デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.434-456(DK190055k) ページ画像

明治23年12月13日(1890年)

是日栄一外当会会員四十八名連署シテ商法ノ施行ヲ延期センコトヲ貴族院議長伯爵伊藤博文・衆議院議長中島信行ニ請願シ、次イデ十八日右意見書ノ写ヲ各地商業会議所ニ送附セリ。後第一帝国議会其延期法案ヲ可決シ政府之ヲ公布ス。


■資料

渋沢栄一書翰 萩原源太郎宛 (明治二三年)一一月二四日(DK190055k-0001)
第19巻 p.434 ページ画像

渋沢栄一書翰  萩原源太郎宛 (明治二三年)一一月二四日 (萩原英一所蔵)
拝啓然者今日之役員会ニハ病気之為欠席仕候、御一同ヘ可然御伝声可被下候
○中略
商法修正ニ関する取調ハ志田氏より之返事有之候哉、右ハ稍見込相立候ハヽ司法省ヘ引合候上ニて本議ニ付し候方と存候、新司法大臣ハ頗る本調査ハ同意之由此程申聞有之候、右之二件役員会ヘ御話合可被下候
右之段申上度 匆々不一
  十一月廿四日            渋沢栄一
    萩原源太郎様


東京商工会議事要件録 第四七号・第八―一二頁 (明治二四年一月)刊(DK190055k-0002)
第19巻 p.434-435 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四七号・第八―一二頁 (明治二四年一月)刊
  第四十四臨時会  (明治二十三年十二月八日開)
    会員出席スル者 ○二十七名
○上略
会長(渋沢栄一)ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ且ツ曰ク、曩ニ商法質義会ヲ設立シ委員ハ先ヅ商法中ノ疑義ヲ質シ、然ル後修正ノ意見書ヲ起草シ之ヲ政府若クハ帝国議会ヘ差出ス事ニ決シタルガ何分商法ハ千余条ヨリ成立スル大法典ニシテ特ニ其条項複雑シテ意義ノ解シ難キモノ甚ダ多ク、随テ委員ハ去六月二十五日ヨリ本月六日ニ至ル迄質義或ハ審議等ノ為メ集会ヲ開キタル事前後三十七回ニ及ビタレトモ、是迄質義ヲ了シタル条項ハ猶僅ニ七百条ニ過ギズ、然ルニ商法実施ノ期限ハ既ニ目前ニ切迫セルガ故ニ今予定ノ順序ヲ逐フテ修正ノ意見書ヲ起草セントスル時ハ頗ル時日ヲ要シ、之ガ為メ時機ヲ失スルノ恐アリ、是ヲ以テ委員ハ去ル四日ノ集会ニ於テ此際先ヅ不取敢商法中実際ニ不適応ナル条項数個ヲ調査シ商法ノ延期セザルベカラザル理由ヲ具シテ貴衆両院ヘ請願書ヲ上呈シ、然ル後猶修正ノ意見書ハ予定ノ順序ヲ逐フテ別ニ之ヲ起草シ、追テ調成ノ上ハ之ヲ両院ヘ上呈スベシト云フニ決シタリ、是特ニ臨時会ヲ開テ諸君ノ議決ヲ請フ所以ナリ、尤右請願書ノ草案ハ一応起稿シ置キタレトモ何分急劇ノ際ニシテ未ダ定案ノ場合ニ至ラザルニ付其原案ハ乍遺憾玆ニ提供スルヲ得ザリキ、蓋シ其請願ノ趣旨ハ要スルニ商法中ニハ実際ニ適応セザル条項不少ニ付其施行ハ暫ラク之ヲ延期スベシト云フニ在リテ、敢テ丁寧ノ観察ヲ要スル
 - 第19巻 p.435 -ページ画像 
程ニモアラザレバ仮ニ原案成立スルモノト看做シテ之ヲ議決セラレン事ヲ望ム
二十九番(山中隣之助)曰ク、請願書ノ草案ヲ玆ニ提供スルヲ得ザルハ甚ダ遺憾ナレトモ、此事タル極メテ緊急ナル問題ニシテ此上彼是躊躇スル時ハ失機ノ恐アリ、故ニ直チニ数名ノ委員ヲ撰ビ之ニ立案ヲ托シ片時モ早ク請願書ヲ貴衆両院ヘ上呈シタシ
十六番(益田克徳)曰ク、余モ二十九番(山中隣之助)ノ説ヲ賛成ス蓋シ此事タル至急ヲ要スルニ付委員ニ全権ヲ委任シ、再ビ臨時会ヲ開クノ手数ヲ省キタシ
三番(梅浦精一)曰ク、余モ無論二十九番(山中隣之助)ノ説ヲ賛成ス
五十番(渡部温)曰ク、請願書ノ草案調成ヲ待チ之ヲ会議ニ提出スルハ甚ダ望マシキ事ナリト雖トモ、時日既ニ切迫スルヲ以テ致シ方ナシ、就テハ凡五名ノ委員ヲ撰ビ之ニ全権ヲ委任シ直チニ請願書ヲ上呈シタシ
二十九番(山中隣之助)曰ク、委員ハ五名トシ正副会頭ハ職務上委員会ニ参加スル事トシタシ
五十三番(奥三郎兵衛)及六十四番(笹瀬元明)ハ共ニ二十九番(山中隣之助)ノ説ヲ賛成ス
二十番(大倉喜八郎)曰ク、別ニ委員ヲ撰ブヲ要セズ、従来ノ質義委員ニ托シテハ如何ン
二十九番(山中隣之助)曰ク、委員ノ数多キニ過ル時ハ却テ整理上不便アリ委員ハ五名位ニテ可ナリ
於是会長(渋沢栄一)ハ先ヅ委員ヲ撰ンデ請願ノ事ヲ托スベシト云フノ説ニ起立ヲ命ジタルニ総起立ニテ之ヲ可決ス
十四番(永井松右衛門)曰ク、別ニ委員ヲ撰ブヲ要セズ、従来ノ質義委員ニ托スル事トスベシ
五十番(渡部温)曰ク、余モ初ハ別ニ委員ヲ撰ブヲ可トシタレトモ猶再考スルニ従来ノ質義委員ニ托スル方便利ナリト信ズ
二十九番(山中隣之助)曰ク、従来ノ質義委員ニ其儘托スベシト云フ時ハ銀行集会所ノ委員ニモ協議セザルヲ得ザルノ事情アリテ却テ事務ノ渋滞ヲ来スノ恐アリ、是余ガ別ニ委員ヲ撰ブベシトノ説ヲ主張スル所以ナリ
於是会長(渋沢栄一)ハ先ヅ五名ノ委員ヲ撰ブベシトノ説ニ起立ヲ命ジタルニ起立者十四人即チ多数ニテ之ヲ可決シ、猶衆議ノ末委員ハ会長ノ指名ニ任スベシト云フニ決ス
  会長ハ即時左ノ五名ヲ委員ニ指名ス
                    阿部泰蔵
                    奥三郎兵衛
                    梅浦精一
                    益田克徳
                    山中隣之助
  又請願書ハ其後委員ニ於テ起草シ、十二月十三日附ヲ以テ貴衆両院ヘ上呈シタリ、依テ其全文ハ参考部ニ掲グ

 - 第19巻 p.436 -ページ画像 

東京商工会議事要件録 第四七号・第一七―五二頁 (明治二四年一月)刊(DK190055k-0003)
第19巻 p.436-452 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四七号・第一七―五二頁 (明治二四年一月)刊
 ○参考部
    商法施行ノ延期ヲ要スル義ニ付請願
明治二十三年三月二十七日法律第三十二号ヲ以テ公布セラレタル商法ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スル旨ヲ定メラレタルヲ以テ、即チ其期限ハ公布ヨリ実施迄僅々半年余ニ過ギズ、然ルニ此商法ハ各種ノ商業ヲ統轄スルノ大法典ニシテ殊ニ新奇ノ事柄ヲ規定シタル条項頗ル多ク、随テ其大意ヲ了知シ之ニ応ズルノ準備ヲ遂グルハ甚ダ困難ナルニ付、東京商工会ニ於テハ去ル八月二十七日附ヲ以テ施行延期ノ事ヲ当局大臣ニ開陳シ置キ、爾後委員ヲ設ケテ篤ト商法ノ商業上ニ及ボスベキ効果如何ヲ審案シタルニ、生等ハ施行ノ延期益々緊急ナル事ヲ確認シタルニ付、左ニ其理由ノ大要ヲ開陳スベシ
蓋シ我国ノ商業日ヲ逐フテ発達シ新事業勃興スルノ今日ニ当リ、之ヲ規定スルノ法律ナカルベカラザルハ生等ノ信ズル所ナリ、且ツ夫レ商法ハ中外ニ開係スル商業ヲ規定セラルヽモノナレバ、単ニ我国固有ノ慣習ノミニ拠ルベカラザルモノナルモ亦生等ノ認ムル所ナリ、然リト雖トモ凡ソ法律ニ貴ブ処ハ其ノ能ク実際ニ適応スルニ在リ、若シ之ヲシテ果シテ実際ニ適応セザルノ法律ナラシメンカ、仮令其法文ハ完備スルモ到底徒法死文タルヲ免カレザルノミナラズ、或ハ実際ノ事業ヲ攪乱スル事ナシト云フベカラズ、想フニ我ガ商法ハ当局ニ於テ普ク欧米各国ニ行ハルヽ商法ヲ参酌シ、其精ヲ抜キ美ヲ採テ編纂セラレタルモノニシテ躰裁甚ダ整備スルガ如シト雖トモ、熟ラ生等ノ審案スル所ニ拠レバ其条項中実際ニ適応セズシテ大ニ商人ノ不便ヲ来スベキモノ少シトセズ、是生等ガ今日特ニ商法ノ施行ヲ延期シテ、之ニ相当ノ修正ヲ加ヘラレン事ヲ希望スル所以ナリ
聞ク所ニ拡レバ欧米諸国ノ商法ハ概ネ其国ニ行ハルヽ商人ノ慣習ヲ採輯シタルモノニシテ学者之ヲ称シテ商人制定法ト云フト、然ルニ今熟ラ我ガ商法ヲ観察スルニ我国ノ慣習風俗ニ重キヲ置カズシテ、一意ニ外国ノ商法ヲ採テ以テ之ヲ我国ニ移サント勉ムルモノヽ如シ、是ヲ以テ其条項中或ハ文章直訳躰ニシテ其意義分明ナラザルモノアリ、或ハ故ラニ従来ノ用語ヲ棄テヽ新奇ノ文字ヲ用ヒタルガ為メ無益ノ搆思ヲ費スモノアリ、之ヲ要スルニ我国従来ノ慣習ニ支吾シ、其文義ノ解釈ニ苦シムノ条項一々枚挙スルニ遑アラズ、現ニ東京商工会ニ於テ設クル所ノ委員ハ、爾来数月間其研究ニ従事スルト雖トモ未ダ以テ之ヲ知悉スル能ハズ、況ンヤ一般普通ノ商人ニシテ俄カニ此新法ニ規正セラルヽニ於テハ、或ハ之ヲ知ルノ暇ナク、或ハ之ガ解釈ヲ誤リテ刑辟ニ陥ル者ナシト云フベカラズ、是生等ノ杞憂ニ堪ヘザル所ナリ
是ヲ以テ生等ハ商法ノ逐条ニ就キ、細カニ之ヲ審案シテ其修正ノ意見ヲ具陳スルニ勉焉スルト雖トモ、時期已ニ迫ルヲ以テ、先ヅ其実際ニ適応セザル数個ノ条項ヲ抜キ、之ヲ別紙ニ附記シテ貴院ヘ奉呈シ貴院ノ御審議ヲ請フ所ナリ、仰ギ願ハクバ貴院ニ於テ生等ノ意志ヲ採納セラレ、此商法ノ実施ヲ相当ノ期間迄延期相成候様仕度、依テ別紙相添此段謹デ請願仕候也
  明治二十三年十二月十三日
 - 第19巻 p.437 -ページ画像 
              東京市麹町区麹町五丁目二番地
                   東京府平民
        洋服商             高羽総兵衛
                      文政八年五月生
              東京市深川区堀川町二番地
                   東京府平民
        肥料問屋廻米問屋        奥三郎兵衛
                     天保七年十二月生
              東京市深川区深川公園第二十七号
                   東京府平民
        酒商               山路勘助
                      弘化二年三月生
              東京市神田区北甲賀町八番地
                   東京府平民
        東京紡績会社々長         田村利七
                      嘉永二年二月生
              東京市日本橋区瀬戸物町七番地
                   東京府平民
        鉱山営業            古河市兵衛
                      天保三年三月生
              東京市京橋区銀座弐丁目三番地
                   東京府平民
        時計商              新居常七
                      天保四年四月生
              東京府北豊島郡金杉村四百十二番地
                   東京府平民
        東京海上保険会社支配人      益田克徳
                      嘉永五年一月生
              東京市日本橋区本材木町一丁目八番地
                   東京府平民
        麻苧商             金子茂兵衛
                      安政五年十月生
              東京市神田区同朋町十一番地
                   東京府平民
        質商               吉田幸作
                      安政二年八月生
              東京市日本橋区鉄砲町廿一番地
                   東京府平民
        絵具染料商           田中半兵衛
                      天保九年七月生
              東京市日本橋区米沢町二丁目一番地
                   東京府平民
        薬種商             吉田安五郎
                      安政四年五月生
              東京府北豊島郡王子村元王子十五番地
                   東京府平民
        王子製紙会社支配人         谷敬三
                     天保十三年一月生
 - 第19巻 p.438 -ページ画像 
              東京市神田区小柳町六番地
                   東京府平民
        東京薬品会社副社長       森島松兵衛
                      弘化二年七月生
              東京市深川区東大工町六番地
                   東京府平民
        油商              岩出惣兵衛
                      天保五年五月生
              東京市京橋区南新堀町一丁目六番地
                   東京府平民
        酒類問屋            牧原仁兵衛
                    天保十三年十一月生
              東京市日本橋区蠣殻町三丁目十二番地
                   東京府士族
        製紙業             足助房太郎
                      嘉永五年一月生
              東京市日本橋区伊勢町八番地
                   東京府平民
        木綿商              野本伝七
                     天保十二年九月生
              東京市赤阪区赤阪霊南坂町弐拾番地
                   兵庫県士族
        外国品輸入商           刺賀超介
                      嘉永元年七月生
              東京府荏原郡北品川宿二百六十番地
                   東京府平民
        三井物産会社々長          益田孝
                     嘉永元年十一月生
              東京市日本橋区馬喰町四丁目十五番地
                   東京府平民
        絵具染料商            南川福蔵
                      嘉永三年七月生
              東京市深川区小松町七番地
                   東京府士族
        東京倉庫会社支配人        生島一徳
                     天保十三年七月生
              東京市京橋区本八丁堀三丁目六番地
                   徳島県平民
        藍玉商              松江勝蔵
                     安政二年十一月生
              東京市芝区浜松町壱丁目十五番地
                   東京府士族
        東京馬車鉄道会社幹事       岩橋静彦
                     天保十五年五月生
              東京市下谷区上野町一丁目十七番地
                   東京府平民
        呉服太物商            阿部孝助
                     嘉永元年十一月生
 - 第19巻 p.439 -ページ画像 
              東京市深川区亀住町十二番地
                   東京府平民
        肥料問屋             前川忠七
                     天保十二年六月生
              東京市日本橋区本両替町四番地
                   東京府平民
        煙草商            田中佐次兵衛
                      安政六年二月生
              東京市日本橋区堀留町二丁目六番地
                   東京府平民
        煙草商              若松源八
                      文久二年七月生
              東京市日本橋区箱崎町二丁目十八番地
                   東京府平民
        食塩商             榎本小兵衛
                     天保五年十一月生
              東京市日本橋区兜町一番地
                   東京府平民
        洋紙商               陽其二
                      天保十年六月生
              東京市深川区東元町一番地
                   東京府平民
        塩干魚商            串田孫三郎
                      天保五年三月生
              東京市京橋区大鋸町六番地
                   東京府平民
        売薬商           喜谷市郎右衛門
                      弘化四年十月生
              東京市日本橋区米沢町一丁目二番地
                   東京府平民
        西洋小間物商         神崎三郎兵衛
                     天保十二年八月生
              東京市本所区横網町二丁目十八番地
                   和歌山県平民
        日本郵船会社副社長       吉川泰二郎
                     嘉永三年十二月生
              東京市京橋区木挽町二丁目十三番地
                   広島県平民
        日本郵船会社副支配人      石井安之助
                      元治元年十月生
              東京市京橋区木挽町九丁目十一番地
                   新潟県平民
        石川島造船所委員         海浦精一
                      嘉永五年二月生
              東京市日本橋区堀留町一丁目二番地
                   東京府平民
        砂糖問屋            松本喜三郎
                      嘉永五年七月生
 - 第19巻 p.440 -ページ画像 
              東京市日本橋区室町三丁目三番地
                   東京府平民
        砂糖問屋           方波見平兵衛
                      嘉永六年九月生
              東京市日本橋区亀島町壱丁目三番地
                   東京府平民
        今村銀行頭取          今村清之助
                      嘉永二年三月生
              東京市日本橋区室町壱丁目十番地
                   東京府平民
        東京鰹節問屋          関山源三郎
                      天保九年四月生
              東京市麻布区飯倉町三丁目十五番地
                   東京府士族
        明治生命保険会社頭取       阿部泰蔵
                      嘉永二年四月生
              東京市日本橋区兜町四番地
                   東京府士族
        東京株式取引所仲買        天矢正剛
                      安政四年五月生
              東京市京橋区銀座壱丁目廿一番地
                   東京府平民
        日本セメント会社々長      橋本辰三郎
                      明治元年一月生
              東京市京橋区南新堀町二丁目一番地
                   東京府士族
        清酒商               酒井泰
                      安政五年四月生
              東京市本所区菊川町一丁目十一番地
                   東京府平民
        東京薪炭問屋         浅井幸右衛門
                      弘化元年二月生
              東京市京橋区築地三丁目十五番地
                   東京府平民
        内外用達会社委員副長      手島鍈次郎
                      安政元年九月生
              東京市日本橋区小伝馬町二丁目八番地
                   東京府平民
        銅鉄物商            桑原七兵衛
                      嘉永元年五月生
              東京市神田区材木町廿八番地
                   東京府平民
        銅鉄物商             梅岡正吉
                      安政元年四月生
              東京市京橋区南伝馬町一丁目十七番地
                   東京府平民
        第三十二国立銀行取締役     山中隣之助
                     天保十一年七月生
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              東京市京橋区銀座三丁目一番地
                   東京府平民
        西洋小間物商            辻粂吉
                      安政元年五月生
              東京市深川区福住町四番地
                   東京府平民
        第一国立銀行頭取         渋沢栄一
                     天保十一年二月生
    貴族院議長 伯爵 伊藤博文殿
                 (各通)
    衆議院議長 中島信行殿
副申、本文ニ具陳スルガ如ク生等ハ目下猶商法ノ逐条審案中ニ付、他日其完了ヲ期シ更ニ之ヲ詳記シテ貴院ニ奉呈スベシ、此旨為念添テ上陳仕候也
      意見書 (別紙)
第一条 商事ニ於テ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習及ヒ民法ノ成規ヲ適用ス
  本条中商慣習及民法ノ成規ヲ適用ストアリテ其適用ノ順序ヲ規定セサルガ故ニ若シ商慣習ト民法ノ成規ト並ヒ存スル時ハ何レヲ適用スヘキカ明了ナラス、蓋シ法律ニ反スルノ慣習ハ法律之ヲ以テ慣習ト認メザルガ故ニ之ヲ適用スベカラサルハ勿論ナルベシ、然リト雖トモ商慣習ト民法ノ成規ト並ヒ存シテ然モ其成規ハ右商慣習ヲ禁セザル場合尠ナカラス、如斯場合ニ於テハ主トシテ商慣習ヲ適用セサルベカラズ、想フニ立法者ノ精神モ亦此ノ如クナルベシト雖トモ行文上ヨリ見ルトキハ商慣習存スル時ト雖トモ又タ常ニ民法ヲ適用スルカ如クニ思ハル、是商人ノ甚タ危懼スル所ナリ故ニ本条中「商慣習及民法ノ成規ヲ適用ス」ノ文字ヲ「商慣習ヲ適用シ若シ商慣習ナキ時ハ民法ノ成規ヲ適用ス」ト云フガ如ク意味明瞭ナル文字ニ修正アラン事ヲ要ス
第一編第三章(自第二十三条至第三十条)商号
  第三章即チ第二十三条ヨリ第三十条ニ至ル商号ニ関スル規定ハ全ク之ヲ刪除シタシ
   第一 本章ノ規定ハ実施スルノ必要ナシ
  現今各商人ノ使用スル商号ハ何屋何堂若クハ何軒ト云フガ如ク其種類一ニシテ足ラスト雖トモ要スルニ同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ商号ヲ使用スルノ例甚タ多ク、現ニ彼ノ呉服商ノ越後屋、太物商ノ近江屋、質商ノ尾張屋・佐野屋ノ類ニ至リテハ同業者各個ヲ区別スル為メノ特称タルヨリハ寧ロ其商業ノ種類ヲ区別スル為メ殆ト同業者ニ通用スルノ総称タルカ如キ景況アリ、是蓋シ従来大賈巨商ニハ暖簾ヲ与フルト称シ雇人ガ多年誠実ニ勤続スルニ当リ主人ヨリ之ニ資本ヲ分与シ己レト同一ナル商号ヲ称セシムルノ慣例アリテ自ラ此現況ヲ馴致シタルモノナルヘシ、而シテ此等商号ノ中ニハ各商人ガ頼リテ以テ其営業上ノ信用ヲ維持スル為メニ必要ナルモノモ亦固ヨリ少ナカラサルベシト雖トモ、若シ偶々其商号ノ同一ナル為メ同業者互ニ不便ヲ感スル事アレバ之ニ其住地・名字若クハ符号ヲ加ヘテ適宜ニ之ヲ区別スルノ便法アレハ、
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今日同業者中同一ノ商号ヲ使用スル者多キモ実際商売上ニ於テ甚タシキ差閊ヲ生ズル事ナシ、蓋シ時トシテ故意ニ他人ノ商号ヲ濫用シテ自己ノ利益ヲ図ラントスル者全ク無キニアラズト雖トモ斯ノ如キ実例ハ稀ニ見ル所ニシテ未タ以テ一般ニ此規定ヲ実施スルノ必要ヲ促カスニ足ラス、況ンヤ此等特別ノ場合ニ於テハ此規定ニヨラザルモ他ニ之ヲ救護スルノ道ナキニアラザルニ於テオヤ、是本章ノ規定ヲ以テ実施スルノ必要ナシト信スル所以ナリ
   第二 本章ノ規定ヲ実施スル時ハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ却テ目的外ノ結果ヲ生スルノ懸念アリ
  案スルニ本章規定ノ目的トスル処ハ他人ノ商号ヲ濫用スルノ弊ヲ防ギ以テ使用本主ノ利益ヲ保護スルニ在ルベシ、然リト雖トモ今若シ此規定ヲ実施スル時ハ果シテ其目的ヲ達シ得ベキヤ否ヤ単ニ其目的ヲ達シ難キノミナラス或ハ却テ反対ノ結果ヲ生スル事ナキヤヲ懸念スルナリ、蓋シ今日同種ノ商業ヲ営ム者ニシテ同一ノ商号ヲ使用スル者甚タ多キニモ拘ラス実際ニ於テ故意ニ他人ノ商号ヲ濫用シテ其利益ヲ害セン事ヲ図ル者極メテ少ナキ者ハ畢竟スルニ各商人ニ徳義心アリテ自ラ此等ノ所為ヲ制止スルカ為メナルベシ、然ルニ今此規定ヲ実施シテ本章第二十六条ニアルカ如ク「商号ハ登記ニ因リ同一営業ニ就キ一地域内ニ於テ其専有ノ権利ヲ取得シ、他人之ヲ用ユル事ヲ得ズ」ト定ムルトキハ是恰モ同一ノ商業ヲ営ム者ニ向ヒ、同地域内ニ在ラサル時ハ何人ノ使用スル商号ト雖トモ随意ニ之ヲ使用スル事ヲ得ル旨ヲ公許スルト同一ナルニ付、之ガ為メ従来各商人中ニ成立セル徳義心ヲ破壊シ之ヲシテ法律ノ許ス範囲内ニ於テ他人ノ商号ヲ濫用シ、以テ其利益ヲ害セントスルノ情念ヲ発生セシメ、結局却テ其使用本主ノ危険ヲ増スノ恐ナキカ、例ヘハ甲ガ芝ノ高輪(地域内)ニテ万清ト称シ料理業ヲ営ムニ当リ、乙カ僅ニ数丁ヲ隔ツル品川(地域外)ニテ同一ノ商号ヲ称シ、甲ト同種ノ商業ヲ営ム事アリトセンニ此等ノ場合ニ於テ甲ナル使用本主ハ乙ナル同業者ノ為メ実地ノ損害ヲ受クル事アリトスルモ如何セン、此所為タル恰モ法律面ニ於テ公許スル処ナルヲ以テ甲ナル被害者ハ乙ナル加害者ニ向テ損害ノ賠償ヲ要求スル事ヲ得サルヘシ、果シテ然ルトキハ甲ノ地位ニ立ツ者ハ仮令表面ニ於テハ其商号ノ専用ヲ保護セラルヽトスルモ、実際ニ於テハ之カ為メ却テ奸商ニ向テ適々己レニ加害スルノ釁隙ヲ開クモノト謂ハサルヘカラス、是本章ノ規定ヲ実施スルトキハ商人ノ徳義心ヲ破壊シ、却テ目的外ノ結果ヲ生スルノ懸念アリト信スル所以ナリ
第八十一条 会社ハ登記前ニ開業スルコトヲ得ス、之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ其営業ヲ止ム、但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第八十二条 会社其登記ノ日ヨリ六ケ月内ニ開業セザルトキハ其登記及ヒ公告ハ無効タリ
  第八十一条及第八十二条中ニ各々「開業」ノ文字アリ、抑モ此開業トハ是迄慣用セラルヽガ如ク営業開始ノ意カ、或ハ事業着手ノ
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意カ、若シ前解ノ如クナランカ第八十二条ノ場合ノ如キ大ニ実際ニ不都合アリ、蓋シ普通ノ工業特ニ鉄道事業ヲ経営スル会社ノ如キハ其機械ヲ外国ニ注文シテ之ヲ接手スル迄少クモ六ケ月、若クハ其以上ヲ要スルニ付、登記後六ケ月内ニ営業ヲ開始スルハ実地為シ得サル所ナリ、想フニ前記両条中ニアル開業ノ文字ハ総テ工事ノ着手ヲ意味スルモノナルベシト雖トモ字面ヨリ見ル時ハ営業開始ヲ意味スルカ如クニ思ハレ、甚タ不都合ナルニ付此開業ノ文字ハ之ヲ事業着手ト改メタシ
第九十五条 社員其負担シタル出資ヲ差入レサルトキハ会社ハ之ヲ除名スルト年百分ノ七ノ利息ヲ払ハシムルトヲ択ミ、尚其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
  商法中第九十五条・第百一条・第百三条・第二百十三条等ニ於テ「年百分ノ七」ノ文字アリ、蓋シ此等ノ利息ハ多クハ違約ヲ防グノ場合ニ用ルモノニ付普通利息ノ割合ヨリ高カラザル時ハ以テ其効ヲ致スヲ得ズ、然ルニ現今我国普通ノ利息ハ概ネ百分ノ十ヨリ下ル事稀ニシテ是従来各会社ガ株金払込延滞ニ課スル利息ヲ日歩三銭(年百分ノ一〇・八)乃至五銭(百分ノ一八)位ニ定ムルヲ例トスル所以ナリ、由是観之前陳ノ如キ場合ニ於テ其利息ノ割合ヲ普通ノ利息ヨリ低度ニ定ムルハ是豈不都合ノ甚シキモノニアラズヤ、蓋シ第三百三十四条ヲ案ズルニ百分ノ七ノ利息ハ別段契約ナキ時ニ限ルガ如シト雖トモ、第九十五条ノ文面上ヨリ見ル時ハ別段契約アル時ト雖トモ百分ノ七以上ノ利息ヲ課スル事ヲ得ザルモノヽ如シ、果シテ然ル時ハ株主ノ輩故意ニ株金ノ払込ヲ怠リテ寧ロ七歩ノ利息ヲ払ハン事ヲ択ムノ弊ヲ生シ、為メニ会社事業ノ成立ヲ期ス可ラザルニ至ルベシ、或ハ利息ハ仮令百分ノ七トアルモ損害賠償ヲ求ムル事ヲ得ルノ明文アルニ付差支ナシト論ズル者モアルベシト雖トモ、損害ヲ賠償スルニハ面倒ナル手数アリテ機敏ヲ尚ブ商人ハ已ムヲ得ザルニアラザレバ可成之ヲ避クルノ情アリ、故ニ此損害賠償ノ方法タル実際ニ於テハ之レニ依リテ充分其利益ヲ保護スルヲ得ザルナリ
第二百二十二条 会社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿・目論見書・定款・設立免許書・総会ノ決議書・毎事業年度ノ計算書・財産目録・貸借対照表・事業報告書・利息又ハ配当金ノ分配案及ヒ抵当若クハ不動産質ノ債権者ノ名簿ヲ備置キ通常ノ取引時間中何人ニモ其求ニ応シ展閲ヲ許ス義務アリ
  本条ニ拠レバ会社ハ常ニ其本店及各支店ニ株主名簿其他ノ書類ヲ備置キ何人ノ求メニ応シテモ之ニ展閲ヲ許サヾルベカラズ、蓋シ此等ノ書類中本来秘密ヲ要セザルモノハ株主又ハ債権者ハ勿論新ニ之ト取引セントスル者ガ実際ノ必要ヨリ其閲覧ヲ求ムルガ如キ場合ニ於テ之ニ応諾スルハ固ヨリ妨ナシト雖トモ、抵当若クハ不動産質ノ債権者ノ名簿ノ類ニ至リテハ会社ガ之ヲ他人ニ示スヲ憚ルモノナキニアラズ、然ルニ此等ノ書類ニ至ルマテ総テ何人ニモ其望ニ応シテ開示セサルヲ得サルモノトスルハ其当ヲ得サルモノトス況ンヤ如此規定アル時ハ徒ラニ会社ヲ煩ハシ之ヲ妨害セント
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スルノ徒ナキヲ保セザルニ於テオヤ、之ヲ要スルニ此「何人」ノ文字ヲ株主若クハ債権者ト改ムルニアラザレバ実際極メテ不便ナリト信スルナリ
第三百七拾九条 二人以上ノ質債権者中一人ハ現物ヲ占有シ、他ノ者ハ其物ニ付テノ処分証券ヲ占有スルトキハ孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者売却ノ優先権ヲ有ス
  本条ノ処分証券トハ第三百六十九条ニ規定セラレタル船荷証書・倉荷証書其他裏書ヲ以テ所載商品ノ処分権ヲ移転スル事ヲ得ル証券ノ意ナラン、然レトモ是等ノ証券ヲ質入スル場合ハ倉荷証書ニ多ク、船荷証書ニハ稀ニシテ其倉荷証書モ二通以上ヲ発行シタル時ニ非ザレハ本条ノ如キ場合ヲ生ゼザルベシ、且倉荷証書ハ為替手形又ハ船荷証書ノ如ク地ヲ隔テヽ所載ノ物品ヲ受取ルモノニ非ザレバ二通以上ノ証券ヲ発行スルノ必要ナク、殊ニ寄托ノ条ニ於テモ倉荷証書ハ数通ノ証券ヲ発行スルノ規定ナシ、然ルニ本条ニ此規定ヲ設クルニ於テハ自ラ倉荷証書モ亦二通以上ヲ発行シ得ルヤノ疑アリ、故ニ本条ハ刪除セラレンヲ望ム
第四百四拾九条 或ル商品ヲ小売ノ外ハ取引所ニ非サレハ商フヲ得サルコトヲ官ヨリ規定スルコトヲ得
 此規定ニ違フ者ハ二円以上二百円以下ノ過料ニ処ス
 前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一条第一項ノ規定ヲ適用ス
  本条ニ規定スル所ハ要スルニ取引所ニ専売権ヲ与フルモノニシテ商売ノ自由ヲ覊束スル事蓋シ焉ヨリ大ナルハナシ、故ニ本条ノ如キハ全ク之ヲ削除セン事ヲ望ム
第一編第八章第五節(自第四百五十六条至第四百八十条)仲買人
  本節ノ仲買人トハ所謂問屋ヲ指シ第三節ノ仲立人トハ所謂仲買ヲ指スモノヽ如シ、蓋シ問屋ナル名称ハ数百年来全国一般ニ慣用セラルヽ所ニシテ頗ル名誉アルノ名称ナリ、然ルニ今俄ニ此ノ問屋ノ名称ヲ仲買人ト変更スル時ハ実際混乱ヲ生シ大ニ困難ヲ来スヘシ、故ニ此仲買人ノ文字ハ之レヲ問屋ト改メタシ
第四百八十四条 第三項
 運送品ノ種類及重量
  本条ヲ案ズルニ其ノ第三項ニ重量ノ文字アリテ凡ソ運送品ハ其種類ノ何タルヲ問ハズ必ズ其重量ヲ撿シテ之ヲ運送状ニ掲ゲザルベカラズ、然ルニ従来我国運送営業者ニ於テ運賃取立ノ節ニ係ル一般ノ習慣ハ個数取(酒樽密柑箱《(蜜)》ノ類)元価取(株券其他高価品ノ類)ノ外才員及ヒ秤量ノ二種ヲ以テ其標準トナセリ、然ルニ今本条ニ於テ運送貨物ハ総テ其重量ノ記載ヲ要ストセハ灯心・棉花・諸証券類其他運送上少シモ重量ニ関セザルモノニ至ルマデ悉ク其重量ヲ撿シテ記載セザルベカラズ、毎日数千万ノ荷物ヲ取扱フベキ営業者ニ取リテハ繁雑モ亦甚シト云フベシ、故ニ重量ヲ以テスル物ハ重量ニ依リ容積ヲ以テスル物ハ容積ニ依ルヲ得セシメタシ
第四百八十六条 運送品ノ差出人ハ運送状一通又ハ数通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
  本条ニ拠レバ運送品ノ差出人ハ其望ニヨリテハ運送状数通ノ交附
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ヲ求ムル事ヲ得ベシ、蓋シ運送状及船荷証書ハ場合ニ依リ同一ノ貨物ニ対シ数通ヲ発行スル事甚タ便利ナルベシト雖モ、或ハ之ヲ奇貨トシテ所謂二重抵当ノ奸計ヲ行フノ弊害ナシトセズ、故ニ数通ヲ発行スル場合ニ於テハ各証券面ニ必ス何枚ヲ発行スル旨ヲ明記セシメン事ヲ要ス
第六百六十条 第三項
 所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メ保険ニ付シタル場合ニ於テハ、第六百三十九条ニ依リ自己ノ保険者ト看做ス可キトキト雖トモ、其被保険額ヲ限リトシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス
  第六百三十九条ニ拠レハ例ヘバ四千円ノ価額ヲ有スル物ニ二千円ノ保険ヲ附シタルカ如キ場合ニ於テハ、其ノ残余二千円ノ価額ハ被保険者ガ自ラ之ヲ保険シタルモノト看做シ、保険者及被保険者ヲシテ共ニ其損失ヲ分担セシムルノ規定ナルガ故ニ、若シ偶々其物ガ火災ニ罹ルニ当リテハ保険者ハ其損失ノ半額ヲ負担スル訳ニシテ即チ四千円ノ損失ニ対シテハ二千円ヲ弁償シ、二千円ノ損失ニ対シテハ一千円ヲ弁償スル割合ナリ、然ルニ本条第三項ニ拠レハ例ヘバ被保険者ガ或ル物ヲ所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンガ為メニ保険ニ附シタル時ニハ、保険者ハ前記六百三十九条ノ場合ト雖トモ猶其損失ノ全部ヲ負担セサルベカラズ、蓋シ被保険者ガ所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンガ為メニ保険ニ附シタルト否トハ被保険者及第三者間ノ関係ニ止マリ本来保険者ノ与カルベキ所ニアラズ、然ルニ保険者ハ本案第三項《(条)》ノ場合ニ於テ保険者ヲシテ前記第六百三十九条ノ場合ト同額ノ保険料ヲ収受シテ二倍ノ危険ヲ負担セシムルハ是保険者ノ大ニ困難ヲ感スル所ナリ、故ニ本条第三項ハ全ク削除スルカ否ラザレバ其旨ヲ明示シテ保険ニ附シタル場合云々ト修正アラン事ヲ要ス
第六百八十三条 総テ保険無効ノ場合ニ於テハ保険契約ヲ以テ此ノ場合ノ為メニ約定シタル額、若シ約定ナキトキハ少クトモ被保険者ノ為メニ既ニ積立タル貯金ノ半額ヲ被保険者ニ償還スルコトヲ要ス、但被保険者ガ詐欺若クハ悪意ニ因リテ自ラ無効ニ至ラシメタルトキハ此限ニアラス
  本条中被保険者ノ為メニ既ニ積立タル貯金ノ半額トアルヲ、被保険者ヨリ受取リタル保険料ノ少クトモ三分ノ一ト改メタシ
  本条ノ改正ヲ望ムニハ先ツ貯金ノ二字ヲ解釈セサルヘカラス、或ル人ノ説ニ貯金トハ払込タル保険料ノ元利合計ナリトスレトモ蓋大ナル誤ナリ、元来生命保険ハ貯蓄ノ性質ヲ帯フレドモ通常ノ貯蓄ト全ク同視スルヲ得ス、通常ノ貯蓄ニ在ツテハ貯金銀行ヘ預入タル元金ト元金ヨリ生シタル利子ノ合計ハ預ケ人ノ貯金ニシテ貯金銀行ハ預ケ人ノ外ニハ此元利金ヲ支払ノ責任無シト雖トモ、保険料ハ単ニ被保険者各自ノ為メニ貯蓄スヘキモノニ非ス、其一分ハ年々死亡スル他ノ被保険者ノ保険金トシテ支払ヒ(此分ハ火災若クハ海上保険ノ保険料ノ如ク償還ヲ受クベカラザルモノナリ)其一分ハ各被保険者ノ為メニ積立テ(此分ノミ貯金ト謂ヲ得ベシ)
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其一分ハ会社営業ノ費用ニ充テ且ツ死亡ノ臆算ニ超過シタルトキノ予備トス、生命保険ノ計算ハ甚ダ複雑ニシテ了解シ易カラサルニ因リ可成簡要ノ点ノミヲ挙示セン為メ姑ク会社営業費等ヲ除キ所謂純保険料(英語ネツト・プレミユム)ヲ分析スレハ左ノ如シ金拾三円四拾七銭
   右ハ英国同盟保険会社ノ死亡表ニ依リ、年令二十歳ニシテ金千円ノ尋常終身生命保険ヲ契約セル被保険者ヨリ払込ム一年分ノ純保険料ナリ
  此内
   金七円二拾五銭      一年間ニ同年齢ノ死亡者ヘ支払フ保険金
   金六円二拾二銭      一年ノ末ニ生存者ノ積立金即チ貯金
     合金拾三円四拾七銭
  右ノ如ク純保険料ノ一半ハ短命ノ不幸者ニ支払フ保険金ヲ補充シ他ノ一半ノミ生存者ノ為メニ積立タル貯金トナル海上及火災ノ保険ニ在ツテハ年々支払フヘキ保険金ヲ臆算シ、年々ノ保険料ヲ以テ其年ノ保険金ヲ支払ヘトモ、生命保険ニ在ツテハ一年ノ支出ヲ計テ保険料ヲ定ムルトキハ被保険者ノ老ルニ随テ年々保険料ヲ増スノ不便ヲ生スルヲ以テ保険契約ノ時ヨリ老後ニ至ルマテ一定ノ保険料ヲ払込シム、即チ少壮ノ時ニ於テ其年ノ死者ニ支払フヘキ保険金ノ外ニ老後払込ヘキ保険料ノ幾分ヲ前払セシムルノ理ナリ故ニ年齢二十歳ノ時結約セルモノハ其年ノ末ニ前記ノ金六円二十二銭ヲ余シ、会社ニ於テハ其人ノ為メニ之ヲ積立置クヲ以テ翌年ヨリ生存中払込ヘキ保険料ハ、二十一歳ノ時新ニ結約セル者ノ終身支払フヘキ保険料ノ全額ヨリ金六円二十二銭ヲ減スルノ割合ニ当リ、決シテ毫厘ノ差異アル事ナシ、此年末ノ積金ヲ英語ニテハ「レゼルヴ」(貯存金)又ハ「ネツトヴアリユー、オフ、ポリーシー」(保険証書ノ純価値)ト称シ、如何ナル場合ヲ論セス此純価値ノ外ニハ保険会社ヨリ被保険者ヘ還付スヘキモノ無キ計算ナリ
  右述フル所ニ依リ本条貯金ノ二字ハ、通常ノ貯蓄ト同様ニ払込金ノ元利合計ト解釈スルノ誤リタルヲ知ルニ足ルベシ、貯金トハ純保険料ノ内不幸ノ死者ニ支払ヒタル残額、即チ生存ノ被保険者各自ノ為ニ積立タル保険証書ノ現価値ナリトスレハ、僅カニ其半額ヲ被保険者ニ償還シ、他ノ半額ハ保険会社ノ所得トスルハ被保険者ニ不利ナル事甚タシ、故ニ償還金額ヲ払込金ノ少クトモ三分一ト改正スヘシ、元来生命保険ハ被保険者相互ニ短命ノ不幸者ヲ済助スルノ主旨ニシテ恰モ同舟済水ノ観アリ、故ニ中途ニシテ保険契約ヲ解除スル者ハ自己ノ便宜ヲ以テ同舟者ヲ捨テ顧ミサルト一様ナレハ保険契約無効ノ場合ニ於テ其払込金ノ一部ヲモ取戻スヲ得ストノ説ニ依リ、数十年以前マテハ保険無効トナレハ被保険者ニハ一銭ヲモ還付セサルヲ欧米生命保険会社ノ例トセシカ、近年保険会社競争ノ結果トシテ此苛酷ノ説ヲ排シ勉メテ被保険者ノ便益ヲ計リ保険解約ノ時ニハ保険証書ノ純価値ヲ計算シ、殆ト其全部ヲ還付スルニ至リタレトモ其額ハ払込金ノ三分一ヨリ少カラスト契約スルヲ以テ通例トス、生命保険ノ種類ニ依リ或ハ払込金ノ
 - 第19巻 p.447 -ページ画像 
三分二若クハ五分四ヲ還付スルモノアレトモ、尋常終身保険ノ如キニ在テハ三分一以上ヲ還付スルハ過当ニシテ、解約者ノ為メニ会社ニ損失ヲ蒙ラシメ、随テ契約保続ノ被保険者ニ損失ヲ及ホス事アリ、故ニ本条ニ於テハ償還金額ヲ払込金ノ少クトモ三分一トシ、其余ハ法文ニ明記セサルモ商業上ノ競争ニ一任シテ可ナリ
第六百八十八条 第一項
 総テ生命保険・病傷保険及年金保険ノ場合ニ於テハ被保険者若クハ其権利承継人ハ正当時期ニ予告ヲ為シタル後、保険契約ニ従ヒ若クハ第六百八十三条ニ従ヒ自己ニ属スル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除スル権利ヲ有シ、又ハ予告ヲ以テ償還ヲ求ムル事ヲ得ベキ利息附ノ預ケ金ニ其契約ヲ変換スル権利ヲ有ス
  本条ニ於テハ被保険者ニ予告ヲ為シテ契約ヲ解除スル権利ヲ与ヘ明示ノ契約アレハ其契約ニ従ヒテ償還金ヲ受ケ契約ナキ時ハ第六百八拾三条ニ従ヒ償還金ヲ受クヘキ旨ヲ規定シタレトモ、第六百八拾三条ハ生命保険ノ償還金ヲ規定シタルモノニシテ、年金保険ニハ如何ニ之ヲ適用スヘキヤ了解シ難シ、抑モ年金保険ハ被保険者ヨリ一時ニ巨額ノ金員ヲ払込ミ、一定ノ年限間若クハ終身間毎年若干ノ払戻金ヲ受取モノニシテ、短命者ハ千円ヲ出シテ僅カニ五百円ヲ受取リ、長生者ハ千円ヲ出シテ千五百円ヲ受取ル事アリ生命保険ノ短命者ニ得アリテ長生者ニ損アルト全ク相反シ、又生命保険ニ在ツテハ年数ヲ経ルニ随ツテ償還金次第ニ増加シ、年金保険ニ在ツテハ次第ニ減少スル等、総テ其趣キヲ異ニスル故ニ、年金保険解約ノ場合ハ別ニ之レヲ規定セサルヘカラス、但年金保険ノ契約ヲ結ヒタル後、被保険者ノ身体多病不健康トナリ、長生ノ望ナキヲ以テ数月前ニ予告ヲ為シ、容易ニ解約シテ自己ニ損スル所ナキトキハ年金払戻ノ契約ヲ結ヒタル会社ハ長生ノ被保険者ニ対シテ払戻ノ責任ヲ尽ス事能ハサルニ至ルヘシ、故ニ其考案ハ匆卒ニ之レヲ定ムヘカラス
第六百九十条 保険会社ハ保険料其他ノ収入金ノ中ヲ以テ年々積立ヲ為シ、何時ニテモ年々支払フ可キ被保険額ノ少ナクトモ平均二倍ニ満ツル準備金ヲ設クル義務アリ、此準備金ハ十分安全ニ利用シ、其証券ヲ裁判所ニ寄托スルコトヲ要ス、但之ヨリ生スル収入ハ会社ニ帰ス
  本条ハ被保険者ヲ保護スルノ旨趣ヨリ出テタルコト明白ナレトモ却テ反対ノ結果ヲ見ルノ恐アリ、海上保険・火災保険ノ如キハ単ニ損失弁償ノ主義ニ基クモノナレバ毎年ノ収入保険料ヲ以テ其年ノ損失ヲ弁償スレバ会社ニハ其他ニ責任ナキヲ以テ、仮令ヒ非常ノ損失アルモ別ニ年々支払フヘキ被保険額ノ平均二倍以上ノ準備金ヲ設クレバ足レリトスルモ、独リ生命保険ニ在リテハ第六百八十三条ニ於テ述ヘタル如ク其保険料ノ一分ハ他ノ保険ト同様ニ其年ノ死亡者ヘ保険金トシテ支払ヘトモ一分ハ各被保険者ノ為ニ積立テザルベカラズ、故ニ他ノ保険ニ在リテハ相当ノ準備金モ生命保険ニ在リテハ過少ノ準備金ナリトス、然ラハ生命保険ノ準備金ハ幾何ニシテ可ナリヤトノ問ニ答ヘント欲スレバ、生命保険ノ組
 - 第19巻 p.448 -ページ画像 
織ニ論及セサルヲ得ス、事甚タ複雑ニ亘ルヲ以テ姑ラク之ヲ略シ実際準備金ノ相当ナルヤ否ヤヲ査定スルハ官府ノ命ヲ受ケタル専門家即第六百九十二条ノ鑑定人ニ委任ス可シ、兎ニ角生命保険会社ノ準備金ヲ本条ノ如ク定ムルトキハ保険ノ計算上準備金過少ナレトモ官府ニ於テモ之ヲ如何トモスルコト能ハズ、後来永続ノ望ナキ会社モ法律ノ仮面ヲ被ムリ不当ノ信用ヲ得テ害ヲ被保険者ニ及ホスノ弊ヲ生セン、是ヲ以テ本条準備金ノ額ヲ定ムルノ旨趣ヲ改メ単ニ裁判所ニ寄托スル金額ヲ規定スルヲ宜シトス、試ニ其改正案ヲ示セバ左ノ如シ
   第六百九十条 保険会社ハ保険料其他ノ収入金ノ中ヲ以テ積立ヲ為シ、年々支払フ可キ被保険額ノ少ナクトモ平均二倍ニ満ツル金額ヲ証券ヲ以テ裁判所ニ寄託スルコトヲ要ス、但之ヨリ生スル収入ハ会社ニ帰ス
  一千八百七十年制定ノ英国生命保険法ノ中ニハ左ノ一節アリ、之ニ傚フテ本条ヲ改正スルモ可ナリ、記シテ参考ニ供ス
   第三節 此法律制定以後統一王国内《ユーナイテツドキングドム》ニ設立スル各会社及ヒ統一王国外ニ設立シタル若クハ設立スヘキ各会社ニシテ此法律制定以后統一王国内ニ於テ生命保険ノ業ヲ始ル者ハ、衡平裁判所ノ会計官ニ二万磅ノ金額ヲ寄託シ、会計官ハ該裁判所ノ管理ニ帰スル資本放下ノ為メニ採定シタル証券ノ中会社ノ択ム所ノ証券ニ放銀シ、之ヨリ生スル収入ハ会社ニ属ス此金額ヲ寄託シタル後ニ非ザレバ登記官ハ登記証書ヲ発スヘカラス、而シテ保険料ノ中ヨリ積立タル生命保険資金四万磅ニ達シタルトキハ会計官ハ直ニ寄託金ヲ会社ニ返付ス可シ
第六百九拾壱条 保険会社ハ少ナクトモ毎年一回其年ノ収支一覧表及貸借対照表ヲ作リテ之ヲ公告シ、且各社員及各被保険者ニ送達スル義務アリ
  保険ノ事業ハ広ク公衆ノ利害ニ関係スルヲ以テ其計算ヲ秘密ニスヘカラス、勉テ公衆ヲシテ会社ノ実況ヲ知ラシムルハ一般公衆ノ為メノミナラス確実ノ会社ニ在リテハ可成其実況ヲ世上ニ知ラルルヲ利益トス、故ニ毎年収支一覧表・貸借対照表ヲ新聞紙ニテ公告スルハ必要至当ノ事ナレトモ、此手続ノ外猶各社員及各被保険者ニ送達スルノ義務アリトスルニ至リテハ、徒ニ非常ノ手数ト費用トヲ要スルノミナラス、実際ニ於テハ殆ント為シ能ハサル事ニシテ且被保険者ノ為メニモ大ナル利益ナシ、依テ本条ハ之ヲ公告シヲ之ヲ公告スヘシト改メ其以下ヲ刪除ス可シ、左ニ其理由ヲ開陳セン
  海上保険ノ如キハ保険ノ期間甚タ短クシテ僅ニ某地ヨリ某地ニ達スル一航海ニ過キサルモノ甚タ多シ、是等短期ノ保険ハ多クハ各地ノ代弁店ニ於テ契約ヲ締ヒ契約期間ノ終リタル後ニ非サレハ本店ニ於テ之ヲ知ラサル者アリ、一々現在ノ各被保険者ヲ調査シテ之ニ貸借表等ヲ送付スルハ殆ト為シ能ハサル事ナリ
  又生命保険会社ニ在リテハ被保険者ノ人員甚タ多ク、加之其被保険者ハ土着ノ農家ニハ少クシテ官吏・銀行及会社ノ雇人・商人・
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工業者等ノ如キ才能技芸ニ依テ衣食スル者其大半ヲ占メ、其居処ノ変転極メテ多ク、独リ国内ニ於テ居ヲ転スルノミナラス外国ニ旅行シテ其所在ヲ知ルベカラサル者アリ、尤保険契約ニハ住居ヲ転スレハ一々会社ニ通知スヘキ旨ヲ明示スレトモ実際ハ之ヲ怠ル者多キヲ免レス、我国ニ於テハ生命保険ノ創始以来未タ十年ニ満タサレトモ一会社ノ被保険者既ニ一万余人ニ過クルモノアリ、今ヨリ数十年ヲ経過セハ其人員ノ大ニ増加スルコト明ナリ、斯ク居処ヲ変転スル多数ノ被保険者ニ一々貸借表ヲ送付スルハ極テ難事ナレトモ、本条ニ依テ之ヲ送付セサレハ第六百九十四条ニ厳重ノ罰アリ、仮令会社ハ之レヲ送付スルモ万一被保険者第六百九十四条ヲ利用セン為メ到達セサルヲ口実トシテ会社其義務ヲ欠キタリト主張セハ何ヲ以テ之ニ抗弁スルヲ得ンヤ、是等ノ紛議ヲ予防スルニハ手数ト費用トヲ顧ミス書留郵便ヲ用ルモ猶数万ノ被保険者ニ一々遺漏ナカラシムルハ難事ナリ、況ンヤ収支一覧表・貸借対照表ヲ被保険者ニ送付スルモ生命保険ノ計算ハ複雑ナルヲ以テ被保険者ハ之ニ依テ将来会社ノ計算ニ不足ヲ生セサルヤ否ヤヲ知ルニ足ラサルオヤ、要スルニ公衆ノ為メニ生命保険会社ノ確実ヲ保セント欲スルニハ第六百九十二条ニアル撿査ノ方法ヲ厳ニシ生命保険ノ組織ニ明ナル人ヲシテ監督セシムルノ外ニ手段ナキナリ
第六百九十四条 保険会社カ第六百九十条乃至第六百九十三条ノ規定ニ背クトキ、又ハ被保険者総員ノ承諾ヲ得スシテ同業若クハ他業ノ会社ト合併スルトキ、又ハ被保険者ニ告知シタル保険業ノ原則ヲ変更シ若クハ事実上之ヲ犯ストキハ、各被保険者ハ予告ヲ為スコトナクシテ何時ニテモ保険ヲ解止シ、其払込ミタル現支払期間ノ保険料総額ノ償還、及ヒ払込ミタル日ヨリノ法律上ノ利息ヲ求ムルノ権利アリ
  本条中現支払期間ノ保険料トハ其意義甚タ曖昧ナリ、或人ノ解釈ニ従ヘハ火災保険ノ如キ通例一年ヲ以テ保険期限トシタルモノ十年来継続シテ毎年保険料ヲ払込ミ、第十年度ニ至リ保険ヲ解止スレハ既ニ経過シタル九年間ノ保険料ハ償還ヲ求ムルヲ得ス、未タ全ク経過セサル第十年度ノ保険料ノミ償還ヲ求ムルヲ得、然レトモ終身ノ生命保険ヲ契約シ、十年来保険料ヲ払込ミタルトキハ十年分ノ保険料全額ト法律上ノ利息トノ償還ヲ求ムルヲ得ヘキモノトセリ、火災保険ノ如キハ或人ノ解釈ニ依リ第十年度ノ保険料ノミヲ償還スルハ蓋シ相当ノ事ナルヘシト雖トモ、生命保険ニ至リテハ最初結約ノ時ヨリ払込ミタル保険料ノ全額ヲ償還スベキモノト解釈スルハ不当ナリト謂ハサルヲ得ス、第六百八十三条ニ於テ論シタル如ク生命保険料ノ一分ハ火災其他ノ保険料ト同様ニ年々支出シテ残ル所ナク其一分ノミ被保険者ノ為メニ会社ニ於テ積立ツルモノナルヲ以テ如何ナル場合ニ於テモ積立金ノ外ニ償還スヘキモノナシ、然ルニ生命保険料ヲ通常ノ貯金ト同視シ、元利合計ヲ償還スヘシトスレハ生命保険会社ハ無料ニテ危険ヲ負担シタルノ道理ナリ、若シ本条ハ保険会社ノ違法ヲ罰スルノ旨趣ナルニ因リ生命保険会社ハ既ニ死者ノ保険金トシテ仕払ヒタル金員アルニ
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拘ラス解約者ヘハ其払込金ノ全額ヲ償還スヘキモノトスレハ火災保険ノ如キモ十年来契約ヲ継続シタル者ヘハ十年分ノ保険料全額ヲ償還セシメサレハ権衡ヲ得ス、然レトモ各種ノ保険会社ヲシテ無料ニテ危険ヲ負担セシメンカ計算上為シ得可ラス、又生命保険モ他ノ保険ノ如ク既往ノ保険料ハ償還スルヲ要セストセンカ其積立金ニ属スル部分ハ会社ノ所得ト為スヘキ理ナシ、要スルニ生命保険料ハ他ノ保険料ト一分ハ其性質ヲ同フスルモ一分ハ之ヲ異ニスルヲ以テ本条ニ於ケル償還金モ別ニ之ヲ規定シ、本条ノ末ニ左ノ意味ヲ以テ但書ヲ加ヘタシ
   但生命保険ニ在リテハ最后ニ払込ミタル保険料ノ総額及ヒ之ヲ払込ミタル日ヨリノ法律上ノ利息ト其以前ニ払込ミタル保険料ノ少クトモ三分一、若クハ第六百八十三条ニ依リ保険無効ノ場合ノ為メニ約定シタル額ノ償還ヲ求ムル権利アルモノトス
第三編第六章(自第九百三十条至第九百四十五条)海損
同  第八章(自第九百五十三条至第九百七十五条)保険
  現今我国ノ開港場ニ於テ海上保険ノ営業店ヲ公開スル者其数少ナカラス、而シテ其中英国人ノ組織ニ係ルモノ其大半ヲ占ムルガ故ニ他国人ノ組織ニ係ルモノト雖トモ概ネ皆英国法律ヲ採用セザルハナシ、是レ単ニ我国ノミナラス支那・印度其他東洋一般ノ現況ニシテ彼ノ英国ロヰド社ノ慣習タル殆ント東洋一般ノ商慣習ヲ組成スルモノヽ如クニシテ、現ニ海上損失ノ決算人ト云ヒ将タ船躰ノ撿査人ト云ヒ苟モロヰドノ名ヲ冒スニアラサレバ広ク其信用ヲ博スル事能ハザルノ景況アリ、蓋シ我国ニ於テ海上保険ノ業ヲ営ム者ハ東京海上保険会社ノ一社ニ過ギズ、然リ而シテ該会社ハ創業以来今日ニ至ル迄十年余其間専ラ英国ノ慣習ニ則トリ其事業ヲ経営シ来タリタリト云フ、是畢竟英国ノ慣習ニ由ラザレバ東洋全般ノ慣習ニ背戻シ保険者・被保険者共ニ実際ノ不便ヲ感スルニ因ルナカランカ
  英国海上保険ノ慣習ノ東洋沿岸ニ通シテ勢力ヲ有スル事前述ノ如シ、然リ而シテ今熟々新定商法ヲ案スルニ其大体ハ仏・独両国ノ商法ニ則トリタル者ニシテ英国ノ法律ニ抵触スル条項少ナシトセズ、然ルニ多年英国ノ慣習ニ依リテ取引シ来リタル保険者・被保険者ヲシテ俄ニ此商法ニ服従セシメントスルハ其困難知ルベキナリ、今其困難ノ一例ヲ挙ケンニ、船舶ノ所有者カ其船舶ノ保険ヲ東京海上保険会社ニ申込マンニ該会社ニハ保険額ニ制限アリテ一艘ニ付幾万円ノ外ハ保険セザルノ定メナレハ、所有者ハ不得止其一部分ヲ他ノ会社即チ外国人ノ組織ニ係ル会社ニ申込マザルヲ得ス、此場合ニ於テ一部ハ我国ノ法律ニ従ヒ一部ハ外国ノ法律ニ従ハサルヲ得ザルガ故ニ共担分損(新定商法中ノ所謂共同海損)ノ決算ヲ為スニ当リテハ彼此ノ取扱相衝突シテ実ニ処理シ能ハサルノ紛雑ヲ来スヘク、又再保険ニ附スル場合ニ於テモ其困難ハ亦同一ナラン、之ヲ要スルニ我国ノ如キ海上保険事業ノ猶幼稚ナル邦土ニ於テ商法ヲ制定スルニハ可成其慣習ヲ採用シテ出来得ベキ限リハ当業者ノ便利ヲ計ラザルベカラズ、是単ニ当業者ノミナラズ
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実ニ商業社会全般ノ希望シテ置カザル所ナリ、今左ニ商法第三編中英国ノ法律ト抵触セル二三ノ条々ヲ列挙スベシ
第九百三十条 第三項
 沈没又ハ掠奪ヲ避ケンカ為メニスル任意ノ坐礁・膠沙
  本条第三項ニ拠レバ任意ノ坐礁・膠沙ハ共同海損ニ属スト規定セラル、然ルニ英国ノ法律ニテハ任意ノ坐礁・膠沙ハ仮令一層ノ危険ヲ避ル為メト雖モ共担分損(共同海損)トナスヲ得ザラシム、是レ任意ノ乗揚ゲヲ容易ニ行ハシメサルノ精神ニシテ、海員ハ専ラ自己ノ性命ヲ全フスルニ急ナルカ為メ、或ハ自己ノ不正ナル所業ヲ湮滅センカ為メ故ラニ乗揚ゲヲナスノ実例甚タ尠ナカラサルヲ以テナリ、是レ独リ英国法律ニ定ムル所ナルノミナラズ「ヨークアントウアルプ、ルール」ノ規定スル所亦之ト同一ナリ
第九百三十二条 船舶及ヒ積荷全部又ハ一分ヲ救助スルコトヲ得タルトキハ積荷ト船舶及ヒ運送賃ノ半分トガ到達港其他航海ノ終極地ニ於ケル其価額ノ平等ナル割合ヲ以テ共同海損ヲ共担ス
  蓋シ英国ノ法律ニテハ船舶ノ価額ハ共担分損(共同海損)ヲ決算スル時ノ価値船賃ノ価額ハ仕向ケ港ニ到達シ、貨物引渡シノ上送状ニ従ヒ領収スヘキ船賃ヨリ航海中ノ乗組船員ノ給料・港費、仕向港ニ於テ貨物引渡ノ費用ヲ引去リタル残額ヲ以テ算定スルノ制規ナリ、蓋シ運送賃ハ航海中乗組船員ノ給料・港費・貨物引渡費等ヲ差引クベキモノナレバ半分トセラレタルハ或ハ相当ナランカ船舶ノ価額ヲ半分トセラレタルハ其理由孰レニアルカ知ル事能ハサルナリ
第九百四拾条 単独海損ハ任意ニ非ズシテ生ジ、又ハ船舶若クハ積荷ノミニ生ジタル喪失・損害及費用タリ、此海損ハ各所有者各別ニ之ヲ負担スル事ヲ要ス
第九百四拾五条 保険契約ニ海損ノ責ニ任ゼザル旨ノ条款アルトキハ保険者ハ総テ海損ニ付テノ責ヲ免カル、但委棄ノ要件ノ存在スルトキハ此限ニ在ラズ、此場合ニ於テハ被保険者ハ委棄スルト海損請求権ヲ主張スルトノ一ヲ択ブ権利アリ
  第九百四十条ノ単独海損トハ英国ノ法律ニ所謂特担分損ニシテ前数条ノ共同海損トハ共担分損ヲ指ス者ナルベク、由是観之海損ナル文字ノ中ニハ全損分損ノ二者ヲ包含スルヤ明カナリ、然ルニ第九百四十五条ニ規定セラルヽ所ヲ見レバ保険者ニシテ海上ノ危険ヲ負担セザル契約ヲ以テ保険状ヲ発行スルモノアリト推定スルヲ得ベシ、蓋シ此第九百四十五条ノ海損ナル文字ニ限リ英国法律ノ所謂分損ナル意味ニ使用セラレ、全損ハ委棄ノ中ニ包括セラレタルナラン、然リ而シテ現時我国ニ行ハルヽ所ノ慣習ニ依レバ海上保険ノ種類ヲ全損・分損ノ二種ニ区分シ、全損中更ニ皆滅全損(真正ノ全損)委棄全損(認定ノ全損)ト区分シ、被保険者ニ於テモ其申込ノ際「分損担保」又ハ「分損不担保」ト区別スルハ一般ニ行ハルヽ所ナリ、是レ我国ノミナラズ東洋全般ノ商慣習ニシテ実ニ英国ノ法律ニ則トル所ナリ
第九百六十五条 第三項
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 喪失又ハ毀損ガ価額ノ四分ノ三ヲ超エタルトキ
  本条ニ拠レバ喪失又ハ毀損ガ価格ノ四分ノ三ヲ超エタルトキハ委棄ヲ申込ム事ヲ得ベシ、然ルニ英国ノ法律ニテハ物件破損シタルトキ之ヲ恢復セントスルモ其費用ガ恢復後ノ価値ニ超過スヘキトキト定メアリ、両者ノ間相違スル所大ナリト云フベシ
第九百六十六条 第壱項
 船舶カ到達港ニ達セズ且発航ノ時又ハ其船舶ニ付キ最後ノ通信アリタル時ヨリ一ケ年ヲ経過シタルトキ、又沿岸航海ニ在テハ六ケ月ヲ経過シタルトキハ其船舶ハ踪跡ヲ失ヒタルモノト看做ス
  本条ニ拠レバ船舶ニ滊船・帆船ノ区別ナク又航路ニハ唯遠洋航海ト沿岸航海トノ区別アルノミ、然ルニ現時我国保険会社一般ノ慣習ニ依レバ本条ハ前陳ノ如ク皆滅全損中ノ一ケ条ニシテ且ツ其亡失ト認定スベキ期間ノ如キモ頗ル区別ノ明細ナルモノアリ、即チ左ノ如シ
   一日本沿海               滊船五十日   帆船八十日
   一支那・朝鮮・台湾及支那海諸島     同七十日    同百日
    安南・シヤム・印度・
    フヰリツピン群島・爪哇・
   一ヲースタラリヤ・ニユー
    ジーランド・及北亜米利        同百日     同弐百日
    加太平洋海岸
    欧羅巴・亜非利加・亜米
   一利加大西洋海岸・及南亜        同弐百日    同四百日
    米利加大平洋海岸

官報 第二二五一号 明治二三年一二月二七日 ○法律(DK190055k-0004)
第19巻 p.452 ページ画像

官報  第二二五一号 明治二三年一二月二七日
    ○法律
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル商法及商法施行条例施行期限法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
 御名 御璽
  明治二十三年十二月二十六日
             内閣総理大臣 伯爵  山県有朋
             司法大臣   伯爵  大木喬任
             内務大臣   伯爵  西郷従道
             大蔵大臣   伯爵  松方正義
             陸軍大臣   伯爵  大山巌
             逓信大臣   伯爵  後藤象二郎
             外務大臣   伯爵  青木周蔵
             海軍大臣   子爵  樺山資紀
             文部大臣       芳川顕正
             農商務大臣      陸奥宗光
法律第百八号
明治二十三年四月法律第三十二号商法及同年八月法律第五十九号商法施行条例ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行ス


官報 第二二五一号 明治二三年一二月二七日 ○法律(DK190055k-0005)
第19巻 p.452-453 ページ画像

官報  第二二五一号 明治二三年一二月二七日
 - 第19巻 p.453 -ページ画像 
    ○法律
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル商法ニ関スル法律施行期限法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
 御名 御璽
  明治二十三年十二月二十六日
             内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
             司法大臣   伯爵 大木喬任
             大蔵大臣   伯爵 松方正義
法律第百九号
左ニ掲クル法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行ス
 一 明治二十三年八月法律第六十六号商事非訟事件印紙法
 一 同年八月法律第七十二号銀行条例
 一 同年八月法律第七十三号貯蓄銀行条例
 一 同年十月法律第百一号


東京商工会残務整理報告 第二―一一頁 (明治二五年)刊(DK190055k-0006)
第19巻 p.453-454 ページ画像

東京商工会残務整理報告  第二―一一頁 (明治二五年)刊
○明治二十四年八月二十五日日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ於テ東京商工会最終ノ臨時会ヲ開ク当日出席シタル会員左ノ如シ ○二十名氏名略当日午後四時開議、会頭渋沢栄一君ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ先ヅ明治二十三年七月ヨリ同二十四年七月ニ至ル定式事務ノ成蹟 ○中略 ヲ報告ス
  自明治二十三年七月至同二十四年七月 東京商工会事務報告
○中略
    其筋ヘ建議   三件
○中略
○商法実施延期ノ義ニ付貴族衆議両院ヘ請願ノ件
  本件ハ商法質義委員ノ発案ニ係リ、其要旨ハ曩ニ商法質義会ヲ設ケ、先ヅ商法ノ質義ヲ終リ然ル後修正ノ意見書ヲ起草スベキ見込ニテ、爾来委員ハ孜々研究ヲ怠ラズト雖トモ、未ダ全部ノ質義ヲ了セザルニ既ニ商法実施ノ期限ハ目前ニ迫リタルニ付、先ヅ不取敢商法中実際ニ不適応ナル条項ヲ調査シ、商法ノ延期ヲ貴族衆議両院ヘ請願シ、猶修正ノ意見書ハ別ニ予定ノ順序ヲ逐フテ徐々ニ之ヲ起草シ追テ調成ノ上之ヲ両院ヘ提出シタシト云フニ在リ、即チ明治二十三年十二月八日第四十四臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全会異議ナク之ヲ可決シ、猶衆議ノ末請願書起草委員五名ヲ撰ビ之ニ全権ヲ委任スルニ決シ、会長ハ即時左ノ五名ヲ委員ニ指名シタリ
                    阿部泰蔵
                    奥三郎兵衛
                    梅浦精一
                    益田克徳
                    山中隣之助
  是等ノ委員ハ其後請願書ヲ起草シ会員ノ謂印ヲ得十二月十三日附ヲ以テ之ヲ貴族衆議両院ヘ上呈シタリ、然ルニ両院ニ於テハ商法施行延期ノ義ヲ可決セラレ、遂ニ政府ハ同月二十六日法律第百八
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号ヲ以テ商法ノ施行ヲ明治二十六年一月一日迄延期スル旨ヲ公布セラレタリ、又商法質義委員ハ予定ノ順序ニ依リ商法ノ質義ヲ終リ爾後商法修正意見書ノ起草ニ着手シ目下猶審案中ニ付、調成ノ上ハ之ヲ両院ハ勿論東京商業会議所其他各地ノ商業会議所ヘ呈出スベキ見込ナリ
○中略
    雑事    十二件
○各地商業会議所委員聯合会開設ノ件
  本件ハ理事本員ノ発案ニ係リ其要旨ハ明治二十三年十一月ヲ期シ東京ニ於テ各地商業会議所委員ノ聯合会ヲ開キ商法修正ノ問題ヲ議シ、須要ノ場合ニ於テハ連署シテ其意見ヲ其筋ヘ開陳シタシト云フニ在リ、即チ同年八月二十六日第四十二臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ原案中商法修正ノ問題トアルヲ商法ニ関スル問題ト改メ其他多少ノ修正ヲ加ヘタル迄ニテ其大躰ヲ可決シタルニ付、翌九月四日附ヲ以テ全国五十四ケ所ノ商業会議所ニ照会シテ同意ヲ求メタルガ此際恰モ商業会議所条例ノ発布アリタル為メ、解散若クハ組織変更中ニテ聯合会ニ加ハリ難キ旨ヲ回報スルモノ陸続アリテ到底予期ノ如ク多数ノ同意者ヲ得ザリシニ付、其後理事本員ハ更ニ此計画ハ暫ラク之ヲ見合セ、之ニ代フルニ本会ニ於テ商法ニ関スル意見書ヲ起草シテ各地商業会議所ニ送附シ其意見ヲ徴スベシトノ案ヲ発シ、即チ同年十月二十日第四十三臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全会異議ナク之ヲ可決シタルニ付、同年十二月十八日附ヲ以テ兼テ貴族衆議両院ヘ提出シタル意見書ノ写ヲ各地商業会議所ヘ送附シ且ツ前陳ノ趣旨ヲ照会シタリ
○下略
  ○明治二十三年十月二十日当会ハ解散ニ決定シ、之ニ代ルベキ商業会議所未ダ成立セザルヲ以テ当会会員有志連名ヲ以テ請願セシモノナルベシ。
  ○明治二十三年五月二十四日(第二八二頁)、同年八月十二日(第三九四頁)、同年八月二十七日(第四○二頁)、二十四年九月二十一日(第四六六頁)ノ各条並ニ第三款東京商業会議所明治二十五年六月六日、二十六年九月二十二日、同年十二月二十五日、二十七年六月二十七日、同年十二月二十日、二十八年一月十二日、二十九年九月十四日、三十年六月二十八日、同年十二月二十七日、三十一年十二月二十四日、三十二年二月十日ノ各条参照。


日本商法典の編纂と其改正 志田鉀太郎著 第四六―五八頁 昭和八年四月刊(DK190055k-0007)
第19巻 p.454-456 ページ画像

日本商法典の編纂と其改正 志田鉀太郎著  第四六―五八頁 昭和八年四月刊
 ○第一章 旧商法典の編纂
    第三節 旧商法旧商法典の制定、施行延期及び施行
○上略
 旧商法典は明治十四年四月起草者が其起草に着手してより十年を経過し、同二十三年四月遂に法律と成つたもので翌年の年頭より施行さるべく定められたにも拘はらず(3)同二十三年十一月二十五日に招集せられた第一回帝国議会に於て衆議院へ施行延期法案(商法及び商法施行条例施行期限法律案と謂ひ明治三十六年一月一日即《(二)》ち民法典の施行期と定められたる日に商法典を施行せんとする法律案である)が議員より提出せられ(4)同年十二月十六日同院を通過して(5)貴族院へ送附となり同十二月二十二日同院をも通過し(6)同月二十七日法律第百八号と
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して公布せられたる結果改めて明治二十六年一月一日より施行することゝ成つたのである(7)
 商法典の施行を延期する議案の討議に現はれたる所を見れば或は法典の実質を非難し或は徒らに外国法を模倣して我邦の慣習を無視せるを攻撃して居れども、延期の理由の骨子たりしは公布と施行との間僅かに八ケ月を隔つるに過ぎず、若し強いて直ちに之を施行するとせば大に商業社会の秩序を紊乱することゝ成るゆへ、其施行を延期して徐ろに施行すべきであると謂ふ点に存して居る(8)。
○中略
〔註(3)〕明治二十四年一月一日から商法が施行せらるべき事を命ぜられるや一大物議を生じた。即ち施行延期論である。此論を主張する者は一方に於ては法典の実質を批難し外国法を模範として毫も我国の慣習を斟酌せざるが故に実際に適せずとし、他方に於ては公布と施行との間僅に八ケ月を隔つるに過ぎないから其施行極めて困難である、若し強いて施行せんか大に商業社会の秩序を紊乱すべしと為し施行を延期して修正を加へたる後之を施行するも未だ晩しと為さずと主張した。之に反対するものは商法施行の急務なるを唱へ先づ施行して後之を実際に鑑みて適当の修正を加ふべしと主張した。蓋し商法公布以前に於て我国法学者間に法典派と非法典派とあつて互に論争を試みたのであるが、民法・商法等多数の法典が一時に公布せられるに及んで更に其軋轢を増し、加ふるに実業家の多数は法典の実質を解すること能はなかつたので非法典派に加担し、之が為め一層施延行期論の気燄を加へた。之れ商法典の公布以来第一回帝国議会開会迄の形勢であつた。
〔註(4)〕議員永井松右衛門氏より提出された商法施行延期法案に曰く「明治二十三年四月法律第三十二号商法及ヒ同年八月法律第五十九号商法施行条例ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行ス」と。
〔註(5)〕衆議院は十二月十五日第一読会を開き、提出者永井松右衛門氏其発議の趣旨を説明し討論の末(討論は翌十六日に及ぶ)原案を可決し、続いて第二読会を開き之又原案を可決し、第三読会を省略し原案通りを以て衆議院の確定議となつた。
  拙著 ○志田鉀太郎 前掲 ○日本商法論 総論七八頁以下
  大日本帝国議会誌第一巻 五〇一頁以下 五一九頁以下 五二八頁以下 参照。
〔註(6)〕貴族院は衆議院より送附を受けた「商法及商法施行条例施行期限法律案」に付き十二月二十日第一読会を開き、三読会の手順を経ずして一次会を以て直に確定議と為さんとする動議があつたけれ共否決され、結局九人の特別委員に附託することゝなつた。
  特別委員(委員長子爵黒田清綱氏・副委員長子爵三浦梧楼氏)は会議の結果六対三の賛成を以て衆議院送附の原案を可決した。
   かくて貴族院は直に再び議事を開き、特別委員長より委員会の結果を又男爵渡辺清氏よりは別に少数委員の反対説の報告あり、討論に移つた。然し同日を以て討論は終了するに至らず、其翌々日即ち二十二日更に引続き議事を続行し第二読会を開くことに決
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し、同日引続き第二読会を開き、又更に直に第三読会に移り、遂に衆議院の提出案を可決した。かくて即日議長(伯爵伊藤博文氏)より内閣総理大臣を経由して御裁可を奏請することゝなつた。時に午後五時二十分であつた。
  拙著 ○志田鉀太郎 前掲 ○日本商法論 総論 七九頁以下
  前掲 帝国議会誌第一巻 四三頁以下 五五頁以下 六九頁以下 参照。
〔註(7)〕商法及商法施行条例施行期限法律は、二十三年十二月二十六日御裁可になり、同月二十七日法律第一〇八号を以て公布せられた。
〔註(8)〕此処に我国の立法史上及び法学史上意味深き法典実施延期戦が展開されることゝなつたのである。
   穂積陳重博士 法窓夜話   三三八頁以下
   清浦奎吾氏  明治法制史  五九三頁以下
   東川徳治氏  博士梅謙次郎 一七四頁以下 参照。
○下略