デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.16

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.36-68(DK370006k) ページ画像

大正15年3月26日(1926年)

是日、当協会第六十回理事会、東京銀行倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ、近クベルギー国ブリュッセルニ開カルベキ国際聯盟協会聯合会特別委員会ニ出席スル当協会代表ニ対スル訓電其他ニ関シテ協議ス。


■資料

国際聯盟協会書類(二) 【大正十五年三月十八日】(DK370006k-0001)
第37巻 p.36 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
  大正十五年三月十八日
                国際聯盟協会々長
                   子爵渋沢栄一
    渋沢会長殿
拝啓、時下愈々御清穆奉大賀候、陳者来る三月二十六日正午丸ノ内銀行倶楽部に於て、本会第五十回理事会《(六)》を開催し
一、四月十日ブラツセルに開催さるべき、聯合会の二特別委員会(聯盟理事会常任理事増員の件並に国際経済会議に関する件)に対する本邦協会よりの訓電に関する件
二、来年度予算に関する件
に就き御審議相仰度、時節柄御多用中洵に恐縮の至に奉存候得共、万障御差繰御光臨被下度、此段御案内申上候 敬具
 当日の御出席の有無折返し御一報相煩度候


国際聯盟協会書類(二) 【(謄写版) 第六十回理事会】(DK370006k-0002)
第37巻 p.36-37 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    第六十回理事会      (大正十五年三月二十六日正午於丸ノ内銀行倶楽部)
御出席
 渋沢会長、阪谷・添田副会長、林・穂積・田川・内ケ崎・山田・宮岡・下村・頭本・長岡各理事、深井会計監督、加藤主事
 - 第37巻 p.37 -ページ画像 
協議事項
 一、理事国増加問題
 二、国際経済会議
 三、移民問題
 四、ドレスデン総会の件
 五、通常総会日取
 六、支部長会議召集可否
 七、大正十五年度予算
(栄一鉛筆)
各項トモニ種々ノ意見アリテ議論ハアリタレドモ、電信案ハ主任ニ於テ各員ノ意見ヲ斟酌シテ原案ヲ修正シ、副会長ニ就テ之ヲ決定シテ発送スル事トシ、其他ノ各項ハ概略承認相成候事
 但、事務員採用又ハ見習員等ノ事ハ、内規作成致ス様同氏ヨリ申出アリタル事


国際聯盟協会書類(二) 【拝啓 陳者去る三月二十六日理事会議事要録…】(DK370006k-0003)
第37巻 p.37-38 ページ画像

国際聯盟協会書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓 陳者去る三月二十六日理事会議事要録、別紙の通り、御送附申上候 敬具
  大正十五年三月二十九日
                    国際聯盟協会事務所
    渋沢会長殿
(別紙)
                   栄一
    第六十回理事会      (大正十五年三月二十六日)
 出席者 渋沢会長、阪谷・添田両副会長、林・田川・岡・山田・宮岡各理事、長岡春一氏、深井会計監督、藤沢利喜太郎氏、加藤主事
協議事項
一、四月十日武府に開催の聯合会特別委員会に関する件
 (一)本邦協会代表として、稲垣守克氏外に適任者一名、杉村氏の指定により派遣方を杉村氏に依頼のこと
 (二)経済会議に関しては、本邦協会の提案は既に(イ)原料の自由、(ロ)関税の引下、(ハ)沿岸貿易開放の三点を申し送つてあるが、其詳細なる資料を要求して来たのであるが、本邦協会提案の説明資料は従来の書類が巴里帝国事務局にあることであるから、杉村氏より適当に我が代表に提供方を請ふこと
 (三)理事国増員問題に就ては
  第一段に於て今回の事件により失墜せる聯盟の信用を恢復し、権威を高める方途を攻究するの要あること
  第二段に於て理事会組織の現状は、なるべく急激に変更を加へざる方針を以て進むべきこと
  第三段に於て独逸の外に常任理事を増す場合には、地理的・文化的に世界の各系統が公平に代表せらるゝを本旨とし、米洲より一名を選定推薦すること
 (四)以上の趣旨にて電文を作り、会長・両副会長の査閲を経て、杉村氏に打電し、尚代表の旅費を電送すること
 - 第37巻 p.38 -ページ画像 
二、移民問題並にドレスデン総会
 右に関しては本日、頭本氏欠席の為め追つて同氏に諮ること
三、通常総会並に支部長会議
 (一)支部長会議を総会と同日に開催すること、其の日取は四月末又は五月上旬、支部長の東京に会集し易き日を択ぶこと
四、大正十五年度予算
 事務所案「(追つて送附すべし)に二個の修正を加へ可決
 一は主事の俸給を二千円減ずること
 二は事務所借料を八百四十円増すこと
五、寄附金継続問題
 民間有志の寄附金は、本年度を以て期限満了するに就き、成るべく通常総会の前に有志の会合を請ひ、寄附の継続並に範囲の拡張につき協力を請ふこと
六、人事
 (一)稲垣守克氏を本協会在外嘱託とし、其の手当を四月より当分月額四百円とすること
  (右に就ては中途退席せられたる岡・深井両氏の追認を要す)
 (二)福島繁太郎氏を海外派遣見習生とし、氏の特別の境遇及事情を斟酌し、当分月額百五十円の手当を給与すること
 (三)佐藤諄造氏を協会事務員として採用し、俸給月額百二十円を給与すること
 (四)東京支局に事務室を貸与すること、但し本件は聯盟事務局に公表せざること
 (五)人事詮衡方針を厳にし、情実の介在を許さゝるやう方針を確立すること



〔参考〕国際知識 第六巻第五号・第一一八―一二一頁大正一五年五月 内外評論 世界の近事 ジユネーヴの悲劇(DK370006k-0004)
第37巻 p.38-40 ページ画像

国際知識  第六巻第五号・第一一八―一二一頁大正一五年五月
    内外評論 世界の近事
      ジユネーヴの悲劇
 三月八日から開かれた聯盟の臨時総会は、主として独逸の聯盟加入を審議する為であつた。総会の特別委員会は規約の第一条に照らして独逸が国際義務の履行について充分の誠意あるを認め、又独逸が聯盟の定むることあるべき、軍備の準則を受諾すべきことを約したので、独逸の聯盟加入を全員一致を以て可決し、今はたゞ夫れを総会に報告して、形式的承認を求むれば足る迄になつた。
 しかるに独逸は元々常任理事国として加入を希望したのであつて常任理事国の増加は、理事会全員の一致と総会過半数の承認が必要である。三月八日から開かれた第三十九回理事会に於て、独逸を常任理事国に指定するに就て、敢て反対の理事はなかつたのであるが、之と同時に、波蘭・西班牙・伯剌西爾・支那が常任理事の地位を要求し、此ら四国の内、西班牙と伯剌西爾は現に非常任理事として、理事会に席を占めている関係上、自己の要求の容れらざる場合には、独逸の要求を拒否すべしと威脅せりと伝へられ、理事会の空気は聯盟成立以来空前の険悪を示した。其間現に非常任理事たる瑞典とチエツコが、自発
 - 第37巻 p.39 -ページ画像 
的に其の地位を去ることを提議し、其代り波蘭及和蘭の両国を非常任理事国とし、兎も角今回の所は独逸のみを常任理事に、全員一致指定せんとの議がまとまらうとした。しかるに伯剌西爾が、最後まで自己の要求を譲歩せず、独逸の推薦を拒むだが為め、理事会の全員一致が得られず、議長たりし我が石井子の努力も遂に水泡に帰し、総会は十七日空しく閉会して独逸の加盟、理事国増加の問題は、九月の通常総会まで一切、之を延期することゝなつた。
 独逸が己れひとり常任理事を要求して、他の諸国を同時に割込ませるを拒んだことも、右の如き破綻の原因でないとはいへない。波蘭・西班牙・伯剌西爾が好機逸すべからずとして、威脅までして割込まうとしたことも、破綻の他の一因である。ロカルノ条約の成立に関聯して、英仏両国の間に波蘭・西班牙を常任とし様と云ふ黙約あつた事が今回の破綻を持ち来した主要の原因である、との一説もある。夫れは兎も角、聯盟はヨーロツパのみの聯盟ではない、況んやロカルノ条約関係国のみの、私すべき機関では勿論ないのであつて、伯剌西爾が最後迄我を通したからと云つて、伯剌西爾のみに今回の責任を負はせ様とするのは、見様次第ではロカルニストの責任避れと見られない事も有るまい。殊に伯剌西爾が常任理事の地位を要求するのは、北米合衆国が聯盟に加入する時までと期限を附したことによつて、伯剌西爾の要求は一概に無理とも云はれないであろふ。
 之を要するに、今回の破綻は其の原因頗る複雑して居て、無下に一国又は数国の態度に其の責を帰すべきでない、更に根本に遡つて、満場一致を以て、聯盟決議の根本原則とした事や、聯盟理事会に常任・非常任の区別を設けたこと夫自身に、紛糾の根源があるとも云へるのである。
 真の悲劇とは、善人と善人との交渉に於て、不幸が発生する運命の悪戯を呼ぶのである。世界が三月の聯盟会議をジユネーヴの悲劇と呼んだのは、恐らく這般の消息を穿つた観察の結果であつて、凡そ悲劇の前に万人は襟を正し態度を改めるが如く、凡ての聯盟国は今回の破綻に直面して、玆に何らかの難局の打開策を講ぜなければなるまい。
      分盟論と其の限度
 一昨年の聯盟総会に於て、平和議定書に日本が修正案を提議し、一時議定書破れんと喧伝せられたことがあつた際のこと、マタン紙始め日本を聯盟より除外し、欧洲のみの聯盟を以て議定書を固め、仲裁々判・安全保障・軍備縮少の目的を貫徹すべしとの声は、相当に高まつたことがある、今回も亦伯剌西爾の拒否権行使によつて、切角の独逸の聯盟加入、ロカルノ協約の効力発生が延期になり、張り切つた一般の期待に多大の失望を与へたことからして、又もや欧洲のみの聯盟の論が擡頭してゐる。
 思ふに英国を中心とする所謂ブリチツシユ・コンモンウエルス・オヴ・ネーシヨンスの如き、北米合衆国を盟主とし、モンロー主義と汎アメリカニズムによつて結び付く両米諸国《(南カ)》の如き、モスコウを盟主とするソビエツト共和国聯邦の如き、孰れも大なり小なり一種の地方的又は部分的聯盟でないとはいへない。ロカルノ協約によつて今一つの
 - 第37巻 p.40 -ページ画像 
局地的聯盟が芽生へてゐることも事実である。而して英帝国の結束は主として人種的であり、両米の結束は主として地理的であり、ソビエツト聯邦の結束は主として政体的であり、ロカルノの夫れは主として政治的である。
 分盟の基礎は人種的一致・地理的近接・政治的利害の考量など、必ずしも共通でない。しかるに近世機械文明の発達と産業革命は、金融的に、通商的に、文化的に、駸々乎として、世界を数団の単位に分つよりも、一箇の単位に綜合せんとする勢ひを示してゐる。此の意味に於て、何らかの世界的聯盟が要を感ぜらるゝことは事実であつて、国際聯盟が世界聯盟を理想する限り、其の存在の理由は充分に存するのである。平和議定書の協定に際して、日本の修正が容れられたこと、理事国増加問題に関聯して、伯剌西爾の態度を如何とも出来なかつたこと、すべて此れ聯盟がヨーロツパの聯盟に非ざるの事実を立証するものである。
 さりながら聯盟の世界性は、その為めに屡々不都合を生ずる。欧洲の問題に東洋や南米の諸国の票決が関係して来る場合には、欧洲側からいへば、頗る迷惑とすることもあらうし、不面目とすることもあらう。東洋や南米からいへば、無用に欧洲問題に足を入れて、責任を分担させられることは、迷惑を通り越して危険なことにもなる。北米合衆国がモンロー主義を振りかざして、聯盟は両米の問題に嘴を入るべからずと呼号するのは、此の意味からいつて米国の我儘のみとはいへない。
 してみれば世界的聯盟が必要であるやうに、局地的又は部分的聯盟も必要であるといふ結論が、自ら抽出さるゝわけであつて、しかも両者の間に自ら管掌の分野が限られなければならないのである。
 聯盟規約第二十一条は、右の如き地方的又は部分的聯盟の存在を認め、その管掌の大体の分野を限つたもので、聯盟と分盟が両々相俟つて時代の要求に添ふようになるのは、組織の問題ではなくて、寧ろ運用の問題と見るが至当であろふ。



〔参考〕国際知識 第六巻第六号・第一〇三頁大正一五年六月 時言小言 皮肉な聯盟 青木節一(DK370006k-0005)
第37巻 p.40-41 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

〔参考〕社団法人国際聯盟協会会務報告 大正一五年度 同協会編 第三七―三九頁昭和二年五月刊(DK370006k-0006)
第37巻 p.41-42 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 大正一五年度  同協会編
                         第三七―三九頁昭和二年五月刊
    一九 国際聯合会関係
○上略
      ○国際経済会議小委員会
 国際労働機関並社会法制委員会の前記小委員会は、一九二六年四月十日ブラツセルに会合。ラフオンテーン(白)バーンス(英)稲垣(日)ハンバン(波)ヘンチ(瑞西)バネク(智恵古)トロツク(洪)出席。
 一、国際経済会議準備委員会組織に対する件
 二、国際経済会議々題に対する例示
等議定した。右はアベリストウイスの大会で可決された。
○中略
      ○アベリストウイス大会
 右に関しては千九百二十六年十二月一日その報告を単行本として出版したから玆に詳報は避け要点のみを記さう。
 一、聯盟理事会は独逸の外増員せぬこと
 二、労働総会代表者の資格に対する希望
 三、労働条的批准に関する希望
 四、失業及び移民問題に関する決議
 五、外人労働者待遇に関する決議
 六、国際経済会議に関する決議
等であつて、本協会が多年貫徹に努力してゐた、移民平等待遇の原則は略此の大会に於て承認された次第である。
 因に本協会代表は牧野英一・野上俊夫・堀内謙介・蝋山政道・土田誠一・横田喜三郎・古垣鉄郎・土師盛貞・稲垣守克・福島繁太郎の諸氏であつた。
 - 第37巻 p.42 -ページ画像 
○下略



〔参考〕国際聯盟協会書類(三) 【(封緘絵葉書)】(DK370006k-0007)
第37巻 p.42 ページ画像

国際聯盟協会書類(三)          (渋沢子爵家所蔵)
(封緘絵葉書)
大正十五年六月廿九日から七月三日まで、ウェールス西海岸のアベルストウイスに於て、国際聯盟協会聯合会第十回総会に、日本の協会の代表委員として出席致しました機会に、遥に敬意を表し御健康を祈ります
  大正十五年七月三日
              ロンドンへの汽車中

                      牧野英一
                      野上俊夫
  私共もお伴して参りました        堀内謙介
       牧野清子           土田誠一
       堀内登志子          土師盛貞
       蝋山銀子           蝋山政道
       野上敬子           古垣鉄郎
                      横田喜三郎
                      福島繁太郎
                      稲垣守克
    国際聯盟協会々長
      渋沢子爵閣下



〔参考〕国際聯盟協会報告(二)(DK370006k-0008)
第37巻 p.42-54 ページ画像

国際聯盟協会報告(二)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    国際聯盟協会聯合会ノ国際経済会議小委員会
      第二回会合(四月十日ブラッセル)ニ関スル報告
                 巴里ニテ稲垣守克記
    目次
一、概要
二、議題ノ取扱ハレ方ニ関スル概要
三、出席者氏名
四、国際経済会議一般議題
      統計ニ関スル提案
      商品ノ循環、国際商業ノ運行
      (沿岸貿易ノ文字ニ関スル件)
      移民自由、関税撤廃ニ関スル原則
      貨幣問題、貯蓄信用、労働及事業組織
五、移民問題
      会合ニ至ルマデ
      会議前日ノ打チ合セ
      決議案
      決議案ノ取扱方
六、国際経済会議準備委員会ノ組織ニ関スル提案
 - 第37巻 p.43 -ページ画像 
七、国際経済会議ヲ常設組織トスル提案
八、労働条約批准ニ関スル決議案
九、労働条約ノ条件附批准ニ関スル決議案
十、会議ニ関スル感想ト注意事項
    概要
 大正十四年十月、瑞西国ロザンヌニテ開カレタル聯合会理事会ニ於テ新ニ「国際労働機関及社会法制委員会」ト云フ常設委員会ガ組織サレ、此委員会ハ大正十五年三月初旬寿府ニ会合致シマシタ。コレハ常設委員会デスカラ少数民族委員会ト同ジヤウニ、聯合会加入ノ各協会カラ委員ヲ出ストコロノ大委員会デス。
 此委員会ノ三月ノ会合ニ於テ国際経済会議ノ件ガ議セラレ、本委員会ハ別ニ「国際経済会議小委員会」ナルモノヲ任命シ、此小委員会ニ於テ国際経済会議ノ件ヲ取扱ハセルコトニ致シマシタ。三月九日第一回ノ準備的会合ヲナセシ後、此小委員会ハ四月十日ブラッセルニ会合シ、国際経済会議ニ関スル五種ノ決議案ヲ作成致シマシタ。此等ノ決議案ハ上記常設ノ「国際労働及社会法制委員会」ニ対シテ報告サレ、此委員会ノ議ヲ経テ其決議案トシテ聯合会ノ総会ニ提出サレ、総会ノ採択ヲ経テ始メテ聯合会ノ決議トナルモノデス。(聯合会ノ常設委員会及総会ハ六月ノ末カラ開カレルコトニナツテ居マス。)
 他方ニ於テハ、此等ノ決議中或モノハ成ルベク早ク之ヲ外部ニ発表シテ、其実際ノ効果ヲ挙ゲル必要アリトノ考慮カラ、之ヲ常設委員会タル「国際労働機関及社会法制委員会」ノ議長タル「ソカール」氏ニ送リ、同氏カラ報道トシテ公ノ方ノ国際経済会議準備委員会ニ送リ届ケルコトヽ致シマシタ。
 小委員会ニ於テ採択サレタ決議案ハ次ノ五種デス。
一、国際経済会議準備委員会ガ取扱フベキ一般ノ「プログラム」ニ関スル提案
二、国際経済会議準備委員会ノ組織ニ関スル提案
 及、国際経済会議ノ組ミ立テ及其継続ニ関スル提案
三、移民問題ノ一般的調整ニ関スルモノ
四、労働条約ノ批准ニ関スルモノ
五、労働条約ノ条件付批准ヲ避ケントスル提案
    議題ノ取扱ハレ方ニ関スル概要
三月九日寿府ニ於テ開カレタル国際経済会議小委員会第一回会合ニ於テハ、第二回会合(四月十日、ブラッセル)ニ於テ何ヲ議スベキカト云フ点ガ協議サレマシタ。第一回会合ノ際ニ決定致シマシタ重要ノ点ハ
 「国際経済会議ノ議題ニハ制限ヲ加フベカラズ」ト云フ点デシタ。
 其会合ノ際ニ既ニ経済会議ニ関シテ提案又ハ決議案ヲ提出シタノハ僅ニ日・英・伊ノ三協会ノミデス。此三提案ハソノマヽ四月ノ第二回会合ノ議題トシテ残サレマシタ。又其際「ハルバン」氏ハ国際労働事務局々長「アルベル・トーマ」及「ソカール」ノ両氏ノ意見ニ基クモノデアルガ、次ノ四問題ヲ国際経済会議ノ議題トシタラドーカト云フコトヲ提議シマシタ。即チ
 一、世界各国ノ労働条件ヲ平等且公平ナラシムル目的ヲ以テ、労働
 - 第37巻 p.44 -ページ画像 
条約ノ批准ヲ促進スルコト
 二、生産危機ノ対策トシテ大工業ニ対スル補助ノ問題
 三、失業問題及之ヨリ生ズル各種ノ困難ナル問題ノ解決
 四、移民ノ一般的調整
 小委員会ハ右ノ四問題ニ関シ各別々ニ報告者ヲ任命シタノデス。即チ第一問ハ「バーンス」氏(英)、第二問ハ「ボン」氏(独)、第三問ハ「コセンチニ」氏(伊)、第四問ハ「ハルバン」氏(波蘭)ニヨツテ研究準備サレ、四月ノ小委員会ニ夫々提案セラレルコトヽナリマシタ。即チ四月ノ小委員会デ取扱ハルベキモノハ、次ノ諸件ト決定サレテ居タノデス。
 一、労働条約批准ノ問題
 二、大工業ニ対スル補助ノ問題
 三、失業問題
 四、移民問題
 五、国際経済会議ノ組織及継続ノ問題
 六、日・英・伊三協会ノ提案
 七、他ノ協会ヨリノ提案
 然ルニ四月十日ノ第二回会合ニ於テ主トシテ議セラレタ議案ハ、瑞西ノ協会代表「ヘンチ」氏ノ作成セシ国際経済会議一般議題デス。要スルニ同氏ガ最モ努力シテ案ヲ作成シ、且ツ委員トシテ出席シマシタカラ、自然ノ成行上同氏ノ案ガ討議ノ基礎トナツタノデス。
 労働条約批准ノ問題ハ「バーンス」氏(英)ガ報告者タル責任上簡単ニ起草シタル報告ヲ提出、殆ンド議論ナク単ニ読ミ上ゲル程度ニテ通過。大工業ニ対スル補助ノ問題ニ関スル報告者タル「ボン」氏ハ長文ノ報告ヲ作成シテ提出シマシタガ、御自身欠席サレタノデ、委員会ニ於テハ其儘手ヲ付ケズ、本案ハ来ルベキ総会ノ際開カルヽ常設委員会ニ廻ハサレルコトヽナリマシタ。失業問題ノ報告者タル「コセンチニ」(伊)ハ欠席ナシ、且報告ヲ出サズ、移民問題ノ報告者「ハルバン」氏ハ労働力ノ需要供給及失業ト云フ方面カラ移民問題ヲ取扱ツタモノヲ提出、コレハ異議ナク通過。国際経済会議ニ関スル組織及継続期限ノ問題ハ、報告者「ヘンチ」氏ノ原案ニ、多少ノ修正ヲ加ヘテ通過。日・英・伊三協会ノ既ニナシタル提案ハ結局「ヘンチ」氏ノ一般議題ノ中ニ包含サレ居ルコトヽ認メラレ、其儘トナリ、其他ノ協会カラノ提案ハ有リマセンデシタ。
 「バーンス」氏ノ労働条約批准問題ガ議ニ上ツタ際、ハルバン氏ハ思ヒ付イタヤウニ「条件付批准」ノ非ヲ説キ、コレガ簡単ナル決議案トナツテ通過致シマシタ。
 ソコデ右諸決議案ハ次ノ如ク持運バレルコトニナリマシタ。
 第一、国際経済会議々題ノ内容ニ関スル案及国際経済会議準備委員会ノ組織ニ関スル案ハ、之ヲ聯合会ノ常設委員タル「国際労働機関及社会法制委員会」ノ議長「ソカール」氏ニ送リ、同氏ガ報告ト云フ名義デ国際経済会議準備委員会ニ送リ届ケルコトヽシマシタ。即チ準備委員会ガ四月二十六日ニ会合スル前ニ届ケテ置クコトヽシタノデス。
 - 第37巻 p.45 -ページ画像 
 第二、移民問題ニ関スル決議案ハ右同様之ヲ「ソカール」氏ニ送リ同氏カラ之ヲ国際労働機関ノ常設移民問題委員会ニ送リ届ケルコトヽシマシタ。
 第三、右ニ掲ゲマシタ決議案ノ全部、及左ニ掲グル決議案及報告ヲ聯合会ノ常設委員会タル「国際労働機関及社会法制委員会」ニ廻ハスコトヽシマシタ。
   (イ)国際経済会議ノ組織及継続ニ関スル決議案
   (ロ)労働条約批准ニ関スル決議案
   (ハ)条件付批准ニ関スル決議案
   (ニ)経済恐慌ノ際、大工業ニ与フル補助ノ問題ニ関スル報告(ボン氏)
      (註)会議ノ翌日到着セル失業問題報告(コセンチニ氏)ハ其儘常設委員会ニ廻ハサレマス。
(備考)
一、国際経済会議準備委員会ガ四月ノ末ニ会合シマスカラ其形勢ヲ見テ、五月中ニ今一回本小委員会ノ会合ヲシヤウデハナイカトノ議ガ起リ、ブラッセル・ベルリン及ニュルンベルヒ等ノ候補地ガ数ヘラレマシタガ、結果決定セズニソノ儘トナリマシタ。
二、第十回総会ハ独逸ノ「ドレスデン」ト決定シテ居マシタガ、独逸ノ聯盟加入不成立トナリ、其結果、独逸ニ於ケル気分ガ極メテ聯盟不信用トナリ、此際同国内デ聯合会総会ヲ開クコトハ、独逸ノ聯盟協会ノ立場ヲ苦シメルノミナラズ、聯合会トシテモ却テ不利ノ効果アルヲ憂ヘ、場所ヲ変シ英国ニテ開クコトヽシマシタ。多分「ダービット・デビス」ノ故郷「ウエールス」ノ一都市カ或ハ「オックスフォード」ヲ選ブコトヽナルデシヤウ(本稿起草ノ際ハ未確定)

   小委員会出席者、会合ノ場所及期日
時日 大正十五年四月十日午前及午后
会場 ブラッセル市大学倶楽部
  委員                         出席者
  (三月ノ会合ノ際決定セシ委員)           (委員又ハ委員代理)
 議長、バーンス「英」(Jr. Hon, G. N. Barnes)(前労働大臣)同人
英、ガーネット     (Maxwell Garnett)英協会書記長 欠席
独、ボン        (Bonn)伯林高商教授       欠席代理「ユングハン」氏
仏、プルドモー     (Prudhommeaux)仏協会書記長   欠席
伊、コセンティニ    (Cosentini)伊協会書記長    欠席
波蘭、ハルバン     (Halban)イオフ大学教授     同人
瑞西、ヘンチ      (Hentsch)           同人
白耳義、ラ・フォンテーン(La Fontaine)上院副議長    同人
洪国、ポーカ・ピブニー (Poka Pivny)          欠席代理「トロク」(Torok)領事
露、ブリヤンチャニノフ (Briantchaninoff)       欠席
智古、ブラベック    (Brabec)            欠席代理バネック(Vanek)
日、河合参事官                      欠席代理稲垣
  其他書記スモール氏、聯合会特別宣伝委員「キルシホフ」氏及山
 - 第37巻 p.46 -ページ画像 
  口正太郎氏出席

    各決議案討議ノ経過
      第一、国際経済会議一般議題
  備考
 国際経済会議ノ議題ノ内容或ハ一般的方針ニ関シ日・英・伊協会カラ案ガ出テ居マシタガ、互ニ相補充シ合フ点ト、相共通セル点トヲ具ヘテ居リマスモノデ、英ノ「バーンス」氏ハ三案ヲ混成シタ案ト称スルモノヲ事務所ニ出シテ置キマシタ。然シ此案ハ書記「スモール」ニ云ハセレバ、三案ヲ混成シ得タモノデハナク、極メテ不完全ノモノデアリマシタシ、他方瑞西協会ノ「ヘンチ」氏ガ力ヲ込メテ作成セル案ガ出テ来マシタノデ、「バーンス」氏ノ混成案ハ自然ニ葬ラレテシマイマシタ。
 開会ト同時ニ議長「バーンス」氏ハ「ヘンチ」案ニハ日・英・伊三協会ノ案ハ包含サレテイルト思フカラ、先ヅ本案ニツイテ討議シヤウト思フガ如何ト問ヒマシタ。私ハ日本協会ノ提案中ニハ沿岸航路ノ開放ト云フ文字モアリマスシ、日本トシテハ常ニ通商ノ衡平待遇ト云フ文句ヲ挿入セシムル必要アリト思ヒマシタカラ、議長ノ問ニ対シテハ「大体ニ於テハ日本案モ「ヘンチ」案ノ中ニ包含サレテイルガ、多少不足ノ点モアルト思フカラ、内容審議ノ際不足ノ箇条ヲ挿入サセテ貰フト云フ諒解ノ下ニ、本案ノ討議ヲ先ヅ試ムルコトニ賛成スル」ト述ベテ置キマシタ。
  議案ノ内容及討議
 「ヘンチ」氏ノ作成セル案ハ極メテ大胆ナ理想主義ニ立脚セルモノデアツテ、良ク云ヘバ非常ニ進メルモノ、悪ク云ヘバ現実ヲ超越シ過ギテ居マス。
 先ヅ前文ニ於テ経済会議ノ使命ヲ述ベ、諸国民ノ善意的了解ヲ基礎トスル国際経済政策ニ向ツテ人心ヲ傾ケシムル好機デアツテ、吾人ハ経済上ノ□欠陥ヲ探求シ、『監督シ得ベク又監督サレタル』経済協定ノ出発点トナルベキ救治策ヲ提案シナケレバナラヌノデアツテ、国際経済会議ハ次ノ如キ案ヲ協定スベシト云フノデアリマス。
 (一)原料・商品・在庫品等ニ関シ統計ヲ立テ、之ヲ発表スルコトヲ図レト云フノデス。即チ一定ノ短期間ニ割当テ、其性質及品質ニ従ヒ、各国ニ於ケル原料品・半製品・製品及在庫品ノ統計ヲ立テ、之ヲ発表シテ以テ、各国ニ於テ此統計ニ基キ、生産ヲナシ、此等生産物ヲ既存ノ交通及市場ヲ利用スルコトニヨツテ理論的ニ配分スルヤウニスルト云フノデス。
 (二)商品ノ循環配布ヲ進歩促進シ、国際商業ノ運行ヲ出来得ル限リ諸国民平等ノ基礎ノ上ニ於テ促進セシメルヤウニスルコト。但シ其際特ニ運輸ノ凡テノ方法ヲ容易ニスルコト、及凡テノ形ニ於ケル誇張サレタル□□□《(三字欠)》賃率ニ終焉ヲ与ヘルコトヲ必要トスルト云フノデス。
  此点ニ関シ次ノ三点ヲ注意致シマス。
  1「諸国民平等ノ基礎ノ上ニ」ト云フ文字ハ、私ガ通商衡平ノ原則ヲ云ヒ表ハス為メニ挿入サセタ文句デス。其際議長タル「バ
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ーンス」氏(英)ハ少シモ反対セズ、白ノ「ラ・フォンテーン」ハ日本ノ主張ハ正当デ、「ベルサイユ」以来ノ主張デアルト云ッテ居マシタ。「ラ・フォンテーン」氏ハ一寸人種平等案ト混合シテ考ヘテ居タヤウナ様子モ見ヘマシタ。洪国ノ協会ノ此日ノ代表ハ「ブラッセル」市ノ領事デ聯合会ガ何物デアルカト云フコトモ知ラズ、只急ニ代理トシテ出席シタ人デシタカラ、聯合会ニ於テ、既ニ通商衡平ノ原則ガ議セラレタコトモ知ラヌト云フ原因モアッタデシヤウ、私ノ主張ニ反対シテ、現在ノ通商ハ諸国民平等ニ取扱フハ実際不可能デアルト主張シ、結局妥協案トシテ「出来得ル限リ」ト云フ文句ヲ入レルコトヽナリマシタ。
  2、沿岸貿易ノ開放ト云フ案ガ日本ノ協会ノ提案ノ中ニ在リマスカラ、此項ヲ適当ニ挿入サセヤウト苦心シマシタ。然ルニ沿岸貿易(航海)ノ開放ト云フ文字ハ、如何ニモ特別ノ部門ニ立チ入ル問題ノ如キ外観ヲ呈シ、公ノ方ノ国際経済会議ニ於テ極メテ詳細ニ立案スル場合ニハ、日本ノ案又ハ要求トシテ適当ノモノデスガ、今聯合会ハ国際経済会議鞭撻、輿論指導ト云フ概括的立場カラ理想論ヲ発表シテ大勢ヲ動カサウト云フ場合ニアルモノデ、沿岸航海ト云フ一部門ヲ特ニ挿入スル場所ガ見付カリマセンデシタ。私ハ「ヘンチ案」第二点討議ノ際、出来ルナラ此文字ヲ入レタイト云フコトヲ希望シ、各委員ニ於テ何等ノ反対ハアリマセンデシタガ、事実上挿入ノ箇所ナク、結局運輸手段ノ前ニ「凡テノ」ト云フ文字ヲ入レ、本小委員会ニ於テハ此「凡テノ」ト云フ文字ノ中ニ、沿岸航海モ含マレルモノト了解スルト云フコトニ決定シテ妥協致シマシタ。
    昼食ノ休憩時ニ私ハ「ヘンチ」氏ト相談シマシタガ、同氏ノ意見モ特ニ此際沿岸航海ナル文字ヲ挿入スルコトヲ主張セザル方適当ト考ヘルシ、又決議案ノ体裁上実際此文字ノ置キ場ガ無イヤウニ見ヘルト思フト云フコトデシタ。又議長バーンス氏ト話シマシタガ、同氏ハ議長トシ此文字ヲ挿入スル機会ヲ作ルコトニ努力シヤウト約シ、午後ノ会合ノ際、議事終焉ノ頃、私ニ向ツテ沿岸航海ヲ入レル場合ガ見付カツタカト特ニ注意シテ呉レマシタガ、私ハ決議案全体カラ見テ之ヲ挿入スルコト不可能ナルヲ思ヒ、又既ニ「凡テノ」ト云フ文字ニテ各委員ノ好意ヲ得テイルコトデスカラ、其儘ニシテ置クコトヲ答ヘテ置キマシタ。
 (三)「人間ニ対スル国境(移民問題)及物ニ対スル国境(関税問題ヲ一般ニ除去スベシ。ソシテ先ヅ労働市場ノ需要ニ就イテ考慮ヲ払フベシ。」
  ト云フ決議案デス。之ヲ文字通リニ解セバ自由移民ノ制度トナシ関税ハ全廃スベシト云フノデ、現状ヲ飛ビ離レタ議論ノヤウニモ見ヘマス。理想的見地カラ云ヘバ如何ニモカクアルベキ筈デシヤウガ現実カラ遠イヽトノ非難ハ免レマスマイ。委員会ニ於テ何等反対ノ声モ上ラズ、スラスラト通過シタノガ物足ラナイ位デシタ。之ニ関
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シテモ三点ヲ注意致シマス。
  1、移民問題ニ関シテハ別ニ「ハルバン」氏ノ案ガアリマスモノデ、「ヘンチ」案ニ於テハ別ニ細論ニ立入ラズ、大体ニ移民自由ノ原則ヲ述ベルコトガ適当デ、之ニ関シテハ前日「ヘンチ」「ハルバン」及私ノ間ニ申合セヲシテ置イタ次第デス。
  2、「先ヅ労働市場需要ニツイテ考慮ヲ払フベシ」ト云フ文句ハ「ハルバン」氏ノ意見ニヨツテ挿入サレタモノデ、「ハルバン」氏ノ移民問題ノ報告ハ主トシテ労働ノ需要供給ノ点ヲ中心トシタモノデスカラ、特ニ之ニ関係セシメル為メニ右ノ如キ文句ヲ「ヘンチ」案ノ中ニ挿入セシメタノデス。
  3、日本協会ノ提案中ニハ「関税ノ一斉引下」ト云フ項ガアリマス。日本協会案ハ関税撤廃マデハ要求スルノデアリマセンガ、理論カラ云ヘバ結局関税撤廃ニ到達スルモノデアリ、又人及物ニ対スル国境撤廃ト云フ理想的文句ニ対シ躊躇ヲ示スハ従来人種平等・通商衡平等ヲ主張シ来レル日本協会ノ立場上不得策ナリト信ジ、本案ニ賛成シテ置キマシタ。
    即チ日本協会ノ主張ノ第二点タル関税引下ノ件ハ、之ニ包含サレテ承認サレタコトニナリマス。第一項タル「輸出入禁止ノ廃止特ニ原料・燃料ノ輸出入禁止ヲ廃止スベシ」ト云フ件ハ、「物ニ対スル国境ノ除去」ト云フ大キナ文字ノ中ニ含マレテシマヒマス。従ツテ日本案ノ此点モ承認サレタコトニナリマス。
    実際問題トシテハ人及物ニ対スル国境ガ全部除去サレルト云フコトハ問題トナラズ、「如何ナル程度ニテ」ト云フコトガ問題トナリ、従ツテ其場合ニ原料・燃料ノ輸出入自由或ハ関税ノ引下ガ問題トナリマス。
 (四)貨幣問題
 「貨幣ヲ一般ニ安定サセ、ソレニヨリテ為替ヲ安定セシムベシ」
  ト云フ決議案デス。為替ノ実際ノ安定ト云フコトハ有リ得ナイコトデアル(洪国協会委員)ト云フ論モ出マシタガ、議長ハ「六ヅカシイ議論ハサテ置イテ、兎モ角ソレガヨイ事ナラ、決議シテ置イテモヨカローガ」ト極メテ常識的ニ促シ、別ニ異議ナク通過シタノデス。
 (五)ハ、「貯蓄及信用ヲ一層道理ニ合ツテ利用シテ、経済及財政ノ智慧ヲ発達サセル」ト云フ如何ニモ平凡ノ一項。
 (六)「労働及事業ヲ一層道理ニ合ハシテ組織スルコトニヨツテ、工業ノ生産ヲ増加シ、其原価ヲ減ズルタメニ適合セル手段方法」ヲ採レト云フノデス。
 右決議案ハ結論トシテ次ノ大議論ヲ掲ゲテ居マス。
 生産ト消費トノ間ニ確固タル関係ガ成立シ、一度関税ノ障壁ガ崩サレ(移民問題モ其解決ノ途上ニアル場合)人民ト人民トノ間ノ関係ガ今ヨリ遥ニ容易ニナリ、為替ガ安定シ、貯蓄及信用ノ使用及分布ガ可能ニナツタ時ニハ失業問題モ其解決ノ緒ニツキ、物価ノ変動ノ程度モ減ズルデアラウ。
 一国ノ政治家ハ其人民ノ生活ヲ保障スル必要ヲ感ジ、経済的国際競
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争ノ精神ニ駆ラレルモノデアルガ、経済ヲ国際的ニ管理シ、各国ガ満足スル如キ協定ノ道ニ進ムニ於テハ此国際競争ノ必要モ減ジ、従ツテ労働条約ノ批准モ容易ニナル。以上ノ条項ガ実現サルヽニ於テハ既ニ存在セル社会問題或ハ労働条約ノ対象タル社会問題、例ヘバ労働時間賃銀、労働者ノ生活条件等ノ問題ハ益々容易ニ解決サルヽニ至ルデアラウ。
 成ルベク多クノ物ニツイテ管理サレタル国際協定ガ成立シ、各国民ガ互ニ相依頼シ合フ関係ニナレバ、平和ハ軍縮ニヨルト同ジヤウニ経済的方面カラ確保サルヽニ至ルデアラウ。
    移民問題
 第五十八回ノ理事会ニ於テ日本ノ聯盟協会ハ国際経済会議ニ関スル提案ヲ決定シ、移民問題ニ関シテハ、
  「労働ノ需給ヲ純経済的立脚地ヨリ全世界的ニ調節スル為メ移民ノ問題ヲ徹底的ニ調査」
スベシト云フ案ヲ作成シ、コレハ直接ノ提案トセズ出席代表者ノ注意ヲ喚起スルノ程度ニ止ムルコトヽ決定シタノデシタ。
 三月九日ノ会合ノ際ニ提案サレタ日本協会ノ案ハ、(一)天然資源特ニ工業原料及燃料ノ輸出入自由、(二)関税率一斉引下、(三)沿岸航海解禁ノ三件デ、移民問題ハ提案サレマセンデシタ。然ルニ波蘭協会委員「ハルバン」氏ガ、労働事務局側ノ意見ト称シテ四項ノ提案ヲ出シタ中ニ「移民ノ一般的調整」ト云フ一項ガアリマシタ。ソシテ「ハルバン」氏ガ移民問題ニ関スル報告者トナリ、四月ノ武府ニ於ケル第二回会合ノ時ニ報告スルコトヽナツタノデス。
 三月ノ会合ノ際「ハルバン」氏ハ移民問題ハ日本ニモ大関係アリト云フ関係上、日本協会代表タリシ河合参事官ニ対シテ共同報告者トナランカト希望シタ行掛リモアリマシタカラ、私ハ河合参事官ノ御依頼ニヨリ、「ハルバン」氏ニ対シ移民問題ニ関スル巴里案(聯合会ノ国際委員会ニ於テ起草サレ、決議案トシテ「ワルソー」ニ於ケル第九回総会ニ提出サレ、英国ノ反対ノ為メ一年延期中ノ案)及「ホノルヽ」ノ大会ニテ高柳氏ガナセシ演説ノ写シヲ送リ、次ノ意味ノ手紙ヲ添ヘテ置キマシタ。
  「日本ノ聯盟協会ハ今回ノ経済会議ニ関シテハ、国際経済会議ハ労働ノ需要ヲ純経済的立脚地ヨリ全世界的ニ調節スル為メ、移民ノ問題ヲ徹底的ニ調査スベシ」ト云フコトヲ決議致シマシタ。私ドモノ考ニヨレバ、移民問題ハ世界経済ノ再建及其進歩ノ為メニハ頗ル重要ナモノデアツテ、之ヲ看過スルニ於テハ経済会議ノ真ノ目的ハ達セラレナイモノデアラウト存ジマス。同封ノ巴里案及高柳氏ノ演説ハ移民問題ヲ純経済的立場カラ取扱ツタモノデハアリマセンガ、大体ニ於テ日本協会ノ希望ヲ表ハシテ居ルモノデスカラ御参考マデニ」
 四月九日「ハルバン」氏ト「ヘンチ」(瑞西)氏ト私ト三人会見シ、明十日ノ小委員会ニ対スル打チ合セヲ致シマシタ。ヘンチ氏トノ会見ノ意義ハ同氏ノ提案タル国際経済会議一般議案中移民ニ関スル部分ト「ハルバン」案ト矛盾セヌ様ニ仕組ミ、且ツ相補充シ合フヤウニ打チ
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合セル為メデシタ。
 「ハルバン」氏ハ私ノ手紙及巴里案、高柳氏ノ演説ヲ持参シ来リ、日本ノ云ヒ分ハ誠ニ尤デアル、只問題ハ此精神ヲ上手ニ云ヒ廻ハシテ国際経済会議ニ結ビ付ケルコトニ在ルト云ツテ、自分ノ考ヲ大体次ノヤウニ述ベマシタ。
  「失業ト移民問題トハ密接ノ関係ガアル、又人類ガ個人トシテ、此地球上ニ於テ自由ニ何処ニモ移動シ得ルト云フ原則ハ、人道上カラ云ツテモ之ヲ認メナケレバナラヌ。人・物・原料ノ自由移動ハ原則トシテ認メナケレバナラヌ。此場合国家ノ主権ト云フモノハ、無制限ニ之ヲ解釈シテハナラヌ。先ヅ移民ノ入国ヲ許可スル条件ニ関シテハ単ニ個人的区別ニヨリ、人種又ハ国家ノ区別ヲシテハナラヌ。又一面ニ於テハ労働市場ヲ基礎トシテ考慮シ、労働市場ノ状態ガ移民ノ入国ヲ許スニ於テハ、此際モ必ズ客観的個人的標準ニヨルベク、決シテ人種又ハ国ノ区別ヲシテハナラヌ。
   労働ノ需要供給ニ関シ世界的ニ統計ヲ完成シ、労働ノ需供ノ大小ヲ明示スルコトガ必要デアル。労働力ノ需要ノアル地方ニ対シ何人ノ労働者ヲ入国セシムベシト命令スルコトハ不可能デアルガ数字ヲ明示スルコトハ有益デアル。此案ハ「ルシュール」ハ受ケナイデアラウシ、又英米ニハ不愉快ノコトデアラウガ吾人ハ先ヅ輿論ヲ作リ、輿論ヲ以テ大勢ヲ動カスヤウニシヤウデハナイカ。労力ヲ世界ニ均シク分配シ、原料ヲ公平ニ分配スルコトガ必要デアル。波蘭ハ日本ノ主張スル人種平等論ニ全ク同感デアル」ト
 私ハ移民問題ハ日本ニトツテハ人口上ノ問題トシ、又精神上ノ問題トシ極メテ重大ナモノデアルカラ、聯合会トシテモ十分考ヘテ貰ヒタイト云フ希望ヲ述べテ置キマシタ。其晩「ヘンチ」氏ハ議長「バーンス」氏ト会談シ、「ハルバン」氏ノ意思ヲ伝ヘ、「バーンス」氏ノ同意ヲ得テ置キマシタ。私ハ他方、巴里案及高柳氏演説ノ写シヲ「バーンス」氏ニ渡シテ置キマシタ。十日ノ朝バーンス氏ハ朝食ノ際、私ニ対シテ日本ノ主張ハ実ニ正当デアル、自分モ全ク同感デアルト云ツテ居マシタ。
 十日ノ会議ニ於テ移民問題ガ議セラレタノハ、午後四時頃、僅ニ二十分位ノ間デス。「ハルバン」氏ハ九日私ドモト打チ合セノ後ニ急イデ案ヲ起草シ、会場ニ於テ始メテ其写シヲ配布シタノデスカラ、各委員ハ其案ヲ十分研究スル暇ナク、従ツテ何レカト云ヘバ軽々シク通過シテシマツタノデス。
 「ハルバン」氏ハ昨日私ドモニ話シタト同様ノ説ヲ主張シ、決議案ヲ読ミアゲマシタ。其内容ハ次ノヤウデス。
   『移民ノ一般的調整ニ関スル勧告、
  労働条件ノ一律化ハ移民ヲ国際的ニ調整シ、以テ個人ノ循環移動ノ自由ヲ確保スルニアラザレバ其実現不可能ナルモノナリ。
   又個人ノ移動循環ヲ障害スルニ於テハ失業防止ノ努力ハ其実効ヲ挙グルコト難カルベシ。
   又一方一国ノ立法ハ一国ノ領土内ニ限ラルヽモノナルヲ以テ移民ニ関シ各国ノ立法ヲ統合シ、以テ国際的処置ヲ適用スルコ
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トヲ確保スルコトニヨツテ不用ナル軋轢ヲ減少セシメルコト絶対ニ必要ナリト思考ス。
    故ニ国際経済会議小委員会ハ次ノ案ヲ勧告ス。
   一、 国際労働機関ノ国際移民委員会ハ、各国ニ於ケル労働市場ニ関スル正シキ且権威アル、材料ヲ示ストコロノ国際統計ノ制度ヲ立案スベシ。
   二、同委員会ハ地球ノ各部分ニ於ケル労働需要ヲ均衡セシムル方法、及失業者ヲ散布配分スルコトニヨリ、或国ニ於ケル失業ヲ防止スル方法ヲ研究スベシ。
   三、右ノ散布配分ハ単ニ労働市場ノ問題ノ需要ノミニヨツテ決セラルベシ。
   四、又右ノ散布配分ハ労働条件、賃銀、社会保険等ヲ毀損スルコトナク行ハレザルベカラズ。外国労働者ハ其国労働者ト平等ニ待遇サルベシ。』
「ハルバン」ノ説明ニ次イデ私ハ次ノ意味ヲ述ベテ置キマシタ。
 「移民問題ハ日本ニトツテハ重大ナル国民的問題デアツテ、之ヲタトヘレバ欧洲ノ「ロカルノ」ノ如キモノデアル。日本国民ハ此問題ヲ以テ国際聯盟ノ門ヲ叩キ遂ニ正義ノ戸ガ開カレルノヲ待ツデシヤウ。仮令日本ノ政府ガ沈黙シテイル場合ガアツテモ国民ハ此問題ヲ忘レテイルノデハアリマセン。私ハ日本ニ於テ国際聯盟運動ニ従事シテイマシタガ、人種平等ニ反対シ、又ハ移民入国ニ関シ不平等待遇ヲスル白人ノ正義トハ何カト云フ質問ヲ多ク受ケタコトガアリマス。日本国民ハ世界的正義ガ国際聯盟ニヨリテ開カレンコトヲ期待シ、従ツテ移民問題ガ国際聯盟ニヨツテ全人類的ニ解決シテ行クコトヲ希望シテ居マス。
  国際経済会議ニ関シテモ聯合会トシテハ移民問題ヲ十分考慮セラレンコトヲ希望スル。労働力ト云フ点カラ移民問題ヲ取扱フ際ニモ諸民族平等待遇ノ立場ヲ忘レルコトナク、例ヘバ入国ノ際ニハ絶対ニ個人的基礎ニ立ツテ之ヲ考慮シ、決シテ人種或ハ国家ヲ区別ノ標準トシテハナラナイト思ヒマス。」
  「ハルバン」ノ意思ニ依レバ、決議案第三項ニ「右ノ配分散布ハ単ニ労働力ノ云々」ト云フ文句中「単ニ」ト云フ意味ガ深遠デアツテ、此裏面ニハ決シテ人種又ハ国家ヲ区別ノ標準トシテハナラヌト云フ意味ヲ包含サセタ積リダソーデス。
「ハルバン」案ハ同氏ニ於テモ実ハ急イデ起草シタモノデアリ、各委員ニ於テモ研究ノ時間ナク通過サシテシマツタモノデスカラ、来ルベキ総会ノ際ニハ修正案ガ出ルカモ知レマセン。日本ノ立場トシテハ失業ト云フ点ヨリモ一方ニハ人口稠密ノ地方アリ、他方ニハ人口稀薄ノ地方アリ、此間ノ調節ヲハカルコトガ世界全体ノ経済発達カラ観テ必要デアルト云フ論拠ニヨルコトガ適当デシヤウ。労働ノ需要ト云フコトモ、既存ノ生産手段ヲ標準トシテ決定スル場合ト、人間ガ増加スレバ未知ノ、又未開ノ天然資源ヲ開拓シ得、ソレガ世界経済ニ貢献スル所以デアリ、ソコニ労働ノ需要アリト云フコトガ出来マシヤウ。
 此決議案ハ国際労働機関ノ移民委員会ニ報道トシテ送リ届ケラレマ
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ス。聯合会ノ国際労働機関及社会法制委員会議長「ソカール」氏ノ裁量ニヨリ、参考トシテ国際経済会議準備委員会ニモ届ケラレルカモ知レマセン。「ハルバン」氏ハ「ソカール」ニ対シソースルヤウニ手紙ヲ出スト、私ニ告ゲテ居マシタ。
因ニ、移民問題ニ関スル巴里案(聯合会ノ国際委員会ガ作成シ、昨年ノ「ワルソー」ノ総会ニ於テ、一年延期ト決定セシモノ)ハ右ノ「ハルバン」案ト関係ナク本年(大正十五年)ノ六月下旬開カルベキ聯合会総会ニ提出サレマス。各国協会カラノ意見又修正案ガ沢山来ル筈デス。英国協会ハ又々長イ意見ヲ提出スルソーデス。
    国際経済会議準備委員会ノ組織ニ関スル提案
 三月ノ会合ノ際「ヘンチ」氏(瑞西)ハ国際経済会議ノ構成及継続ノ問題ニ関スル報告者トシテ選定サレ、従ツテ四月ノ会合ニ於テハ第一項ヲ準備委員会ノ組織トシ、第二項ヲ国際経済会議ノ構成及継続ニ関スルモノトシテ、両項ヲ報告ノ中ニマトメタモノヲ提出シマシタ。然ルニ第一項ハ早ク準備委員会ニ対シテ報告シナケレバ役ニ立タナイモノデスカラ、第二項カラ分離サセ独立ノ決議案トシテ、他ノ一般案(ヘンチ氏提出国際経済プログラム)ト共ニ、之ヲ聯合会ノ常設委員会タル国際労働機関及社会法制委員会ノ議長ソカール氏ノ手ヲ経テ、四月二十六日以前ニ準備委員会各委員ニ報道トシテ送リ届ケルコトヽナツタノデス。
 準備委員会ノ組織ニ関スル提案ハ、多少ノ修正ヲ加ヘテ次ノ如キ決議案トナツテ、小委員会ヲ通過シマシタ。
「国際経済会議準備委員会ハ出来ルダケ早ク仕事ヲ始メナケレバナラナイ、早ク実際ノ解決ニ到達スル為メニ、各種ノ生産及循環ノ部門カラ専門家ヲ選ンデ専門家委員ヲ構成シ、此委員会ガ組織アル文書証明ノ仕事ヲ引キ受ケ、経済状態ノ難問ノ原因ヲ探求シ以テ国際経済会議ニ報告スルヤウニセヨ。又一九二〇年ノブラツセル会議ノ仕事ヲ受持ツ特別委員会ヲモ構成セヨ。」
    国際経済会議ヲ常設組織トスル提案
 多少ノ修正ヲ加ヘ次ノ如キ決議案ガ通過シマシタ。
「国際聯盟協会聯合会ハ国際経済会議ガ常設的ノ組織トナツテ継続スルヤウニ輿論ヲ導ク必要ガアル。即チ此常設的組織ハ、国際聯盟ノ技術的機関特ニ経済恐慌ニ関スル小委員会ヲ基本トシ、之ニ各方面ノ利害関係(農・工・商・消費)ノ代表者及其他必要ナル専門家ヲ加ヘテ組織スルヤウニシタラヨカラウ。
 此常設機関ノ使命ハ国際経済委員会ニヨリテ提案サレタル経済救治策ヲ実際ニ適用実行スルニ在ル」
    労働条約批准ニ関スル決議案
 本案ハ本件報告者タル「バーンス」氏(議長、英)ノ起草セル決議案デ、同氏ガ読ミアゲタヾケ即チ五分間ニテ通過セシモノデス。此決議案ハ来ルベキ総会ヘ、其際開カルヽ常設委員会ヲ経過シテ提出サレルモノデス。
 決議案ノ内容ハ、
「労働条約批准ノ問題ハ欧洲経済再建ニ関シ益々重要ナル問題トナツ
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テ来タ。
 国際労働機関ハ過去七年間ニ二十ノ条約ヲ採択シタガ、其中単ニ四分ノ一ノミ批准サレタニ過ギヌ。
 其結果国際労働機関ハ威信ヲ失ツタ。ソコデ次ノ二項ヲ結論トシテ提議スル。
 一、国際経済会議ニ於ケル専門家ハ勧告ヲナシ、又条約ヲ起草スル場合ニハ常ニ輿論ノ状態、経済及社会事情ヲ顧慮スベシ
 二、勧告ガナサレ、又条約ガ作成サレタ場合ニハ各国政府ガ競争シテ批准スルヤウニ政府ノ前ニ之ヲ目立ツテ突キツケル手段ヲ講ズベシ。」
    労働条約ノ条件附批准ニ関スル決議案
 コレハ「ハルバン」氏ガ思ヒ付イタヤウニシテ急イデ提案シタモノデアツテ、殆ンド議論ナク一同ノ承認ヲ得タモノデス。決議文ハ、
 「条件附批准ハ労働条件ノ一律化ニ障害ヲ与ヘルモノデアルカラ、各国政府ガ条件附批准ヲ避ケルコトヲ希望スル決議ヲ、第十回総会ガ採用センコトヲ提議スル」
因ニ、条件附批准トハ条約ノ内容ニ関スル留保デハナク、条約ノ実施ノ期日ニ関スル条件デス。即チ批准ハシテ置クガ、我国ノ批准ハ他ノ甲乙丙ノ国々ガ批准シタ時ニ始メテ効力ヲ発スルモノナリトノ条件附デス。主トシテ一九一九年ワシントンニ於ケル、第一回労働総会採択ニ係ル一日八時間一週四十八時間労働時間制ニ関スル条約ニ関シテ起ツテイル問題デス。
    会議ニ関スル感想ト注意事項
(一)ドーモ余リ力ノ入ツタ会議デハアリマセンデシタ。仏伊ノ協会ガ欠席シテイルコトモ其原因デアツタカモ知レマセン。
(二)「ハルバン」ノ移民問題ノ案モアツケナク通過シマシタ。コレハ一面ニ於テハ会合前ニ波・日・瑞西ト英(議長)トノ了解ガ出来テイタカラデシヤウガ、他面ニ於テハ移民問題ニ関スル反対派ガ有力ニ代表サレテイナカツタコトガ原因デシヤウ。
(三)議長「バーンス」ハ実ハ議長デ、英協会ノ代表ハ「ガーネット」デ、同氏ガ欠席シタカラ、英ガ欠席シタヤウナモノヽ、議長バーンス氏ガ英ヲ代表シテイルト解スコトモ出来マス。
 兎モ角「バーンス」氏ハヨク云ヘバ公平、悪ク云ヘバ無関心、呑気デ英国ノ利益ヲ代表スルト云フヤウナ態度ハ毛頭ナク他国人ガ出席シテイルヤウナ感ジヲ与ヘテ居マシタ。
(四)決議案トシテ通過シタモノハ偶然ニ提出サレタ案デスカラ、全体カラ観レバ片手落ノモノデス、又何レモ提案者以外ニ研究スル時間ガアリマセンデシタカラ、審査不十分ノ間ニ通過シタト云フ嫌ガアリマス。午前・午後ノ二回ノ会合デ、カヽル広般ノ問題ニ関シ、立案シ、決議スルコトハ軽率ナル行キ方デハアルマイカト愚考致シマス。聯合会トシテ、此等ノ点ハ慎重ニ考ヘナケレバナラヌモノカト存ジマス。
(五)移民問題ト労働問題トガ結合シテ取扱ハレテ来ル傾向ガアリマス波蘭人等ノ考ヘル移民問題ハ主トシテ欧洲内ノ移民問題デ、労働力
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及失業ト云フ方ガ重ナル点トナルヤウデス。其他国際労働機関ノ方デ取扱フ移民問題ニハ、戦後ノ避難民問題モ重イ要素ヲナシテイルヤウニ見ヘマス。
  日本ノ関スル移民問題ハ人口問題、人種問題ノ方面ニ傾キマスガコレカラハ労働力ノ問題、労働条件ノ問題或ハ失業ノ問題モ加味シテ全体トシテ移民問題ヲ研究シ、配列シ、区分シ、統合シテ立案シ以テ本問題ヲ国際的ニ解決スルノ準備ヲシテ置クコト必要カト存ジマス。
(六)「ハルバン」案中労働条件ノ「一律化」トアリマスガ、文字トシテハ此一律化ナル語ハ不適当カモ知レマセン。低下シテ一律トナルノデハナク、向上シテ一律トナルノガ国際労働論ノ目的デアラウト存ジマス。



〔参考〕国際聯盟協会報告(二)(DK370006k-0009)
第37巻 p.54-63 ページ画像

国際聯盟協会報告(二)          (渋沢子爵家所蔵)
  大正十五年六月九日
                    国際聯盟協会事務所
    渋沢会長殿
拝啓、陳者去る四月下旬ジユネーヴに開催の国際経済会議準備委員会に於ける議事の要領、本会在欧嘱託稲垣守克氏より別紙の通り報告有之候間御高閲願上候 敬具
(別紙・謄写版)
    国際経済会議準備委員会(ニ関スル資料及報告、其一)
                    (日本国際聯盟協会関係書類)
 国際経済会議準備委員会ハ大正十五年四月二十六日ヨリ五月一日マデジュネーヴニ於テ開催サレ、委員会ハ(A)金融・財政・農業・人口(B)生産、(C)通商ノ三分科会ニ分レ、先ヅ「ドキュメンテーション」ノ基礎項目ヲ定メ(報告第二)、本年十月再ビ集会シ、材料ヲ整理シ国際経済会議ノ原案作成ニ取リカヽルコトヽナリマシタ。
 コヽニ掲グルモノハ準備委員会ニ出席サレタ杉村陽太郎氏ガ会議閉会後直チニ『国際知識』ノ為メニ口述サレタモノデアリマシテ、準備委員会ニ於ケル空気、並ニ国際経済ノ大勢ニ関連スル諸問題ニツキ縦横ノ観察ヲ下サレタモノデアリマス。文責素ヨリ筆記者タル私ニ存スルコトヲオ断リシテ置キマス――稲垣守克。
                大正十五年五月五日巴里ニテ
    国際経済会議準備委員会ニ出席シテ
     ――世界経済ノ恢復トハ何カ――
                      杉村陽太郎
      目次
一、総論世界ノ大勢、国際経済会議ノ意義、準備委員会ノ一般空気
二、各論
  一、金融・財政
  二、通商
  三、生産
  四、消費者
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  五、人口
  六、交通
  七、日本
    総論
 世界大戦ニヨリテ破壊サレタル欧洲経済ヲ如何ニ立直スカハ、欧洲白身ニトリテ死活問題ナルノミナラズ、米国及亜細亜ノ為メニモ重大ナル事柄デアル。ハーバート大学ノ経済学教授ニシテ、巴里平和会議ノ際経済委員会ノ委員長トシテ腕ヲ振ヒ墺洪両国経済恢復ノ為メ屡々渡欧シ建策セル「ヤング」氏ノ如キハ「米国ハ欧洲ヲ失ヒテ存立シ得ルモノニアラズ、米国ノ文明殊ニ科学又ハ技術カ欧洲ノ教ヲ受ケテ発達シ、欧洲ノ発達ニヨリ刺戟サレ発達シ、欧洲ニ劣ラザラント努ムルタメ不断ノ努力ヲ続ケルト同様ニ、金融経済ノ関係ニ於テモ欧米ノ間柄ハ密接ナリ。米国ノ経済ハ一見欧洲ノソレト独立シ居ルカノ如ク見ユレド有形無形到底欧洲ト離ルベカラザル関係ニ立ツ。数年来米国ガ採リシ固陋ナルモンロー主義ノ為メ、曾テハ米国ニ対シ賛辞ト香餌トヲ呈シ以テ其歓心ヲ求メント図リシ欧洲各国モ、今ヤ相結束シテ米国ニ当ラントスル気勢ヲ示シツヽアリ。ロカルノハ其政治上ノ現ハレデアリ、経済会議ノ原動力トナレル独仏工業ノ協力ハ其経済上ノ発露ナリ」ト会議中余ニ向ツテ切実ニ話シタ次第デアルガ、コレ米国識者ノ一面ノ観察ヲ示スモノデハアルマイカ。
 然ラバ英国ハ如何。英帝国ヲ統一シテ経済上ノ一大団結ヲ組織スルナラバ自給自足敢テ他ニ頼ルノ必要ナキカニ解セラレ、斯ク高言スル短見者流モアレド、「サー・アーサー・バルフォア」ノ如キハ英国ノ地位ニ関シ次ノ如キ感想ヲ余ニ漏シタノデアル、曰ク「欧洲大陸ヲ失ヒシ英国ハ病メル馬ノ如シ、英国ノ海外貿易ニ溌剌タル活動ヲ与フルモノハ独仏其他ノ西欧文明国ナリ、欧洲大陸ノ恢復ハ英国ノ恢復ヲ意味スルモノナリ、英帝国ノ領土ハ広大ナリ、其天賦ノ資源ハ無限ナレド所謂経済組織ノ完全セザル広大ナル領土ハ他ヨリ羨マルヽ程英国ノ恢復ニ直接ノ援助ヲ与ヘウル実力ヲ有スルモノニアラズ、特ニソレガ本国ヨリ遠隔ノ地ニ存在スル場合ニ於テ然リ」ト。
      ○
 「ヴェルサイユ」平和条約、一九二〇年ノ「ブラッセル」財政会議一九二三年ノ「ゼノア」経済会議、一九二四年ノ「ロンドン」賠償会議ハ何レモ欧洲ノ再建ヲ期スル重要ナル階段デアツタガ、ソレニモ拘ラズ一般ノ趨勢ハ極端ナル保護政策・排他主義ニ進ミ、之ガ為メニ殆ンド世界経済行詰リヲ呈シ来ツタノデアル。此際人智ノアラン限リヲ搾リ人類全般ノ為メニ一転期ヲ劃サネバナラヌト云フ自然ノ要求ニ動カサレテ、国際聯盟ガ国際経済会議ノ招集ヲ決スルニ至ツタノデ、特ニ此会議ハ政府ノ会議デハナク、現実ニ経済界ニ生キ、其情誼ニ通ジ其真相ヲ明ニセル銀行家・工業家・農業者・財政家・労働者・交通業者・消費者等ヲ集メテ、彼等ノ生ケル経験ニ基キ現在ノ状態ニ適切ナル救済策ヲ案出サセ、之ヲ各国政府、議院及輿論ニ知ラシメ各国将来ノ政策改善ノ原動力トナサントシタノハ時機宜シキヲ得タモノト考ヘラル。従ツテ政府ノ代表者ガ全権委任状ヲ携ヘテ、将来関係国ヲ拘束
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スル条約ヲ締結スル会議デモナク、又列国ノ政治家ガ主トシテ外交・軍事ノ見地カラ政策ノ根本方針ニツキ了解ヲ求ムル会議デモナイノデアル。現在ノ事実ヲ確カメ之ガ救済策ヲ考案シ、全然中立ノ態度ニテ之ヲ世界ニ発表スルコトガ其職分デアル。国際聯盟ハ超国家ニハアラザルモ、超国家的先覚者、超国家的指導者、超国家的忠告者ナリト云フ言葉ハ会議中屡々各委員ノ口カラ発セラレタトコロノモノデアル。
      ○
 会議ノ提案者タル仏ノ前蔵相「ルシュール」ノ失脚、独ノ聯盟未加入、従ツテ「ロカルノ」条約効力未発生、ロシヤノ会議参加拒絶等、会議開催前多少悲観的材料モアリシガ愈々準備委員会ヲ開イテ見ルト一方ニハ米国ニ対スル各国ノ戦時債務ガ着々整理サレ出シタコト従ツテ聯合国間ノ債務関係ニ一道ノ光明ヲ認メウルニ至レルコト、他方ニハ独仏ノ間ニ曲リナリニモ通商条約成立シ、欧洲各国ノ間ニ何ト云フコトナシニ融和ノ空気ガ漲リ始メタト云フ事実ガ準備委員会ニ開会ノ劈頭ヨリ好影響ヲ与ヘ、自由ノ色、協調ノ気分ガ各委員ノ顔ニ現ハレテ居タコトハ注意ニ値スベキコトデアル。従ツテ討議スベキ問題ノ範囲ノ如キモ成ルベク広クシ、研究ノ歩ヲ進ムルト共ニ最モ重大ナル病根ヲ発見シ之ガ救済策ニ主力ヲ傾倒セント云フ了解モ出来タノデアル昨年ノ第六回総会ニテ会議開催ガ決セル時英ノ如キ大ニ其成功ヲ憂慮シ、例ヘバ移民問題及聯合国間ノ債務問題ノ如キハ余リニ難件ナレバ之ヲ討議事項ヨリ除外スル了解ヲ定メ、加之理事会ヲシテ絶エズ会議ノ事業進行ノ模様ヲ監視セシメ、場合ニヨリテハ思ヒ切リタル干渉サヘモ行ハシムル手筈ニセシガ、凡ソ経済上ノ問題ハ相関聯シテ其間ニ有機的関係ヲ有スルモノナルヲ以テ人口問題トカ、外債問題ト云フ如キ重大ナルモノヲ除外シテ到底満足ナル解決ハ得ラレヌトノ理由ニテ此等モ皆討議研究ノ範囲内ニ加ヘラレルコトヽナツタノデアル。
 斯ク自由ノ空気ガ会議ヲ支配セルハ、政府ノ代表者ノミヨリ成立スル会議ニテハ到底見ラレヌトコロノモノデアル。政府官僚ナル機関ハ一国ヲ治ムル上ニ欠クベカラザル機関デアルガ、政府代表者ノ会議ニ於テハカヽル自由ノ空気ヲ見ルコト不可能デアツテ、ソレハ人民ノ真ノ希望ヲ発露サセルニハ余リニ型ニ囚ハタルモノトナリ、何トナク束縛サレタル、従ツテ角ノ多キ、動キノ付カヌ、融通ノ利カヌ、条理ニ反シ、自然ヲ無視スル臆病ナ、無智ナ仕事シカ出来ヌコヽトナルノデアル。然ルニ今回ノ会議ノ如キハ各委員皆自分ノ研究、自分ノ良心、自分ノ主張以外何モノモ持タヌ理デアリ、仮リニ其気分ニ不純ノ分子ガアルトシテモ、ソレハ従来自分ガ誤ツテ主張セル点ヲ庇ハントスル卑怯ナル考カ、又ハ同業者ノ利益ヲ保護セントスル実業家本来ノ利己心ニ止ルノデアツテ、所謂極端ナル帝国主義トカ軍国主義トカ云フ恐ロシキ思想ノ結晶ヲ見ルガ如キコトハ無カツタノデアル。
      ○
 戦後ノ世界経済ノ方向ヲ誤マラシメシモノヽ一ハ英国ノ保護政策デアラウ。新興国ガ関税ノ檣壁ヲ高クシ、其幼稚ノ産業ヲ保護シ、戦前ノ大工業国ヲシテ在来ノ市場恢復ニ極度ノ困難ヲ感ゼシムルコトニ対シ英国ハ不平ヲ唱ヘルノデアルガ、新興国側ヲシテ云ハセレバ、折角
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独立シ得タル政治ヲ有形化サセル為メニハ、是非トモ重要産業確立ヲ期セネバナラヌノデアリ、保護政策ハ其当然ノ結果デアル。然シナガラ自分ガ何トナク受身デアリ、防守的デアリ、他ノ発展ニ禍サレツヽアリト感ズル気分ハ大国モ小国モ、農業国モ工業国モ、老国モ新国モ異ラヌノデアツテ、之ガ相互間ノ猜疑心トナリ、保護政策ノ色彩益々濃厚トナリ、今日ノ逆勢ヲ導クニ至ツタデノアル。一方、無理ニ人為的ノ保護ニ出ズルモ愚、他方、時勢ノ進展ヲ顧ズ、戦前ノ優越的地位ヲ当然恢復シウル権利アルカノ如ク解スルノモ誤デアル。智者ノ一考ヲ要スル点ト云ハザルヲ得ズ。国際会議ノ効能ハ此点ニ於テ顕著ナリトデモ云ハフカ――卓ヲ囲ンデ腹蔵ナク各自ノ実情ヲ披瀝シテ見ルト互ニ同ジヤウナ原因ニヨリ、同ジヤウナ程度ニ苦シミツヽアルコトヲ発見シ、之カ救済ハ矢張リ共同ノ措置以外ニ見出シ得ヌコトヲ感得スルノデアル。
      ○
 準備委員会ニ出席セル各委員ノ顔振ヲ見ルニ、英ハ実業界ノ巨頭、才物サー・アーサー・バルフォア(Sir Arthur BALFOUR)、事実上ノ商務大臣「スミス」(Sir Hubert Llewellyn SMITH)、若年ノ実業経済学者「レイトン」(W. T. LAYTON)、仏ハ通商条約ノ世界的権威「セルイ」(D. SERRUYS)、鉱業界ノ大立物「ペイェリモフ」(Henri de PEYERIMOFF de Fontenelle)、労働界ノ巨星「ジュオー」(L. JOUHAUX)。独ハ経済ノ天才ト云ハレル「トゥレンデレンブルグ」(Dr. Ernst TRENDELENBURG)。米ハ農業界ノ牛耳ヲ執レル「ギルバート」(Arther Witter GILBERT)、一流ノ経済学者ニシテ、巴里平和会議ノ際活躍セル「ヤング」(Prof. Allyn YOUNG)。前大蔵及農務大臣「ホーストン」(The Hon. David Franklin HOUSTON)。伊ハドーズ案ニ尽力シタ前大蔵大臣「ステファニ」(M. de STEFANI)教授、ファシストノ経済方面ヲ指導スル「ベロニ」(Ernesto BELLONI)、新進ノ経済学者「ピレリ」(Alberto PIRELLI)、白ハ戦後多年首相トシテ財政上偉功アル「テュニス」葡ハ前首相ニシテ経済学者タル「コスタ」(Affonso A. da COSTA)、瑞西ハ欧洲経済界ノ明星「デュボア」(Léopold DUBOIS)蘭ハ第二インターナショナル首領「オウデゲスト」(OUDEGEEST)及海運界ノ第一人者「クレーレル」(A. G. KRÖLLER)、墺ハ婦人労働者ノ旗頭「フロインドリッヒ」夫人(Frau Emmy FREUNDLICH)印度ハ近世的印度人中、最モ明敏ノ誉アル俊才「チャッテリー」(Sir Atul Chandra CHATTERJEE)、チェッコハ中欧経済ノ恢復ニ対シ一隻眼タル「ホダック」(Dr.F.HODAC)。日本ハ多年欧米ノ財界ノ中心ニ在ツテ涵養シタル智識ト経験トノ持主タル森財務官。
 流石ハ一流ノ連中ダケアツテ相互ノ尊敬信頼厚ク、カホドノ大問題ヲ一週間デ目鼻ヲ付ケシコトハ感心セザルヲ得ナイトコロデアル。
      ○
 準備委員会ハ何ヨリモ先ヅ「ドキュメンテーション」ノ完全ヲ期セネバナラヌコトニ議一決シタ。科学的方法デ広ク各般ノ統計事実ヲ蒐集シ十月ニ第二回ノ集会ヲナシテ各材料ヲ整理シ、愈々会議ノ準備項
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目ヲ確定スル手筈デアル。
      ○
 会議ガ全体トシテ極メテ自由ノ空気ニ支配サレテイタコトハ前述ノ如クデアルガ、米人ト仏人トノ間ノ流儀ノ相異ハ毎度ノコトナガラ今回モ露骨ニ現ハレテイタ。即チ米国ノ連中ガ如何ニモ大マカナ議論デ細カナ理論ニ長ゼシ仏人ヲ驚カシタリ、仏人ガ徹底的ノ救済策ヲ確立スベシト云ヘバ、米人ハ差当リノ救済策ノミデ十分デアルトテ之ヲ突ツ離シタリスル場面ハ、屡々見ラレタノデアツテ、各国人何レモ流儀ヲ異ニスル為メ意外ノ問題ニ議論ノ生ジタコトモアリ、造化ノ妙、極マレリト感心セザルヲ得ナカツタ次第デアル。
    各論
      一、金融財政
 戦後ノ世界経済ニ於ケル仏国ヲ見ルトキ何人モ今昔ノ感ニ堪ヘナイノデアル。曾テハ貯金ノ多キニ苦シミ外債ニヨリ辛ジテ之ヲ処分シ得ルカニ迄デ見ラレタル大資本国フランスガ、戦後為替ノ逆調ニ苦シムヲ見テハ! 然シナガラ仏国ハ戦敗国タル澳及洪ノ両国ガ憐ミヲ国際聯盟ニ乞ヒ、財政救済ノ事業ヲ完成セシ例ニ倣ハントスル気ハ毛頭ナイ。又仏ハ独ノ如ク貨幣革命ヲナスニハ余リ国情ガ不適当デアル。今日仏ノ地方農民ハ往々ニシテ数万又ハ数十万フランノ銀行紙幣ヲ私蔵シ、日々其価格ノ低落スルノヲ見テ憤怒ノ情ニ堪ヘズ、「レンテンマルク」ノ二ノ舞ヲ演ゼラレルノデハナイカト恐レテイルモノモアルガ、仏ノ財政ハマダマダドン底ニ達シテイナイ。何トカシテ自分デ処分セント希望シ、英モ大国タル仏ノ面目上為替ノ問題ハ成ルベク討議ヲ避ケントスル様子デアツタガ、此処ニ敢然トシテ問題ヲ持チ出シタノハ瑞西銀行界ノ重鎮ニテ、国際聯盟財政委員会ノ委員長タル「デュボア」翁デアル。翁ハ極メテ淡泊ニ「仏国ノ財政困難、特ニ為替ノ低落ハ仏国ニトリ由々シキ大事ナルハ勿論ナルガ、之ガ為メ隣リ近所ノ蒙ル迷惑ハ一通リニ非ズ、貨幣価格ノ不安定コソ現下世界経済ノ病根ナリ、微力ナガラ瑞西モ応分ノ御助力ハ惜マヌカラ、仏国ハ財政ヲ立テ直シ為替相場ノ引キ上ゲ、之ガ安定ヲ計ラレテハ如何」ト忠告スレバ満場ハ只拍手ヲ以テ之ヲ裏書シ、仏委員ハ敗軍ノ将トモ云フガ如キ不面目ナ沈黙ニ涙グンデ居タ。会議後余ハ「デュボア」翁ニ其思ヒ切リタル言明ヲ讚美シタルニ、翁ハ気焔ヲ挙ゲテ「瑞西ノ力ハ厳正中立ニ在リ吾等ハ山男、都人ノ礼儀ハ知ラネド真理ニ忠実タルコトノミハ人後ニ落チヌ積リナリ」ト。
      二、通商
 人及物ノ世界的自由移動ノ確保コソ真ノ経済救済策デアルトハ日・独・伊委員ノ主張セル所デアル。従ツテ食料品・原料品ノミナラズ、一般ノ商品ニ対シ没常識ナル保護税率ヲ課セザルコトヽシ、移民ノ入国ニ対シテモ条理ナキ制限ヲ設ケテハナラヌトハ何人モ認メタルトコロデアルガ、会議ハ更ニ一歩ヲ進メテ特恵関税ノ攻撃ヲサヘ敢テシタ即チ英ト属領トノ間及各属領間、米ト「キユーバ」トノ間、スペイント葡萄牙トノ間、葡萄牙トブラジルトノ間、関税同盟又ハ互恵関税ノ名ノ下ニ不均衡ナル関税檣璧ヲ設ケルニ対シ一大攻撃ヲ加ヘント試ミ
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タノデアル。凡ソ関税政策ナルモノハ各国主権ノ直接発動ニヨルモノデアツテ、国際会議ニ於テハ関税率或ハ制度ニ立チ入ルベカラズトハ従来各国代表者ノ屡々唱ヘ、且ツ一般ニ認メラレテイタトコロデアルガ、之ニ対シ何等カノ改善ヲ施サント期シ国際会議ノ席上デ之ヲ討議スルニ至ツタノハ今回ガ嚆矢デアツテ、此事タルヤ実ニ一新紀元ヲ劃スルモノデアルト云ハレタ程デアル。
      ○
 世界大戦ガ世界経済ニ及ボセシ波紋コソ真ニ破天荒ノ波動ヲ巻キ起シタモノトモ云ヘヤウカ、石炭ハ鉄ト共ニ大英国ノ強大ヲナシタ一大経済要素デアリ世界ニ率先シテ炭坑ノ開発ヲ企テタレバコソ英国人ハ汽力文明ノ勝利者トナツタノデアル。然ルニ何事ゾ石炭アルガ為メニ大罷業同盟起リ、政府ハ恰モ戦時ニ於ケル如キ非常措置ヲトルニ至レル大事件ガ勃発シタ。英国ハ他国ニ率先シテ炭坑ヲ開発シタル為メ、其設備ハ時代ニ適セズ、従ツテ採掘費ハ欧洲大陸ノ諸炭坑ニ比シ遥ニ高ク、政府ハ炭坑主ノ損失ヲ補ハン為メニ補給金ヲ支給シ辛ジテ一時ヲ糊塗シ来ツタノデアル。数千百噸ノ船ヲ所有シテ戦時ニ巨億ノ利ヲ占メタモノガ戦後忽チ海運界ノ悲境ニ襲ハレタルト同様、経済上ノ財ナルモノハ民生ニ福ヲ齎ラスト同時ニ又禍ヲモ及ボスモノナルヲ見逃ガシテハナラヌ。
 或国ノ生産物ガ他国ニ比シ比較的安キ労銀又ハ生産費ニヨリ製造サルヽヲ理由トシテ、差別的高税ヲ課スルハ不当ナリトノ主張マヽ後進国側カラ出ルノデアルガ、之ニ対シ先進国側ハ社会的見地カラ、労働者ノ利福ヲハカラントセバ先ツ其生活ノ程度ヲ高メ、八時間労働制其他労働者ニ利益アル各般ノ諸制ヲ実行セネバナラヌ、而シテ此等ハ世界各国ガ共同シテ之ヲ行フニアラザレバ其実行ヲ期シ得ヌノデアルカラ、例ヘバ労働条約ノ批准ヲ回避スル如キ国ニ対シテハ自衛上相当ノ差別的措置ヲトラネバナラヌト応酬スル。準備委員会ニハ労働者側ノ剛ノ者モ多ク参加シタル為メ、世界経済ノ救済ハ労働者ノ幸福ヲハカツテ始メテ実現シウルモノナリトノ声屡々発セラレ、会議ガ之ニヨリ動カサレタコトモ少クナイ。
      三、生産
 世界ノ経済的恐慌ノ直接原因ノ一ハ工業ノ生産過剰デアル。天然資源モナク、科学技術モ発達セヌ国ガ、国防上又ハ国民経済ノ存立上種種ナル新工業ヲ起シ、之ニ対シ有ラユル人為的保護ヲ加ヘ、先進国ノ工業品ヲシテ各方面ニ市場ヲ失ハシムルニ至レルコト即チ病根ノ一部デアル。玆ニ於テ救済策トシテ二ツノ方法ヲ考ヘルコトガ出来ル。一ハ各国ノ工業者ガ相協定シテ生産ヲ制限スルコト、二ハ先進工業国ニ於テ生産費ノ節約ヲハカリ以テ後進国ヲシテ保護政策ノ犠牲ノ大ナルニ堪ヘザルニ至ラシムルコトデアル。仏ノ委員ハ前者ヲ選ビ、独ノ委員ハ後者ヲ主張シタ。独逸ノ商品ガ廉価デアリ、其製造力旺盛デアリ結局勝利ヲ得ルト云フ自信ノアル独逸ガ後者ヲ選ブノハ当然デアル。
即チ既ニ工業化シタ農業国、工業ノ独立ヲ人為的ニモ図リ得タル新興国ニ対シ、生産費ノ減少ヲ唯一ノ武器トシテ勝チ得ルモノハ独逸ノミデアル。コレ仏国等ノ此論ニ同意セザルトコロデアルガ、サラバトテ
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工業ノ国際的協調ナルモノハ案外複雑ナル問題デアツテ、伊ノ如キハ其国ノ地位カラ考ヘ断固トシテ之ニ反対シ、英ノ如キモ独仏ノ連合ヲ好感ヲ以テ迎フルモノデハナイ。
      四、消費者
 現下ノ世界経済ノ恐慌ハ生産ノ過剰ニ対スル消費ノ減少デアル。消費ノ減少ハ資本ノ欠乏、購買力ノ減耗ニモ原因スルガ、市場ノ乱脈、過度ノ保護政策分配ノ不均衡等其大ナル原因デアル。只生産方面ノ研究ガ容易ナルニ反シ、消費ノ側カラ問題ノ解決方法ヲ講ズルコトニ関シ技術的困難ノ多キコトヲ見ノガシテハナラナイ。
      五、人口
 人口問題デ最モ悩マサレテイルノハ伊国デアル、人口増加率ハ吾国ノソレニ越エ、天賦ノ資源ハ吾国ニ及バズ、伊国委員「ベロニー」ガ人口問題ヲ解決スルニアラザレバ経済平和ヲ望ミ得ベカラズト叫ビ、無理ニ移民問題ヲ議題ノ、範囲内ニ割リ込マセタコトハ、「ムッソリニ」ノ「トリポリ」訪問以来少ナカラズ神経ヲ悩マセル各国識者ニハ当然期待サルベキ主張ト受ケ取ラレタ。移民問題ハ生産方面カラ観察スレバ経済問題ナルガ、労資対立ノ方面カラ観レバ社会問題及人道問題デアル。仏ノ「ジュオー」ガ仏国々内ニ於テハ伊太利及波蘭ヨリノ移民問題ガ両三年以来白熱化シツヽアルニ拘ラズ、国際的見地ヨリ労力ノ自由移動ヲ論ジ移民ニ対スル各種ノ制限撤廃ヲ主張スルハ之ガ為メデアル。英米ニ於テモ見識高キ経済学者ハ、夙ニ人口問題ノ将来ヲ憂慮シ、今日ノ固陋ナル排他的政策ガ遂ニ予期セザル禍ヲ齎スベキヲ警告シ、「エコノミスト」ノ主筆(W. T. LATON)及瑞典ノ前逓相Anders OERNE氏等ハ熱心ニ問題ノ重要ナル所以ヲ説キ、一時ノ紛糾ヲ恐レテ之ニ触レザラントスル小策ノ非難スベキヲ述ベタ。
      ○
 日本ノ移民問題ハ社会的・経済的・人道的方面ノ他ニ、更ニ政治的分子アリ、米国ノ移民法ニ対スル国民ノ激怒ノ如キハ政治問題トシテ取扱フベキモノデアル。今ヤ米国ノ識者ハ挙ツテ前非ヲ悔ヒ、近ク法律ノ改正ガ行ハレントスルハ日米ノ国交上喜ブベキコトデアル。土地所有権ヲ失ヒシ日本人ガ田園ヲ捨テヽ都会ニ集リ、実質ニ於テ遥ニ劣レル「メキシコ」労働者之ニ代リ、生産ノ能率ガ劣レルノミナラズ、風教上其他種々ノ点ニ於テ、不都合ヲ生ジ、大地主ヲ反省セシメツヽアルガ如キハ、問題解決ニ有利ナル資料ニハ相違ナイガ、日米移民問題ガ日米ナル二大国民全部ニカヽル大問題ナル今日、経済上又ハ社会上ノ見地カラノミ之ガ解決ヲ図ルハ見当違ヒデアル。
      ○
 由来、移民ナルモノハ政治移民アリ、経済移民アリ、外国ニ移住スル動機ニハ種々差別ハアルガ、宗教上又ハ政治上ノ不満不平カラ母国ヲ去ルモノハ今日其数少ナク、寧ロ物質的ニヨリヨク生キンコトヲ希望スル経済移民ガ大部分ヲ占メ、米国ノ如キハ之ニ禍ヒセラレテ其精神的文明ノ影ハ薄ラキツヽアルノデアル。米国ガ欧洲ノ質ノ悪イ移民ヲ嫌フノニモ一理ハアルガ、此等移民ハ欧洲ニ於テ必ズシモ生キラレヌノデハナイ、只ヨリ多ク黄金ニ親シミ度イ考カラ出テ行クモノデア
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ルカラ、此等移民ニ対シ天賦ノ資源豊富ニテ労力ノ比較的乏シキ領土ヲ有スル各国政府ガ、ヤヽモスレバ冷淡ナルノモ無理ハナイ、要スルニ移民問題ニ限リナク数多ノ方面アリ、伊ノ移民論ニ独必ズシモ共鳴セズ、日米ノ移民問題ニ波蘭ガ冷淡デアル如キ其一例デアル。米ノ識者ハ「移民国ガ何レモ米国ニ迷惑ヲカクル程自分ニ利ナキ移民移出ヲ請ヒ願フハ解スベカラズ、各国何レモ自己ノ都合ノミヲ考ヘ、殊ニ米国現下ノ精神文明ノ危機ヲ救ハントスル志アル有識者ノ言ノ如キ何等顧ミラレヌノハ心外ニ堪ヘヌ、米国最近ノ犯罪統計ハ明ニ劣等移民ノ犯罪数ガ如何ニ大ナルカヲ示ス、米国ノ如キ大国ヲ之以上黄金宗一タラシムルコト決シテ、世界平和ノオ為メデハナイ」ト云ツテイルノデアル。
 会議ガ移民問題ニツキ先ヅ正確ナル材料ヲ蒐集シテ事実ノ闡明ヲ期スルコトヽシタノハ、此複雑ナル問題解決ノ為メ確ニ一大貢献ト云ハザルヲ得ナイ。問題ハ凡テ将来ノ努力如何ニ係ル。
      六、交通
 国際聯盟ノ各事業中交通問題ホド顕著ナル進歩ヲ見タモノハ無イ。「ウイルソン」大統領ノ国際聯盟観ハ軍事的且政治的ニ限ラレテイタニ対シ、経済的社会的諸方面カラ問題ヲ取扱ヒ、単ニ戦争ヲ防止シ国際紛争ヲ調停スルニ止マラズ進ンデ国際協調ノ気運ヲ起シ以テ正シキ平和ヲ齎ラサントセシハ「スマッツ」ノ意見デアツタ。米人ガ国際聯盟ヲ単純ニ戦争防止機関至自ハ政治的超国家ナリト観ルノハ、米国ガ国際協調カラ比較的ニ遠ザカリ得ル地位ニ立チ、「モンロー」主義ニヨリ多年孤立的気分ヲ養成サレタ為メデモアランガ、国際聯盟ノ活動ガ主トシテ国際協力ノ方面ニ傾倒サレ之ニヨリ国々ガ相頼リ相助ケ連帯シテ進マネバナラヌ自然ノ道理ヲ各国民ニ知ラシメ、時勢ノ進歩ト共ニ益々此気運ヲ促進スルト云フコトハ寧ロ欧洲各国ノ識者ノミ之ヲ理解シウル領分デアツテ、而モ此領分タルヤ聯盟建設前ニハ寧ロ軽視セラレ其発達ヲ予想セラレズ、聯盟ノ建設後ニ及ヒ自然ノ勢トシテ目ノアタリ現実ニ此趨勢ヲ見ルニ及ンデ、各国ノ政治家ガ今更ノヤウニ聯盟ノ御利益ヲ感ジタノデアル。聯盟規約ニ交通自由ノ原則掲ゲラレ「バルセロナ」及「ジュネーヴ」ノ前後二回ノ交通総会、及交通委員会関係ノ諸会議ニヨリ作成サレタ諸条約、勧告、決議ノ数今ヤ実ニ数十ニ達シテイル。此等ノ条約ガ各国ニヨリ正式ニ批准承認セラレタル暁ニハ、日本ノ船ハ何レノ国ノ港ニ行クモ其国ノ船ト同等ノ権利、利益ヲ享有シ、其国ノ船以上ノ負担ヲ課セラルヽノ懼ナク、日本ノ商品ハ何レノ国ヲモ自由ニ通過シウベク、其他海外ニ向ツテ発展スルノガ唯一ノ生キル方便デアル吾国民ニトリ、利益アルコト蓋シ少クハナイノデアル。交通自由ノ原則ガカク広ク認メラルヽニ至レルハ文明各国ノ間ニ自然ニ経済的連帯ノ関係アリ、相互ノ交通ヲ発達スルニ非ザレバ到底各自ノ繁盛ヲ期シ得ヌカラデアル。国際経済会議準備委員会ハ国際聯盟ノ此方面ノ事業ニ対シ裏書キシ、声援シ、能フ限リノ短期間ニ其実現ヲ見ルニ努ムルコトヽナツタノデアル。
      ○
 沿岸貿易ナルモノハモト自国間ノ港ノ間ノ貨物運輸ハ自国船ノミニ
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許シ、外国船ニハ認メヌトノ理デアツテ、仏ノ如キハ小沿岸貿易ト大沿岸貿易トノ別ヲ立テ、歴史的ニ種々ノ沿革ヲ経テ発達シ来ツタノデアルガ、本国ヨリ甚ダシキ遠隔ノ地ニ在ル殖民地ノ港ト本国ノ港トノ間ノ貨物輸送モ亦沿岸貿易ナリトノ見解ノモトニ、米国ハ本国ト「ハワイ」及「フイリッピン」トノ間、仏ハ本国ト印度支那トノ間ノ貨物輸送ヲ外国船ニ拒否スル法律ヲ公布シ、又ハ此種ノ政策ヲトツタノデアル、日本ノ反対理由ハ「カクノ如キハ『グロシュース』以来提唱セラレタル海洋自由ノ原則ニ反シ、各国ノ共有ニ属スベキ大洋ヲ一国ガ不条理ニ独占セントスル嫌アルモノデアルカラ、カクノ如キハ聯盟規約ニ掲グル交通自由ノ原則ニ反シ、保護主義・排他主義ノ最モ甚ダシキモノデアル。沿岸貿易ガ主トシテ一国内ノ内国的性質ヲ有スベキニ拘ハラズ、国際運河ノ通過、外国ノ港湾ヘノ寄港ト云フガ如キ国際的要素ヲ含メル広義沿岸貿易ハ到底認ムルヲ得ズ。殖民地条項ニヨリ普通通商航海条約ノ適用範囲外ニ置カルヽ殖民地ヲ本国ト同一視シ、殖民地ノ港ト本国ノ港トノ間ノ関係ヲ、本国ノ港ノ間ノ関係ト同一ナラシムルハ矛盾ナリ」ト云フ点ニ存スル。日本ノ移民ガ諸方面デ入国ヲ拒絶セラレ、日本ノ生産品ガ原料品ナキニ苦シムヲ思ヘバ、大洋コソ日本人ガ頼ルベキ宝庫デアツテ、航海業ノ発達ハ正義ト平和トニ生キントスル日本人ノ正当ナル要求ト見ルベキデアル。沿岸貿易ニ対スル吾主張ハ、実ハ日本ノ平和的対外政策ノ一片鱗デアル。
      七、日本
 日本ガ経済会議ニ対シ要求スル要点ハ多々アルケレドモ、其主ナルモノハ会議ガ一般的ナラザルベカラズト云フニ存シ、其二ハ会議ヲ指導スル最高原則ハ通商衡平待遇ノ大則デナケレバナラヌト云フニ在ル欧米人ニハ兎角世界ノ文明ハ商工業ノ文明デアツテ、農業ノソレニアラズトナシ、又世界ノ問題ハ欧米ニ中心点アレバ、他ノ大陸ハ深ク顧ルノ要ナシトナス傾向アル。之ニ対シ日本及印度ノ委員ガ世界経済救済ノ源泉ハ欧洲外ノ未発ノ富源、未開拓ノ市場ニ在ル所以ヲ力説シ、一方ニ偏スルノ却ツテ他方ニ不利ナルノミナラズ、国際聯盟ノ傘下ニ在ル諸国ハ一視同仁平等ニ之ヲ遇スベキヲ主張シタ。
 鉄道汽船ノ発達ニヨリ大陸ト大洋トノ大キサガ減ジ、飛行機ガ国境ノ影ヲ薄カラシメ、「ラディオ」ニ至ツテハ空間ノ存在ヲサヘ認メナクナツタ今日、即チ科学的又ハ技術的方面カラ観タ現代文明ガシカク宇宙的ナルニ拘ハラズ、愚ナル人類ハ依然古代ノ原始人類ト同ジク、政治的ニ互ニ啀ミ合フハ、高イ天上ヨリ之ヲ観ルナラバ、之以上ノ愚ハナキ筈デアル。欧米ノ所謂先進国人ハ他ノ後進国民ニ対シ、一種侮蔑ノ情ヲ以テ差別的取扱ヲナス限リ、真ニ先進国タル資格アルモノトハ云ヘヌ。日本ニシテ若シ世界ノ大国タラント欲セバ大和民族ノ心鏡ニ此辺ノ光明アルノ用意ナケレバナラヌ。
      ○
 国際聯盟ノ経済問題解決ノ最高指針ハ通商衡平待遇ノ原則デアル。人ニ物ニ船ニ、自国及外国ノ間ニ、不当ノ差別ヲ設ケザルノミナラズ外国人・外国品・外国船ノ間ニ、国籍其他ノ理由ニヨリ不公正ナル差別待遇ヲ設ケヌコトガ此原則ノ要点デアル。
 - 第37巻 p.63 -ページ画像 
 日本人ガ白色人種ナラザルガ為メ、日本ガ欧米諸国ト宗教風俗其他各般ノ関係ヲ異ニスルガ為メ、従来数多ノ不公正待遇ヲ受ケ、国トシテハ大国ノ一ナルニ拘ハラズ、国民各個トシテハヤヽモスレバ文明国人ノ末座ニ置カレントスルノ事実ハ何人モ之ヲ知ル。国際聯盟ニ於テ常任理事国タル国家的地位ヲ保持シツヽ、之ニ伴フ程度マデ国民的地位ヲ引キ上ゲントスルノガ吾国従来ノ努力デアツテ、最恵国条款、通商衡平待遇等皆其現ハレニ外ナラヌノデアル。世界ノ経済ハ東西相聯関シ之ヲ分ツテ別々ニ救済スルヲ得ズ、世界経済ノ発達ハスベカラク自由・平等・友愛ノ上ニ立ツベク、然ラズンバ真ノ繁栄ハ期待スベカラズト云フノガ吾国多年ノ主張デアル。



〔参考〕国際聯盟協会報告(二)(DK370006k-0010)
第37巻 p.63-68 ページ画像

国際聯盟協会報告(二)          (渋沢子爵家所蔵)
  大正十五年七月十九日
                    国際聯盟協会事務所
    渋沢子爵殿
拝啓、陳者在巴里国際聯盟帝国事務局より別紙『経済会議準備委員会第一回報告』を貴下に御送附申上ぐるやう申越候に就き、取急ぎ玆に同封差上候 敬具
(別紙・謄写版)
 秘
  大正十五年五月
    国際経済会議準備委員会第一回報告
            国際経済会議準備委員
              海外駐箚財務官 森賢吾
    国際経済会議準備委員会第一回報告
国際経済会議ノ因テ起レル所以ハ玆ニ論セス、又之ヲ発議セルLoucheurノ胸算モ亦之ヲ究ムルノ要ナシ、蓋シ国際聯盟ノ招請ニ応シテ準備委員会ニ集マリタル二十一国三十六名ノ委員ハ皆各其ノ信スル所ヲ抱テ之ニ臨メリ、故ニ準備委員会ハ三十六信、精粗、硬軟相打チ相研キ分析洗錬ノ工程ヲ経テ、以テ経済会議ノ模型ヲ作成セントスルモノナリ
諸委員ノ意嚮ヲ考察スルニ之ヲ二派ニ大別スルヲ得ヘシ
経済会議ノ議題 ニ関シテ其ノ一派ハ目下ノ現状ニ対シ最モ緊切ナル二・三ノ問題ニ限局センコトヲ主張スルモノニシテ、反之他ノ一派ハ苟モ経済再建ニ関係アル総テノ問題ヲ挙ケテ経済会議ニ附議センコトヲ希望ス、蓋シ前者ノ所論ハ国際経済会議ノ議題若シ広汎ニシテ問題多岐ニ亘ルトキハ、何レノ問題ニモ全幅ノ力ヲ用ユルヲ得ス、随テ具体的ノ解決案ヲ建ツルニ至ラズ、故ニ寧ロ本会議ヲシテ主要ナル二・三ノ問題ヲ選ンテ之ニ全力ヲ集注セシムルコト本会議ノ成功ヲ期スル所以ナリ、次ニ又問題中国際的協力ニヨリ解決シ得ヘキモノト全然一国ノ国内関係ニ過キサルモノトノ別アルコトヲ認メサルヘカラス、国際会議カ一国ノ国是政策ニ容喙スルカ如キハ之ヲ避ケサルベカラス、終リニ本会議ハ広ク全世界ノ諸国ヲ集ムルモノニシテ、招集ニ応ズル者多大ノ時日ヲ費ス能ハズ、随テ多数ノ問題ヲ議題トスルハ会議ノ負
 - 第37巻 p.64 -ページ画像 
担重キニ過グト云フニ在リ
後者ノ理由トスル処ハ今日世界ノ経済ハ頗ル複雑ニシテ総テノ問題ハ相関聯シテ分離スヘカラス、一問題ノ解決ハ他ノ問題ト関聯セスシテ独立ニ考察ヲ立テ得可カラス、故ニ総テノ問題ハ相関聯スル一団トシテ之ヲ議題トシ、決シテ濫リニ除外スヘカラスト云フニ在リ
議題制限論者ノ中ニモ、其ノ広狭一様ナラス例ヘハ Sir Llewellyn Smith(英国)ハ通商ノ妨害、工業生産ノ妨害、諸国間工業関係ノ三問題ヲ主題トスヘシトシ、Serruys(仏国)ハ国際的工業ノ組織及国際的通商ノ二題目ニ制限スヘシト論シ、de Peyerimoff(仏国)ニ至リテハ更ニ甚敷ク限定シ、単ニ重要ナル工業ニ関シ国際的協定ニ達スルノミヲ以テ本会議ノ第一歩トシテ満足ス可シト主張ス
反之拡張論者ハ通貨ノ安定、原料ノ分配、生産ト消費ノ関係問題、労働者ノ職業、生活ノ安定、外国ノ労働者ノ関係ニモ及フヘキヲ主張スJouhaux(仏国労働界ノ領袖)ノ如キ之ナリ、伊太利委員ノ如キハ更ニ進ンテ、広ク総テノ経済問題ハ相関聯シテ一団トナシ之ヲ討議スヘシト主張ス、而モ人口問題ノ広キ見地ニ於テ移民問題ヲ包含セシメントスルLayton(英国)モ拡張論者ノ一人ニシテ、本会議カ問題ヲ限局セハ、若シ其ノ限局シタル問題ニ関シ具体的ノ解決ヲ得サルトキハ会議全体ノ失敗トナル、又此等ノ問題ハ、既ニ其ノ主義政策、世界ノ輿論ニ於テ一定セルモノアルカ故ニ、本会議ノ負担過重ニアラサルヲ信ス。
以上二派ノ中間ニ於テ Hodac(チェツコスロバック)ハ準備委員会ト本会議トノ間ニ於ケル区別ヲ指摘シ、本会議ノ議題ハ実行可能ナル数種ニ制限スルコトヲ必要トスルモ、準備委員会ニ於テハ総テノ問題ヲ調査シ、其ノ調査ノ結果取捨選択シテ、以テ国際協力ノ可能ナル部分ノミヲ取リテ本会議ノ主題トスヘシト論ス
其他広狭両派ノ何レニモ属セス、単ニ特種ノ問題ヲ提ケテ特別ノ地位ヲ与ヘンコトヲ希望スル者アリ、Gilbert(米国)ハ農業ノ重キヲ説キDubois(瑞西)ハ通貨安定策ノ緊要ヲ論シタルカ如キ是ナリ、然レトモ敢テ他ノ問題ヲ排斥スルモノニアラス
本委員ハ世界的経済団ノ見地ニ立チ諸問題ノ相関聯シテ相分離スヘカラサルヲ指摘シ、準備委員会ハ総テノ問題ニ対シテ門戸ヲ開放スヘキヲ主張シ、速カニ分科会ヲ設置シテ調査ニ着手スヘク、而シテ諸分科会ノ範囲ニ関シテハ決シテ厳格ナル解釈ヲ採ラス、相互関聯ノ性質ヲ忘レス以テ経済問題全体ノ解決ニ資スルノ注意ヲ促シタリ
一応ノ決定 以上二日間ノ討議ヲ以テ、準備委員会ノ帰結スヘキ処ハ明瞭トナレルヲ以テ、副委員長Theunisハ準備委員会第一期ノ所作トシテ総テノ問題ヲ調査スヘキモノトシ、先ツ一切ヲ挙ケテ三部ニ分類シ、為メニ三分科会ヲ組織シ、各分科会ヲシテ更ニ其ノ内容細目ニ分類セシメ、各目ニ関スル調査材料ノ蒐集方法ヲ立テシメンコトヲ発議シ、全員ノ同意ヲ得テ各分科会ハ、各其ノ担任ヲ完成シテ委員会ニ報告セリ
依テ各分科会ハ各其ノ定メタル方法ニ基キ、是ヨリ調査材料ヲ蒐集シ之ヲ精査セントス、而シテ其ノ各分科会長ヲ以テ主任トシ、三部ノ協
 - 第37巻 p.65 -ページ画像 
調ハ委員長之ヲ保チ、事業ノ結果ヲ以テ第二期ヲ開クニ決シタリ
開催期 準備委員会ノ第二期会ハ本会議開催期ト連聯ス、而シテ本会議開催ノ時日ニ関シテモ早晩ノ両論アリ
仏国ノ早開論者ハ本会議ノ議題ヲ限局シ、調査ノ事業ヲ短縮シ、速カニ開催ノ期ニ達センコトヲ希望ス、Layton(英国)ハ七月ニ準備委員会ヲ開キ、本年十二月ニ本会議ヲ開クヘキヲ主張ス、蓋シLaytonハ一九二〇年財政会議ヲ担当シタル経験ニ基キ、本会議ノ開催遷延セハ世界ノ事情変遷シテ委員会ノ準備シタル調査事項ハ本会議ニ於テ無用トナルヘキヲ恐ルヽモノナリ
然レトモ委員会ノ大勢ハ完全ナル準備ノ必要ヲ感シ、又其間ニ世界輿論ノ指導ヲ緊切ナリトシ、本年ニ於テ本会議ヲ開クヲ好マス、調査材料ノ蒐集精選数ケ月ヲ要スヘク、委員会ハ国際聯盟ノ九月総会終了迄ハ再会スル能ハス、其再会ノ結果ニ依リテ本会議ノ時日ヲ定ムルニ晩カラストシ、Balfour(英国)ハ今本会議ノ時日話頭ニ上リタルコト一切世間ニ漏ラスヘカラスト指摘セリ
玆ニ於テ委員会ハ其ノ第二期ヲ本年九・十両月ノ交ト予定シ、本会議ノ期日ハ他日ノ問題ニ譲レリ
斯ノ如ク準備委員会ノ第一期ニ於テハ、本会議ノ為ニ議題ノ調査ニ入リタルニ過キス、而モ其ノ結果ハ総テノ本問題ヲ網羅シ、各項ニ関スル調査資料ヲ蒐メ、研究ヲ進ムルノ準備ヲ配定シタルニ過キス、此等問題ノ中何レカ本会議ノ議題トシテ確定スヘキヤハ、今後五ケ月ニ亘ル研究ノ結果ニ徴シ、第二期ノ委員会ニ於テ論スヘキモノナリ、況ンヤ各問題ニ対スル解決ノ立案ノ如キハ、固ヨリ準備委員会ノ任務ニアラス、準備委員会ノ為シ得ヘキ限度ハ、本会議ノ議題トスヘキ問題ヲ咀嚼シ、解剖シ、本会議ニ於ケル解決立案ヲシテ最容易ナラシムルノ準備ヲ調フルニ在リ
然レトモ準備委員会ニ於テモ其ノ討議ノ間、世界経済ノ現状ハ自カラ反映セラレタリ、諸委員ノ所説ハ敢テ直接ニ問題ノ処法ニ触レスト雖モ、其ノ抱負ノ片鱗ヲ現ハスヲ禁セス、殊ニ欧洲諸国ノ委員ハ其ノ最苦痛トスル所ヲ指摘スルニ吝ナラス
蓋シ欧洲ノ現勢ハ一種ノ矛盾ニ陥リタルカ如シ、過去三年間全欧ノ諸国ヲ挙テ平和ノ確立ヲ唱導シ、其ノ努力ノ結果ハ年ヲ逐フテ顕著ナリ一九二四年「ドウズ」案ノ採用ニ次クニ一九二五年Locarno条約ノ締結ヲ以テシ、本年三月国際聯盟総会ハ長蛇ヲ逸シタレトモ独逸ヲ迎フルノ前途ハ憂フルニ足ラズ、国際平和ノ運動ハ最高調ニ達シタリ
経済割拠主義 此ノ政治的趨勢ニ比スルニ経済界ハ正反対ノ傾向ヲ示セリ、諸国ハ競フテ其ノ関税障壁ヲ高クシ、外ハ外国品ノ輸入ヲ防キ内ハ内国産ノ使用ヲ奨励シ、殊ニ東欧新興国ノ間ニ於テハ今猶関門頗ル厳ニシテ通商ノ自由ヲ欠ク、或ハDumping防止ノ名ノ下ニ或ハ一国産業保護ヲ目的トシ、或ハ通商条約交渉ノ武器タラシメンカ為メ諸国ハ関税率ヲ引上ケ新税ヲ起シ、輸入制限・禁止ヲ行ヒ、益々国際貿易ノ順調ヲ妨ントス、大戦前多年伝統的自由貿易ノ典型タリシ英国ト雖モ、今ヤ一変セリ、或ハ失業者救済ノ名ノ下ニ、或ハ帝国内通商発展ノ国是ヲ理由トシ、一方ニ於テハ関税障壁ヲ累加シ、他ノ一方ニ
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於テハ国産愛用ノ運動ヲ起シ、相援用シテ以テ国内産業ヲ保護スルニ至レルカ如キ、国情ノ変化実ニ隔世ノ思アリ
斯ノ如ク一犬経済ノ虚ニ吠ヘテ万犬封鎖ノ実ヲ伝ヘ、全欧諸国ノ経済界ハ悉ク国家主義ニ変シ、排外方針ニ化シタルノ観アリ、若シ此経済組織固守スヘシトセバ、結局通商貿易ハ無用トナリ、各国ハ所謂「自給自足」ノ途ヲ講シ、武陵桃源ノ古代ニ復帰スルノ外ナシ、然レトモ天恵ノ分布ハ諸国ニ公平ナラズ、有無相通ノ天則ニ依ルニアラサレハ各国経済生活ノ存立不可能ナルコト今論スルノ要ナシ、既ニ諸国ハ自ラ招キタル禍ノ下ニ噞喁シ、苟モ活路ヲ求ムルニ急ナリ
生産過剰論 戦後財界ノ危機ニ際シ、武府国際財政会議(一九二〇年)ヲ開クニ当リテヤ、救済ノ核心ハ生産増加ニ在ルコト満場一致ノ見解ナリシコト世人ノ記臆ニ新ナル処ナリ、然ルニ其後僅カニ五ケ年ヲ経タル今日ニ於テ欧洲産業界ハ生産過剰ヲ訴フルニ至レルハ実ニ奇観ト謂ハサルヘカラス、欧洲ノ生産ハ戦前ニ比シ敢テ増大セス、寧ロ減退シタリ、欧洲ノ人口ハ敢テ著シク増殖セサルモ、決シテ減少シタルニ非ス、故ニ困難ハ生産ノ過剰ニアラス、購買力ノ減殺ニ在リ、購買力ノ減殺ハ一方ニ於テハ通貨価格ノ下落ヲ示シ、他ノ一方ニ於テハ生産費ノ増加ヲ反照ス、通貨価格ノ下落ハ一国財政ノ運用其ノ宜シキヲ失ヘルニ起因スル処多ク、生産費ノ増加ハ物価ノ騰貴、租税ノ過重、其ノ大部分ヲ占ムヘシ、然而其ノ原因如何ニ拘ハラズ、生産物ハ其ノ売口ヲ失ヒ、産業維持ノ前途頗ル危殆ニ瀕セリ、故ニ当事者当面ノ策トシテハ、生産制限ニ出テンコトヲ欲スルハ、自然ナリ、然レトモ其直接ノ結果トシテ、政府ハ
失業問題 ニ直面セサルヲ得ズ、否寧ロ今既ニ欧洲ハ之ニ苦シム、独逸最モ甚ダシク、英国之ニ次ギ、其ノ他諸国皆此問題ニ腐心セザルモノナシ
唯仏国ハ一方ニ於テハ戦争ニ依リ其ノ壮丁ヲ失ヒ、他ノ一方ニ於テハ急激ナル事業拡張ノ結果トシテ、今ヤ却テ数百万ノ外国労働ヲ輸入シタル地位ニアルヲ以テ、未ダ失業問題ヲ生セス、伊太利ハ仏国ノ需要ニ応シテ移民ヲ吐出シタルノミナラズ、鉄血政治ノ下ニ総テノ産業ヲ強行シ、資本家ニ工場閉鎖ナク、労働者ニ同盟罷工ナク、随テ経済自然ノ法則行ハレズ、然レトモ此ノ両国共ニ失業ノ輪転近キニアルコト識者ハ夙ニ感知セリ、故ニ此ノ両国共ニ今ヨリ其ノ対策ニ苦慮セリ、仏国ハ国際的競争ノ緩和ヲ企テ、伊太利ハ移民問題ノ解決ヲ主張シテ止マサルカ如キ、各々其ノ前途ニ深憂アルヲ語ルモノナリ
財界ニ於ケル失業ノ影響 欧洲失業問題ノ政治界ニ加ヘタル圧迫、殊ニ将来ノ不安ハ玆ニ論スルヲ要セス、其ノ経済界ニ与ヘタル傷害亦同様ニ重大ナリ
軍備拡張ハ一国ノ負担ヲ過重シ経済界ノ発展ヲ阻害ス、然レトモ失業問題モ同シク一国財政ノ負担ヲ増加シ、而モ其ノ影響ハ寧ロ軍備拡張ヨリ甚ダシキモノアリ、蓋シ失業救済ニ費シタル国帑ハ同シク不生産的ナルノミナラズ、而モ巨万ノ徒食者ヲ養フヲ以テ、一方ニ於テハ国内購買力ヲ減殺シ生産業ヲ萎微セシメ、他ノ一方ニ於テハ国民ニ遊惰ノ気風ヲ奨励シ、産業立国ノ基礎ヲ危クスヘシ、玆ニ於テ欧洲諸国ハ
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速カニ救治ノ方策ヲ立テサル可カラズ。其ノ立案ハ国情ニ依リ異ナリ又各人ノ見ル処ニ依リテ一様ナラス、一国ノ力ヲ以テ為シ得ヘキモノアリ、国際協力ニ依ルニアラサレハ其ノ目的ヲ達セサルモノアリ
国際的工業協定策 重要工業家ノ地位頗ル困難ナリ、其ノ生産ヲ制限セサレハ自家ヲ救済スル能ハス、自家ヲ救済セントセハ失業問題ヲ喚起ス、玆ニ於テ国際的工業協定策ハ企テラレタリ、競争諸国ノ間ニ生産額ノ協定ヲ結ビ、若クハ世界市場ニ於ケル勢力範囲ヲ分配セントス之ヲ名ツケテ生産安定策若クハ市場安定策ト称ス
然レトモ斯ノ如キ協定ノ至難ナルハ勿論、其ノ協定ニ参加シ能ハサル諸国ノ地位亦慎重ノ考慮ヲ要ス、況ンヤ消費者ノ利害ト如何ニ調和シ得可キヤ、果シテ世界経済ノ恢復ニ資スヘキヤ、具体案ノ提出ヲ待ツニアラサレハ判断スル能ハス
関税低下協定 是亦欧洲諸国ノ現状ニ対スル救済ノ一案ナリ、然レトモ諸国工業ノ窮状ニ依ルDumpingノ競争止マサル間ハ、関税低下ノ協定ハ成立セサルヘシ、故ニ関税低下協定ハ国際的工業協定ノ成立ヲ前提トス
対米欧洲関税同盟論 ニ至リテハ全ク窮余ノ一策ニ過キス、其ノ目的トスル処ハ、欧洲諸国一致シテ米国ニ対シ関税ヲ高メテ米国ヲ威迫シ以テ米国ヲシテ関税ヲ低下スルカ、若クハ対欧債権ヲ減額スルカ二途ノ一ヲ選ハシメントスルモノナリ
生産費節減 ハ根本ノ対策ナリ、生産分量ノ制限ハ必スヤ物価ヲ騰貴セシメ、購買力ヲ減シ、結局翻テ又事業ノ不振ニ復帰スヘシ、競争国間ノ協定モ多クハ此ノ傾向ニ陥ル可シ、故ニ若シ可能ナラハ生産ハ増大ニ努メ、生産費ノ節減ニ全力ヲ注クヲ要ス、生産節減ノ緊切ナルハ今日ニ始マリタルコトニ非ス、然レトモ現今ノ時勢ニ於テハ節減ノ方法ハ単ニ労銀ニ向ハシム可カラス、労銀低下ノ誅求ハ労働界ノ生活程度ヲ低落セシメ、一般購買力ヲ減シ、一国経済ノ繁栄ヲ妨ク可シ、故ニ一方ニ於テハ生産業者ノ租税負担ヲ減シ、他ノ一方ニ於テハ生産組織ヲ改善スル外ナシ、前者ハ
財政緊縮 ノ問題ニシテ各国其ノ自主権ノ範囲内ニ於テ遂行シ得可ク敢テ国際的協力ヲ待タズ、唯ダ軍備縮少ノ一項ニ付テハ競争諸国間ノ協調ヲ要スベシ、今ヤ欧洲諸国ハ租税ヲ過重シテ以テ生産業ヲ苦シメ社会一般ノ購買力ヲ減殺シ、生産業経営困難ノ極ハ失業ノ潮流ヲ急ニシ、失業救済ノ要ハ更ニ一国ノ予算ヲ膨脹セシメ、相循環シテ財政・経済両面ノ窮迫ヲ生セシメタリ、故ニ各国其ノ財政ヲ緊縮シテ租税負担ヲ軽減スルコト治法ノ第一義トナスヘシSir Arthur Balfourカ特ニ英国ノ現状ニ対シテ唱破シタル処ハ、他ノ欧洲諸国ニ対シテ尚一層ノ力ヲ以テ的中セリ
生産組織ノ改善 ノ内容ニ付テハ固ヨリ技術設備ノ改良、工程運転ノ妙用、販売機関ノ改善ノ如キ、生産業者自身ノ力ニ依リテ為シ得ヘキ処多シ、然レトモ其ノ細目ヲ超越シタル大方針ノ確立必要ナルヘシ、即チ其ノ事業ヲ
大量生産組織 ニ改造スルヲ要ス可シ、是レ生産費節減ノ核心ナリ、是カ為メニハ事業単位ノ合同、生産機関ノ改廃、其他生産ノ規模全局
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ヲ革新セサル可カラス、而シテ大量生産組織ヲ維持スルニ必要欠ク可カラサル条件ハ
世界ノ自由市場 ヲ恢復スルニ在リ、即チ単ニ欧洲ニ止マラス四海ノ諸国皆其市場ヲ開放シ、一方ニ於テハ原料・食料ノ輸出ヲ自由ニシ、他ノ一方ニ於テハ製品ノ輸入ヲ歓迎シ、世界ノ経済単位間有無相通ノ途ヲ円滑ナラシメ、以テ世界ノ生産ハ最低廉ナル地点ニ於テ行ハレ居ルヘキ趨勢ニ導クコト肝要ナリ、是レ世界ニ物価ヲ安定ナラシメ、生活費ノ騰貴ヲ防キ、生産費ヲ減少シ、事業ノ繁栄、社会ノ幸福ヲ恢復スル所以ナリ、換言セハ
国際通商ノ自由 ニ外ナラス、然レトモ此ノ目的ヲ達セントセハ、欧洲ノ諸国先ツ其ノ極端ナル経済国家主義即チ割拠・排外主義ヲ撤廃セサル可カラス、欧洲ヲ中心トセル国際商業会議所聯合会ハ常ニ通商自由ヲ唱導シ、最明白ナル決議ヲ宣明セルコト一再ニ止ラス、殊ニ本年ノ会長Walter Leafノ四月ノ会議ニ於ケル演説ハ欧洲諸国ノ経済割拠主義ニ対スル痛切ナル警告ニシテ又同時ニ其ノ本国現時ノ変態ニ対スル攻撃ニ外ナラズ、国際商業会議所聯合会ノ決議カ若シ克ク各国ノ輿論ヲ警睲シ得ルニ至レハ世界通商ノ自由ハ漸次恢復ス可シ、然而
通貨ノ安定 ハ通商貿易ノ必要条件ナリ、其ノ必要並ニ方策ハ武府財政会議ニ於テ、「ゼノア」経済会議ニ於テ既ニ論シ尽シタル処ナリ、又其ノ遂行ノ実例ニ乏シカラス、国際聯盟ノ援護ノ下ニ成功シタル墺国ヲ始メトシ、一九二四年ニハ独逸ノ幣制改革アリ、一九二五年ニハ英国ノ金本位断行アリ、苟モ諸国ニ勇気アラハ通貨ノ安定ハ不可能ニアラス、幣制整理ノ結果ハ一時商工業ノ不振ヲ免レス、然トモ此困難ハ単ニ一時的ノ現象ニシテ、必スヤ将来健全ナル繁栄ニ達スヘキ順路ニ外ナラス
通貨ノ安定ハ固ヨリ一国ノ問題ナレトモ、一国ニ安定アリテ四囲ニ不安定ノ国アラバ、安定国ハ其ノ弊ニ堪ヘス、故ニ是又国際的問題トシテ考慮スヘキモノナリ、況ンヤ世界的繁栄ノ恢復ヲ企画セントスル国際経済会議ハ、決シテ此ノ重要問題ヲ逸スヘカラス
要之、世界経済界ノ現状ハ単ニ其ノ一角ノ救済ヲ以テ全局ノ恢復ヲ期シ得ベキニアラス、単ニ当業者ノ救済問題ニアラス、世界ヲ通スル総テノ困難ヲ網羅シ、総テノ問題ヲ考査シ、其相関連錯奏《(綜)》スル要点ヲ掌握シ、以テ経済時局ノ全体ニ対スル処法ヲ案出スルヲ要ス、故ニ其ノ準備最広汎最慎重ナル可シ、然ラズンハ単ニ当面応急ノ策ヲ行ヒ、為メニ全局ノ禍根ヲ残スニ至ラン
準備委員会ノ後半ニ至リテ英国労働争議ノ風雲急ヲ告ケ、遂ニ其ノ末日ニ至レハ英国経済史ニ於テ前代未聞ノ一大事変ノ凶報ニ接シ満場無慮ノ感ヲ以テ委員会ハ解散シタリ、是以テ世界経済ノ前途如何ニ重大如何ニ深甚ノ考慮ヲ要スルヤヲ警告シタルニ外ナラス  ―終リ―