デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.641-644(DK460161k) ページ画像

大正9年11月24日(1920年)

是日栄一、一ツ橋如水会館ニ於ケル当協会例会ニ出席シテ意見ヲ述ブ。


■資料

渋沢栄一 日記 大正九年(DK460161k-0001)
第46巻 p.641 ページ画像

渋沢栄一日記  大正九年           (渋沢子爵家所蔵)
一月十七日 晴 軽寒
○上略 午前十時頃姉崎正治氏来リ、昨年欧洲巡遊ノ感想及帰一協会ノ将来ニ付テ種々ノ意見ヲ交換ス、款談約二時間、十二時前帰去ス○下略
  ○姉崎ハ大正八年三月渡仏セリ。本資料第四十巻所収「日米交換教授」大正八年三月十七日ノ条参照。


(帰一協会)協会記事四(DK460161k-0002)
第46巻 p.641-644 ページ画像

(帰一協会)協会記事四            (竹園賢了氏所蔵)
    拾壱月例会記事
本月例会を二十四日○大正九年一一月(水)午後五時半より神田一ツ橋通り如水会館に於て左の如く開催す
当日の出席者左の如し
 - 第46巻 p.642 -ページ画像 
 秋月左都夫氏  姉崎正治氏
 井上雅二氏   渋沢栄一氏
 成田勝郎氏   片山国嘉氏
 筧克彦氏    小林一郎氏
 加藤熊一郎氏  滝沢吉三郎氏
 時枝誠之氏   穂積重遠氏
 尾高豊作氏   宮岡恒次郎氏
 山内繁雄氏   矢吹慶輝氏
 吉田静致氏
当日の講演左の如し
 民法改正問題について        穂積重遠氏
 只今政府で此の調査を初めて居り、私も下働きをして居るが、玆には其を述べずに私の意見について述べ様と思ふ
(1)民法改正の要否 民法は明治卅一年以来行はれて居るもので未だ新らしい、仏国のナポレオン法典の如き百年余尚行はれて居るから改正の必要なしと云ふ人もあれば、年月の如何に拘らず時勢の急変に応ずる為めに改正すべしとの意見の人とある
(2)家族制度 等が従つて改正の必要ありとする人の最初に論ずる点である、之にも在来の民法が古来の家族制度の為めに役立つとする側の人々と、之と反対に之を破るもので改正せよとする人あり、而し家族制度なるものに誤解を有する人多い、家とは何ぞや、家とは法律上は建物、親族共同生活等も必要とせない只戸籍簿記載との一点のみを必要とす、本籍なるものの如き全然形式化し終れり、家族生活と家族主義は別なものなり、民法も家族主義を中心として改正せらるべきものなりと思ふ、即ち
(3)家産制度 の改正が唱へらるゝ所以である、之れ我が民法は財産は一個人のものとなり居るに、米国の如きは近来家産の最少単位を規定するハミリーステツドの行はれ居る州も多い、西国(スウイス)の如きも家産制を取り、フランスの如きも之を採用せんとしてる、而し実際としては仲々困難である
(4)家庭裁判所 現在の裁判所は非常に冷かな所で、時日が長びき費用も多く要り、人民が喜んで容易に行く所でない、之をもつと形式ばらずに温か味を有する大岡裁き式にせんとするものである、又公開裁判の困る点等色々ある、米国の如きは少年裁判に満足せず此の方に進みつゝある、而し矢張り実行に色々困難あり
(5)内縁の夫婦 も余り形式上の届出にのみ重きを置きすぎて居る、私は結婚なるものを形式主義と事実婚主義と二様に見てる、日本の如く内縁の夫婦なるもの多い国がなく、又色々の弊害を伴つて居る、姦通なる法の適用等にも困るし、遺族保護にも不公平生じ、又試験結婚や婦人玩弄が行はれ易い、今後は宜しく各自の人格尊重を主として行くべきである、法人論が有名なる独逸のオツトー・ギルケの所謂る「人の人たる所以は人と人との尊重にあり」との如く各人尊重し行く法律とすべし
(6)自由結婚 之も法律と道徳の調和の点にて欠くる所が多いから訂正
 - 第46巻 p.643 -ページ画像 
すべきだらう、一体革命と共に此の問題が自由になる、余りに極端に走らぬ様にすべき也
(7)妻の無能力 之は法律上規定として夫の同意を得ねば其の行為を有効ならしめる事が出来ないとあるので、女権拡張連の抗議の点となり居るものなり、つまり条文の作り方が拙なりしにて、男子も無能力と見るべき也
(8)離婚の許否 文明国中にては日本は世界一の離婚国也、而るに世界各国とも近頃は離婚自由論が行はれ出した、革命と此の程度の寛和はいつもつきものである、日本では相互の相談づくと定む
(9)夫の姦通 新婦人運動者の如く、夫が他の女と通じた場合、即ち妻以外との姦通をした場合に之を刑罰に処せと云ふのは過当で、即ち刑法上の問題である、而し夫の姦通を以て妻からの離婚理由と認めてやる位ひの事は是から至当であらう
(10)精神病離婚 之も日本では夫からする時は自由であるが、妻からの時には認めて居らないが、程度によりて許すの必要があるだろう、西洋では色々の制限があるが認めて居る所が多い
(11)私生子・庶子 日本は之等を優待してるが、西洋では之を認めず、惨酷な扱ひをしてる所が多い、或る人の如きは、此の私生子等の名を削ろうとしてる人さへある、何とか工夫すべきである
(12)養子と婿養子 西洋では余り行はれない、日本法律では、養子は後から生れた実子よりも相続権を有して居るが、婿養子は之れよりも権がなく、即ち後から生れた実子に相続されてしまふとの事が生じて来る、斯くの如きは何とかすべき也
(13)継親子と嫡母庶子 実際の事実がまるで他人である際に法律では之を認めるなどは考へ物と思ふ
(14)母の親権 日本の法律にては、親権は親の権利にして義務と規定され居る、而し父親の存命中は母は親権者に非ず、父の死亡等によつて親権失せし時のみ母の親権である、而し之も西班牙民法等の如く両親を親権者とするとよいだらう
(15)親族会 一見非常に好都合の様にして実は少数の親族の意見にて事が勝手に行はれ易く、而も親族会員そのものを選定するに規定がない為め、よい加減なものが生じ、色々な結果を来す事多し、社会上の問題である、以上
食事 食事の際客員時枝氏を姉崎先生紹介さる、穂積博士の講演は食前食後に亘りしにて、食後の部に取りかからるゝ前、渋沢子爵・姉崎博士の次の如き小演説あり
渋沢子爵 本協会の名前について諸大家の賛否色々を経て来たが、その一、二を申すと、発会間もなかつた頃に故大内青巒居士は不相応な名なりとて笑はれた、昨年西園寺侯渡仏の前に本協会の事を申した処大層揶揄された、而るに昨夜大隈侯からは大いに賛成された、斯く賛否色々あるが、之が却つて努力の助けとなるであろうと思ひ、一寸申上げる
姉崎博士 先の話について、私は仏国で西園寺侯と話した時には、余程了解された、色々賛否はあつても、吾等の理想は王陽明の如き、聖
 - 第46巻 p.644 -ページ画像 
徳太子の如きと一致す、太子の所謂万善を一に帰するとの御文句があるが、此の点なり、私は十年来幹事をして来たが、何も成績をあげないのは慚愧の至り也