デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年11月9日（1896年）

是日栄一当会議所会頭トシテ、鉄道企業ノ出願ニ対スル監督官庁ノ許否決定ヲ成ルベク速カニセンコトヲ内閣総理大臣伯爵松方正義・逓信大臣子爵野村靖ニ建議ス。

第六回東京商業会議所事務報告　　第一〇頁　明治三〇年四月刊
一鉄道企業許否ノ処分ニ関スル義ニ付、内閣総理大臣・逓信大臣ヘ建議ノ件
　本件ハ会員岡部広君ノ提出ニ係リ、其要旨ハ、鉄道企業許否ノ処分動モスレハ数年ノ長キニ亘ルカ如キコトアリテ、企業者ニ無益ノ費用ヲ負担セシムルノミナラス、国家経済上ノ不利ヲ招ク少カラサルニ付、許否ノ処分ハ成ルヘク速ニセラレンコトヲ内閣総理大臣及逓信大臣ヘ建議スヘシト云フニ在リ、依テ之ヲ明治二十九年十一月六日第五十六回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同月九日附ヲ以テ左ノ如ク内閣総理大臣・逓信大臣ヘ建議セリ
　　　　鉄道企業許否ノ義ニ付建議
謹テ按スルニ、鉄道企業者カ監督官庁ニ向テ鉄道ノ布設ヲ出願スルニ当リ、其許否ノ遅速ハ国家ノ経済上ニ至大ノ影響ヲ及ホスモノナクンバアラズ、今従来ノ経験ニ徴スルニ、一タヒ鉄道ノ敷設ヲ出願シテヨリ其許否ノ指令ヲ得ル迄ニハ遅キハ二年ヲ出テ、早キモ一年ヲ過クルノ実況アリ、斯ノ如ク其許否遷延シテ企業ノ線路世間ニ発表セサルカ為メ、此間同一ノ線路ニ対シテ多数ノ競争線ヲ生シ、企業者ノ間ニ無用ノ紛争ヲ醸スコトアリ、又其許否甚シク遷延スルヨリシテ、遂ニ企業者ヲシテ無益ノ費用ヲ負担セシムルコトアリ、殊ニ鉄道事業ニ関連シテ発起セル他ノ事業ノ如キハ、其鉄道ノ許否決定セサルヨリ不得止之カ進行ヲ遅緩シテ、為メニ其事業ニ少カラサル障碍ヲ受クル事アリ凡此等皆鉄道企業ニ対スル許否ノ遷延ヨリ生スル結果ニシテ、独リ企業者ノ困難ニ止ラス、国家経済上ニ及ボス所ノ影響決シテ少々ニアラサルナリ、之ヲ要スルニ、政府カ鉄道企業ノ出願ニ対シ許否ヲ遷延セラルヽハ、結局国家ノ不利タルヲ免レサルニ付、今後政府ハ鉄道企業ノ出願アルニ際シテハ速ニ之ヲ審按セラレ、許スベキハ直ニ之ヲ許シ許スベカラサルハ直ニ之ヲ却下スルト云フカ如ク、可成速ニ許否ノ指令ヲ下附スルノ方針ヲ執ラレンコトヲ希望ス、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
　　明治二十九年十一月九日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　内閣総理大臣　伯爵　松方正義殿
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（各通）
　　　　逓信大臣　　　子爵　野村靖殿