デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第20巻 p.625-634(DK200081k) ページ画像

明治28年12月24日(1895年)

清国輸出ノ棉花中ニハ水気ヲ含有セシメタルモノアリテ我国綿業界ニ与フル打撃尠カラザルニ鑑ミ是日栄一当会議所会頭トシテ、外務大臣臨時代理文部大臣侯爵西園寺公望・農商務大臣子爵榎本武揚ニ建議シ、在上海帝国総領事ヲシテ此種ノ悪弊ヲ矯正スルノ処置ヲ執ラシメンコトヲ求ム。翌二十九年二月十九日外務省通商局長藤井三郎ヨリ、同月二十六日ニハ農商務省商工局長安藤太郎ヨリ夫々当局ノ執リタル処置ニ就キ報告ヲ受ク。


■資料

東京商業会議所月報 第四一号・第一―二頁 明治二九年一月 【○十二月 ○明治二八…】(DK200081k-0001)
第20巻 p.625 ページ画像

東京商業会議所月報  第四一号・第一―二頁 明治二九年一月
○十二月 ○明治二八年二十三日、本会議所事務所ニ於テ第四十九回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
 益田克徳君 ○外二十三名氏名略
午後五時四十分開議、会頭渋沢栄一君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時七分閉会ス
○中略
 一、清国水気棉花排除ヲ要スル儀ニ付、外務・農商務両大臣ヘ建議ノ件(会員朝吹英二君提出)
本件ハ全会一致ヲ以テ原案ニ可決ス


東京商業会議所月報 第四一号・第二頁 明治二九年一月 【○同月 ○明治二八年…】(DK200081k-0002)
第20巻 p.625 ページ画像

東京商業会議所月報  第四一号・第二頁 明治二九年一月
○同月 ○明治二八年一二月二十四日、清国水気棉花排除ヲ要スル儀ニ付、外務及農商務両大臣ニ建議書ヲ進達ス(建議書ノ全文ハ参照ノ部第一号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第四一号・第三―四頁 明治二九年一月 【○参照第一号 十二月二十四日 ○…】(DK200081k-0003)
第20巻 p.625-626 ページ画像

東京商業会議所月報  第四一号・第三―四頁 明治二九年一月
○参照第一号
 十二月二十四日 ○明治二八年清国水気棉花排除ヲ要スル儀ニ付、外務・農商務両大臣ヘ進達シタル建議書ハ左ノ如シ
    清国水気棉花排除ヲ要スル儀ニ付建議
輓近我邦紡績ノ事業益隆運ニ向ヘルヤ、其原料タル棉花ノ供給ヲ内国ニノミ依頼スルコトヲ得スシテ汎ク之ヲ支那・印度及亜米利加ニ仰キ就中支那棉花ハ年一年其輸入額ヲ増加シ来リ、昨明治二十七年度ノ如キハ其輸入総額実ニ五拾壱万七千八百三十五担四八ノ多額ニ上レリ、今試ミニ之ヲ上海ノ輸出額ニ比スルニ昨年度ニ於ケル上海棉花輸出総額ハ九十三万零三百五十担ナレハ、我国ヘノ輸入額ハ実ニ上海輸出額ノ半以上ニ達セル者ト謂フ可シ、然ルニ彼レ清商ノ奸黠狡獪ナル、近年棉花ニ水気ヲ含有セシメ以テ不正ノ利得ヲ貪ランコトヲ希図セリ、今従来ノ実験ニ依ルニ昨年度ノ如キ其含有セル水気ノ量多キハ一割五分ニ上リ少キモ亦一割三分ヲ下ラス、縦令暫ク之ヲ一割平均ト仮定ス
 - 第20巻 p.626 -ページ画像 
ルモ前額輸入総額五拾壱万七千八百三十五担四八中、五万千七百八十三担五四八ハ全然水分ニ属ス、而シテ棉花一担ノ価格拾七円替ト仮定スレハ此水分ハ実ニ八十八万零三百弐十円三十一銭六厘ノ鉅額ニ相当スルコトヽナリ、我当業者ニシテ若シ予シメ此水分ニ属スヘキ部分ノ代価ヲ算定シ、其限度ニ於テ安直ニ之カ買入ヲ為スニ非サレハ、右ノ八十有余万円ハ我当業者ノ損失ニ帰スヘキモノトス、乍去我当業者タルモノハ水気ヲ含有セル棉花ヲ水気ヲ含有セサル棉花ト同一ノ価格ヲ以テ買入ルヽノ愚ヲ学ハサルヘケレハ、其水気ヲ含有セルノ度合ニ従ヒ安直ニ之カ買入ヲ為スヘキコト素ヨリ論ヲ俟タサルカ故ニ、水気ヲ含有セシムルコトハ究竟支那棉花ノ声価ヲ失墜セシムルモノニシテ、其帰スル所清国ノ損失ニ属スヘシト雖トモ、而モ我当業者カ支那棉花ヲ購入スルニ方リテハ逐一水気含蓄ノ有無並其割合ヲ審案セサルヘカラサルコトヽナリテ、徒ラニ無用ノ時間ト手数トヲ要シ、迅速敏活ヲ貴フ商業取引ノ実勢ニ適セサルノミナラス、一々個々ノ棉花ニ就キ水気含蓄ノ有無ヲ甄別シ、其割合ヲ査覈スルコトハ実際最大難事ニ属スルモノト云ハサルヘカラス、故ニ若シ今ニシテ此悪弊ヲ矯正スルノ計ヲ施コサスンハ啻ニ一二当業者ノ不利不便ナルニ止ラス、之ヲ内ニシテハ我紡績事業ノ伸縮ニ関シ、又之ヲ外ニシテハ日清間貿易ノ消長ニ影響スヘキナリ、以是乎京浜ノ当業者ハ相図リテ清国水気棉花排除会ナルモノヲ組織シ鋭意専心力ヲ清国水気棉花ノ排除ニ尽サントシ、其他大阪ニ在リテモ亦這般ノ会合興リテ同心協力此点ニ務ムル所アラントス、頃日復タ仄カニ聞ク所ニ依レハ上海在留外国人モ亦同一ノ利害ヲ感スルモノト見ヘ、同地在留和蘭領事唱主トナリ英吉利及亜米利加ノ領事等賛同シ、上海道台ニ迫リ同道台ヲシテ右等清商ノ奸策ヲ遏止セシメントスト、事果シテ真ナラハ支那棉花ヲ輸入スルコト最モ饒ク其利害ノ関係最モ深キ我国ニ於テ恰モ傍観ノ地位ニ立ツガ如キハ策ノ得タルモノニアラスト思考ス、故ニ此際閣下ヨリ我上海領事ヘ訓令ヲ伝ヘラレ我領事ヲシテ速ニ右ノ運動ニ従事セシメラレンコト本会議所ノ熱望ニ堪ヘサル所ナリ、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
  明治二十八年十二月二十四日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
   外務大臣臨時代理
    文部大臣  侯爵 西園寺公望殿
                    (各通)
    農商務大臣 子爵 榎本武揚殿


東京商業会議所月報 第四三号・第二頁 明治二九年三月 【○同月 ○二月十九日…】(DK200081k-0004)
第20巻 p.626 ページ画像

東京商業会議所月報  第四三号・第二頁 明治二九年三月
○同月 ○二月十九日、清国水気棉花ノ儀ニ付外務省通商局長ヨリ通牒書ヲ接受ス(通牒書ノ全文ハ参照ノ部第二号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第四三号・第二頁 明治二九年三月 【同月 ○二月二十六日…】(DK200081k-0005)
第20巻 p.626 ページ画像

東京商業会議所月報  第四三号・第二頁 明治二九年三月
○同月 ○二月二十六日、清国水気棉花ノ儀ニ付農商務省商工局長ヨリ通牒書ヲ接受ス(通牒書ノ全文ハ参照ノ部第三号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第四三号・第二―五頁 明治二九年三月 【○参照第二号 二月十九日清国水気棉…】(DK200081k-0006)
第20巻 p.626-629 ページ画像

東京商業会議所月報  第四三号・第二―五頁 明治二九年三月
 - 第20巻 p.627 -ページ画像 
○参照第二号
 二月十九日清国水気棉花ノ儀ニ付外務省通商局長ヨリ接受シタル通牒書ハ左ノ如シ
昨二十八年十二月廿四日附清国輸出ノ水気棉花排除ヲ要スル建議ハ其趣旨ヲ採酌シ、当時速ニ在上海帝国総領事ヘ訓令相成候処、総領事ニ於テハ右訓令ノ到達前右水気棉花輸出防遏ノ件上海道台黄祖絡ニ向テ及照会候処、彼ニ於テモ之ヲ応諾シ当時業既ニ部民ニ向テ出示暁諭セシ趣ハ過般農商務省ヘ及通報置候ニ付、既ニ御承了ノ事ト存候、然ル処今回尚又総領事館事務代理永滝領事官補ヨリ再申有之、其言ニ由レハ、右水気棉花ノ昨年来特ニ増加セルハ棉花相場ノ漸次騰貴シタルヨリ七八月頃売買ノ予約ヲ為シタル者ハ其履行ニ苦ムノ結果、水気ヲ混入シ量目ヲ増加シテ引渡ヲ了セントスル機ニ際シ、輸出支那人及本邦人等ノ内ニハ唯価直ノ廉ナルヲ利シ水気含有ノ事実ヲ知リツヽ買収セシ者アルカ為メ其売出シ盛ナルニ至レルモノニシテ、現ニ本邦人中ノ一店舗ハ水気棉トシテ排除サレタルモノヲ直引シテ買収スル等恰モ水気棉ノ売買ヲ業トスル者有之有様ナレハ、強チ売者タル支那人ノミヲ咎ム可カラサルノ事情有之ニ付、一方ニハ本邦ニ於テ輸入水気棉ノ取引ヲ厳拒スルト与ニ、他方ニハ上海ヨリ輸出スル当業者ニ於テ之カ売買ハ為サヽル旨厳正ナル約束ヲ規定スルニ非サレハ到底防遏ノ実ハ挙ラサル次第ニ付、和蘭領事ニ向テ此際輸出商一般ノ規約ヲ立ルノ必要ヲ説キシニ同領事モ之ニ賛同シ、其他ノ外国商等ニ説ク所アリシモ互ニ実施上ノ困難ナルヘキヲ慮居ル姿ニ付、先以テ本邦商ノ間ニ於テ之カ規約ヲ締結セシムル事可然ト認メ、夫々諭告ニ及ヒシニ別段不同意ヲ唱フル者ナキモ、尚陰ニ水気棉ノ取引ニ従事スル者アリテ其厲行困難ナルヲ以テ、目下猶重ナル輸出商ト協議中ニ有之趣ニ有之候、去レハ本件ニ関シテハ単ニ清官ノ方取締方相付候テモ防遏策ノ奏効ハ難期殊ニ清国ニ於テハ既ニ出示暁諭取締ノ途モ端緒ニ就キタル折柄ナレハ本邦商ノ間ニ於テモ亦厳重ナル規約ヲ立テ相互ニ之ヲ遵守スル事最緊要ノ儀ノ被存候、右御通知ヲ兼得貴意候也
  明治二十九年二月十九日
              外務省通商局長 藤井三郎
    東京商業会議所会頭 渋沢栄一殿
○参照第三号
 二月二十六日清国水気棉花ノ儀ニ付農商務省商工局長ヨリ接受シタル通牒書ハ左ノ如シ
清国ヨリ輸入スル含水気棉花防遏ノ儀ニ関シテハ曩ニ其会議所ヨリ建議ノ次第モ有之候処、昨二十八年中在上海珍田総領事ニ於テ別紙甲号写ノ通道台黄祖絡ニ照会ニ及ヒシニ、乙号写ノ通リ照覆有之候趣外務省ヨリ移牒有之候ニ付、為御参考右往復書面写及御送付候也
  明治二十九年二月二十六日
             農商務省商工局長 安藤太郎
    東京商業会議所会頭 渋沢栄一殿
(別紙甲)
以書翰致啓上候、陳ハ上海在留ノ我商紳ノ公稟ニ拠レハ、近来当地近
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傍産棉花ノ品質漸次不良ヲ来シ、且水入等ノ奸策追々ニ行ハレ、当地棉商ノ受タル困難ハ勿論本邦ニ於ケル棉商及各紡績所ハ水入リノ為メ巨額ノ損害ヲ被リタルカ故ニ、此弊ヲ除カンカ為メ南市棉会所ニ相談ノ上水入差止メ候得共、幾クナラスシテ前轍ヲ踏ムモノアリ痛恨ノ至リニ堪ヘス、原来水入棉ハ例年十一月下旬ヨリ弗々有之候処、本年ハ新棉上市ノ際既ニ此弊アリ、故ニ本邦各紡績所ニ於テハ厳シク之ヲ排斥センカ為メ規約執行致シ居候次第ニテ、上海ヨリ輸出スル棉花ノ過半ハ本邦用ニ供スル好市場タルニモ拘ラス、大体ヲ顧ミスシテ目前ノ利ヲ貪ホリ不正ノ所業ヲナスモノ有之、近来印度ノ棉花上海品ト異ナラス漸次本邦ノ需用ヲ増加スルノ傾キアル際、上海棉商ニシテ大ニ注目シテ悪弊ヲ除去スルニ非ラサレハ他日臍ヲ噛ムノ憂可有之旨等申出候、依テ念フニ棉花ノ取引ハ上海ニ於ケル両国商民ノ重要ナル貿易事業ナルニ拘ハラス、近来貴国棉商ニ於テ窃ニ水入棉ヲ混売シ騙欺ノ所業ヲ為スモノ有之、為メニ我商ノ損害ヲ被ムル尠カラス、従テ我商ヨリ詐欺ノ訴訟ヲ提起セントスル者続々起ルヘキノ兆有之ハ両国貿易上洵ニ痛嘆ノ至リニ不堪所ニ有之候、就テハ目下本邦ニ於テハ棉商団結シテ貴国水棉排除ノ規約ヲ施行スルノ挙モ有之候際ニ付、貴道ニ於テ速ニ棉商一般ニ対シ棉花ノ斤量ヲ増加センカ為メ故ラニ水分ヲ混入シ延テ棉質ヲ不良ナラシムルカ如キ悪弊ヲ除キ正当ノ取引ヲ為サシメラルヽ様厳重ニ御諭告有之候様致度、玆ニ照会得貴意候 敬具
  明治二十八年十二月二十四日
             大日本帝国総領事 珍田捨巳
    大清欽命監督江南海関兵備道 黄祖絡閣下
(別紙乙)
大清欽命二品銜監督江南海関蘇松太兵備道黄 為照復事十一月初九日准
 貴総領事来文以拠紳商公稟上海所出棉花品質漸劣且攙水湿混売欺騙我商会議排斥請厳諭棉商除去攙水以増斤量併損棉質之弊誠実交易等因査此案先於本年九月間接
 祖界領袖徳国総領事施来函拠礼和洋行等稟中国運往欧洲棉花有浸水以漲斤両哄騙各国商人受虧甚鉅本年新貨浸水哄騙尤甚請出示禁止等因当経出示切実諭禁在案並准前因除照案再行出示諭禁外合将前出示稿照録一紙附送為此照復
  貴総領事請煩査核施行須至照復者
    計抄送示稿一紙
  右照復
大日本欽命駐剳上海兼管鎮江寗波各□総領事 珍田
  光緒廿一年十一月二十七日
            我一月十二日接
示稿
為出示暁諭事光緒廿一年九月初一日接
祖界領袖徳国総領事施 来函拠徳商礼和洋行等稟欧洲進口棉花向由各国及美国運往者居多近年中国運到之貨与各国不甚懸殊頗適於用毎年貨数漸次加多上年由華運往之貨致有浸水以漲斤両哄騙駐華洋商及本国商
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人受虧甚鉅於中国土貨声大有関係本年新貨其浸水哄騙之弊尤甚弁運之洋商裏足及交定貨更与原様不符深恐因此渉訟函講飭禁如敢故違応援照哄騙例究懲嗣後徳商弁運棉花一律応交乾貨不准暗将水浸之花用乾者包裏混渚如有因此賠虧応由償補等因到道除函復外合行出示諭各商遵照示等須知中外通商総須誠実相孚貿易方能繁盛舞弊作偽不過哄騙一時非特声大壊洋商従此不与交易且賠虧受累所得不償所失欺人適以自欺現当収花之際特為諄々告誡自示之後商人等所售棉花如果仍有前項情弊一経洋商指控査訊得実定与従厳究弁不貸勿謂言之不預也切々特示
  光緒廿一年九月廿六日発
清国ヨリ輸入スル水気棉花防遏ノ件ニ関シテハ曩ニ及御通知置候次第モ有之候処、尚又在上海総領事館ヨリ別紙写ノ如ク申報有之候趣ヲ以テ、外務省ヨリ移牒有之候ニ付、右書面写及御送付候也
  明治二十九年二月二十六日
              農商務省商工局長 安藤太郎
    東京商業会議所会頭 渋沢栄一殿
本年一月二十三日附送第五号貴信ヲ以テ清国水気棉花防遏ノ件ニ付東京商業会議所ノ建議ニ拠リ、和蘭領事等ト協同シテ排除ノ運動ニ従事可致旨御訓令ノ趣敬承致候、本件ニ関シテハ一月二十三日附第七号公信ヲ以テ具報致置候通、当港道台ニ対シ及照会、道台ヨリ夫々厳諭ヲ発候間清国人ニ於テモ大ニ注意ヲ加フル儀ト存候、而シテ右水気棉花ノ昨年来特ニ増加セル原因ハ棉花相場ノ漸次騰貴シタルヨリ七八月比売買ノ予約ヲ為シタル者ト其履行ニ窮スル結果水気ヲ混入シ重量ヲ増加シテ引渡ヲ了セントスルニ至レルト、一ハ輸出清国人及本邦人等ノ内水気含有棉ノ幾分廉価ナルヲ幸トシ、其事実ヲ知リツヽ買収スル者アルカ為メ其売出盛ニ行ハルヽニ至レル者ニシテ、現ニ本邦人中一店舗ニ於テ水気棉トシテ排斥シタル者ニ付値引ヲナシテ之ヲ買収スル等殆ント水気棉ノ売買ヲ業トスル者有之候間、強チ売出シ清人ノミヲ咎問スヘカラサル儀ニ有之候ニ付、一方ニハ本邦ニ於テ輸入水気棉ノ取引ヲ厳拒シ、又一方ニハ当地ヨリ輸出スル商人ニ於テ之レカ売買ヲ為サヽルヘキ厳約ヲ定ムルニアラサレハ到底防遏ノ実ヲ挙クル能ハサル次第ト存候、依テ先ニ和蘭領事ヨリ道台ニ照会協議致来候次第モ有之且ツ同領事自カラ棉花輸出業ニ従事スル趣ニ付、旁同領事ニ対シ此際輸出商一般ニ於テ規約ヲ立ルコト必要ナルヘシト説キ、同領事モ之ヲ賛成シ外国人ニ説ク所有之タル趣ナルモ互ニ実際施行上困難ナルヘキヲ掛念シ居ル由ニ付、先ツ本邦商間而已ニ於テ之レカ規約ヲ締結セシムルコト可然ト認メ、先般及具報候通夫々諭告スル所有之候処、別ニ不同意ヲ唱フルモノナキモ陰ニ水気棉ノ取引ニ従事スルモノアル等、旁厳行ノ困難ナルヘキヲ案シ、今尚重ナル輸出商ニ於テ其方法協議中ニ有之候間、東京商業会議所建議ニ対シテハ右可然御通報相成候様致度、此段回答旁及具報候也
  明治二十九年二月五日
               在上海総領事館事務代理
                 領事官補 永滝久吉
    外務次官 原敬殿
 - 第20巻 p.630 -ページ画像 



〔参考〕棉花ニ関スル調査 農商務省農務局編 第三九五―四〇一頁 大正二年三月刊(DK200081k-0007)
第20巻 p.630-634 ページ画像

棉花ニ関スル調査 農商務省農務局編  第三九五―四〇一頁 大正二年三月刊
    第六項 支那棉花水気問題
○中略
  其一 上海ニ於ケル支那棉花水気問題(明治四十四年三月十四日付在上海帝国総領事報告)
支那棉花ハ近年日本及諸外国ノ需要ト共ニ年々其産額ヲ増加シ、上海附近及漢口地方ノ産出年額実ニ二百万担乃至三百万担以上ニ達シ、昨年度産額ハ三百五十万担ト称セラレ、若シ北清地方ヲ加算スル時ハ四百万担ト概算スルヲ得、此等産棉ノ需要先ハ即チ当地紡績及日本ニシテ此外殆ト各国ニ輸出セラルヽト雖其額極テ少ナシ、而シテ紡績消費年額現時清国紡績総錘数七十余万ニ対シ百七八十万担ヲ消費スヘク、外国輸出トシテ従来最多額百万ヲ超ヘス、故ニ昨年度ノ作柄ニヨリ百二三十万担ハ即チ内地ニ於テ蒲団綿若クハ土布原料綿使用トシテ消費セラルヽモノニテ、今上海ニ於ケル状況ヲ見ルニ、其産棉地通州・寗波・太倉州及上海附近地方何レモ土地比較的接近シ、其出荷モ自然小口物多ク、然モ其輸出向出荷額前述ノ如ク内地消費額ニ比シ少ナキヲ以テ本邦其他輸入国ヨリ突然大口ノ買付アリシ際若クハ比較的多額ノ出荷アリシ時ハ忽チ市場相場ニ影響スルモノニテ、従来当地棉花市況変動多キハ之カ為メニシテ、相場変動多キ時ハ売手側ニ於テモ時々其損失ヲ受クル場合多ク、之カ塡補ヲ謀ラントスルアルハ又免ルヘカラサル所ニシテ、其方法トシテ相場下落ニ対シ人為的重量ヲ増加セシムルニ外ナク、之ニヨリ人工加水ノ悪弊ヲ見ルニ至ル、之ト共ニ当地ハ勿論日本ニ於テモ支那棉ニ対シ先物約定盛ニ行ハレ、若シ棉作豊況ノ際ハ兎モ角不作ニ陥ル時ハ約定相場ト時価ト太タシキ径庭ヲ見ルニ至リ此際当地棉花業者ハ生産人ニ対シ盛ニ値引ヲ為《(シ)》ス、生産人ハ其損失ヲ償フ為メ加水ノ奸策ヲ演スルニ至ル
斯ノ如クシテ天然水気ノ上ニ漸次人工加水ノ弊風年々増加シ来リ、当地綿屋及紡績業者ノ被ムル損害少ナカラス、元来水気棉ハ重量ヲ増スハ勿論、其水分一割五六分以上ヲ含有スルモノハ腐敗スルヲ以テ永ク貯蔵ニ堪ヘス、若シ紡績機械ニ上ル時ハ機械ニ錆ヲ生シ、若シ之ヲ再ヒ乾燥セシメントスル時ハ固有ノ光沢ヲ滅却シ、黴斑ヲ生シ、繊維ヲ軟弱ナラシム、是等ハ当地紡績及輸出業者ノ共ニ受ケツヽアル打撃ニシテ、若シ之ヲ本邦若クハ外国ニ輸出セントスル時ハ徒ラニ水気ニ対スル運賃及輸入税ヲモ負担スルコトヽ為リ、殊ニ本邦向輸出品ニアリテハ若シ日本ニ於ケル水気検査所ノ検査ニ不合格ナルモノハ再ヒ持チ帰ラサルヲ得ス、水気ノ弊害斯ク数ヘ来ル時ハ実ニ鮮少ナラス、之カ為メ延テ支那棉花自身ノ発展ヲモ阻害スルニ至ルヤ明ナリ、故ニ従来旧クヨリ当地方内外棉業者ハ勿論、清国官憲ニ於テモ水気防遏ニ苦心シツヽアリ、而シテ組織的組合ヲ設ケ之カ防遏ヲ講スルニ至リタルハ即チ明治三十四年(千九百〇一年)当地内外棉業者間ニ加水棉花防遏協会ノ設立アリ、本会設立以来諸種防遏方法ヲ設ケ其成績ノ見ルヘキモノアリシカ、越ヘテ三十五年六月ニ至リ上海道台ハ左記ノ如キ方法ニヨリ親ラ水気防遏ノ任ニ当ランコトヲ申出テ、前記協会ハ遂ニ存在ノ必要ヲ失シ、同年九月之ヲ閉鎖スルニ至レリ
 - 第20巻 p.631 -ページ画像 
 一、上海道台ハ適当ト認ムル場所ニ官立水気検査所ヲ設立スルコト
 二、水気検査所ニハ特ニ主任者一名ヲ選任シ、有ラユル水気棉ヲ検査シ、且ツ違反者ニ対シ罰金ヲ課徴スルノ特権ヲ附与ス、主任者ノ報酬及検査所経費ハ道ヨリ支弁スルコト
 三、上海道台ハ支那棉花組合ニ命シ外国検査人ト協力シ水気検査ニ従事スル為メニ適当ナル清国検査人ヲ選任セシムルコト
 四、凡ソ徴収罰金ハ上海道台ノ申出ニ従ヒ上海道台ニ支払ハルヘキコト
 五、本規則ハ上海道台及領事団ノ間公文ノ交換ニヨリ制定セラルヘキコト
 六、本規則ハ必要ニ応シ道台及領事団ノ協議ニヨリ変更セラルヽコトアル可シ
上海道台ハ右ノ主旨ニ基キ、当地支那棉業者間ニ組織セラルヽ花業公所カ水気防遏ノ目的ヲ以テ設立セル験水局ヲ認可シ、該局ノ請願ニ基キ主任者トシテ向某(知県)ヲ派遣シ以テ水気防遏ノ機関トセリ、今参考ノ為メ該局告示文ヲ訳出スルコト左ノ如シ
凡ソ棉花加水一事ハ早クヨリ厳禁スル所タリシカ、近来尚ホ依然郷人ノ加水ヲ為シ厚利ヲ貪図セントスルモノアリ、実ニ悪ムヘキノ甚シキモノトス(中略)是ヲ以テ再ヒ禁令ヲ発布ス、以後在郷棉花業者各自応ニ生業ニ安シ敢テ禁令ニ違反シ故轍ヲ踏ム可カラス、又本局使用人ニシテ執務上若シ不当ノ金品ヲ要求スルカ如キモノ有ル時ハ、随時送致シ来ラハ厳重処罰シ以テ公務ヲ重ンシ商難ヲ救恤ス可ク、郷民若シ相通シテ敢テ舞弊ヲ為ストキハ本局ハ査出次第一律厳罰シ、聊モ仮釈セス云云、験水局所定罰則左ノ如シ
 一、水気一割四分ヲ含有スルモノハ十日間差押ノ上本人ニ引渡ス
 一、水気一割五分ヲ含有スルモノハ二十日間差押ヘ乾燥スルヲ俟チ本人ニ引渡ス
 一、水気一割六分ヲ含有スルモノハ三十日間差押ヘ乾燥スルヲ俟チ本人ニ引渡ス
 一、水気一割七分ヲ含有スルモノハ該荷主ヲ枷号十日ニ処シ以テ衆人ニ儆示シ、棉花ハ四十日間差押ヘ乾燥スルヲ俟テ本人ニ引渡ス
 一、水気一割八分ヲ含有スルモノハ該荷主ヲ枷号十五日(ニ処シ以テ衆人ニ儆示シ綿花ハ五十日脱カ)間差押ヘ乾燥スルヲ俟チ本人ニ引渡ス
 一、水気一割九分ヲ含有スルモノハ該荷主ヲ枷号二十日ニ処シ、棉花ハ六十日間差押ヘ乾燥スルヲ俟チ本人ニ引渡ス
 一、水気二割以上ヲ含有スルモノハ該荷主及棉花ヲ一併所管知県ニ送交シテ処罰ス
清国側水気検査所ハ右ノ如クシテ設立セラレ、多大ノ経費ヲ投シ今日迄継続セラレ、且ツ上海道台ハ年々新棉時期ニハ告示シテ棉花加水ヲ厳重禁止シツヽアリシカ、其取締法ニ遺漏ノ箇処不尠、且ツ一方先約物取引多キ等ノ為メ何等好成績ヲ見ル能ハス、水気ハ年一年ニ増シ殆ント停止スル所ナキニ至レリ
前述ノ如ク当地方棉花ノ主要ナル輸出先ハ即チ日本ニシテ、其輸入棉年々水気多キ為メ、従来日本棉花業者及紡績業者ノ受クル影響尠ナカ
 - 第20巻 p.632 -ページ画像 
ラサリシカ、大日本紡績聯合会ハ遂ニ今ヨリ約十年前神戸・横浜・門司等四五箇所ニ支那棉水気検査所ヲ設立シ、支那ヨリ輸入セラルヽ棉花ニ対シ厳重ナル検査ヲ実行スルニ至リ、当地日本向棉花輸出業者ハ不尠打撃ヲ被ムリ、遂ニ当地ニ於テ完全ナル検査ヲ経タル棉花ハ日本ニ於テ再検査ナク輸入シ能フ方法ヲ講スルノ必要ヲ切ニ感シ、即チ日本紡績聯合会所設ノ検査所ト聯絡シ、当地ニ於テ有効ナル検査ヲ遂ケ以テ再検査ヲ避クルノ目的ヲ遂ケントシ、玆ニ明治三十九年十月一日当地ニ上海支那棉水気検査所ノ設立ヲ見ルニ至レリ、該検査所ハ同年七月中ハ当時当地ニ於ケル日本棉花商三井・日信・有信・東興・日東吉隆・松村ノ各洋行並東亜公司ノ発議ニ係リ、支那棉水気防遏ノ目的ヲ達セシカ為メ上海ニ其検査所ヲ設ケ、其検査ヲ以テ日本紡績聯合会検査所ノ検査ト同一ノ効力ヲ有スルモノトセンコトヲ該聯合会ニ申込ミシ所、其主旨ニ於テハ賛成ヲ得シカ、直ニ同一ノ効力ヲ附与スルコトニ付テハ容易ニ承諾ヲ得ル能ハス、遂ニ該聯合会ヨリ検査所監督ヲ派遣シ予メ綱領ヲ示シテ之ニ準拠ス可キヲ条件トシ、漸ク上海検査所ヲ以テ聯合会認定検査所ト為スコトヲ得タリ、聯合会ノ定メタル認定検査所規定左ノ如シ
 一、支那棉花ノ輸出地ニ於テ水気検査所ヲ設ケ、本会検査所ト同一ノ方法ヲ以テ支那棉ノ水分ヲ検査スル時ハ本会委員会ニ於テ該検査所ヲ確実ナルモノト認メタル場合ニ限リ、当検査所ニ於テ検査シタル棉花ヲ以テ本会検査所ニテ検査シタルモノト同一ノ効力アルモノト見做ス
 二、前項ノ認定検査ニ於テ検査済ノ棉花ハ本邦ニ於テ再ヒ之ヲ撿査セス、従テ検査料ヲ徴収セサルモノトス
   但シ本邦ニ於ケル売買各当事者ヨリ再検査ノ請求アリタル時ハ此限リニアラス
 三、本会ハ認定検査所ニテ検査シタル棉花ニ就キ試検査ヲナシ其成績不良ナル時ハ委員会ノ決議ニヨリ第一項ノ特典ヲ取消ス可シ
 四、認定検査所ノ費用ハ同所ニ於テ徴収スヘキ検査料ヲ以テ支弁スヘク、本会ハ之ニ対シ何等分担ノ義務ナキモノトス
   但シ創設ノ際ニ限リ本会ヨリ検査用器ヲ貸与スルコトアルヘシ
尚ホ該検査所設立当時ハ上海ヨリ本邦ニ輸出スル棉花ハ上海ニ於テ検査所ノ検査ヲ受クルト否トハ一ツニ輸出者ノ選択ニ任セシカ、日本棉花同業会ハ水気防遏ノ目的ヲ一層有効ナラシムル為メ、凡テ上海ヨリ本邦ニ輸出スル棉花ハ必ス該検査所ノ検査ヲ受クヘキコトニ改メンコトヲ紡績聯合会ニ申込ミタル結果、遂ニ四十年十一月一日ヨリ当地認定検査所規則トシテ上海ヨリ輸入スル棉花ハ上海認定検査所ノ検印及検査証書アルヲ要スル旨ヲ附加スルニ至レリ
右ノ如クシテ上海支那棉水気検査所ハ日本向輸出棉花ニ対シ、聯合会検査所ノ方法ニ則リ検査ヲ開始スルニ至リシカ、明治四十年ニ入リ同年ノ新棉期ヨリ水気棉排除ノ目的ヲ達スル為メ検査所会員買入ニ際シ同一歩調ヲ以テ水気歩合ヲ協定シ置キ、之ニ不合格ノモノハ相当値引ヲナスカ又ハ其取引ヲ拒絶スルノ方法ニ出テントシ、同年九月五日総会ヲ開キ決議セシカ各員ノ意見一致セス、同九日再ヒ決議シ水気幾分
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以上ノモノハ断然取引ヲ拒絶スルコトニセハ相場ノ昂低作柄ノ豊凶等ニヨル水気ヲ避クルヲ得ルモノトシ、遂ニ組合員ハ棉花買入レノ際ハ北市品一割、通州南市其他ノ産棉ハ一割一歩ヲ限度トシ、此以上ノ水気ヲ含有スルモノハ其歩合ニ応スル値引ヲナスニアラサレハ受渡セサルコトヲ決議シ、之ヲ支那新聞ニ広告セリ、然ルニ其後実際雨天続キ等ノ為メ主トシテ組合員中ノ外国人若クハ支那人カ該規定水気歩合引上ケヲ懇請スルモノアリ、コレト同時ニ先約定物取引行ハレシ結果、不作ニ伴フ時価ノ騰貴ヲ塡合スル為メ生産人ノ水気ヲ加フルモノ益々多ク、間々輸出品買付容易ナラサリシ等ノ実情アリ、其都度幾分宛歩合ヲ引上ケタルコト数回、最後ニハ明治四十一年三月二十日ノ会議ニヨリ左ノ通リ決議セリ
 一、通州棉水気ノ歩合ハ一割二分迄ヲ合格品トシ、一割二分以上三分迄ハ値引ノ上合意取引スルコトヽシ、一割三分以上ハ断然取引セサルコト
 一、北市棉水気ノ歩合ハ一割一分五厘迄ヲ合格品トシ、一割一分五厘以上一割二分迄ハ値引ノ上合意取引トシ、一割二分以上ハ断然取引セサルコト
 一、南市及寗波棉ハ通州棉ト同シ
 一、各地棉ヲ通シ値引歩合ハ毎一分ニ付四匁ノ割合トス
 一、右ノ決議事項ニ遺背《(違)》スルモノハ供託中ノ信認金ヲ没収スルコト
上海水気検査所カ前述発議者以外ニ組合員トシテ恰和洋行・「タタサンス」商会・通記新号・天余号・新元号・張源興号・永茂号・益泰裕記号等合計十三会員ヲ有シ成績ノ見ルヘキモノアラントセシカ、前述ノ如ク各組合員自己ノ利益ニ基キ時々規定水気歩合ノ引上ケ請求アリ組合ハ漸次標準歩合引上ケヲ決議スルニ当リ遂ニ生産者側ニ於テモ之ニ馴レ、随意水気ヲ増スモ妨ケナキヲ看取シ水気弊ハ全ク矯正スル能ハス、歩合引上ケニヨリ或ル程度迄ハ公然加水スルヲ得ルカ如ク、水気検査所設立ノ目的ハ全ク没却セラルヽニ至リ、一方当地紡績ハ棉花ノ輸出業者カ水気検査厲行ノ為入市品ニシテ日本向トシテ合格セサルモノハ時期ヲ見テ法外ノ値下ケヲナスコトヲ得、畢竟輸出棉花商ノ此ノ挙ニ依リ当地紡績ヲシテ却テ利益ヲ握ラシメ、為メニ水気防遏ノ目的容易ニ貫徹スル能ハス、又日本紡績聯合会ハ其検査員カ聯合会ノ選派スル処ニ係ルヲ利用シ常ニ棉花商ニ対シ各種ノ要求ヲ為シ、輸出棉花業者ハ輸出漸ク困難ニ陥リ当地検査所設立ノ利益ハ輸出棉花業者ノ為ニ非スシテ却テ紡績聯合会ヲ益スルニ過キサルニ至リ、将タ検査所経費嵩ミシ等ノ為メ明治四十二年三月三十一日会員合議ノ上遂ニ検査所ヲ閉鎖スルニ至レリ
昨年度坐地棉作近年異例ノ豊作ニシテ殆ント未曾有ノ収穫アリ、且ツ天候良好ニシテ天然水気モ極メテ少ナク、加フルニ内外棉商水気ノ弊ヲ矯メントシ先約取引モ例年ニ比シ減少セシニ係ハラス、入市品水気殊ニ多ク当地紡績ヲ妨《(始)》メトシ、棉花商ヲ苦シムルコト太タ多ク、之レ畢竟当地ニ於テ従来水気防遏ノ目的ヲ以テ設立セラレシ各種組合ノ如キ、或ハ有名無実ノ不良ナル成績ニ終リ、或ハ組合員ノ一致ヲ欠キ、若クハ他ノ妨碍ニヨリ永ク持続スルヲ得ス、目下一致防遏スルノ機関
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ナキカ為メニ当業者常ニ相当機関ヲ設ケテ防遏ノ目的ヲ達セントシツツアリ、過般来当地外国紡績会社ノ主ナルモノ及本邦棉業者間ニ組合設立ノ内議アリ、本月六日各国関係者及支那棉花組合員ヲ当地怡和洋行ニ集合シテ初次ノ会議ヲ為ス、当地「グルバート、コムパニー」(老公茂)支配人「イー、シー、ピアース」議長ニ推任セラレ、先ツ左記ノ各条項ニ基キ防遏ノ目的ヲ達センコトヲ提議セリ
 一、棉花商ノ協議ヲ以テ全然水気棉ノ取引ヲナサヽルコト、若クハ或ル程度以上ノ水気棉ヲ取引セサルコト
 二、規約違反者ニ対スル罰法
 三、公立検査所ヲ設ケ水気及他ノ交物ニ付検査スルコト
 四、検査官ノ選任
 五、清国税関吏ノ補助ヲ得ラルヽヤ否ヤ
 六、経費問題
而シテ最後ニ議長ハ左ノ如ク評議員ヲ選定シ、以後評議員会ニヨリ詳細討議スルコトヽセリ
日本側 三井洋行及日本棉花株式会社上海支店長、紡績会社側 瑞記紡織公司ヨリ二名、鴻源紡織有限公司ヨリ一名、其他二名
支那人側 未タ選定セス
本会ハ右ノ如クニシテ其ノ端ヲ発シ已ニ評議員ノ選定モ終リシカ、未タ日浅クシテ具体的成案ヲ見ルニ至ラサレトモ、水気棉花ノ弊害ニ苦シメラレシ程本会ノ成立ハ当業者ノ一般ニ希望スル所ニシテ、前述ノ如ク各方面ニ於ケル利害関係者ヲ網羅セル本会ハ会員ノ確固タル一致ヲ以テ防遏ヲ遂行セントスルニ於テハ、当地方産棉ノ過半ハ当地紡績用若クハ外国向輸出品ナルニ鑑ミ之カ水気防遏ノ決シテ困難ナラサルヲ覚ユルナリ、尚ホ今回設立セラレントスル組合ノ効力ハ上海附近ヨリ漢口地方産棉ニ及フモノトス