デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治20年2月4日（1887年）

是ヨリ先農商務省工務局長富田冬三、英国副領事ロンフオルドヨリノ照会ニヨリ英国製綿織輸入ノ盛衰其他ニ関スル調査ヲ当会ニ依頼ス。是日栄一当会会頭トシテ該件ニ就キ富田局長ニ答申ス。

東京商工会議事要件録　　第二三号・第四―五頁　明治二〇年三月二二日刊
　　第十二定式会　　（明治二十年二月廿六日午後四時三十分開会）
　　　　会員出席スル者　○五十六名
会長（渋沢栄一）ハ先ヅ開会ノ趣旨ヲ告ゲ左ノ件々ヲ報告ス
○中略
一本年一月十一日附ヲ以テ富田工務局長閣下ヨリ舶来木綿織物盛衰ノ義ニ就キ諮問セラレタルニ付理事本員ニ於テ調査ヲ遂ゲ、同二月四日附ヲ以テ之ガ復申書ヲ上呈シタリ（諮問書並ニ復申書ノ写ハ共ニ参考部第六第七両号ニ掲グ）
○下略

東京商工会議事要件録　　第二三号参考部・第一三―三〇頁　明治二〇年三月二二日刊
〔第六号〕
英国副領事「ロンフオルド」氏ヨリ英国製木綿織物輸入上ノ盛衰及ヒ其他ノ件ニ付別紙写ノ通調査方依頼有之候ニ就テハ、其会ニ於テ右各項調査ヲ遂ゲ意見詳細至急荅申相成度候也
　　　　　　　　　　　　　　農商務省
　　明治二十年一月十一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　工務局長　富田冬三
　　東京農工会々頭《（商）》
　　　　渋沢栄一殿
　　　　別紙写
 - 第18巻 p.578 -ページ画像 
拝啓先般入御一覧候条件目録訳文相添ヘ御送付仕候、右者大至急反訳ニ附シ候故不分明ノ廉可有之哉モ難計候得者御推読被下度奉願候、就テハ貴下ヨリ在東京ノ重立タル外国織物商（日本人）三名ヘ御諮問ノ上可成速ニ御意見御回報被下度、且東京商法会議所ノ説ヲモ承知致置度候間該会議所頭取ヘモ同様御諮問被下候ハヾ感鳴ノ至ニ不堪候
右ノ条件ハ後来日本外国貿易上ニ係リ緊要ノ事ト存候又右御手数ノ段重畳奉鳴謝候　敬白
　東京
　　千八百八十六年十二月十七日
　　　　　　　　　　　　　ジヨーセフ・エツチ・ロンフヲルド
　　　　柳谷謙太郎殿
第一問　十年又ハ五年以前ヨリ比較スレバ現時日本人民カ西洋生金巾ヲ使用スル少キ原因ハ如何、又四民ノ内右品ヲ使用セザル者ハ何種ノ人ナルヤ
第二問　万延元年又ハ明治三年同十三年度毎ニ比較シテ視ルトキハ、現時舶来生金巾ノ地合及保方ノ良否並ニ見場ノ善悪如何
第三問　舶来ノ金巾ハ現時日本人民ノ意望ニ適フカ、又ハ必用ト認ムルカ、且右品ヲ日本人民ノ意ニ適フ様ニ為ス方法ハ如何
第四問　日本人民ハ生金巾ノ保チ方悪キモ廉価ナルヲ好ム乎、又ハ不廉ナルモ保方ノ善キヲ好ム乎
第五問　五六年間ヲ期セズ永ク将来ヲ鑑ミテ織物商業ノ繁盛ヲ謀ルガ為メ日本人民ヘ西洋人民ガ用フル如キ良性質ノ品ヲ相当ノ価ニテ販売スベキ乎、又ハ廉価ニシテ見分ヨキモ其保チ方ハ至テ悪シキ者ヲ販売スベキ乎、今両様何レニ着目スベキヤ
第六問　日本真岡木綿ト比較スレバ現時舶来生金巾ノ価格ト保チ方ハ如何
第七問　日本ノ農工商ハ廉ニシテ不保チノ生金巾ヲ好ム乎、将又不廉ナルモ真岡木綿ヲ好ム乎
第八問　現時舶来ノ生金巾ヨリ保チ方良ク価ノ高キ品ヲ販売セハ日本人民ハ之ヲ購求スル乎
第九問　万延元年又ハ明治三年度毎ニ舶来セル色金巾ヨリ現時舶来ノ品性ハ前年度ニ劣ル乎
第十問　現時日本ヘ唐桟ノ舶来セサルハ職トシテ何ニ由ルヤ
第十一問　方今保チ方良ク普通ノ価ニテ唐桟ヲ販売セバ日本人民ハ之ヲ購求スル乎
第十二問　現時日本人民ハ舶来寒冷紗ヲ好マサルニ至ル乎、果シテ然ラハ其原由何ニアルヤ
第十三問　十五年或ハ二十年前ト比スレバ現時舶来ノ木綿反物ニ付テ日本人民ノ思想ハ如何
〔第七号〕
去十一日附ヲ以テ、兼テ英国副領事「ロンフオルド」氏ヨリ御局ヘ問合有之候趣ヲ以テ、英国製木綿織物輸入上ノ盛衰等本会ヘ御諮問有之候ニ付、其後当業者ノ意見問合候処、大要別紙ノ通リニ有之候間此段答申候也
 - 第18巻 p.579 -ページ画像 
　　二十年二月四日　　　　　　　　東京商工会々頭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　農商務省工務局長　富田冬三殿
　　　　別紙
第一問ノ答　十年又ハ五年以前ニ比較シ日本ニ於ケル舶来生金巾ノ消費高減少シタル事ハ著明ノ事実ニシテ、今熟々其原因ヲ案ズルニ近来舶来生金巾ノ地合粗悪トナリ保方アシクナリタルヨリ日本ノ消費者漸ク之ヲ厭忌スルノ情ヲ呈シタル折柄、内地ニ於テハ近来職工ノ賃銀低落シ即チ明治十二三年ノ頃各地機場ニ於テ一反ノ織賃凡七銭位ナリシモ昨十九年頃ニハ二銭位トナリタルヨリ、此際各地機場ニ於テハ洋糸ヲ買入レ盛ニ木綿織物ヲ織出セシガ、結局和製ノ方ハ舶来ノ方ヨリ格安ナルガ為メ消費者ノ之ヲ代用スル者益々多ヲ加ヒ、遂ニ前陳ノ結果ヲ呈シタルモノナラン、試ニ明治八年ヨリ十九年ニ至ル十二年間横浜商館ヨリ各地商人ヘ売捌キタル生金巾及天竺金巾ノ数量並ニ其相場ヲ掲グレバ左ノ如シ
　　○自明治八年至同十九年　生金巾及天竺金巾売捌高

　　年次　　　　　　　　　　生金巾　　　　　　　　　　　天竺金巾
　　　　　　　　　　　　　　　　　　碼　　　　　　　　　　　　　碼
　明治　八年　　　三〇、一七二、五五〇　　　　　　　九六五、六六六
　同　　九年　　　四三、一五三、二八〇　　　　　一、一四四、九七八
　同　　十年　　　二六、九六八、一一〇　　　　　一、六七八、五一二
　同　十一年　　　二一、六五二、九二一　　　　　一、八一五、二七九
　同　十二年　　　四三、七一一、五四六　　　　　一、六四五、七二八
　同　十三年　　　三三、八三五、四四〇　　　　　一、三七七、五八三
　同　十四年　　　二七、七七八、五九二　　　　　一、九九六、四〇三
　同　十五年　　　四三、二三四、〇七〇　　　　　一、九三七、八二九
　同　十六年　　　一九、〇五九、二六七　　　　　二、四三〇、四七六
　同　十七年　　　一二、四〇六、四七三　　　　　一、四九九、一九〇
　同　十八年　　　一〇、一三九、四〇二　　　　　一、〇四四、〇三八
　同　十九年　　　一〇、二〇八、二六九　　　　　一、七二三、二六四

　　（前表ノ中八年ヨリ十八年迄ノ分ハ全年ノ高ヲ掲ゲ十九年ノ分ハ一月ヨリ十月迄十ケ月間ノ高ヲ掲グ）
　　○自明治八年至同十九年　生金巾及天竺金巾平均相場

　　　　　　　上三巾　　　　　中同　　　　　下同　　　　上並巾　　　　中同　　　　　　下同　　　　上天竺
　　年次　　（三十九碼ニ付）　（同上）　　（同上）　　　（同上）　　　（同上）　　　　（同上）　（二十四碼ニ付）
　　　　　　　　弗　　　　　　弗　　　　　　弗　　　　　　弗　　　　　　弗　　　　　　弗　　　　　　弗
　明治八年　　二、六五〇　　二、四七五　　二、二五〇　　二、三〇〇　　二、一七五　　一、九五〇　　一、五七五
　同　九年　　二、八五〇　　二、七〇〇　　二、五〇〇　　二、五〇〇　　二、三五〇　　二、一〇〇　　一、七〇〇
　同　十年　　二、六五〇　　二、五〇〇　　二、三〇〇　　二、二五〇　　二、二〇〇　　二、〇〇〇　　一、六〇〇
　同十一年　　二、六〇〇　　二、四五〇　　二、二五〇　　二、二五〇　　二、一〇〇　　一、九〇〇　　一、五五〇
　同十二年　　二、六〇〇　　二、四二五　　二、二〇〇　　二、二〇〇　　二、一五〇　　一、九〇〇　　一、五二五
　同十三年　　二、五七五　　二、四五〇　　二、二〇〇　　二、二五〇　　二、一二五　　一、八五〇　　一、五五〇
　同十四年　　二、五五〇　　二、四〇〇　　二、一五〇　　二、二〇〇　　二、一〇〇　　一、九〇〇　　一、五七五
　同十五年　　二、六〇〇　　二、四〇〇　　二、一〇〇　　二、一〇〇　　二、〇〇〇　　一、七五〇　　一、五五〇
　同十六年　　二、四〇〇　　二、二〇〇　　一、九〇〇　　二、〇〇〇　　一、八〇〇　　一、六五〇　　一、五二五
　同十七年　　二、三〇〇　　二、一五〇　　二、〇〇〇　　二、〇五〇　　一、九〇〇　　一、七〇〇　　一、五〇〇
 - 第18巻 p.580 -ページ画像 
　同十八年　　二、三〇〇　　二、一五〇　　一、九〇〇　　二、〇五〇　　一、九〇〇　　一、七〇〇　　一、五二五
　同十九年　　二、四〇〇　　二、二五〇　　二、〇〇〇　　二、〇五〇　　一、九〇〇　　一、七〇〇　　一、五二五

　又日本人民中何種ノ人民ガ最モ舶来生金巾ノ需用ヲ減シタルヤト云フニ、従来日本ニ於テ生金巾ヲ消費スル者ハ重ニ中等以下ノ人ニシテ、前陳ノ如ク近来舶来生金巾ノ消費高減少シタルモノハ要スルニ此等ノ消費者ガ一般ニ其需用ヲ減シタルニ因ルベクシテ、敢テ某種ノ人民ニ限リ特ニ其需用ヲ減シタル事ナシト思ハル
第二問ノ答　万延元年又ハ明治三年同十三年毎ニ比較スルニ舶来生金巾ノ見場ハ格別劣ラザルガ如シト雖トモ、其地合保方ニ至リテハ頗ル劣等トナレリ、即チ輓近輸入ノ生金巾ヲ前年輸入ノ分ニ比スレバ地合ハ緻密ナラズシテ糊気多ク、随テ其保方ハ久ニ耐ヘズシテ直チニ摩損シ易シ
第三問ノ答　舶来ノ生金巾ハ前陳ノ如ク地合粗悪ニシテ保方宜シカラザルカ故ニ現時ニ於テハ日本人民ノ意望ニ適セザルモノヽ如ク、又極メテ之ヲ必要ナリト認ムルヲ得ズ、是近来日本ノ消費者ガ和製木綿織物ヲ代用スル者益々増加シ舶来生金巾ノ消費高漸ク減少シタルノ事実ヲ以テ之ヲ証スルヲ得ベシ、而シテ今舶来生金巾ヲシテ能ク日本人民ノ意望ニ適セシメントスルニハ先ツ其幅員ヲ改正シ、即チ巾九寸五分乃至一尺、長五反乃至十反ニ改メ、且ツ其地合ヲ緻密ニシテ其保方ヲ丈夫ニシ、而シテ可成之ヲ廉価ニ販売シ、要スルニ之ヲシテ和製木綿織物ヨリ格安ナラシムルノ外ニ良策ナシト思考ス
第四問ノ答　近来日本人民ガ舶来生金巾ヲ厭忌スルノ情ヲ呈シタルハ畢其地合粗悪トナリ保方アシクナリタルニ由ル、故ニ今日本人民ハ保方悪シキモ廉価ナルヲ好ムカ、又不廉ナルモ保方ノヨキヲ好ムカト云ヘハ、寧ロ其価ノ不廉ナルモ保方ノヨキ方ヲ好ムモノヽ如シ
第五問ノ答　従来日本ニ於テ舶来生金巾ヲ需用スル者ハ重ニ中等以下ノ人ニシテ、上等ノ人ハ多クハ絹布ヲ需用スルガ故ニ、此際西洋人民カ用ユル如キ極メテ良性質ノ品ヲ輸入スルモ当分其需用ヲ拡張スルノ望ナシ、故ニ今将来ヲ鑑ミテ織物商業ノ繁盛ヲ図ルガ為メニハ斯ヽル特種ノ良品ヲ販売センヨリハ寧ロ従来輸入シ来レル普通ノ生金巾ニ、第三問ノ答案ニ述ブルガ如キ改良ヲ加ヒ可成之ヲ廉価ニ販売スル方可ナリト思考ス
第六問ノ答　現時舶来生金巾ノ価格ハ日本真岡木綿ニ比較スルニ恰モ一ト三トノ割合ナリ、即チ現時ノ相場ニヨリ其比例ヲ示セハ左ノ如シ
　　舶来生金巾一反（巾九寸五分長二丈七尺）ニ付金二十三銭
　　日本真岡木綿一反（巾長共前ニ同シ）ニ付同七十五銭
　又此二者ノ保チ方ヲ比較スルニ其割合ハ寧ロ此割合ヨリ甚シキモノアルガ如シ、即チ舶来生金巾ノ方一年ヲ耐ユルモノトスレバ日本真岡木綿ノ方ハ三年若クハ三年半ヲ耐ユルヲ得ヘシ
第七問ノ答　日本ノ農工商ハ廉ニシテ保方アシキ生金巾ヲ好ムヨリハ寧ロ不廉ナルモ真岡木綿ヲ好ムノ情アルガ如シ、是蓋シ真岡木綿ノ方ハ不廉ナルモ保方至テ宜シク結局経済上便利アルガ為メナリ、現ニ舶来生金巾ヲ使用スル者ハ東京其他一二繁華ノ都市ニ住シヤヽ奢
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侈ニ長スル者ニ限リ、其他田舎ニ住スル者ノ如キハ概ネ皆真岡木綿ヲ使用スルト云フ
第八問ノ答　現時舶来ノ生金巾ヨリ保方ヨク価ノ高キ品ヲ販売スルモ日本人民ハ必スシモ之ヲ購求スヘシト思ハレス、何トナレバ日本人民ハ固ヨリ保方ヨキモノヲ好ムト雖トモ若シ其価ニシテ格高ナルトキハ之ヲ使用セスシテ、和製織物（内地ニテ洋糸ヲ以テ製織スルモノ）ノ方ヲ代用スヘケレバナリ、現ニ天竺金巾ト称スル種類ノ如キ其保方ハ和製織物ニ比スルニ優等ナレトモ要スルニ其価ヤヽ格高ナルカ為メ日本人民ノ之ヲ購求スル者甚タ少シ、左レバ今舶来生金巾ヲシテ日本人民ノ意望ニ適セシメントスルニハ其保方ヲ丈夫ニシタル上ニ可成之ヲ廉売シ、遂ニ之ヲシテ和製織物ヨリ格安ナラシムルノ覚悟ナカルヘカラス
　　因ニ記ス、現今天竺金巾ト称スル種類ハ内地ニテ之ヲ晒シタル上窓掛又ハシヤッツ其他婦人ノケダシ地等ニ用ユルノミニシテ、其用途ハ極メテ狭隘ナリト云フ
第九問ノ答　現時舶来ノ色金巾ハ万延元年又ハ明治三年度毎ニ舶来セルモノニ比スルニ色合ニハ格別ノ変リナシト雖トモ、地合ニ至リテハ大ニ劣等トナレリ
　　因ニ記ス、現時舶来色金巾ト称スル種類ノ中、重立チタルモノハ紺染・更紗染ノ二種ニシテ其他ノ色合ニ至リテハ内地ニテ染ムルモノ最モ多シ（但シリンネルト称スル種類中ニハ各種ノ色物アリ）而シテ紺染ハ重ニ衣服ノ裏地ニ用ヰ、更紗染ハ多クハ夜具布団又ハ風呂敷地ニ用ユト云フ
第十問ノ答　現時日本ヘ唐桟ノ舶来スル事殆ド無キニ至レリ、是蓋シ舶来ノ唐桟ハ之ヲ和製品（所謂二子縞ト称スルモノ）ニ比スルニ甚タ格高ニ付、日本人民ハ一般ニ和製ノ方ヲ代用スルニ至リタルガ為メナラン
第十一問ノ答　従来舶来ノ唐桟ハ決シテ日本人民ノ意望ニ適セザルアラズ《（ニ脱）》、然ルニ之ヲ使用スル者甚タ少キモノハ要スルニ只其価ノ和製品ニ比シテ極高ナルガ為メナリ、故ニ若シ之ヲシテ和製品ヨリ極安ナラシムル時ハ勿論之ヲヤヽ同格ナラシムル時ハ日本人民ハ必ズ之ヲ購求スヘシト思考ス
第十二問ノ答　日本人民ハ寒冷紗ノ軽便ニシテ且ツ見場宜シキガ為メ前年ニ在リテハ之ヲ夏シヤッツ地ニ用ヰ、又麻ノ高価ナルガ為メ之ヲ染メテ蚊帳ニ代用シタル事アリ、又時トシテハ之ヲ小紋ニ染メ夏羽織地ニ用ヰタル事アリ、随テ其消費高モ相応ニアリシガ近来ハ殆ド全ク之ヲ使用スル者ナキニ至レリ、蓋シ現今横浜又ハ神戸港ヘ多少之ヲ輸入スル事アレトモ是重ニ朝鮮地方ヘ再輸出スル為メニシテ内地ノ需用ニ充ツル為メニアラス、而シテ其理如何ト云フニ元来寒冷紗ハ其地合薄クシテ直チニ摩損シ易キガ為メ、近来日本人民ハ経験上漸ク其不便ヲ発悟シタルニ因ルモノト思考ス
第十三問ノ答　前年洋糸ノ輸入ナカリシ頃ニハ日本人民ハ舶来生金巾ノ見場宜シキ為メ大ニ之ヲ珍重セシガ、爾後其品柄追々粗悪トナリ殊ニ近来洋糸ノ輸入多分ニアリ、内地ニ於テ殆ト之ト同様ナル品ヲ
 - 第18巻 p.582 -ページ画像 
安価ニテ製織シ得ルガ故ニ今日ニ於テハ全ク之ヲ珍重セサルニ至レリ、現ニ舶来生金巾ト和製織物トノ価格ヲ比較スレバ左ノ如シ
　　舶来生金巾百目物一反（巾九寸五分長二丈七尺）ニ付金二十三銭
　　和製織物百目物一反（巾長共前ニ同シ）ニ付金二十銭
　由是視之舶来生金巾百目物一反ノ相場ハ金二十三銭ナルニ内地ニテ洋糸ヲ買入レ同量ノ織物一反ヲ製織スル時ハ其相場金二十銭ニシテ差引三銭ノ安価ナリ、和製品ノ格安ナル事甚ダ明了ナリト云フヘシ
　　因ニ記ス、現今洋糸三百斤入一個（即チ四十八貫目外ニ糊ノ量目ヲ見込ム時ハ殆ド五十貫目トナルベシ）ノ価ハ金八十五円ナルガ故ニ、之ヲ以テ百目物五百反ヲ製織スル時ハ一反ニ付糸代金十七銭トナル、之ニ織賃金三銭（糊代モ此中ニ包含ス）ヲ加フル時ハ即チ百目物一反ノ価金二十銭トナルナリ

東京商工会議事要件録　　第二五号・第七―一二頁　明治二〇年九月二〇日刊
　　第十三定式会　　（明治二十年八月廿九日午後七時十五分開会）
　　　　会員出席スル者　○二十五名
○上略
次ニ会長（渋沢栄一）ハ規程第五章第二十二条ニヨリ明治二十年上半季間定式事務ノ成跡ヲ報告ス
　　自明治二十年一月至同同六月　半季間事務ノ報告
○中略
　　　　政府ヨリ諮問　　　四件
○中略
○舶来木綿織物盛衰ノ義ニ付工務局長ヨリノ下問
　　本件ハ明治二十年一月十一日富田工務局長ヨリノ諮問ニ係リ其要旨ハ英国副領事ロンフオルド氏ヨリ英国製木綿織物輸入上ノ盛衰及其他ノ件ニ付調査方依頼アリタルニ付、別紙十三項ノ問目ニ就キ調査ヲ遂ゲ其意見ヲ答申スベシト云フニ在リ、依テ其後理事本員ハ当業者ニ就キ篤ト調査ヲ遂ゲ各項ニ就キ詳細ノ意見ヲ具シ、同二月四日附ヲ以テ之ヲ同局長ニ答申シタリ
○下略