デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

3章 国際親善
3節 国際団体及ビ親善事業
13款 社団法人国際聯盟協会
■綱文

第37巻 p.358-363(DK370089k) ページ画像

昭和6年10月30日(1931年)

是年九月十八日、満洲事変勃発ス。当協会ハ九月二十三日臨時理事会、二十九日第九十六回理事会ニ続イテ、是日第九十七回理事会ヲ開キテ右ニ付キ慎重審議ヲ重ネ、第一回決議ヲ可決シ、之ヲ国際聯盟理事会並ニ各国国際聯盟協会ニ送致ス。栄一当協会会長トシテ此等理事会ヲ招集ス。


■資料

国際知識 第一一巻第一一号・第一二〇―一二一頁昭和六年一一月 ○国際関係記事 満洲事変(我が陸軍の軍事行動)(DK370089k-0001)
第37巻 p.358-359 ページ画像

国際知識 第一一巻第一一号・第一二〇―一二一頁昭和六年一一月
 ○国際関係記事
    満洲事変(我が陸軍の軍事行動)
      奉天で日支軍衝突
 九月十八日〔奉天発電通〕十八日午後十時三十分、奉天駐屯の我が鉄道守備隊と北大営(奉天の北方三哩)の東北陸軍第一旅の兵と衝突目下激戦中である。
 午後十一時二十分我が軍は北大営の支那兵営を占領した。
 我が軍は奉天城方面に砲撃を開始した。(午後十二時)
      事件の発端
 九月十九日〔東朝〕満洲に於ける日支衝突事件に関し、十九日早朝林奉天総領事より外務省への公電によれば
 事変勃発の直接動機となつたのは十八日午後十時卅分頃、北大営所属の支那兵約三百名が柳条溝満鉄線路の爆破を企てつゝあつたのをわが鉄道守備隊が発見せる処、支那兵側より発砲せるため、これに応戦、両軍の間に衝突の不幸を見るに至つたもので、事態の重大化に奉天当局も頗る狼狽せるものか交渉委員より総領事館に宛て電話
 - 第37巻 p.359 -ページ画像 
を以て日本軍の攻撃中止方に関し懇請を求め来つた。自分としては居留民保護方に関し、万全の手配を為すと同時に目下事件を能ふる限り局部的に解決すべく各方面に対し奔走中である。
 なほ幣原外相は臨時閣議の決定に基き、十九日林奉天総領事に対し事件惹起の真相を究明すると共に、これ以上拡大することなき様極力防止すると共に、地方的事件として解決すべしと訓電を発した。
○下略


国際聯盟協会書類(六) 【昭和六年九月二十一日】(DK370089k-0002)
第37巻 p.359-360 ページ画像

国際聯盟協会書類(六) (渋沢子爵家所蔵)
  昭和六年九月二十一日
                 国際聯盟協会々長
写                     渋沢栄一
拝啓
明後九月二十三日(水)正午より、本協会集会室に於て時局問題に関し、意見交換の為め臨時理事会を開催致候間、万障繰合せ御出席被成下度、此段御通知申上候 匆々
   ○後掲「会務報告」ニ見ル如ク以下ノ理事会ニ栄一出席セズ。

  昭和六年九月廿一日
写                国際聯盟協会々長
                      渋沢栄一
拝啓、愈御清適奉賀候、陳者来る九月廿九日(火)午後五時、丸ノ内銀行倶楽部に於て第九十六回理事会を開催し、右終つて午後六時より左記諸氏の送迎晩餐会を相催候に就ては、御繁用中乍恐縮御光臨被成下度、此段御案内申上候
 追て乍御手数御出席の有無、折返し御回報被下度願上候 敬具
協議事項
 一、宮崎支部設立承認の件
 一、職員退職金を臨時費中より支出の件
晩餐会
 一、先般本協会を退職せられたる 奥山清治氏
 一、帰朝中の国際労働局員 鮎沢巌氏
 一、巴里国際聯盟学芸協力研究所に赴任の元協会職員 佐藤醇造氏

  昭和六年十月六日
写                 国際聯盟協会々長
                      渋沢栄一
拝啓
陳者九月廿九日第九十六回理事会に於て、時局問題に関し特別委員会を設置することに決定相成候処、左記諸氏を御指名来る十月九日正午本協会集会室に於て第一回委員会を開催可致候に付、右御承諾の上御繰合せ御出席被成下度、此段御依頼申上候 敬具
    左記
 - 第37巻 p.360 -ページ画像 
石井名誉会長 山川副会長 林理事 山田理事 田川理事 岡理事 宮岡理事
(欄外別筆)
 昭和六年拾月七日断
 同日記入済
   ○別筆「断」ハ欠席ヲ通知セル意ナルベシ。次掲資料ニモアリ。

  昭和六年十月二十八日
写                国際聯盟協会々長
                     渋沢栄一
拝啓
益御清適奉賀候、陳者来る十月三十日(金)正午本協会集会室に於て第九十七回理事会を開催し、時局問題に関し特別委員会の経過報告並に予備費支出の件に関し御協議申上度候に就ては、御繁用中乍恐縮御出席被成下度、此段御通知申上候 敬具
 (別筆)
 昭和六年拾月廿八日断
 同日記入済


社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和六年度 同協会編 第七―八頁昭和七年五月刊(DK370089k-0003)
第37巻 p.360-361 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和六年度 同協会編
                       第七―八頁
                       昭和七年五月刊
    三、理事会
○上略
臨時理事会 九月廿三日正午、協会集会室に於て開く、出席者―山川副会長、荒木・二荒・林・神川・松田・宮岡・岡・田川・田村・吉岡各理事、赤松主事。
 時局問題に関して意見の交換をなす。
第九十六回―九月廿九日午後五時、銀行倶楽部に於て開く、出席者―石井名誉会長、山川副会長、荒木・二荒・林・神川・松田・宮岡・下村・田川・田村・山田・頭本各理事、赤松主事。
 協議事項―一、宮崎支部設置の件(承認)。
 一、職員佐藤醇造氏在仏国際聯盟学芸協力研究所に入所、並に退職慰労金の件(承認)。
 一、時局問題(満洲事変)に関し、理事会は特別委員会を設置することゝし、委員の指名は石井名誉会長に一任することに決定(特別委員―石井名誉会長、山川副会長、林・宮岡・岡・田川・山田各理事に指名決定す)。
 右終つて歓迎、送別晩餐会に移る(招待会の項参照○略ス)。
特別委員会 十月九日正午、協会集会室に於て時局問題に関し意見の交換をなす。出席者―石井名誉会長、山川副会長、林・山田・田川・岡・宮岡各理事。
特別委員会 十月十五日正午、協会集会室に於て満洲問題に関する委員会を開く、出席者―山川副会長、林・山田・田川・宮岡各理事。
第九十七回 十月卅日正午、協会集会室に於て開く、出席者―石井名誉会長、山川副会長、荒木・林・神川・松田・本野・宮岡・岡・坂本・田川・内ケ崎・山田・吉岡各理事、赤松主事。
 - 第37巻 p.361 -ページ画像 
 協議事項―一、特別委員会の報告
 一、日支事変に関する英文冊子の出版費を予備費中より支出する件(承認、主に支那各地に於ける排日事件の真相を、グリーニングスの附録として出版し、海外各地に送付し諒解を得ること)。
 一、聯盟理事会其他に宛てたる電信案(十七頁参照○略ス)。
 一、聯合会に代表者派遣の件(事務所側にて研究することに決す)。
○下略


国際知識 第一一巻第一二号・第一一〇頁昭和六年一二月 ○本協会ニユース ○満洲事変に関する活動(DK370089k-0004)
第37巻 p.361 ページ画像

国際知識 第一一巻第一二号・第一一〇頁昭和六年一二月
 ○本協会ニユース
    ○満洲事変に関する活動
 本部に於ては九月二十三日・二十八日《(九)》、十月三十日及十一月十六日に理事会を開催し、事変に就て慎重審議の結果、本誌巻頭に掲載の如き二つの決議を可決し、聯盟理事会及海外姉妹団体に対し、打電若くは郵送した。又十月三十日の理事会に於て中華民国の排日・侮日条約違反等に関する行動を蒐集し、本協会英文機関誌グリーニングスのサツプルメントとして発行する件可決され、その第一輯は十一月九日に出来上り、猶続々刊行する予定であるが、此のサツプルメントに対しては需要が甚だ多い。


国際知識 第一一巻第一二号・第三―四頁昭和六年一二月 満洲事変に関する本協会理事会の決議 決議第一(昭和六年十月三十日本協会理事会に於て採択)(DK370089k-0005)
第37巻 p.361-362 ページ画像

国際知識 第一一巻第一二号・第三―四頁昭和六年一二月
    満洲事変に関する本協会理事会の決議
      決議第一
        (昭和六年十月三十日本協会理事会に於て採択)
 吾人は満洲事変が、速かに適切なる平和的解決を見るに至らんことを切望し、之が為に不断の努力を払ふて居るのである。満洲事変は中国正規兵の満鉄線路爆破に端を発したのであるが、其由て来る所は遠く且深きものがある。
 日本は常に中国国民の統一建設の事業に、満腔の同情と援助とを惜まず、中国人が自覚自制速かに内政外交の改革を実行することを希望したのであるが、中国政府及国民は我厚意を誤解したものゝ如く、我国との外交交渉は種々の口実を設け、徒らに遷延を重ねて之を解決するの誠意を示さず、又我国との条約は屡之を無視して憚らないのである。しかのみならず排外排日の教育を青少年に施し、時に応じて日貨排斥の運動を国民に使嗾した。近時に於ては同国政府及国民党部は、我国との外交交渉が自己の欲する如くならざる時は、直に之を使嗾指導して組織的に日貨抵制を行はしめ、進んでは経済断交を敢てした。昨今の日貨排斥は実は中国政府が対日交渉上、有利の地歩を占めんが為に、所謂国策遂行の具として之を利用して居るのである。殊に歴史上・地理上・経済上あらゆる関係に於て、我国民の最も緊切なる利害を有する満洲方面に於ては、最近中国側官民は全然我を圧迫するの態度を執つて、事毎に我国民に反抗し之を蔑視し、其の生命財産を脅かし、此関係に於て殆んど無政府の状態を呈したのである。十年隠忍中国側に同情し協戮せんことを努め来つた我国民が、事玆に至るに及び
 - 第37巻 p.362 -ページ画像 
激昂措く能はざることゝなつたのは、実に已むを得ぬものがある。
 満蒙地方に関し、我国が重大なる利害関係を有することは、今更縷述するを要しない。之に関する歴史的背景、接壌関係より生ずる利害の交錯、経済関係の緊密等が、今日満蒙地方に関する諸条約となつて現存して居るのである。我国民は此諸条約の厳正なる履行を期する以外に、新しき何物をも要求して居らぬ。而して中国側は此諸条約を否認し無視せんとして居るものである。
 日中両国の関係を改善確保せんが為には、中国国民の対日心理状態と中国全土、殊に満蒙に於ける我権益を無視するの行動とを、自制改善せしむるを以て根本条件とするのである。これ吾人が従来種々の機会に於て、中国の識者に対し常に其注意を喚起した点である。国際聯盟理事会に於ける最近の経緯は、中国特に満蒙に於ける如上の特異にして、複雑なる関係に付、充分の認識を欠如せるに基くものと認むべく、実状に適せざる勧説は却て徒らに両国民の感情を刺戟し、時局を悪化せしむるに止まり、毫も事件の解決に資することが出来ぬのである。我協会は国際聯盟理事会が能く事の真相を洞察し、由て来る所の真因を甄別して以て当該両国民の感情を融和し、平和的解決を促進し速かに平常関係の確立に協力せんことを期待するものである。(本決議は国際聯盟理事会及各国聯盟協会宛に打電又は郵送したり)
      決議第二
        (昭和六年十一月十六日本協会理事会に於て採択)
 日本聯盟協会は聯盟創立以来、聯盟精神の普及を以て其目的とし、我国民亦常に正義公正の観念、条約尊重の義務を根幹として終始一貫国際聯盟の健全なる発達を期し来りたることは、世界各国の承認する所なるべし。然るに中華民国は、曩に聯盟事務総長に電報したる本協会の決議に示せるが如く、国際条約を無視し、我外交交渉を回避し、政府又は党部の使嗾指導に依り、組織的に不法且非人道なる反日行為を強行し、遂に我国をして自衛行為に出づるの已むを得ざるに至らしめたり。中国側の行動は正に聯盟規約の精神に反するものにして今や聯盟は条約の尊重と秩序無視との何れを撰ぶべきかの岐路に立てり。本協会は聯盟精神の発揚と東洋に於ける平和確保の為め、切に聯盟理事会が満洲問題の審議に当り、飽くまでも東洋に於ける事態の真相を了得し、秩序無視の恐るべき危険を抑制するの態度を明かにし、以て現実に即する適切なる判断を為さんことを希望し、且期待するものなり。(本決議は十一月十六日開催の理事会議長に打電したり)



〔参考〕社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和六年度 同協会編 第一―二頁昭和七年五月刊(DK370089k-0006)
第37巻 p.362-363 ページ画像

社団法人国際聯盟協会会務報告 昭和六年度 同協会編
                       第一―二頁
                       昭和七年五月刊
    一、概観
 我が協会十三年の歴史を通じて、本年度は最も事件に富んだ年であつた。即ち九月十八日に満洲事件が勃発し、未だ其の解決を見ざる間に渋沢前会長の薨去に会し、更に上海事件が突発した。
 本会創立の恩人であり且つ本会を今日の隆盛に育て上げられた前会長が、平和紀念日の十一月十一日を以て永眠せられたことは、洵に不
 - 第37巻 p.363 -ページ画像 
思議の偶然であると人々から称へられた。前会長の薨去に際し本会代表者は葬儀委員に加はり、又薨去の当日、十一月十一日の休戦記念講演会は急にプログラムを変更して、渋沢翁追憶の夕となし、諸名士の追憶演説を請ひ、又、十二月十二日を期し他の諸団体と共同して渋沢翁追悼講演会を開いた。又昭和七年二月号の「国際知識」を翁の追悼号とし、多数名士の論文を蒐録した次第である。
 後任会長に関しては、一月廿三日評議員会を開き、石井菊次郎子・中島久万吉男・串田万蔵氏・福井菊三郎氏を新たに理事に推挙し、更に一月二十八日の理事会に於て理事互選により石井子爵が会長に推挙せられ、幸に石井子爵の就任を見た次第である。
 本会の役員は右の如く、幸にして満足すべき立て直しを為すことを得、従つて日支事変の重大時局に当面しても、充分の陣容を以て本会の使命を果すことを得たのは御同慶の至りである。
 理事会は数度に亘り日支紛争の真相に関し決議を為し、聯盟理事会議長初め各国協会に打電し、又英文冊子を続々刊行して海外の輿論を導き、其の反響は非常のものであつた。リツトン委員会一行の来朝に際し、一行は本会の意見を異常の興味を以て待望してゐたのであるが本会主催晩餐会席上に於て、石井会長は一場の演説を試み、調査委員一行に対し大なる感銘を与へた。日支紛争の解決に関する聯盟の役割は、未だ完了するに至つて居ないが故に、本会は対外的に世界の輿論を正しき方向に導く可く、今後一層の努力を必要とする。
 来る七月上旬には各国の聯盟協会が、パリに第十六回大会を開き、日支紛争に関しても重大なる決議を為さんとして居るので、本会は有力なる代表者を派遣し、我が国の主張を貫徹せんと計画中である。