デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第21巻 p.272-276(DK210039k) ページ画像

明治30年10月15日(1897年)

是日栄一当会議所会頭トシテ、税法ノ革新、殊ニ地税革新ノ必要ヲ大蔵大臣伯爵松方正義・農商務大臣伯爵大隈重信ニ建議ス。


■資料

東京商業会議所月報 第六三号・第一一頁 明治三〇年一一月 【○同月 ○十月十五日…】(DK210039k-0001)
第21巻 p.272 ページ画像

東京商業会議所月報  第六三号・第一一頁 明治三〇年一一月
○同月 ○十月十五日、税法革新ノ義ニ付大蔵・農商務両大臣ヘ建議書ヲ進達ス(建議書ノ全文ハ参照ノ部第一号ニ掲載ス)


東京商業会議所月報 第六三号・第一二―一五頁 明治三〇年一一月 【○参照第一号 明治三十年十月…】(DK210039k-0002)
第21巻 p.272-276 ページ画像

東京商業会議所月報  第六三号・第一二―一五頁 明治三〇年一一月
○参照第一号
 明治三十年十月八日臨時会議ノ決議ニ依リ、税法革新ノ義ニ付、同月十五日附ヲ以テ大蔵・農商務両大臣ヘ進達セシ建議書ノ全文ハ左ノ如シ
    税法革新ノ義ニ付建議
一国税法ノ宜ヲ得ルト否トハ商業ノ消長ニ至大ノ関係ヲ及ホサスンハアラス、我国ノ税法ハ維新以来大ニ釐革シテ其面目ヲ改メタルモノ少
 - 第21巻 p.273 -ページ画像 
カラスト雖トモ、大体ノ方針未タ確定セサルヲ以テ、其税法煩雑ニシテ、且ツ国民ノ負担偏軽偏重ニ失スルノ跡アリ、是決シテ財政ヲ整理シ民業ノ発達ヲ助長スル所以ニアラサルナリ、今ヤ戦後経営上各種ノ施設ヲ要スルノ際ニ当リ、其国費ヲ支持セント欲セハ、宜シク先ツ税法ノ根本ヲ革新シ、国民ノ負担ヲシテ公平ナラシメサルヘカラス、若シ否ラスシテ徒ラニ姑息ノ手段ニヨリテ増税ヲ規画スルカ如キコトアルトキハ、財政紊乱シテ民業益々萎蘼シ、遂ニ国家ノ元気ヲ阻喪スルノ恐レナシトセス、是ヲ以テ本会議所ハ玆ニ税法革新ノ意見ヲ具シ、以テ閣下ニ上呈ス、願クハ閣下本会議所ノ意見ヲ採納セラレンコトヲ此段本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
  明治三十年十月十五日
            東京商業会議所会頭 渋沢栄一
    大蔵大臣  伯爵 松方正義殿
    農商務大臣 伯爵 大隈重信殿
(別紙)
    税法革新ノ意見
凡ソ租税ハ国民ノ勤勉労働ニ課セスシテ、勤勉労働ノ結果タル富即チ財産ニ課スルヲ以テ大本ト為スヲ要ス、而シテ税目簡ニシテ徴収ニ易ク、収入大ニシテ其負担ノ国民ニ普キモノヲ択ムハ、是実ニ課税上ノ第一要義ナリ、我国現行租税其種目多シト雖トモ、此大本ニ準拠シテ能ク此要義ニ合スルモノヲ求ムレハ蓋シ地税・関税・酒税・煙草税ノ右ニ出ツルモノナカルヘシ、今若シ此四大税法ヲ改良シテ歳入ノ増加ヲ謀リ、政費ノ大体ハ此四税ヲ以テ支弁シ、営業税ノ如キ、所得税ノ如キ、証券印紙税ノ如キ、北海道水産税ノ如キ、将タ鉱山税ノ如キ苟クモ国民ノ勤勉ニ課税シテ其起業心ヲ阻喪シ、一国産業ノ発達ニ害アル煩瑣ノ諸税ハ一切之ヲ廃止スルアラン乎、国家財政ノ基礎ハ玆ニ確立スルヲ得テ、国民亦負担ノ公平ナルニ安スルヲ得ン、顧フニ右ノ四税中関税・酒税・煙草税ノ三種ハ既ニ其改正法ノ実施シ若シクハ将ニ実施セラレントスル際ニ在レハ、敢テ之ヲ論議スルノ要アラサルモ、独リ地税ニ至テハ税法ノ精神ヲ一変シテ革新ノ大英断アランコトヲ期セサルヘカラス、是本意見提出ノ已ムヘカラサル所以ナリ
然ラハ地税ヲ如何ニ革新スヘキ乎、抑モ土地ハ我国財産ノ最大ナルモノニシテ、地税ハ財産税ノ最大ナルモノナリ、故ニ租税ハ国民ノ財産ニ課スルノ本義ニ基キ、国内苟クモ価アルノ土地ハ其実価ニ応シ平等均一ニ課税スルコトヽセハ、地税革新ノ実容易ニ行ハレ得ヘキナリ、試ニ其法案ノ大綱ヲ掲クレハ左ノ如シ
 一地税ハ土地ノ実価ニ因リテ課スル事
 一土地ノ実価ハ其所有主ヲシテ之ヲ届出シムル事
 一土地ノ実価其届出価額ニ四分ノ一以上ノ高下ヲ生シタルトキハ之ヲ訂正セシムル事
 一其届出価額ノ当否ハ調査委員ヲ設ケ之ヲ審査セシムヘキ事
 一税率ハ千分ノ八ト定ムヘキコト
以上掲クル所ノ大綱ニ依テ地税ヲ革新スルヲ必要トスルモノハ、特リ増税ノ為メノミナラス、現行地租ノ制タル其根柢ニ於テ改正セサルヘ
 - 第21巻 p.274 -ページ画像 
カラサルモノアルカ故ナリ、蓋シ現行ノ租制ハ封建ノ遺法タル政費ハ専ラ耕地ニ負担セシムルノ旧慣ヲ套襲セシモノニシテ、称シテ地税ト云フト雖モ其実ハ耕地税ニ外ナラス、地税ニ於テ最モ重キヲ置クヘキ宅地ノ如キハ殆ント之ヲ度外ニ置キ、土地ノ収穫ニ基テ其地価ヲ算出シ以テ之ヲ課税ノ標準トナシ、其地価ハ大約五年毎ニ修正スルノ趣旨ナリシカ如クナルモ、地価算定方法ノ煩雑ナルカ為メニ幾多ノ歳月ト巨大ノ経費トヲ要センコトヲ恐レ、荏苒今日ニ至リタルモノナリ、凡ソ諸般ノ物価中其変動ノ最モ甚シキハ土地ノ代価ナリ、特ニ我国明治維新以後ノ三十年間ハ世界ニ類例稀レナル変遷ヲ経タルモノナレハ、荒寥タル漁村ノ変シテ一大市場トナリタルアリ、無価値ノ荒原化シテ一坪百円ノ宅地トナリタル例少カラス、二十年以前ノ公定地価安ソ能ク今日ノ標準タルヲ得ンヤ、加フルニ各藩割拠ノ余弊ヲ承ケテ検地員ノ統一ヲ欠キ、其調査亦数年ニ渉リタルカ為メ公定ノ際ニ於テ業ニ既ニ不公平ヲ生シタルコトナレハ、税法大体ノ精神ヲ一新セスシテ単ニ税率ヲ引上ケ土地ノ全部又ハ一部ノ増税ヲ謀ラントスルカ如キハ、其結果益々国民ノ負担ヲシテ偏軽偏重ナラシムヘク、到底姑息ノ策タルヲ免レサルナリ、畢竟今日ノ如ク地税ニ偏軽偏重ノ結果ヲ生シタルモノハ、地税其物ノ罪ニハ非スシテ、其方法未タ封建ノ旧套ヲ脱セス地価算定法ノ煩雑ナルカ為メニ公定地価ヲシテ土地ノ実価ニ随伴セシムルヲ得サルニ由ルナリ、収穫ニ基キ土地ノ価ヲ算出セントスルハ啻ニ其手数ノ煩雑ナルノミナラス、却テ正鵠ヲ失スルヲ免レス、何トナレハ同一郡内ニ於テ同一ノ収穫アル耕地ト雖トモ肥料ノ多寡、運輸ノ便否、水利ノ適否、市場ノ遠近等ニ大ナル差違アリ、此等諸種ノ事情ノ錯綜シテ現ハルヽモノ即チ土地ノ実価ナレハ、其算法ノ複雑ナル論ヲ待タス、徒ニ収穫ニ基キ算出スルモ得テ其真価ヲ知ルニ由ナキコト明白ノ事実ナレハナリ、是其公定地価ヲ標準トシテ課税スルノ法ヲ革新シ、土地ノ実価ヲ以テ課税ノ標準ト為サント欲スル所以ナリトス
一国土地ノ代価ハ国富ト共ニ増進シテ止マサルモノナリ、耕地ノ価ハ其収穫ニ比例スルヲ以テ破格ノ騰貴ヲ見ルコト稀ナルモ、日進ノ文化ハ都市ノ人口ヲ増加シ、都市ノ区域ヲ拡張シ、遂ニ市街地代価ノ騰貴ヲシテ窮極ナカラシムルヲ常トス、現時全国民有地ノ実価ハ公定地価ニ対シテ果シテ幾倍ニ上ルヘキ乎、数ノ正確ナルモノハ之ヲ知ルニ由ナシト雖トモ、之ヲ平均セハ略ホ五倍ニ近カラン、中ニ就キ宅地・山林ノ騰貴最モ著シキカ故ニ、耕地ノ上騰四倍トスレハ宅地・山林ハ十倍以上ノ数ヲ得ヘキナリ、今試ニ田畑其他ハ四倍、宅地・山林ハ十二倍騰貴シタルモノト仮定シ、其実価ニ対シ千分ノ八ヲ乗シ新旧税額ノ比較ヲ表示スレハ左ノ如シ



             現行法                             新法案
        公定地価         税額(地価百分二半)     実価          税額(実価千分八)   増税差額
                  円           円              円           円           円
宅地山林    一六六、五五五、五六九   四、一六三、八八九  一、九九八、六六六、八二八  一五、九八九、三三五  一一、八二五、四四六
田畑其他  一、三六二、八四二、五八二  三四、〇七一、〇六五  五、四五一、三七〇、三二八  四三、六一〇、九六三   九、五三九、八九八
合計    一、五二九、三九八、一五一  三八、二三四、九五四  七、四五〇、〇三七、一五六  五九、六〇〇、二九八  二一、三六五、三二二




即チ地税全体ニ於テ二千百余万円ノ増加ヲ見ルヘク、而シテ其増加額ノ大部分ハ宅地ノ負担ニ帰スルヲ見ルヘシ、世間動モスレハ地税ノ増
 - 第21巻 p.275 -ページ画像 
加ハ農民ノ負担ヲ苛重ナラシムルカ如ク速了スルモノアリト雖トモ、抑モ今日ニ於テ土地ハ独リ農民ノ専有スルモノニアラスシテ、凡帝国臣民中中産以上ノ者ハ其種族ノ華士族・平民タルト、其営業ノ商工タルトヲ問ハス皆之ヲ所有スルノ実況ニシテ、其地税ハ土地所有者ノ均シク負担スル所ナレハ、仮令地税ヲ増加スルモ之カ為メ農民ノ負担ヲ偏重ナラシムルモノト断スヘカラサルノミナラス、本意見ノ如クナラシムレハ耕地ノ負担ハ総額ニ於テ八百五十余万円ノ増加ヲ見ルニ過キス、而カモ此八百五十余万円ハ当初ヨリ公定地価ノ過低ナリシモノ、又ハ将来宅地ト変スヘキ目途アル等特種ノ事由アルモノ之ヲ負担シ、自余ノ耕地ニシテ公定地価ニ対シ三倍八分一以上ニ騰貴セサルモノハ啻ニ負担ヲ増加セサルノミナラス、寧ロ軽減スルノ実アルヘキナリ、宅地ニ至テモ亦其最モ騰貴シタルハ郡村ニ在ラスシテ都市ニ在リ、故ニ郡村ノ宅地ハ其地税甚シク増加セスシテ、負担ノ大部ハ漸次都市ニ移ルノ結果ヲ生ス可キヤ論ナキナリ
本意見ニシテ行ハルヽアラン乎、単ニ国庫ノ歳入ヲ増加シ国民ノ負担ヲ均一ニスルノ利益アルニ止ラス、施政上ニ於テ亦大ニ利益スル所アルヘシト信ス、即チ農民以外ノ投票権ヲ増加スルモノ其一ナリ、容易ニ一国財産ノ消長ヲ判知シ得ルモノ其二ナリ、我国ノ前途ハ商工業国タラシムルヲ以テ国是トセサル可ラス、故ニ農民以外ノ投票権ヲ増加スルハ能ク此国是ニ合スルモノト謂フヘシ、又一国財産ノ消長ヲ判知シテ以テ経綸ニ資スルハ為政ノ要道ナリ、現ニ米国ノ如キハ巨費ヲ投シテ毎十年ニ人口ノ増減及ヒ財産ノ消長ヲ調査スルヲ定例トセリ、顧ミテ我国ノ現状如何ヲ観レハ、各種統計稍其緒ニ就キタルニ拘ラス、一国財産十中ノ八以上ニ相当スヘキ土地ニ至テハ得テ其実価ヲ知ルヘカラス、是豈慨スヘキノ甚シキナラスヤ、然ルニ今若シ此法案ヲ実施セラルヽアラハ、課税ニ伴フ結果トシテ一国ノ財産タル土地ノ実価及其異同ハ年々労セスシテ之ヲ判知シ得ヘク、之カ為メニ受クル施政上ノ利益ハ殆ント測ルヘカラサルモノアラン
是ノ如クシテ地税ヲ改正セハ他ノ三税ト相待テ国庫ニ収入スル金額概算左ノ如クナルヲ得ヘシ
                             円
  地税               約五九、六〇〇、二九七
  関税               約一五、〇〇〇、〇〇〇
  酒税               約三〇、〇〇〇、〇〇〇
  煙草税              約一〇、〇〇〇、〇〇〇
  手数料税其他雑収入        約三五、〇〇〇、〇〇〇
   計               一四九、六〇〇、二九七
是固ヨリ概算ヲ示セシニ過キスト雖トモ、施設其宜キヲ得ルアラハ亡慮一億五千万円ノ金ハ優ニ之ヲ国庫ニ収メ得ヘキナリ、若夫地税々率ヲ千分ノ八ト為セシカ如キハ打算上之ヲ允当ト認メタルニ外ナラス、財政計画上ニ於テ其増加ヲ必要トセハ増シテ千分ノ九ト為スモ可ナリ減シテ千分ノ七ト為シ六ト為ス亦不可ナシ、要ハ大綱ヲ掲ケタルニ過キサルナリ
本邦地租ノ制度ハ明治六年創メテ之ニ着手シ、十一年ニ至リテ漸ク成功ヲ告ケタルモノナルカ、当時其地価ヲ算定スルニ当リ適正ノ標準ヲ
 - 第21巻 p.276 -ページ画像 
得ル能ハスシテ彼此ノ価格上既ニ著シキ不権衡アリシノミナラス、爾後交通機関ノ発達スルニ従ヒ土地ノ状況ニ非常ノ変遷ヲ来シ、以テ此不権衡ヲシテ一層其度ヲ強メシムルニ至レリ、是近時地価修正論ノ世ニ喧伝セル所以ナリ、蓋シ此変遷ハ国運ノ進歩ニ伴フ必然ノ現象ナレハ、将来文明事業ノ発達スルト共ニ地価ノ益々変動スヘキハ現勢ノ看易キ所タリ、此際ニ当リ現行地租ノ制度ヲ永遠ニ保持セントスルハ豈国家ノ長計ナランヤ、果シテ然ラハ現行地租ノ制度タル平時ニ在リテモ猶之カ改正ノ方案ヲ講究セサルヘカラス、況ンヤ戦後経営ノ為メ国費ノ増徴ヲ必要トスルノ時期ニ際スルニ於テオヤ、今日ニ於テ本意見ノ如ク税法ノ革新ヲ断行スルハ最モ時宜ヲ得タルモノト謂ハサルヘカラス
之ヲ要スルニ、本意見ノ主眼トスル所ハ、我国現行ノ税法ヲ根本的ニ革新シ、煩瑣ニシテ不公平ナル諸税ヲ廃止シ、税目ヲ簡明ニシ、賦課ヲ均一ニシ、徴税者ノ労費ヲ省キ、納税者ノ苦痛ヲ去リ、以テ一国財政ノ基礎ヲ鞏固ナラシメント欲スルニ在リ、之ヲ約言スレハ、国民ヲシテ最少ノ負担ヲ以テ最大ノ政費ヲ支弁セシメントスルニ外ナラサルナリ


第七回東京商業会議所事務報告 第三―四頁 明治三一年四月刊(DK210039k-0003)
第21巻 p.276 ページ画像

第七回東京商業会議所事務報告  第三―四頁 明治三一年四月刊
一税法革新ノ義ニ付大蔵・農商務両大臣ヘ建議ノ件
 本件ハ営業税法調査委員ノ提出ニ係リ、其要旨ハ、我国ノ税法ハ大体ニ於テ其方針未タ確立セス国民ノ負担ニ偏軽偏重ノ跡アルニ依リ姑息ノ手段ニヨリテ増税ヲ規画スルカ如キ事ナク、根本的ニ税法ヲ革新スヘシト云フニ在リ、仍テ之ヲ明治三十年十月八日第六十六回ノ臨時会議ニ附シタルニ、本意見案ノ如ク大蔵・農商務両大臣ニ建議スヘシト決議シ、同月十五日附ヲ以テ左ノ如ク両大臣ヘ建議セリ
  ○建議文ハ月報所載ノモノト同一ニツキ略ス。
  ○本巻明治三十一年十二月十日ノ条、並ニ本資料第二十三巻所収「地租増徴期成同盟会」参照。