デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治41年12月12日（1908年）

是ヨリ先、当劇場敷地ハ麹町区有楽町一丁目馬場先門外ニ決シ、四十年秋ヨリ土工ヲ開始ス。是日同所ニ於テ礎石式挙行セラル。栄一コレニ臨ミ、当劇場設立ノ趣旨及ビ経過ヲ述ブ。

（帝国劇場株式会社）第四回報告書
　　　　　　　　　　　　　　　　　明治四一年下半期・第一頁　刊
　○第四回報告書
　　　　第二　事業ノ経過
本期間ニ於ケル劇場建築ノ工事ハ　○中略　十二月上旬地中煉瓦積工事ノ落成ヲ告ゲ、礎石据置工事ニ進ミタルヲ以テ、同月十二日帝国劇場礎石式ヲ挙行シタリ
○下略

渋沢栄一　日記　　明治四一年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月十二日　雨　寒
○上略　午後二時帝国劇場会社建築場ニ抵リ、礎石式ヲ挙行シ、来賓ニ対シ一場ノ挨拶ヲ述ヘ　○下略

竜門雑誌　　第二四七号・第六四―六五頁　明治四一年一二月
 - 第27巻 p.426 -ページ画像 
○帝国劇場礎石式　帝国劇場の建築は昨年一月初めて製図に着手し、敷地を丸の内に選定し、同年五月地層の軟硬を試験し、次で九月土工を起して、昨年末迄に其八分通りを終り、本年に入りて残り二分通りも滞りなく済みたるが、何分地質の軟弱なる事驚くばかりなる為め土台として「コンクリート」の下に打込める松丸太実に一万二千本に及び松丸太の上を小石にて詰め、其上は日下欧米にて流行する所謂鉄筋「コンクリート」と称し「コンクリート」の中に鉄棒を張り渡したるものを用ひたれば、其堅牢無比なる事永久に観劇者の安心を買ひ得て余りあるべく、而して昨今既に其上部に建つべき煉瓦壁の用意も終り地下煉瓦の外部は水分の浸入を防ぐ為め「アスフワルト」を塗りて防ぎ、斯て愈々地上工事に取掛る事となりしに付き、株主を初め登場すべき技芸員・作者・重なる関係者に対し地下の工事が充分なるを知らしめんとて、工事の進まざる中即ち地下の概況の尚ほ見え得る時期に於て礎石式を挙ぐる事となり、本月十二日午後二時より同式を挙行せり、当日は久振りの雨天なりしが、定刻前より続々来賓の押し掛けし為め俄に番傘を取寄せ、受附・休憩所・食堂・式場等には天幕を覆ひ紅白の幔幕を張り廻し、所々に炭火を盛りて暖を籠め、外面には彩旗を蜘蛛手に張り渡す抔一時に準備を整へたり、扨来賓の案内は横川技師之に当り、休憩所には建築の材料・模型等を陳列して参考に供し、青淵先生を始め大倉喜八郎・日比翁助・手塚猛昌・福沢桃介・西野恵之助・村井吉兵衛・福沢捨次郎其他の重役諸氏及会社創立以来の関係者二百余名列席して式を行へり、式場は地下工事出来の一部に天幕を張り、四方に笹を建て注連を張り、其中に祭壇を設けて一同其前に整列するや、日枝神社の宮司久保悳鄰氏、朝賀禰宜・多湖主典、其他神官・伶人等数名を率ゐて祭式を済まし、夫より右方舞台「アーチ」の礎石を据えて横河氏の先導に依りて青淵先生其式場に登り金の槌を以て礎を打ち、玆に式を終りたる後、再び祭場にて銘々玉串を捧げ、次で設けの大食堂に就て、青淵先生は来賓に向ひ、帝国劇場創設の趣旨及此劇場は外観の美を基とする西洋式の建物とは云へ、場内は日本人に適する様折衷の設備を施せる事、多人数集合の場所なれば建築は堅牢を旨としたる事、及び夫が為め横河技師をして欧米各劇場を視察せしめし事、同技師及西野専務が是までの苦心非常なりし事等を述べ、終りに此礎石式に当りて恰も雨の降りたるは全く雨降つて地固るものなりと洒落れて、大喝采を博したり、終て「ビール」・茶菓等の饗応あり、午後三時閉会したるが、此日最も人目を引きたるは川上貞奴か帝国女優養成所の生徒十三名と之が教師たる各派の師匠を率ゐ正装して来場したる事にて、旧俳優は雨の為めにや一人も出席なく、新派にては伊井・村田、又興行主としては大河内歌舞伎座社長・山川宮戸座主川上音次郎の来場あり、鳴物師にては杵屋六左衛門・同勘五郎・芳村伊十郎等を見受けたり。

（帝国劇場株式会社）第二回報告書
　　　　　　　　　　　　　　　明治四〇年下半期・第二―三頁　刊
　○第二回報告書
 - 第27巻 p.427 -ページ画像 
　　　　第三　劇場建設認可
明治四十年八月三十一日帝国劇場建設認可申請書ヲ警視総監ニ提出シ同年十月七日附ヲ以テ同官ヨリ認可ヲ得タリ
○中略
　　　　第五　工事
明治四十年九月十九日帝国劇場敷地根堀工事ニ着手シ、季末ニ於テ土坪一千百四十二坪ノ根堀工事全部ヲ略ボ結了スルニ至リタリ
○下略