デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2017.12.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

5章 農・牧・林・水産業
1節 農・牧・林業
4款 十勝開墾合資会社
■綱文

第15巻 p.561-566(DK150071k) ページ画像

明治34年(1901年)

前年来ノ事業ノ不振ニ依リ、是年退社スルモノ相踵クニ至ル。是ニ於テ資本金ヲ更ニ三十六万円ニ減資スルノ決議ヲナシ、起業方法ノ変更、未開墾地一部返還等ノ策ヲ講ジ、大イニ事業ノ縮小ヲ図レリ。栄一、農場長小田信樹ヲ慰励シ事業ノ継続ニ尽力スル所大ナリ。


■資料

十勝開墾株式会社農場要覧 第五―一三頁大正七年八月刊(DK150071k-0001)
第15巻 p.561-564 ページ画像

十勝開墾株式会社農場要覧 第五―一三頁大正七年八月刊
    三、事業の計画並功程
○上略斯の如き状態にて、開墾事業の前途は啻に楽観を許さざるのみならず社員中既に倦厭の情を抱けるものありて、明治三十四年には遂に異論百出し、退社するもの相踵くに至れり。於是資本金を一挙三十六万円に減じ、起業方法の変更及札内、熊平「ニトマツプ」中一部分の未開墾地返還の許可を得て大に事業の縮少を計りたり、其当時の状況は、左に掲げたる渋沢男爵、社長渋沢喜作氏及小田農場長の書状を以て其一斑を想像するを得べし。
  渋沢男爵の書簡
○中略
    (其二)
爾来心外御疎情に打過ぎ候得共、賢台益々御清適御座可被成奉賀候、然ば貴農場本年の作柄模様及資金必要の事その他の景況等まで、過般同姓(故渋沢喜作氏の事)へ宛たる貴翰回覧し、不相替御勇気勃々の御精神、書状の紙面に溢れ候様の感有之候、遠隔荒蕪の土地に於て新事業の成功
 - 第15巻 p.562 -ページ画像 
を謀り候には、右等の御決心無之ては到底望む可らざる義と別て感佩仕候、右に付ても合資社員の追々退却し、資金減却致候は殆んど困難の義に候得共、小生等今更放棄と申す事も出来兼ね候義に付、同姓、大倉氏とも申合せ、是非とも維持致候積に御座候、乍去目前利益とては無之、出資に付勉めて節約の御工夫無之ては、一同迷惑致候次第に付、その辺は飽まで御領意被下度候、素より小生等は功を一朝に期し候様の義は不申上候に付可成丈将来の予想を綿密に致し、年一年に幾分の進歩を見候様、御経営可被下候、本年の畑作不熟の事も頗る違却の義には候得共、農事は一年の凶作を以て落胆すべきものには無之に付、只々移住者一同の人気活溌にして律義素朴の風俗に相成候様、御涵養専一に御座候、右等は貴台の御長所と存じ候に付、別て御高配被下度候
同姓も此程は札幌に罷越候に付、若し御出張御面会被下候はゞ、委細御打合可被下候、又其の都合出来兼候はゞ、書状にて委細申上候筈に存候、是又可然御聞合せ可被下候、右一書申上度 早々敬具
  明治三十四年十一月十七日
                      渋沢栄一
    小田信樹様
         梧下
    渋沢社長の書翰
拝啓去る七日付の一書拝見致候、貴方事務上の都合にて今回は出札差支の趣御細書了承致候、右に付東京に於て去る八日付にて一書差出候得者即今相届御披見済と存候
今回の御面議は重大の件とは乍申去りとて万般の事務差支も捨置き是非御面晤致度と申程にも無之、詰り事務最肝要なれば貴方の御都合に任せ申候、就ては明年度事業施行上に関し大要書中に御示し被下度右に依り小生の意見も御答申候様可致候
先便申進候通り社中脱退者出来候為め事業縮少の外無之義にて敢而中止説には無之候得共、去りとて即今の経済界に付き残留の社員にて脱退者の資金迄を負担致し候運にも及兼、又此上借金方策もいたし兼候間不得止明年度は縮少主義の外方案無之、依而は施行上緩急取捨も可有之故御面晤を希望いたし候次第に候
前陳の趣旨により明年度事業施行上の概要御示し被下度、決して順序細目等詳細を要せず候、過日の御細書は熟覧の上同姓(渋沢男爵の事)へも相廻し申候、右不取敢申進候 匆々
 尚々小生昨夕着札、本月中は滞留の心算に有之候
  明治三十四年十一月十三日
                      渋沢喜作
    小田信樹殿
    小田農場長の書翰
拝啓去る十三日付書翰拝読仕候処益々御壮健奉恭賀候、且渋沢男爵よりの一書御回付被下奉謝候、同文中不相変御懇篤なる御奨励の辞を賜り感佩に不堪候
明年度事業縮少之不得止儀は拝承致候処農場経費として御回金可被下
 - 第15巻 p.563 -ページ画像 
予算は何程に可相成乎、夫を目当に経営上の工夫相立申度候、他の事業は兎に角移民募集と其食料の準備とは今より其手配不致ては間に合ひ兼候、殊に本年は違作にて当年移住者及び旧移民中食料欠乏を訴へ出稼致候者有之、既に昨年の移民中には昨今生活に差支る者も有之候得共、紊りに救助する時は他に影響の恐有之候間、相当仕事を与へ日日食料を渡して生活せしむる類も有之位にて、食料品の準備は目下の急務に候、然るに不作の為め常食の稲黍・薯の類は頗る不廉且売品無之買入方に困却罷在候、右之次第に付き左なくも苦情勝の移民等は不作を口実とし苦情を訴へ就中惰民の悪漢も有之、其始末は中々面倒に御座候、夫等の為め日夜不少手数を費し未だ本年度事務の取纏めにも着手不仕、況んや明年度の取調等熟考の暇無之、併し十二月中には鎮り可申と存候、毎年秋には多少の苦情も候へ共本年は人員も事業も増進し加之違作の結果にて不得止次第に候、是は当農場のみに無之、近傍の某農場の如き過半の移民同盟退場し又仁礼農場の如き挙て救助を歎願する等不穏の人気に有之候、此間に於て人心を鎮静せしむるは中中骨折申候、違作とは乍申事業上困難の時勢と被存候
渋沢男爵よりも懇々節約之儀御垂示有之敬承仕候、明年度は屹度縮少の方針を定め何とかして維持可仕候得共、本年之処は上陳の次第にて食料買入は捨置兼候間、来月中旬迄に是非とも尚一千円御廻金奉願候尤も本年は総額壱万円にて局を結び度心掛候処、見込外之不作にて貸付の雑穀は半額も返納不相成、其上新移民は家族多く定規貸与食料も見込より超過致、其他測量・道路・排水・成功地整理・学校創設等全く予算外の支出有之候為め予期に反し候段御諒承奉願候
事業は年々増進するにも不拘資金は減縮し、会計上余程注意を要し薪一本縄一尺迄も節約致居候得共、多数の移民相手の仕事に候得ば之を実行するは中々六ケ敷、不知不識の間に不経済に陥り易く被存候、矢張農業は百姓らしき方法に依り候方得策と奉存候、是等は拝眉の上篤と可申上候
明年度は曾而伺定の通り移民は第二種・第三種の規定に依り募集する目的にて不得止場合は第一種は拾戸位に止め度存候、本年度に於て二種・三種の方法にて移民募集を奨励相試み候も中々応募者無之候、然るに起業方法より云へば明年度は百七拾戸移住せしむべき筈なれども五拾戸も無覚束被存候、仮令契約するも農事に不慣の者にては事業更に挙らず却而困難を増すのみに付き是等も目下考按中に御座候、其他移民に伴ふ道路と測量の費用も有之候間一ケ年六千円は農場へ御送金被下度、之より減縮しては是迄の半額以下に相成推持無覚束被存候
札幌出張之義屡々被仰越候得共当年中は不可能に御座候、且事務員三名の内一名は病気不在、一名は忍耐致し兼辞職願出候際にて小生他出致兼候、実に事務員の辛抱する者無之には当惑仕候、山の中の生活と移民取扱の困難なるとには何れも閉口の様子に候、到底給料目的の人物にては此事業は出来ざる事と存候、年内には事務取纏め明年一月には出京仕度候間御許可被成下度奉願候、尚々寒冷の折柄御自愛専一に奉願候、又御帰京之上は本文の次第渋沢男爵へも御話被下度奉願候
恐々拝復
 - 第15巻 p.564 -ページ画像 
  明治三十四年十一月廿七日        小田信樹
    札幌御出張先き
      渋沢社長殿
          虎皮下


事業報告稿 明治三四年(DK150071k-0002)
第15巻 p.564 ページ画像

事業報告稿 明治三四年       (十勝開墾株式会社所蔵)
○上略
移住民ノ情況
一 明治三十一年以降移住小作人ノ情況ハ既報ノ如ク逐年其緒ニ着キ漸ク業ニ堪ルモノヽ如シト雖モ、本年違作ノ結果食料欠乏シ明年ニ至ラハ頗フル困難ニ陥ルモノ過半ニ及フヘシ、就中三十三年移住民ハ目下食料ノ欠乏ヲ訴ヘ臨時貸与ヲ出願スルモノアリト雖モ、之等ノ望ヲ満タシムルハ到底経済ノ許サヽル所トス、故ニ専ハラ労力ニ食マシムルノ道ヲ講スルニ当リ、土地辺隅ノミナラス殊ニ雪中ニシテ授クヘキ業ナク農場外ト雖モ亦然リ、止ムヲ得スシテ僅カニ牧柵又ハ建築材料及ヒ薪ノ伐採等一時ノ急ヲ補ヒ、明年解雪ノ期ニ至ラハ更ニ救済ノ業ヲ求メントスルニ当リ目下大ニ其方法ニ苦慮スル所トス
一 本年宮城県下ヨリ移住セシ小作人ハ当初同地方ニ就テ其戸籍ヲ調査シ且労動ニ堪ユヘキモノヲ撰抜セシ結果、既ニ業務ニ怠ラサルヲ見ルト雖モ違作ノ難ニ至リテハ殊ニ新墾地ナルヲ以テ大ニ愍諒スヘキモノアリ、然レトモ食料成規ノ貸与アリ、未タ欠乏ヲ訴フルニ至ラス
○下略


事業報告書 明治三五年(DK150071k-0003)
第15巻 p.564-565 ページ画像

事業報告書 明治三五年       (十勝開墾株式会社所蔵)
○上略
小作人ノ事
 小作人一般ノ情況ハ前年ノ収穫ヲ以テ本年ノ衣食ヲ支フルモノ甚ダ稀レナリ、殊ニ阿波移民ノ如キハ冬期ニアリテ往々賭博ノ悪弊アリ引テ他ニ及ホシ衣食ニ窮スル者ヲ出スト聞ク、之レヲ矯正スルノ法ヲ講スト雖モ未タ以テ好果ヲ奏セス、而シテ昨年宮城県下ヨリノ移民ハ割付地密林ナルヲ以テ既墾地少ナク、加フルニ空気ノ流通ハ林木ニ支ヘラレ収穫挙ラス、二月ノ交ヨリ食料ノ貸付ヲ仰クノ不得止ニ至レリ、其他ニ於テモ播種ノ季ニ際シ食料既ニ尽キ貸付ヲ出願スルモノ続出シ、停止スヘカラサルノ景況ニシテ経済上一大凶荒ヲ来サントス、然ルニ作物除草ノ期終ルヤ農場内官設道路開鑿ノ挙興リ農閑ニ際シ苟モ労働ニ堪ユルモノハ男女ノ別ナク工事ニ稼キ一条ノ活路ヲ得ルニ至レリ、且ツ同工事ハ別項報告ノ如ク随意契約ニ成リ窮民救済ヲ含有スルヲ以テ、橋梁其他技術ヲ要スルモノノ外ハ凡テ小作人ノ手ニ成リ、従テ工費ノ大半ハ農場移民ノ嚢中ニ収集シ、直接間接ノ利益ハ勿論、其効果ハ本年凶歉ニモ拘ハラス或ル五六ノ窮民ヲ除クノ外食料欠乏ヲ訴フルノ愁声ヲ聞カサルニ至レリ、果シテ此景況ヲ以テ三十六年ヲ迎ヘナハ之レヨリ事業ノ進捗著シキヲ見ル
 - 第15巻 p.565 -ページ画像 
ニ至ルヘシ
○下略


札内農場経済収支精算書(DK150071k-0004)
第15巻 p.565 ページ画像

札内農場経済収支精算書       (十勝開墾株式会社所蔵)
    自明治三十二年至同三十四年札内農場経済収支精算調
一金弐千六百拾壱円五拾六銭也 自明治三十二年至同三十四年 収入金総額
      内訳
  金千三百五拾八円拾九銭五厘    搗麦並ニ稲黍売却代
  金八拾四円四拾八銭        貸金利足
  金七百弐拾五円弐拾三銭壱厘    移住者ヨリ測量費納入
  金六拾円             貸金戻リ
  金四拾円五拾九銭九厘       材木売却金 仮払ノ内
  金三百四拾三円五銭五厘      借入金 熊牛ヨリ
一金弐千六百六拾六円三拾九銭五厘 自明治三十二年至同三十四年 支出金総額
      内訳
  金三百七拾七円拾九銭五厘     移住民募集並ニ周旋料支払金
  金六百弐拾四円拾三銭四厘     移住民割付地測量費
  金弐百五拾円八銭         売却穀類其他帯広社邸ヘ運搬賃
  金五百五円五拾七銭六厘      帯広社邸地建築費
  金弐拾円七拾六銭         番人費並ニ出張員馬飼料費等
  金弐百弐拾九円四拾九銭五厘    腐敗物又ハ運搬中損失舛減リ紛失等損害品代
  金六百四拾円弐拾五銭五厘     貸金七口ノ計
  金拾八円九拾銭          帯広邸倉庫エ積入タル雑貨残品代
差引
(太字ハ朱書)
 金五拾四円八拾三銭五厘 不足金
  是ハ一時熊牛年度末残金ノ内ヨリ補足ス
右之通リニ御座候也
  明治三十四年十二月三十一日
                  農場長 小田信樹
    十勝開墾合資会社々長
      渋沢喜作殿
  外ニ
   金五百弐拾四円七拾弐銭三厘   仮払金
      外金四拾円五拾九銭九厘  帯広邸建築材木代受入本払トス
     但熊牛精算書ニハ右本払ヲ除カス三十二年度末仮払金高ヲ其儘記載シ置タリ、追テ御処分ノ上全部ヲ削除スル見込ニ依ル


小田信樹自筆手帳(DK150071k-0005)
第15巻 p.565-566 ページ画像

小田信樹自筆手帳         (杉野直次氏所蔵)
    三十四年上京緊要草稿
開墾ノコト
 一 本年○明治三三年開墾ハ五月十四日ヲ以テ着《(手カ)》シス、其反別左ノ如シ
 反別百四拾八丁壱反弐セ拾六歩 三十三年起墾
     内
   三拾壱丁九反余 三十一年三十二年 移住民ニ属スル分
 - 第15巻 p.566 -ページ画像 
   四拾六丁五反余 三十三年移住民ニ属スル分
   四拾三町余   明年度準備及ヒ事務所用地ニ属スル分
   弐拾六丁弐反余 札内農場分
 外ニ
   七拾九丁六反〇二十四歩   三十二年度迄ニ既墾ノ分
 総計反別弐百弐拾七町七反三畝拾歩
                 三十三年度現在開墾地


渋沢栄一 日記 明治三四年(DK150071k-0006)
第15巻 p.566 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三四年    (渋沢子爵家所蔵)
三月二十三日 曇
○上略十勝開墾会社小田信樹氏来話ス○下略
  ○中略。
三月廿六日 晴
午前日本新聞社員来ル、大倉喜八郎氏・渋沢喜作氏・小田信樹等来ル十勝開墾会社ノコトヲ協議ス○下略


渋沢栄一 日記 明治三五年(DK150071k-0007)
第15巻 p.566 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三五年 (渋沢子爵家所蔵)
三月十三日 朝晴午後雨
○上略五時兜町ニ抵リ渋沢喜・植村澄三郎・小田信樹ト共ニ北海道開拓事業ノ将来ヲ協議ス○下略
  ○中略。
四月三日 晴
○上略六時王子別荘ニ帰宅ス、渋沢喜作・植村澄三郎・小田信樹来リ十勝開墾会社ノコトヲ協議ス○下略


永田信平氏談話 昭和九年九月十一日聴取(DK150071k-0008)
第15巻 p.566 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。