デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

5章 教育
4節 教育行政関係
1款 教育調査会
■綱文

第46巻 p.277-280(DK460083k) ページ画像

大正3年11月4日(1914年)

是日、文部大臣官邸ニ於テ、当調査会特別委員会開催セラル。栄一、出席シテ徳育調査ノ必要ヲ提議ス。


■資料

集会日時通知表 大正三年(DK460083k-0001)
第46巻 p.277 ページ画像

集会日時通知表  大正三年       (渋沢子爵家所蔵)
十一月四日 水 午後二時 教育調査会特別委員会


竜門雑誌 第三一八号・第六三―六四頁 大正三年一一月 ○徳育調査の提案(DK460083k-0002)
第46巻 p.277-278 ページ画像

竜門雑誌  第三一八号・第六三―六四頁 大正三年一一月
○徳育調査の提案 十一月四日午後二時より文相官邸に於て開会したる教育調査会特別委員会に於て、青淵先生には
 教育調査会は其名の如く単に学制制度のみの調査を為すに止まらず進んで智育以外徳育上に関しても調査を為すを要す、現行の各制度は智育のみに厳格にして徳育を閑却したるやの感あれば、今回の制度調査を機とし大に徳育上に関する調査を為し、以て充分之を加味したる改革案を作成されんことを希望す、是蓋し学生の現状に鑑み最も緊要なりと信ずればなり
 - 第46巻 p.278 -ページ画像 
と提議する所あり、之に対し蜂須賀委員長も
 昔者は道徳を修むるを以て学問と称せしも、現今は之と正反対に専ら智育のみに傾けるやの嫌ひあり、渋沢男の意見は最も吾人の意を得たるものなり
と之を賛成し、最後に江木氏は各提出案に対する意見は略一致点に近づきつゝあれば、各案を一括して決を採るも最早差支なかるべしとの意見を述べたる由。



〔参考〕集会日時通知表 大正三年(DK460083k-0003)
第46巻 p.278 ページ画像

集会日時通知表  大正三年       (渋沢子爵家所蔵)
十一月十日  火 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十一月十三日 金 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十一月十七日 火 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十一月二十日 金 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十一月廿四日 火 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十一月廿七日 金 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十二月一日  火 午後二時 教育調査会
  ○中略。
十二月四日  金 午後二時 教育調査会(大学令ニ関スル特別委員会)
  ○中略。
十二月八日  火 午後二時 教育調査会(大学令特別委員会)
  ○中略。
十二月十一日 金 午後二時 教育調査会(大学令特別委員会)
  ○中略。
十二月十八日 金 午後二時 教育調査会特別委員会
  ○中略。
十二月廿二日 火 午後二時 教育調査会特別委員会



〔参考〕教育の実際 第七巻第一一号・第四―六頁 大正二年九月 現代教育の欠陥 男爵渋沢栄一(DK460083k-0004)
第46巻 p.278-280 ページ画像

教育の実際  第七巻第一一号・第四―六頁 大正二年九月
    現代教育の欠陥        男爵渋沢栄一
      一 緒言
 現代文物の隆盛は、独り我が国空前の偉観たるのみならず、世界古今の史上に徴するも、絶えて求むる能はざるの観がある。之を教育の方面に見るに、学制発布以来、泰西の学術を輸入して大いに知育を奨励し、教育勅語の下賜せらるゝや、聖旨を中心として着々歩武を進め加ふるに日清・日露の両戦役より得たる刺激に依りて益々改良発達し以て今日あるに至つた。併しながら熟々考ふれば、尚幾多の欠陥を認めざるを得ぬ。吾輩は学者に非ず、又教育者に非ず、随つて具体的の
 - 第46巻 p.279 -ページ画像 
改良案を陳述すること能はざれば、改良せざるべからずと思惟する廉廉を抽象的に列挙して識者の参考に供しようと思ふ。
      二 校長
 校長は部下職員を統督し、全校の生徒に当るべきものなれば、其の性格如何は実に学校全体の盛衰に関するや言を俟たず、されば校長は地位に於て名声に於て、将た徳望に於て最も卓越せる人物たらざるべからざるは自明の理である。殊に小学校児童は墨子の所謂白糸の如きものにして、染方に依つて赤くもなり黒くもなるものなれば、其の校長には別して立派なる人物を据えなければならぬ。此の事は、二途の距離が分岐点を遠ざかるに随つて愈々大なるに至るを見ても炳として明かである。然るに今日の実際に於ては、叙上の資格を欠ける校長少しとせず、為めに教育の効果にも慊焉たるものがある。これは現代教育上に於ける主なる欠陥の一ではあるまいか。尤も良校長を得るには経費其の他の関係もあれば、吾輩は一概に之を実現すべしと極言するものにあらず、要は唯特殊の方法を設けて、其の土地相応の良校長を選定せよといふに在る。果してよく斯くの如くならば、教育の効果は一段の曙光を見るに至るであらう。
      三 修業年限
 小学校・中学校を経て各種の専門学校に進むにしても、大学の方に向ふにしても、其の最終の学校を卒業する迄の年限が稍々長きに過ぐる嫌がある。大学を卒業する時には其の生徒の年齢が多くは二十七・八になるが、是は少くとも二年位短縮する工夫がありはせぬか、要するに一年たりとも早く社会に出て活動する様にしたい。思ふに今日の如き長き修業年限を要するは、学科の数が多きに過ぐる結果であらう故に修業年限を短縮せんとすれば、先づ学科の数を減じなければならぬ。現在の学科の中には、余り必要ならざるものも無きにあらざれば之を適当に廃合し、以て修業年限を短縮したいと思ふ。
 大学に進む者は最も優秀なる人物でなければならぬ。其の家の資力も其の学生の学才も顧みずして、猫も杓子も相率ゐて大学に向ふが如きは誤れるの甚だしきものである。若し此の弊を打破すること能はざれば、大学の程度を低くしたればとて充分の効果は如何であらうか、這般の辺にも尚大いに工夫すべきものがあると思ふ。
      四 教育費
 教育は国民教養の基本にして、一日も忽にすべからざる事業なれば之に対して多くの費用を投ずるは已むを得ざることとはいひながら、近年其の額著しく膨脹し、国民が此の負担に苦しみつゝあるは、地方の叫び声に依つて明かである。されば教育の効果に支障を生ぜざる範囲内に於て、教育費を節約し、国民の負担を軽減すべき方策を講じなければならぬ。曩に内務・文部・農商務三大臣の連名を以て、教育費節減に関する訓令を発したるは、誠に機宜に適せるものと謂はねばならぬ。
 近時に於ける教育の施設を見るに、内容の充実、実質の改善に意を用ひずして徒らに形骸の斉整と外観の完美とに腐心するの弊がある。校舎の壮麗、器械・標本の完備等必ずしも無用にあらざるべきも、之
 - 第46巻 p.280 -ページ画像 
が為に国民に過重の賦課を負はしめ、尚且教育の『伽藍栄えて宗教衰ふ』の状態に陥るものあるに至つては、歎かざらんと欲しても豈得べけんやである。若し此の形式的施設を差控へたならば、多少の教育費を節減し得べく、而も教育の実質には甚だしき障害なきを信じて疑はぬのである。
      五 徳育
 我が国現時の教育は、知育と徳育との権衡を失して居る。即ち知育は一般に進歩し、其の成績の大いに見るべきものありと雖も、徳育に至つては微々として振はず、識者をして憂を抱かしむるものがある。而して世人は此の徳育の不振を認めざるにあらず、当局者と謂はず、教育実際家と謂はず、工夫を凝し、研究を重ね、以て之が振興を企図する所、誠に至れり尽せりと謂はざるを得ぬ。而も其の反響の現れざるは何故であるか、是れ徳育の根本義を没却して枝葉に走れるが為である。それ徳育は修身・倫理に関する口舌のみに依つて其の効果を収め得べきものにあらず。教師の人格を以て被教育者を自然に感化することが最も肝要である。故に徳育の効果を全うせんと欲すれば、学校の主脳たるべき校長に有徳の士を戴くことを忘れてはならぬ。前に良校長を選定せよと言ひたる所以も亦実に此に存するのである。
 尚徳育に関する一・二の所思を附加へよう。宗教的情操は道徳に絶大の威力を与へる、さりながら小学校に於ては、特定の宗教に基づきて宗教的教育を施すことが出来ぬ。が、少くとも其の宗教的感情を毀損せざらんことに留意しなければならぬ。又中等学校に於て漢文を授くる際、八大家文・韓非子等に代ふるに四書を以てしたらば如何であらうか。勿論漢文の目的は他に在りと雖も、徳育上に資する点より見れば、後者を採りたいものである。
      六 結語
 以上は現代教育上に於ける欠陥の主なるものであると思ふ。而して是等の問題は、為政家及び教育家の考究すべきものであるが、一般国民の心ある者も亦考慮しなければならぬ。近く教育調査会が設置せられ、自分も其の会員の一人に加へられたが、同会に於ても如上の問題も慎重に研究し、以て教育の改善を見るに至らんことを望んで居る。
                       (文責在記者)
  ○「竜門雑誌」第三〇五号(大正三年十月)ハ「本篇は青淵先生が雑誌『教育の実際』記者の訪問に対し語られたる意見の一斑にして九月発行の同誌上に掲載せるものなり」トノ前書ヲ付シテ全文ヲ転載ス。