デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
3節 其他ノ教育関係
2款 財団法人埼玉学生誘掖会
■綱文

第45巻 p.202-205(DK450066k) ページ画像

大正2年5月18日(1913年)

是ヨリ先、当会、栄一ノ発意ニヨリ渡辺世祐・八代国治ニ依嘱シテ、武蔵国出生ノ武士ノ列伝ヲ編纂シ、「武蔵武士」ト命名シテ博文館ヨリ発行セシメ、埼玉県下各小学校ニ寄贈ス。是日栄一、之ヲ皇太子殿下並ニ各皇子殿下ニ献上ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四五年(DK450066k-0001)
第45巻 p.202 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治四五年          (渋沢子爵家所蔵)
五月二十日 晴 暖
○上略 朝飧ヲ食シ後○中略来訪ニ接ス、応接畢リテ武蔵武士ノ原稿ヲ一覧ス○中略午後五時過帰宿、夜飧後○中略武蔵武士ノ原稿一覧ニ勉メ、夜一時ニ至リテ就寝ス
○下略
五月二十一日 雨 軽寒
午前七時起床、入浴シテ朝飧ヲ食ス、後武蔵武士ノ原稿ヲ一読ス○下略
  ○中略。
五月二十四日 晴 軽寒
○上略 夜飧後○中略王子ニ帰宿ス、夜武蔵武士ヲ読ム
○下略


委員日誌(二)(DK450066k-0002)
第45巻 p.202 ページ画像

委員日誌(二)           (埼玉学生誘掖会所蔵)
六月 日○明治四五年
○上略
 六月の幾日でありましたか、男爵渋沢閣下が寄宿舎へお見へになりまして、夕食のとき一寸食堂へ参られ短いお話しをいたしたことがございました、そのお話しは大要左の通りでありました。
    埼玉県に関係ある古の武士に関する著述をいたして世に出したいと思ひます。即武蔵武士の精神を伝へたいといふ希望であります。諸君が今試験場にあるは即武士が戦場へ臨むと全く同じでありますでありますから、諸君ハ必至になつて勉強して、十分功名手柄して家名を挙げねばなりません。


渋沢栄一書翰 斎藤阿具宛明治四五年五月三一日(DK450066k-0003)
第45巻 p.202-203 ページ画像

渋沢栄一書翰  斎藤阿具宛明治四五年五月三一日   (斎藤阿具氏所蔵)
 (附箋、所蔵者筆)
 [是ハ「武蔵武士」ノ原稿ヲ閲覧ニ供セシ時、此ノ概評意見ヲ附シ
 - 第45巻 p.203 -ページ画像 
テ返還セラレシナリ
上下二篇匆々ノ間ニ之ヲ一読セシニヨリ審ニ之ヲ評論シ難シト云トモ武蔵武士ノ沿革ヲ叙スルニ当リテ、源頼朝ノ覇府ヲ鎌倉ニ開キテ、国主ニ守護ヲ置キ荘園ニ地頭ヲ置キテ、因襲ノ久キ終ニ武門武士ヲ確認スルニ至リシノ事情ヲ明瞭ナラシメ、且当時ノ武士ノ各党派ヲシテ詳細ニ列記セラレタルハ、編者ノ注意ト勉力トヲ多トスルニ足ルモノアリ、然リト云トモ全篇ノ行文体裁一ナラスシテ、文義流暢ヲ欠クモノアリ、篇中一読誤謬ト認メタル処ニハ其事ヲ記入シ、又意味了解シ難キモノアルカ、字句明瞭ナラサルモノニハ悉ク疑問ヲ付シ置キタリ
要スルニ文章ニ付テモ少シク修正ヲ加ヘテ其体裁ヲ一ナラシメ、且誤謬ト疑問ノ点ヲ補正シテ速ニ印刷ニ付セラレタキモノナリ
  明治四十五年五月三十一日
                    渋沢栄一識


渋沢栄一書翰 斎藤阿具宛(大正元年)八月一〇日(DK450066k-0004)
第45巻 p.203 ページ画像

渋沢栄一書翰  斎藤阿具宛(大正元年)八月一〇日   (斎藤阿具氏所蔵)
拝読 益御清適奉賀候、然者過日御遣被下候武蔵武士之凡例ハ既ニ一覧済ニ候得共、序文出来候まで暫時御預り申候、而して其序文も略原案出来候も、何分不満足之点有之候ニ付再考中ニ御座候、是又御猶予被下度候
賢台昨今御所労之由、御当分之事とハ存候も炎暑中別而御摂養祈上候右拝答旁一書申上候 不備
  八月十日
                      渋沢栄一
    斎藤阿具様
        拝復


武蔵武士 渡辺世祐八代国治編 序大正二年四月刊 【武蔵武士序 青淵老人識(DK450066k-0005)
第45巻 p.203-204 ページ画像

武蔵武士 渡辺世祐八代国治編  序大正二年四月刊
武蔵武士序
埼玉学生誘掖会は、余輩埼玉県出身者相謀り県下の有力者を糺合して創立せしものにして、其目的とする所は都下に在学する青年の為めに寄宿舎を設けて、其起臥寝食を共にし、互に志操を堅実にし脩学勉励して以て入徳の工夫に資すると倶に、本県旧時多数の諸侯ありて、其領地犬牙交錯し区々の余弊今猶存するものあるを一掃して、大に県情を疏通せしめむとするに在り、爾来十余年を経て事業緒に就くといへとも尚進脩の道を講せさるへからす、是を以て曩に本会理事の協議を以て、本県の古史に鑑ミて一書を著作し、其英雄豪傑を挙け学生をして崇尚私淑の念を起さしめ、并て奉公忠誠の心を修養せしめむと欲す太古は邈たり、得て考ふへからす、奈良朝に当り京畿中国の人多く廟堂に顕はれ、爾後藤原氏の権勢歴朝に充満し、其衰ふるに及ひて源平相争ひ、源氏の竜騰に際し本県より出てゝ天下に雄飛せしもの亦乏しからす、其子孫〓衍し基礎を関東に築きて、鎌倉開府を見るにいたる而して北条氏陪臣を以て国命を執るの日に於ても、尚武相を以て武人の冀北となす、所謂六十州の兵を以て武相両国に当るへからすとするもの、豈其地理と歴史と相待て然らしむるものにあらすや、其後或は
 - 第45巻 p.204 -ページ画像 
顕はれ或は隠れ、江戸幕府三百年の泰平に由りて復た武を用ゆるの機なく、其後裔韜晦して農と為り工商となりて、以て今日に至れるなり本会理事斎藤阿具君嘗て斯書著作の事を担当せられ、文学士渡辺世祐八代国治二君に嘱して古記録を渉猟し、武蔵古武士の系譜伝記を抄録編纂し、書成て武蔵武士と題し、余に序を乞はる、受けて之を閲するに保元平治以降武人党伐の沿革より荘園制度の変態に至るまで詳密に叙述して洩す所なく、而して其潜会黙移他日大小名の種族を生するに至るの蹤歴々として掌を指すか如し、其労多謝せさるへからす
夫れ本県の地たる八州の沃野に連り、遠く千仞の富岳を望ミ近く渺漫たる刀根荒川を擁し、形勝雄大全国無比の地勢を占め以て大都の屏護に当る、宜なるかな明治中興江戸を以て東京となし新文明の淵源を開く、本県の人士たるもの空前の光栄に感し、七百年前の祖先を慕ひ発奮興起して天恩の万一に報せさるへけむや、学生諸子幸に科学を以て其知能を啓発し、斯書に依て其志気を作興し、武魂文才以て中興の新日本に処するを得は、庶幾くは七百年前の祖先に愧つる所なからむ乎
  大正癸丑一月大磯客舎に於て
                  青淵老人識
                     


埼玉学生誘掖会十年史 同会編 第八五―一〇一頁大正三年一〇月刊(DK450066k-0006)
第45巻 p.204 ページ画像

埼玉学生誘掖会十年史  同会編 第八五―一〇一頁大正三年一〇月刊
 ○第一篇 埼玉学生誘掖会史
    第二期 財団法人組織時代
○上略 十二月九日○明治四四年第一回維持員会を開き○中略是より先き明治四十三年十月、会頭は我地方出身の鎌倉時代の武士にして其言行後世の模範となるべきものの伝記を著述し、以て県下青年に修養の資料を供せんと欲し、其著者の選定を副監督斎藤阿具氏に託したりしに、氏は文科大学史料編纂掛文学士渡辺世祐氏に其著述を依頼したるを以て、其書を『武蔵武士』と題名し、本会の事業として之を出版するに決し、之が経費金四百円支出の儀維持員会の議決を経たり。
○中略 曩に第一回維持員会の議決を経て著作を依嘱したる「武蔵武士」は稿成り、今春○大正二年博文館をして出版せしめしに、四月成本出来せしを以て同館に於て発売せしめ、其直接本会に申込みたる者に対しては参百部を限り特価を以て其需に応ずることに約定せり。然るに深川区佐賀町二丁目熊倉良助氏(北葛飾郡幸手町出身)は深く本会の此挙を賛し、県下全小学校に該書籍を頒与する趣旨を以て、金六百円を該書出版費の内に寄附せられたり。因て本会は其厚意を容れ、五月県下小学校四百四十八校に寄贈の手続を了せり。以上の結果として本書初版壱千部は忽にして竭き、更に再版八百部を起すの盛況を見るに至り本書出版の目的も略々達するを得たり。○中略五月十八日渋沢会頭は青山御所に参候 二皇子殿下に拝謁し、皇太子・二皇子三殿下に「武蔵武士」を献納せり。○下略


武蔵武士購入依頼状案(DK450066k-0007)
第45巻 p.204-205 ページ画像

武蔵武士購入依頼状案            (斎藤阿具氏所蔵)
    武蔵武士購入依頼状案
 - 第45巻 p.205 -ページ画像 
拝啓益々御清適奉賀候、陳者本会創設以来既ニ十星霜ヲ閲ミシ、漸次予期ノ目的ヲ遂ケ財団ノ基礎漸ク鞏固ヲ加ヘ候ニ付テハ、今後ハ全力ヲ人材養成ニ傾注致サント企図致シ居ル次第ニ御坐候、然シテ之レカ方法タル、一ニシテ足ラサルコト勿論ノ義ニ有之候得共、先ツ郷土偉人ノ事蹟ヲ編纂シ青年子弟修養ノ資ニ供セシムルハ、此目的ヲ達スルノ捷径カト存候、曩ニ埼玉県教育会ニ於テ編纂相成リ候塙検校権田直助翁伝ノ如キ、近クハ法学士諸井六郎氏ノ著ニ成ル「徳川時代ノ武蔵本庄」ノ如キハ共ニ此趣旨ニ適合致シ候義ニテ、斯ク本県ニ関スル著書ノ続々上梓セラルヽハ実ニ快心ノ至リニ御座候
本会又タ此目的ヲ遂行スルノ一法トシテ、今回文学士渡辺世祐及八代国治ノ両氏ニ嘱シテ「武蔵武士」ヲ編纂致候、本書ハ著者特ニ本務ノ余暇ヲ以テ遍ネク本県ノ山野ヲ跋渉致シ、故老ニ尋ネ実地ヲ踏査シ、多大ノ日数ト辛苦トヲ費シテ漸ク出版スルノ運ヒニ至リタル者ニ有之候ヘハ、巻中収ムル所ノ人物ハ、所謂鎌倉時代ニ於ケル武蔵武士ノ精華ヲ網羅シ、殊ニ熊谷直実・畠山重忠・比企義員・金子家貞・斎藤実盛ノ如キハ、史伝ニ口碑ニ由リテ人口ニ膾炙致シ居リ候ヘ共、一度本書ヲ繙ケハ殊ニ其性格ヲ詳ニシ、其人物ヲ偲ヒ得ルコト不鮮、本書ノ価値実ニ玆ニ存スル義ト確信致候
如上ノ趣旨ニテ本書編纂致シ候ヘ共、之レカ出版ニ要スル費用又タ少カラス候ニ付テハ、玆ニ貴下ノ深厚ナル御同情ヲ仰キ、是非一本ノ御購入ヲ願ヒ、併セテ御親近諸氏ヘ御勧誘ノ上、本書発行ノ趣旨ヲ貫徹致シ得ルヨウ御援助ヲ賜ハリ度切望ノ至リニ不堪候、先右御依頼迄得貴意度如斯ニ御座候 敬具

本書簡ニハ返信用ハカキ封入スルコト
代金ハ本会振替口坐ニ払込マシムルカ、又タハ代金引替小包便ニ拠ルコト


武蔵武士出版ニ関スル契約ノ概要(DK450066k-0008)
第45巻 p.205 ページ画像

武蔵武士出版ニ関スル契約ノ概要     (斎藤阿具氏所蔵)
    武蔵武士出版ニ関スル契約ノ概要写
一、弐百部ヲ埼玉学生誘掖会ヘ無償ヲ以テ交附スル事
二、著作権ハ誘掖会ニ於テ所有シ、発行権ヲ博文館ニ於テ所有スル事
三、弐百部ノ外、約参百部ハ埼玉県庁ノ手ニ於テ販売シ得ル見込
   但之ニ関スル手数ハ誘掖会ニ於テ執ル事
四、前項参百部及此外誘掖会ニ於テ販売スヘキモノヽ代価ハ定価ノ約弐割引トス
   但定価ハ一冊壱円弐拾銭乃至壱円参拾銭ノ見込
五、初版壱千部迄ハ無印税トス、増版ノ場合ニハ相当ノ印税ヲ誘掖会ニ支払フベキコト
   以上