デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年7月（1924年）

是月栄一、金竜山浅草寺信徒総代ニ推サレ、在任歿年ニ及ブ。尚、当寺多年ノ懸案タル旧寺領地払下問題ノ斡旋ノ労ヲトリ、昭和二年八月六日、同件解決ス。

浅草寺執事壬生雄舜手記　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
子爵ガ浅草寺信徒総代ニ就任セラレシ動機ハ、子爵ガ予テ東叡山寛永寺ノ檀徒デアリ、又救護僧正ト眤懇ノ間柄デモアリ、又壬生執事ノ川越喜多院住職デアル関係上、是又眤懇ノコトヽテ、当浅草寺ガ近年社会的ニ活動シツヽアルヲ以テ、子爵ノ如キ名望家ヲ顧問ノ意志ニテ信徒総代ニ就任方ヲ懇請シタルニ、之ヲ諒トシテ快諾セラレタルモノナリ。又当寺関係ノ財団法人大慈会顧問及観音会顧問、臨時本堂大営繕ニ関スル顧問等ニ就任セラレタルモ、如上ノ関係ヨリデアリマス。
　　昭和三年七月二十二日、参考迄ニ記ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　壬生雄舜(印)
　　○大僧正救護栄海（嘉永四年五月十五日生、昭和三年三月十四日遷化）ハ明治三十八年東叡山輪王寺門跡兼寛永寺住職トナリ、大正七年金竜山浅草寺住職トナル。
　　○栄一ノ浅草寺信徒総代ノ期間ハ、昭和二年二月二十二日ノ改選ニ再選重任シ歿年ニ及ブ。

渋沢栄一書翰　控　　救護栄海宛（大正一三年）七月二五日　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓、益御清適奉賀候、然は本月廿二日付御書面落手拝見致候、然者○中略過般の御来談は沢柳氏と共に浅草寺信徒総代たることを御勧誘有之御引受致候義にて○下略
　　七月廿五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　浅草寺観音会
　　　　会長　救護栄海殿
　　○右書翰全文ハ次項「浅草寺観音会」ニ掲グ。

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
粛啓
酷暑之砌尊躰御安康之段奉敬賀候、陳者先頃は御多忙之御身にも不拘弊寺信徒総代に御就任之栄を賜り候事誠に難有御礼申上候、就而者先般御調印願上候信徒総代増員届に、貴閣下御印鑑証明書添付之必要有之候由ニ候間、誠に恐入候へ共、右御印鑑証明書弐通御取寄せの上当方へ御送付被成下度奉願上候　敬具
 - 第42巻 p.25 -ページ画像 
　　大正拾参年八月一日
　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺庶務部主任
　　　　　　　　　　　　　　　　　　峰岸奝海　庶務部主任印
　　　　渋沢子爵閣下
　　　　　　　　　執事御中

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　浅草寺庶務部
　　　　主任　峰岸奝海様
拝啓、炎暑之候益御清栄奉賀候、然は去一日付貴翰落手拝見、即ち当主人貴方信徒総代に就任致候に付ては、印鑑証明書弐通御入用の趣了承仕候、依而玆許右印鑑証明書弐通加封差上候間、御査収被下度候、右不取敢御返事のみ、匆々如此御座候　敬具
　　大正十三年八月四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢事務所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　秘書室(印)

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　　　　　　　　　　　　　　（別筆朱書）
　　　　　　　　　　　　　　　　　大正十四年六月二十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事壬生雄舜氏
粛啓、梅雨之候愈々御清勝奉敬賀候
陳者当寺旧境内下戻地公園解除問題ニ付、去ル十九日東京市役所ニ於テ、岡田助役ヨリ懸案解決方法トシテ別冊ノ通提示セラレ候ニ付テハ之ニ対スル当寺ノ方針確定ノ為御協議相願度、御繁用中甚タ恐縮ナカラ、来ル二十五日（木曜日）午後四時、伝法院ヘ御来駕被成下度此段得貴意候　敬具
　　大正十四年六月二十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事　壬生雄舜
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿
　　○別冊見当ラズ。

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
専啓
去月二十五日御協議願上候浅草公園解除問題ニ関スル東京市提示ノ覚書要項ニ対シ、浅草寺ノ意向回答ノ為、昨六日小衲等両名市役所ニ出頭、岡田助役ニ面会ノ上左記要項ノ通書面ヲ以テ回答シ、且寺ノ意向大要口頭ニテ陳述致候処、岡田助役ヨリ市長トモ協議ノ上、更ニ何分御相談申スヘシトノ挨拶ヲ受ケ、退庁致候
右不取敢御報告申上候也
　　大正十四年七月七日　　　　　　　　　浅草寺内
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　壬生雄舜
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大森亮順
 - 第42巻 p.26 -ページ画像 
（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿

回答要項
　一　除却区域ハ貴意ノ通異議ナキコト
　二　不除却地ハ公用ニ供スル限リ永久ニ公園供用トスルニ異議ナキコト、但土地ノ所有名義ハ之ヲ保持スルコト
　三　伝法院庭園ハ名園保存ノ趣旨ニ依リ浅草寺ニ於テ修理保存ニ任シ、且制限公開ヲ実行スルコト
　　　　　　以上

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　浅草寺土地の件
問題の土地五万弐千四百弐拾八坪は、元来浅草寺に対し其信徒より寄付せられたるものなるが、勝区旧跡等衆庶遊覧の場所へ公園設置の件（東京に於ては金竜山浅草寺・東叡山寛永寺……総て社寺境内除地或は公有地の類）に関する、明治六年一月十五日太政官布告第十六号により公園となり居りたるに、明治参拾参年土地法の制定により、更に浅草寺の所有たること当然となりたるも、東京市に於ては之を承認せす結局浅草寺に於て行政訴訟を提起したる結果、浅草寺の勝訴となり其所有権確定したり、依て東京市に対し再三返還を要求せるも実現することなく、前後十六年を経過し今日に至りたるが、現時の市理事者に於ては、浅草寺の主張を認め之を返還せん意嚮なるも、現に公園たる土地なれば、其を返還し又は減地せんことは甚だ苦痛にして、之が為め所謂色を附けんと彼是考慮せるものにして、別紙岡田氏の案も苦心の跡歴々たれば、一概に寺の主張を徹底せしめんとする訳にはあらさるも、何分寺としては応諾出来兼ぬる趣なり
昨日の会議は信徒総代四名（七名の内渋沢子爵・沢柳政太郎・馬越恭平三氏欠席）顧問弁護士岸清一・岡崎正也外一名（高木益太郎欠席）参集、種々凝議の結果、覚書書要領（一）は承認して可然、（二）は東京市に於ては公園として充分手を入れるの希望にて其施設をなしたる後返還の請求等ありて面倒を生せんことを恐れ、之を予め避けんとする為めなること明白にして、東京市の立場よりは尤と思はるゝも、従来の関係もあり、其使用はせすとも所有権は持続したる方将来の為めもありよろしかるべしとの意見にて、其向にて東京市に交渉するに決す、（三）条件とすることは面白からさるに付、覚書に明記せす、後日協議することゝしたし、但し東京市会は彼の通り充分勝手なる議論を押し通す訳なれば、理事者としても何等かの辞柄なけれは、彼等を納得せしむること困難ならんかとも思為せらるゝ所なしとせざれば、事情によりては本項は承諾しても止むなきか、此位の含にて市当局と交渉することに決す、此等の引合は壬生・大森両師従来の関係もあり引続き之を担当することゝなる、（四）は其儘承認することに決す

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓、益御清適奉賀候、然は永年懸案と相成居候浅草寺所有浅草公園
 - 第42巻 p.27 -ページ画像 
地問題の解決如何は、同寺々門維持発展に付重大之関係有之候処、頃者御市との意志疎通致解決を得らるへき機運に立到候は、誠に欣幸の義に有之候、右は偏に貴下を始め当局諸氏の御高配による所と拝察罷在候、就て甚た勝手なから特別の御同情を以て一日も早く解決致候様御取計被下度御願申上候、老生としては本問題に対し別に立入居候義には無之候も、同寺住職救護栄海氏予て老生の関係深き寛永寺を督せられ候際御別懇に致候関係より、浅草寺信徒総代を御引受致、何かと御相談に与り居候為め、玆に申上候次第に御座候、右得貴意度如此御座候　敬具
　　大正十四年七月廿八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　東京市助役　岡田忠彦殿
　　○右ハ浅草寺執事壬生雄舜ヨリノ懇請ヲ容レ、浅草寺対東京市ノ係争問題タル公園除去ノ件ニツキ斡旋セルモノニカヽハル。（前掲書翰ハ写）
　　　蓋シ浅草寺ガ旧幕時代ヨリノ寺領境内ノ一部明治維新以後国有地ニ編入セラレシ部分アリ、明治三十三年六月以来、ソノ五万四千余坪ノ下戻ニツキ同寺ヨリ内務大臣ニ申請スルトコロアリシモ、明治四十三年十二月不許可トナリ、同寺ハ更ニ行政訴訟ヲ起シ、ソノ結果四十四年五月ニ至リ内務大臣ノ処分取消ノ判決ヲ得タルモ、既ニ其地ハ浅草公園ノ一部トシテ諸施設アリシヲ以テ、下戻実現ノタメ東京市トノ間ニ公園除去ノ交渉問題ヲ生ジ紛糾シテ容易ニ決セズ、十ケ年以上ヲ経過シ、漸ク是年ニ至リ解決ノ曙光見エタルヲ以テ、栄一マタ信徒総代ノ一人トシテ斡旋スルトコロアリシナリ。而シテ大正十五年五月ニ至リ両者ノ間ニ互譲協定成リ、六月十二日契約ヲ結ビ、昭和二年八月六日内務省告示ニヨリ公園ノ一部一万四千二百余坪ヲ除去、浅草寺所有地ト変更シテ解決ヲ告ゲタリ。（右ノ地ハ浅草公園ノ興行街ヲ含ミソノ賃貸料ニヨル土地収益年八万円以上ニ及ブトイフ。）
　　　（渋沢子爵家所蔵「浅草寺関係書類」（一）ニヨル）

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
専啓
明十八日午前十時公園問題ニ付緊急御協議申上度候条、御多用中乍恐縮同刻御尊来相願度、此段得貴意候　敬具
　　大正十四年八月十七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　壬生雄舜印
　　　信徒総代
　　　　渋沢栄一殿

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　浅草公園内寺有地除却請願解決覚書要領
一、浅草寺所有地ノ内使用地ノミノ地区ハ、将来公園改良拡張上必要ナル区域（図面来示公園附帯施設地）ヲ留保シテ、其ノ他ノ区域ハ之ヲ公園ヨリ除却ス
二、現在公園公開施設アル区域及図面来示「公園附帯施設区域」ハ浅草寺ヨリ市ニ寄附スルコト、但シ前段区域ノ内観音堂及仁王門附属敷地ハ之ヲ境内地トシテ、土地所有権ハ浅草寺ニ於テ留保スヘキモ
 - 第42巻 p.28 -ページ画像 
建坪以外ノ地ハ市ニ於テ維持負担ヲ為ス為メ、公園ニ供用スルコトトシ、其ノ他ノ建造物ノ敷地ハ公園無料使用地トシテ存置スルコト
二、第三区ノ内庭園ニ属スル図面来示「公園ヘ供用区域」ハ、名園保存ノ趣旨ノ下ニ市ニ管理セシメ、市ハ之ヲ修理保存シ、浅草寺庭園区域トシテ制限公開スルコト
四、第二区ノ一部及馬道町一丁目二十九番地ノ内浅草寺ノ所有地ニ対シテハ、請願中ニ含ミ居ラサルモ、公園ヨリ除却スルコト　以上
　右ニ依ル土地ノ異動関係左ノ如シ
　一　公園ヨリ除却スル土地
　　　　面積　　約二〇、二四〇坪
　　　　　此土地ヨリ生スル貸地料年額約八四、四九一円
　　　　　　　　使用地　　　　　　　　約八、一〇五坪料　金七四、四五一円
　　　　　　内訳
　　　　　　　　有料地トナシ得ル土地　約一、二五五坪料　金一〇、〇〇〇円
　　　　　堂宇其他敷地　　　　　　約九、一二七坪
　　　　　以上ノ土地ニ属スル道路　約一、七五三坪
　二　公園トシテ存続スル土地
　　　　面積　　約三二、一八八坪
　　　　　公園公開地　　　　　　約二五、七二五坪
　　　　　使用地　　　　　　　　約六、二六二坪
　　　　　堂宇其他ノ敷地　　　　約二〇一坪
　　外ニ公園ヘ供用スル寺有土地　約四、一六〇坪

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
専啓、予テ御配慮ヲ蒙リ居候浅草寺地所ノ件、最近東京市ト再三交渉ノ結果、別紙契約書並覚書（但シ多少字句ノ修正アリタリ）ノ通リ、本月三日市参事会ニ提案セラレ、委員（五名）附托ト相成、翌四日委員会結了、五日更ニ市参事会ニ於テ可決相成、来ル十日市会ニ附議セラルヽ事ニ聞及候間、右御報告旁不取敢以書中申上候　草々不尽
　　大正十五年五月六日　　　　　浅草寺地所係員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　壬生雄舜(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大森亮順(印)
　　　（宛名手書）
　　　信徒惣代
　　　　子爵　渋沢栄一殿
（別紙、謄写版）
　　　　契約書
浅草公園除却ノ件ニ関シ、東京市（以下単ニ市ト称ス）ト浅草寺（以下単ニ寺ト称ス）トノ間ニ契約ヲ為スコト左ノ如シ
第壱条　市ハ、公園地ノ内第一区及第二区（但仲見世ヲ除ク）ノ管理経営ニ付キ、浅草寺ノ保護ト史蹟保存ノ趣旨ニ基キ、宗教上ノ霊場タル尊厳ヲ保持スル為メ、此区域内施設ニ付テハ特ニ寺ト協議ノ上施行スルコト、尚ホ以上ノ趣旨ニ基キ浅草寺ヨリ申出アル場合ハ之ヲ尊重スルコト
第弐条　市ハ、現在公園区域中、寺所有地ノ内別紙図面表示ノ地域約
 - 第42巻 p.29 -ページ画像 
壱万四千弐百参拾参坪ヲ、公園ヨリ除却スルコト
第参条　寺ハ、前条除却区域以外ノ寺所有地ニ付テハ、市カ公園ノ用ニ供スル間ハ、市ニ対シ何等ノ申出ヲ為サヾルコト
第四条　市カ将来公園ノ用ヲ廃止シタルトキハ、其ノ全部ト一部ナルトニ不拘、市ハ其区域ニ対シ直ニ公園ヨリ除却スルコト
　　但シ浅草区役所敷地ハ、区役所敷地トシテ使用中ハ無料トス
第五条　第三区伝法院境内中、除却区域以外ノ庭園地域ハ、之ヲ市ノ管理ニ供シ、史蹟名勝保存ノ趣旨ニ基キ、伝法院庭園トシテ制限公開ヲ為スコト
第六条　本契約条項履行ノ為必要ナル事項ハ、別ニ覚書ヲ作製スルモノトス
第七条　本契約ハ、市会ノ承認決議ヲ経、内務大臣ニ於テ市区改正設計中浅草公園面積変更ノ告示ヲ為シタルトキ、其効力ヲ生スルモノトス
第八条　此ノ契約書（略図添附）ハ、弐通ヲ作リ、市及寺ニ於テ各壱通ヲ保有スルモノトス
　　大正十五年五月五日　　　　　　　東京市
　　　　　　　　　　　　　　　　右代表者
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村是公
　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺
　　　　　　　　　　　　　　　　右代表者住職
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　救護栄海
　　　　　　　　　　　　　　　　右浅草寺信徒総代
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馬越恭平
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　沢柳政太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高木益太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松崎孫太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中川清太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青木新九郎
　　　　（略図添付省略）

　　　　覚書
大正十五年五月五日東京市（以下単ニ市ト称ス）ト浅草寺（以下単ニ寺ト称ス）トノ契約書ニ基キ、之カ履行上遺漏ナキヲ期スル為、左記ノ事項ヲ遵守スヘキコトヲ約ス
　（一）契約書ハ、公正証書トシテ作製スルコト
　（二）除却区域ハ、市ト寺トニ於テ現場立会ノ上決定スルコト
　（三）除却地ノ地料ハ、大正十九年三月迄ハ理由ノ如何ヲ問ハス、価上ヲナサヾルコト
　（四）市ハ、契約後遅滞ナク承認案ヲ市会ニ提出シ、市区改正設計中浅草公園区域変更ノ手続ヲ為スヘキコト
　（五）除却地ノ使用料ハ除却告示ガ月ノ十五日以前ナルトキハ其月ノ半月分、十六日以後ナルトキハ全額ヲ、市ニ於テ取得スルモノトス
 - 第42巻 p.30 -ページ画像 
　（一）第三区伝法院庭園ニ属スル公園地域ニ対シテハ、市ハ寺ト協議ノ上、完全ナル復旧修理並ニ公開ニ必要ナル施設ヲ為スベキコト
　　　但シ之カ実施ノ為必要ナル地上物件ノ整理ハ、寺ニ於テ直ニ施行スベキコト
　（七）以上ノ外必要ト認ムル事項ハ、其都度市ト寺トニ於テ協議ノ上決定スルコト
　（八）此覚書ハ、弐通ヲ作リ、市及寺ニ於テ各壱通ヲ保有スルモノトス
　　大正十五年五月五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市
　　　　　　　　　　　　　　　　　右代表者
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中村是公
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺
　　　　　　　　　　　　　　　　　右代表者住職
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　救護栄海
　　　　　　（多少字句修正アリタリ）

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
謹啓、向暑之候益々御清安為邦家奉大賀候、然ハ去月二十八日東京市会ヲ通過致候公園地解除ニ関スル東京市対浅草寺契約書公正証書作製ノ件、俄然市長並三助役辞職ニ相成、手続上遅延相成候ハンカト心配致シ、促進方相計候処、幸ニ岡田助役市長代理トシテ残留相成候タメ本月十二日浅草区馬道町宮地貞頴公正役場ニ相方代理者出張、無滞公正証書ヲ締結シ、市長代理ヨリ至急内務大臣ヘ進達セラルヽ運ビニ相成候、由之十六年間ノ懸案モ、以御蔭一段落相付候儀、御同慶之至リニ存候、右御礼旁御通知申上度如斯ニ御座候　敬具
　　大正十五年六月十二日
　　　　　　　　　　浅草寺執事　壬生雄舜印
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿
　　○右大正十五年六月十二日作成ノ公正証書ニヨル契約書、及ビ覚書ハ、前掲契約書・覚書ト本筋ニ於テ同一ナルガ、次ノ如キ若干ノ相違アリ（単純ナル文字ノ相違ハ除ク）
　　　一、前掲契約書第四条末尾「除去スルコト」ヲ「除去ノ手続ヲ為スコト」トシ、続ク但条項ヲ削除ス。
　　　二、同第七条「内務大臣ニ於テ」ノ次ニ「第三条ニ定ムル地域ヲ除却スル為」ノ十五字ヲ追加ス。
　　　三、同第八条ヲ削除ス。
　　　四、市側調印者ヲ「東京市、右代表者市長代理東京市助役岡田忠彦」トス
　　　五、前掲覚書前文中ノ日付ヲ「六月十二日」トス。
　　　六、同第二項末尾ヲ「決定シ、市ハ之ヲ寺ニ引渡スコト」トス。
　　　七、同第三項中ノ「三月」ヲ「三月末日」トシ、末尾ヲ「値上ヲ為サヾルコトヲ寺ニ於テ声明スルコト」トス。
　　　八、同第四項ヲ第五項トシ、「承認案ヲ市会ニ提出シ」ヲ削除ス。
　　　九、同第五項ヲ第四項トス。
　　　十、同第六項但書ヲ「前項実施ノ為……」トシテ第七項トシ、以下ノ項目ヲ順次一項繰下グ。
 - 第42巻 p.31 -ページ画像 
　　　十一、日付ヲ「大正十五年六月十二日」トス。
　　　（渋沢子爵家所蔵「浅草寺関係書類」（一）中ノ資料ニヨル）

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
粛啓
炎暑之砌貴下益々御清祥奉賀候、陳者公園地解除ノ件六月六日告示相成候ニ付、種々御協議願上候条、大暑之折柄恐縮仕候得共、来ル十一日午前十時御来車被成下度、御願申上候　不宣
　　昭和二年八月八日
　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事　壬生雄舜印
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　公園除去善後ニ関スル協議事項
　　　　　　　　　　　　　　昭和二年八月十一日伝法院ニ於テ
一　公園除去問題ノ経過報告
二　東京市ニ対スル契約実行ニ伴フ具体的方法
三　借地人（現使用人）ニ対スル通知及新契約ノ方法
四　土地引渡ヲ受ケタル後ノ管理方法
五　地価設定其他ノ税務関係ニ関スル研究
　　　　浅草公園除却問題ノ経過
一　国有地下戻ノ申請
　　　明治三十三年六月、浅草寺旧境内五万四千余坪ノ下戻ヲ内務大臣ヘ申請
二　内務大臣ノ不許可処分
　　　明治四十三年十二月、内務大臣ヨリ不許可ノ指令アリ
三　行政訴訟ノ提起
　　　明治四十三年十二月、行政裁判所ヘ内務大臣処分取消ヲ出訴ス
四　行政裁判所ノ判決
　　　明治四十四年五月、内務大臣処分取消ノ判決アリ、旧境内五万四千七百余坪ヲ下戻サル
五　情願書ノ提出
　　　明治四十四年六月、内務大臣ヘ公園一部除去ノ件、情願書ヲ提出ス
六　市区改正委員会ノ決定
　　　大正二年五月、内務省市区改正委員会ニ於テ、浅草公園一部二千三百余坪除去ノ件決定
七　市ト寺トノ交渉
　　　大正五年四月以後、主トシテ東京市ニ対シ公園除去ニ関スル件ヲ交渉シ、二三ノ案ヲ協定シタルモ、毎度故障アリテ遂ニ成立ヲ見ルニ至ラス、約十年ヲ経過ス
八　東京市会ノ議決
 - 第42巻 p.32 -ページ画像 
　　　大正十五年五月ニ至リ、市ト寺トノ間ニ漸ク互譲的協定案（別記）成立シ、同月二十七日市会ニ於テ同案ヲ議決ス
九　特別都市計画委員会ノ決定
　　　昭和二年七月二十二日、特別都市計画委員会ニ於テ、前項協定ヲ基礎トシ、浅草公園一部壱万四千弐百坪除去ノ件議決
一〇　公園面積変更ノ認可及告示
　　　昭和二年八月二日、浅草公園面積変更ノ件内閣ノ認可アリ、同月六日、内務省告示ヲ以テ其旨告示サル
　　　　　　以上

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
議案第一号
　　地所部積立金中支出之件
一金四万五千円也
　右公園除却問題解決ニ付キ、弁護士其他尽力者ニ対スル謝礼トシテ前記ノ金額ヲ支出セントス、依テ承認相成度
　　（別筆）
　　昭和二年九月二日壬生雄舜氏持参、親シク説明ヲ聴取セラレタル上同意セラレタル由ナリ、同日承ル

浅草寺関係書類（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
謹啓
時下余寒難去候折柄、愈々御健勝之段奉大賀候、然ハ今般当寺信徒総代改選期ニ相成候処、当山貫首始メ支院住職一統、現任総代ヲ以テ継続重任セラレ度懇願ニ御座候儘、重々御迷惑ノ儀トハ拝察仕候モ、抂ケテ御聴済ノ上、近日持参可仕候改選届ニ御調印相願度、乍略儀以書中予メ御願申置候
○中略
右願用迄如斯ニ御座候、書外近日拝顔ノ上、委曲可申上候　敬具
　　昭和二年二月二十二日　　　　　　　浅草寺執事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　壬生雄舜　印
　　　信徒総代
　　　　子爵　渋沢栄一殿

渋沢栄一　日記　昭和三年　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月四日　快晴無風　寒気稍減ス
○上略浅草観音ノ本山タル浅草寺住職救護僧正、年賀ノ為来訪、随従僧侶四名共ニ来リ、寺院ノ近況ヲ説明セラル
○下略

集会日時通知表　昭和五年　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
六月十五日　午前十時半　浅草寺執事清水谷恭順氏来訪（飛鳥山邸）
　　○中略。
七月廿三日　午前九時　浅草寺貫主大森亮順氏来約（飛鳥山邸）

 - 第42巻 p.33 -ページ画像 

浅草寺関係書類（二）　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
謹啓、御清適奉賀候、然ハ左記ノ案件ニ付御協議相煩度候間、御繁務中恐入候得共、来ル十日午前十時御繰合セ御来院被成下度
及御依頼候也
　　昭和四年参月六日
　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事　壬生雄舜印
　　　　（宛名手書）
　　　　信徒総代　子爵　渋沢栄一殿
　　　　　　記
　一、土地無償譲与承諾ノ件
　一、浅草小学校仮校舎敷地ニ関スル件　以上

浅草寺関係書類（二）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　　　　　　　（別筆）
　　　　　　　　　　昭和四年二月二十日壬生雄舜氏、飛鳥山邸ニ持参即時調印セラレタルモノヽ控ナル由ナリ
　　　　請願書（写）
　　　　　　　　　　　　　　　　　東京市浅草区浅草公園
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺
浅草公園第五区所在、別図面記載ノ土地凡弐百坪ヲ、当寺計劃ニヨル社会事業会館敷地トシテ無償使用ノ儀、御許可被成下度、請願事由並使用計劃書相添ヘ、此段及請願候也
　　昭和四年二月　日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　右浅草寺住職
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　及信徒総代連印
　　　　東京市長　殿
　　○図面略ス。
　　　　請願事由
一、浅草公園ハ本市東北部ノ稍々中心ニ位置シ附近唯一ノ大面積地ナルト同時ニ、公園以北ノ市民ガ市ノ中央ニ出ツル関門ヲ形成シ、而モ之ヲ囲ム広汎ノ区域ハ、概ネ商業乃至小住宅地域ナレハ、一朝事アル時ハ、毎ニ本公園ニ市民ノ群集避難スルヲ常トシ、市民生活上誠ニ重大ノ使命ヲ有スルモノニ御座候
　是ノ故ニ、最近二十年ノ事実ニ徴スルモ、明治四十三年都下大水害大正十年浅草大火災、殊ニ大正十二年大震火災等ニ当リ、本公園ニ避難シテ生命財産ヲ全ウシ、速カニ復興ノ計画ヲ定メ得タルモノ挙ケテ数フ可カラサルモノアルハ、広ク知ラルヽ処ニ有之候
　当浅草寺経営スル処ノ浅草寺病院ノ如キモ、明治四十三年水害善後施設トシテ創立セラレタルモノニシテ、災害救助ノ効微々トシ称フニ足ラスト雖、幸ニシテ当寺ハ大震火災ヲ免レ、終始微力ヲ尽シテ救護ニ努メタルニヨリ、屡々官公私ノ褒賞ヲ拝シ、事業漸ク拡張シテ、現在救療・婦人・労働者・少年保護等ノ四事業、成人女子幼少
 - 第42巻 p.34 -ページ画像 
年教化輔導等ノ十事業ヲ併置シ、其経営ニ努力致居候得共、其ノ規模何レモ尚不充分ニシテ、之ヲ以テ将来ノ災害ニ対スル万全ノ施設ヲナシ得タルモノト為スコト能ハス、実ニ遺憾ニ耐エザル次第ニ御座候
二、他面、浅草公園ハ古来衆人雑閙ノ土地ニシテ、現在ニ於テモ都下屈指ノ歓楽郷ナルト同時ニ、幾多ノ社会悪ノ醸成地区タルノ観アリ婦人幼少年労働者保護事業等ノ此ノ地ニ常設セラルヽハ、対症的意味ニ於テ必要ナルト共ニ、将来ニ亘リ浅草ノ事情ヲ調査研究シ、害悪ノ根源ヲ究メ、進テ市民ノ理想的遊楽地ヲ建設スル準備前提トシテモ、必要欠クヘカラサルモノト信セラレ候
　由来、公園ハ市民行楽ノ地ニシテ、社会事業ノ経営場所トシテ好適地ニハ非ストスルモノ有之候得共、其位置ヲ定ムルニ意ヲ須フレハ毫モ公園ノ目的ヲ傷ツクルコト無キヲ得ルハ勿論、浅草公園ノ如キ複雑多形ナル内容ヲ有スル場所ニ於テハ、公園トシテノ真価ヲ発揮セシムル為ニモ、適当ノ社会事業的施設ノ附帯セラルルヲ必要トスルモノタルト同時ニ、浅草ノ地ハ現在モ尚細民地区ニ近接シ、且ツ細民生活ニ直接間接ニ関係ノ密接ナルモノアルヲ以テ、此ノ地ニ経営セラルヽ事業ハ最モ周知セラレ易ク、従テ其ノ効果著大ナルモノ有之候ハ、従来ノ成績経験ニヨリ当寺ノ確信スル処ニ御座候
三、事情斯ノ如クニ候為、当浅草寺ハ過去二十余年微力ヲ竭シテ、斯ノ地区ニ切要ナル社会事業ヲ経営シ、其ノ間幸ニシテ貴市ノ認メラルヽ処トナリ、屡々助成奨励ノ恩典ニ浴シ、尚去ル昭和二年ニハ、是等社会事業経営ノ基礎ヲ鞏固ナラシムル趣旨ニ依リ、浅草公園内旧境内地ノ一部ヲ返戻セラレ、依之財団法人浅草観音大慈会ノ設立ヲ見ルニ至リタルハ、当寺ノ最モ感激ニ耐エサル処ニ御座候
　然ルニ一面、社会事情ハ日ニ遷リ、当浅草寺ノ如キ宗教団体ノ対社会的機能ニ関スル一般ノ期待モ、日ニ高キヲ加フル趨勢ニアリ、到底従来ノ施設ニ止守スルヲ許サレサルモノト信セラレ、且又事業敷地ノ一部ハ貴市御指令ニ依リ近ク建築物撤退ノ予定ニ有之候為、新ニ公園及其ノ附近ノ諸現象ヲ対象トスル教化社会事業ノ統一アル経営ヲ計劃シ、従来ノ仮建築ニ経営セラレタル事業ヲ是レニ併合セント企ツルニ到リシモノニ御座候
四、前陳ノ事由ニ依リ、新計劃ノ事業会館建設敷地ハ浅草公園ノ一隅ヲ選フヲ必要トスルモノニ有之候得共、這ハ他面ヨリ見レハ、即チ観音堂ト両々相対峙シ、宗教的信念ト共栄ノ社会事業ノ融合一致スルノ縁トナリ、社会事業トシテ特殊ノ意味アルモノト確信スル次第ニ御座候
　方今文物日ニ進ミテ、反テ既ニ泰西ニ於テハ二十世紀文明ノ崩壊ヲ云為セラレ、吾邦ニ於テモ思想漸ク遷リテ、国難ヲ唱フルモノアリ斯ノ如キ秋ニ当リテ、宗教団体ノ使命一層深大ナルモノアルヲ覚ユル次第ニシテ、当浅草寺ノ如キ、民衆ト最モ密接ノ関係アル寺院ノ懸身的努力ハ、必ス将来ノ解決ニ対シ、何等カノ暗示ヲ与フルモノニシテ、依之社会ノ矯激ナル傾向ヲ鎮メ、穏健確実ナル帰趨ニ導クノ端緒ヲナスモノナルヲ確信スルモノニ有之候
 - 第42巻 p.35 -ページ画像 
　　　　計劃
一、土地使用計劃
　本請願ノ土地ハ、浅草公園第五区改正道路ニ面シタル区域凡弐百坪ニシテ、公園ノ西北隅、古来古墳トシテ伝エラレタル小地隆ヲ囲ム位置ニアリ
　其使用計劃ハ別図ノ通リ、公園ニ面スル側ハ適当ノ植《（樹脱カ）》ヲナシ、周囲ノ風致ニ調和シタル建築ヲナシ、改正道路及ビ花屋敷前道路ニ向ヒ入口ヲ造ルモノトス
二、事業計劃
　弧立社会事業ノ短所ヲ除キ、一般社会事業団体及ヒ官公署警察署ト密接ノ聯絡ヲナスハ勿論、浅草公園第六区貴市職業紹介所並ニ同シク貴市御計劃ノ弁天山下児童遊園地事業ト聯絡シ、大要次ノ如キ事業ヲ経営セントス
　一、人事相談部
　　　イ、婦人相談事業　公園ヲ中心トスル婦人ニ関スル百般ノ相談地方年少婦人ノ出京シタル者ニ対スル相談、其ノ他一般家庭内ノ諸問題ニ対スル解決指導、及ビ各種ノ書状相談等ニヨリ、不良職業婦人ノ向上、婦人ノ堕落沈淪ノ防止、家庭不和ノ解決、上京求職希望者ノ事前ニ於ケル指導ヲナスコト
　　　ロ、妊産婦幼児保護事業　当寺経営ノ婦人会館ノ経験ニヨリ、前項ノ事業ニ附帯シテ経営シ、両事業ノ徹底ヲ計ルモノニシテ、近時斯ノ事業ノ必要益々其ノ度ヲ高メツヽアリ。
　二、宿泊保護部
　　　イ、婦人宿泊事業　婦人保護事業ハ院外保護方法ノミヲ以テシテハ、到底其ノ効ナキモノニシテ、宿泊ニヨリ婦人ノ一身ヲ安全ナラシメ、起居ヲ同ウスルニヨリテ其ノ個性ヲ鑑査シ、初メテ保護ノ正鵠ヲ得ルモノナリ、当寺婦人会館ハ、市内ニ例類少キ成績ヲ以テ、常ニ市内各停車場職員及警察署職員其他ノ援助ニヨリ、要保護婦人ノ早期収容ヲナシ得タルヲ以テ、近時浅草公園内ニ婦人誘拐等ノ犯罪殆ド其ノ跡ヲ絶ツニ至リタルハ、人ノ知ル所ナリ
　　　ロ、男子宿泊事業　男子ノ宿泊保護事業ハ大震善後ノ事トシテ市内ニ多数設置セラレ、当寺三軌会館モ常ニ百三名ノ宿泊定員ヲ維持シツヽアレドモ、其収容資格ハ自ラ定マリ、其設備ハ自ラ専門的ニ固定シタルモノニシテ、彼□《（欠字）》故郷遠ク此ノ市ニ止リ、一朝不幸ニ逢ヒテ方向ヲ失シタル者ノ如キ宿泊ニ加フルニ周到ノ保護指導ヲナサヾル可ラサル者ニ対シテハ、別ニ施設ナカル可ラズ。殊ニ若干ノ資金ヲ帯スル者ノ如キハ、屡々失意ノ結果之ヲ浪費シ、再起ノ望ヲ自ラ喪フコト稀ナラズ、其ノ他本計劃他部事業ノ徹底ヲ期スル為、本事業ヲ必要トナスモノナリ
　三、保健医療部
　　　イ、健康相談事業　乳幼児健康相談事業ノ必要ハ、貴市ノ夙ニ
 - 第42巻 p.36 -ページ画像 
唱導実施セテレ、其ノ成績著大ナルコト敬祝感謝ニ耐エサル処ニシテ、浅草ノ土地モ亦最モ其ノ施設ヲ要望シツヽアルモノナリ、当寺ハ之ニ加ヘテ、成人花柳病・肺結核・トラホーム及ビ其他一般疾患ニ対スル健康相談ヲ併置セントスルモノナリ。
　　　ロ、医療保護事業　当寺経営浅草寺病院ノ事業ヲ継承シ、一般ノ医療ニ当ルト同時ニ、他部事業ト一層密接ナル聯絡ヲトラシム。収容病舎ハ其ノ少部分ヲ本会館ニ置キ、主要病舎ハ第二次計劃ニ依リ、之ヲ近郊ニ設ケントスルモノナリ
　四、感化矯風部
　　　イ、浮浪者保護事業　浅草公園内浮浪者ニ関スル諸問題ハ、屡屡内外ノ議論スル所ナレ共、其ノ徹底的解案ハ法ノ制規ヲ待チテ初メテ望ミ得ヘキモノトシテ、従来継続的対策ノ講究セラレタルモノ無カリシガ、深ク観察スル時ハ、浮浪者ノ生活ニモ種々ナル分類アリ、其ノ一部分ハ保護ニ依リテ相当ノ効果ヲ期待シ得ヘキモノニシテ、斯ノ如キ浮浪者ヲ保護ニヨリテ研究調査ヲ重ネ、各人ノ性向ヲ知悉シ得ルコトハ根本的解決ニ重要ナル寄与ヲナスベキヲ信ジ、浮浪者ノ仮収容、天候其ノ他ニヨル一時保護、医療保護、転送紹介等ノ事業ヲナサントスルモノナリ
　　　ロ、少年保護事業　不良行為アル少年及ビ其ノ傾向アリト推セラルヽ少年ノ保護指導ハ、現ニ当寺施無畏学園ニ於テ大正十二年七月以来経験ヲ重ネ、寺内ニ司法省嘱託少年保護司四名ヲ数フルモ、事業所遠隔ノ地ニアリ、市内父兄ノ斯カル施設ヲ利用スルニ不便多ク、且ツ公園内ノ浮浪児ノ如キニ就テハ、其作用及ヒ難キ憾アリシヲ以テ、新ニ少年保護事業ノ精神ニ立脚シタル、少年相談所ヲ設置セントスルモノナリ
　五、職業技芸指導部
　　　イ、技芸指導　現在社会事業ノ保護ヲ受クル婦人ニシテ、裁縫料理等ノ常識的技芸ヲ習得スル機会ナカリシモノ少カラズ斯ノ如キ婦人ニ家婦トシテ必要ナル技芸ヲ授クルハ、保護ノ徹底ヲ計ル上ニモ効果大ナルモノアリ。
　　　ロ、職業指導　筋力ヲ資本トスル自由労働者タルニ適セサル男子ニシテ、一般ノ屋内勤労者トシテモ資格ニ欠クル処アルガ如キ者ニ対シ、必要ノ補習ヲ施シ、就職ノ端緒ヲ得セシムル外、筋肉労働者ニ対シテモ、職業上ノ智識ヲ援ケ、其ノ生活ノ向上ヲ計ラシム、之レニ就テハ当浅草寺諸消耗品ノ製作、境内土木工事ノ見学練習等ノ便宜アリテ、其ノ結果良好ナルベキヲ信ズルモノナリ
　六、調査研究部
　　　　　此ノ部ニ於テハ、館内各部取扱者ノ受付、資格審査、事業ノ統一、対外的連絡等ニ関スル一切ノ事務ヲ司ル外、社会事情殊ニ浅草公園ヲ中心トスル研究調査ノ機関ヲ常設シテ
 - 第42巻 p.37 -ページ画像 
事業ノ当否、将来ノ計劃ヲ定ムルモノトス

浅草寺関係書類（二）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　　　　　　　（別筆）
　　　　　　　　　　昭和四年二月二十日壬生雄舜氏、飛鳥山邸ニ持参即時調印セラレタルモノヽ控ナル由ナリ
　　　　土地無償譲与承諾書
　　東京市浅草区浅草公園第五区ノ内
　　　宅地　壱千百拾参坪
　　　　此地価金壱万八千九百弐拾壱円也
右土地当寺所有ノ処、今般当寺一山医王院外二十一箇院カ、寺院移転建築ノ目的ヲ以テ、右土地ヲ境内ニ供用スルニ付テハ、寺院移転建築ノ件、東京府知事ノ許可ヲ受ケタルトキハ、直ニ相当手続ヲ経テ、該土地ヲ医王院外二十一箇院供有境内地トシテ、無償譲与スルコトヲ承諾候也
　　昭和四年二月　日
　　　　　　　　　　　右土地所有者
　　　　　　　　　　　東京市浅草区浅草公園
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺
　　　　　　　　　　　　右寺住職
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大森亮順
　　　　　　　　　　　　右寺信徒総代
　　　　　　　　　　　東京市浅草区新旅籠町十六番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中川清太郎
　　　　　　　　　　　同市同区千束町二丁目三百六十四番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松崎孫太郎
　　　　　　　　　　　同市同区北仲町七番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　青木新九郎
　　　　　　　　　　　同市日本橋区本銀町四丁目九番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高木益太郎
　　　　　　　　　　　東京市深川区福住町四番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　同市麻布区北日ケ窪町四十六番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馬越恭平
　　　　　　　　　　　同市深川区久永町五番地
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　太田信治郎

浅草寺関係書類（三）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
謹啓、秋冷之砌愈御安祥奉賀上候、陳者来十月廿日午後五時信徒惣代会議開催候条、乍恐縮御出席被成下度、此段御依頼申上候　敬具
　　昭和五年十月十八日
　　　　　　　　　　　　　　　　浅草寺執事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清水谷恭順印
 - 第42巻 p.38 -ページ画像 
　　　　子爵　渋沢栄一殿

浅草寺関係書類（三）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓　先般信徒総代会議ニ御依頼申上候臨時一山会議開催ノ件、昨二十一日午后五時開会、別紙議決報告ノ通リ夫々議決致候間、御同意被成下度
此段得貴意候　敬具
　　昭和五年十月二十二日　　　　　　　　浅草寺執事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　清水谷恭順印
　　　信徒総代
　　　　（宛名手書）
　　　　子爵　渋沢栄一殿
（別紙一）
　昭和五年十月二十一日開会
　　　　臨時一山会議々案
　　第壱号　公園六区土地ニ関スル件
本年六月二十二日臨時一山会議ニ於テ議決相成リタル、公園六区土地明渡シ請求訴訟提起ノ件、其後管地部長ト六区代表者トノ間ニ、数十回ノ交渉折衝ヲ遂ゲタル結果、今般左記条件ノ下ニ協定セントス、依テ承認ヲ求ム
　　　　　　左記
　一、公園六区七館借地人ハ地料参割値上ケヲ率先承認スル事
　二、本堂営繕ニ金拾万円ヲ拾ケ年賦ニテ寄附スル事
　三、将来東京市ニ於テ市有地ノ新規貸付ニ関シ権利金ヲ徴収スルノ規定ヲ設ケタルトキハ、本件ノ借地人ハ其規定ニ準拠シ、相当ノ金額ヲ地主ニ納付スルモノトス
　　前項ノ場合ノ納付金額及納付方法ハ、地主・借地人双方協議ノ上之ヲ決定スル事　以上
　　（附記　本条件ハ顧問弁護士岸博士及木村氏ノ認定ヲ得シモノ）
　　第二号　預リ金受入報告ノ件
昭和五年七月二十九日、天台宗務庁ヨリ預リ金ノ形式ヲ以テ、金弐万円也、利子年六分二厘五毛ニテ借入レタリ
同年九月三十日付、支院復興会ヨリ金壱万円也、利子年五分ノ割ヲ以テ、預リ金ノ形式ヲ以テ借入レタリ
　右ハ何レモ月末支払ニ窮シ余儀ナク取リ急ギ処理シタル為メ事後承諾ヲ求メムトス　以上
　　議案第三号　朝鮮出張所新設ノ件
天台宗務庁ノ慫慂ニ依リ、朝鮮釜山ニ当寺ノ出張所ヲ新設セントス、其ノ概算左ノ如シ
　一、土地建物買収費　金参千円也
　一、準備費　　　　　金弐千円也
　　　　計　金五千円也
　右承認ヲ求ム
　（別紙二）
 - 第42巻 p.39 -ページ画像 
　昭和五年十月二十一日
　　　　臨時一山会議々決報告
　　　　　　　　　　開会　午后五時
　　　　　　　　　　開会　同　八時三十分
議案第一号　公園六区土地ニ関スル件
右　承認
議案第二号　預金受入報告ノ件
右　承認
議案第三号　朝鮮出張所新設ノ件
右ハ左ノ通リ修正可決
　「準備費金弐千円也」ヲ「調査費金弐百円也」ト修正、従ツテ「計金五千円也」ヲ「計金参千五百円也」ト修正シタリ

（浅草寺執事）電報　　渋沢栄一宛昭和五年一二月一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）

浅草寺関係書類（三）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓、益御清適奉賀候、然者別紙池田直江氏来書本日入手、披見致候処、貴所有土地に関する件に付、玆許加封御転達致候間、御査閲可然御処置可被下候
猶参考のため、同件の概要を承知致度候に付ては、御多用中申兼候得共御通報被成下候はゞ仕合に存候、先は右得貴意度、匆々如此御座候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　昭和六年五月二十六日　　　　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　秘書役
　　　浅草寺執事
　　　　小岩井貫栄様
　　○別紙写次掲。

浅草寺関係書類（三）　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
写
　　　　催告書
東京市浅草区浅草公園地第二区
土地四千七百七拾五坪ノ内
一、土地参百坪八合
　　　但観音勢至両仏像所在地及其附属地
右ハ其附近ノ他ノ土地ト共ニ、明治四年中誤テ官有ニ編入セラレ居候
 - 第42巻 p.40 -ページ画像 
処、貴寺ニ於テ行政訴訟ヲ提起シ、明治四十四年五月廿六日土地下戻ノ裁判宣告アリタルヲ以テ、貴寺ニ於テハ貴寺ノ所有地ナリト信ジ居ラルヽナランモ、元来頭書ノ土地ハ、貞享四年六月二十八日、催告人ノ祖先高瀬善兵衛ニ於テ、仏像及草庵建立ノ為メ金参百両献金ノ上、永代御払下ニ相成居リ、爾来引続キ催告人家ノ所有ニ属シ、現ニ催告人ノ所有地ニ有之候ニ就テハ、此際頭書土地ニ反対スル催告人ノ所有権ヲ確認シ、所有権移転登記手続相成度、此段及催告候也
　　昭和六年五月廿五日
　　　　　　　　　　群馬県邑楽郡大箇野村大字大高島七十番地
　　　　　　　　　　　　　　催告人　　　高瀬善一郎
　　　　　　　　　　　　　　右代理人
　　　　　　　　　　　　　　東京市日本橋区浜町三ノ一
　　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　池田直江印
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　電話浪花二五八番
　　　浅草寺檀徒総代
　　　　子爵　渋沢栄一殿
（欄外記事）
　昭和六年五月廿六日浅草寺執事小岩井貫栄師ヘ転達ノ来書写。
　但シ名宛ハ大部分省略