用水料ヲ集ムルヲ以テ、県庁ハ水代ヲ集ムル手数ヲ省キテ、日本都会貧民ノ間ニ流行スル処屡々転居シ、以テ水代不納ヲ来スノ懸念ヲ省クモノナリ、余ハ東京ニ於テモ稍横浜ニ似タル方法ニ做ハンコトヲ仮定シ余予算中二千箇ノ水取場ヲ見込メリ、府下ノ貧民社会ノ住居ニ於テハ三百呎乃至四百呎ヲ隔テヽ之ヲ設ケサルヲ得サルヘシ。
三百呎ノ距離ニ於テ防火栓ヲ設クルハ、失火延焼ヲ防クニハ最モ充分ナルヘシ、此三百呎ノ距離ハ、世界中第一位ニアル水道工事ニ施設シアル距離ナリ。諸処ノ市府ニ於テハ、其距離四百呎ナルモノ、或ハ五百呎ナルモノアリ。然レトモ斯ク距離ヲ遠サケテ以テ得ル処ノ費金減省ハ、水道工事ノ全費類ノ極小部分ニシテ、其距離ヲ短縮シテ得ル処ノ利益ハ極メテ大ナリ。距離ヲ遠サクルハ甚タ疑ハシキ法ナリ、四吋水管ニ附設シアル各防火栓ハ、二吋四分ノ三径ノ二箇ノ防火蛇管ニ適当シ、而シテ一吋四分ノ一管ヲ用ユレハ、用水本管中ノ圧力即チ水頭ノ五割乃至六割ニ同シキ高サニ水ヲ注射シ得ヘシ。
第五号図面ハ府下一部ニ於テ水管及其他ノ要ヲ配置スヘキ方法ノ説明ヲ示ス。
    第九章 諸工事
前述ノ工事外ニ四部ノ各部中、倉庫仕事場等ヲ有スル該部水道局建設費ヲ予算中ニ振込マサルヲ得ス、此等ハ欧洲風ノ煉瓦造リニシテ、工事庶務器械撿査等、其他ノ諸掛リ員詰所トス。D部ハ中央局ノ場所ナルヘキヲ以テ、中央本部役員ノ詰所ヲモ要ス、即本部総取締役技師長会計主任、及其ニ附属スル書記及事務員ノ詰所ヲ要スヘシ、四箇ノ水道局、四箇ノ水塔及戸田邸ノ水揚場ハ、悉ク伝話線ヲ通スヘシ。戸田邸水揚場ハ、伝話線ヲ以テ当羽村ノ引水場ト相通セシメ、而シテ上水畔ノ番人詰所ヘモ、凡ソ三ケ所即チ七哩ノ距離ニテ通セシムヘシ。
    第十章 概略予算
此ノ予算ノコトニ付テハ、是レ真ニ概略ノモノニシテ、此ノ概略ナル予算ハ、七事ニ依リテ立テシモノナルコトニ注意スルヲ要ス。
 第一、輸入品其他ハ外国ニ於テノ支払ハ、銀貨一円ニ付英貨三シルリンク二片ノ平均割合トノコト。
 第二、供給品ニ付総テ重要ナル請負定約(予算書第二款ノ一条ヨリ六条ノ如キ)、直接ニ発起人ト英国製造人ノ間ニ取極メ、仲買人ノ手ヲ経サルコト。
 第三、製造鉄及他ノ輸入品ノ大ナル条款ニ示シタル代価ハ、目下ノ代価ト余リ変動ナキコト。
 第四、英国ヨリ日本迄ノ船賃ハ、前二三年間通常ノ通リタルコト。
 第五、本邦材料労力ノ代価ハ、当今ノ相場ヨリ多ク変セサルコト。
 - 第15巻 p.289 -ページ画像 
 第六、海関税ハ送状面代価ノ五分以上ニ平均上ラサルコト。
 第七、高価ナル請負品ハ日本ニ於テ交付スルコト。而シテ製造人ハ船賃保険料其他請負品ニ付、種々ノ入費及廻送中ノ出来事ヲ担任スルコト。
工費概略予算ヲ分テ二節トス、第一ハ労力材料等本国ニ於テ支払フヘキモノトス、是等ノ輸入品予算価格ハ、都テ東京迄ノ運搬費モ見積リシモノニテ、内訳書壱ニ於テノ鋳物等ハ、実際ノ量ヨリ聊カ過分ニ積リアリ、亦水管ハ破損ノ予備トシテ、金額ノ百分ノ壱半ヲ増シアルナリ、同二ニ於テモ材料諸器ノ予備トシテ、各相当ノ増加見積リアルト知ルヘシ。
      第一節
全工事ニ付国内入費
  但、喞筒及其抽水蒸滊器械ノ建家ヲ除キ、而シテ輸入品ノ価値ヲ込メス。
 第一款、引水場及運河工事ノ入費金弐万四千円。
  但、此内ノ羽村ニアル堰及水門ノ新築費、支流ノ水門新築費、運河番人ノ詰所建築ノ入費ヲ込ム。
 第二款、七万壱千噸ト算定セル輸入品ヲ受領シ、監察シ、貯蔵シ、配分スル諸入費金五万円。
  但、此内陸揚ノ埠頭料・積置処料・倉敷料・仮役所費及其他諸入費ヲ込ム。
 第三款、戸田邸ニアル水ヲ清浄ニシ、及水ヲ汲ミ揚クル工費金百八万六千円。
  但、此内ニ流入運河八個・沈澄池十個・濾池一個・量水池二個及其他ノ附属物ト、工事中所要ノ器械及仮工場、並ニ場所(即十万坪)ノ買入・地均シ・樹木植付・柵結・道路・下水及水ハケ砂土貯蔵場、又洗濯場ニ供スル庇屋、及日本様ノ掛員ノ詰所(千八百坪ニ算用ス)建築ノ諸費ヲ込ム。
 第四款、水管ノ水栓・水弁・水門・共同水汲場測水器、及其他ニ関スル費用金拾八万円。
  但、此内ニ已ヲ得サルトキニハ、土地ノ購入費及家屋ノ移転費、器具修繕ノ為メ鍛冶場ノ建造及維持費、及河運河等持越ス為メ橋及他ノ支工場ノ建築費、街道ニアル水弁・水栓等ノ位置ヲ示ス為メ標石設立費ヲ込ム。
 第五款、水塔費即チ府下四ケ所地所購買費及囲ヒ費、其土基及四個水塔ノ完全建設費、並ニ其水塔ニ要スル水桶水管及他器具ノ据付費共、金拾九万五千円。
 第六款、凡例ニ於テ述ヘタル測量費、測量器械・製図器械及他ノ諸器械費、器具ノ購買及修繕、必用ナル伝話機線ノ建設、四区部水道局ノ地所ノ購買、及其囲ヒ、及其建築及飾リ付ケ、工事中事務所トシテ家屋借入費、而シテ諸般ノ不時ノ出費、金拾弐万弐千円。
 第七款、管理費、日本及外国僚属ノ給料及其旅費、借家料、技術長ノ謝礼金、内外国電信料悉皆、印刷郵便及役所費金弐拾弐万円。
 第八款、日本ニ於テ交付スル送状面代費凡五十四万七千磅ト算出シ
 - 第15巻 p.290 -ページ画像 
タル輸入品ニ対スル五分ナル海関税ハ先ツ金十七万弐千円。
 合計 弐百五万円。
  預備費トシテ加フヘキ五分拾万弐千五百円。
 総計 弐百拾五万弐千五百円。
 工事落成ノ後空地器具残物等ノ売却金額壱万五千五百円。
 第一節ノ差引合計 弐百拾三万七千円。
      第二節 輸入品其他
 第一款、水管鋳物、総テノ通常管及各種ノ格別水管塗リ及仕上ケ、「フランシ」ノ孔揉ノ面均シ、其ニ用フル繋桿及女螺旋、赤白鉛直径十寸以上ノ管ノ「スビゴツト」端ヲ籰掛スルコト(運送中ノ破損ヲ防ク為メ)、除水及験管喞筒ノ悉皆入用品、其他管ヲ据付ル為ニ用フル諸道具ノ費用共、金三拾七万五千磅。
 第二款、水理要具、総テノ緊要ナル高圧螺旋止水弁・三吋球形防火栓・市街直立管・水取場用貯水池及水門動量及他ノ諸弇量水器・市街器具用諸箱・防火栓ニ要スル銅製直立管・引水場及浄水工場ニ於テ要スル弇及水門ヲ動ス為ノ聯動器・前工場ノ全部ニ要スル総体ノ鍵及他器具、金四万壱千磅。
 第三款、ホート、ランド、セメント壱万弐千八百噸、金五万二千四百八十磅。
 第四款、水管接合ニ要スル荒鉛一千百五十六噸、金壱万七千三百四十磅。
 第五款、水管塡料ノ為ニスル清潔ジユート五十二噸、金九百五十三磅。
  合計 金四拾八万六千七百七十三磅。
 第六款、蒸滊水揚器械費、金四万七千百廿五磅。
  但、此中ニ喞筒蒸滊器械滊鑵吸込及吐出、総テノ弇、空気槽継キ目横断器管及他ノ仕掛ケ、並ニ石炭入場等、都テ此等機械建家全部ヲ完全ニ組立テヽ、仕事ノ差支ヘナキ迄ヲ込ム、七百二拾五実馬力ナリ。
 第七款、諸種ノ輸入品入費、金三万磅。
  但、此等物品ハ善良ナル鶴嘴、大杓子、泥杓子、人工用及蒸滊揚重器、滊圧揚水器、適当ナル綱具等、又トコービル半メートル軌間鋼鉄軌条車三十個付、セメント試験器械、重量ノ管ヲ市街ヲ運送スル為メ「バイフホイムス」撿測器、温出ニ要スル溲出器、水塔用ノ水桶・水管弇及他ノ鋼鉄又ハ錬鉄細工、市街本管ニ鉛管ヲ附着スル為メノ器具及鉛管五十呎、停水弁二万個及諸用ニ要スル他ノ附属品共。
   合計 金五十六万三千八百九十八磅。
 第八款、一般ノ管理費、金壱万千二百磅。
  但、之レハ事務代理者及工業代理者ノ費用、即チ輸入品ノ製造・監察・試験・荷造リ・舟積等、殊々ノ熟練アル両者ニ給スヘキ費用、又同輸入品製造中監察官ニ依テ吟味サレタル入費及請負事務所・印刷・郵便・電信・旅費及其他ノ諸費、並ニ日本ヘ雇入ノ外国人ノ英国ヨリ往復旅費。
 - 第15巻 p.291 -ページ画像 
   合計 金五拾七万五千九十八磅。
 予備費トシテ前合計ノ二分五厘、金壱万四千三百七十七磅。
 第二節ノ総計 金五拾八万九千四百七十五磅。
 之レヲ円ニスレハ 三百七拾弐万三千円。
    摘要
  第一節ノ計 金弐百十三万七千円。
  第二節ノ計 金三百七十三万三千円。
   合計 金五百八十六万円。
貴下ヨリ御通知ニ従ヒ、余ハ前予算中ニハ、此回水道ノ為メ玉川運河水利権ヲ得ルタメニ要スル出費ヲ記入セスシテ、東京市中ヘ正当ナル水ヲ供給スルコトヲ成就スルニヨリ、支流ヨリ引用スル水利権ハ(慣例ニヨリタル水利権或ハ殊々設ケタル水利権共)消滅セサルヘク、或ハ(正当ナル用水量ナレハ)減省セサルヘク、出費セスシテ全所有権ハ好都合ニ貴下ニ帰ス可シト仮定ス。偖、然ラハ第一等水道工事概算費用合計ハ五百八十六万円ナリトス、此レハ一人一日水量二十ガルロンノ割合ニテ、直ニ百三十三万三千三百三十三人ヲ供給ス、故ニ一人ニ付、最初ノ平均入用費ハ四円三十九銭五厘、即英貨十三志十壱片ナリ、之レ水道総計表ニ熟スル人ノ知ル如ク、実ニ非常ノ廉価ナリ、然リト雖トモ水道工事ノ重要ナル部合ハ、実ニ一人一日二十ガルロンノ水量ニテ、二百万人口ニ供給スヘキ様算用シ、而シテ此大数人員ニ充分適用センニハ、只四個ノ濾池ヲ増設シ、喞筒蒸滊器械ノ滊鑵力ヲ増加シ、現今ノ東京府境界外ニテ、二百万人口ニ達スル前ハ、人家ノ繁密スル地ニ配水管及他器具ヲ延長シ、而シテ多分運河水流ノ一秒時十三立方呎ノ水利権ヲ買得スル為メニ相当ナル出費ヲ要スルノミ、爰ニ金三十四万円ヲ此ノ附加スベキ出費ノ合計ト見做サハ、其以内ニテ事足ル可シト信ス、然レトモ右出費ヲ三十四万円トスレハ、弐百万人ノ給水ニ足ル工事ニ適スルニハ、極点全計ハ五百八十六万円ト三十四万円ノ和、即六百十万円、此ノ金額ニヨレハ一人ニ付テノ極点平均費用ハ三円拾銭、即九志十片ニ減ス、之レ欧洲ノ諸国都府ニ於ケル平均費用ト比較セハ、殆ント賤笑スヘキ程ノ低価ナリ。
偖、計画工事ニ立帰リ、余ノ水塔有無ニ関シテ本事業ノ費用比較ヲ高覧ニ供スル為メ、本報告書四十頁ニ於テノ陳述ヲ委読セハ、余ハ此等水塔ヲ建設セサレハ已ムヲ得ス水揚ケ容量ヲ増加セサルヘカラス、然レトモ此等水塔建設ヲ廃止スルニヨリ純粋減少スヘキ金額ハ、大凡廿四万円ナリ、即前ノ概略予算ヲ五百六十弐万円ニ減却スヘキナリ、尚其他ノ小節減タトヘハ防火栓ノ数ヲ減省スル如キコトニ依リテ節倹セハ、本工事ヲ施行スルニ金五百六十万円ニテ事足ルヘシ、此外ニ尚一ツ減額スヘキコトアリ、是ハ沈澄池ノ大サヲ可成的少縮スルニアリ、然レトモ此事ニ付テハ余已ニ陳述セシ如ク、強雨中及ヒ其雨後ニ付テハ、余親ラ玉川上水ノ混濁度ヲ撿定スル迄ハ、信用ニ足ルヘキ説ヲ吐露スル能ハス、然レトモ玉川ノ如キ日本ノ諸河川ノ性質ヲ見ルニ、通常ハ其水頗ル清明ニシテ、強雨ノ為メ混濁スルコト稀レニ、且其混濁スル時間ノ如キモ、唯数日ニ亘ルノミ、依テ今後沈澄池ヲ皆無ニスル能ハサルモ、其容量ヲ減少シ、金額ニ対シテハ二十七万円程ヲ減省ス
 - 第15巻 p.292 -ページ画像 
ルヲ得ヘシトノ企望ナキニアラス。
前理由ニ依リテ観レハ、前概算ハ五百八十六万円ナルモ、好都合ト水塔ノ廃除ニヨリテ、五百三十三万円ニ低減シ得ルカモ計ラレス、畢竟スルニ余ハ貴下ノ資本ヲ五百六十万円トスルカ、又ハ其以上ト仮ニ確定センコトヲ勧告セサルヲ得ス、然ラハ沈澄池ノ面積ヲ減少シ得ルヤヲ研究シテ、若シ之ヲ実施シ難キ場合ノ外ハ、水塔ノ廃除ヲ必要トセサルナリ、故ニ余ハ左ノ会計算当概略ニ於テハ、資本金額ハ五百六十万円ト仮定スヘシ。
    第十一章 将来ノ会計
今水道工事ノ会計算当ノ講究ニ当リ、該工事ノ当初資本ハ五百六拾万円ト仮定セン、其後年々ノ費用即水代ノ基ツク処ハ、左ノ三目ニ分ツヘシ。
 一、営業費及維持費
 二、資本金ノ利子
 三、予備積立資
営業費及維持費 技術員及事務員ノ給料ヲ此内ニ込ム、事務員数ハ此回ノ如ク大工事ニアリテ、已ムヲ得ス夥多ナラサルヲ得ス、余ハ設計通リ正確ニ此回事業ヲ全工事及其事務ヲ施行スルニハ、上下共ニ四百二十人ヲ要スルモノト算用セリ、其給料ハ概略左ノ如シ。
 引水場及運河掛員         一ケ年ニ付
                  四千三百八拾円
 浄水工事掛員           〃
                  三千二百四拾円
 水揚場掛員            〃
                  壱万八千円
 水道局、水塔、及市街一般掛員   〃
                  五万九千五百廿円
 理事役              〃
                  九千八百六十円
  給料ノ合計           九万五千円
次キハ維持費・修繕費・道具費・新濾砂費・総体局費・旅費及其他臨時費ナリ、即チ左ノ如シ。
 引水場及運河           一ケ年ニ付
                  弐千百弐拾円
 浄水工事場            〃
                  三千八百円
 抽水揚場             〃
                  三千四百円
 水道支局費            〃
                  九千六百八拾円
 水塔費及配水工事費        〃
                  六万円
  合計維持費           〃
                  七万九千円
第三石炭費・油費・喞筒ト蒸滊器械用品費、即チ
 蒸滊用石炭五千噸、一噸ニ付金六円 一ケ年ニ付
                  金三万円
 蒸滊器械用品費、油費及糸屑等   金三千円
  合計水揚費           金三万三千円
因テ営業及維持費ハ左ノ如シ。
 給料              一ケ年ニ付
                 金九万五千円
 維持及修繕費          金七万九千円
 水揚費             金三万三千円
  合計一ケ年          金二拾万七千円
資本ノ利子 此レハ一ケ年七朱トセハ即チ
 一ケ年 金三拾九万二千円也
 - 第15巻 p.293 -ページ画像 
予備資本 鋳鉄ハ其内部及外部ノ酸化ヲ拒ク当今ノ方法ニヨリ、大ニ長寿ナルモ、水管及工事ノ諸部ニ使用スル他ノ器械等、将来ノ傷損ヲ防ク為メニ予防ヲ見込マサルヘカラス、毎年ノ終リニ金三万七千五百円ヲ残シ置キ、五朱ノ利ヲ付シ、年々其利子ヲ共ニ積立テ置カハ、三十三年ノ終リニハ金三百万円余ノ金額トナルヘシ。已ニ工事維持費及器具修繕費トシテ、年々夥多ノ金額ヲ便用ノ途ニ充ツルヲ以テ、余ハ前金額三百万円ハ、三十三年ノ後ニ生スヘキ新造ヲ要スル部分ノ新造費ニ充テ、其際人口増加シテ二百万ヲ超ユレハ、工事ヲ拡張スルニ充分ニ過余ナルヘシト思考ス、余故ニ年三万七千五百円ヲ予備積立金トスルコトヲ勧告ス、年々ノ金額前出金額ニヨリ年々支払フヘキ全金額ハ左ノ如シ。
 営業及維持費          一ケ年ニ付
                 金二十万七千円
 資本金ノ利子          〃
                 金三十九万二千円
 予備積立金           〃
                 金三万七千五百円
  合計             金六十三万六千五百円
水代 此合計支払金ニ対シテ貴下ハ年々水量ヲ売ルモノトス。
 九十七億三千三百三十三万三千三百三十三「ガルロン」ナリ
故ニ水量一千「ガルロン」ノ売渡代ハ、概略平均金六銭五厘四毛、此レヲ英貨ニ直セバ一千「ガルロン」毎ニ二片半以下ナリ、此価ノ最モ法外ニ廉ナルハ言ヲ俟タス、此ノ価ハ現今横浜人民ノ悦ンテ同地用水ニ支払フ所ノ価ノ三分ノ一ヨリ少シテ、英国竜動用水ノ平均価ノ三分一少強ナリ、当今ノ学理ニ基イテ給水ヲ得ル印度貧民社会ノ支払フ水代ト殆ント相同シ、尚又現今東京人民ノ直接又ハ間接ニ其用水ニ支払フ代価ヨリモ遥カニ廉ナラン、何者一ケ月一人ニ付金四銭ヨリモ廉ナレハナリ、当今井戸ヨリ汲水スル為メノ労力・縄具及水併入費《ツルベ》・井戸ノ損料及修繕費・浴場ノ為メ間接ニ湯屋ニ支払フ金額、汚水飲用ノ為メ不健康ヲ招キ、為ニスル労働日子、流行病時ノ死亡及損害、薬価診察料ニ消費スル金額、適当ナル防火法ノ設ケナキカ為メ、年々焼亡スル莫大ナル財産等ヲ思考スルトキハ、僅カ一年一人ニ付金四十八銭ノ平均出費ヲ以テ、強圧力ヲ有スル健康良水ノ充分ナル供給法ヲ東京ニ備フルモノナレハ、府民ハ之ヲ莫大ナル公供ノ施恵及便利ナリト感謝シテ、之ヲ喜接スヘキ筈ナルコト疑ヲ容レサルナリ。貴下又前金四十八銭ナル一人ノ出金ハ、平均出金ナルコトヲ心ニ体スヘシ、凡テ善ク管理行届キタル水道会社ニ於テハ、用水支払金ニ付、貧民ノ負担ヲ軽カラシムルニ、該支払金ノ割合ヲ其ニ応シテ配付スルコトヲ通例トナスヲ以テ、東京ノ貧民ノ負担モ幾分カ軽減スヘシ、社会諸種ノ人民ノ支払代価ハ、或ル方法ニヨリ又或ル定度ニ達スルマテハ、其購買力ニ相当スルモノナリ、英ニテ水税ハ用水者ノ住居スル家屋ノ税法ニヨリテ、定メテレタル屋賃ノ分割ヲ以テ課スル法ヲ通常トス、故ニ一年百磅ト(財産税持ノ為メニ)評価サレタル家屋ニ住スル市民ハ、一ケ年五十磅ト評価サレタル家屋ニ住スル市民ヨリハ、二倍ノ用水税ヲ払フモノトス。又噴水用水・花園用等ノ如キ贅沢用、並ニ船舶用水・牧馬用・家蓄用《(畜)》・車用等ノ如キ利益アル収入アリテ、皆貧民ノ負担ヲ軽減スヘシ。尚又日本ニアリテハ貧民ハ浴湯料ノ一部トシテ(調度現今貧
 - 第15巻 p.294 -ページ画像 
民ノ支払通リ)湯屋ニ間接及不感覚ニテ自分共ノ出費ノ金三分ノ一ヲ支払ヘリ、而シテ各浴湯ノ使用スル七「ガルロン」ノ水代ハ、凡ソ壱銭ノ二十分ノ一ノミ、即半厘ヨリモ尚ホ少キヲ以テ、新給水事業ノ為メ湯屋ハ其湯銭ヲ上ケルヘキ理由ナキナリ。前述ノ事実ニ依リテ之ヲ算定セハ、貧民ノ水税ハ一ケ月一人ニ付金二銭位イニ充分減省スルコトヲ得ヘシ。
余ハ前述ニ於テ、当初ノ収入ハ百三十三万三千三百三十三人ノ購水者ニヨリ納メラルヘキコトヲ仮定セシコトハ、貴下ノ御承知ノコトナラン、然ルニ余ハ第六頁ニ於テ人口ハ千八百九十四年即チ水道工事開業ノ後二年迄ニハ、多分右ノ員数ニ達セサルヘシト陳述セリ、然レトモ余ハ故ラニ百三十三万三千三百三十三人トシ積レリ、何ントナレハ当初人口ハ百三十三万三千三百三十三ノ員数ニハ多分五万或ハ六万位ハ不足ヲシケレトモ、之レニ反シテ営業費ハ前見積中ニ記入セシ算用数ヨリハ幾程カ低少ナルク、工事ニ用ヒタル各物品モ、新調ノモノナレハ、当初数年間維持費及修繕費ハ僅少ナルヘケレハナリ。
尚頭ヲ回ラシテ前途ノ有様ヲ推察シ、水道事業ノ拡張シテ人口二百万ヲ供給スル極点度ニ達セントキハ、本事業ノ形況ハ如何アルヘキカヲ思考スルニ、若シ百三十三万三千三百三十三ノ用水者ノ一年ニ付一人平均用水料ハ、凡ソ金四拾八銭ニ相当シ、用水平均料千「ガルロン」ニ付金六銭五厘四毛ナレバ、余ハ貴下ノ五百六十万円ノ資本金ニ対シテ、一年毎ニ七分ノ金利ヲ支払フコトヲ得ルヲ知レリ、二百万人ニ応スル迄本事業ヲ拡張スル為メ、入費ハ三十四万円ナルヲ知レリ、此金額ヲ貴下ノ資本金中ニ附加スルカ、又ハ其入費ハ漸次入用ノモノナレハ、絶ヘス増加スル用水ノ揚リ高ヨリ直接ニ之レヲ応スルヲ得ヘシ、然ルトモ余ハ目下ノ処テハ、此金額ハ資本金附加セルモノト仮定スヘシ、即チ資本金ハ五百六十万円ヨリ五百九十四万円ニ増加セシモノト見做スヘシ、左スレハ又石炭消費額モ尚増加シ、蒸滊器械用品モ増加シ、給料及維持費モ相当ナル増加アルヘシ、此ノ場合ニ於テ収支予算ハ左ノ如シ。
    営業費及維持費
 給料        一ケ年ニ付
           拾壱万弐千円
 維持費及修繕費   〃      二拾五万五千円
           九万四千円
 水揚費       〃
           四万九千円
 五百九十四万円ニ対スル七朱利子  四拾壱万五千八百円
 予備積立             三万七千五百円
  合計 七拾万八千三百円
 千「ガルロン」ニ付金六銭五厘四毛ノ割合ニシテ
 百四拾六億「ガルロン」ノ収入金九拾五万四千八百四拾円
  差引計算剰余        二拾四万六千五百四拾円
此差引残額ヲ適用シテ用水料ヲ減少スルヲ得ヘク、又ハ株主ノ利益配当金ヲ増加スルヲ得ヘク、或ハ前者両様ヲ増加スルヲ得ヘシ。
貴下ハ用水ノ代価千「ガルロン」ニ付金五銭ニ引キ下クヲ得ヘシ(即一人一ケ月ノ平均水代凡ソ金三銭ナリ)。
尚利益配当金一ケ年凡ソ七朱三分ニ上ルニ充分ナリトス、又千「ガル
 - 第15巻 p.295 -ページ画像 
ロン」ノ水代ヲ金六銭ニ低減セハ(一ケ年一人金四拾三銭八厘)、貴下ニ於テ一ケ年凡ソ八朱三分三厘ノ利益配当ヲ払フヲ得ヘシ、又水代ヲ低減セス元ノ侭ニ据置カハ、利益配当金ハ一ケ年一割一分少余ニ当ルヘシ。
前述ノ適要ハ左ノ如シ。
 第一、当初ニ於テ、貴下百三十三万三千三百三十三人ノ用水者ニ対シ、千「ガルロン」毎ニ平均金六銭五厘四毛ノ水代ヲ徴集セハ、一ケ年毎ニ七分ノ利益配当費ヲ得ヘシ。
 第二、人口増殖ニ随フテ会社ノ会計上ニ確乎タル改良ヲ見ルヘシ。
 第三、貴下ノ用水者ノ員数二百万ニ達スル時ニハ、左ニ挙ケタル三事ノ内一事ヲ取ルヘキハ至当ナリ。
  天、前述ノ水代ヲ其侭据置カハ、凡一割一朱七分一ノ利益配当金ヲ得ルコト。
  地、用水平均代価ヲ引下ケテ、千「ガルロン」毎ニ金六銭トセハ凡ソ八朱三分ノ一ノ利益配当金ヲ得ルコト。
  人、用水平均代価ヲ引下ケ、千「ガルロン」毎ニ金五銭トセハ、凡ソ七朱三分ノ一ノ利益配当金ヲ得ルコト。
    結論
余ハ今用水ヲ以テ東京ニ供給スル最良法ニ付、其目的ヲ達スル工事ノ大体ノ有様ヨリ、全体ノ工費予算及会計ノ将来ニ付テ、余ノ考按ヲ表示スルコトノ責任ヲ尽セリト思惟ス、今後尚研究セハ、工事ノ大体ヲ変セス、又其費用ヲ増加セサルモ、此報告書中ニ計画シアル細部ノ中多少変換スルコトモアルヘキハ、貴下若シ自ラ本工事ヲ計画スルノ位置ニアルモ知ルヘキナリ。玉川上水及其支流ノ水量、其混濁ノ度及其貴重ナル水量使用ノ途ニ付キ、東京府ノ記録ハ明晰ナル統計表ヲ含有セサルヲ遺憾トス。然レトモ已ニ述ヘシ如ク、貴下ノ東京供給水ノ水源トシテ、安全ニ該上水ニ依頼シ得ルハ、余ノ確言スル所ナリ。而シテ将来ノ研究以テ細部ノ疑点ヲ悉皆除盪スヘシ。尚余ハ現今水管及其他鉄造品ハ格外ニ廉価ナルヲ以テ、現時ハ鉄市場ハ水道工事ノ建設ニハ大ニ好都合ナルヲ爰ニ附言スヘシ。
余カ廃棄セラレタリト了知スル彼ノ放誕ナル説、即チ羽村ニ於テ水浄ナラシムルノ工場ヲ設ケ、圧力ヲ附シ、鉄管以テ市中ヘ給水スヘシトノ説ニ付テハ、余ハ此法ヲ用ヒナハ、平均消費水量ノ充分二倍アル最大消費高ノ水量ヲ送ル為メニ必要ナル諸種ノ仕組ヲ解明シ、以テ直ニ之ヲ廃除スルヲ得ヘシ、何者此法ハ畢竟スル処三呎直径ノ水管ヲ七重敷設セサルヘカラス(六呎半直径ノ一管ト同シ)、此レ羽村ヨリ東京迄本水道ニ用フル水管ノミニテモ、鋳鉄ナラハ東京着ニテ要スル費用凡百三十万磅(即チ八百二十一万円ナリ)、之ヲ詳ニスレハ前文計画ノ工費金額ヨリ多キコト三割八分ナリ。若錬鉄カ又ハ軟鉄ナラハ(此等ノ材料ハ説明中ノ如キ用水本管ニ用ヒ能フナリ)、東京着ニテ其代価ハ九拾八万磅即チ先ツ六百十八万九千円ヨリ少ナカラサルヘシ、此ノ二様ノ場合ニ於テハ、水管ノ運送据付・管路ノ土地ヲ買上ルコト、其他ノ費用ノ為メ、他ニ甚タ大ナル出費(全額ノ二割位)ヲ蒙ルヘク、而シテ落成ノ期ハ大ニ延引スヘシ、然リ而シテ此ノ全出費ニ対シ得ル処
 - 第15巻 p.296 -ページ画像 
ノ利益ハ、只資本金額ノ内此設計ニ於テ水揚器械及ヒ年々ノ水揚費用ヲ償フノミ、此ノ全金額ハ十六万磅ニ超過セサルヘシ。
若シ貴下ニ於テ東京給水工事ノ施行ヲ必要トセハ、延長ナル鉄管水路ノ放誕ナル計画ヨリモ、羽村ヨリ戸田邸迄一秒時七十五立方呎ノ水量ヲ送ル様ニ算用シタル永久ノ堀割水道ヲ設ケ、戸田邸ニ於テ清浄ニシ以テ市中ニ送ル方最モ廉ナリ、此堀割水道ハ六十万円ニテ結構ニ敷設スルヲ得ヘシ、然レトモ目下運河ノ存在スルニヨリ、貴下幸ニモ其出費ヲ免カレシモノナリ。
終ニ臨ンテ余ハ此ノ報告書ヲ立按スルニ於テ、余ヲ扶助セシ統計其他ノ材料ヲ余ニ示セシコトニ付テ、東京府技師倉田吉嗣氏、並ニ余ヲ種種補助セシ日本土木会社ノ粟屋氏ニ感謝ノ意ヲ表スルモノナリ。
  千八百八十八年一月   英国工兵少将土木工師
                ヱツチ・スペンサー・パーマー
    渋沢栄一殿 大倉喜八郎殿
乙号
    水道会社収入予算説明書
今般東京府下十五区内ニ純良ノ浄水ヲ供給スルノ目的ヲ以テ、水道布設事業ヲ発起シ、先ツ其水料収入額ヲ調査シタリ。即チ其ノ調査ニ拠レハ、水料収入全額ハ一ケ年金六拾二万九千五百十七円三十九銭七厘ニシテ、其内訳左ノ如シ。
 一、金六拾二万九千五百拾七円卅九銭七厘 壱ケ年水料収入全額
    内訳
 一、金弐拾九万七千四百〇五円六拾銭   放任供給水料収入高
 一、金拾四万〇三百廿九円四拾四銭    共用栓水料収入高
 一、金四万五千三百三拾四円四十五銭七厘 防火栓水料収入高
 一、金壱万八千七百四拾三円九拾六銭   撒水料収入高
 一、金九万〇九百五拾四円        営業用水料収入高
 一、金壱万四千弐百七拾四円       泉水々料収入高
 一、金四千五百九拾九円         馬疋用水料収入高
 一、金九千六百〇一円九拾四銭      官衙学校及病院用水料
 一、金四千〇三拾弐円          銀行諸会社用水料
 一、金壱千七百五拾弐円         蒸滊機械設置会社用水料
 一、金弐千四百九拾円          自家用防火栓水料
右各項目ノ水料収入ハ、陸軍省・警視庁・東京府ノ調査ニ係ル各種統計表ト、横浜水道事務局掛官ノ実験説トニ拠リテ、算定シタルモノナリ、今其算定法ノ大要ヲ説明スルコト左ノ如シ。
一、金弐拾九万七千四百〇五円六拾銭 放任供給水料収入高
 本年六月中警視庁ニ於テ調査シタル現住者戸数表ニ拠レハ、府下十五区内ノ総戸数ハ二十壱万五千〇八十五戸ニシテ、此内現住人員四人未満ノ戸数十万〇六千余戸、七人未満ノ戸数八万一千余戸、十人未満ノ戸数一万九千余戸、十五人未満ノ戸数五千四百余戸、二十人未満ノ戸数九百八十余戸、三十人未満ノ戸数三百八十余戸、三十人以上ノ戸数百五十余戸アリ。依テ此戸数中、現住人員七人以上ノ戸数ヲ以テ放任供給ニ依頼スル者トシ、六人以下ノ戸数ヲ以テ共用栓
 - 第15巻 p.297 -ページ画像 
ニ依頼スル者トセリ。是レ畢竟現住人員六人以下ノ戸数ハ、概シテ放任供給ニ依頼スヘキ資力ナキ者ト認定シタルニ因ル、但シ十人未満ノ戸数中ニモ放任供給ニ依頼スヘキ資力ヲ有セサル者ナキニシモアラサレハ、仮ニ其全戸数ノ三分ノ一ヲ共用栓ノ戸数中ニ加ヘタリ左レハ実際残ル処ノ放任供給ノ戸数ハ、僅ニ二万〇百八十三戸ニ過キスシテ之ヲ共用栓戸数十九万四千九百二戸ニ比スレハ、其数実ニ僅少ナリト云フヘシ。然レトモ其水科収入高《(料)》ニ至リテハ、却テ共用栓ノ水料ニ倍蓰スルモノアリ、放任共給《(供)》ノ水料ハ、横浜水道事務局給水規則ニ準拠シテ算定シタルモノニシテ、即チ現住人員七人以上十人未満ノ戸数ヨリ、壱戸ニ付一ケ月金壱円ノ水料ヲ徴収スルモノトシ、十人以上ハ一戸十人ヲ増ス毎ニ金六十銭ヲ加フルモノトシ、総収入高ヲ算出セリ。今此数種ノ負担額ヲ平均スルトキハ、放任供給水需用者用水量一千「ガロン」ニ付平均金十六銭三厘ノ水料ヲ払ヒ、一ケ年平均壱人ニ付壱円十八銭九厘九毛ヲ負担スル者ナリ(一日ニ壱人二十「ガロン」ヲ使用スルモノトシテ)。然リ而シテ此負担額ヲ以テ、更ニ共用栓水需要者ノ負担額一ケ年全二十壱銭《(金)》ニ比スレハ、其軽重固ヨリ同日ノ論ニアラス、是レ放任供給ノ戸数少クシテ、其水料収入高却テ多額ナル所以ナリ(甲号放任供給水料収入予算表参看)。
一、金拾四万〇三百弐拾九円四拾四銭 共用栓水料収入高
 共用栓ニ依頼スヘキ戸数ハ既ニ前条ニ於テ述ヘタルカ如ク、一戸ノ現住人員七人未満ノモノ十八万八千二百余戸、十人未満全数ノ三分ノ一ノ者六千六百余戸、合計十九万四千九百余戸アリ、此等ノ家屋ニ住居スル者ハ、概シテ中等以下ノ細民ニシテ、多額ノ水料ヲ負担スヘキ資力ナキ者ト見サルヘカラス、故ニ其水料ノ割合ハ極メテ之ヲ軽少ニシテ、十五戸ニ付一ケ月金九拾銭、即チ一ケ年金拾円〇八十銭ト定メ、以テ本項ノ収入額ヲ得タリ、今仮リニ一戸ノ現住人員ヲ三人七分五厘此割合ハ十人以下ノ戸数ヲ以テ同戸数ノ現在人員ヲ除シテ得タル平均数ナリト仮定シ、之ニ十五戸ヲ乗スルトキハ、其人口五十六人二分五厘トナルヘシ、故ニ今十五戸ニ付一ケ月金九拾銭ノ水料ヲ徴収スルトキハ、一人ノ負担額ハ一ケ月金一銭六厘即チ一ケ年金十九銭二厘(前項ノ額ヨリ減少スルハ四捨五入ノ為メ)ニシテ、之ヲ放任供給ノ壱人平均負担額金壱円拾八銭九厘九毛ニ比スレハ、其水料ノ軽少ナルコト殊ニ著シキモノアリ、且水料ハ横浜共用栓ノ水料ニ比スルモ尚甚タ低廉ナリトス、即チ横浜ノ水料ハ共用栓一個ニ付、六戸以下ハ一ケ月金九十銭、七戸以上十戸以下ハ同金壱円五拾銭、十三戸以上ハ六戸ヲ増ス毎ニ金五拾銭ヲ加フル割合ナレハ、一戸ノ負担額ハ一ケ年平均金弐円トナルヘシ(此負担額ハ七戸以上十二戸以下、一ケ月金壱円五十銭ノ割合ニ拠リテ算出ス。)。今仮リニ一戸ノ人員三人七分五厘トスレハ、其一人ノ負担額ハ一ケ年平均金五十三銭四厘ニシテ、即チ府下共用栓ノ水料負担額ハ殆ント其三分ノ一ニ過キサルナリ。抑モ府下共用栓ノ水料ヲ此ノ如ク低価ニ見積リタルハ、畢竟東京ハ横浜ニ比スレハ下等ノ細民多クシテ過重ノ水料ニ堪エ難キ事情アルノミナラス、現今上水井ニ賦課スル水賦金ノ割合ハ極メテ軽少ナル故ナリ(乙号共用栓水料収入予算表参看)。
一、金四万五千三百三拾四円四十五銭七厘 防火栓ノ水料収入高
 - 第15巻 p.298 -ページ画像 
 防火栓ノ水料収入高ハ、防火用水量ノ多寡ニ仍リテ定マルモノナレハ、先ツ其用水量ノ割合ヲ定ムルコト最モ肝要ナルヘシ、依テ横浜水道事務局ニ就テ種々調査ヲ遂ケタリ。現今英国倫敦及リバプール等ノ市府ニ於テハ、一人一日ノ用水量ノ十五分ノ一ヲ仰テ防火用水量(一日一人当リ)ト定メ、又横浜ニ於テハ其ノ四十八分ノ一ヲ仰テ防火用水量(同上)ト定メタリト云フ。蓋シ倫敦及リバプール等ノ市府ニ於テハ、火災ノ度数東京府下ノ如ク、頻繁ナラサルハ勿論、其住民貧富ノ度モ亦非常ノ懸隔アルヘキニ付、其防火用水量ノ割合ハ到底府下ニ適用スヘカラス、横浜防火用水量ノ割合ハ、毎年地方税ヲ以テ支弁スヘキ消防費額ニ拠リテ算定シタル趣ナレハ、之ヲ以テ府下用水量ノ標準ト為スヘカラサルハ固ヨリ言ヲ待タス、何トナレハ東京府下ハ火災屡々到リ、其消防費ヲ要スルコト横浜ノ比ニアラサレハナリ、是ニ於テ実際ノ事状ニ就テ云フトキハ、右各市府ニ於ケル用水量ノ割合ト、府下消防用水量トハ、必ス相違ナカラサル可カラス、然レトモ素ト此計算ハ予算ナレハ寧ロ凡テノ見積ヲ低度ニ置クヲ妥当ナリトスルヲ以テ、調査ハ今仮リニ府下ニ於テモ府民カ要スル一日一人ノ用水量二十「ガロン」ノ十五分ノ一ヲ以テ防火用水量(一日一人当リ)ト仮定シ、之ヲ十五区人民九十三万千五百三十人(明治廿一年九月末現在数)ニ乗シ、更ニ積算シテ壱ケ年間ノ総水量ヲ算定セリ、然リ而シテ防火用水ノ水料ハ横浜ノ例ニ傚ヒ、一千「ガロン」ニ付金十銭ヲ徴収スルモノト仮定シ、之ヲ右総水量ニ乗シテ以テ本項ノ収入高ヲ算定セリ(丙号防火栓水収入予算表参看)。
一、金壱万八千七百四拾三円九拾六銭 撒水料収入高
 撒水料収入高ハ前条防火用水料ノ算定法ニ従ヒ、撒水量ヲ一坪ニ付平均一「ガロン」半(実験ニ依ル)トシ、撒水ノ度数ハ寒暑ヲ通シテ一日二回トシ、一ケ年間一坪ニ要スル撒水量ヲ算定セリ、而シテ現今十五区内ノ撒水特定線路ハ、四拾壱万六千五百三十二坪余ナルヲ以テ之ニ右一ケ年間一坪ニ要スル撒水量ヲ乗シテ以テ全水量ヲ算出シ、而シテ其水料ハ一千「ガロン」ニ付金十銭ト定メ、之ヲ全水量ニ乗シテ以テ本項ノ収入額ヲ算セリ(丁号撒水料収入予算表参看)。
一、金九万〇九百五拾四円     営業用水料収入高
 営業用水トハ湯屋・料理屋・西洋洗濯屋ノ如キ、営業ノ為メ特ニ多量ノ水ヲ要スル者ニ附シタル名称ナリ。偖此営業用水料ノ割合ハ、横浜水道事務局掛官ノ実験説ニ基キ、府下ノ事情ヲ酌量シテ算定シタルモノニシテ、即チ湯屋ノ用水量ヲ放任供給ニ於ケル四等級一戸(七人以上十人未満)ノ用水量ニ比スレハ、凡三倍多量ナルニ付、其水料ヲ一ケ月金三円ト定メ、料理店・理髪店・旅人宿・飲食店ハ、其用水量一倍七分五厘多量ナルニ付、其水料ヲ一ケ月金壱円七十五銭ト定メ染物屋・西洋洗濯ハ、其用水量凡二倍多量ナルニ付、水料ヲ一ケ月金弐円ト定メ、各々之ヲ其営業戸数ニ乗シ、以テ営業用水料ノ総収入高十九万〇〇五十円ヲ得タリ。但シ此営業戸数ハ其現住人員明瞭ナラサルニ付、仮リニ之ヲ放任供給四等級ノ現住者(七人以上十人未満)ト同数ナリト定メ、此営業戸数八千弐百五拾八戸ハ、放任供給四等級ノ戸数中ニ混入セラルル者ト定メタリ。依テ此営業者カ放任供給水料
 - 第15巻 p.299 -ページ画像 
トシテ負担スヘキ金額九万九千〇九拾六円(是ハ壱戸ニ付一ケ月金壱円ノ割合ニシテ既ニ放任供給水料収入予算中ニ混計シタルモノ)ヲ前記総収入高ヨリ引去リ、其残高九万〇九百五拾四円ヲ以テ営業用水料ノ純収入高ト定メ、以テ本項ノ収入高ヲ算定セリ(戊号営業用水料収入予算表参看)。
一、金壱万九千弐百七拾四円    泉水々料収入高
 府下現在ノ泉水個数ハ七百九拾三個アリ、而シテ此等ノ泉水ハ凡テ多量ノ水ヲ要スルモノナリト雖トモ、実際流失スル水量ハ一ケ月凡ソ壱万五千「ガロン」位ナリト仮定シ、而シテ此壱千「ガロン」ノ水代ヲ拾銭トスルトキハ、泉水一個ニ付一ケ月ノ水料金壱円五拾銭即チ一ケ年金拾八円トナルヲ以テ、乃チ之ヲ総個数ニ乗シテ以テ本項ノ収入高ヲ得タリ(乙号泉水々料収入予算参看)。
一、金四千五百九拾九円      軍馬及車用馬水料収入高
 陸軍省騎兵局及ヒ警視庁ノ調査ニ拠レハ、現今府下ニ於テ軍馬千九百三十八頭、車用馬(営業用)千百弐十八頭、合計三千〇六十六頭アリ依テ調査者ハ横浜水道事務局ニ於テ定メタル割合ニ従ヒ、用水量ノ如何ヲ問ハス、凡テ馬一頭ニ付一ケ年金壱円五拾銭ノ水料ヲ徴収スルモノト仮定シ、以テ本項ノ収入高ヲ算出セリ(庚号軍馬及車用馬水料収入予算表参看)。
一、金九千六百〇壱円九拾四銭   官衙学校及病院用水料
 官衙・学校・病院ヨリ収入スヘキ水料ハ各々其計算法ヲ異ニセリ、是レ其需要スル水量ニ非常ノ懸隔アルカ為メナリ。依テ調査者ハ横浜水道事務局ノ水税法ニ傚ヒ、諸官衙学校ノ如キハ単ニ其大小ニ依テ徴収ス可キ見積金額ヲ定メ、其用水量ハ措テ之レヲ問ハス、即チ諸官衙中内閣・各省・院・警視庁・東京府・参謀本部・東京鎮台ハ一ケ年金百弐拾円(一ケ月十円ノ割)、裁判所・警察署・区役所ハ一ケ年金拾八円(一ケ月壱円五十銭ノ割)ノ水料ヲ徴収スルモノトシ、又学校ハ官立・公立・私立ノ別ヲ問ハス、一校ニ付一ケ年金十弐円即チ放任供給第四等級ノ水料ヲ徴収スルモノトシ、又病院ハ患者一人ニ付一日平均二十「ガロン」ノ百分ノ一ノ水ヲ要スルモノトシ、其水料ハ千「ガロン」ニ付金拾銭トシ、之ヲ積算シテ一病院ヨリ一ケ年金二拾八円九拾四銭ヲ徴収スルモノト定メタリ。此ノ如キ計算法ニ依リ、官衙・学校・病院ヨリ徴収スヘキ各水料ヲ通算シテ以テ本項ノ収入ヲ得タリ(辛号官衙学校及病院用水料収入予算表参看)。
一、金四千〇三拾弐円       銀行諸会社用水料
 銀行諸会社ノ需用水量ハ、今一々実地ニ就テ之ヲ詳査シ難キニ付、仮リニ銀行諸会社ハ放任供給一等級ノ水量ヲ需用スルモノト定メ、一銀行(又ハ会社)ニ付一ケ月金弐円八十銭、即チ一ケ年金三十三円六十銭ノ水料ヲ徴収スルモノトシ、以テ本項ノ収入ヲ得タリ(壬号銀行諸会社用水料収入予算表参看)。
一、金千七百五拾弐円       蒸滊機械設置会社水料
 蒸滊機械ヲ用ユル諸会社ノ用水量ハ、其規模ノ大小ニ依リテ非常ノ相違アレトモ、今仮リニ一会社ノ用水量ヲ一日平均二千「ガロン」ト仮定シ、其水料ハ一千「ガロン」ニ付金十銭トシ、之ヲ積算シテ本項ノ収入ヲ得タリ(癸ノ一号蒸滊機械設置会社用水料収入予算表参看)。
一、金弐千四百九拾円 自家用防火栓水料
 - 第15巻 p.300 -ページ画像 
 横浜水道事務局係官ノ説話ニ拠ルニ、目下同地ノ自家用防火栓数ハ通常防火栓総数ノ凡二十分ノ一ニ当ルト云ヘリ、依テ府下水道布設地ノ総坪数百九十二里ヲ間敷ニ改算シ、五十間毎ニ防火栓一個ヲ設置スルモノトシ、右横浜ノ割合ニ依リ、自家用防火栓数ヲ算出シ、又其水料ハ防火栓設置費(一ケ所ニ付平均六十円)ノ十分ノ一、即チ一ケ年平均金六円ト仮定シテ本項ノ収入ヲ算定シタリ(癸ノ二号自家用防火栓水料収入予算表参看)。
時事新報ニ拠レハ、当時発起者ハ、前年七月以来之カ調査ヲ為サシメ設計者パーマーニ支給シタル金額ノミニテモ、二千九百余円ニ上リタリト云フ。
○下略
   ○上掲第二五八頁引継ギ書類目録ニ示サレタル書類ハ本書中ニハソノ総テヲ収録サレヲラザル如シ。ココニハ注記ヲ加ヘズ。