デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治20年4月18日（1887年）

是ヨリ先、大日本私立衛生会ヨリコレラ病ノ東京府下商工業ニ与ヘタル損害額ニ就キ調査サレタキ旨当会ニ依頼アリシガ、是日栄一当会ヲ代表シ調査不可能ナル旨ヲ衛生会会頭佐野常民ニ回答ス。

東京商工会議事要件録　　第二四号・第二―四頁　明治二〇年五月一六日刊
　　第廿三臨時会　　明治二十年四月廿二日午後六時三十分開会）
　　　　会員出席スル者　○三十四名
会長（渋沢栄一）ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ本議ニ先ダチ左ノ件々ヲ報告ス
○中略
　一本年四月六日附ヲ以テ、大日本私立衛生会ヨリ虎列拉病ノ為メ府下ノ商工業ニ及ボシタル損害額ニ付問合セアリタレトモ、右ハ何分調査行届カザリシニ付、同四月十八日附ヲ以テ其旨ヲ回答シタリ（往復書面ノ写ハ共ニ参考部第五・第六両号ニ掲グ）
○下略

東京商工会議事要件録　　第二四号参考部・第八―一二頁　明治二〇年五月一六日刊
（第五号）
　　　　○（虎列拉病損害額ノ義ニ付大日本私立衛生会ヨリ照会書）
本邦近時虎列剌ノ侵襲ヲ蒙リ明治十年以降僅カニ十年間ニシテ五回ノ流行ヲ累ネ性命ヲ損スル者幾ント三十万ニ垂ントス、本府ノ如キ昨年ノ流行ノミニテ亦八千以上ノ死者ヲ出セリ、而シテ夫ノ流行時ニ際シ物貨ノ出港入津ヲ阻塞セラレ或ハ商客ノ来往ヲ絶ツ等商工業直接間接ノ損害ニ至テハ実ニ驚愕ニ堪ヘザルモノアルベシ、今其損害ノ額ヲ明ニスルハ独商工業上ニ於テ必要ナルノミナラス衛生上予防ノ道ヲ講究スルニ当テ最モ必要ノ事ト存候ニ付、本府ニ於テ明治十年以降（若クバ調査ノ及ヒシ丈ケ）虎列剌病流行ノ為メ商工業上ニ及ホセシ直接間接ノ損害額御示シ被下度及御依頼候也
　　　　　　　　　　　　　　　　大日本私立衛生会
　　明治廿年四月　　　　　　　　　　　会頭　佐野常民
　　東京商工会
　　　　会頭　渋沢栄一殿
（第六号）
 - 第18巻 p.618 -ページ画像 
　　　　○（右ニ付同会ヘ回答書）
明治十年以降虎列剌病流行ノ為メ当府下ノ商工業上ニ及ボシタル直接間接ノ損害額御回示申上候様御依頼ノ趣承知仕候、然ルニ該病流行ノ為メ当府下ノ商工業上ニ容易ナラザル損害ヲ及ボシタル事ハ本会ノ敢テ疑ハザル所ニ御座候得共、其損害額ヲ調査スルニハ全ク憑拠スベキモノ無之、例ヘバ仮ニ貨物出入高・販売高・製造高ノ類ヲ以テ之ガ標準トセンカ、元来此等ハ常ニ市況ノ冷熱ニヨリテ時々消長スルモノニ付、該病流行ノ時ニ際シ偶々其減少ノ跡ヲ呈スルモ之ヲ以テ直チニ其流行ノ結果ト断定スルヲ得ズ、尤本会ヨリ各当業者ヘ夫々照会ノ上強テ其想像スル所ヲ報告セシムルニ於テハ此損害額ニ就キ多少ノ割合ヲ算出スル事敢テ難カラザルベシト雖トモ、抑モ斯ヽル根拠ナキノ空説ヲ本会ノ意見トスルハ本会ノ元来最モ好マザル所ニ有之候、之ヲ要スルニ前陳損害額ノ如キハ到底本会ノ調査シ得ベカラザルモノト思考仕候ニ付乍遺憾御依頼ニ応シ兼候、此段及御回答候也
　　　　　　　　　　　　　　　　東京商工会々頭
　　二十年四月十八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　大日本私立衛生会々頭
　　　　佐野常民殿