デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治37年5月18日（1904年）

是日ヨリ二十日迄、臨時会東京商業会議所ニ於テ開カレシガ、栄一病ノ為メ参会スルヲ得ズ。是日早速整爾外二名同会ヲ代表シテ王子別邸ニ栄一ヲ慰問ス。

明治三十七年五月開設
臨時商業会議所聯合会報告　　第三五頁　刊
　　　　○渋沢男爵病気慰問ノ決議
本件ハ広島早速整爾君ヨリ緊急動議トシテ提出セラレタルニ、全会ハ直チニ之ヲ是認シ、慰問委員トシテ広島早速整爾・横浜来栖荘兵衛[来栖壮兵衛]・神戸直木政之介ノ三君ヲ選挙シ、委員ハ五月十八日ヲ以テ王子渋沢男爵邸ヲ訪問シ慰問ノ意ヲ致セリ、男爵邸ヨリハ翌十九日令息篤二氏ヲ以テ厚ク答礼アリタリ

明治三十七年五月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録　　第六―一九頁　刊
明治三十七年五月十八日午前十時四十分開議
　　出席委員　　　　　四十七名　○氏名略
○上略
○八番（広島、早速整爾君）　討議ニ御取掛リニナリマス前ニチヨツト私ハ御相談ヲ願ヒタイト思ヒマス、コレハ議事ノ前後ヲ争フ訳デハゴザイマセヌ、会長ノ御見込デ何レニ致シマシテモ宜シイノデゴザイマス、先ヅ皆様ノ御同意ヲ得タイト云フコトヲ此場合ニ申述ベマス、此軍国多事ノ際、国家ノ経済上重大問題ガ多イ場合ニ当リマシテ商業会議所ノ聯合会ヲ御開キニナリマシタト云フコトハ、誠ニ時務ノ急ニ応ズルモノトシテ発起セラレタ会議所ニ向ツテ是ハ感謝ニ堪ヘナイ次第デアリマス、丁度此時私ガ殊ニ深ク感ジマシタ事ハ此東京商業会議所ノ会頭渋沢男爵ハ暫クノ間御病気デ御引籠リニナツテ居ルト云フコトヲ承ツテ居リマス、今日ノ場合渋沢男爵ノ如キ手腕アル実業家ハ朝野共ニ望ミヲ属スル場合デゴザイマスガ、御病気ト云フコトハ我々ノ実ニ遺憾ニ堪エナイ所デゴザイマスル、平素健康デ居ラルヽ所ノ渋沢男爵ガ此場合ニ於テ御病気、コレモ止ムヲ得ナイコトデアル、仍テ私ハ
 - 第22巻 p.902 -ページ画像 
聯合会ノ決議ヲ以テ渋沢男爵ニ対シ御病気ノ御慰問ヲイタシタイト考ヘマス、コレハ慰問ノ主意ヲ文書ニ認メテ三名ハカリノ委員ヲ御選ビナツテ直接ニ渋沢男爵ヲ慰問ニ其委員ガ罷出ルト云フコトニシタラ宜カラウト思フ、ソレ等ノ手続ハ会長ニ御一任スルコトニ致シマシテ、兎ニ角聯合会ノ決議デ渋沢男爵ノ御病気ヲ慰問スルト云フコノ御決定ヲ仰キタイト思フ、此ノ事ハ私共カ余リ長ク申述ベマセナクトモ満堂ノ諸君ハ宜ク御承知ノ事デアラウト思ヒマスルデ、此際渋沢男爵ノ御病気ヲ慰問スルコトハ聯合会ト致シテ必要ナ事デアラウシ又当然ノ事デアラウト考ヘマス、ドウカ全会一致ノ御賛成ヲ仰ギタイト考ヘマス
　　　（「賛成、々々」ト呼ブモノアリ）
○副会長（東京、井上角五郎君）　只今ノ早速サンノ御発議モ別段御異議モナイヤウデアリマスカラ、ソレニ決シマス、委員ノ三名ハ私カラ指名ヲ致シマス　○中略　唯今ノ渋沢君ニ対スル慰問委員ハ、広島ノ早速サン、ソレカラ神戸ノ直木サン、横浜ノ来栖サン、此御三名ニ御願ヒヲ致シマス
○中略
○八番（広島、早速整爾君）　チヨツト御話致シマセウ、渋沢男爵ニ対シテ御見舞ヲ申スコトニ付キマシテハ、委員会ニ於キマシテ別ニ文書ヲ認メテ往クト云フコトニ致シマセヌデ、三名ノ委員ガ直接ニ口頭デ聯合会カラ御見舞申スト云フ主意ヲ先方ヘ罷出テ申述ベルト云フコトニ極メマシテゴザイマス、其主意ハ、多年我国実業会ニ貢献スル所少ナカラズシテ朝野ノ間ニ重キヲナセル渋沢男爵ガ此ノ軍国多事ノ際ニ不幸ニシテ病ニ罹ラレタト云フコトハ本会ノ実ニ遺憾トスル所デアル希クハ加養其効ヲ奏シテ速ニ快癒セラレンコトヲ祈ルト云フ意味デ御見舞申スコトニ決定致シマシテゴザイマス、御承認ヲ希望イタシマス
○副会長（東京、井上角五郎君）　如何デゴザイマス、今ノ委員ノ報告ハ……
　　　（「賛成、々々」ト呼ブ者アリ）
○副会長（東京、井上角五郎君）　別段御異議ガゴザイマセヌ様デスカラ、御三名ノ委員ニ御苦労ヲ願ウコトニ致シマス

明治三十七年五月開設
臨時商業会議所聯合会議事速記録　　第六六―六七頁　刊
明治三十七年五月二十日午前九時二十分開議
　　出席委員　　　　　五十一名　○氏名略
○上略
○八番（広島、早速整爾君）　チヨツト私ガ委員トナリマシテ渋沢男爵ヲ慰問ヲ致シマシタ始末ヲ御報告致シマシス、十八日ノ本会ニ於キマシテ横浜ノ来栖君、神戸ノ直木君、私ト三名ガ渋沢男爵ヲ慰問ヲスル委員ニ選バレマシテ、当日会議ノ終リマシタ後直チニ此ノ三名ノ者ハ渋沢男爵ヲ王子ノ別邸ニ訪問致シマシタガ、当日男爵ノ御病気ノ模様ニ依リマシテ親シク男爵ニ面接シテ慰問ノ言葉ヲ陳ブル訳ニハ参リマセンデ、令息ノ篤二君ニ面会ヲ致シマシテ、三名ノ委員カラ本会ニ於テ決定ニナリマシタル趣意デ御見舞ノ言葉ヲ申述ベマシテゴザイマス男爵ノ御病気ハ今日ニ於テ非常ニ御重体ト云フ訳デハゴザイマセヌケ
 - 第22巻 p.903 -ページ画像 
レドモ、兎ニ角御病症ハ軽カラヌト云フコトハ事実デゴザイマシテ、御令息カラノ御言葉ニ此場合諸君ニ対シテ御面会ヲ致スコトガ出来ナイノハ甚ダ遺憾デアルドウカ御会合ニ相成ツタ諸君ニ対シテ宜シクト云フ御伝言デゴザイマシタ、チヨツト此ノ旨ヲ御報告致シテ置キマス
○会長（東京、大倉喜八郎君）　唯今八番カラ報告ガアリマシタガ、尚昨夕渋沢篤二君ニ面会致シマシタ所、親父ニ皆様ノ懇篤ナル御見舞ヲ、申聞ケマシタ所ガ大層感ジマシテ、厚ク御礼ヲ申上ゲテ呉レ、自分モ諸君ニ御話ヲスルコトガ出来ナイノハ如何ニモ遺憾デアルト云フコトヲ、態々令息篤二君ガ参ラレテノ御言葉デゴザイマス、男爵モ嘸喜バレタデアラウト存ジマス、重複ナガラ御話ヲ致シマス

渋沢栄一　日記　　明治三六年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十一月廿一日　晴
昨夜ヨリ風邪気ナルヲ以テ日本銀行ニ開会スル幣制会議ニ不参ノ事ヲ電話シ、十一時兜町事務所ニ抵リ、直ニ王子別荘ニ帰臥シ、医師ヲ招キテ診察ヲ乞フ
十一月廿二日以後病気快方ニ至ラス、其夜ハ喘息症ナリシモ、廿四日夜ヨリ中耳炎ト変シ、且種々ノ余症ヲ発シ、翌年二月廿九日迄ハ読書執筆ヲ全廃セサルヲ得サリシニヨリ、日記モ中略スルニ至レリ　○下略
　　○コノ後栄一、明治三十七年三月六日国府津ニ転地、八月十一日ヨリ箱根ニ転地、療養ニ努メ九月三日帰京、同二十七日ヨリ出勤執務スルニ至リタリ尚是年十月東京商業会議所会頭ヲ辞ス。