デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.16

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
8款 財団法人理化学研究所
■綱文

第47巻 p.42-71(DK470006k) ページ画像

大正5年1月21日(1916年)

是日、栄一等当研究所設立委員ヨリ総理大臣大隈重信・大蔵大臣武富時敏・農商務大臣河野広中ニ宛テ、当研究所設立ノ件ニツキ建議書ヲ提出シ、国庫補助ヲ申請ス。政府其議ヲ容レ、第三十七回帝国議会ノ協賛ヲ経テ、三月六日、向フ十年間ニ金二百万円ノ補助金下付ノ大正五年法律第十六号ヲ公布ス。


■資料

設立経過(DK470006k-0001)
第47巻 p.42-44 ページ画像

設立経過               (財団法人理化学研究所所蔵)
    第三回設立委員会
大正四年十二月三日午前十時、農商務省内ニ第三回設立委員会ヲ開キ桜井委員ヨリ提出ノ建議案及予算書ニ付協議シ、工業試験所トノ区別ヲ明ニシタル案ニ修正スルコトニ決議シ、尚本議会ニ法律案ヲ提出スルコト、予算ノ内容ハ民間五百万円、政府補助二百万円、宮内省百万円トシテ立案ノ上、更ニ委員会ニ附議スルコトトシテ午後一時散会ス当日ノ出席者左ノ如シ
  大蔵次官 菅原通敬○外六名氏名略ス

    第四回設立委員会
大正四年十二月十五日午前十時、農商務省ニ於テ第四回設立委員会ヲ開キ、桜井委員ヨリ予算案ニ付説明アリ、建議書ノ一部文句ヲ訂正スルコトヲ可決シ、行政官ヲ除ク各委員ノ外其他本事業ニ密接ナル関係ヲ有スルモノヲモ建議書ニ連署セシメ、総理・大蔵・農商務ノ三大臣ニ建議スルコトトシテ、午後零時半散会ス、当日ノ出席者左ノ如シ
  理学博士 桜井錠二○外七名氏名略ス

    理化学研究所設立ニ関スル建議
世界ノ文運ニ貢献シ以テ益々国威ヲ宣揚スルト共ニ、百般工業ノ根本ヲ啓沃シ、以テ愈々国富ノ増進ヲ期センニハ、理化学ニ関スル独創的研究ヲ旺盛ナラシメサルヘカラス、而カモ今次ノ欧洲戦乱ハ、今後益
 - 第47巻 p.43 -ページ画像 
益軍事材料ノ独立、工業物資ノ自給ヲ企画スルノ緊要ナルコトヲ教ヘ吾人ヲシテ理化学研究ノ必要ヲ愈々痛切ニ覚知セシメタリ、然ルニ我国ニ在リテハ、従来此ノ種ノ研究機関ニ於テ闕クル所アルヲ以テ、民間有志ニ於テ理化学研究所設立ノ計画アリ、然ルニ此ノ事業タルヤ少ナカラサル資金ヲ要シ、民間有志ノ醵金ノミヲ以テハ到底所期ノ目的ヲ達スルコト能ハサルカ故ニ、政府ハ国家事業トシテ之ヲ助成シ、理化学ノ研究ヲシテ遺憾ナカラシメ、以テ国運ノ発展ヲ期スル為速カニ適当ノ措置ヲ採ラムコトヲ切望ス
右別紙予算概算書相添ヘ謹テ及建議候也
  大正五年一月二十一日
                     中野武営
                     井上準之助
                     桜井錠二
                     長井長義
                     渡辺渡
                     団琢磨
                     大倉喜八郎
                     近藤廉平
                     安田善三郎
                     高松豊吉
                     渋沢栄一
                     豊川良平
    内閣総理大臣 伯爵 大隈重信殿
    大蔵大臣      武富時敏殿(各通)
    農商務大臣     河野広中殿
(別紙)
    理化学研究所予算概算書
      ○収入
一金壱百万円  帝室御下賜金(仮定)
   一ケ年弐拾万円宛五ケ年間、全額ヲ基金ニ充ツ
一金弐百万円  政府補助金
   第一年乃至第五年弐拾五万円宛、第六年・第七年弐拾万円宛、第八年・第九年拾五万円宛、第十年五万円、基金及経常費ニ充ツ
一金五百万円  民間有志醵金
   第一年弐百四拾五万円、第二年乃至第五年五拾万円宛、第六年乃至第十年拾壱万円宛、内五拾万円ヲ建築費ニ、五拾万円ヲ設備費ニ充テ、残四百万円ヲ基金ニ充ツ
一金弐百参拾四万円五千弐百七拾参円 基金利子
一金拾万円   諸収入
   研究料、研究ノ成績ニ依レル収入等
 合計 金壱千四拾四万五千弐百七拾参円
      ○支出
一金五拾万円    建築費
 - 第47巻 p.44 -ページ画像 
一金五拾万円    設備費
一金百八拾四万円  経常費
一金九万円     臨時費
 合計 金弐百九拾参万円
  差引残金七百五拾壱万五千弐百七拾参円
          右十ケ年後ニ於ケル基金○備考及ビ別表略ス
  ○右建議ハ栄一ノ渡米中ニ決定ス。栄一帰国ハ大正五年一月四日。


中外商業新報 第一〇六八一号 大正五年一月一一日 理研設立協議 資本八百万円の予定(DK470006k-0002)
第47巻 p.44 ページ画像

中外商業新報  第一〇六八一号 大正五年一月一一日
    ○理研設立協議
      資本八百万円の予定
渋沢男は十日午後三時農商務省に上山次官を訪ひ、這般来懸案中たりし理化学研究所設立に関し協議する処あり、該事業は既に御内帑金百万円に、政府補助二百万円、民間側より募集すべき五百万円を合し、八百万円の資本を以て設立する筈にて、直ちに民間募集に着手すべきまでに運べりと


中外商業新報 第一〇六九〇号 大正五年一月二〇日 研究所設立近し(DK470006k-0003)
第47巻 p.44 ページ画像

中外商業新報  第一〇六九〇号 大正五年一月二〇日
    ○研究所設立近し
理化学研究所設立に関しては、渋沢男、帰朝以来中野東商会頭と引続き尽力中にして、民間募集資金の五百万円、政府の補助金二百万円は既に決定せる所なるが、皇室御内帑金の御下附請願の件は委員より各大臣に請願書を提出することとなり、目下調印を取急ぎつゝあり、而して其額は幾何なるべきか未定なるも、政府の補助金二百万円は之を数年間に割与さるゝこととなる可く、年額決定次第追加予算として議会に提出して協賛を仰ぐに至る可し、尚政府は勿論民間の委員等も、本年度内に其設立を実現せしむ可き方針にて、該研究所組織内容の如き既に民間委員の手に於て脱稿し居れりと


集会日時通知表 大正五年(DK470006k-0004)
第47巻 p.44 ページ画像

集会日時通知表  大正五年        (渋沢子爵家所蔵)
一月卅一日 月 午前十時 理化学研究所特別委員会(農商務省)


設立経過(DK470006k-0005)
第47巻 p.44-45 ページ画像

設立経過              (財団法人理化学研究所所蔵)
    特別委員会
大正五年一月三十一日午前十時、農商務省ニ於テ特別委員会ヲ開キ、政府補助金ノ使途、資金募集ノ方法等ニ就キ協議シ、渋沢男爵ノ病気快癒ヲ俟テ、可成速ニ設立委員会ヲ開キ、設立実行方法ヲ審議スルコトトシテ散会ス、当日ノ出席者左ノ如シ
  理学博士 桜井錠二○外二名氏名略ス
    第五回設立委員会
大正五年二月十四日、農商務省ニ於テ第五回設立委員会ヲ開キ、審議ノ結果、国庫補助法ニ付議会ノ協賛ヲ得タルトキハ、御下賜金ノ決定ヲ仰キ設立ノ趣旨及計画ヲ公表シ篤志家ノ賛同ヲ求ムルコト、相当ノ人士ヲ以テ創立委員ヲ設ケ資金ノ募集ヲ図ルコト、地方長官ノ援助ヲ
 - 第47巻 p.45 -ページ画像 
求ムルコト、寄附金二百万円(約)集リタルトキ総会ヲ開キ研究所ヲ設立スルコト、研究所ノ規模ヲ定メ設計書ヲ作成スルコト、大正六年中ニ建築ノ一部ヲ落成スルコト、並ニ基金募集ノ計画ヲ定ムルコトヲ決議シテ散会セリ、当日ノ出席者左ノ如シ
  桜井錠二○外五名氏名略ス
  ○栄一感冒ノ為メ一月三十一日ヨリ静養シ、二月中旬快復セシモ、三月一日再発ス。(「竜門雑誌」第三三四号・大正五年三月ニヨル)


中外商業新報 第一〇七一六号 大正五年二月一五日 理研設立決定 国庫補助案提出(DK470006k-0006)
第47巻 p.45 ページ画像

中外商業新報  第一〇七一六号 大正五年二月一五日
    ○理研設立決定
      国庫補助案提出
理化学研究所設立に関する委員会は、十四日午前十時より農商務省に於て開催、出席者は団琢磨・中野武営、高松・桜井両博士、菅原次官及上山次官等にして、稍細目に入り具体的協議を進め、愈々設立の件を確定し一両日中に政府より「理化学を研究する公益法人の国庫補助に関する法律案」を議会に提出するに決せり、而して右法律の内容は十ケ年を限り二十五万円以内を補助するものにして、総額二百万円を超ゆるを得ず、且該法人の事業は農商務大臣の監督に属し、之を指導奨励し、相当の命令及処分を為すを得るものなりと


中外商業新報 第一〇七二三号 大正五年二月二二日 理研補助委員会 岡政府委員説明(DK470006k-0007)
第47巻 p.45-46 ページ画像

中外商業新報  第一〇七二三号 大正五年二月二二日
    ○理研補助委員会
      岡政府委員説明
衆議院に於ける理化学を研究する公益法人の国庫補助に関する法律案特別委員会は、廿一日午前十一時開会、河野農相
 民間及び衆議院よりの建議に依り、理化学研究所を設立する事とし此総資金は八百万円とし、中五百万円は民間より醵出し、二百万円は政府に於て補助し、残部百万円を他の寄附に仰ぐ予定にて、政府の補助額は十年限りにて毎年二十五万円以内を補助するものなり
と提案の理由を説く、更に吉植庄一郎氏の希望に拠り、岡政府委員より経過の説明ありて、吉植氏
 岡政府委員の説明によれば、十年後に於て七百五十万円を以て基金とし三十万円を以て経常費とするとの事なるが、十年後に於ては之より他に民間に於て大なる化学研究所も起るべし、されば問題は十年後に非ずして、欧洲戦乱の終局を告げざる間に効果を挙ぐるに在り、此見地よりすれば本案は甚だ物足らぬ感あり、最初に於ては之よりも大規模の企画ありしや否や
岡政府委員は、実業家に於て此程度の本案を以て適当とすとの事にて不満足ながら現状に鑑みて本案を提出せるなりと答へ、更に守屋委員長の許可に依り、高松博士より研究所に於ける理化研究方法の大要を説明あり、吉植氏より本所の技師に外人を雇聘する考へなきかと問ひ岡政府委員は、本所は日本人本位を以て研究し若し必要の場合に於て外人を雇聘するに在りと答ふ、次に吉植氏の質問に対し岡政府委員
 研究所より問題を提出して学者の研究を求め、或は研究発明したる
 - 第47巻 p.46 -ページ画像 
も資力尽きたる者、発明の途中にある者等をも援助し、又発明家の表彰等をも為す方針なり
正午休憩、午前に引続き午後一時半開会、横田孝史氏の質問に対し、高田文相
 理化学研究所設立は文部省にも密接の関係を有す、猶ほ大学に附属研究所を設くるは望ましき事なり
との意味を答へ、吉植庄一郎氏は、本案の貧弱なることに就て詰責的質問を為し、河野農相より答弁あり、尚ほ吉植氏と河野農相との間に発明家表彰に就て問答あり、吉植氏の質問に対し、岡政府委員
 本所は財団法人にして、総裁は関係者に於て選び、官選すること無かるべし
吉植氏は更に所管を代ふること無きやと問ひ、岡政府委員
 本案第二条に、本所の業務は農商務大臣の監督に属すと規定せるが故に、法律を代ふるに非ざれば所管を変更すること無し
猶ほ横田氏・成田栄信氏より質問あり、三時三十五分散会


中外商業新報 第一〇七二四号 大正五年二月二三日 理研補助審議 希望付原案可決(DK470006k-0008)
第47巻 p.46-48 ページ画像

中外商業新報  第一〇七二四号 大正五年二月二三日
    ○理研補助審議
      希望付原案可決
理化学を研究するに公益法人の国庫補助に関する法律案委員会は、廿二日午前十時五十分開会、劈頭柏原文太郎氏の質問に対し、岡政府委員は
 本所の目的は産業の発達を主とし、理化学の研究は一手段に過ぎず終局の目的は応用にあり、実地と学問とを密接ならしめんとするもの也
と説明し、大津参政官は、文部省も亦農商務省と全然同一の意見なる旨を答へ、松浦政府委員は
 帝国大学は一面教授を主とし一面研究を為すものにして、他に基礎学の研究を主とするものゝ必要は当局も之を認め居る為め、文部省としては考慮中にあり
と答へ、柏原氏は尚ほ、基礎学の研究を充分にするの意思なきやと質し、大津参政官は、設備の不完全なものは之を補充するに吝ならずと陳べ、尚ほ柏原氏と松浦政府委員との間に応答あり、岡政府委員は
 本研究所に於ても決して基礎学を閑却したるものに非す、応用の範囲に於て研究せんとするもの也、経費の如きも目下の計画のものにては余りに少額に失するの観なきに非ざるも、最初より余り大規模の計画を立つるは如何かと存じ、最少限度に止めたる也
と述べ、成田栄信氏は
 (一)斯の如き重要案件を会期切迫の今日まで提出せざりしや(二)民間の事業中大に保護奨励を為す可きもの少からずと信ず、政府の意見如何(三)政府の事業は将来余り民間と接触せざる嫌あり、特に此種の案件に対しては民間の意思を参酌せられては如何
と尋ね、河野農相之に対して
 (一)単に政府の事業又は民間の事業とすれば、或は尚ほ速に計画
 - 第47巻 p.47 -ページ画像 
の成立を見たるならんも、政府と民間との交渉等にも手間取りたる也、最初政府に於ても資本金一千万円位のものと為す筈なりしも、各種の都合にて八百万円のものと為せり、而して漸く一月二十二日に至りて決定せる也(二)政府が奨励保護す可き民間の事業は一にして足らずと雖も、昨年春頃迄は我財界不如意にして、政府の財政を以ては到底企て能はざりし所なり、唯昨年後半期に入りては時局の結果大に我に有利となりたるに過ぎず(三)民間との接触に就ては今後更に一層意を用ふる所なる可し、要するに政府は理化学の研究を進めて我産業の発達に資せんと欲するに過ぎず
と弁し、柏原氏の質問に対し岡政府委員の答弁あり、吉植庄一郎氏は
 本案の実行に就き、若し政府の金のみを可決し民間の寄附完了せざる場合は甚だ困難の場合を生ず、政府の所見如何
と質し、岡政府委員は
 政府に於ても一時其点に懸念し、為めに提出期も遅れたる次第なれども、一月二十一日に至り、渋沢男其他十二名の有力なる実業家の協定に依りて、予算書の提出を見るに至りたれば、政府は吉植君の懸念せらるゝ如き事実なき事を確信するもの也
と答へ、午後零時三十分一先づ休憩
午後一時二十分再会、直に懇談に移りて、各委員と政府委員との間に質問応答あり、結局横田孝史氏より
 一、本案の目的を遂行せしむ可く農商務及文部両省に在つては協力の上之が援助監督の責に任ず可き事
 二、理化学に関する研究発明を奨励す可き目的を以て、次期議会に於て政府は適当なる法案を提出す可き事
二項の希望条件を提出し、吉植庄一郎氏より
 本案第一条に規定せる補助金額二百万円は左の用途に使用せられん事を希望す
 一、理化学研究所が特に指定したる発明に関する懸賞又は発明的考案の買収
 二、発明奨励に関する賞与金又は補助金
 三、発明家表彰及発明奨励に必要なる支出
是に於て守屋委員長は正式に開会を宣し、先づ横田氏の希望条件第一項を議題として協議し、委員長の注意にて横田氏の希望条件第一項は之を撤回することに決し、次で横田氏の第二希望条件を議題として異議なく之を可決したる後、吉植氏の希望条件に付協議し、倉河農商務書記官之に対して
 政府が二百万円の出資を為すは研究所の基金となるものなるが故に全部を吉植氏の希望条件の如き用途に充つる能はず
と述べ、吉植氏は、政府の提出せる用途の中にも右の希望条件と同一の目的を列挙しあり、故に政府の目的と希望条件とは根本的の相違に非ず、唯程度の問題也と述べ、横田氏は、吉植氏の意見は至極賛成なるも次期議会迄に政府より補助方法を具体的に提案せしむる事として之に譲歩せられては如何と質し、吉植氏は当面の急務として自己の希望条件をも合せて可決したしと述べて、是又満場一致を以て可決し、
 - 第47巻 p.48 -ページ画像 
小西和氏字句の修正説は否決せられ、最後に原案の採決に入り、満場一致之を可決して三時散会


法令全書 大正五年 内閣印刷局編 刊 【朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル…】(DK470006k-0009)
第47巻 p.48 ページ画像

法令全書 大正五年 内閣印刷局編  刊
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
 御名御璽
  大正五年三月六日   内閣総理大臣 伯爵 大隈重信
             農商務大臣     河野広中
法律第十六号(官報三月七日)
第一条 産業ノ発達ニ資スル為、理化学ヲ研究シ其ノ成績ノ応用ヲ図ルコトヲ目的トスル公益法人ノ一ニ対シ、政府ハ本法施行ノ日ヨリ十年ヲ限リ毎年二十五万円以内ヲ補助スルコトヲ得
 前項補助金ノ総額ハ二百万円ヲ超ユルコトヲ得ス
第二条 前条法人ノ業務ハ農商務大臣ノ監督ニ属ス
 農商務大臣ハ前条ノ規定ニ依リ補助ヲ受ケタル法人ノ業務ヲ指揮監督シ、之ガ為必要ナル命令又ハ処分ヲ為スコトヲ得
  附則 本法施行ノ期日ハ勅命ヲ以テ定ム


中外商業新報 第一〇七四三号 大正五年三月一三日 理研設立遷延(DK470006k-0010)
第47巻 p.48 ページ画像

中外商業新報  第一〇七四三号 大正五年三月一三日
    ○理研設立遷延
理化学を研究する公益法人の国庫補助に関する法律案は、既に公布を見たるが、其補助を受くべき実体即ち理化学研究所設立の件は、目下主脳人物たる渋沢男の病中なるに加へて、中野武営氏は市会議長として電車値上問題に就き繁忙を極め居れるが為め、捗々しく進捗せず、只学者間に於てのみ理学方面と化学方面に分れて夫々審議を進めつゝあれば、渋沢男軽快に向はゞ一度委員連の会合を遂げ、具体的成案を発表すべしと


理化学研究所彙報 第一輯第一号・第八一―八二頁 大正一二年二月再版刊 設立の経過並に現況 書記 水谷清(DK470006k-0011)
第47巻 p.48-49 ページ画像

理化学研究所彙報  第一輯第一号・第八一―八二頁 大正一二年二月再版刊
    設立の経過並に現況
                   書記 水谷清
○上略
      発端
○中略
 斯くして理化学研究所設立の気運は漸次熟しましたにより、時の首相大隈伯爵は其の年○大正四年六月、私邸に関係各省の官吏・学者及実業家を招集されまして、設立に関する協議会を催され、参会者中より十八名の設立委員を委嘱されました、又此設立委員は五名の特別委員を選出して実行の衝に当らしめられましたが、遂に大正五年一月二十一日、渋沢男爵外十一名より、民間の理化学研究所設立計画に対し政府に於て助成せられんことを建議されました、政府に於ても予てより設備の完全なる研究機関設置の必要を認めて居ましたから、第三十七帝国議会に理化学を研究する公益法人に対し国庫補助を為す法律案と、
 - 第47巻 p.49 -ページ画像 
大正五年度に於て補助すべき金二十五万円の追加予算を提出されましたところが、両院の協賛を得まして大正五年三月六日法律が公布されました、玆に其の請願書《(建議)》と法律の全文を参考として掲げます。
  ○建議文及ビ法律条文前掲ニツキ略ス。



〔参考〕工学博士高松豊吉伝 鴨居武編 第二九三―三〇八頁 昭和七年六月再版刊(DK470006k-0012)
第47巻 p.49-50 ページ画像

工学博士高松豊吉伝 鴨居武編  第二九三―三〇八頁 昭和七年六月再版刊
 ○ 第十四章 研究所及学校
    理化学研究所
 理化学研究所の創立及び其後の状況は下文桜井・鈴木両博士の記載に尽されて居るが、此計画の発芽は、大正二年故高峰博士が米国から帰朝して、国民科学研究所設立を説いたのに在るから、先づ高峰博士の演説を掲げ、次で他の両博士の記述を掲げる。
  ○大正二年六月二十三日築地精養軒ニ於ケル高峰譲吉ノ演説「国民科学研究所に就て」略ス。
      理化学研究所の設立
                 理学博士 桜井錠二
○中略
 大正二年に高峰譲吉君が久振で米国から帰朝せられたときに、我国の学術及工業の発達を期するには官民共同して一大規模の科学研究所を設立することが最も必要であるとの意見を発表せられた。此発表会は高松君などの斡旋で築地の精養軒で開かれ、数十人の学者実業家が出席し渋沢子が座長となられたが、高峰君の提案は年額二・三百万円の利子を生ずべき数千万円の基金を募集し、又政府の補助金を仰ぎ、研究事項は汎く科学の全般に亘るべしと云ふのであつた。然るに熟議の結果実業家側の意見は、此の如き大規模の計画を立てゝも今日の場合これが実現を期することは、全く不可能であると云ふことに一致した。そこで計画をずつと縮小して基金は数百万円に止め、我国に於て最も後れて居る所の化学工業の発達を期することを目的として化学研究所を設立することになつたので、其計画委員として高松君と自分との外に長井長義・高山甚太郎・田原良純・池田菊苗の諸君が挙げられたと記憶する。此委員の作成した計画案に意見書を附して農商務省に提出したのであつた。
 其後大正三年第二次大隈内閣のときに化学工業調査会が組織せられ時の農商務次官上山満之進君が委員長となり、高松・桜井其他十数人の委員が任命せられた。同年十一月第一回会議が開かれ諸種の事項を審議したが、就中化学研究所設立に関し政府に建議することは全委員の同意を得たので之を農商務大臣に提出した。
 翌年三月第二回会議が開かれ、長文の理由書・事業要項・予算書等を附したる化学研究所設立案を審議した。其計画は設立費四百五十万円、経常費毎年十六万円位のものであつて、委員長は之を民間と共同とし設備費を政府より出す位ならば可能性ありとの説であつた。又委員の一人商工局長岡実君は、今回計画の研究所は基礎的研究を主とし御即位記念事業としてこれが設立を期したしとの意見であつた。其他種々の意見が出たが、就中化学と物理学とは離るべからざる関係があ
 - 第47巻 p.50 -ページ画像 
るから一層此両方面の研究を併せ行ふことゝし、理化学研究所としては如何との説は一同の賛成を得たので其ことに極つた訳である。
 斯くして大正四年四月に理化学研究所設立案を実業家及当路者に配付する運びとなつたが、其際大隈首相は東京・大阪等の実業家を早稲田に招かれ、一場の演説があり、答辞は大阪の小山健三君が述べられ資金の調達に関する曙光が認められた。又当時の宮内大臣牧野伸顕伯のところへは高松君と同行して趣旨を述べて懇願した。大正五年三月御内帑金より百万円の御下賜があるとの御内意を承つた。又時の大蔵大臣は若槻礼次郎氏であつたが、此方へも高松君と同行して詳述し大蔵次官菅原通敬君・主計局長市来乙彦君等の了解をも得たのであつた
 政府が弥々二百万円の補助金を支出することに肚を極めるまでには渋沢子が幾度大隈首相と会はれたか数知れぬほどであつた。自分も度度子爵に同伴して、其席に列し説明の役に当つたが、大隈首相は或時「どうも相手が悪くて困る」と云はれたことを記憶して居る。其意味は大風呂敷を広げた丈でオツ払つて仕舞ふことが出来ないので困ると云ふことであつたらうと思はれるが、兎に角渋沢子のお骨折は非常なもので、理化学研究所の設立に初より関係した自分としては、今日に至るも尚感謝の念を禁ずること能はざる所である。
 政府の補助案が弥々議会に提出せられ、時の農商務大臣河野広中君が提出理由を述べたるに対し、貴族院で山川健次郎男から質問が出て政府は何故に此基礎的研究機関を農商務省専属とするかとの質問趣旨であつた。河野農相の答弁は氏一流のもので妙な点もあつたが、畢竟将来文部省と共同して此研究所を監督するといふことで補助案は無事通過したのである。斯くして大正五年三月に理化学を研究する公益法人に対し国庫補助を為すの法律なるものが公布せらるゝに至つた。
 大正五年五月及七月の両度に首相官邸に於て財界及学界の有力者百八十六名を網羅したる発起人会を開き、其席上で寄附の申込を受け、更に計画遂行の為め三十名の設立委員と七名の常務委員(高松豊吉・団琢磨・和田豊治・大橋新太郎・中野武営・荘清次郎・桜井錠二)とを挙げた。当時原六郎氏は率先三十万円の寄附を申込み、三井・岩崎等続々申込があつた。渋沢子爵は続いて熱心に寄附を勧誘せられ、大正六年六月には二百二十八万円の額に上つたのである。
 当初の計画は民間より五百万円募集の予定であつたが、畢竟これが三百万円といふことになり、これに政府補助金の二百万円を合せて五百万円の額となつた。別に宮内省御下賜の一百万円があつて、通計六百万円となつたのである。
 大正六年三月財団法人理化学研究所の設立が許可せられ 伏見宮殿下を総裁に推戴し、渋沢栄一子と菊池大麓男とを副総裁に推し、菊池男は所長を兼ねられ、愈々研究所開始に至つたのである。是に至る迄には多数の有力者委員諸君の努力に俟ちしもの多く、高松君は終始事業の成立を賛助せられ、続いて今日迄理化学研究所の理事となつて居られる。
○下略
  ○鈴木庸生ノ執筆文略ス。

 - 第47巻 p.51 -ページ画像 


〔参考〕官報 号外 大正五年二月一八日 第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第二十七号(DK470006k-0013)
第47巻 p.51 ページ画像

官報  号外 大正五年二月一八日
    ○第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第二十七号
大正五年二月十七日(木曜日)午後一時二十四分開議
 議事日程 第二十六号 大正五年二月十七日
   午後一時開議
第三 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案(政府提出)      第一読会
○議長(島田三郎君) 諸般ノ報告ヲ致サセマス
  〔書記朗読〕
 一、政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
○中略
 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
○中略
             内閣総理大臣 伯爵 大隈重信
    衆議院議長 島田三郎殿



〔参考〕官報 号外 大正五年二月一九日 第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第二十八号(DK470006k-0014)
第47巻 p.51-53 ページ画像

官報  号外 大正五年二月一九日
    ○第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第二十八号
大正五年二月十八日(金曜日)午後一時三十二分開議
第三 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案(政府提出)      第一読会
  理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
第一条 産業ノ発達ニ資スル為理化学ヲ研究シ其ノ成績ノ応用ヲ図ルコトヲ目的トスル公益法人ノ一ニ対シ政府ハ本法施行ノ日ヨリ十年ヲ限リ毎年二十五万円以内ヲ補助スルコトヲ得
 前項補助金ノ総額ハ二百万円ヲ超ユルコトヲ得ス
第二条 前条法人ノ業務ハ農商務大臣ノ監督ニ属ス
 農商務大臣ハ前条ノ規定ニ依リ補助ヲ受ケタル法人ノ業務ヲ指揮監督シ之カ為必要ナル命令又ハ処分ヲ為スコトヲ得
    附則
 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔農商務大臣河野広中君登壇〕
○農商務大臣(河野広中君) 本案ニ付テ提出ノ理由ヲ簡単ニ申上ゲマス、工業其他一般ノ産業ノ発展ヲ図リ国家ノ富力ヲ増進セントスルニハ、理化学ニ関スル独創的ノ研究ヲ為シマシテ、我国人ノ発明能力ヲ発揮セシメテ以テ其智能上ノ生産力ヲ充実セヌケレバナラヌノデアリマス、殊ニ近時欧洲戦乱ニ付キマシテ、今後益々軍事材料ノ独立、工業物資ノ持久、之ヲ画策スルト云フコトハ最モ緊要ナルコトヲ教ヘマシタノデアリマス、ソレデ又理化学研究ノ必要ハ愈々痛切ニ之ヲ覚知セシメマシタノデゴザイマス、然ルニ我国ニ於キマシテハ従来此種ノ機関ニ欠クルトコロガゴザイマシテ、誠ニ遺憾トスルトコロデアリマシタ、幸ニ今回民間ノ有志ニ於テ公益法人タル理化学研究所ヲ設立シタイト云フ計画ガゴザイマス、然ルニ此事業ハ少カラザル資金ヲ要
 - 第47巻 p.52 -ページ画像 
シマスルノデ、民間有志 醵金ノミヲ以テハ到底其所期ノ目的ヲ達スルコトハ出来マセヌノデアリマス、故ニ政府ハ国家事業トシテ之ヲ助成シ国運ノ発展ニ資セントスルノデゴザイマス、其補助金総額ハ十箇年通ジテ二百万円トシテ毎年二十五万円以内ヲ支出致シマシテ、民間有志ノ醵金ト相俟ツテ必要ナル資金ヲ充実センコトヲ計画致シマシテ即チ本案ヲ提出致シマシタ次第デゴザイマス、宜シク御審議ノ上御協賛アランコトヲ切望致シマス
○鈴木梅四郎君 簡単デゴザイマスカラ此処カラ申シマス、本案ニ付キマシテハ吾々ハ最モ賛成スルトコロデ、過日来実ハ我党ハ本問題ニ付キマシテ案ヲ具シテ提出シヤウト思ツタノデアリマスガ、政府ガ此提案ヲナサルト云フコトヲ承ツテ居リマスカラ差控エテ居リマシテ、今日ニ至ツタノデアリマス、所デ此案ヲ見マシテ実ハ其貧弱ニ驚イタノデゴザイマスガ、ソレハ兎ニ角取敢ヘズ御尋申シタイコトハ、公益法人ノ総資本ハドノ位デアリマシテ、設備費即チ固定的ニ使用シマスルモノガドノ位――ドノ位ノ資本デ為サルノデアルカト云フコトガ第一、年々研究費トシテ使ハレルトコロノ費用ハ凡ソドレ位ノ予算ニナツテ居ルカ、其次ニ此説明書ヲ見マスレバ産業ヲ発達セシムル為メニト云フ文字ガゴザイマシテ所謂産業ノ発達ニ資スルトコロノ研究所デアル、シテ見レバ此研究範囲ト云フモノハ、農業・工業等ノ所謂実業ニ直ニ関係スルトコロノモノニ限ラレテ居ルヤウニ思ヒマスガ、果シテサウデアルカドウカ、所謂理学・化学ノ基礎学ヲ研究ヲシテ、有ユル学理ヲ研究シテ之ヲ人事ノ実際ニ応用スルト云フ趣意デアルノカ、唯産業ニ資スル為ニヤルト云フノトハ大変ナ相違ガゴザイマス、実例ヲ申スト純粋ニ所謂理化学ノ基礎学ヲ研究シテヤルト云ヘバ、例ヘバ医学ノ如キニ付テモ其他飛行機・飛行船若クハ潜航艇、其他大砲小銃一般ノ軍器ニ関スルコト其他イロイロアルノデアリマス、併シ産業ニ資スルト云フ目的デヤリマスルト範囲モ狭クナル、サウシテ大ニ応用的ニナツテ、所謂基礎学問ノ研究ト云フモノガ十分ニ出来ナイモノニナツテ、範囲ガ狭クナル、斯ウ云フコトニナルノデゴザイマスガ、此三点ニ付キマシテ政府ノ御意見ヲ承リタイ
  〔農商務大臣河野広中君登壇〕
○農商務大臣(河野広中君) 鈴木君カラノ御尋、此資金ハ凡ソ八百万円、其中民間ノ有志ノ醵金トスルモノガ五百万円、ソレカラ政府ガ二百万円ヲ補助スル、又仄ニ承リマスレバ皇室ニ於テモ多少ノ御下賜金ガアルヤウニ承知ヲ致シテ居リマス、ソレ等ヲ以テ八百万円ト致シテ居リマス、ソコデ是等ノ内容ノ設備又予算等ハ別ニ申上ゲマス、ソレカラ次ニ御尋ノ此理化学ノ研究ト云フモノハ、然ラバ広イ意味ノモノデアルカ、今回ノ所ハ産業其モノヽ点ニ限ルカ、斯ウ云フ御尋ト思ヒマス、此点ニ付テハ多クハ応用ヲ主ト致シマシテ唯単ニ学術ノ研究ト云フコトデゴザイマセズニ応用ヲ心掛ケマシテ、即チ傍ラニ学術研究ヲ致シ、又是ガ応用ヲ試ミルト云フ方針デゴザイマス、ソレデ大略御尋ニ対シテノ御答ヲ致シタト思ヒマス、尚詳細ニ此設備或ハ細カナ箇条ニ付テ研究ノ箇条ヤ何カニ付キマシテハ政府委員ガ出テ居リマスカラ、商工局長ガ担任ヲ致シテ居リマスカラ、是カラ御答ヲ致シマス
 - 第47巻 p.53 -ページ画像 
○鈴木梅四郎君 私ハ御尋スルコトハゴザイマセヌガ、此案ヲ御出シニナルト同時ニ、公益法人ノ大体ドウ云フコトニナツテ居ルカト云フコトヲ、同時ニ御示シニナルノガ、順序ヲ得タモノデハアリマスマイカ、唯公益法人ガマダ現存シナイトコロノモノデアルケレドモ、斯様ナモノニナルノデアルト云フ大体ノ公益法人ノ、概略形ヲ具ヘタモノヲ併セテ御提出ニナルノガ本来デハゴザイマスマイカ、唯マダ出来ルカ出来ヌカ分ラナイモノニ向ツテ補助ヲ与ヘルト云フコトニナルノハ少シク変ナヤウニ考ヘラレマスガ、若シ御手許ニアルナラバ民間デ出来マス所謂公益法人ノ組織、ドウ云フ工合ニナツテ居ルカト云フヤウナ概要ヲ、一日モ早ク御提出ニナラムコトヲ希望シテ置キマス
○議長(島田三郎君) 別ニ質疑ガナイト認メテ次ニ移リマス――○下略



〔参考〕官報 号外 大正五年二月二五日 第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第三十二号(DK470006k-0015)
第47巻 p.53-60 ページ画像

官報  号外 大正五年二月二五日
    ○第三十七回帝国議会衆議院議事速記録第三十二号
大正五年二月二十四日(木曜日)午後一時十七分開議
 議事日程 第三十一号 大正五年二月二十四日
第八 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案(政府提出)    第一読会ノ続
                       (委員長報告)
 第八 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案(政府提出)    第一読会ノ続
                       (委員長報告)
  〔守屋此助君登壇〕
○守屋此助君 諸君、唯今日程ニ上ツテ居リマスル此理化学ノ研究ニ関スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案ハ、現内閣ノ政策ノ一トシテ世ノ中ニ迎ヘラレタル所ノ重大ナ議案デアリマスル、其故ニ委員会ハ頗ル慎重審議ヲ尽サレタノデアリマス、サウ致シマシテ此理化学研究上ノ事柄ハ、法文第一条ニアリマス通リ、物理学並ニ化学ノ研究ヨリ致シテ、生産上ニ之ヲ応用スルト云フ事柄ガ法ノ目的デアルノデアリマス、唯学問ノ技ヲ研究スルニ止マルノデナイノデ其方カラ言ヘバ主トハナラナイ、応用ガ主トナル、是ガ第一ノ政府ノ説明デアリマスソレカラ委員諸君一同ノ熱心ニ御調ベニナツタ訳合ハ今日独逸ガアノ強大ヲ以テ鳴ツテ居ルノモ此物理学並ニ化学ノ研究ヲ宜ク致シテ是ノ応用ニ巧ミナルヲ以テ、半世紀間ニ於テ独逸ガ今日世界ニ覇ヲ唱ヘテ居ルノデアル、斯様ナ訳デアルカラ此理化学ノ研究ト云フ事柄ノ消長ハ、国ノ消長ニ関スルモノデアルト云フ事ヲ以テ、委員諸君ハ御調ベニ相成ツテ之ヲ以テ質問致サレ、政府モ其意味ヲ以テ多ク答ヘラレテ居ルノデアリマス、サウ致シマシテ委員諸君ガ一同ノ議論並ニ意嚮ガ一致イタシテ居ルノハ、帝国政府ガ斯様ナ案ノ提出ノ遅カリシ事ヲ恨ミトスルト云フノガ一ツデアリマス、第二ハ斯様ナ大切ナモノナルニ拘ラズ、規模ガ小サナルコトヲ恨ミトスルト云フノガ、委員一同ノ感ヲ同ジク意見ヲ同ジクシタ点デアリマス、此事ニ付テハ委員ノ中ニハ此理化学研究所ヲシテ今日ヨリ五年、十分ニ言ヘバ十年前ニ此ノ如キモノガ日本帝国ニ出来テ居ツタナラバ、今日ノ時局、此上下ノ受クル
 - 第47巻 p.54 -ページ画像 
利益幾何ゾヤ、然ル所十年前ハサテ措キ、五年前ニモ出来テナカツタ漸ク今日此案ヲ見タルヲ遅シトスル、恨トスル、併ナガラ出サレザルヨリモ優レリ、斯ウ云フノデ此重大ナル案ヲ今政府ノ政策ノ一トシテ兎ニ角喜デ迎フルト云フ意向ヲ以テ迎ヘラレタノデアリマス、サウ致シマシテ遅クナツタ理由ハ政府現内閣ハ以前ノ内閣ノ事ニ付テハ答弁ノ限ニアラズ、今ノ内閣ニナツテドウ云フ方針ヲ持ツカト云フト、ナルベク民間デ致サルヽモノヲ政府ガ之ヲ補助スルト云フ態度ニ於テ致シタイト云フコトニ考ヘテ居ツタ、所デ長イ歴史ヲ申シマスルト煩雑ニナリマスカラ主要ノ点ダケヲ申上ゲマスガ、大正五年一月二十一日ニナツテ学者並ニ実業家ヨリ建議案ガアツタノデ此案トナツタ、其建議者ノ名前ハ後日此興敗ニ重キ責任ヲ持ツテ居ラルヽ方デアリマスカラ此ニ一ツ諸君ニ御紹介致シテ置キマス、其方々ハ豊川良平君・渋沢栄一君・高松豊吉君・安田善三郎君・近藤廉平君・大倉喜八郎君・団琢磨君・渡辺渡君・長井長義君・桜井錠二君・井上準之助君・中野武営君、諸君ニ是等ノ十二人ノ名前ヲ言ウテ置クノハ此案ノ賛否ヲ決メルトキニ此人々ヲ信用スルカセヌカガ大変ナ関係ガアリマスカラ、諄クアリマスガ申上ゲテ置キマスガ、此方々ガ大正五年一月二十一日前申上ゲタ通リノ金額ヲ出サレテ、吾々ガダ、一ノ案ヲ拵ヘテ此理化学研究所ヲ設立スルカラドウカ政府モ補助シテ呉レ、斯ウ云フコトヲ申込マレタノデアル、ソコデ此方針ヲ以テ之ヲヤツテ居ツタトコロガ、サテサウスレバドウスルカト云フト政府デ八百万円ノ計画ニシタイト云フ、今ノ方々ガ五百万円ノ責任ヲ持ツ方々ナンダ、五百万円ノ責任ヲ持ツ方々ナンデアル、斯様ナ今申上ゲタ十二名ノ諸君ガ五百万円ノ金ハ吾々ガ責任ヲ以テ此ニ醵出シテ一ノ法人ヲ拵ヘル、サウスレバドウカ政府モ相当ノ補助ヲシテ呉レ、斯ウ云フコトデアル、ソレカラ政府デハイロイロ調ベタトコロガ政府ガ確ニ之ヲ補助シ、又五百万円ノ金ヲ出シテ今ノ十二人ノ方々責任ヲ以テ出サレルト云フコトニナレバ宮廷内帑ノ内ノ百万円ノ下賜ヲ拝スル光栄ヲ確ニ有セラレルト云フ見込ガアル、是デ八百万円ノ金デアル、此八百万円ヲ以テ此公益法人ヲ設立スルコトニシタイト云フ斯ウ云フ訳デアル、デアルカラ遅クナツタ訳、計画ガ小サイト仰シヤルガ先ヅ八百万円デアルガ、是レ以上ニシタイト云フコトハ政府モ思ヒマスガ第一ニ普通ノ事柄ハ金ガ無イト云フコトデアルガ、金ヲ出スヨリハ日本ノ今日ノ文明ノ程度知識ノ程度デハ、理化学研究ノコトニ付テソレニ従事サレルトコロノ学者・技術者、此学者・技術家ト云フ者ガドウモ其規模ヲ初メヨリ大ニシテモ其人ヲ得ラレナイ、其人存シテ其政挙ルデ、人ヲ得ナケレバ尨大ナ金ヲ使ツテモ仕方ガナイガ、農商務省ニ於テ工業試験所ヲ本年ヨリ拡張スルコトニナツテ居ル、此予算ハ通過致シテ居ル、此方ニモ人ヲ取ラネバナラヌ、金ヨリカ人ノ方ガ先ヅ払底デアル、又金モ是レ以上出スト云フ事柄ハチヨツト今ノ所デムヅカシイガ、是デ政府モ決シテ――決シテ満足シテ居ルノデハアリマセヌガ、ヨリ多ク金モ集メ又是迄ハ斯ウ云フヤウナ学者・技術家ト云フ者ガ余リ世ノ中ニ必要デナカリシタメニ、サウ云フ道ノ学問ヲ修ムル人ガ少ナカツタ、ケレドモ今後斯ウ云フコトガ尊敬ヲ受ケルヤウナ事柄ノ雲行ニナレバ、思フニ人才ガ
 - 第47巻 p.55 -ページ画像 
輩出スルコトデアラウカラ、サウ遠キ将来ニアラズシテ近キ将来ニ於テ拡張ハ出来ルト思フカラ、ドウカ此案ハ是デ計画ノ小サイト云フ御不満足モアリマセウガ、ドウカ是デ満足シテ欲シイ、又遅クナリマシタ訳柄ハ右様ナ訳デアルト云フ事柄ガ政府ノ説明デアリマシタ、ソコデ委員会デハ之ヲ――ソレダケガ大要ノ問答デアリマシテ、決議致シマス際ニナツテ国民党ヨリ出ラレマシタトコロノ委員柏原君ハ、此案ニ対シテハ修正ヲスルノデアル、併シ委員会デ言フノハ煩雑デアル、ソレ故ニ立派ナル修正案ヲ本会議ニ於テ提出スルガ、此意味ヲ此ニ言明シテ置クト云フ御言葉ガアリマシタ、其外ノ委員諸君ハ大ニ是ハ歓迎セラレタ案デアリマスカラ、全会一致ヲ以テ大体ニ賛成ヲスルガ、併シ其賛成ノ決議ヲスル前ニ希望条件、是ガ一体近頃流行リモノナンデアリマスガ、余リ希望条件ト云フモノヲ出スト云フコトハ体裁ハ余リ面白クナイコトヽ思ヒマスガ、イロイロ審議致シマシタ中ニ希望条件ガ数アリマシタガ、其中ノ最モ良キモノガ此ニ採用可決ニナツテ居リマス、ソレハ斯ウ云フコトナンデス「理化学ニ関スル研究発明ヲ奨励スヘキ目的ヲ以テ次期議会ニ於テ政府ハ適当ナル法案ヲ提出スルコト」「本案第一条ニ規定セル補助金額二百万円ハ左ノ用途ニ使用セラレムコトヲ希望ス」「一、理化学研究所カ特ニ指定シタル発明ニ関スル懸賞金又ハ補助金」「二、発明家ノ表彰及発明奨励ニ必要ナル支出」是ダケノ事柄ヲバ附帯ノ決議ト致シテ決議シマシテ、サウシテ原案ニ全部賛成スルト云フ決議ニナリマシタ、此段御報告ニ及ビマス
  〔拍手起ル〕
○議長(島田三郎君) 別ニ発議モナイト認メマス、本案ノ第二読会ヲ開クニ御異議ハアリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) 御異議ナイト認メテ第二読会ヲ開クコトニ決シマス
○福田又一君 直ニ第二読会ヲ開カレンコトヲ望ミマス
  〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) 福田君ノ議ニ御異議ハナイト認メマス、依テ直ニ第二読会ヲ開キマス

 理化学ヲ研究スル公益法人国庫補助ニ関スル法律案
                       第二読会
○議長(島田三郎君) 通告ガアリマス、鈴木梅四郎君、定規ノ賛成ヲ得ラレテ居ル修正案ノ動議デアリマス
  〔鈴木梅四郎君登壇〕
  〔拍手起ル〕
○鈴木梅四郎君 諸君、私ハ本案ニ対シマシテ一ノ修正案ヲ提出致シマス、理化学研究所ノ問題ニ付キマシテハ我党多年ノ主張ト致シマシテ、実ハ大正五年度ノ予算ノ時ニ於キマシテモ一般ノ財政計画ハソレゾレ査定ヲ致シマシタトキニ、此理化学研究所ノ問題モ併セテ我党ノ議ニ上ツテ居ツタノデゴザイマス、従ツテ予算査定案ノ説明ヲ致シマス際ニ、私ハ此処デチヨツト諸君ニ御断リヲ申シテ置イタ前号ノ続キ
 - 第47巻 p.56 -ページ画像 
ト申シテモ宜シウゴザイマス、理化学ヲ研究スルタメニ完全ナル研究所ヲ必要トシマスルタメニ、私共ハ本案ヲ以テ最モ姑息ナリ貧弱ナリトスル者デアリマス、修正ノ要点ハ国庫ヨリ一千万円ヲ支出シテ此設備費ニ充テ、更ニ年々研究費トシテ一百万円宛ノ補助ヲ与ヘル、斯様ナコトニスルノデアリマス、即チ私ノ修正ニ依リマスト設備費ト云フモノガ政府カラ出シマス一千万円、ソレニ唯今委員長ノ御報告ニナリマシタ五百万円、若シ幸ニ帝室カラ御下賜ヲ戴キマスレバソレヲ合セマシテ一千六百万円ノ設備ヲスルコトガ出来ル、斯様ニナリマス、更ニソレニ一百万円宛研究費ヲ支出スルコトニナルノデゴザイマスカラシテ、マダ完全円満トハ申シマセヌケレドモ、今日世界ノ研究所ニ比較シマシテ余リ恥シクナイ所ノモノガ出来ルノデアリマス、尤モ米国辺デハ御承知ノ如クニ「ロツクフエーラー」ガ唯医学ダケニ関スル研究所ヲ二千万円デ造ツテ居ルノデアリマシテ、彼ノ有名ナル我ガ野口博士ナドハ此研究所デ声名ヲ掲ゲラレテ居ルノデアリマス、ソレ等ノ点カラ考ヘテ見マスルトソレデハマダ不十分ト思ヒマスガ、物ニハ順序ガゴザイマスカラシテ、私共ハ此案ヲ実施シタイト思フノデアリマス、斯様ニ致シマスレバ此研究所ノ研究費ト云フモノハ十分デゴザイマスカラ、官民ヲ問ハズ学派ノ異同ヲ問ハズ、此研究ニ志ノ有ル学者ト云フモノガ、自由ニ之ニ這入ツテ研究スルコトガ出来ルト云フ考デゴザイマスル、目下財政甚ダ裕ナラザル時ニ方ツテ、吾々ガ斯様ナ提議ヲ為シマスル理由ヲ一通リ申上ゲテ見タイ、御承知ノ通リ欧洲大戦ノ結果、是ハ何時終局致シマスカハ分リマセヌケレドモ、サリナガラ我ガ帝国ト致シマシテハ此大乱ニ鑑ミテ、差向キ国策上非常ナ大決心ヲ有シ大奮闘ヲ要スル問題ガ沢山アル、私共ハ此結果ニ鑑ミマシテ、第一ニ黽メベキモノハ何デアルト云ヘバ学問ノ独立デアリマス、次ニハ軍器軍需ノ独立デアリマス、次ニ財政経済ノ独立デアリマス、此三箇ノ独立計画即チ帝国ノ国策ト致シマシテハ是ガ最モ重要ナル問題デゴザイマシテ、此事ヲ成就セシムルコトニ御同様ニ十分ナル力ヲ尽スニアラザレバ、我ガ帝国ノ体面ヲ保チ、我ガ帝国ノ国権ヲ維持スルコトガ出来ヌト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、学問ノ独立ト申シマシテモ種々ゴザイマスルガ、今日迄帝国ノ此文明的ノ学問ト云フモノハ、全ク欧米ノ模倣ニ過ギナイノデアリマス、真似ヲ致シテ居ルノデアリマス、真似ヲ既ニ致シテ居ルモノデアリマスルカラシテ、其真物ニ劣ルト云フコトハ勿論、殊ニ総テ数年之ニ遅レルト云フコトハ明白ノ事柄デゴザイマスル、ソコデ此学問ノ独立ヲスルニハドウシタラ宜シイカト申シマスルト、イロイロ玆ニ手段方法ハゴザイマセウ、京都大学ニ於キマシテハ日独戦争ノ当初ニ於テ、独逸語ヲ廃シテ学問ノ独立ヲ叫バレタコトヲ聞イテ居リマスガ、独逸語ヲ廃シテ学問ノ独立ヲ叫バレルノモ其意気ハ壮ト致シマスルガ、併シ斯様ナルコトデ学問ノ独立ハ期セラレナイコトヽ思ヒマス、勿論学問ノ中ニ種々ゴザイマス、或ハ哲学・文学・法律・政治・経済ト云フヤウナ斯様ナ種類ノ学問ハ図書館――広ク種々ナモノヲ参考致シマスレバ、図書館ノ内ニ於テ研究モ出来ルノデゴザイマスルガ、理学・化学ニ至リマシテハ是ハ只デハ研究ガ出来ナイノデアリマス、ドウシテモ此ニ完全ナル所ノ設備ヲ致
 - 第47巻 p.57 -ページ画像 
シマシタル研究所ガナケレバ是ハ出来ナイノデ、殊ニ理学・化学ト申シマスルモノハ御承知ノ通リ、近代文明ノ要素デアツテ即チ近代ノ文明ハ理学・化学ノ発達ニアルト申シテ宜シイ、殊ニ此欧洲ノ大乱ニ当ツテドウデアリマスカ、殆ド欧羅巴ノ全国ヲ引受ケ奮闘シテ今日ノ成績ヲ挙ゲテ居ルノハ何ニ因ルカト申シマスレバ、私共ハ独逸国ノ化学ノ発達シタルタメデアル、即チ化学ノ勝利デアルト云フコトヲ私共ハ断言シテ憚ラヌノデアリマス(拍手起ル)斯様ニ致シマシテ此理化学ヲ研究スルト云フコトニ付テハ、ドウシテモ姑息ナ設備ノ小サイ研究所デハ到底駄目ナノデアリマス、総テ此理化学ノ原理カラ究メテ、サウシテ之ヲ実地ノ実際ニ応用スルコトヲ研究スルニハ、ドウシテモ完全ナル所ノ理化学研究所ガ必要ト云フ見地カラシテ、学問ノ独立ヲ図リマスルタメニハドウシテモ此理化学研究所ヲ完全ニスルト云フ必要ガアルノデアリマス、次ニ軍器軍需ノ独立、是モ我国朝野ノ唱フル所デゴザイマスルガ、軍器軍需ノ独立ハ如何ニシテ得ラレルカ、今日我陸軍海軍ノ人々ハ軍器ノ自給若クハ独立ヲ唱ヘテ居ラレマス、殊ニ海軍ノ如キハ軍艦ヲ自分ノ国デ製造スルコトヲ以テ誇トセラレテ居リマス、併シテ之ヲ一切外国カラ買入レマシタトキニ較ベマシタナラバ、ソレハ進ンデ居ルニ相違ナイケレドモ、今日自分ノ所デ拵ヘル軍艦ハ果シテドウデアルカ、成程出来ル、出来ルガ其物ハ先輩国ノ真似ヲシテ唯拵ヘルニ過ギナイノデアル、故ニ甚ダ窮乏セル所ノ財政ノ手許カラ出シテ、折角造ツタ所ノ軍艦モ出来上ル時分ハ時勢遅レニナツテシマツテ、第二流以下ニナルト云フノハ現ニアルコトデアリマス、大砲ハ然ラバドウデアルカ、軍艦ハ斯様デゴザイマスルガ、大砲ノ如キハ此間私ハ製鉄所ノ問題ニ付テ、独逸ガ秘密ニ研究ヲ致シマシテ、此度ノ戦争デ初メテ分リマシタ「モリブデン」即チ水鉛、斯様ナ事ニ付テ質問致シマシタガ、当局ノ農商務省ニ於テモ御承知ガナイ、製鉄所ニ於テモ御承知ガナイ、唯海軍ニ於テ御研究中ダト云フ御話デアル、併シ実際此「モリブデン」ノ産地ト云フモノハ濠洲ト其次ガ日本ガ一番主ナル産地デアリマスカラ、日本カラ吾々ノ知ラヌ間ニ、独逸デハ此「モリブデン」ヲ持ツテ参ツテ盛ニ大砲ノ原料ニシテ拵ヘテ、他国デ拵ヘルモノヨリハ最モ堅固ナル最モ優秀ナル大砲ヲ拵ヘテ居ツタト斯ウ云フヤウナコトヲ見マシテモ、如何ニ我国ノ此軍器ト云フモノガ理学化学ノ研究ノ足ラヌタメニ憫レデアルカト云フコトハ証明ガ出来ルノデアリマス、尚其他ニ潜航艇、是ハ最モ未来ノアリマスル所ノ武器デゴザイマス、此潜航艇モデス、帝国ノ唯今持ツテ居リマス所ノモノハ即チ時勢遅レニナツテ居ル、トコロデ精鋭ナル又斬新ナルモノヲ拵ヘヤウトシテモ我ガ海軍ノ力ニ於テハ出来ヌノデアル、私ハ或ル海軍ノ道ノ人ニ尋ネタ所ガ潜航艇ノ如キ深遠ナル学理ヲ応用シテ往クモノニ付テハ、我ガ海軍ニ於テハ未ダ之ニ著手スルコトガ出来ヌノデアル即チ此研究ハ出来テ居ラヌト云フコトニ帰著スルノデアリマス、又飛行機・飛行船、斯様ナモノニ付キマシテモ今日ハ非常ニ進歩シテ居ル我ガ帝国ノ有スル所ノモノナドハ殆ド翫具同様ノモノデアツテ、到底実戦ニ耐ヘナイモノデアル、所ガ是モナカナカ理化学ノ原理ヲ究メテサウシテ自ラ之ヲ製造シ自ラ之ヲ改良シテ往クコトノ出来ル力ヲ養ハ
 - 第47巻 p.58 -ページ画像 
ナケレバ到底出来ナイ、即チ軍需軍器ノ独立ト云フコトヲ致シマスルニ付キマシテモ、理学・化学ノ完全ナル所ノ設備アル研究所ヲ必要トスルコトハ論断ヲ竢タナイノデアリマス、尚此財政経済ノ独立、財政経済ノ独立ト申セバチヨツト廻リ遠ウゴザイマスガ、結局富ノ増進ヲ努ムルト云フコトガ財政経済ノ独立ニナルモノデゴザイマシテ、其国富ノ増進ヲ計ルト云フノハ何ニ依テヤルカ、是亦理化学ノ完全ナル設備ノアル研究所ニ於テ、研究サレタ原理ヲ実際ニ応用スルト云フ手段ヲ執ラナケレバナラヌノデアリマス、今日マデ我国ノ農業工業ガ非常ニ進歩シタト云ウテモ、是ハヤハリ欧米ノ真似ヲ致シテ居ルノデアリマス、真似ヲ致シテ居ルノデアリマスカラ、其本国ニ及バヌコトハ無論ノ話デアルノミナラズ、大変ニ後レテシマフト云フコトニナルノデアリマス、現ニ我国ノ最新ノ化学ヲ応用シタ工業ト申シマシテイロイロゴザイマス、随分発達シタ工業モアリマスガ、其工場ノ設備並ニ機械一切ノ設備ニ属スルモノハ、皆外国カラ輸入シテ来ルノデアリマス帝国内ニ於テ自ラ製造シ得ル物ハ殆ド無イト云ツテモ宜シイ、少シハ出来マスガ併シ重ナル物ハ殆ド無イト申シテ宜シイヤウナ――外国デ拵ヘテ持ツテ来テ、サウシテ僅ニ工業ヲ営ンデ居ル、斯様ナ貧弱ナ有様デアリマス、所デ人ノ真似ヲシテ工業ノ機械ヲ輸入シテヤツテモ出来ナイコトハアリマセヌガ、真物ト較ベルト余程劣ル、是デモ併シ従前ノ通リナ状況デアレバ後レ馳ナガラモヤツテ行クコトガ出来マスガ此日露戦争後欧米共ニ日本ノ農工業者ニ対シテハ非常ナ警戒ヲ加ヘテ我国ノ人々ガ旅行シテ工場抔ヘ行ツテ取調ベヤウ、若クハ見聞シヤウト申シテモ近年ハ皆断ルノデアリマス、日本人ニ工場ヲ見セタナラバ吾々ノ所ヲ直グニ真似ラレル、即チ商品ノ販路ニ関係ヲ来スカラト云フノデ、近年ハ真似ヲシヨウトシテモソレガ出来ナクナツテ居ルノデアリマス、況ヤ欧洲大乱ノ後ニ至リマシタナラバ、此傾向ガ最モ著シクナリマシテ、帝国ハ帝国自ラ学理ヲ発見シ機械ヲ発明シテ自ラ為スニ非ザレハ、国富ヲ増進スル所ノ商工業ヲ発達セシムルコトモ出来ナイコトニナルノデアリマス、斯様ナ次第ニ致シマシテ学問ノ独立、軍器軍需品ノ独立、及ビ財政経済ノ独立、此三大国策ヲ遂行スルニ付テ最モ大事ナルモノハ完全ナル研究所デアリマス、以上ハ此問題ニ付テハ金銭ヲ吝ムコトハ出来ヌノデアリマス、即チ今マデ欧米ノ摸倣ヲ致シテ居ツタノヲ改メ、我レ自ラ之ヲヤルト云フコトヲスルノガ第一歩デアルノデアル、唯今委員長ノ御報告ノ中ニ完全ナル物ヲ拵ヘルトシテモ、人ガ少ナイカラ云々ノ御話モアリマシタガ、是ハ一応ノ道理ハアリマス、サリナガラ是ハ未ダ其要ヲ尽シテ居ラヌト私ハ思フ、今日我帝国ノ学者ニシテ世界ニ名ヲ揚ゲテ居ル学者ハドウ云フ学者デアルカト云ヘバ、欧米ノ研究所ニ入ツテ欧米ノ研究所デ研究シタ其成績ガ優良ナル為メニ名ヲ成シテ居ルノデアリマス、デ我帝国大学ヲ卒業シ欧米ニ留学シテ欧米ノ完全ナル研究所抔ニ入ツテ研究シテ帰ツタ者ガ博士ニナル、即チ研究所ガ無イ為メニ我国ノ学者ハ此研究ヲスルコトガ出来ナイ、研究シヤウト思フ者ハ高イ旅費ヲ使ツテ欧米ニ留学スルデアリマスカラシテ我国ニ完全ナル化学研究所ヲ拵ヘサヘスレバ、其人無キヲ決シテ憂ヘマセヌ、我国ノ学者ハ最モ其職務ニ忠実ナル学者
 - 第47巻 p.59 -ページ画像 
ガ多イカラ、完全ナル研究所サヘアレバ人無キハ決シテ心配スルコトガナイ、既ニ此学者社会ノ説ヲ聴イテ見テモ、研究所サヘアルナラバ吾々ハ十分腕ヲ磨イテ見セルト申シテ居ル、斯様ナ次第デゴザイマスカラ、私共ハ今日ノ国策トシテ是ヨリ大事ナモノハ無イト思フ、此三大国策ノ基礎ヲ築ク研究所デアリマスカラ、何ヲ措イテモ之ヲ完全ニスルト云フコトハ最モ正シイ論断トシテ前段ノ如キ提案ヲ致シマスノデアリマス、先年我党ガ三千万円ヲ理化学研究所ニ投ジテ拵ヘタイト云フ動議ヲ出シマシタ際ニ、世間ハ之ヲ以テ甚ダ意外ナ事ト致シタノデアル、殊ニ現内閣ノ与党ト云ハルヽ同志会諸君ノ如キハ、最モ奇異ノ感ヲ懐カレタト見エマシテ、狂気ジミタ提案デアルト言ハレタ、現ニ尊敬スベキ武富時敏君ノ如キモ狂気ジミタト云フ批評ヲ下サレタコトハ新聞紙ニ見エテ居ルノデアリマス、然ルニ其後欧洲大乱ノ結果イロイロナ不都合ヲ見ルニ至ツテ、現内閣ガ此化学研究所ノ設立ニ対シテ、仮令貧弱ナガラモ補助金ヲ与ヘラルヽ此提案ヲ見ルニ至ツタト云フコトハ、私共ハ非常ニ愉快ニ考ヘルノデアリマス、吾々ノ提案ガ其当時ハ狂気染ミテアツタノデアリマシタケレドモ、今日ハサウデナイ左様ニ批評サレタ方カラシテ此提案ヲ見ルニ至ツタノデアリマスカラ私共ハ衷心満足ヲ表シテ居リマス、併シ折角此所マデ御心労下サツタナラバ、我帝国ノ学問ノ程度ハ果シテ如何ナル点ニ有ルカ、軍器軍需ノ有様ハドウ云フ位地ニ在ルデアラウカ、財政経済ノ独立ヲ考ヘタナラバドウ云フ程度ニ在ラウカト云フ大局カラ達観シテ、此理化学研究所ノ必要ノ程度ヲ今少シ御納得下サイマシタナラバ、斯様ナ貧弱ナル案ニ止リハシナカツタデアラウト思フ、私ハ此所マデ折角オヤリ下サルナラバ、更ニ百尺竿頭一歩ヲ進メラレテ、我党ノ提案致シマス所ノ此設備費ニ一千万円ヲ政府カラ出シ、更ニ年々一百万円ヅヽ出スト云フ案ニ御同意ヲ願ヒタイノデアリマス、我党ハ従来此予算ノ査定抔ニ付テハ最モ厳シキ査定ヲ加ヘルノデアリマス、是天下ノ評判ニナツテ居ル位デアリマス、サリナガラ国家ノ大計上カラ考ヘマシテハ、大小軽重ノ区別ヲ致シ、最モ大ナルモノ最モ重キモノニ向ツテ金ヲ支出スルコトハ我党決シテ惜ムモノデハゴザイマセヌ、即チ化学研究所ノ如キモノハ今日ノ時ニ当ツテ最モ重大ナルモノ、最モ大切ニセネバナラヌト思ヒマスノデアリマスカラシテ、我党ノ平常ノ所謂諸君カラ消極論ト言ハレル吾々トシテ、此ノ大ナルトコロノ修正案ヲ提出シタ訳デゴザイマスカラ、満場ノ諸君モ私ノ唯今申上ゲマシタルコトニ御同意下サルナラバ、満場一致ヲ以テ私ノ修正案ニ御賛成アランコトヲ希望致シマス
  〔「採決」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) 討論ハ尽キタト認メマス
○前川虎造君 此場合御採決ニナリマスナラバ記名投票ニ願ヒマス、余リ人ガ少ナ過ギマスカラ――三分ノ一アリマスレバ致方ガアリマセヌ、御取調ヲ願ヒタウゴザイマス
○議長(島田三郎君) 前川君ハ唯今ノ発議ヲ固執ナサレマスカ
○前川虎造君 記名投票ヲ願ヒタウゴザイマス
○議長(島田三郎君) 起立デハイケマセヌカ
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○望月長夫君 本案ハ非常ニ重大デアリマス、斯ノ如キ重大ノ案ヲ採決スルニ当ツテ、定数ニ足ラナイヤウナ少数デ議決ヲスルコトハ甚ダ遺憾デアリマス、ソレ故ニ議長ハ、特ニ強キ意味ヲ以テ議員ノ出席ヲ促シテ貰タイ、是ガ主意ナンデアリマス
○議長(島田三郎君) 唯今計算致シマシタトコロデ百三十人――ソレデ、記名投票ニ致シマスカ
  〔「記名投票反対」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) ソレデハ記名投票ニスルヤ否ヤト云フコトノ決ヲ採リマス、ソレデナケレバ紛論ヲ招クノ基デアリマス、記名投票ニスベシト云フ説ト、記名投票ヲ要シナイト云フ説トアリマス、記名投票ニ賛成ノ御方ハ起立ヲ願ヒマス
  起立者 少数
○議長(島田三郎君) 少数デアリマス、依テ採決方法ハ起立ニ問ヒマス、最早反対ノ方ノ起立ヲ要サナイト思ヒマス
  〔「起立ヲ要シマス」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) 鈴木君ノ修正説ト委員長ノ報告ト二ツアリマス、鈴木君ノ修正説カラ決シタイト思ヒマス、鈴木君ノ修正説ニ賛成ノ方ハ御起立ヲ乞ヒマス
  起立者 少数
○議長(島田三郎君) 少数デアリマス、否決セラレマシタ、委員長ノ報告ニ賛成ノ方ハ起立ヲ乞ヒマス
  起立者 多数
○議長(島田三郎君) 多数デアリマス委員長報告ノ通ニ決シマシタ
○福田又一君 直ニ三読会ヲ開カレンコトヲ望ミマス
○議長(島田三郎君) 御異議ハアリマセヌカ
  〔「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君)御異議ガナケレバ直ニ三読会ヲ開キマス

 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
                       第三読会
○福田又一君 第二読会決議ノ通可決確定セラレンコトヲ望ミマス
  〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕
○議長(島田三郎君) 福田君ノ議ニ御異議ガナイト認メマス、依テ第二読会決議ノ通リ確定致シマス――○下略



〔参考〕官報 号外 大正五年二月二六日 第三十七回帝国議会貴族院議事速記録第十五号(DK470006k-0016)
第47巻 p.60-68 ページ画像

官報  号外 大正五年二月二六日
    ○第三十七回帝国議会貴族院議事速記録第十五号
大正五年二月二十五日(金曜日)午前十時二分開議
 議事日程 第十五号 大正五年二月二十五日
○中略
 第四 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
   (政府提出、衆議院送付)        第一読会
○中略
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ諸般ノ報告ヲ致サセマス
 - 第47巻 p.61 -ページ画像 
  〔河井書記官朗読〕
○中略
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
○中略
 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
○中略
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ本日ノ会議ヲ開キマス○中略
○議長(公爵徳川家達君) 第四、理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一読会
  理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
 右政府提出案本院ニ於テ可決セリ、因テ議院法第五十四条ニ依リ及送付候也
  大正五年二月二十四日    衆議院議長 島田三郎
    貴族院議長 公爵 徳川家達殿
○中略
  〔国務大臣河野広中君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(河野広中君) 本案提出ノ理由ヲ述ベマス、工業其他一般産業ノ利益ヲ図リマシテ国家富力ノ増進ヲ図ラウト致シマスレバ、殊ニ此理化学ニ関スル独創的ノ研究ニ依リマシテ我国人ノ発明能力ヲ発揮セシメ、而シテ智能上ノ生産力ヲ充実セシメムケレバナラヌト考ヘマス、殊ニ今回欧羅巴ノ戦乱ハ今後益々軍事材料ノ独立ト、工業物資ノ自給等ヲ画策スルノ緊急ナルコトヲ教ヘマシテ、且又理化学研究ノ必要ヲ愈々覚知セシメマシタ次第デアリマス、然ルニ我国ニ於キマシテハ従来此種類ノ研究機関ニ闕クル所ガゴザイマシテ、誠ニ遺憾ニ存ジテ居リマス、今回民間有志ノ人々ヨリ公益法人タル理化学研究所ヲ設立スルト云フ計画ガゴザイマシテ、併ナガラ此事業タルヤ尠カラザル資本ヲ要シマスルガ為ニ、民間有志ノ醵金ノミヲ以テハ到底此所期ノ目的ヲ達シマスルコトガ出来マスマイト存ジマス、故ニ政府ハ国家事業トシテ国運ノ発展ニ資セムガ為ニ、之ニ補助金ヲ与ヘマス、十箇年ヲ通ジマシテ二百万円ヲ補助イタシマシテ、而シテ年額二十五万円以内ヲ年々支出イタシマシテ、民間有志ノ醵金ト之ヲ合セマシテ、必要ナル資金ヲ充実イタシタク存ジマスルガ為ニ、本案ヲ提出イタシマシタ次第デゴザイマス、冀クハ御協賛アラムコトヲ切望イタシマス
○岡田良平君 本員ハ文部大臣ニ質問ヲ致シタイノデゴザイマス、出席ヲ請求イタシマス
○議長(公爵徳川家達君) 文部大臣ニ出席セラルルヤウニ請求セヨト云フコトデゴザイマスカ
○岡田良平君 ドウカ左様願ヒタイ
○議長(公爵徳川家達君) 早速使ヲ遣リマス
○江木千之君 私ハ此案ニ付テ大蔵大臣ニ質問ヲ致シタイコトガアル理化学研究所ノ設置ハ既ニ遅レタリト言ハナケレバナラヌノデアリマス、時局ニ促サレテ後レバセニモ此設備ヲ見ルニ至ツタノハ賀スベキコトデアラウト考ヘマス、此事ニ付テ学者社会ノ評ヲ承ルニ、今日ノ時局ノ産物トシテハ膠州湾ノ大勝利ヨリモ以上ノ獲物デアルト申シテ
 - 第47巻 p.62 -ページ画像 
居ルノデアル、実ニ国家ノ将来ノ興隆ノ基礎ヲ為ス所ノ是ハ大事業デアルト考ヘルノデアリマスガ、併シ此事ヲ成就スルノハナカナカ容易ナ業デハナイト考ヘラルルノデアリマシテ、政府ハ堅実ナル決心ガアルヤ否ヤト云フコトヲ承リタイノデアリマス、殊ニ一度此研究所ヲ設立シタ以上ハ、此研究所ニ入ツテ研究ニ従事スベキ者ハ何レヨリ供給セラルルカト申スト、無論理科大学デアラウト思ヒマス、此大切ナル研究所ニ向ツテ研究ニ従事スベキ適当ナル人物ヲ供給スル所ノ理科大学ノ現状ガ如何デアルカ、今日理科大学ニ於テ化学ノ研究ニ従事スル学生ハ三十人以上ニ上ツテ居ル、物理ノ研究ニ従事スル者ガ二十人以上、地質等ノ研究ニ従事スル者ガ二十人以上モアル、サウシテ其研究事項ヲ担任スル所ノ教授・助教授ト云フモノガ数名アルノデアリマシテ、斯ク多数ノ人数ガ研究ニ従事イタシテ居ルノデアル、然ルニ其研究ニ費ス所ノ一箇年ノ経費ガ幾ラデアルカト申スト、僅ニ四千円ニ過ギナイ、世界何レノ所ノ大学ニ斯ノ如キ憐レナ有様ヲシテ居ル所ガアルデアリマセウカ、斯ノ如キ有様ニシテ置イテ、サウシテ此所ヨリ研究所ニ入ルベキ適当ナ人物ヲ供給スルト云フコトハ甚ダ覚束ナイコトデアラウト考ヘル、此研究ノ効果ヲ完カラシムルニハ此人物ヲ供給スル所ノ其場所ノ研究事業ヲ今少シ整理シナクテハナラヌト考ヘルノデアリマスガ、此研究事業ヲ整理スルノ緊切ナルコトハ大蔵大臣モ認メテ居ラルルガ、且之ニ向ツテ相当ナル経費ヲ供給スルト云フコトニ付テハ、大蔵大臣ノ謂ユル最善ノ努力ヲ致サルルノ覚悟ガアルカドウカト云フコトヲ先ヅ以テ承リタイト考ヘマス
  〔国務大臣武富時敏君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(武富時敏君) 唯今御尋ノ理化学研究所ノ研究ヲ進メル為ニ其経費ヲ支弁スルコトニ付キマシテハ無論最善ノ努力ヲ致スツモリデゴザイマス、此法律案ニ伴フ予算モ既ニ提出シテ居リマス、御尋ノ通リ最善ノ努力ヲ致ス考デゴザイマス
○江木千之君 唯今ノ御答ハ御言葉ガ簡単デアツテ、十分ニ御趣意ヲ了解イタシカネタノデアリマスガ、理化学研究ノ基ヲ為ス所ノ理科大学ノ学術研究ノ事業ニ向ツテ、之ヲ整理スル為ニ尚ホ相当ノ経費ヲ供給スルコトニ付テ十分ニ努力ヲスルト言フ御答デアツタト了解イタシテ宜シウゴザイマスカ
  〔国務大臣武富時敏君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(武富時敏君) 理化学研究所ノ基ヲ為ス理科大学ノ経営ニ付キマシテハ御承知ノ通リ申迄モナク文部省ノ所管デゴザイマスカラ、文部省ニ於テ其経営ヲ立テラルレバ、文部省ト協議ノ上ニ、無論之ハ最善ノ努力ヲ致ス考デゴザイマス
○江木千之君 文部ニ於テ其経営ガアレバ之ニ向ツテ経費ヲ供給スルコトニ付テハ最善ノ努力ヲ致スト云フ御言葉デゴザイマス、此言質ヲ得タルコトニ付テハ本員ハ深謝イタシマス、尚ホ是ハ此上質問ヲ致スニモ及バヌホドノコトデアリマスカラ、之ニ附帯シテ一言希望ヲ述ベテ置キマスガ、果シテ理科大学デ研究事業ノ整理ヲセラルル以上ハ、大学ノ一ノ部分即チ文科・医科・法科ノ如キモノヲ今日ノ儘ニ放任シタナラバ、単リ理科ノ整理ヲシテモ四分科ノ設備ト云フモノハ実ニ不
 - 第47巻 p.63 -ページ画像 
具ニナルノデアリマス、付テハ是等分科ニ付テモ研究事業ノ権衡ヲ得ルヤウニ設備ヲスル、此コトニ付テモ相当ノ経費ヲ供給セラルルト云フコトハ無論デゴザイマセウ、又サウナクテハナラヌコトデアリマスカラ、併セテ此点ニ向ツテ努力セラレムコトヲ希望イタシマス
○議長(公爵徳川家達君) 岡田良平君ニ申上ゲマスガ、文部省ノ参政官ガ出席サレマシタカラ、御質問ニナツテハ如何デゴザイマスカ
○岡田良平君 ソレデハ参政官デモ宜シウゴザイマスカラ伺ヒマセウ私ノ伺ヒマス点ハ此理化学ヲ研究スル公益法人ト云フモノハ第一条ニモ書イテアリマス通リ「産業ノ発達ニ資スル為理化学ヲ研究シ其成績ノ応用ヲ図ルコトヲ目的トスル」トゴザイマス、即チ目的ハ産業ノ発達ニ資スル為デアリマスガ、其研究スル事柄ハ理化学ノ研究ニ外ナラヌ、玆ニ私ハ此研究所設立ニ関係シテ居ル人ノ側デ起草シタ所ノ設立ノ要旨ト云フモノヲ持ツテ居ル、是ハ多分農商務省デ御印刷ニナツタモノデアラウト存ジマスガ、其中ニ斯様ニ書イテアル「研究所ハ専ラ学理ノ方面ヨリ根本的ニ研究ヲ為スヲ以テ主タル目的トナスモノナレバ、現実ノ問題ヲ捉ヘテ専ラ実用上ノ方面ヨリ之ガ解決ヲ為サムトスル官公立試験所ト其事業ニ於テ大ニ牴触シ又重複スルコトナキヲ期スベシ」云々トゴザイマス、是ニ依ツテ見マスルト此研究所ト云フモノハ純然タル是ハ学術研究所デゴザイマシテ、即チ是ハ文部大臣ノ主管ニ属スベキモノト存ズルノデアリマス、然ルニ第二条ニ「前条法人ノ業務ハ農商大臣ノ監督ニ属ス」ト斯様ニアリマスルガ、是ハドウ云フ訳デゴザイマセウカ、官制ノ紊乱デハナイカト存ジマス、申スマデモナイ、文部大臣ハ教育・学芸及宗教ニ関スルコトヲ掌ツテ居ルノデアリマス、農商大臣ハ農業・商業、工業或ハ水産ト申スヤウナ事務ヲ掌ル、官制ガ斯様ニナツテ居ル、即チ学術ノ研究ト申シマスレバドウシテモ是ハ文部大臣ノ監督ニ属スベキコトト思フノデアリマスガ、玆ニ農商務大臣ノ監督ニ属スルコトニナツテ居ルノハ是ハ如何デゴザイマセウカ、官制ノ紊乱デハナイカ、勅令ノ違反デハナイカト云フコトヲ伺フノデアリマス、其御答ヲ伺ヒタイト思ヒマス、御答次第ニ依ツテハ尚続イテ伺ヒタイ
  〔政府委員大津淳一郎君演壇ニ登ル〕
○政府委員(大津淳一郎君) 唯今岡田君カラノ御質問ハ如何ニモ御尤モナル御理由ノアル質問ト承リマシタガ、此点ニ付キマシテハ衆議院ニ於キマシテモ其疑ノ質問ガ起リマシタノデゴザイマス、特ニ文部大臣ヨリ此案ニ付キマシテ説明ヲ致シテ居リマスノデス、唯今大臣ハ出席イタシマスル筈ニナツテ居リマス、御差支ナケレバ、少々時間ガ過ギマシタナラバ大臣ガ出席イタシマスト存ジテ居リマス、私ヨリ申上ゲマシテモ宜シウゴザイマスガ、冀クハ大臣ガ衆議院ニ於テ説明ヲ致シテ居リマスノト、万齟齬ノナイヤウニ御答ヲ申上ゲタイト存ジマスルノデ、冀クハ大臣ノ出席マデ少シノ間御猶予ヲ願ヒタイト存ジマスル、如何デゴザイマセウカ
○岡田良平君 私ハ参政官ノ御答弁デ十分満足イタスノデアリマス、ドウゾ唯今御答弁ヲ願フ方ガ便宜ダラウト思ヒマス
○政府委員(大津淳一郎君) 私ガ承ツテ居リマスル所ニ依リマスレ
 - 第47巻 p.64 -ページ画像 
バ御尋ノ如ク無論文部省ニ於キマシテ理化学ノ研究ニ対スル事柄ハ文部ノ所管ト致シマスルノガ当然ト心得テ居リマスルノデアリマス、而シテ本案ガ如何ナル理由デ農商務省ノ管轄ト云フコトニ文部省ハ満足イタシテ居ルカト云フ問題ニナリマスルト、是ハ成立チガ一昨年アタリヨリノ此研究所設置ノ事柄ガ重ニ実業家ノ間ニ唱ヘラレマシテ、時勢ニ鑑ミテ実業家ガ非常ニ此理化学ノ研究ヲ急ガレマシテ急ニ産業ニ之ヲ応用シテ見タイト云フ希望ガ起リマシテ、産業ノ上カラ農商務省ノ方ハ屡々交渉ヲセラレタコトデアルソウデゴザイマシテ、是ハ農商務大臣ヨリ御説明申上ゲタデアリマセウ、其点ヨリシテ農商務省ニ於テ其道ノ人々ト会合イタシテ協議ヲ重ネタル結果、畢竟本案ガ成立ツタノデアリマシテ、起リガ実業家ガ産業ニ資スル為ニ急速ニ理化学ノ研究ノ必要ヲ感ジタト云フ場合カラ起リマシテ、其沿革ニ鑑ミテ文部省ハ兎ニ角斯様ナ事柄ハ実業家アタリカラ唱道サレテ研究ガ起ルト云フコトハ国家ニ取ツテ誠ニ結構ナコトデアル、沿革ニ鑑ミテ是ハ一先ヅ農商務省ノ管轄ニスルト云フコトハ余儀ナイ、併ナガラ文部トシテハ是等ノ研究所ガ実業家ノ間ニ起ルト否トニ拘ラズ、文部ノ仕事ト致シテハ益々理化学ニ向ツテ研究ヲ進メテ往クト云フコトハ是ハ申上ゲルマデモナイコトデゴザイマスルノデ、文部省ハ是ガ為ニ決シテ理化学ノ研究ヲ怠ルト云フコトハゴザイマセヌノデ、益々民間ニ斯様ナコトガ起ルト同時ニ、理化学ノ研究ノ必要ヲ益々感ズル所以デアリマスカラ、文部省ニ於テモ色々考慮ヲ致シテ居リマシテ、マダ具体的ノ案ハ出来マセヌノデアリマスガ、考慮ヲ費シテ、ソレゾレ取調ヲ致シテ居ルコトモアルノデゴザイマシテ、本案ニ対シテハ右様ナ経過ニナツテ居リマスノデ、ドウカ御了承下サルヤウニ願ヒタイ
○岡田良平君 文部大臣ガ衆議院ニ於テ御答ニナツタ要領ヲ新聞デ見マシテ、私ハ定メテ間違デアラウト考ヘタノデアリマス、即チ文部大臣ノ御答ハ新聞ニ伝ヘテアリマシタガ、唯今丁度参政官ノ述ベラレマシタ通リニ、此法人ノ設立ニ付テ実業家ガ斡旋尽力ヲシタカラ、ソレ故ニ此成立ニ鑑ミテ農商務ノ所管ニシタノデアルト斯ウ云フ御答ヲサレタト云フコトガ新聞ニ見エテ居リマスノデ、私ハ是ハ何カノ間違デアルニ相違ナイ、斯様ナ御答ヲナサル筈ガナイト私ハ考ヘタノデアリマス、何故デアルカト申シマスルト、実業家ハ農商務省ノ実業家デハアルマイ、日本ノ実業家デアラウ、即チ其実業家ガ斡旋尽力ヲナスツタト云フコトハ決シテ此法人ノ所管ヲ定メル標準ニモ何ニモナラヌ、幾ラモ例ハ他ニゴザイマセウト思ヒマス、例ヘバ実業家ガ斡旋尽力シテ一ツノ実業学校ヲ建テル、実業ノ為ニ産業ノ発達ニ資スル為ニ、実業学校ノ設立ヲスルト云フコトガアリマシタ時ニハ、ドウ致スノデゴザイマセウカ、唯今ノ筆法デ申スト是ハ矢張リ農商務所管ニ致サナケレバナラヌ、然ルニ御承知ノ通リ有力ナル実業家ガ沢山学校ヲ設立イタシテ居ルノデアリマス、是ハ総テ目的ハ産業ノ発達ニ資スル為デアリマセウシ、又其応用ヲ図ル為デアルカモ知レマセヌガ、是ハ皆官制ノ命ズル所ニ随テ文部省ノ監督ニ属シテ居ルノデアリマスカラ文部大臣トシテ唯今ノヤウナ御答ガアラウ筈ハナイト思ツテ居リマシタガ、参政官ノ御答ヲ伺ツテ見ルト全ク事実ニ相違ナカツタト見エル、サウ
 - 第47巻 p.65 -ページ画像 
スルト更ニ伺ツテ見タイノハ此成立ガ実業家ノ斡旋尽力ニ依ルカラ農商務ノ所管ニ属スルト云フコトナラバ、実業学校ノ如キモノモ農商務省ヘ所管ヲ御換ヘニナルコトニハナリハ致サヌカト思ヒマスガ、ソレ等ハドウ云フ御解釈デゴザイマセウカ、尚ホ飛行学研究ニ付テ伺ヒマスガ、此飛行学ト云フモノハ誰ガ見テモ恐ラクハ軍事ノ発達ニ資スル為デアル、此飛行学ノ研究ノ結果ヲ軍事上ニ応用スルコトヲ目的トスル、詰リ軍事ノ発達ニ資スル為ノモノデアリマセウ、然ラバ此法人ヲ農商務省ノ主管ノ下ニ置クナラバ飛行学研究ニ属スルモノハ陸海軍ノ所管ニシナケレバナラヌト云フコトニナツテ来ハセヌカト思ヒマス、然ルニ此方ハ文部省ノ所管トシテ予算ガ提出サレテ居リマスカラ、ドウモ此点ニ付テ政府ノ方針ガ一貫セヌヤウデゴザイマスガ、其点ハドウ御解釈ニナルノデアリマスカ、此点モ併セテ伺ヒマス
  〔政府委員大津淳一郎君演壇ニ登ル〕
○政府委員(大津淳一郎君) 道理トシテハ如何ニモ御尤モナル御質問デアリマシテ、道理ノ上カラ申シマスルト御質問ノ通リニナラナケレバナラヌトハ心得テ居リマスノデゴザイマス、去リナガラ此理化学研究所ト云フモノハ学校トモ又少シク……成程学術ノ研究ニハ相違ハゴザイマセヌケレドモ、少シク又学校ト致シマスルノトハ急速ニ研究ヲ要スル点ニ於テ少シノ異ナル点モアラウカト心得マシテ、無論実業家ガ発起イタシテ実業学校ト云フモノガ出来マシテ、ソレガ申ス迄モナク文部省ノ管轄ニ属シテ居ルニハ相違ナイ、ソレト相対シテ理由ニ相違ハナイノデゴザイマスガ、此成立ト云フモノガ如何ニモ其農商務省関係ヨリ成立チマシテ、之ヲ若シ強ヒテ文部省ノ管轄トシマシタナラバ、或ハ其成立ノ上ニ大ナル変化ヲ生ズルカモ知レナイト云フ懸念ヲ致シタヤウナ場合モアルノデゴザイマス、旁々是ガ出来マスルノハ国家ノ利益デアリ、又時勢ノ変化ニ依ツテハ曩ニ伝染病研究所ヲ統一サレタ如ク、或ハ文部省ノ所管ニシナケレバナラヌ場合ガ生ズルカモ知レヌト云フコトヲ大臣ガ衆議院ノ委員会ニ於テモ明言ヲ致シテ居ラレルノデアリマス、兎ニ角此成立ヲ容易ニ成立タセルト云フ点ニ於テ農商務省ニ頗ル多ク関係シタ事柄デゴザイマスルカラ、暫クソレニ任セテ置イタ方ガ此成立ガ速ニ出来ル、其速ニ出来ルト云フコトガ国家ノ利益ト心得マシタノデゴザイマス、扨航空術ノコトニ付キマシテハ大体是ハ陸海軍ノ方デ使用イタシマスルモノデアリマスケレドモ、全ク此航空術ノ研究ト云フコトハ学術ノ府タル文部省ニ於テ管轄イタスノガ当然ノコトト心得テ居リマス、此度ノ議案ハ特殊ノモノト御諒承ヲ願ヒタイト心得テ居リマス
○沢柳政太郎君 少々伺ヒタイノデアリマスガ、此理化学研究所ヲ農商務大臣ノ管轄ニ属セシメラレタノハ唯今ノ御答ヘノ通リノ事情デアツタラウト思フノデアリマス、私ハ此案ガ成立チマスレバ或ハ少々理窟ノ上ニ於テハ首尾一貫セヌ所ガアリマシテモ、事ハ誠ニ結構ナコトデアルト思フノデアリマスガ、此第二条ノ一項ガアリマシタナラバソレデ十分デアラウト思フノデアリマス、即チ「法人ノ業務ハ農商務大臣ノ監督ニ属ス」ト云フコトガアツタナラバ、ソレデ十分尽シテ居ルデアラウト考ヘテ居リマスノデアリマスガ、更ニ第二項ニ於テ殊更ニ
 - 第47巻 p.66 -ページ画像 
「農商務大臣ハ前条ノ規定ニ依リ補助ヲ受ケタル法人ノ業務ヲ指揮監督シ之カ為必要ナル命令又ハ処分ヲ為スコトヲ得」ト云フヤウナ規定ヲ御設ケニナツタノハドウ云フ必要ガアルノデアリマセウカ、此理化学研究所ト云フモノハ今岡田君カラ御話ノアリマシタ通リ、又第一条ニ明記シテアリマスル通リ理化学ノ学理的ノ研究、根本的ノ研究ヲナス所ノモノデアリマシテ、学者ガ多ク集ツテ如何ナル問題ハ如何ナル方法ニ依ツテ研究スルカト云フコトガ重ナル仕事デアラウト思フノデアリマス、ソレニ此補助ヲヤルト云フ関係カラシテ、此法人ノ監督ヲ農商務大臣ガサレルト云フコトハ一通リ聞ヘルノデハアリマスガ、何ダカ農商務大臣ガ理化学研究ノ事項ニ付テ、即チ学者ノ研究スベキ事項ニ付テ立入ツテ干渉ヲナサル必要ヲ認メラレタノデハナカラウカト云フ疑ヲ起シマシタガ、私ハ農商務大臣ガ其補助金ノ支出ヲサレタニ付テ、ソレ相当ノ監督ヲナサレタラソレデ十分デアラウカト思フノデアリマス、デ研究所ノ研究スル事業ノ如キハ成ルタケ学者ヲ拘束セズ又牽制セズ、自由ニ学者ヲシテ研究サセタ方ガ却ツテ研究ノ目的ヲ達スル所以デアラウト思ヒマスガ、斯ノ如キ詳細ナル規定ヲ設ケラレタ所以ハドコニ在リマスルカ、之ヲ承リタイト思フノデアリマス、ソレカラ次ニハ私ノ承知スル所ニ依リマスルト、衆議院ニ於テハ本案ニ賛成シテ、其附帯希望条件トシテ、政府カラ補助スル所ノ金額ハ発明ノ奨励或ハ懸賞等ニ用フルヤウニシタイト云フ希望ヲ以テ決議シタヤウニ承知シテ居ルノデアリマス、衆議院デ斯ノ如キ希望ガアル以上ハ勿論吾於々ニテモ亦其決議ヲ尊重イタスノハ勿論ノコトデアリマスガ、ドウモ其希望ト云フコトハ研究所ヲ設置シタル其大体ノ目的ト相容レナイモノデハアルマイカト思フノデアリマス、民間ニ篤志家ガアツテ或発明ヲシタト云フ如キコトハ、是ハ他ノ方法ニ依ツテ奨励セラルルノハ極メテ必要デアラウト思ヒマス、ケレドモ特ニ斯ノ如キ法人ヲ設ケテ学理ノ研究ヲスルト云フコトハ随分経費モ要スルコトデアリ、又設備モ要スルコトデ、多クノ学者ガ其脳漿ヲ搾ツテサウシテ共同シテヤラナケレバナラヌト云フ所カラ起ツタモノデアリマシテ、篤志ノ人ガアツテ或発明ヲスルト云フ時分ニ、ソレハ結構ナコトダト言ツテ補助スルト云フヤウナ容易ナモノトハ大ニ其選ヲ異ニシテ居ルノデアラウト思フノデアリマス、数年掛ツテ如何ナル成績ガ挙ルカ分ラヌト云フヤウナ、大キナ根本的ノ研究ヲスル必要ヲ認メテ、斯ノ如キ法人ヲ設置シ、政府ガ補助シヤウト云フコトデアルノデアラウト思ヒマス、ソレ故ニ彼ノ希望ノ如キハ誠ニ尊重シタイノデハアルガ、殆ド是ハ考慮スルマデモナク、又政府ガ之ニ対シテ同意ヲ表セラレ、又考ヘテ見ラレルト云フ必要モナイコトデハナイカト思フノデアリマス、ソレニ付テ一応御考ヲ承リタイト思フノデアリマス
  〔国務大臣河野広中君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(河野広中君) 唯今沢柳君カラ御尋ネデゴザイマス、此第二条ノ二項ハ、是ハ補助ヲ受ケマシタル金額上ヨリ多ク参リマスル事務上ノ事柄デゴザイマシテ、学術上等ニハ干渉等ハ一切致シマセヌソレ故第二項ハ補助ト云フ即チ金額ノ点カラ出テ参リマシタノデアリマス、左様御承知ヲ願ヒマス、ソレカラ衆議院ノ希望ニ対シマシテハ
 - 第47巻 p.67 -ページ画像 
委員会ニ於テ能ク意見ガ出マシタノデ、是ハ同意ヲ致シ難キコトヲ申述ベテ置キマシタ、尚ホ此理化学研究所内ニ於テノ発明等ニ於キマシテハ、又別ニ表彰スルノ途ハ講ジマスル積リデゴザイマス、一般ニ対シテハ能ハザルコトヲ以テ不同意ヲ表シテ置キマシタ、左様御承知ヲ願ヒマス
○藤田四郎君 此理化学研究所ノ案ニ付キマシテ公益法人ト云フモノガアリマス、一昨年来政府ニ於キマシテモ実業家ト段々御交渉セラレテ居ルヤウニ承ツテ居リマスガ、既ニ此公益法人ト云フモノハ出来マシタノデゴザイマスカ、ドウデゴザイマスカ、又此公益法人ト云フモノニ於キマシテハ、ドレダケノ金ヲ投ジテ此研究ヲスルヤウニナツテ居ル今日ノ状態デアリマスカ、又是ガ農商務ノ機関ト相成リマシタル上ハ、自カラ其理化学ノ応用ヲ目的トスルコトヲ急ガレルコトト思ヒマスルデゴザイマスルガ、其研究スベキ仕事ニ付キマシテハ、大凡ソコレコレノモノト云フコトガアリマスルノデゴザイマセウカ、唯単純ニ理化学ノ応用ト云フコトニ付テ調査ヲスルト云フコトデアレバ、純然タル文部ノ監督内ニ於テ仕事ヲナサルベキモノト思フノデアリマスガ、差向キ斯ウ斯ウ云フ方面ニ於テ最モ急グト云フヤウナコトカラ起ツタノダラウト思ヒマスガ、果シテ左様デアレバ、ドウ云ウ仕事ガ目下急切ニ理化学ノ研究、学術ノ攻究ヲ為シテ応用センナラヌト云フコトニナツテ居リマスカ、ソレ等ノコトヲ一応承ツテ置キマス
  〔国務大臣河野広中君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(河野広中君) 唯今藤田君カラ御尋ネデゴザイマス此公益法人ハ未ダ組織ニ至リマセヌノデゴザイマス、予定ハ三月ヲ以チマシテ発起人ガ会シテ、ソレカラ此資金ヲ募集スルコトニ致シマシテ、段々運ビ参リマシテ、九月ヲ期シテ其金額ヲ募集スルト云フコトノ手順ニナリマス、此時始メテ、十月頃ニナリマセウカ、九月ニ於テ目的ト致シマスル金額ガ満チマシタ所デ、始メテ此法人ノ組織ガ成リマスソレカラ始メテ政府トシテ補助スベキ金額ヲ補助スル、斯ウ云フ手順ニナリマス、尚ホ此研究所ノ資本ハト申シマスレバ、凡ソ八百万円ヲ以テ目的ト致シマシテ、其中民間ノ有志ノ醵出スベキモノヲ五百万円トシ、政府ヨリ二百万円ノ補助ヲ受ケル、サウシテ一百万円ハドウカ此成立ノ暁ニ御恩賜デモ拝領イタシタク期待シテ居リマスル次第デゴザイマス、之ヲ合シマスルト八百万円ト云フコトニナリマス、其内二百万円ヲ此九月ニ募集ヲ致シマシテ、ソコデ此法人ノ成立トナリ、ソレカラ始メテ此建築等ニ掛リマシテ、先ヅ第一ノ分ハ来年度即チ六月ヲ以テ完成ヲ致シテ事業ニ取掛カル、ソレカラ第二、第三ト進ンデ参ルト云フ順序ニナツテ参リマス、計画ハ斯様ナ次第ニナツテ居リマスソレデ御尋ネノ所ハ宜シウゴザイマセウカ
○藤田四郎君 仕事ノコトハドウデス、研究スル科目ノコトハ……
○国務大臣(河野広中君) 研究事項トシテ先ヅ定メマシタ分ガ、精密機械、楽器及音楽、写真、放射性物質及稀土類、医薬及化学製品、石炭及木材乾溜生成物、ソレカラ飲食品、人造肥料、油類、顔料及塗料、繊維素、染織、窯業、電気化学、燃料、採鉱冶金、金属及合金、原動機関、機械、航海及航空、兵器及爆薬、土木建築、是等ノ箇条デ
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ゴザイマス、是等ヲ研究イタサウト云フ目的デゴザイマス
○藤田四郎君 今一ツ御尋ネ致シタイ、唯今御説明ニ依リマスレバ八百万円ヲ以テ此研究ヲ為スト云フコトデゴザイマスガ、或ル時期マデニ相当ノ金ヲ寄セルト云フ御考デゴザイマスルガ、八百万円ノ内ノ二百万円ト云フ補助デアリマスレバ、玆ニ仮ニ民間ノ五百万円ト云フモノガ二百万円デアツタラ二百万円ノ方モ其割合ガ減リマスモノデゴザイマセウカ、如何ナモノデゴザイマセウカ、次ニ今承リマスト御調査ナサルト云フ科目ガ余程多イヤウデゴザイマスガ、中々ソレケダノモノヲ急速ニ調査ヲスルニ此僅少ナル金ヲ以テハ為スベカラザルモノト思ヒマスガ、唯今ノヤウニ沢山ノ科目ヲ研究セラルルト云フコトデアレバ、或ル程度マデ金ヲ文部省ノ大学トカ工業学校トカ云フヤウナモノニ委託シテ試験イタシタ方ガ却ツテ便利デ早ク行クコトデハナイカト思ヒマスガ、要スルニ斯ウ云フコトハ其人ヲ待ツテ始メテ効能ヲ為スモノデゴザイマセウガ、今日政府ニ於キマシテハ是等ノ人ニ対シテノ御見込ガアルノデゴザイマセウカ、如何デゴザイマス
  〔国務大臣河野広中君演壇ニ登ル〕
○国務大臣(河野広中君) 唯今申上ゲマシタハ目的ノ総テノ研究科目ヲズツト掲ゲマシタノデアリマシテ、之ヲ一時ニ著手スルト云フノ意味デハ無論ゴザイマセヌ、又資力モ甚ダ十分ナラザルコトデゴザイマスカラ、段々此中ノ必要ノ分ヲ目的トシテ研究ヲ致スト云フ順序ニ相成リマス、ソレカラ是デハ寧ロ大学ノ方ニ資金ヲ投ジテヤツタラドウト云フコトデゴザイマスルガ、是ハ謂ユル実業家其他ノ諸氏ガ集リマシテ、ドウカ工業上ニ直接ニ利益ヲ与ヘルト云フ、即チ応用ヲ大趣意ト致シテ為スノデアルト云フノ趣意カラ出テ参リマシタノデアリマシテ、自ラ殊ニ此研究所トシテ公益法人ヲ組織スルノ趣意デアル、尚ホ大学ニ付キマシテハ、大学トシテ能フ限リノ、是ヨリ段々当局ニ於テ相当ナル資力ヲ、財源ヲ持チマシテ画策セラレルコトト期待イタシテ居リマス、左様ナ趣意デアリマスカラ御答イタシマス
○議長(公爵徳川家達君) 他ニ御質問モナイト認メマスカラ、本案ノ特別委員ノ氏名ヲ御報告ニ及ビマス
  〔河井書記官朗読〕
 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案特別委員
   伯爵 正親町実正君      松岡康毅君
   子爵 吉田清風君    男爵 山川健次郎君
   男爵 伊東義五郎君      原保太郎君
      岡田良平君       伊藤由太郎君
      鈴木周三郎君



〔参考〕官報 号外 大正五年二月二九日 第三十七回帝国議会貴族院議事速記録第十八号(DK470006k-0017)
第47巻 p.68-71 ページ画像

官報  号外 大正五年二月二九日
    ○第三十七回帝国議会貴族院議事速記録第十八号
大正五年二月二十八日(月曜日)午前十時三分開議
  議事日程 第十八号 大正五年二月二十八日
    午前十時開議
○中略
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 第三 理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
   (政府提出、衆議院送付)  第一読会ノ続(委員長報告)
○中略
○議長(公爵徳川家達君) 第三、理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一読会ノ続、委員長報告
  理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案
 右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  大正五年二月二十七日
             右特別委員長
                    伯爵 正親町実正
    貴族院議長 公爵 徳川家達殿
  〔伯爵正親町実正君演壇ニ登ル〕
○伯爵正親町実正君 唯今議題ニ上ボリマシタ所ノ理化学ヲ研究スル公益法人ノ国庫補助ニ関スル法律案ニ付キマシテ特別委員会ノ経過並ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、本案提出ノ理由ハ本年一月頃民間ノ有志者ニ於キマシテ産業ノ発達ニ資スル為メ理化学ヲ研究シ、其成績ノ応用ヲ図ルヲ目的トスル所ノ公益法人ヲ設立イタスト云フコトノ計画ガゴザイマシタ、併ナガラ斯ノ如キ大事業ニ付キマシテハ到底民間ノ醵金バカリデハ不足ヲ生ズル為ニ、並ニ政府ニ於カレマシテ之ヲ国家事業トシテ相当ノ補助ヲ仰ギタイト云フ所ノ学者・実業家ガ聯合ヲ以テ建議ニナリマシタ、此ニ於テ政府ニ於カレマシテモ慎重審議ノ末、是ハ必要ナル機関ト認メラレマシテ、本法施行ノ日ヨリ十年ヲ限リマシテ、総額二百万円ヲ限度トシテ、国庫カラ補助ヲ与ヘルト云フ案デゴザイマス、而シテ研究ノ経費ハ、民間有志ヨリ五百万円ノ寄附ヲ募集スルモノト、是ニ政府ノ二百万円ヲ加ヘ、尚ホ其他帝室ヨリモ百万円ホドノ下賜ガアルト云フコトデゴザイマシテ、合計八百万円ノ資金ヲ以テ此研究所ガ成立ツ訳ダサウデアリマス、抑々斯ノ如キ機関ハ業ニ已ニ設立ヲ必要トスルノデアリマスガ、併ナガラ機運ノ未ダ熟セザル為ニ今日マデ設立ヲ見ナカツタノデアリマス、然ルニ今日欧洲大乱ノ刺戟ヲ受ケマシテ、為ニ最早一日モ猶予スベカラズト云フコトニナツテ、遂ニ今日此設立ノ機会ヲ得タ訳デゴザイマス、右様ノ訳デアリマスニ依ツテ、委員会ニ於キマシテモ、誠ニ是ハ目下必要ノ機関デアルト云フ所デ、大ニ賛意ヲ表シタ訳デアリマス、併シナガラ事柄ハ誠ニ結構ノ事デアルケレドモ、此案ノ内容ニ付テハ不備ノ所モアルカラシテ、此点ニ付テハ色々質問モアリ、又意見モ出マシタノデゴザイマス其重ナル事ハ二箇条デゴザイマシテ、其一ハ第一ニ此所管ハ文部大臣デアル、是ハ過日此本議場ニ於キマシテモ出マシタモノデアリマスカラ詳シク申上ゲル必要モゴザイマセヌガ、詰リ此学術研究所ヲ拵ヘルト云フコトデアルカラ、是ハ官制ノ命ズル所ニ依ツテ文部大臣ノ所管デナクチヤナルマイ、又少ナクモ文部・農商務両大臣ノ所管ニ属スルト云フコトガ適当デアル、之ヲ農商務大臣ノミノ所管ニスルト云フコトハ是ハ官制違反ヂヤナカラウカト云フノガ一ノ論デゴザイマス、今一ツハ此産業ノ発達ニ資スル為ニ理化学ヲ研究スルト云フコトデアル
 - 第47巻 p.70 -ページ画像 
カラ、是ハ広義ニモ亦狭義ニモ解釈ガ出来ルノデ、吾々ハ成ルベク是ハ広義ニ解釈シテ、サウシテ成ルベク学理ノ根本ニ渉ツテ広ク研究スルコトニ致シタイト思フ、然ルニ過日来農商務大臣ガ衆議院ニ於テ説明セラルル所ヲ見ルト、ドウモ狭義ノ解釈ヲ執ツテ居ラレルヤウデアル、成ルベク此産業ノ発達ニ資シテ……産業ニ関係シテ唯之ノ応用ヲ計ルト云フコトニ重キヲ置カレマシテ、学理ノ根本ニ渉ツテ研究スルト云フコトニハ甚ダ意味ガ乏シイヤウニ考ヘラレマスカラ、ソレデハ甚ダ斯ノ如キ機関ヲ設ケラレルモ如何デアルニ依ツテ、成ルベク、是ハ学理ノ根本ニ渉ツテ、広ク学理ヲ研究スルコトニ致シタイト存ジマス、此点ニ付テハ当局ノ考ハ如何デアルカト云フ質問デアリマシタ、之ニ対シテ農商務大臣、又政府委員ヨリ懇篤ナ答弁ガゴザイマシタケレドモ、委員ニ於キマシテハ、マダドウモソレヲ以テ満足ヲ表スル訳ニ行カヌト云フ所カラ、種々協議ヲ尽サレマシタノデアリマス、其結果遂ニ農商務大臣ヨリ、此所管ノコトニ付テハ尚ホ考慮ヲ致シテ見ヤウ、ソレカラ研究ノ範囲ニ於テハ成ホド御説モ御尤デアルカラ、成ルベク是ハ広義ノ解釈ヲ執ツテ、根本ノ学理ヲ能ク研究スルト云フコトニ考ヘヤウト云フ言明ガゴザイマシテ、玆ニ於テ、委員モ農商務大臣ノ言明ヲ信用イタシテ、此案ハ然ラバ此儘ニ可決スルコトニ致サウト云フコトデ、遂ニ全会一致ヲ以テ原案ヲ可決イタシマシタ次第デアリマス、大略ヲ……
○議長(公爵徳川家達君) 本案ノ第二読会ヲ開クベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者 多数
○議長(公爵徳川家達君) 過半数ト認メマス
○伯爵正親町実正君 直チニ第二読会ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス
○男爵郷誠之助君 賛成
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ第二読会ヲ開クベシトスル動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(徳川家達君) 異議ハナイト認メマス

○議長(公爵徳川家達君) 直チニ第二読会ヲ開キマス、全部ヲ問題ニ供シマス、全部委員長ノ報告通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス
○伯爵正親町実正君 直チニ第三読会ヲ開クコトヲ希望イタシマス
○子爵西大路吉光君 賛成
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ第三読会ヲ開イテ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス

○議長(公爵徳川家達君) 直チニ第三読会ヲ開キマス、第二読会ノ
 - 第47巻 p.71 -ページ画像 
決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス○下略