デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.153-160(DK190023k) ページ画像

明治22年4月30日(1889年)

是ヨリ先島津金七外二名、米切手ノ発行ニ関シ当会ノ賛助ヲ求メシガ、是日栄一、当会会頭トシテ実行不可能ナル旨ヲ回答ス。


■資料

東京商工会議事要件録 第三八号・第二七―四六頁 (明治二二年六月)刊(DK190023k-0001)
第19巻 p.153-160 ページ画像

東京商工会議事要件録  第三八号・第二七―四六頁 (明治二二年六月)刊
 ○参考部
○本年一月廿二日附ヲ以テ日本橋区通一丁目六番地島津金七外二名ヨリ、米切手発行ノ義ニ付本会ノ賛助ヲ得度旨ヲ以テ、別紙甲号ノ通リ照会アリタルニ付、其後東京廻米問屋組合及東京米商会所ノ意見ヲ問合セタル上、四月三十日附ヲ以テ別紙乙号ノ通リ回荅書ヲ送リタリ
(甲号)
拝啓仕候、拙者共義米穀売買上之件ニ付感スル所少カラス、因テ客年中米切手発行ノ義ト題シ別冊ノ請願書ヲ大蔵・農商務両大臣宛差出候処、本件ハ建白書ニ属スヘキモノニ付却下スル旨ヲ以テ返戻相成候、其間現行法律モ改廃相成不要之項目モ相生シ候得共、大体之趣旨ニ至リテハ確然素志ヲ執リ何処迄モ相貫キ度心底ニ付、貴会ノ御賛成ヲ得度乃別紙其儘ニ供尊覧候間御披閲相成、聊カ採ルベキノ箇条モ御座候ハヽ御賛助ノ程伏テ相願度、将又委細ノ件ニ至リテハ何時ニテモ御諮問ニ対シ出会陳述仕度、突然之義ニ候得共熱衷禁スル能ハサル所ヨリ貴会各位ノ煩ヲ慮ラス別紙進呈仕候間右御推察ノ上御閲覧被下度伏テ
希望仕候也 敬具
                日本橋区通壱丁目六番地
  廿二年一月廿二日           島津金七印
                京橋区采女町三拾五番地
                     武木信賢印
                同 木挽町壱丁目六番地
                     加藤孫治郎印
  商法会議所
    渋沢栄一殿
    別紙
従来米穀取引営業罷在候処、今般取引所条例実施ニ付種々紛議有之候有様ニ感スル所有之聊愚見陳述仕候、抑我国ノ近況ヲ観ルニ各地ノ農民地租ノ多キヲ歎キテ其減額ヲ請願スル者多々有之候ハ蓋其負担ノ重キニ因ルトハ乍申、近年豊穣打続キ候得ハ別段困難ノ事モ無之ト被存候、私窃ニ考フルニ地租ノ率或ハ多カラン、然レトモ遽カニ之ヲ減シ候テハ政府御多用ノ折抦費途支弁ニ困難相成候ハンカト懸念仕候、必竟地租ヲ以テ一般ノ国税ニ比較スルニ地租ノ率強チ多キニ過クト難申候、農民独リ租税ニ堪ヘザル義ハ無之ト存候、察スルニ近年彼等ノ製
 - 第19巻 p.154 -ページ画像 
産物ナル米価ノ下落候ヨリ困難ヲ生シ候事ト存候、然レハ之ヲ救フハ地租ノ減額ヨリ寧ロ米価恢復ノ道ヲ講シ候方捷路ト被存候、敢テ米納ヲ許可セラルヽニ及ハスト存候、先ツ米穀運送売買ノ方法ヲ簡便ニシ之カ為メニ費ス費用時間等ヲ省キ、之カ為メニ感スル危険ヲ除キ購買力増シ流通ヲ円滑ナラシムル事専一ト存候
先般米商会所条例ヲ停メ、取引所条例ヲ創定相成候処米穀ノ廉ニ関シテ議論相起リ候、抑我国ハ米穀ヲ以テ最要品ト致候事故其取引法等忽カセニスベカラサルハ勿論ニ候得共、必竟スルニ米商中不良ノ輩ハ己等ニ対シテノ都合旧条例ノ如ク宜シカラサルヨリ不服ヲ唱フル事ニ有之、別段他ニ理由無之ト存候、従来米穀取引ニ付テハ種々ノ悪弊有之良民ニ対シ不安心ヲ懐カシムル様相成候儀ト存候、何トナレハ現今ノ不良米商輩ハ彼等公正ノ商業閑暇ナル故トハ乍申姦譎以テ常トスル者共多ク相成候得ハ之ニ銘柄若クハ見本品ヲ以テ取引スルヲ許スハ甚弊害多キ事ニ有之候、彼等ハ銘柄ニ一定確固ノ基本ナキヲ幸ヒ劣等ノ米ヲ良民ニ強売シ、或ハ見本品ト相違スル品ヲ良民ニ強ユル等ノ事有之其引取ニ於テモ是ト同一ニ有之、例ヘハ定期ヲ以テ米ヲ彼等ニ売渡ス者有之候トキハ故ラニ高直ヲ以テ引取ノ約ヲ為シ、現物ハ期日ニ至ラサレバ肯テ撿査セス、該期日至リテ始メテ之ヲ撿査シテ曰ク、是過日貴下ノ云ヒタル如キ銘柄ノモノニアラス、此ノ如キ劣等之品ハ約定ノ金額ヲ以テ引取リ難シ、宜シク正当ノ品ヲ渡サルヽヘシト、斯ノ如キ奸策ニ罹リテ始メテ大ニ驚クモ詮ナク、永日間ノ蔵敷料ヲ損シタル上已ムヲ得ス高価ヲ出シテ相当ノ品若クハ之ニ対スルノ金額奸ヲ商ニ奮去ラルヽ者等比々之アリ、是取引ノ完全ナラサル所アルヨリ起ルノ弊害ニ有之候、其他姦譎ノ所為ハ種々有之、良民ヲ苦ムル事多々有之候ヨリ衆庶ハ米商ヲ危険視シ之ヲ危険視スルカ故ニ取引ハ漸ク不振トナリ、彼輩糊口ノ道ヲシテ益々難カラシメ申候、糊口難ケレハ相互ニ呑噬シテ一博巨利ヲ得ントシ、良民ノ奇貨ニ居クベキアレハ欺テ一攫千金ヲ奪ハントスル念慮ハ益々増長シ、遂ニ米商ナル名目ハ欺騙者ノ異称カト思ハルヽ程ニ立至リ申候、実ニ遺憾ノ義ニ存シ候、是等ノ弊害行ハレ候ハ条例ニ種々不完全ノ点有之候ヨリ起リ候義ニハ候ヘ共、重ニ米ノ銘柄ヲ確定セサルヨリ起因スル事ニ有之、新条例ニヨリテモ未タ全ク此弊ヲ除キ難キ哉ニ存候、而シテ之ヲ除クノ第一着手ハ米質米位ヲ公認スル全国通用ノ米切手ヲ発行スル事一便法カト存候
米切手ハ旧幕府ノ頃諸藩ニ行ハレ候方法ニテ、之ヲ大ニシテ全国ニ施シ候ヘハ米ノ品位ヲ確定スル事頗ル容易ク、従テ取引上甚タ便利ヲ与ヘル事ニ有之、已ニ取引所条例施行細則第四十六条ニモ明文有之候得共、未タ之ニ適スル完全ノ倉庫及完全ノ切手無之候、目下東京・大坂京都・滋賀・岡山等ニ倉庫有之候ヘ共、私立ノ会社ナルカ故ニ信用モ大ナラス、其預リ証ノ流通モ広カラズ、入庫委托者ニ於テモ取引転売者ニ於テモ手数ヲ要シ、又費用モ相嵩ミ候ニ付充分盛大ヲ致ス事ハ難期ト存候
取引所条例ハ百般ノ商品取引法ヲ指定シタル者ナレハ殊ニ米穀ノミニ付委ク説明無之モ当然ノ事ニシテ其細則ニ至テモ詳細ノ事ハ御明示無之候ヘトモ、従来米穀取引ナル者ハ詳細ナル法ヲ設ケテ之ヲ支配セサ
 - 第19巻 p.155 -ページ画像 
レハ其ノ取締ノ立ツヘキモノニアラス、従テ他ノ百般ノ商品ト特別ニ其規則ヲ設ケン事必要ト存候、且私義陳述スル所ハ従来営業ト致候米商ノ事ニ付陳述スル義ニシテ一般取引所ノ義ハ陳述致サス候、同条例施行細則ノ第四十六条ニ売買品ノ請渡ハ制法又ハ特許ニヨリ成立チタル倉庫ノ預リ手形ヲ以テ其用ニ供スル事ヲ得ト有之、現今ノ倉庫ナル者ハ右ノ所謂特許ニ出タル者ニ有之、然ルニ前陳スルカ如ク右ニテハ信用上手形流通上等不便有之、故ニ制法ニ依リタル倉庫ヲ設立スル事整理上得策ト思考致候、其ノ官ヨリ保護スル事ハ日本銀行ノ如キ性質ノ者トシ、其規則方法ハ大概目今現存ノ倉庫ニ摸シ可然ト存候、乍併右ニテ不都合ナル廉即チ改ムヘキ廉ハ左ニ陳述致候
(一)米庫ニ於テ米ヲ撿定シ切手ヲ発行スル事 全国中東京・大坂・京都外一二ケ所ヘ米庫ヲ置キ、例ヘハ日本銀行ノ如ク官ノ保護ヲ受ケシメ、農民其他何人タリトモ米ヲ持参シテ切手ノ付与ヲ需ムル者アレハ其品位ニ応シ之ニ切手ヲ交付ス、此切手ハ主務庁ノ長官ノ証明ヲ経タル者タルベシ
(二)米位ノ標準ヲ定ムル事 全国ノ米ヲ其品位ニ依テ数等ニ分チ甲国ノ産ト乙国ノ産ト同等ナル者ノ如キハ同等ノ位格ヲ付ケ以テ取引上代米ノ使用ニ便セシムヘシ、斯クスレバ其切手ハ全国流通自在ナルヘシ、又目今ノ如ク定期取引ノ限月ニ至リ臨時ニ代用米ノ位ヲ定ムルハ取引者ノ不安心ニモアリ、且会所ニ於テモ其都度手数ナレバ予メ定メ置クヘシ、位格ハ広ク比較シテ米庫吏員ガ命名スル者ナレバ公平ナル事論ヲ俟タス
(三)切手ハ無記名タル可シ 現今ノ如ク記名スレハ出入ノ際極メテ手数ヲ要ス、利益ヲ目的トスル会社等ニテハ出入ニ手数料ヲ取ル事必要ナルヘケレトモ、実用上別ニ差違ナシト思考スルヲ以テ、銀行券又ハ公債証書ノ如ク無記名ニスル節ハ其交換甚便ナルヘシ
(四)米庫ハ保管ノ責ニ任スル事 米庫ニハ吏員ヲ置キ預リタル米ハ適当ノ方法ヲ以テ之ヲ保管シ、切手ヲ持参スル者アレハ漸次古キ分ヨリ出シ与フ
(五)期限ヲ長クスル事 預入最長期限中ハ凡ソ二十ケ月ト定ムヘシ其二十ケ月ト定メタルハ、本年ノ新米ヲ来々年ノ七月マテニ蔵出スルト定メタル者ニシテ米ノ保存期限ニ基キタルナリ、現今ノ如ク倉庫ニテ三ケ月ト定メタルハ、蔵出ノ節マデ必ズ預入レタル時ノ現物ヲ保存シ置クカ故ナリ、此倉庫ニテハ同種類ノ米ナレハ何国米ニテモ搆ハズ旧キ分ヨリ出シ与フルナリ、劣等米ニ至リテハ前記ノ如ク二十ケ月保存シ得サル所ヨリ、本年ノ収獲米ハ翌年七月マテノ期限トス
(六)切手振出手数料ハ廉ナルヘキ事 切手請求者ニハ倉庫ノ実費ヲ除クノ外利益ヲ目的トセズ最廉ナル手数料ヲ徴スヘシ、持主ニ於テ永ク費用ト時間ヲ費シテ買主ヲ待タンヨリ寧ロ切手トナスヲ便トスルノ考ヲ起サシムル事緊要ナリ、故ニ其手数料ハ廉ナルヲ要ス
(七)定期取引ニハ切手ヲ基礎トセシムベキ事 定期取引ナル者ハ未来ノ有様ヲ予想シテ相場ノ激変ヲ防クノ力アル者ナレハ之ヲ許スヘキハ勿論ナリ、然レトモ目今ノ方ニテハ見本品ト同一ノ品又ハ銘柄
 - 第19巻 p.156 -ページ画像 
相当ノ品ヲ調達スル能ハスシテ差支ルノ恐アリ、依テ代用米トシテ現今行ハルヽ格付表アリト雖トモ代用米ノ点ニ於テ種々ノ弊害ヲ免ルヽ能ハス、然レトモ切手ニ於テハ銘柄ハ已ニ確定セル者ニシテ、又永ク保存ストモ価位ヲ落ス等ノ患ヘ(時ノ相場ハ已ムヲ得サレトモ)ナケレハ極メテ安全ノモノナリ
(八)倉庫ノ創立ニ係ル経費ノ事 倉庫ノ創立ニ関スル建築及万般ノ経費支弁ノ為メ一時共同ノ負債ヲ起シテ以テ之ヲ支弁シ、而シテ負債償却ノ方法ハ倉庫蔵敷料及保管料ノ内ヨリ漸次出シテ之ヲ償却スル者トス
以上陳述スル所ニヨレハ入庫米穀ヲ物品視セス恰モ貨幣ノ如ク流通シテ旧米ト新米ト新陳交代スルヲ以テ虫付其他細目ノ規定ハ冗長ニ渉ルヲ以テ記載不致候ヘトモ右ノ切手ニシテ一朝実行相成候トキハ農民ノ米ヲ都会ニ輸出スルニ当テ便利ヲ得ルハ至大ニ有之、而シテ切手トナリタル以上品位ニ変化ナク携帯ニ便ニ信用ノ確ナルヲ以テ其ノ転々売買ニ於テ軽便ナルハ非常ノモノニ有之候、且此法ノ行ハルヽニ至リテハ米庫ハ始終精撰ノ新米ヲ以テ充塞候故、各地方ニ於テ故サラニ備荒貯蓄法ヲ設クルニ及ハス、莫大ノ費ヲ抛テ毎年数千百ノ米ヲ腐敗ニ委スル等ノ事ハ決シテ無之様可相成、此一点ノミニテモ其利益ハ中々大ナル者ト確信仕候、然レトモ政府ハ備荒貯蓄補助金二十二年度配付金額百余万円中ノ幾部分ヲ割テ此倉庫ヘ供給セラレ可成倉庫預入者ニ費用ヲ掛ケサル様御保護相成候テ可然哉奉存候
    米切手発行之義ニ付請願書写
                                       私儀
従来米雑穀商営業罷在候処我カ商ノ原基トスル農民ハ近年地租ノ多キヲ歎キテ其減軽ヲ請願スルモノ多々有之候ニ付テハ、其負担ノ重キニ因ルトハ申ナガラ近年豊穣打続キ候得ハ別段困難ノ事モ無之ト存候、因テ窃ニ私考仕候処地租ノ率或ハ多カラン然レトモ一般ノ国税ニ比較スレハ是又農民独リ租税ニ堪ヘザル義ハ無之ト存候、察スルニ近年農民ノ製産物ナル米価ノ下落致候ヨリ困難ヲ生シ候事ト存候、然レハ之ヲ救フハ地租ノ減軽ヲ図ルヨリ寧ロ米価恢復ノ道ヲ講シ候方捷路ト存候、敢テ米納ノ許可ヲ希フニアラサレトモ先以テ米穀運送ノ方法ト売買法ヲ簡便ニシ之レカ為ニ費ス費用ト時間ヲ省キ之カ為ニ感スル危険ヲ除カレン事ヲ懇請スルニアリ、元来各港ニ於テ廻米問屋等各組合ヲ設ケテ委托販売商ヲ為ス者ニ対シ各地方ヨリ積送リ来ル正米ヲ該商ニ於テハ既ニ規約(委托米雑穀取扱規則第四条廻米問屋ハ荷主ノ委托ヲ受タル米雑穀売捌併セテ荷主ノ為ニ該米雑穀ヲ引当トシテ金融ヲ図ルニ有リ或ハ荷主ニ於テ廻米問屋ヘ米雑穀ヲ送付スル時特ニ其申込又ハ依頼等手続ヲ為ササルトモ問屋ハ総テ其売捌キ仮ヒ金融モ委托セラレタルモノトス最モ其依頼ニ応スルト否ハ毎時問屋ノ都合ニ依テ取捨為ス可シ)ヲ設ケ、荷主ノ所有権ニ非サル者ト見做シテ私擅ニ取扱ハルヽ事アルモ之カ法律ノ問フ可キモノナシ、故ニ近年諸港及府下ノ廻米問屋ニ於テ破産家アルトキハ地方ノ各自米主ニ於テ損害ヲ附帯スル年々巨万円ニシテ実ニ夥タヾシキ事ニ御座候、今ヤ此弊害ヲ防クノ策ハ之カ農商業者ノ急務ニシテ宜シク主務政府ノ保護管督ヲ仰ガサルベカラズ、因テ玆ニ販売力ヲ増シ流通ヲ円滑ナラシメ売買ノ簡便ニシテ且ツ危険無之様仕候ハヾ、全国普通ノ米質品位ヲ公認スル米切手ヲ発行スル事ヲ認可セラレン事ヲ請願仕候、因テ其方法順序左ニ
 - 第19巻 p.157 -ページ画像 
奉上陳候
一米庫ニ於テ米ヲ撿定シ切手ヲ発行スル事 倉庫ハ現今ノ銀行会社ノ方法ニ因リ会社身元金ヲ政府ヘ納メ、之カ保護管督ヲ仰キ、全国三府五港ニ相当ノ倉庫ヲ建設シ、農民其他何人タリトモ正米ヲ以テ預入ヲ乞フモノハ庫吏(官撰又ハ民撰ヲ以テ相当名望アルモノニシテ壱倉庫若干名ヲ置キ右人ノ評価スルモノトス)ノ鑑定ヲ以テ米位ヲ確定シタルトキハ相当ノ切手ヲ発スル事
二米位ノ標準ヲ定ムル事 全国ノ米ヲ其品位ニ依テ数等ニ分チ、甲国ノ産ト乙国ノ産ト同等ナル者ノ如キハ同等ノ位格ヲ付ケ以テ取引上代米ヲ使用ニ便セシムヘシ、斯スレハ其切手ハ全国流通自在ナルベシ、又目今ノ如ク米商会所ニ於テ定期取引ノ限月ニ至リ臨時ニ代用米ノ位ヲ定ムルガ如キハ取引者双方ノ疑惑且ツ不安心ニモアレバ、米庫吏員ガ命名スル公平ナル米位ヲ付シタル米切手ヲ以テ定期取引等為ス以上ハ会所ニ於テモ手数ヲ減シ米穀ノ品位ノ確定一日《(目)》ニシテ明カナリ
三米切手無記名タル可シ 現今ノ如ク記名スレハ出入ノ際極メテ手数ヲ要ス、利益ヲ目的トスル会社等ニテハ出入ニ手数料ヲ取ル事必要ナルヘケレハ実用上別ニ差違ナシト思考スルヲ以テ、銀行券又ハ公債証書ノ如ク無記名ニスル節ハ其交換甚便ナルベシ
四米庫ハ保管ノ責ニ任スル事 米庫ニハ吏員ヲ置キ預リタル米ハ適当ノ方法ヲ以テ之ヲ保管シ、切手ヲ持参スル者米ヲ引出シ方ハ漸次古キ分ヨリ出シ与フ
五期限ヲ長クスル事 預入最長期限中ハ凡ソ二十ケ月ト定ムベシ、其二十ケ月ト定メタルハ本年ノ新米ヲ来々年ノ七月マデニ蔵出スルト定メタル者ニシテ、米ノ保存期限ニ基キタルナリ、現今ノ如ク倉庫ニテ三ケ月ト定メタルハ、蔵出ノ節マデ必ズ預入レタル時ノ現物ヲ保存シ置クガ故ナリ、此倉庫ニテハ同種類ノ米ナレバ何国米ニテモ搆ハズ旧キ分ヨリ出シ与フルナリ、劣等米ニ至リテハ前記ノ如ク二十ケ月保存シ得ザル所ヨリ、本年ノ収獲米ハ翌年七月マデノ期限トス
六切手振出手数料ハ廉ナルヘキ事 切手請求者ニハ倉庫ノ実費ヲ除クノ外利益ヲ目的トセズ最廉ナル手数料ヲ徴スベシ、持主ニ於テ永ク費用ト時間ヲ費シテ買主ヲ待タンヨリ寧ロ切手トナスヲ便トスルノ考ヲ起サシムル事緊要ナリ、故ニ其手数料廉ナルヲ要ス
七定期取引ニハ切手ヲ基礎トセシムベキ事 定期取引ナル者ハ未来ノ有様ヲ予想シテ相場ノ激変ヲ防クノ力アル者ナレバ之ヲ許スベキハ勿論ナリ、然レトモ目今ノ方ニテハ是ノ本品ト同一ノ品又ハ銘柄相当ノ品ヲ調達スル能ハズシテ差支ルノ恐アリ、依テ代用米トシテ現今行ハルヽ格付表アリト雖トモ代用米ノ点ニ於テ種々ノ弊害ヲ免ルル能ハズ、然レトモ切手ニ於テハ銘柄ハ已ニ確定セル者ニシテ又永ク保存ストモ価位ヲ落ス等ノ患(時ノ相場ハ止ムヲ得ザレドモ)ナケレバ極メテ安全ノモノナリ
八倉庫ノ創立ニ係ル経費ノ事 倉庫ノ創立ニ関スル建築及万般ノ経費支弁ノ為メ一時共同ノ負債ヲ起シテ以テ之ヲ支弁シ、而シテ負債償却ノ方法ハ、倉庫蔵敷料及ヒ保管料ノ内出シテ漸次之ヲ償却スル者
 - 第19巻 p.158 -ページ画像 
トス
以上陳述スル如ク相成候ヘハ入庫米穀ヲ物品ト見做サズ恰モ貨幣ノ如ク流通シテ旧米ト新米ト新陳交代スルヲ以テ、虫付其他無益ノ消耗ヲ防キ得ベシト存候、其他細目ノ規定ハ冗長ニ渉ルヲ以テ記載不致候ヘ共右之切手ニシテ一朝実行相成候トキハ農民ノ米ハ都会ニ輸出スルニ当テ便利ヲ得ルハ至大ニ有之、而シテ切手トナリタル以上品位ニ変化ナク携帯ニ便ニ信用ノ確ナルヲ以テ其転々売買ニ於テ軽便ナルハ非常ノモノニ有之候、且此法ノ行ハルヽニ至リテハ米庫ハ始終精撰ノ新米ヲ以テ充塞候故、各地方ニ於テ故サラニ備荒儲蓄法ヲ設クルニ必要ヲ感セズ、莫大ノ費ヲ抛テ毎年数千百ノ米ヲ腐敗ニ委スル等ノ事モ無之様相成ベク実ニ農商業者ノ利益大ナル者ニシテ毫モ他ニ障害無之ト確信仕候、何卒微衷ヲ容レラレ閣下御明察ヲ以テ本願御許可被下度偏ニ奉懇願候也
 但御許可之上ハ猶詳細ナル方法順序等御下命次第陳上可仕候也
                日本橋区通壱丁目六番地
                    伊藤三次郎方寄留
  明治二十一年十一月廿八日
                   京都府平民
                      島津金七印
    大蔵大臣  伯爵 松方正義殿
    農商務大臣 伯爵 井上馨殿
 右奥印候也
              東京日本橋区長 伊藤正信印
(乙号)
去一月中御開示相成候米切手発行ニ関スル議案ニ就テハ其後当業者ノ意見篤ト問合候処、其精神ハ至極結搆ノ様ニ被存候得共、其方案ハ迚モ実施ヲ期シ難シトノ説ニ帰着致候、猶右ニ就東京米商会所ヨリ提出シタル意見書ノ義ハ多少御参考ト可相成存候ニ付、為念別紙ニ写取差出候間、委細ノ義ハ右ニテ御領意被下度候、先ハ此段別紙相添及御回報候也
                 東京商工会々頭
  二十二年四月三十日           渋沢栄一
    島津金七殿
    武木信賢殿
    加藤孫次郎殿
(別紙)
    米切手発行ノ義ニ付東京米商会所ノ意見
第一本案建議者ノ主旨ハ米切手ノ方法ヲ施設シ之ニ由テ現今ノ米価ヲ永久ニ上騰セシメ以テ目今農家ノ困弊ニ沈ミタルヲ救済セント欲スルニ在リ、然レトモ米切手発行ノ一事ハ果シテ建議者ノ希図スル如ク我国米穀ノ需用ヲ増加シ其価格ヲ永久ニ上騰セシムルニ足ルヤ否甚タ疑シキ事ナリ、蓋シ正米ト米切手トノ関係ハ殆ント銀貨ト兌換銀券トノ関係ニ似タルモノニシテ米切手アリト雖トモ未タ正米ニ一勺ノ需用ヲ増シ一勺ノ供給ヲ減スル能ハズ、唯切手ノ効用ハ恰モ兌換銀券ノ銀貨ニ代用シ貨幣受授ノ際ニ其労費ヲ省略シ得ルト同シク米穀取引ノ上ノ労費ヲ省略スルニ過キサル者ナリ、米穀取引ノ労費
 - 第19巻 p.159 -ページ画像 
ヲ省略スル事ハ売買上ニ於テ頗ル効力アル事勿論ニシテ幾分カ其価格ニ影響スル所アルヘシト雖トモ、其影響ハ従来無益ニ消耗シタル労費ヲ其価格ヨリ減却スル事ナレハ米穀ノ需用供給ニ変状ナキ限リハ其結果ハ米価ノ下落ヲ来サン事当然ニシテ、究竟需用者即チ消費者ヲシテ従前ヨリモ低価ヲ以テ米穀ヲ購買セシムル傾向ヲ有スル者ナルベシ、故ニ之カ自然ノ結果ヲ推究スレハ此建議者ノ希図スル所ニ反対シ、寧米価ヲ下落セシムル者ト謂ハサルベカラス、況ンヤ又其切手ノ性質ニ不良ナル点アルニ至ラハ不換紙幣ト正金トノ間ニ差違ヲ生スルカ如ク正米ト切手トニ価格ノ差違ヲ生シ、米穀売買ノ常道ヲ攪乱スルノ虞アルベシ、要スルニ米切手ノ方法ハ米穀ノ需用供給ノ大本ニ関係ヲ有スル者ニアラスシテ単ニ其取引受授ヲ利スルニ過キサレハ、建議者カ之ニ由テ永久ニ米価ヲ上騰セシメ農家困弊ノ救済策ニ供セントスルハ蓋シ至当ノ考案ト為スヲ得ザルガ如シ
第二建議者カ主眼トスル第一点ノ当否ハ姑ク舎キ、更ニ米穀目下ノ現状ニ就キ観察ヲ下ス時ハ此計画ハ終ニ実行スル事能ハサル者ノ如シ是レ何ソヤ、蓋シ我国ノ米穀ハ嚮ニ貢租金納ト改リシヨリ以来封建ノ頃行レ来シ米質ヲ精撰シ、数量ヲ確定シ俵造ヲ一様ニスル等ノ制限ハ一般ニ廃弛シ、農家ハ唯意ニ任セテ利ノ在ル所ヲ求メ以テ其産米ヲ俵造ニスルニ至レリ、是ヲ以テ何国ノ産米ト雖トモ一口ノ貨物ニハ必ス上中下三等ノ米質ヲ混合シ、且重俵軽俵等其俵ノ入量モ一定スルヲ得ス、加フルニ腐化虫喰等ノ損傷米ヲモ混有スルヲ常トス此ノ如ク同一ノ産米ニテモ其実ハ万種万状ナレバ之ニ向テ建議者ノ考案ノ如ク予メ標準ヲ立テ以テ彼是レ相通用シ、切手面ニ依テ直ニ売買ノ計算ヲ為シ得ル所ノ預リ切手ヲ発行スルハ到底為シ難キ所ナルベシ、況ンヤ其預リ期限ヲ二十ケ月トスレバ其間現米ニ量減変質ヲ生スルハ免ルヘカラサル所ニシテ、此等ニハ如何ナル名案ヲ施ス心得ナルヤ、又仮ニ建議者ノ説ニ従ヒ米位ノ標準ヲ定メ、同等ノ米ヲ代用シ以テ便宜ヲ謀ル事ヲ実行シ得ルトスルモ、其切手面ト代用品トノ数量ノ過不足及ヒ米質ノ変化等ヨリ生スル引石ノ割合ノ如キハ頗ル煩雑ナル方法ヲ設ケテ定メサルヘカラスシテ其便利ハ却テ其不便利ニ及ハサル者アルベシ、而シテ此等ノ計算ヲ為スニ当リ預ケ入レノ時ト出庫ノ時ト相場ノ変動ヨリ生スル損益ハ結局倉庫会社ノ負担スル所トナルベク、此クスル時ハ会社ハ貨物保管ノ業ニ投機売買ヲ兼業スルニ至リ、其本来ノ目的ヨリ決シテ成立セシムヘカラサル者トナラン、凡ソ此等ノ不都合ヲ数ヘ来レハ到底此計画ハ現時ノ如キ米穀製造法ノ行ハルヽ間ハ其実施スル事能ハサルヤ多言ヲ費サスシテ明白ナリ、然レトモ若シ此計画ヲ以テ強テ実行セント欲セハ往日領主カ其農民ヨリ貢納ヲ収入シタル時ノ如ク最初米穀ヲ預ルニ当リ左ノ手続ヲ施スヘシ、第一預ケ入レノ際其預ケ人ヲシテ其預ケ米ヲ仕分セシメ、一口ノ米ハ必ス上米中下米ノ一種ニ揃ヘシメ、在来ノ如ク一口中、上中下ノ品質ヲ混合スルノ弊ヲ防クベシ、第二預ケ入レノ際其預ケ人ヲシテ預ケ米ヲ精撰シ、腐化虫入等ヲ除却スルハ勿論預リ中損傷ノ恐アル米質ハ尽ク跳ネ除ケシメ、在来ノ如ク損傷アル者及ヒ損傷ノ恐アル者ヲ混入セシムヘカラス、第三其産国ニ
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従ヒ俵入ノ升目ヲ一定シ預ケ入レノ際其預ケ人ヲシテ升目ヲ多クシ俵造ヲ改造セシメ以テ預リ中減量ヲ生スル憂ヲ予防シ、在来ノ如ク俵入ノ升目ヲ区々ニセシムベカラス、往日旧大名ノ蔵切手ノ通用シタル所以ハ其正米ニ対シ右ニ列挙シタル手続行届キ之ヲ蔵出シスルニ当リ切手面ニ齟齬セサルノミナラス時トシテハ升廻シ引石ノ上ニ付キ切手持主ハ意外ノ利潤ヲ得タルニ由ル、然レトモ今日ノ場合倉庫会社ノ力ヲ以テ能ク此等ノ手続ヲ実行スル事ヲ得、又預ケ人ハ此切手ヲ要スル為ニ其費用ト手数トヲ吝マズ甘ンシテ此等ノ手続ヲ尽スヘキヤ否甚覚束ナキ事ナルベシ、故ニ現今ノ如キ米穀ノ状況ニテハ此建議者ノ計画ハ到底実行スル能ハサル事抦ナリ、近来世上ニ於テ此建議者ト同一ナル考案ヲ持シ往々米切手発行ノ便利ヲ喋々スルモノアリト雖トモ此等ハ唯往日旧大名ノ蔵切手ノ行レタルヲ知リ其便利ヲ夢想シテ其根本タル米穀ノ製造法ニ昔日ト今日トノ別アル事ヲ知ラサル者ナリ、故ニ若シ其思考一タヒ此ノ差違アル所ニ思ヒ到ラハ忽ニ其説ク所ノ誤謬タルヲ暁ルニ至ルベシ、乃チ此建議者ノ如キモ亦此類ノ人ト謂ハン歟
第三以上ノ二項ニ由レハ此計画ヲ実行スルモ其効益ナキ事及ヒ米穀今日ノ現状ニ於テ之ヲ実行スル事能ハサル理由明白ナルベシ、因テ其他官ノ保護ヲ受ケ及ヒ日本全国ヲ一会社支配ノ下ニ置ク事、若シクハ其発行ノ切手ニ地方官ノ証明ヲ受クル事等ノ諸点ハ別ニ其当否ヲ論弁セサルベシ


東京商工会議事要件録 第四〇号・第二―一八頁 (明治二二年九月)刊(DK190023k-0002)
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東京商工会議事要件録  第四〇号・第二―一八頁 (明治二二年九月)刊
  第廿一定式会
          (明治廿二年八月九日開会)
  第卅六臨時会
    会員出席スル者 ○二十五名
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ報ジ先ツ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ規程第五章第二十二条ニ拠リ明治二十二年上半季間定式事務ノ成蹟ヲ報告ス
  自明治廿二年一月至同六月 半季間事務ノ報告
○中略
    雑事    八件
○中略
○米切手発行ノ義ニ付島津金七氏外二名ヨリ照会ノ件
  明治二十二年一月廿二日附ヲ以テ日本橋区通一丁目六番地島津金七氏外二名ヨリ米切手発行ノ義ニ付本会ノ助成ヲ得度旨照会アリタルニ付、其後東京廻米問屋組合及東京米商会所ノ意見ヲ問合セタルニ其方案ハ到底実施ヲ期シ難シトノ説ニ帰着シタルニ付、四月三十日附ヲ以テ其旨ヲ同氏外二名ニ回報シタリ
○下略