デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治23年8月（1890年）

当養魚場ハ元桜田親義ノ有ナリシガ、桜田ノ歿後栄一譲受ケテ園池ト為シ、傍ラ養魚ヲ営ミ、関直之コレヲ管理ス。是月規則ヲ建テ取締役関直之ニ事務一切ヲ委任シ、監督役トシテ芝崎確次郎コレニ当ル事トセリ。

青淵先生六十年史（竜門社編）　第二巻・第二一七―二一八頁明治三三年二月刊
　○第四十一章　水産業
　　　　第二節　渋沢家洲崎養魚場
渋沢家洲崎養魚場ハ東京深川洲崎ニ在リ、青淵先生ノ門下関直之是レヲ管理ス、此ノ養魚場元桜田親義ノ有ニ属ス、桜田、養魚場ノ利アルヲ考ヘ此ノ業ヲ起ス、然ルニ創始ノ際経験ニ乏シク得失償ハス、既ニシテ桜田公用ヲ以テ海外ニ在リ死去ス、先生友情ニ依リ此ノ養魚場ヲ譲受タリ、其後先生ハ樹木ヲ植ヘ石ヲ運ヒ池中ノ島ニ亭ヲ造リ遊覧ニ適セシメ傍ラ養魚ノ業ヲ営マシム、此ノ地東京湾ニ面シ風景甚タ佳、先生時ニ客ヲ招キ或ハ家族ト共ニ遊フ、而シテ養魚ノ術モ経験ヲ積テ頗ル進メリ
明治二十一年東京府根津ノ遊廓ヲ洲崎ニ移ス、養魚場ノ前面ヲ埋立テ妓楼櫛比シ日夜絃歌囂シク殺風景言フヘカス、且四隣地価非常ニ騰貴ス、先生即チ地所ヲ売却シ養魚場ヲ撤セント欲ス、売却過半ニ及テ止ム、依テ残存ノ部分（現存ノ坪数七千坪余）ニ於テ尚ホ養魚ノ業ヲ継続セシム、先生地所ノ売却ニヨリテ得タル利益ノ幾分ヲ桜田ノ遺族ニ贈ル、大ニ先生ノ厚義ニ感スト云フ
養魚場ハ現今一箇年鰻千五百貫匁、鯔大小一万尾、鯉千八百貫匁ヲ産ス、其味美ニシテ日本橋魚河岸ニ於テ声価アリ、宮内省ノ食膳ニモ上ルト云フ

芝崎猪根吉氏所蔵文書
　　洲崎養魚場規則書
　　　　洲崎養魚場規則
第一条　関直之ヲ以テ養魚場取締役ト定メ、養魚場ニ関スル一切ノ事件ヲ委任ス
　芝崎確次郎ヲ以テ養魚場監督役ト定メ、養魚場ノ会計其他一切ノ事件ヲ監督セシム
第二条　養魚場ノ会計年度ハ毎年三月一日ニ初マリ翌年二月末日ニ終ル一周年トス
第三条　取締役ハ毎年度初メ一ケ月以内ニ其年度間ノ養魚ノ売買及ヒ収支見込書ヲ作リ、監督役ヲ経テ之ヲ渋沢家支配人ニ差出スヘシ
第四条　取締役ハ翌月五日マテニ其月ノ受払勘定〔第二号書式〕ヲ作
 - 第15巻 p.665 -ページ画像 
リ、監督役ヲ経テ之ヲ渋沢家支配人ニ差出スヘシ
第五条　取締役ハ毎年度経過後一ケ月以内ニ其年度ノ損益勘定〔第三号書式〕ヲ作リ、監督役ヲ経テ渋沢家支配人ニ差出スヘシ
第六条　養魚場ノ営業資本ハ金八百円ト定ム
第七条　取締役ニ於テ囲魚買入ヲ利益アリト認ムルモ資本金不足スルトキハ、其事ヲ監督役ヲ経テ渋沢家支配人ニ申出ヘシ
　前項ノ場合ニ於テ渋沢家会計監督ハ当否ヲ審査シ不足金ノ貸下ヲ許可スルコトアルヘシ
　取締役ハ本条ニ依ルノ外借入金ヲ為スヲ得ス
第八条　前条ノ貸下金ヲナストキハ利子ハ年一割ト定メ日歩ヲ以テ計算スヘシ
第九条　準備積立金及ヒ資本ノ余有金ハ取締役ヨリ之ヲ第一銀行ニ当座預トナスヘシ
第十条　毎年度益金ノ三割ハ賞与トシテ之ヲ取締役ニ交付スヘシ
第十一条　養魚場建築費ハ別計算トシ、毎月第一号書式ノ精算書ヲ作リ、翌月五日迄ニ監督役ヲ経テ渋沢家支配人ニ差出スヘシ
　建築竣功シタルトキハ全体ノ精算書ヲ作リ、監督ヲ経テ渋沢家支配人ニ差出スヘシ
　建築費ハ営業資本ニ編入セス

〔第一号書式〕
　　建築費精算書　何月分
第一項　金何程　　何々
第二項　金何程　　何々
第三項　金何程　　何々
第四項　金何程　　何々
　合計金何程
　右之通相違無之候也
　　年　月　日　　　　　　　　　　　　養魚場取締役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　右検査候也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　養魚場監督役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　　　　渋沢家支配人
　　　　　　　　何之誰殿

〔第二号書式〕
　　受払勘定　何月分
第一項　金何程　種魚買入代
第二項　金〃　　囲魚買入代
第三項　金〃　　器具買入及修繕費
第四項　金〃　　餌代
第五項　金〃　　人夫雇入費
第六項　金〃　　月給
 - 第15巻 p.666 -ページ画像 
第七項　金〃　　養魚池其外修繕費
第八項　金〃　　運搬費
第九項　金〃　　雑費（税金・旅費・郵便費等）
第十項　金〃　　借入金利子
第十一項　金〃　借入元金消却
　合計金　何程
　　　　受入
第一項　金何程　　魚売却代
第二項　金何程　　雑収入
第三項　金何程　　積立金繰入
第四項　金何程　　預金利子
第五項　金何程　　借入金
第六項　金何程　　前月ヨリ受入越高
　合計金何程
　差引受入〔払出〕超過
　　金何程
　右之通相違無之候也
　　年　月　日　　　　　　　　　　　　養魚場取締役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　右検査候也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　養魚場監督役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　　　　渋沢家支配人
　　　　　　　　何之誰殿

〔第三号書式〕
　　損益勘定　何年度分
　　　　益ニ属スル分
第一項　金何程　　魚売却代
第二項　金何程　　雑収入
第三項　金何程　　預金利子
第四項　金何程　　積立金繰入
第五項　金何程　　現金
第六項　金何程　　売却代未収入金
第七項　金何程　　養魚見積代
第八項　金何程　　器具見積代
第九項　金何程　　貯蔵餌見積代
　合計金何程
　　　　損ニ属スル分
第一項　金　　　　営業資本
第二項　金　　　　種魚買入代
第三項　金　　　　囲魚買入代
第四項　金　　　　器具買入及修繕費
第五項　金　　　　餌代
 - 第15巻 p.667 -ページ画像 
第六項　金　　　　人夫雇入費
第七項　金　　　　月給
第八項　金　　　　養魚池其外修繕費
第九項　金　　　　運搬費
第十項　金　　　　雑費
第十一項金　　　　器具新調其他非常準備積立金
第十二項金　　　　借入金利子
第十三項金　　　　借入元金消却
第十四項金　　　　借入元金消却未済
第十五項金　　　　代価未渡金
　合計金何程
　差引益〔損〕
　　金何程
　　　　内
　　　　金何程　　賞与
　　　　金何程　　純益
　右之通相違無之候也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　養魚場取締役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　右検査候也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　養魚場監督役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　何之誰印
　　　　渋沢家支配人
　　　　　　　　何之誰殿
　　本文廿三年八月中議決、尾高幸五郎殿ヨリ九月二日附ニテ関直之方ヘ達シ、八月分ヨリ此規則通相守ラセ候事
（芝崎筆）
卅五年二月廿三日阪谷家ニ於テ同族会開ノ節第一養魚場と改称議案提出通過セリ
　　右細則事項ハ芝崎不存支配人及当局者ノ間ニテ取結ひ候事、因テ已後関係不致則不用ニ属候、併原因ハ本文ニテ成立セシモノナリ