デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年2月（1896年）

是月九日、当校火災ニ遭ヒ、校舎其他一切ノ備品悉ク焼失ス。玆ニ於テ十三日直チニ臨時管理委員会ニ於テ校舎ノ再築並ニ寄附金募集ノ事ヲ決議シ、汎ク関係諸方面ノ援助ヲ乞フ。栄一之ニ応ジテ金一百円ヲ寄附シ、且石川島造船所取締役会長トシテ金三百円ヲ寄附セリ。

二十五年記念工手学校一覧　同校編　　第七―九頁　大正二年一一月刊
○上略
校舎ノ焼失　本校ハ開校以来校運次第ニ隆盛ニ赴キ、在学生徒常ニ五百ヲ越ヘ、卒業生ハ毎回増加シテ累計一千三百余名ノ多キニ達セリ、是ニ於テ当事者ハ益々改良発展ヲ謀リシニ、図ラザリキ、同二十九年二月九日第十四回卒業式ノ当夜不幸ニシテ校舎火災ノ厄ニ罹リ、機械器具及一切ノ書類悉ク烏有ニ帰セリ、依テ翌十三日臨時管理委員会ヲ開キ校舎ノ再築及寄附金募集ノコトヲ決シ、各地ノ工業ニ関係アル会社又ハ個人ニ宛テ左記ノ趣意書ヲ発送ス
　本邦工業進歩ノ必要ヲ考ヘ、工学関係ノ諸有志ノ協同ヲ以テ去ル明治二十一年二月私立工手学校ヲ創設シ、有志者ノ寄附金ト工学者ノ篤志教養ヲ以テ既ニ一千三百余名ノ卒業生ヲ出シ、全帝国ノ新工業社会ニハ多少ノ工手学校卒業生ヲ利用スルニ到リ、其公益不尠コトハ、本校創立ニ与リタル者ノ欣躍措カザル所ナリ、然ルニ不幸本月九日祝融ノ災ニ罹リ全校舎烏有ニ帰セリ、此工業勃興ノ時ニ当リ素養アル工手必要ノ機ニ際シ、益々本校ノ隆盛ヲ期スルニ会シ、此災害ニ遭フト雖モ、本校ハ愈其本志ヲ励シ、直ニ仮校舎ヲ捜索シ、其事業ヲ継続シ、併セテ旧地ニ新築ヲ経画シ、以テ帝国現今ノ緊急需用ニ応センコトヲ期ス、希クハ有志諸君ノ捐助ヲ得テ本校ノ希望ヲ全カラシメンコトヲ
斯クテ同月十八日芝公園第五号地天光院ヲ借入レテ仮校舎ニ充テ、尚本校ノ隣地（南小田原町三丁目十番地）ノ小家屋ヲ借入レ、其明地ニ仮教室（二十四坪）ヲ営ミ、三月二日ヨリ授業ヲ開始ス
 - 第26巻 p.780 -ページ画像 
同月二十四日建築工事委員辰野金吾・片山東熊・妻木頼黄ノ三君ニ嘱セル新築図面並設計仕様書成リタルニ依テ、其工事費金壱万弐千百余円ヲ以テ清水組ニ請負ハシメタリ、又一面ニハ中沢校長ハ卒業生一般ニ寄附金勧誘ノ為書面ヲ出セリ、然ルニ申込金額ハ新築費ヲ充タスニ足ラズ、由テ当事者ハ其善後策ニ苦慮セシニ、罹災ノコト畏クモ天聴ニ達シ
天恩優渥、同年四月十日賜金ノ恩命ヲ拝受セリ、当事者ハ此異数ノ恩典ニ感泣措ク所ヲ知ラズ、直ニ全国ノ有志ニ報シ、本校ハ一層奮テ
聖恩ニ対スル実効ヲ挙ゲザルベカラザル場合ナル旨ヲ告ゲ、本校ノ事業ヲ賛助セラレンコトヲ希望セリ
同年五月四日校友会ヲ開キ、中沢校長ハ這回ノ罹災ノ顛末ヲ詳細ニ報告シ、且ツ本校モ異数ノ恩典ニ浴シ、責任益々重キヲ加ヘタル所以ヲ陳述セリ
其後更ニ渡辺管理長ハ一般有志者ニ対シテ助力希望ノ書面ヲ出シ、尋テ中沢校長ハ校友並有志者ニ対シテ勧誘書ヲ発セシニ、申込者次第ニ増加シ、遂ニ総計六百七十二口、金額壱万壱千七百余円（寄附者芳名録ニアリ）達シタリ、之ニ火災保険金四千六百円ヲ加フレバ、優ニ工事費ヲ支弁ニシ得テ尚ホ余リアルニ至レルヲ以テ、工事ハ予定ノ如ク進行シ、同年六月八日上棟式ヲ挙ゲ、同七月二十八日略工ヲ竣ヘタルニ由テ、同日第十五回卒業式ヲ新校舎ニ於テ挙行セリ　○下略

二十五年記念工手学校一覧　同校編　　第一二三―一二七頁　大正二年一一月刊
罹災ノ際ニ於ケル寄附金額及芳名左ノ如シ　　明治二十九年
　　金千五百円　　東京　　　　　　　　　　　　男爵　　岩崎久弥君
　　金五百円　　　同　　　　　　　　工学会長　子爵　　山尾庸三君
　　金参百円　　　同　　　　　三井鉱山合名会社々長　三井三郎助君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　鹿島組　　鹿島岩蔵君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　石川島造船所　　渋沢栄一君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　清水満之助君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　旧色毛鉄道会社　　　　清算人
　　金弐百五円　　京都　　　　　　　　　　　　　　　　中沢岩太君
　　金弐百円　　　東京　　　　　　　　　　　　　　　　西村勝造君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　大倉喜八郎君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　古川市兵衛［古河市兵衛］君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　三井工業部長　三井武之助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　堀礼造君
　　同　　　　　　島根
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　堀伴成君
　　同　　　　　　三重　　　　　　　　　　　　　　　関西鉄道会社
　　同　　　　　　兵庫　　　　　　　　　　　　　　　山陽鉄道会社
　　同　　　　　　福岡　　　　　　　　　　　　　　　九州鉄道会社
　　金百五拾円　　東京　　　　　　　富士製紙会社長　　村田一郎君
　　同　　　　　　同　　　　　鐘ケ淵紡績株式会社長　　朝吹英二君
　　金百五円　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　三好晋六郎君
　　金百円　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　今村清之助君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　日本舎密製造会社
 - 第26巻 p.781 -ページ画像 
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺洪基君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　高田慎蔵君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　東京紡績会社長　　田村利七君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　安田善次郎君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　浅野総一郎君
　　同　　　　　　東京　　　　　　　　　　　日本セメント株式会社
　　同　　　　　　神奈川　　　　　　　　　　　　　　　　原六郎君
　　同　　　　　　兵庫　　　　　　　　　　　　　　　　川崎正蔵君
　　同　　　　　　石川　　　　　　　　　　　　　　　　横山隆平君
　　同　　　　　　大阪　　　　　　　　　　　　　　　松本重太郎君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　藤田伝三郎君
　　同　　　　　　福岡　　　　　　　　　　　　　　　筑豊鉄道会社
　　同　　　　　　東京　京橋区名誉職員三十五名総代　　稲田政吉君
　　金五拾円　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　岩出真一君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　長谷川芳之助君
　　同　　　　　　北海道　　　北海道炭鉱鉄道会社長　　西村捨三君
　　同　　　　　　東京　　　　　　　日本鉄道会社長　　小野義真君
　　同　　　　　　東京　　　　小名木川綿布株式会社　　神鞭知常君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　吉田組　　吉田寅松君
　　同　　　　　　同　　　　　　王子製紙株式会社長　　藤山雷太君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　佐久間貞一君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　　平岡煕君
　　同　　　　　　大阪　　　　　　　　大阪鉄工所主　範多竜太郎君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　外山修造君
　　同　　　　　　同　　　　　　阪鶴鉄道株式会社長　　土居通夫君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　大阪紡績株式会社
　　同　　　　　　東京　　　　　　　　　　　　　　　両毛鉄道会社
　　同　　　　　　　　　　　　　伊勢参宮鉄道会社長　　渡辺嘉一君
　　同　　　　　　大阪　　　　　　　　　　　　　　　　中江種造君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村愛作君
　　同　　　　　　東京
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村壮吉君
　　同　　　　　　宮崎　　　　　　　　　　日平銅山　　内藤政挙君
　　同　　　　　　大阪　　　　　　　明治炭坑会社長　　　桑原政君
　　同　　　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　　　南清君
　　同　　　　　　同　　　大阪アルカリ株式会社頭取　久原庄三郎君
　　○中略
　　　　通計　金壱万壱千七百拾参円拾六銭

二十五年記念工手学校一覧　同校編　　第四〇―四一頁　大正二年一一月刊
　　　　校舎建築沿革
明治二十一年五月、京橋区南小田原町四丁目八番地元築地病院ノ敷地及建物ヲ購入スルト同時ニ、教室ヲ増築セリ（此資金八千九百余円）同二十一年五月七日工事ニ着手、同年九月七日竣工ス
　学校敷地　　　　　　　　五百六坪一合
 - 第26巻 p.782 -ページ画像 
　建物坪数　　　　　　　　二百九十三坪三合五勺
　　　　　　内
　　二階建　　　　　　　　百四十五坪
　　平家　　　　　　　　　　八十六坪七合
　　附属建物守門供待坪数　　六十一坪六合五勺
同二十九年三月再築（焼失後）ニ着手、同年七月落成ス
　二階建　二百三十六坪五合　平屋建　五十一坪七合五勺
　　建設費　金壱万弐千百参円七拾九銭八厘
○下略
　　　○当校ハ其後「工学院」ト改称セリ。