デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第36巻 p.509-523(DK360190k) ページ画像

大正12年10月25日(1923年)

是ヨリ先、是月二十日開カルベキ当協会第三十九回理事会流会トナリ、其議題ヲ書面ヲ以テ協議ニ付ス。是日ソノ決議ニヨリ、栄一当会会長トシテ、去ル九月一日ノ関東大震火災ノ際ニ受ケタル各国ノ同情ト救護トニ対シテ、各国四十八ノ国際聯盟協会ニ宛テ、礼状ヲ発ス。


■資料

(国際聯盟協会)会務報告 第一四輯 自大正一二年九月二七日至同年一〇月二五日(DK360190k-0001)
第36巻 p.509-510 ページ画像

(国際聯盟協会)会務報告 第一四輯 自大正一二年九月二七日至同年一〇月二五日
                     (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    六、第三十九回理事会
 十月廿日、午后二時より中央亭に開催の筈なりし第三十九回理事会は、二時半開会の招待会の時間切迫の為め流会となり、徳川総裁・渋沢会長の発議により書面を以て協議を請ふことに決定せり。
  第三十九回理事会議題並に説明
   (御回答は別紙用紙を以て御示指被成下度候)
   一、香川支部改正規約承認の件
 香川支部は去る七月三十日同支部総会に於て支部規約を改正せり。
本協会定款第二十一条に「………支部規約は当該支部之を定め理事会の承認を経ることを要す」と規定せられあり。よつて支部主事より右改正規約の承認方を請求し来れり。改正の個所は(イ)第六条「………《支部》評議員は理事会の推薦により、国際聯盟協会々長之を委嘱す」(ロ)第八条「本支部は毎年四月十日迄に一般会務及会計の報告を、国際聯盟協会に提出す」の二項にて、孰れも曩に本協会理事会に於て決定せる支部規約標準に則り、改正せられたるものなり。
   二、震災に対する各国の同情並に救護を感謝する書状を、本協会理事会の決議として、各国政府並に聯盟協会に送付するの可否
 震災に対する海外諸友邦国民の同情と救護とは、吾人の衷心感謝する所なるのみならず、此の際、国際親善の思想著しく国内に唱導せられつゝあるに顧み、此の良風を一層助長徹底せしむる目的を以て、理事会に於て左の趣旨の決議を為し、会長の書簡を添付して、海外各国政府並に聯盟協会に送付することゝしたし。
  会長書簡文案並に理事会決議文案
 拝啓 余は首相(又は会長)閣下に対し、日本国際聯盟協会が去る十月廿日、理事会に於て満場一致左の通り決議致し候ことを、御報告申上ぐる光栄を有し候 尚閣下が左の決議により示されたる、我が国
 - 第36巻 p.510 -ページ画像 
民の深甚の謝意を、広く貴国々民に御伝達あらんことを希望致し候
   理事会決議(案)
一、日本国際聯盟協会は、我が国の震災に対し各友邦国々民の示されたる深甚の同情と迅速なる救護に対し、深く感謝す
二、我が国の震災に対する各友邦国々民の同情と救護とにより、国際親善の観念の益々我が国民の間に育成せられつゝある慶ぶべき傾向を、一層助長徹底せしむる目的を以て、我が協会は凡ゆる努力を試むべし
   三、軍備縮少気運促進の件
 (イ)日本の震災により、海外の言論機関中、日本の軍備的脅威の去りたる今日、夫々其の国の軍備を縮少すべき好機到達せるものなる旨力説するもの多く、一方我が国としては復興の急務に当面しつゝある事態に鑑み、此の際、本協会に於て国際的に軍縮の気運を促進するの措置を執るの可否如何。
 (ロ)本協会に於て本問題を取上ぐるを可とすれば、之が具体的実行案の調査研究を「シンガポール海軍根拠地問題特別委員会」(委員頭本岡・林三理事、河野恒圭氏)に附議することの可否如何。

  理事会回答
            尊名
一、香川支部規約承認の件
   賛
   否
   備考
二、震災に対する各国の同情並に救護を感謝する書状を、本協会理事会の決議として、各国政府並に聯盟協会に送付することの可否
   可
   否
   備考
三、軍備縮少気運促進に関する件
 (イ)本件を取上ぐることの可否
   可
   否
   備考
 (ロ)本件を特別委員会に附議するの可否
   可
   否
   備考


(国際聯盟協会)会務報告 第一五輯 自大正一二年一〇月二六日至同年一一月二六日(DK360190k-0002)
第36巻 p.510-511 ページ画像

(国際聯盟協会)会務報告 第五輯 自大正一二年一〇月二六日至同年一一月二六日
                     (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    一、第三十九回理事会
書面を以て問合せたる左記議題に対する理事各位の回答
 - 第36巻 p.511 -ページ画像 
一、香川支部規約承認の件
  異議無し、十三理事、一監事
二、震災に対する各国の同情並に救護を感謝する書状を、本協会理事会の決議として、各国政府並に聯盟協会《(送付脱カ)》にする件
  異議無し、十三理事、一監事
三、軍備縮小気運促進に関する件
 イ本件を取上ぐることの可否
  1可とするもの、七理事、一監事
  2否とするもの、一理事
  3可否を示さゞるもの、一理事
  4問題の極めて重大にして関係する所多方面なるに顧み、理事会会議の席上提案の趣旨を一層明かにし、充分審議すべしとするもの、四理事
 ロ本件を特別委員会に附議することの可否
  1可とするもの、九理事、一監事
  2可否を示さゞるもの、二理事
  3理事会々議に於て決定すべしとするもの、二理事
右の如き結果なりしに付
 一、香川支部に対しては、十一月一日付を以て同支部規約を、理事会に於て承認したる旨通告し
 二、震災に対する対外感謝状を、原案に依り海外四十八個の聯盟協会に宛て、十月廿四日付を以て、発送せり


国際知識 第四巻第一号・第一五〇頁大正一三年一月 二、震災に対する各国の同情並に救護に対する本協会の感謝(DK360190k-0003)
第36巻 p.511 ページ画像

国際知識 第四巻第一号・第一五〇頁大正一三年一月
    二、震災に対する各国の同情並に救護に対する本協会の感謝
 震災に対する海外諸友邦国民の同情と救護とは、吾人の衷心感謝する所なるのみならず、此の際国際親善の思想、著しく国内に唱道せられつゝあるに顧み、此の良風を一層助長徹底せしむる目的を以て、第三十九回本協会理事会に於て、左の趣旨の決議を為し、会長の書簡を添付して、十月廿五日海外各国政府並に聯盟協会に送付した。
   ○前掲資料ニ書翰発送日ヲ二十四日付トセリ。



〔参考〕国際聯盟協会書類(一) 【一、九月三日のゼネバに開かれたる国際聯盟総会に於て…】(DK360190k-0004)
第36巻 p.511-513 ページ画像

国際聯盟協会書類(一) (渋沢子爵家所蔵)
一、九月三日のゼネバに開かれたる国際聯盟総会に於て、濠洲前首相クツク氏は『国際聯盟総会は、日本国民の遭遇せる大震災に対し、深厚なる同情を表す』との決議案を提出し、熱誠を極めたる同情演説を試み、智利及ペルシヤ両代表の賛成演説あり、満場拍手を以つてこの決議案を可決したり。
二、英国
 1、朝鮮碇泊中の艦隊に命じて、急遽救援に向はしめ
 2、倫敦市に於て市長の発起にて、約七・八百万円を集め(中に英皇太子も巨額の義捐金を寄附されたり)
 3、英国植民地も悉く同情し、加奈陀の如き、印度の如き、金銭物
 - 第36巻 p.512 -ページ画像 
資及労力の提供を申込めり
三、米国
 1、大統領クーリツヂ氏は、九月四日早くも教書を発して、日本救済義金の応募を勧誘し
 2、赤十字社は又新聞紙一面の広告によつて、全米市民に訴へ
 3、比律賓に電命して、艦隊を派遣し
 4、諸新聞は何れも其の論説に於て、深甚の同情を表し、或は義捐その他の労の急を説き、或は日本は比較的豊ならざりしにも拘はらず、嘗て桑港震災に当り即座に十万弗余を送りたりしが、今次の震災は桑港震災に比し遥に劇甚なり、今や日本の嘗て示せる好意に酬ゆべき時機到来せるものにして、豊かなる米国民は右の十倍否百倍の義捐を以てするも尚足れりとすべからずと為し、或は政府の迅速なる措置ありと雖も、是のみにて満足すべからず、全国民は挙けて政府及赤十字社等と協力救恤に当ざるべからずとなし、或は日米間親善の障礙は、皮相なる自負心乃至僻見の問題なりしも、米国の切実なる同情義捐に依り、真の親善再生すべく、而して此の際米国民の示す真の友情は、永久両国民の覊絆と為るべしとなし、従来排日的傾向を有したる新聞すら、極力読者の義捐に努めたり。
 5、労働聯合会長ゴムパース氏は、各労働者に檄して二十五仙宛の醵金を慫慂し
四、メキシコ、パナマ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ペルー等、中南米諸国も多大の同情を表し、寄付金を送り来れり。
五、隣邦支那に於ては、震災の報に接し上下両院より弔電あり、防穀令を暫時解禁し、又日本向輸出の食糧品・衣服を寄贈すると共に救護班を組織して本邦に派遣せり
六、仏蘭西は欧州大戦の創痍未だ癒えざるに、日本の災害に対し多大の同情を表し
 1、東洋艦隊を横浜に廻航し
 2、五千万フランの日本公債を直ちに償還に決し
 3、在郷軍人協会聯合・仏国児童共済会も、義捐金の募集をなし
 4、各興行物に於ては純益を寄附したり
七、伊太利
 1、巡洋艦を日本に向け出動せしめ
 2、百万リラを同国赤十字社に下附して、救護材料を購入送附し
八、羅馬法王
 1、第一回として二万米弗を寄附し
 2、教書を発して南北両米のカトリツク教徒に対して、特に排日的行為を慎み、カトリツク教徒として満腔の同情を表示すべく勧告したり
九、白耳義にては
 1、政府指導の下に日本救援中央委員会を設け、既に十万フランを送附せり
 2、拾月中旬日本デーを催し、全国娯楽場の収入を、挙げて寄附し
 - 第36巻 p.513 -ページ画像 
たり
十、其他、オーストリヤ、瑞典、和蘭、ロシヤ、独逸、瑞西等の大国は勿論、芬蘭、シヤム、玖馬、サンマリノ等の小国に至るまで、殆ど全世界を挙げて日本に同情を表し来れり



〔参考〕国際知識 第三巻第一〇号・第三―四頁大正一二年一〇月 震災に対する世界の同情(DK360190k-0005)
第36巻 p.513-522 ページ画像

国際知識 第三巻第一〇号・第三―四頁大正一二年一〇月
    震災に対する世界の同情
 今回の震災に対しては、世界各国は挙げて深甚の同情を示し、米国においては親日排日の別なく、諸新聞は日本の救済を叫び、支那亦日貨排斥を止め防穀令を解いて、八十万石の米の輸出をなした。墺国の如きは其国内の経済、漸く整ひたる位なるにも不拘、進んで救済隊を出した。其他地震に屡々襲はる伊太利・智利の如きも、特別の同情を示して居る。左に掲ぐるはその僅かに一部分の事実にすぎないけれども、人類が天災地変のために国境を忘れ、人種の差を超越して相扶け合ふ実例を示すに充分である。若し此の同情が今後国際親善のために資する所あれば、災害も反つて幸福となると言ふべきである。
      米国
 米国華盛頓地方では、一日の夕刊に早くも横浜地方劇震の報が、磐城通信として掲載せられ、二日の諸新聞には東京及近県の震災が報ぜられた。これに関して逸早く論説を掲げたものは、近来にない大惨事として、米国民が日本に対する真の友情を示すべき時であつて、義捐其他有らゆる努力を吝むべきでないと主張したが、漸次に各種の報道が各地から到達するに従つて、諸新聞は何れも論説を掲げて深甚の同情を表し、或る新聞は義捐其他の努力の急を説き、或新聞は日本は比較的豊かでないにも拘らず、曾て桑港の震災に対しては、即座に十万弗余を送つて来たが、今度の災害は桑港の震災に比して遥かに大である。今や米国民は曾て日本の示した友情と好意に報ずべき時が来たのであるが、米国は日本よりも遥に富裕であるから、昔の日本の義捐の十倍、又は百倍にするも足らぬと論じ、或新聞は政府が迅速な措置を執つて居るけれども、尚それでは足りない、全国民を挙げて、政府は赤十字社等と協力して救恤に当らざるべからずと言ひ、又或新聞は日米間親善の障碍は、唯皮相なる自負心乃至は僻見の問題であつたが、米国民の真の同情義捐に依つて、真の親善が再生するであらう、而して此の際米国民の示す真の友情は、永久両国民の紲となるであらうと説いた。而して従来排日的傾向を有した新聞も、極力読者の義捐に努めて居るが、一方ゴンパース氏は労働者に対して、各員二十五仙の醵金を慫慂し、又各地方で或は医師会、又は市民大会を開き、其他各種団体も会合を開き、義捐又は其の他を決議し、活動写真館等では義捐勧誘の映画を挿入して居たといふことである。
 紐育では『一分早ければ一人余計に助かる』といふ標語を掲げて、寄附の募集に従事し、六日には既に百万弗の金額を得た、これにはロツクフエラー一族からの二十万弗も含まれて居た。又米国絹業協会は五日に僅か三十分で、十五万弗の寄附金を募集し、紐育の主なる商店は、被服食糧の寄贈を申出るものが多かつた。
 - 第36巻 p.514 -ページ画像 
 在紐育日本協会の主なる幹部は九月四日緊急会議を開き、ヂヤツヂゲリーを委員長とする特別委員会を組織し、京浜地方震災救恤の為、義捐金募集を決議し、直に会員に電報で寄附勧誘に取りかゝつた。
 桑港では大山領事が直に各種公私団体を召集し、其代表者によつて震災救恤委員会を組織して、救恤基金の募集に着手した。と同時に応急策として六日、米二千俵をプレジデント・タフト号で同港を発送した。又八日には英国輸送艦ソンム号で、価格五千四百五十弗の缶詰食料品及コンデンミルク等を輸送することにした。
 一般に桑港では、一九〇六年の震災の際の日本の救恤を回想して、今回の震災には特に同情を持つた様で、三日の如きは労働祭の休日であつたにも拘らず、桑港市長ラルフ氏は秘書を連れて見舞の為に領事館を訪問し、其の日の午後市役所に赤十字支社の幹部、及商業会議所会頭其他を召集し、赤十字支部を中心とし、日本救援会を組織し、市民の同情を喚起する声明書を公表し、義捐金五十万弗の醵集に着手し第一回救恤品を輸送艦ソンム号で送附した。桑港各新聞は排日親日の別なく日本救援を叫び、日に三回・四回の号外を発行した相である。
 同地エギサシナー紙は曰く
  斯る震害に当りては、人種的・国民的差別観念は無意味なり、桑港市民は貧富の別なく、救済金募集に応ぜるざるべからず
 ジヤーナル紙は曰く
  日本は罹災地再建の為、巨額の借款を必要とするに至るべきは明なるが、米国は右借款申出である場合には、進んで之に応ずべし
 クロニクル曰く
  大統領が東洋艦隊に対し、日本救援の出動命令を発したるは、機宜を得たり
 日本今回の災害は、全人類が相互の災厄に対し、如何に同感的なるかを示したる世界最高の記録なり
 ロスアンゼルスでは在留邦人が救助委員会を組織し、義捐金募集に着手すると共に、米二千俵を日本に輸送することにし、百俵だけ九月六日に桑港発プレジデント・タフト号で送り出し、残りの千九百俵はソンム号に積んで、八日に桑港から発航した。其の他に一万弗を上海総領事、一万弗を大阪に送金し、物資を購入することを依頼した。既に義捐金十万弗に達し、十日を出でずして二・三十万弗に上るだらうといふ予想であつた。
 米人の同情も熱烈で、政党宗派排日親日の別なく、悉く多大の同情を表し、市庁・商業会議所・赤十字社・新聞社・教会等、団体で特に尽力し、三十万弗を募集することに決した。
 九月八日上海を出帆した神明号には、米国赤十字社上海支部の救護班医師四名・看護婦十二名が救援のために出向した。又支那赤十字社救護班二十余名は、医薬其他必要品を携へて、十日上海発のエムプレス・オヴ・エシアで神戸に向つた。
 シアトルでは、ドグラス・フアー・エクスポーテーシヨン会社が、二百万呎、エリクソンが三百万呎の木材、エスト・コースト・ランパーマンス・アツソシエーシヨンは屋根板三百万枚、スチムソン・ラン
 - 第36巻 p.515 -ページ画像 
バー会社は松板拾万呎を寄贈し、同地商業会議所は、これを在日本米国赤十字社に送附した。又同商業会議所会頭ヲーターハウス氏は、商務卿から赤十字の金を以つて物資を購入し、日本に輸送する権限を得たので委員を任命し、九日に会合を開き、十一日シアトル発の郵船富山丸で、千百噸の必要物資輸送した。又九日発三井の金剛山丸で、千百噸のシヤトル市寄贈品を運搬した。
 右の如く米国人の震災に対する同情は各地に熾烈であつたが、大統領クーリツヂは震災の報至るや、直に東洋艦隊に命令を発して救援に赴むかせ、更に第二回の宣言書を発して、米国赤十字の手を経て、五百万弗の義捐金を募集すべきことを求めた。仍で九月九日に米国赤十字社長は、商務長官の連名で次の如きステートメントが発表された。
  這回、罹災の範囲程度は頗る大なる処、日本の経済力と信用とは鞏固なり、実業家は日本に対し平生の如く商業上の便宜を与ふると同時に、米国民は友好国民の大災厄に対し、極力人道上の救助を与へざるべからず、今日迄の義捐金額三百五十余弗《(万脱カ)》に達し、救助品輸送船舶八隻中、第三の汽船は十日出発すべく、残り五隻は荷積中なるが、米国民挙げて義捐金予定額五百万弗を超過する様全力を尽し今後一週間内に救助品を当局の処分の下に置くこと必要なり。
 赤十字社当局では、米国民の同情熾烈なる間に、所期の五百万弗を醵出したいとの方針で尽力し、各方面公私団体及有力新聞社等も加はり、団体員よりの金品募集、若くは一般公衆からの寄附勧説及び取扱を行ひ、各方面挙つて救護方法に努めたのであつた。而して差当つての方法として、埴原大使・商務脚フーバー氏・大蔵次官ワヅワース氏等と、赤十字社実行委員と商議の結果、慰問物資は取敢えずマニラで積込むこととし、電報を以てマニラの赤十字支社に対し、必要なる食糧衣類を購入する全権を委任した。又一方船舶院はアドミラル・ライン・パシフツク・メール、コロンビア、パシフツク、ストラザー・アンド・ベリーの諸汽船会社に対して、乗客及積荷の約束を向ふ一箇月間取消し、太平洋航路の各汽船を救済事業に従事せしむるため、全部保留することを命じた。又紐育では米国南太平洋鉄道会社は、九月十日附で各種救恤団体を経たる日本震災救恤物品は、同社全線を通じて太平洋沿岸諸港迄、無賃にて迅速運輸をすることを命令した。又紐育モルガン汽船会社も、紐育ガルベストン間に於て日本救恤品の無賃輸送を決定せる為、結局紐育方面からガルベストン経由、桑港に送られる救恤品は、全部無賃で送られることになつたのである。
 既に米国では震災の報一度伝はると、物質上の損害五十億弗を超えその復旧は容易ではないと報ぜられた。併し其後諸種の情報が達するに従つて、その復旧は意想外に早からうといふことになり、大蔵長官メロン氏も同様の意見を有して居ると報ぜられ、九月八日の諸新聞は商務長官フウバー氏は、災害額を五十億弗と見積るのは荒唐であると意見を有して居ることを□《(脱)》表し、尚同氏は日本の外債は少額にして、其の信用の良好なることは日本の復興能力の重大要素で、日本は迅速に回復することは出来るべく、日本はそれを実現するであらうと語つたと言ふ。
 - 第36巻 p.516 -ページ画像 
 又一方日本は災害復興のため、或は二億弗の外債を募るに至るであらうといふ者もあり、紐育の各銀行家は喜んで日本の要求に応ずるの意向有るやに伝へられたが、六日の紐育ヘラルド紙は逸早く日本の財政鞏固なるため、巨額の外債を募るに困難を感じないと報じ、七日の新聞は大蔵長官メロンは新聞記者に対し、財政鞏固なる日本は米国において外債を募るに困難を感ぜざるべく、日本の信用は震災のために害せられずと語つた報じて居た。尚ハースト系のブリスベーン氏も、七日華府ヘラルドに、米国民は此際最も自由なる条件を以て、日本の公債に応じ、以て日本を救助すべしと論じ、同系の諸新聞にも同様の記事を掲ぐるものが多い。
 其他アメリカン・トレーデング会社のフランクシヤ氏は、日本に於ける米国赤十字社の活動に際して、購買船便等無賃で需めに応ずると申出でた。
 比島上院議員マニユエル・ケーゾン氏は、比島人を代表し今回の大震災に対する深甚なる同情を、帝国政府並に国人へ捧げたき旨、在マニラ杉村総領事へ申出でたり。
 又既に米国軍艦ブラクホークは、次の如き物資を輸送して来た。
  日本米                  四二、八一一封度
  支那…                 二五八、〇五〇同
  砂糖                   八五、四〇〇同
  味噌                   一五、五八三同
  醤油                   二九、〇〇〇同
  乾大豆                 二一五、〇〇〇同
  牛肉缶詰                  三、四三六同
  鮭缶詰                   一、三三四同
  葦(屋根葦用)              七二、〇〇〇束
 又九月六日米国大使は次の如く伝へた。
 一、米国駆逐艦スチユワード号九月五日午前八時横浜着
 一、第三八駆逐艦隊六日午後四時横浜着
 一、在マニラ米国陸軍官憲は、メイグ及メリツト二隻の輸送艦医療材料テント・寝具等塔載中、横浜に向け七日頃出帆
 一、駆逐艦ボリー号無線電信接続のため、四日朝長崎入港
 一、アバランダ号に対し、呉淞に赴き同地に於て何分の命令を俟つべき旨命令せり
 一、亜細亜艦隊司令長官は、ヒーロン号にて横浜に向け航行中
 一、ブラツク・ホーク号は青島着、米百万斤、豆其他非腐敗性食料品五十万斤積込の上、能ふ限り速に横浜へ向出帆の筈
 一、ペコス号はマニラにて米・塩・麦粉等の緊急物資及包帯・医療器具・毛布等の医療材料を積載中、同船は陸軍軍医並に赤十字材料を積載し、能ふ限り速に横浜に向ふ
 一、スチユーワート号は横浜入港次第、日本政府に対し米国亜細亜艦隊司令長官は同艦隊の物資及役務を提供すべき旨、並に深甚なる同情の意を致す旨、申入方命ぜられたり
 一、スチーワート号は横浜に於て、在長崎ボリー号を経て、絶えず
 - 第36巻 p.517 -ページ画像 
司令長官並にマニラ当局と、無線電信受授をなし居れり
 其の他に米国災害救済聯合会は、桑港出帆のプレヂデント・タフト号に、加州米二千俵を東京救済事務局に送附した
 斯くの如く深甚なる同情に対し、山本首相は逸早く九月六日埴原大使を経て、次の如き謝意を米国大統領に申入れた。
 欧洲大戦後に於けるヴエルサイユ条約及華盛頓条約は、世界平和の大本を確立し、人類の福祉を増進するに於て吾人の慶祝禁ずべからざるものなり、帝国は条約の趣旨に遵由し、之が実効を遂ぐるに最善の努力を為しつゝあり、是時に際し、偶々帝都及附近に大震災起り、祝融の殃厄之に伴ひ悽惨名状すべからず、皇上を初め奉り官民の憂惧限りなきの折柄、支那方面に在る米国東洋艦隊司令長官は、直に其の麾下艦艇を震災地方に派遣して、食糧物資の運送其他応急必需の為、艦隊の全力を提供せんことを申込まれ、既に其の一部の艦艇は横浜に到着し、尚比律賓政府は数隻の運送船に物資を満載して発航せしめ、更に米国大統領は布告を発して、米国々民に対し援助を勧誘せられ、是等の報道は既に多数罹災者の耳に入り、其の敏速なる人道的処置に対し、深く感動を与へつゝあり、此の間に於て米国大使以下館員は、在留米国人と共に大使館が火災の厄に逢ひたるに拘らず、献身的努力を以て救援の事業に貢献せらる、以上の事実に対し本大臣は、帝国政府を代表し満腔の感謝を米国政府に致すと同時に、大統領及米国々民の深甚なる同情に対し、我君主及国民の熱誠なる謝意を表し、尚此の不幸なる災害の時に際し、表彰せられたる米国政府及国民の友情の発露が、貴我両国の親交に一層の鞏固を加へ、惹て宇内和平の連鎖を益々強靭ならしむべきは、本大臣の信じて疑はざる処なる旨、附言せんと欲す。
      支那
 京浜地方の大震災の報一度伝はるや、支那に於ても各方面に多大の感動を与へ、顧維釣・曹錕・孫文から次の如き電報を寄せ、張作霖からも弔電を寄せ、同時に金品又は物資・医薬等救済の材料提供を申入れて来た、政府でも深甚の注意を払ひ、各方面に向つて日貨排斥を中止せしめ、此の際に支那人の対日好意を示して、今後の日支親善に資せんとする様であると報ぜられた。又防穀令を撤して、日本に米の輸出を許す等、日本に対し著しい好意を示した。
 九月二日中華民国外交総長顧維釣から、山本首相宛に来た電報は左の如し
 中部日本に起りたる震災に対し、支那国民は日本国民に対し満腔の同情を表し、災害の速に終焉せんことを祈る
 支那国政府並に国民を代表して、余は閣下を経て日本国政府並に国民に深厚なる同情を披瀝し、併せて日本天皇陛下並に摂政宮殿下に右御伝達を願ふ。
 又沙面に居る孫文からは
 支那国民は、東京地方の地震及之に伴ふ人命・財産の損失に対し、深甚なる同情の意を表す
 「今次の前例無き災害に際し、日本国民は日頃の勇気と不屈の精神
 - 第36巻 p.518 -ページ画像 
を以て、之に当るべきことを信じて疑はず」と打電して来た。
 直隷・山東・河南の三省巡閲使曹錕は、九月五日本邦駐箚支那代理公使張元節に宛て
 「東京・横浜一帯地震及海嘯起り、災害絶大前古未曾有なる由、軫惜に堪えず、人民の盪柝流離せること深憫の至なり」
 と電報にて報じ来り、銀三万元を日本国民に、二万元を支那学生及居留民に充てることにした。
 在鄭家屯遼源県知事は、九月五日日本領事館を訪問し、震災見舞の辞を述べ、日本救済の挙に出ずべき旨申出た。
 支那にある各地日本官民が、本邦罹災者救助の為、米穀其他食糧品を支那各港から輸出しやうとする場合には、支那税関は無税で取扱ふことに取計ひ、又北京医学界の代表的人物で、支那赤十字社代表者四名は、日本罹災民慰問のために九月九日、北京を出発、奉天から朝鮮を経て日本に向つた。
 上海にある支那人各団体及個人は、震災救恤品として白米一万ピコル・麦粉二万包、其の他各種食料品を寄贈したが、九月八日上海出帆の汽船神明号に代表者十一名がこれらと同乗、神戸に来た。
 又、上海で十日までに締切つた第一回震災義捐金は、二十万円に達した。
      英国
 英国では三日に、皇太子の御使トロツカー大将が林大使を訪問して震災を弔ひ、摂政殿下の御安否を尋ねて辞去し、英国政府代表としては、カーゾン卿秘書官が林大使を訪ねた。其の他外交団及各方面の人士から、電報其の他で見舞を述べて来た。
 倫敦が発起となつてマンシヨン・ハウス・フアンドを募集したが、其の第一回醵金額は英貨三万五千磅で、直に市長から林大使に送附して来た。
 倫敦では各新聞は、大地震の経済界に及ぼす影響に就て、論評を下すもの多いのは、米国とは稍其の趣を異にして居る。而して概して今回の震災に対し、着々復旧事業を実行するものと確信し、復旧事業のため建築材料や機械類が、多量に英国から輸入されるであらうと見越し、諸種の物価が幾方先高《(分カ)》であるとのことである。現在英国人の所有する日本の公債株券類は、其高一億二千万磅(約十二億円)と見積まれ、欧洲賠償問題の未解決、伊太利・希臘の紛糾もあり、幾分か市場は不安定であるけれども、前途は楽観的で、若し日本が倫敦で復旧事業のため外債を募集するとすれば、決して困難でないと信じられて居る。各新聞紙は日本が迅速に復旧するだらうと確信して居るが、今回の震災に対して深甚の同情を表し、救済義捐金募集に対し、英国民が進んで応ぜんことを勧告して居る。
 五日午後、カナダ内閣は左の如き決定をした。
 一、日本震災に対する救恤品中、食糧品は取り敢えず九月六日、晩香坡発エムプレス・オヴ・エシアに積み込み得る丈け輸送すること。
 二、カナダの産物にして日本政府の必要と認むるものは、種類何た
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るを問はず、其希望に応じ仕送ること
 三、救恤に関しカナダ政府は、日本政府と聯絡を執るべく、カナダ赤十字社は政府以外全国に亘り活動を開始し、日本赤十字社と聯絡を取ること
 四、カナダ政府の右に関する当局は、商務大臣ロー氏とすること
 五、赤十字社は取り敢えず相当人数の看護婦を、日本に出発せしむること
 ケープタウン市長は、同地日本領事今井氏に同市市会決議を伝へて来た。
 『当市会は日本震災の報に接し、驚愕且悲嘆措く能はず、莫大の生命財産を喪ひ、其他無数の損害を齎したる大災害に宸襟を悩し給へる、日本国皇帝陛下並日本国民に対し、深甚の同情を表す』
 九月七日晩香坡から横浜行救恤品として、エムプレス・オヴ・ヱシア号に積み込んだものとして、次の如きものがあつた。
 (一)晩香坡ケリートグラス会社積荷横浜行
  (イ)コンデンス・ミルク 二二三四箱
  (ロ)モルテツド・ミルク 二七箱
  (ハ)缶詰魚 三三〇六箱
 (二)晩香坡シリング・アンド・グレーン会社積荷横浜行
  (イ)麦粉 五四〇〇袋
  (ロ)麦粉 一一五〇バーレル
 愛蘭自由国の外務大臣は、日本外務大臣宛に左記電報を寄越した。
 自由国政府及国民は、此の大災害に際し日本政府及国民に深厚の同情を表す
 ニユージーランド及濠洲ヴイクトリア行政長官からは、英国政府を通じ官民の深厚な同情を日本政府に伝へるやう、林大使まで通じて来た。
      震災に対する英国聯盟協会の援助申出
 英国々際聯盟協会幹部から、日本国際聯盟協会の代表たる杉村陽太郎氏に、本協会と聯絡を取り今回の震災救助に尽力したいが、此際執るべき措置について相談して来た。同協会は英国の諸大学と関係が密接であるから、日本の諸大学で校舎破壊等の為に学業を中止しなければならないものは、学生を英国の大学で収容すること、及英国軍が戦時使用した天幕や毛布を、救援のために送ることについて考慮中である相である。之に対して本協会では協議の結果、校舎の収容力等は相等恢復の見込があるが、此際図書館研究室の焼失破壊は、今後の研究に差支へを生ずること明であるから、寧ろ書籍等の送附を乞ふことに決し其旨打電した。
      伊太利
 伊太利は夫れ自身地震国なるため同情も一層篤く、勅使の慰問、首相の弔問、各方面の見舞、外交団の訪問等、落合大使は応接に遑がなかつた程である。
 各新聞紙も特に深厚なる同情を以て論評を試み、半頁又は一頁の記事を掲げて諸状況を網羅した。其の上政府は九月十日を以て日本に対
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する弔意表彰日として、全国に亘つて弔旗を掲揚し、歌舞音曲を停止した。
 モクム地方御滞在中の伊国皇帝陛下は、其の御旅行先より九月六日勅使を在羅馬日本大使館に差遣はされ、震災につき御見舞を伝へしめられたり。
 九月四日ミラン市長は、在同地日本領事館を来訪、市民を代表し日本帝国政府並に東京横浜市長に対し、鄭重なる震災見舞と深厚なる弔意を伝へんことを申入れた。
      オーストリア
 九月九日外相から左の如き伝達があつた。
 墺国政府は日本の震災救恤に助力することに決した、墺国現在の状態では到底金銭の援助は問題にならないけれども、罹災者の救療及復旧事業に付ては、材料や専門技術を以て相当の手伝は出来る見込で先づ差当つては、(一)相当人数の医師に医薬材料を附し、(二)復旧工事手伝の為の建築、其の他の工事技師若干を派遣することゝなつた。これは墺国内に溢れて居る同情を政府が具体化したのであるが、何分にも墺国は財政的に窮乏して居るから、右の如き方法についても費用は墺国で持つが、日本に滞在中の生活費を成るべく経済的に出来るやう、日本政府で取り計らつて貰ひたいといふことであつた。
      ハンガリー
 ハンガリー国外務大臣からの電報は曰く
 陛下の国土が遭遇せられたる恐るべく悲しむべき報道に接し、深く驚愕せり、此の惨事に当り、ハンガリー国民全体と共に如斯損害を蒙りたる大国民に対する最深甚なる同情の念を、愴惶として陛下に奉呈す
      和蘭
 九月六日、女皇陛下の名代・皇太后陛下の名代、在和蘭長岡公使を来訪し、今回の災禍に対する弔辞を述べたり
 又和蘭外務大臣官房長は、神戸の同国領事からの電報に基いて、外務大臣の代理として長岡公使を訪問し、蘭国政府の深厚なる弔辞を述べた。
 蘭領東印度に於ける内外人の同情多大で、和蘭側では理事官を会長として二十名の委員を設け、義捐金募集に取掛り、社交団体も亦別に同一の行動を執り、日本人はスラバヤ日本人会が其の衝に当つた。
      墨西哥国
 墨西哥政府は五万「ペソ」を、日本惨害救済費として寄贈する旨を在墨国日本公使に申し入れた。
 墨国に於ける同情は実に挙国一致であつて、無産労働者並に小学児童に至るまで、日本に対して誠意を披瀝し、応分の義捐金を醵出したさうである。
 衆議院は九月四日特別会の議決に依り、代表者を在メキシコ市帝国公使に派遣し、墨西哥国民を代表して震災に関し、日本国民に対する深厚な同情を表した、其他官民の同情甚大で、熱心な義捐金募集
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運動が起つた。
      グアテマラ
 グアテマラは、日本に駐箚する公使がないために、墨西哥公使を通じて日本国民に対する同情を伝達せんことを申入れた。
      智利
 大統領は自国に於ても屡々類似の経験ある関係上、特に深く日本国民の此不幸に同情し、曩に日本が智利の震災に際し救助船特派し呉れた事実を想起し、此際日本に対し何等の物質的返礼をなし得ざるを深く遺憾とすと述べた相である。
 因に国際聯盟総会に於て、智国代表者が日本の震災に関する動機に対し熱心なる賛成演説をなしたるは、特に大統領より訓電ありたるに依る由である。
      ブラジル
 ブラジルに大震災の報が達したのは九月二日であつたが、日を追つて其の詳報が伝はるに従つて、同国人の心に偉大なる衝動を与へ、外交団を始め上下各方面から深甚なる同情を表され、毎日数十通の弔電を大使館に寄せ、四日は外務大臣、五日は大統領及陸海軍両大臣から代理を派遣して弔問の意を表はした。
      アルゼンチン
 アルゼンチン国の同情も多大であつて、政府は勿論各有力新聞を通じて国民挙つて非常な同情を示し、罹災民救助義捐金醵出の運動が各方面に起り、中には現金を公使館に持参した者もあつた。前外相プエレドン氏は現物、殊に食糧品を以てする救済運動を企てゝ居る。九月五日下院に於て五百万ペソの義捐金支出の権能を政府に与へ、食糧品を購送して日本を救へとの法律案提出され、直に委員附託となり審議を急がしむることになつた様である。
      瑞典
 外務大臣を総裁とする日本震災救護委員会が組織された。
      ロシア
 ワルソビー市参事会議長イギナスバリンセイより同会を代表し、帝国政府及東京・横浜両市長に対し、深甚の弔意伝達方を申出でたり。
      其他
新嘉坡日本人会
 同会募集に係る救済義捐金第一回払込として、四万四千円十日に電報で送附して来た。
布哇ホノルル
 母国震災救援会で取扱つた義捐金、第二回分として十五万円、第三回分として十五万円、九月八日神戸正金を経て、政府救済本部へ電送した。
廈門
 同地にある台湾籍民は京浜の震災に同情し、救済金として取り敢えず壱万円を送附することを領事館に申出でた。
      仏領印度支那
 今回の震災に対し「メルラン」総督を始め、交趾支那知事及仏支両
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商業会議所等各方面より懇篤なる弔意の辞を寄せ、殊に総督は印度支那の深厚なる同情の念を執奏伝達せんことを、在印度支那西貢古谷領事に依頼し、仏国海軍官憲は海軍省の命により、本八日軍艦及び海軍諸官省に半旗を掲げた。
 又仏領印度総督はコルヂレール号に米百噸、ヂフテリア・コレラ・チブス・破傷風・天然痘に対する予防注射血精七万九千人分、外に外科用薬品・器械・繃帯・担架、其他陸軍動員用諸材料一切の輸送を命じ、其委員として元在日仏国大使館附医官ドクトル、モツタイ氏外一名の医師を派遣した。其後西貢に於けるパストール研究所に於て、チブス・天然痘に対する予防血精約十万人分を準備した。
 ジユネーヴ赤十字国際委員会及赤十字国際聯盟の連絡機関である混合委員会の代表者は、瑞西駐箚本邦公使を訪問し、今回の震災に対して各国赤十字社の行ふ救援事業の統一連絡を同会で執ることにする、而して救済上必要とするもの、例へば金銭とか物品とかを、応急救助及其後の救助とに分つて処置したいと申し込んで来た。



〔参考〕国際聯盟協会書類(一) 【(写) 大正十年七月二十五日、会機密第八七号補助金下附ニ関スル御指令ニ基キ…】(DK360190k-0006)
第36巻 p.522-523 ページ画像

国際聯盟協会書類(一) (渋沢子爵家所蔵)
(写)
大正十年七月二十五日、会機密第八七号補助金下附ニ関スル御指令ニ基キ、大正十二年度上半期ニ於ケル本協会ノ会計状況、別紙ノ通御報告仕候也
  大正十二年十月 日
             国際聯盟協会
                会長 子爵 渋沢栄一 渋沢栄一
    外務大臣 男爵 伊集院彦吉閣下

    国際聯盟協会々会計報告《(衍)》
                   自大正十二年四月
                   至同九月
      収入ノ部
                            (円)
一外務省下附金                二〇、〇〇〇・〇〇
一寄附金                   二七、一二〇・〇〇
一会費収入                   三、九八四・二〇
一刊行物売上代                 一、八一一・七九
一預金利子                   一、一一七・一四
一雑収入                      二八八・七〇
一前年度繰越金                六七、六三三・二四
      合計              一二一、九五五・〇七
      支出ノ部
一俸給                     四、四〇五・〇〇
一嘱託報酬                     九一三・三二
一雑給                     三、八六六・二一
一事務所借料                  一、七七七・五〇
一印刷及刊行費                 八、四二七・二〇
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一講演会諸費                  四、四一四・二一
一国際聯盟協会聯合会分担金           一、六〇〇・四九
一インターナシヨナル・サービスビユーロー補助金 一、二〇〇・〇〇
一情報宣伝拡張費                  八八四・五〇
一集会及接待費                   四七二・九五
一図書購入費                    八二一・三八
一文房具消耗品                   三九八・四三
一逓送及通信費                 一、一〇二・七二
一什器                        四八・〇〇
一雑費                       一〇八・九九
一銀行預ケ金                 九一、三七四・一七
一手許在金                     一四〇・〇〇
      合計              一二一、九五五・〇七
右之通リニ候也
  大正十二年十月
           国際聯盟協会
                       (井上)
              会計監督 井上準之助(印)