デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正11年7月21日（1922年）

是日、日本工業倶楽部ニ於テ、当会社相談役会開カル。栄一出席シ、当会社ノ経営方針ニ関シ意見ヲ述ブ。爾後栄一、当会社ノ重役会及ビ株主総会等ニ屡々出席ス。

集会日時通知表　　大正十一年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第54巻 p.265 -ページ画像 
七月廿一日　金　午前九半時　中央開墾会社ノ件（工業クラブ）

中央開墾株式会社書類　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　相談役会ノ梗概
大正十一年七月二十一日午前十時二十分東京丸ノ内、工業倶楽《（部脱）》ニ於テ開催
　　　出席者
　　　　　　渋沢子爵
　　　　　　益田男爵
　　　　　　武井男爵
　　　　　　窪田社長
　　　　　　木下専務取締役
　安川男爵ヨリノ電報「二十一日ノ相談役会ニハ御出席ノ方ニ万事宜敷願フ」ヲ披露ノ上開会
一、窪田社長説明ノ要領
　時勢ノ推移ニ伴ヒ、金融其他四囲ノ事情ニモ多大ノ変化アルヲ以テ此際本社ノ現在並ニ将来ニ関シ、御了解ヲ得、御指導ヲ得度ク、御足労ヲ願ヒタリ
　現在外界ノ事情ハ曩日ノ予想ニ遠カルモノ尠ナカラズ、事業計画ノ当時ハ成功地ヲ時価ノ半額以下ニ評価シ、充分ノ安全ヲ期シタル積リナリシガ、今日ノ地価ハヨリ以上ニ低落シ、小作争議紛々タルノ結果ハ、成功地ヲ小作ニ附スルコトモ、又ハ買人ヲ求ムルコトモ覚束ナキノ感アリ
　会社ハ出来ル丈ケ開墾事業ヲ実行スヘキ性質ヲ有シ、我々当事者モ亦出来ル丈ケ之ヲ実行スルノ考ヲ有ス、故ニ皆様御期待ノ全部ニハ或ハ添ハズトモ、今日迄ニ陸軍用地・官有地・御料地又ハ民有地等ニシテ調査ヲ為シタル個所七七
　　其内出願シテ既ニ権利ヲ得タルモノ九個所、二、〇二六町、工事費五、八二〇、〇〇〇円ニシテ
　　出願中ニ属スルモノ六個所、二、六三三町、工事費七、八八四、〇〇〇円ナリ
　　其他権利者ト契約シテ朝鮮干潟地実測中ノモノ一個所、二、四二七町ナリ
　即チ、北ハ北海道ヨリ南ハ鹿児島県下、西ハ朝鮮ニ亘リテ手ヲ染メタリ
　現在工事中ノモノハ丸亀塩田ノ築造（面積七十八町、総工費一、四〇〇、〇〇〇円）、浜名湖ノ一部南庄内村地先ノ埋立（面積七〇町工費二一〇、〇〇〇円）及北海道日高国「ニセウ」ノ開田約三〇町歩ノ三個所ナリ
　此外工事着手ノ準備（官庁手続、関係民有地水路敷地ノ買収、地元交渉等）整ヒタルモノハ、福岡県下行橋附近一九七町歩ノ埋立ナリ印旛沼事業地ハ一、一八〇町ニシテ、本年一月官庁ノ許可ヲ受ケ、地域内民有地四八五町ノ内二六町ノ他ハ既ニ買収ヲ了シタリ
　現在会社ノ資金状態ハ、払込金一、八七五、〇〇〇円、本年六月迄
 - 第54巻 p.266 -ページ画像 
ニ支出シタル事業費及事業準備勘定九〇四、九一四円、差引残金九七〇、〇八六円ニシテ、之ニ預金利息・雑収入・本社経費等ヲ加除シタル現在高九八六、五四〇円ハ全部銀行預金ナリ
今後ノ予想ハ節約的ニ工事ヲ施行スルモ、明年四月迄ニ此預金ヲ支出シ終ル勘定ナリ、而シテ其際迄ニ出来上ル工事ハ
一、丸亀塩田築造工事ノ約二分ノ一
　丸亀塩田ハ会社ニ於テ製塩事業ヲ経営シテ、会社経費ヲ産ミ出ス基礎トナスノ方針ニテ、権利ヲ譲受ケタルモノニシテ、完成ノ上ハ製塩ヲ自営スルモ利益アリ、又、塩田ヲ売却スルモ可能ナリ
二、印旛沼ノ一部六〇町乃至九〇町ノ開墾、明年ハ稲作植付ノ予定
三、浜名湖ノ一部南庄内村七〇町歩ノ開墾
　工事ノ大部分ヲ終リ、明年ハ稲作植付ノ予定
四、北海道「ニセウ」ノ灌漑開田三〇町歩
　本地区ハ日高国砂流郡川ノ上流ニ在リ、前ニ移住シタル農家資ニ窮シ居リシヲ以テ、道長官等ト謀リ、会社ハ二〇四町ノ土地ヲ買入レ現住者ノ労力ヲ以テ開田セントスルモノナリ
　北海道ノ土地ハ之ヲ売却スル迄ニハ年月ヲ要スヘキモ、差当リ耕作者ナキニ苦シムコトハナカルヘシ、南庄内及印旛沼ノ開墾地ハ売却小作入付ケ共ニ困難ナルヘシト察セラル
　農家ノ経済ヲ按スルニ、今日ノ場合地主トシテノ計算ハ極メテ薄利ナリ、耕作者モ亦現在ノ如キ小面積ノ耕作ニテハ一家ヲ支フル能ハサルヘシ、故ニ反歩ノ収量ハ多少減少スヘキモ、耕作方法ヲ幾分粗放トシ、一家ノ耕作反別ヲ増大スルノ外ナカルヘシ、去リ乍ラ稲作ノ大農組織ハ失敗ノ歴史多ク、農家ノ慣行ヲ急変スルコトモ容易ナラス
　玆ニ於テ一面ニハ会社ノ自衛上、又一面ニハ国家政策上ノ試材トシテ、来春工ヲ竣ル開墾地ニハ、「トラクター」其他ノ器具機械ヲ用ヒテ粗放的自作ヲ実行スルノ考ナリ
　益田男爵ハ曾テ低利資金ヲ利用セヨトノ御談アリタルニ依リ、原氏在世中同氏ノ甚深ナル同情援助ノ下ニ、勧業・興業等ノ銀行ニ交渉シタルモ、同行規則ノ許サヽル所如何トモスルコト能ハス、原氏逝キタル後高橋氏ニ墾談《（懇）》シタルモ、同氏ハ頑トシテ之ニ応セス、結局低利資金ハ借入レ不能ナリ
　仮リニ数歩ヲ譲リテ借入可能ナリトスルモ、七歩何厘ノ利息ヲ支払ヒテハ、今日ノ開墾事業ハ到底引合フモノニアラザルヲ憾ム
　武井男爵ハ、会社ハ土地ヲ所有スルコトヲ為サズシテ、官有地ノ予約開墾者又ハ開墾適地ノ所有者等ト契約ノ上、開墾ヲ行ナヒ、且契約者ノ為メニ低利資金借入ノ周施《（旋）》ヲナシテ、工事費ヲ会社ニ納入スルヲ容易ニスル手段ヲ取ルヘシ、之レ会社カ資金ニ困ラス、最大ノ開墾ヲ為シ得ル良法ナリトノ御説ナリ
　我々当事者モ亦資金ヲ固定シテ土地ヲ所有スルコトノ得策ニ非サルハ熟知スル所ナレドモ、如何セン開墾工事ノ実施上、一部民有地ノ買入レヲ必要トスル場合アリ
　又公有水面埋立ノ結果ハ成功地ノ無代交付ヲ受クルヲ以テ、此等ノ
 - 第54巻 p.267 -ページ画像 
土地ハ止ムヲ得ス売却ヲ終ル迄ハ、会社ハ之ヲ所有セサルヘカラス予約開墾権利者又ハ開墾適地ノ所有者ト契約シテ開墾ヲ行フコトハ工事費回収ノ確実ヲ期スル点ニ於テ、安心スヘキ相手ヲ得ルコト頗ル困難ナリ、幸ニ満足ナル相手アリトスルモ、今日迄交渉ヲ受ケタルモノハ、何レモ少クトモ五・六十万円以上ノ大工事ノミニシテ、会社ノ資力ノ点ヨリ見ルモ、此方針ニ発展スルハ容易ニアラス
　会社現在株主ノ総数八、三九七人ニシテ、本年一月以降ノ移動ハ譲渡八人、譲受十二人、移動株数一、一三六株ナリ
　会社ノ現状叙上ノ如シ、今後ノ所置トシテハ
　第一案　現在ノ方針ヲ以テ進ミ、明春資金欠乏時期到達スルトキハ払込ヲ為ス歟
　第二案　同上借入金ヲ為ス歟
　第三案　武井男爵ノ御高見ノ如ク、又ハ其他ノ良策ヲ案出シテ、此際方針ヲ更改シ、同時ニ我々当事者ハ交代スル歟
　ノ外ナカラント思フ、御高教ヲ請フ
二、渋沢子爵御口述ノ大要
　子爵ハ両男爵ト種々御打合アリタル後、左ノ意味ヲ述ヘラレタリ
　国策上開墾ノ必要ナルコトハ今モ尚曩日ト変リハナイガ、財界並ニ四囲ノ事情ハ、会社発起当時ト今日トハ実ニ多大ノ相違アリ、我々依頼者ハ発起経営ノ任ニ膺リタル当事者ノ苦労ヲ深察シ、現在ノ方針ニ賛成スルモノナリ、第三案ノ所謂新方針ナルモノハ、実行上不可能ノ嫌アリ、又当事者ヲ代フルコトハ、会社ノ緊張味ヲ亡ボスノ惧アリ、同意ヲ表シ難シ、世態今日ノ如ク変化シタル以上、又今後ノ変化モ期シ難キ此際ニ於テ執ルヘキ途ハ、兎モ角現在ノ方針ニテ進行シ、明年ニ至リ資金尽クル項《（頃）》、財界ノ状況ニ応シテ払込可能ナルトキハ払込ヲ為スヘク、若シ不可能ナルトキハ借入金ヲ為シ兎モ角仕掛リノ丸亀塩田ヲ完成スヘク、爾後ノ方針ハ又其時ニ臨ミテ之ヲ定ムルノ外ナカルヘシ、若シ夫レ枝葉ノ問題ニ至リテハ、各相談役ノ御希望ニ多少ノ相違ナキヲ保セサルモ、大体ノ結論ハ叙上ノ如シ、何卒右ノ右針ニ依リテ御気ノ毒乍ラ御奮励アランコトヲ希フ
三、御対話中益田男爵ノ述ヘラレタル所左ノ如シ
　当事者ノ苦心ハ之ヲ深察ス、其苦心ノ依テ来ル源ハ、経営ノ方法若ハ方針ヲ謬リタルカ為メニアラズ、予期セサリシ時勢ノ変化ニ逢ヒタレバナリ、此場合ニ於ケル会社現在ノ成績ハ我之ヲ憾マス、百年来ノ懸案タリシ印旛沼カ、我会社ノ手ニ依リテ開墾セラルヽコトハ頗ル痛快ニシテ我亦以テ瞑スルヲ得、機械応用ノ自作ハ可ナリ、只止ムヲ得サル場合ノ一方法トシテ之ヲ実行セヨ、先覚自負ノ念ヲ雑ヘテ之ヲ行フコト勿レ、会社ハ土地ヲ所有セサルヲ原則トシ、止ムヲ得サル場合ノ外ハ適当ノ方法ニヨリ売却スル方針ヲ執レ

集会日時通知表　　大正一二年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
五月廿九日　火　午前十時　中央開墾会社重役会（丸ビル、三階、同社）
　　○中略。
 - 第54巻 p.268 -ページ画像 
九月十五日　月　午前九時　中央開墾会社重役会（工業クラブ）
　　○中略。
十一月八日　土　午前十時　中央開墾会社重役会（工業クラブ）

竜門雑誌　　第四三五号・第六九頁大正一三年一二月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　十一月中
八日　中央開墾会社重役会（日本工業倶楽部）○中略に出席

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月三日　水　午前十時　中央開墾会社株主懇談会（帝国鉄道協会）

集会日時通知表　　大正一四年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月四日　金　午前十一時　中央開墾株式会社重役会（工業クラブ）但雨天ノ際ハオ止メ
　　○中略。
十二月廿二日　火　午前十時　中央開墾会社株主総会（日本工業クラブ）

渋沢栄一　日記　　大正一五年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月二十日　晴　寒
○上略　小倉常吉氏来リ、中央開墾会社社長就任ノ事ヲ告ケ、窪田氏経営ノ不都合ヲ詳述ス○下略

集会日時通知表　　大正一五年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月廿二日　水　午前十時　中央開墾会社総会（日本工業クラブ）

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。