デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年7月29日（1895年）

是日栄一当会議所会頭トシテ、取引所法ニ関スル明治二十六年勅令第七十四号第十三条ヲ改正シ、米以外ノ一般商品ニ対シテモ総ベテ標準売買ノ制ヲ許可センコトヲ、農商務大臣子爵榎本武揚ニ建議ス。

第四回東京商業会議所事務報告　　第四三頁　明治二八年四月刊
一明治二十六年勅令第七十四号（取引所法ニ関スル）第十三条改正ノ儀調査ノ件
　本件ハ広島商業会議所ヨリ第三回商業会議所聯合会ヘ提案シ同会ノ決議ヲ経タルモノニ係リ、其要旨ハ、明治二十六年勅令第七十四号（取引所法ニ関スル）第十三条ヲ改正シ米ノ外猶農商務大臣ノ特許セル商品ハ総テ標準売買ヲ為スコトヲ得セシムル様、各商業会議所ヨリ農商務大臣ヘ建議スベシト云フニ在リ、依テ之ヲ明治二十七年九月十八日第三十八回ノ臨時会議ニ附シタルニ、先ヅ商業部ニ其調査ヲ附託ス可シト決シ、爾来同部ニ於テ調査中ナルニ付、追テ其報告ヲ得タル上更ニ会議ニ附スルノ見込ナリ

第五回東京商業会議所事務報告　　第一―二頁　明治二九年四月刊
一明治二十六年勅令第七十四号（取引所法ニ関スル）改正ノ儀ニ付、農商務大臣ヘ建議ノ件
　本件ハ前回ニ報告シタル如ク第三回商業会議所聯合会ノ決議ニ係リ商業部ニ於テ調査中ノ処、其後同部ニ於テ調査ノ末其報告書ヲ提出シタルニ付、之ヲ明治二十八年六月二十七日第四十五回及ヒ七月二十六日第四十六回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ経、同年七月二十九日附ヲ以テ左ノ如ク之ヲ榎本農商務大臣ニ建議シタリ
　　　　明治二十六年勅令第七十四号第十三条改正ノ儀ニ付建議
　　明治二十六年勅令第七十四号第十三条第三項ヲ案スルニ「米ニ限リ標準物ヲ以テ売買契約ヲ為シ、取引所ニ於テ予メ指定スル同種
 - 第20巻 p.580 -ページ画像 
商品ノ格付ニ従ヒ代品ヲ以テ受渡ヲ為スノ方法」トアリテ標準売買ヲ許スハ米ノ一品ニ限レルヲ以テ、取引所ノ売買ニ円滑ヲ欠クノ情況アリ、故ニ本会議所ハ右ノ規定中「米ニ限リ」ノ四字ヲ削除シ以テ標準売買ノ制ヲ一般商品ニ適用センコトヲ希望ス
　　理由　近来各地取引所ニ於テ商品受渡ノ現況ヲ見ルニ、概ネ苦情百出当事者ヲシテ殆ント其処置ニ苦マシムルモノ多ク、経済ノ機関タル取引所ヲシテ秩序ヲ紊乱スルノ市場タラシメントスルニ至レリ、而シテ其苦情ノ生スル主トシテ定期取引ニ存スル所以ノモノハ、定期取引ハ其性質上銘柄売買ヲ用フルノ不可ナルニ因ル、乞フ左ニ其理由ヲ述ヘン
　　定期取引ハ他ノ直取引又ハ延取引トハ自カラ其ノ性質ヲ異ニシ、同一期間ニ於テ転売・買戻ヲ許スヲ以テ、其ノ当初売買約定ヲ為シタルモノト期日ニ至リ受渡ヲ為スモノトハ全ク対手ヲ異ニスル場合多ク、随テ商品ニ一定ノ銘柄ヲ用フルハ最モ困難ナリト云フヘシ、今玆ニ銘柄ノ定リタル商品ヲ売買スルノ必要アリトセンカ直取引又ハ延取引ニ依リテ約定スルモ可ナリ、已ニ定期取引ヲ許シ転売・買戻ノ自由ヲ与ヘタル以上ハ其売買ハ必スシモ現在所有スル所ノ商品ヲ売付ケ又ハ一定ノ商品ニ需用アルヲ以テ買付クルカ如キ場合ノミニ止マラスシテ、或ハ遠隔ノ地ニ買付ケタル商品ヲ以テ或ハ将来之ヲ調達スルノ予想ヲ以テ取引スルモノナレハ、契約期限ニ至リ予想ニ変更ヲ生シ、授受ノ際商品ノ品質・荷口等一定ノ銘柄ニ依リテ授受スルコト能ハサルハ勢ノ免カレサル所ナリ、故ニ今日ノ如ク定期売買ニ銘柄ヲ用ヒシムルハ受渡ニ苦情ノ起ル原因ナリト云フヘシ
　　而シテ今定期取引ニ標準売買ヲ許ストキハ如何ナル不都合アリヤト云フニ、標準売買ハ単ニ買方ニ於テ受渡ノ自由ヲ売方ニ与ヘタルモノニ過キサレハ、其売買約定ヲ取結フ当時ニ方リ取組直段ニ於テ予メ買方ノ利益トナルヘキ余地ヲ与ヘ、仮令受渡ノ際ニ至リ代用ノ商品ヲ渡サルヽモ其格付ニ依リテ決算シ毫モ迷惑ヲ蒙ムルコトナキヲ予定シタルヲ以テ、之カ為メ他ニ影響ヲ及ホスコト之レ無キナリ
　　且ツ夫レ定期取引ニ転売・買戻ヲ許ス以上ハ漸次対手ヲ異ニスルニ至ルヲ以テ第三者・第四者ハ当初取引ヲ為シタル第一者ノ意思ヲ継続セサルヘカラス、故ニ売買上其対手ヲ求ムルニ容易ナラシメ、取引ヲナシテ円滑ナラシメントスレハ必ス標準売買ヲ用ヒサルヘカラス、是ヲ以テ定期取引ト転売・買戻ト標準売買トハ三者相聯関シテ離ルヘカラサルナリ、然ルニ已ニ定期取引ヲ許シ又転売・買戻ノ便ヲ与ヘ而シテ独リ標準売買ヲ許サレサルハ、恰モ鼎足ノ一ヲ欠キ車輛ノ隻輪ヲ失ヒタルカ如キ憾ナキ能ハス、是レ此改正ヲ希望スル所以ナリ
　右本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
　　明治二十八年七月二十九日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　農商務大臣　子爵　榎本武揚殿
 - 第20巻 p.581 -ページ画像 
　　○本巻明治二十七年六月二十七日ノ条参照。
　　○本建議ハ実現セズ。（法令全書）