デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正15年7月23日（1926年）

是日、帝国鉄道協会ニ於テ、当会発会式挙行セラル。栄一、名誉会長ニ推サレ、在任歿年ニ及ブ。

朝鮮鉄道促進期成会書類　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　（栄一墨書）
　　本件ニ付テハ、当初渡辺定一郎外数名事務所ニ来訪シテ名誉会長タルノ承諾ヲ請ハレ、会長ニハ井上準之助ヲ撰挙ノ積申出タルモ其後井上氏ハ会長ヲ拒却シタルニヨリ、小松謙次郎氏ニ依頼シテ其同意ヲ得タルニ付、名誉会長ハ是非応諾アリタキ旨、小松氏外数名来請ニ付承諾シタリ　十五年七月
　　○右ハ次掲書類在中ノ封筒ノ表ニ墨書セルモノ。
　　　　朝鮮鉄道促進期成会趣意○略ス
　　　　朝鮮鉄道促進期成会則○略ス
　　　　朝鮮鉄道促進期成会役員予想
　　　　　　　　名誉会長　　子爵　渋沢栄一
　　　　　　　　会長　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　常務委員
　　　　　　　　　東京側　　　　　弓削幸太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　谷口守雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　東条正平
　　　　　　　　　　　　　　　　　賀田直治
　　　　　　　　　朝鮮側　　　　　渡辺定一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　大村百蔵
　　　　　　　　　　　　　　　朝鮮鉄道協会常務理事
　　　　　　　　幹事　　　　　　　長尾栄太郎
　　　　　　　　顧問及相談役　学識名望アル人、貴衆両議員中ノ代表格
　　　　　　　　評議員　　　　重ナル会員

集会日時通知表　　大正一五年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月八日　木　午前九時　京城商業会議所会頭　渡辺定一郎氏来約（飛鳥山邸）
　　○中略。
七月十五日　木　午前八時半　渡辺定一郎・大村友之丞両氏来約（アスカ山邸）
　　○渡辺定一郎ハ当会発起人総代トシテ、栄一ニ名誉会長就任ヲ懇請スルタメ来邸セルモノナラン。
　　○栄一日記ヲ欠ク。

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朝鮮鉄道促進期成会要覧　同会編　　第一―七頁刊
　　　　朝鮮鉄道促進期成会趣意
鉄道ノ普及ガ、国運ノ進歩ト民生ノ福祉タル文化並産業ノ発展ニ至大ナル関係ヲ有スルハ、敢テ絮説ヲ要セザルトコロナリ
然ルニ朝鮮ニ於ケル鉄道普及ノ状態ヲ観ルニ、明治三十三年京仁線ノ開通以来二十五年ノ今日ニ至ルモ、其ノ延長ハ官私設ヲ合セ僅ニ一千七百七十余哩ニ過ギズ、朝鮮ノ現状ニ比シ極メテ不十分タルヲ認メザル能ハズ、近時朝鮮ノ文化並産業ノ開発ハ内外ノ注目スル所トナリ、鉄道ノ普及ハ之ガ先駆トシテ必ズヤ一定ノ方針ト鉄道網ノ計画ニ基ヅキ、一致協力、以テ之ガ普及促進ヲ期図セザルベカラズ、是レ即チ朝鮮鉄道促進期成会ヲ設クル所以ナリ
　　大正十五年七月
　　　　朝鮮鉄道促進期成会会則
第一条　本会ハ朝鮮ニ於ケル官私設鉄道網ノ普及促進ヲ図ルヲ以テ目的トス
第二条　本会ハ朝鮮鉄道促進期成会ト称ス
第三条　本会ハ本部ヲ東京市ニ、其ノ支部ヲ京城府ニ置ク
第四条　本会ノ会員タラムトスル者ハ会長ノ承認ヲ要ス
第五条　本会ニ左ノ役員ヲ置ク
　　　　　会長　　　　　　　　　　　　　　　　一名
　　　　　常務委員　　　　　　　　　　　　　　十名以内
　　　　　評議員　　　　　　　　　　　　　　　若干名
　　　　　幹事　　　　　　　　　　　　　　　　一名
　　　前項ノ外名誉会長・顧問及相談役ヲ置クコトヲ得
第六条　会長・名誉会長ハ評議員会ニ於テ之ヲ推薦ス
　　顧問及相談役ハ会長之ヲ推薦ス
　　評議員ハ会員ノ中ヨリ会長之ヲ推薦ス
第七条　常務委員ハ評議員中ヨリ会長之ヲ推薦シ、幹事ハ会長之ヲ命免ス
第八条　会長ハ会務ヲ総理シ本会ヲ代表ス
第九条　常務委員ハ会務ヲ処理ス
　　幹事ハ会長及常務委員ノ指揮ヲ承ケ事務及会計ヲ掌ル
第十条　総会及評議員会ハ主要ナル会務ニ付必要ノ都度会長之ヲ招集ス
第十一条　本会ノ経費ハ一般ノ醵出金ヲ以テ支弁ス
　　　　　　　　　名誉会長　　　子爵　渋沢栄一
　　　　　　　　　会長　　　　　　　　小松謙次郎
　　　　　　　　　常務委員（東京本部）鈴木万次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　谷口守雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　賀田直治
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東条正平
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐藤潤象
　　　　　　　　　　　　　（京城支部）渡辺定一郎
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大村百蔵
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　朝鮮鉄道協会
　　　　　　　　　幹事　　　　　　　　長尾栄太郎
　　　　　　　　　顧問　　　　　　　　　（イロハ順）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上準之助
　　　　　　　　　　　　　　　　侯爵　朴泳孝
　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　大倉喜八郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　野田卯太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　公爵　山県伊三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山之内一次
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馬越恭平
　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　阪谷芳郎
　　　　　　　　　　　　　　　　子爵　清浦奎吾
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水野錬太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　元田肇
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　仙石貢
　　　　　　　　　相談役　　　　　　　　（イロハ順）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井出繁三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　石原健三
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　石塚英蔵
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馬場鍈一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　西久保弘道
　　　　　　　　　　　　　　　　伯爵　堀田正恒
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　富田幸次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　趙鎮泰
　　　　　　　　　　　　　　　　子爵　大河内正敏
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大園栄三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大口喜六
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大津淳一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大川平三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺勝三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　笠井愛次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　伯爵　樺山資英
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高木益太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　添田寿一
　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　辻太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　国沢新兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山本条太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前田米蔵
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　牧山耕蔵
　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　福原俊丸
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　有賀光豊
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅田徳則
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐藤潤象
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　湯浅凡平
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　関直彦
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鈴木万次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鈴木島吉

朝鮮鉄道促進期成会要覧　同会編　　第九―一八頁刊
　　　　経過報告
鉄道ノ普及ガ国運ノ進歩ト文化ノ発達ニ至大ノ関係ヲ有スルコトハ言フマデモナイガ、殊ニ朝鮮デハ鉄道既設地方ノ産業ノ開発ト、人文ノ発展顕著ニシテ、洵ニ克ク日鮮融合ノ楔ヲ為シテ居ル、又在鮮四十二万ノ内地人ノ大部分ハ、此ノ鉄道ヲ中心トシテ分布シテ居ル、要スルニ朝鮮ハ鉄道ノ普及ニ伴ヒ、自然ニ開発セラルヽト謂フモ過言デナイ今春帝国鉄道協会ハ朝鮮ノ鉄道普及促進ニ関シ調査ノ結果ヲ公表セラレタルモ、蓋シ此ノ意ニ外ナラナイ、近時此ノ問題ハ世人ノ注目スルトコロトナリ、国策トシテ議セラルヽニ至リ、第五十一帝国議会ニ貴衆ノ両院カラ朝鮮ノ鉄道普及促進ニ関スル建議案トシテ提出サレ、貴族院ハ前例ニ乏シキ全会一致ヲ以テ通過スルニ至ツタコトニ徴シテモ真ニ緊急ヲ要スル施設デアルガ、何分朝鮮ハ内地ト諸般ノ事情ヲ異ニシテ居ルノデ、政府当局ノミニ信頼スルニ止マラス、寧ロ民間ニ於テモ、相共ニ之カ実現ニ助力スルコトハ当然デ、且時宜ヲ得タモノデアルト云フ見地カラ、玆ニ同志相計リ、七月十二日帝国ホテルニ於テ、内地及朝鮮在住ノ名士百二十五名ノ参集ヲ請ヒ、懇談ノ結果朝鮮鉄道促進期成会ヲ設クルノ賛成ヲ得、同月二十三日帝国鉄道協会ニ於テ発会式ヲ挙行致シタル次第デアル。
　　　　　大正十五年七月二十三日帝国鉄道協会ニ於テ開会
　　　　　午後六時開会
○谷口守雄君　是カラ開会致シマス○中略　帝国鉄道協会ガ朝鮮ノ鉄道促進ニ就テ調査ヲ始メマシタ動機ハ、大正十二年五月、大連ニ於テ総会ヲ開キマシタ際、会見中ノ多数ガ朝鮮ノ内地ヲ巡回致シマシテ、如何ニ其ノ産業ガ不振デアルカ、如何ニ其ノ交通機関ガ不備デアルカヲ観マシテ、是ハ何トカ我ガ鉄道協会トシテ研究シナケレバナラヌト云フ動議ガ出マシテ、之ニ基イテ一昨年ノ十二月カラ此ノ調査ヲ始メマシテ、今年ノ二月之ヲ終ツテ、世間ニ公表シタ次第デゴザイマス。調査致シマシタ結果ガ、御案内ノ通リ昨年ノ貴衆両院ノ建議案トナツタノデゴザイマス、然ルニ丁度調査ノ半バ頃朝鮮ニ於キマシテハ、渡辺定一郎君其他ノ有志各位ガ御集リニナリマシテ、独リ鉄道ノミナラズ、産米増殖ノ計画、港湾修築水利ノ発展、関税ノ撤廃等ニ就キ、朝鮮総督府トノ間ニ交渉並運動ヲ継続セラレマシテ其中ノ二ツノモノハ実施セラレマシタガ、残ル鉄道ノ問題ハ今日迄実施サレテ居ラナイト云フノデ、昨年ノ夏頃デシタカ、委員ノ方ガ東京ニ見エマシテ、或人ノ紹介ニ依テ此ノ鉄道協会ニ参ラレマシテ「オ前ノ方デ朝鮮ノ鉄道網ノ研究ヲスルト云フコトヲ承ツタガ、実ニ盲亀ノ浮木ノ感ガアル、是非此ノ事ハ十分ナ調査ヲシテ権威アル
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モノヲ作ツテ貰ヒタイ」ト云フ話デアリマシタ、実ハ鉄道協会トシテモ、自己ノ調査ニ就テ大ニ力強イ何カ援ケヲ得タヤウナ感ヲ致シタノデゴザイマス。ソレ以来前申上ゲマシタ通リ、昨年ノ暮ニ調査ヲ了リ、公表ノ上要路ニ建議シマシテ、ソレヨリ貴衆両院ニ提出シマシタ、貴族院ノ方ハ建議案ハ全会一致ヲ以テ通過シ、衆議院ハ各派聯合デ党派ヲ超越シテ全会賛成ノ姿ヲ以テ提出セラレマシタケレドモ、御承知ノ通リ議場混乱ノ為ニ遂ニ通過ヲ見ルコトヲ得ナカツタ次第デゴザイマス、其ノ後引続キ朝鮮ノ方々∃リ、来鮮ノ上全道ニ向ツテ鉄道網ニ就テノ説明ヲシテ貰ヒタイト云フ要求ガアリマシタノデ、鉄道協会ハ理事会ヲ開イテ協議ノ上、之ニ応ズルコトヽナリ、会長国沢新兵衛君ニ私ト嘱託ノ長尾栄太郎君、客員福原俊丸君佐藤潤象君・湯浅凡平君等ト朝鮮ニ参リマシテ、各地デ講演ヲ致シタノデゴザイマス、斯様ナ関係ガアリマスカラ、吾々モ朝鮮ト云フ問題ニハ非常ニ興味ヲ有チマシテ、同時ニ調査ヲ重ネルニ従テ、此ノ朝鮮ヲ今日ノ現状ニ棄テヽ置クコトハ、国策ノ上カラ顧ミテ遺憾ニ堪ヘナイト云フ同情ノ念カラ、彼是此度促進期成会ヲ組織セラルルニ方リマシテ、国沢新兵衛君モ個人トシテ発起人ノ中ニ加ハリ、又私共モ驥尾ニ附シマシテ、今日渡辺君ト国沢君ト発起人総代トシテ署名致シマシテ、皆様ニ御案内申上ゲタ次第デゴザイマス、然ルニ前申上ゲマス通リ、国沢君ハ已ムヲ得ヌ急用ガ出来マシテ、今日ハ欠席スルカラ、ドウカ御詫ヲ申上ゲテ呉レト云フコトデゴザイマスカラ、悪シカラズ御諒承ヲ願ヒマス。尚ホ本会ノ趣旨其他ニ就テハ、渡辺君カラ詳細申上ゲルコトニ致シマスカラ、ドウゾ暫ク御聴取ヲ願ヒマス。
○渡辺定一郎君　私ハ発起人総代トシテ国沢氏ニ代ツテ一言申上ゲタウ存ジマス。此ノ朝鮮鉄道促進期成会ヲ設ケマスル趣意ハ、今日御集リヲ願フ案内状ノ中ニ申上ゲテアリマスルガ、更ニ私共ヨリ此ノ以上ニ閣下並諸賢ハ御了解ニナツテ居ラレルノデ、冗々敷此ノ趣旨ヲ申上ゲルコトハ省キタイト思ヒマス、唯一言申上ゲタイノハ、朝鮮ノ住居者トシテノ吾々ハ、数年来此ノ問題ニ就キマシテ第一ノ問題トシテ扱ヒ来ツタ所ガ、時恰モ大震災ニ遭遇シ、又財界ノ不況其ノ他ノ関係カラ、此処数年奮闘シタニモ拘ラズ思フ程ノ効果ヲ挙ゲ得ナカツタノデアリマス、然ルニ先般来帝国鉄道協会ノ調査、建議等只今谷口君ノ御話ノ如キ次第モアリ、更ニ昨年四月朝鮮ノ鉄道統一ノ為メ設ケラレタ鉄道局ニ局長トシテ新タニ大村卓一君ナル人ガ御出デニナツテ、此ノ方ガ赴任以来約一年有半経済調査ノ結果、朝鮮ノ各道ニ鉄道網ト共ニ有利ニ開発スベキ十分ノ資源ガアツテ、鉄道経営モ経済的ナルコトニナツタ、而シテ此間モ帝国ホテルニ御招待ノ席デ申上ゲマシタガ、非常ナ御熱心ヲ以テ、今ヤ朝鮮ニ於ケル鉄道ノ普及促進ニ対シテ立案中デゴザイマス、尚ホ朝鮮総督・政務総監ノ両閣下モ、同一ノ御考ノ下ニ熱心ニ鉄道問題ニ御尽瘁ニナツテ居ラレルノデゴザイマス、而シテ吾々民間ノ者モ、期セスシテ殆ド全鮮ガ此ノ期成ニ向ツテ奮起シタ為ニ、個々別々ノ小サイ期成会ガ沢山出来タ、加フルニ母国ノ今夕御集リノ諸君及此処ニ御集ニナ
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ツテ居ラレナイ凡テノ諸名士等ニ、此処十数日間私ガ御目ニ掛ツテ御意向ヲ伺ヒマシテ、何ニシテモ此ノ朝鮮ノ鉄道ハ促進セザルベカラザル所以ノ御訓ヘヲ受ケマシタ、是等ノ次第カラ此ノ会ヲ発起致シマシテ、詰リ組織・機能兼備ツタモノト致シ、会長ヲ御推薦ヲ願ヒ、其ノ指揮ノ下ニ此ノ目的ヲ達成スルト云フコトハ、朝鮮ニ居ル吾々トシテハ実ニ欣喜雀躍ト申シマセウカ、所謂手ノ舞ヒ足ノ踏ム所ヲ知ラズト言フ歓喜ニ満タサレル次第デゴザイマス。顧ミマスレバ朝鮮二千万民衆ノ考ヘ、併セテ此ノ問題ハ啻ニ朝鮮ニ居ル吾々ノ希望、歓喜スルバカリデナク、帝国国運ノ一大問題トシテ、私ハ将来皆様ノ力ニ依テ此ノ目的ヲ達シタイト思ヒマス。之ヲ以テ私ハ発起人総代トシテノ御挨拶ニ代ヘマス。
　○中略
○賀田直治吾　尚ホ今一ツ動議ヲ提出シタイト思ヒマス、会長並名誉会長ハ評議員会ニ於テ推薦スルト云フコトデゴザイマスルガ、此ノ席ヲ評議員会トシテ推薦ノ方法ヲ執ルベキデゴザイマスルガ、事ヲ簡約スル為ニ座長ニ於テ御推薦ヲ願ヒタイト思ヒマス。
　　　　　（「賛成々々」「異議ナシ」ト呼ブ者アリ）
○座長（山之内一次君）　御異議ガナケレバ推薦ヲ致シマス、会長ニ小松謙次郎君ヲ推薦致シマス。
○賀田直治君　尚ホ一ツ動議ヲ提出シタイト思ヒマス、此ノ名誉会長ニ就キマシテデゴザイマスルガ、本会ノ設立ニ就キマシテ渋沢子爵ハ熱心ニ御賛同ヲ下サレタノデゴザイマス、併シ此頃ハイロイロノ公務ト云フコトヲ新シク受ケルコトハ、成ルベク避ケタイト云フ御趣旨デハゴザイマスルガ、吾々評議員会ハ、若シモ御承認ガ出来ルモノナラバ、渋沢子爵即チ朝鮮ノ鉄道ト京釜鉄道ノ創立、京仁鉄道ノ外人ヨリノ買取トカ、殆ンド半島ノ鉄道ニ関シテ元勲的ノ功労ガアラレマスシ、尚ホ今日モ朝鮮ヲ深ク思召シテ御出デヾゴザイマシテ、此ノ鉄道促進期成会ニ就テモ熱心ニ激励ヲ与ヘテ居ラレル所ノ渋沢子爵ガ、若モ御承認ガ得ラレルモノナラバ、名誉会長ニ成ツテ頂クコトヲ評議員会ハ決議ヲシタイト思ヒマス。
　　　　　（「賛成々々」ト呼ブ者アリ、拍手起ル）
○座長（山之内一次君）　御異議ナイモノト認メマス。○下略
　　○名誉会長就任ノ月日ニツキテハ、渋沢子爵家所蔵書類中ノ「朝鮮鉄道促進期成会趣意」ナル印刷物ニ
　　　　「大正十五年七月二十九日名誉会長ヲ引受ケラレタリ」
　　　ト書入レアルモノアリ。七月二十三日推薦決議後交渉ヲ受ケ、二十九日ニ至リ承諾セシモノカ。
　　○国沢新兵衛ハ帝国鉄道協会長、谷口守雄ハ同協会理事、賀田直治・東条正平ハ朝鮮鉄道株式会社ノ重役、渡辺定一郎ハ京城商業会議所会頭。

青淵先生職任年表（未定稿）昭和六年十二月調　竜門社編
　　　　　　　　　　　　　　竜門雑誌第五一九号別刷・第一三頁　昭和六年一二月刊
　　　　大正年代
　　年　月
　一五　七　―朝鮮鉄道促進期成会名誉会長―昭和六、一一。

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会長小松謙次郎氏の遺図を語る　　　　　　　（財団法人竜門社所蔵）
　　　　朝鮮鉄道促進期成会長小松謙次郎氏の遺図を語る
　　　　　　　　　　　　　　　朝鮮鉄道促進期成会常務委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　谷口守雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　昭和七年十月二十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　京城朝鮮鉄道協会に於て
○上略　朝鮮鉄道促進期成会の出来ました動機から申上げますと、遡ぼつて去る大正十二年に帝国鉄道協会が大連で総会を開きました際、其の帰りがけに会員有志が朝鮮内地を視察致したのであります。其節に痛切に感じましたことは、朝鮮に於ける鉄道網といふものが未だ出来て居らず、鉄道の普及の程度が甚だ貧弱であることであります。斯様なことでは切角日韓の併合された　明治大帝の大御心にも叶はぬし、吾吾国民として到底之は座視することの出来ないことである、吾々鉄道界の一人として存在して居る以上、何とか方法を立てたらどうかといふことに意見が一致して、帝国鉄道協会内に朝鮮鉄道網調査委員会といふものを作り、委員長には笠井愛次郎君を御願致しまして、其他委員を十数名、或は当局の官吏の方、民間の方、朝鮮に関係のある技術者、鉄道家を御願致しまして、約一年有余を要しまして頗る尨大な鉄道網計画が出来上つたのであります。帝国鉄道協会は之を印刷に付しまして、会員や要路各方面、貴衆両議院の重立つた方にも夫々配布致しましたが、折角調査したものを此儘では不可ぬから、何とかして実現する工夫はないか、併し鉄道協会としては其目的、其定款の上からも、協会自身が政治問題に携はることは許されないと同時に、亦資力も無いといふことで、種々考へて居ります折柄、是が物の機運とでも云ひますか、東京商業会議所の理事で当鉄道協会の理事たる小沢信之甫氏といふ人がありまして、先達て朝鮮商業会議所の会頭渡辺定一郎と云ふお方が見へて、『承はれば内地でも、鉄道網の研究をされて居るさうであるが、吾々としても特に何とかして調査したい、又宣伝の途を講じ度いが、東京商業会議所の方で何とか応援して呉れないか』と申出られたが、東京商業会議所では一の地方問題として、会議所としては彼是申すべき筋合のものでないといふて、断ることになつて居つたさうであります。それで小沢君は『幸に鉄道協会の方で、其調査を致して居るから、其方へ参られたらよからう』といふて、渡辺君と私との会見が行はれました。之が抑も此運動の始まり即ち一動機となつたのであります。
　其処で二人が会つて、君の方でもさういふ風に考へて居たのか、私の方でも恁ういふ風に考へて実現に苦心をして居つた、幸であるから実行方法の機関を造つて、朝鮮鉄道網の完成に力めやうではないかといふ打合せが出来まして、東京側並に朝鮮側委員が呼応して通過に努力したのであります。そこで大正十五年三月議会の建議案通過に次ぎ朝鮮の鉄道網事業促進を図るべく、朝鮮鉄道促進期成会が同年七月に創立せられたのであります。偖て其の会長に誰を推すかといふことになつた時に、当時帝国鉄道協会の調査員であつた佐竹三吾君が居られまして、『自分の案としては、貴族院の小松謙次郎さんが適任だから
 - 第54巻 p.447 -ページ画像 
小松さんさへ承諾されたら、御願したら誠に結構だが』といふことで御願した処が幸に御承諾を得まして、又同時に渡辺君等の提案で、朝鮮の鉄道網を実現せしむるといふには、出来るだけ有力なものにしなければならぬ。それには今一人有力な人を名誉会長に置く必要がある今渋沢子爵は事業界には一切携はつて居られないが、御縁故深き朝鮮の鉄道の問題である以上、（朝鮮の鉄道が京仁・京釜共に殆んど渋沢さんの御蔭で出来たのである、つまり朝鮮鉄道の大恩人である）名誉会長には是非共渋沢子爵を御願しやう、併し渋沢さんが果して御承諾下さるかどうか、甚だ危虞に堪えなかつたが、渡辺君等が遂に渋沢さんを口説き落して、名誉会長に戴くことになりました。
　徳の高い、責任感のお強い渋沢子爵でありましたから、常に会に御出席下さいまして、発会式の時には、特に御病体であるに拘らずお出になつて、御自分の御意見を滔々とお述べになつたのであります。
○下略

谷口守雄談話筆記　　　　　　　　　　　　　　（財団法人竜門社所蔵）
　　　　　　　　　　　昭和十二年六月三日、於丸ノ内海上ビル新館七階
　　　　　　　　　　　東京瓦斯会社応接室、高橋善十郎・松平孝筆記
朝鮮鉄道ニ就テ
　　朝鮮鉄道促進期成会ノソモソモノ始ハ大正十二年五月大連デ会議ノ後、少数ノモノガ朝鮮ヲ廻遊シタ処ガ、鉄道施設ガ余リ貧弱ナノデ、何トカ朝鮮鉄道ヲ促進サセル機関ヲ設ケナケレバナラヌト思ツテ、朝鮮鉄道網調査会ヲ私ガ主唱シテ作リ調査ヲシタ。
　　当時朝鮮総督側デハ未ダ何等ノ成案モナイトノ事デアルカラ、鉄道不完備ヲ当局ニ注意シタ。此ノ調査機関ガ東京デ起ツタ為メ、急ニ総督府トシテ調査ヲ開始シタ。双方デ調査シタモノヲ折中シテ出来タノガ、アノ有名ナ十二年計画デアツタ。之ニ就テハ陸軍トモヨク相談シ、当時ノ木原清少佐等非常ニ熱心デ、陸軍トシテハ軍事計画ニヨリドウシテモ中央山脈ヲ過ル中央線ガ必要デアルトノ事デアツタ。仁川カラ清津ヘ行キ奉天ヘ行クノハ、満洲ノ中枢ヲツクト云フ此ノ線ハ所謂中央線デアツテ、開拓ノ進展ヲ促シ軍事的ノ意味モ深イ。処ガ之ニハ莫大ナ費用ヲ要スルノデ総督府ガ出シタ案ノ海岸線ヲ取ル事ニシタ。其レデ決定シタノハ比較的費用ノ少クテ効果ノ多イ恵山線・満浦線・東海線・慶全線・図們線ノ五線ヲエランダ。之等ハ総テ鉄道協会ノ仕事デアツタ。処ガ調査ノ域ヲ出ルト政治運動ヲシナケレバ為ラント云フ事ニナル。ソレデハ調査会トシテノ仕事ニハ為ラナイカラ、別ノ会ヲ造ラウト云フ訳デ、之ニ依テ生レタノガ朝鮮鉄道促進期成会デアツタ。此ノ促進期成会ノ発起人ハ故鈴木万次郎・東条正平・渡辺定一郎・谷口守雄・賀田直治・大村百歳・山之内一次・故笠井愛次郎・国沢新兵衛・佐竹三吾等デ、各方面ヲ頼ツテ人々ヲ集メマシタ。会長ニハ佐竹氏ノ推薦デ小松サンニ依頼シタノデシタ。井上氏ニ会長ヲ依頼シタト云フ人ガアルガ、其ノ様ナ事ハ記憶ニナイ。会長ハ始カラ小松氏ト為テヰタガ、或ハ他ノ人ガ考ヘテタモノカトモ思ハレル。
 - 第54巻 p.448 -ページ画像 
　　渋沢子爵ニハ是非名誉会長ニ成テ頂キタイト云フノハ吾々ノ念願デアツタ。兎ニ角京仁鉄道ヲモールス氏カラ買収サレタノハ子爵デアルシ、其ノ他朝鮮ノ事業ニハ常ニ色々ト御指導サレタノデアルカラ、事業界カラ隠退ハサレテルガ、何トカ御願ヒシヤウト云フ事ヲ言ツタノハ渡辺サンデアツタ。渡辺サンハ先生トハ予テ面識アル仲デアツタ。処ガ先生ニ依頼ニ上ツタラ、始ハ断乎トシテ応ジラレナカツタガ、渡辺氏ガ頗ル変ツタ人デ、先生ヲ議論ヲ以テ押負カシテ了ヒ、遂ニ承諾ナサレタ訳デアル。其後貴衆両院議員ヲ全部集メテ、小松サント私ガ説明シ賛成ヲ得タ。
　　之デ大体東京ヲ中心トスル内地デハ其ノ賛成ヲ得テ力付ケラレタガ、地元ノ関心ヲ得ナケレバナラナイト云フノデ国沢氏他二・三人デ朝鮮ヲ遊説シタ。此ノ結果地元デモ大分人気ガ出テ逆ニ内地ニ向ツテ運動シカケタ位デアツタ。ソコデ先ヅ五十一議会ニ此ノ案ヲ出シタラ貴族院ハ珍ラシクモ満場一致デ可決シ、衆議院モ無事ニ通過シタ。之デ国有丈ハ既定計画通リ進メル事ガ出来タ。コノ事業半途ニシテ先生歿セラレタノハ誠ニ残念ノ極ミデアル。
　　大正十五年七月十二日ノ帝国ホテルニ於ケル会ニハ先生ハ出席サレナカツタ。七月二十三日ニモ出席サレマセンデシタ。詰リ名誉会長ヲ承認サレテカラ出席サレタ訳デアツテ、承認サレル以前ノ会合ニハ出ラレナカツタノデアル。承諾ナサレタ時ニハ小松・渡辺両氏及ビ他ニモ誰カガ面談サレタノデアル。渡辺サンガ説得サレタノハコノ時デアツテ、其ノ場デ即座ニ承諾サレタト云フ事実ハ後ニ私ガ渡辺氏カラ聞イテ知ツテ居ル。此ノ場ニハ私ハ何カ都合ガアツテ出テ居ナカツタ。現在此ノ会ハ有名無実デアツテ、国有鉄道ノ方ハ済ンデルガ、私鉄問題丈ガ残ツテル。私鉄ノ買収ハ第二段ノ事デアルノデ、残ツテル訳デアル。
○下略

期成会成立の由来　谷口守雄稿　　　　　　　　（財団法人竜門社所蔵）
大正十四年帝国鉄道協会に於て「朝鮮に於ける交通網」調査委員会を設け、熱心調査中、会ま朝鮮現地に於ても之と全然関係なく鉄道の普及促進の必要を認め、全鮮商工会議所に於て決議し、之を齎して全鮮会議所会頭兼京城商工会議所会頭渡辺定一郎氏外数名上京、東京商工会議所に就き其実現方助力を要請したる処、同所に於ては殖民地事業にして内地会議所に関係少なき問題なりとして之を拒否したる処、会ま同商工会議所常議員にして帝国鉄道協会理事たる小沢信之甫氏之を聞知し、会議所として拒否するは遺憾なるも、幸ひ帝国鉄道協会に於て目下研究中なるを以て、同会に相談せらるゝ方可なるべき旨申聞け渡辺氏は之に力を得て協会に来訪、専ら小生（谷口）之を折衝、相共に提携して実現を図るべき旨協定し、爾来同氏は終始本問題に没頭し長く滞京行動を共にし、渋沢子爵煩労に就ても主として斡旋し、又吾吾が朝鮮内地遊説に当つても行を共にし、熱心尽力し、内地に於ける政界並に政府当局への運動に就ても、多大の努力をなし功績偉大の人なり（昭和一二、六、六）
 - 第54巻 p.449 -ページ画像 
　　○右ハ前掲談話筆記ノ補足ニシテ昭和十二年六月六日当資料編纂所ニ送付セラレタルモノナリ。

朝鮮ニ於ケル鉄道普及促進ニ付建議　　第一―一二頁刊
　　　　朝鮮ニ於ケル鉄道普及促進ニ付建議
鉄道ノ普及カ国運ノ進歩ト文化ノ発達トニ重大ナル関係ヲ有スルコトハ、敢テ絮説ヲ要セサル所ナリ
顧レハ明治四十三年日韓併合ノ行ハルルヤ、畏クモ　詔書ヲ渙発セラレ、併合ノ宏謨ト民衆綏撫、文物開発ノ聖旨ヲ宣明セラル、爾来十有五年施政宜キヲ得、人文日ニ進ミ、産業ノ発達ニ見ルヘキモノアリト雖、未タ民度尚低クシテ、産業組織ノ如キハ尚幼稚ノ状ヲ脱セサルモノアリ
日韓併合ノ宏謨ヲ発揚セムトセハ、宜シク朝鮮ニ於ケル文物ノ開発ニ最必要トスル鉄道ノ普及ニ俟タサルヘカラス、然ルニ朝鮮ニ於ケル鉄道ハ明治三十三年京仁線ノ開通以来、二十有余年ノ今日ニ至ル迄、其ノ延長僅ニ官設・私設ヲ合セ一千七百七十余哩、其ノ年々ノ平均延長ハ三十八哩ニ過キス、此レヲ朝鮮ノ土地面積ニ比スルニ、其ノ百方里当リハ十二哩三分ニシテ、本州ノ五十九哩五分、北海道ノ二十八哩二分、台湾ノ三十五哩三分、又人口十万人当リニ付之ヲ観ルニ、朝鮮ノ九哩ニ対シ本州ノ十五哩七分、北海道ノ六十四哩八分、台湾ノ二十哩六分ニシテ、面積及人口当リノ比較ハ夫レ斯ノ如シ、之ヲ以テ朝鮮ニ於ケル鉄道普及ノ遅々タルヲ知ルニ足ルヘシ
蓋シ朝鮮ニハ農産・鉱産・林産・水産等ノ巨大ナル富源ノ存スルアリ其ノ開拓及対支・対露貿易、並満蒙ニ対スル籌策ノ如キ、其ノ地理的関係ニ於テ優越ナルニ鑑ミ、国家百年ノ大計ヲ樹立シ、以テ之ニ順応スル諸般ノ施設ヲ為ササルヘカラサルモ、就中鉄道ノ普及ハ刻下喫緊ノ事項タラスンハアラサルナリ、本協会ハ理事会ノ決議ニ依リ、別紙決議並理由書及線路図○略ス　相添ヘ此段及建議候也
　　大正十五年二月　日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　帝国鉄道協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　国沢新兵衛
　　　　内閣総理大臣　　　若槻礼次郎殿
　　　　大蔵大臣　　　　　浜口雄幸殿
　　　　陸軍大臣　　　　　宇垣一成殿
　　　　外務大臣　　男爵　幣原喜重郎殿
　　　　海軍大臣　　　　　財部彪殿
　　　　鉄道大臣　　　　　仙石貢殿
　　　　参謀総長　　　　　河合操殿
　　　　朝鮮総督　　子爵　斎藤実殿
（別紙）
　　　　朝鮮鉄道ニ関スル調査委員会決議
一　朝鮮ニ於ケル枢要ナル鉄道ハ国有ヲ根本方針トスルコト
二　政府ハ速ニ朝鮮鉄道敷設ニ関スル法律ヲ制定スルコト
三　政府ハ既定計画（既ニ予算ノ確定セルモノ）ノ外、前項朝鮮鉄道
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敷設法ニ依リ二千百余哩ノ鉄道ヲ今後十八年以内ニ敷設スルコト
四　政府ハ第一項ノ方針ニ基キ、漸次枢要ナル私設鉄道ヲ買収スルコト
五　政府ハ現行朝鮮私設鉄道補助法ノ八分補給ヲ改正シ、一割ト為シ未成線ノ速成ヲ図ルコト
　　　　　　附帯決議
　政府ハ第三項ノ十八年敷設計画ノ進捗スルニ伴ヒ、輸送量ノ増加ニ稽ヘ、漸次京釜・京仁・京義各線ヲ複線トスルコト
　　　　決議理由
一　朝鮮に於ける鉄道は統治・国防・殖産興業等の重要国策と至大の関係を有するを以て、単に鉄道の利害のみに依り覈ふべからず、即ち幹枝相倚り鉄道網を形成し、相連絡して交通機関の体制を整へ、拠て以て統治・国防の安固と産業の開発を図らざるべからず
　以上の目的を達成する為、朝鮮に於ける枢要なる鉄道は之を国有とするを根本方針とすべし
二　朝鮮に於ける枢要なる鉄道の完成を期する為、政府は将来敷設を必要とする予定線を選定し、順次之を建設するの責を負はざるべからず、蓋し朝鮮には緊急を要する幾多の施設あるべきも、鉄道の如き比較的長期に渉り多額の経費を要し、且一定計画の下に逐次着手を要すべき継続事業に在りては、当局者の意向に依り屡変更することなからしむる為、朝鮮鉄道敷設法を制定すべし
三　朝鮮開発上最必要とする鉄道は官設として既定計画線二百三十八哩、同予定計画線二千百七十一哩を以て最小計画となすも、政府は同時に私設鉄道未成線約四百七十哩（私設鉄道千二百七十六哩の内八百七哩は官設予定計画線に編入せり）の建設促進を助長せざるべからず、朝鮮に於ける鉄道延長の状態は創始以来二十余年間に、官私設を合して僅かに千七百七十余哩に止まれり、然も京釜・京義の両線は日露の戦役に際し軍事上の急設に属し、平時に在りては年々の延長僅かに三十哩乃至五十哩に過ぎず、然れども此の鉄道の開通に依り、朝鮮の産業開発に貢献したる効決して僅少なりとせず
　之を産業の大体に就て観るに、日韓併合の当時と今日とを比較するに、其の生産の大宗たる米は五割、約五百万石を増加し、然も之を年々内地に四百万石内外を移出し、又大小豆・雑穀等の産額も凡そ六割の増加を見、其の他鉱産・林産の如きは其の価額実に二十余割の増加を示めせり、斯の如きは時運の進展関つて力あるべしと雖、又以て鉄道の産業開発に及ぼしたるの効洵に大なりと謂ふべし
　更に今後開発を要すべき朝鮮の一大富源として目せらるゝ鴨緑江・豆満江流域の原生林に於ける約九億尺締の木材、全道に亘る二千有余鉱区の金・銀・銅・鉄其の他重要鉱物、及其の埋蔵量数十億頓と称せらるゝ北鮮地方の石炭、並各道に散在する優良の無煙炭等、巨額なる国富の開拓、並最近朝鮮総督府の計画に属する産米一千万石増殖等の如き、其の搬出移動に必要なる輸送機関にして完備するに非ざれば、其の効果を準ぐること蓋し難かるべし、是等は一に鉄道
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の普及発達に俟たざるべからざるものあり
　然りと雖、刻下国費多端の折柄なるを以て、朝鮮産業の開発将た国防上より考察し、是等に最緊要とする最小限度の官設予定線二千百余哩を既定計画線と合せ、今後十八年間に一ケ年三千万円程度の建設費に依り之が完成を期するを以て時宜を得たるものなりとす
四　朝鮮に於ける枢要なる鉄道は国有を本義とするが故に、是等の線路と併行又は接近せる私設鉄道を併合経営するは、交通系統の整備資金の節約上必要にして、予定線の敷設に伴ひ、之に該当する枢要なる私設鉄道を漸次政府に於て買収するを至当なりとす
五　朝鮮に於ける各地方産業の振興は、一に地方的特色を有する私設鉄道の普及発達に俟たざるべからず
　されば総督府に於ては、夙に是が普及を奨励し、補助に力むるも、其の延長遅々として今尚予期の如くならざるは、其の原因固より一様ならざるべきも、例へば内地に於ける私設鉄道の如きは、其の地方の有力者又は事業関係者に依り計画せらるゝを以て、投資に対する収益以外、沿線の発展に依り間接的利益を受くるも、朝鮮の私設鉄道に在りては之と事情を異にし、間接的利益を受くるを得ず、求むる処は単に投資に対する利潤に在り、然るに営業の成績は数年に及ぶも、開業の当初と大差なきを以て、補助期間満了の暁は配当の激減或は欠損等に至るが如き前途に対し危惧の念を有するのみならず、投資者の大部分は朝鮮の事情に暗き内地在住者にして、企業地方に関係薄き等の理由に依り、株主に対し未払株金の払込を承諾せしめ難き事情あるを以て、已むなく利廻年九分乃至一割以上の社債又は借入金を為し、纔に延長線建設費に充てつゝあるの実況なるに一面会社側としては八分の補助を受け得るのみなるに、是以上高歩の融通資金に依り延長線を建設するが如きは、自ら経営難を招致するの虞なしとせず、将来は別として今日に於ては、一哩の延長と雖手控へするを以て得策とするが如き状態に在り、然れども之を現状に放任せむか、宮私既成線の培養となるべき私設未成線の完成は何れの日にか期すべき、洵に寒心に勝へざるものあり、されば未成線建設資金の調達並高歩なる社債借入金を償却する為、現行の補助率を増加し、少くとも年一割の補助を得るにあらざれば、株主をして容易に株金の払込を応諾せしめ、以て充分なる資金の吸収を為さしむること能はざるべし
　要之、刻下の急務は如何にして建設資金流入の途を容易ならしめ、以て未成線の完成を促進するかに在り、宜しく現行補助率八分を一割に増加し、私設鉄道の普及を計らば、単に其の鉄道の経営を順調ならしむるのみならず、併せて国有鉄道収益の増加を来たすべく、従て補助率増加の如きは洵に軽易の犠牲と謂ふべし、是実に朝鮮の統治・開発並鉄道政策より考察し、現行の補助率増加を妥当なりと認むる所以なり

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