デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.656-657(DK460165k) ページ画像

大正10年9月21日(1921年)

是日当協会、一ツ橋如水会館ニ於テ、例会ヲ兼ネテ栄一ノ渡米送別会ヲ開ク。栄一出席シテ渡米ニ至レル事情ヲ述ブ。


■資料

集会日時通知表 大正一〇年(DK460165k-0001)
第46巻 p.656 ページ画像

集会日時通知表  大正一〇年       (渋沢子爵家所蔵)
九月廿一日 水 午後五時半 帰一協会例会(如水会館)


(帰一協会)協会記事四(DK460165k-0002)
第46巻 p.656-657 ページ画像

(帰一協会)協会記事四          (竹園賢了氏所蔵)
    九月例会記事
本会九月例会を廿一日○大正一〇年九月午后五時半より、神田区一橋通り如水会館にて、左の如く開催せり
因に本会は渋沢子爵渡米送別会を兼ねたり
当日の出席者左の如し
 麻生正蔵氏    石橋甫氏
 今岡信一良氏   石橋智信氏
 内ケ崎作三郎氏  井上雅治氏《(井上雅二)》
 筧克彦氏     尾島真治氏
 小久保喜七氏   片山国嘉氏
 阪谷芳郎氏    五代竜作氏
 塩沢昌貞氏    斎藤七五郎氏
 杉山重義氏    添田敬一郎氏
 時枝誠之氏    土肥修策氏
 都倉義一氏    夏秋十郎氏
 成田勝郎氏    野口日主氏
 服部宇之吉氏   花房太郎氏
 渋沢栄一氏    コールマン氏
 福岡秀猪氏    穂積重遠氏
 本郷房太郎氏   堀内三郎氏
 御木本幸吉氏   宮岡恒次郎氏
 森村開作氏    八代六郎氏
 矢吹慶輝氏    矢野茂氏
 矢野恒太氏    山内繁雄氏
 脇田勇氏
当日の講演左の如し
 旧約に表はれたるメシヤに就いて
              文学博士 石橋智信氏
基督教の起源を知らんとした処が、勢ひ其れ以前の宗教を研究するの必要に迫られたのである、之に対しての好史料は申命記であろう、此の書の裏書きをするものは列王記である、申命記の禁止の令は神の国に悪しと見られるからするなとの理由である、神の忌む所を行はざるは人が神の愛を受ける所以であるとす、之はイスラエル人の稍功利的な而も宗教に対する冷静な態度が惹起したのである、此の幸福の考を
 - 第46巻 p.657 -ページ画像 
旧約上の見解から求めんとせば、所謂メシヤ問題となるのである、メシヤ問題に凡そ三つの方面がある、一、旧来の保守的考察、エルンハウゼン氏等の主張救生主出現《(世)》の問題也、二、メシヤ予言否定説、三、メシヤ予言の新肯定説、プレスマデリー氏等が最近説く所である
メシヤの思想即ち幸を求むる考は救主の考方だけでなく、救ひそのものの考へにまで辿つて行くべきである、旧約全部の史料史古いものと考へられて居るものは紀元前八百五十年頃に出来たのを云ふが、申命記・創生記等をいふ、此の幼稚な思想の中には、神と人間を同列に見て人が神から幸を奪取せんとする思想まで見えてる、アブラハム自ら恵まれる事がひいて他人の恵まれる事といふ思考に到り、彼がメシヤの位置を取つて居る、而し彼は過去に於けるメシヤの位置であつて、此の過去のメシヤが如何に将来のメシヤに対する思想を刺激したかは云ふまでもない、尚宗教心から見ると此の「ヤビスト」が作れる物語が如何に人心を動せるかを窺ふ事が出来る
「アモス」第五章になると、彼等が一般人に対して将来の幸を希ふて居ると伝へて居る、此のアモス当時のユダ国は内治外交共に幸福の状にあつたので、宗教心は却つて欠乏してた、アモスは常に熱烈の言を以て之を戒めて居る、此の予言者アモスの言を唯一人理解したのは、故郷なる地の英明な「ヨヅヤ」王である、彼は正義の力で国を維持し行くにあらざれば国亡びん事を思ひ、発布した法律書、即ち申命記である
国民が亡国を現実に見て捨て鉢になつた時「神は汝等をすて給はず」と叫び表はれたのが興国の予言者「イザキール」である、彼はメシヤ王国の出現を教へた、此の将来のメシヤを説けるものこそ真の予言者であろうと思ふ、而して幸を希ふと云ふ事は、単に物質的のものでなく、正義を行ふ事によつて各個人も国民も幸を得られると考へて居た此の幸の考がイスラエル文化史の中心思想をなして居ると思ふ
食事中
服部博士立ちて渋沢子爵渡米送別の意味を述べられしに、渋沢子之に答ふに、渡米の抱負及び日米関係の逼迫せる事を歴史的に述べ、自己の責任を感ずるの余り此度の挙に出でられし所以を述べらる
食後諸氏の質疑応答ありき
  ○栄一、是年十月十三日渡米ノ途ニ就キ、翌大正十一年一月三十日帰国ス。本資料第三十三巻所収「第四回米国行」参照。