デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.2.21

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

6章 対外事業
2節 支那・満洲
6款 日華実業協会
■綱文

第55巻 p.320-352(DK550063k) ページ画像

大正14年7月8日(1925年)

是ヨリ先、上海邦人経営紡績工場ノ罷業起リ、之ヲ動機トシテ中華民国各地ニ於ケル排外運動熾烈トナル。当協会ニ於テハ、幹事会ヲ開キテ、之ガ対策ヲ議シ、是日、政府当局ニ意見書ヲ提出シ、二十二日、再度意見書ヲ提出ス。栄一会長トシテ之ニ与ル。


■資料

日華実業協会往復(一)(DK550063k-0001)
第55巻 p.320 ページ画像

日華実業協会往復(一)           (渋沢子爵家所蔵)
(写)
  大正十四年二月廿日
    上海紡績罷業ニ関シ上海日本商業会議所来電
今次当地方邦人紡績工場ニ勃発セル罷業風潮ハ、日ヲ追フテ益悪化シ今ヤ九社三十ノ工場ハ殆ト全部操業不可能ノ危機ニ瀕シ、生命財産ノ危害甚シク、事態頗ル重大ナリ
今次ノ騒擾ハ今日迄ノ経過ニ徴シ、普通労働争議ト趣ヲ異ニシ、風潮ヲ煽動スル不逞分子ノ背後ニハ之ヲ幇助操縦スル共産党員ノ暗中飛躍アルコト事実ナル如ク、若シ現状ノ儘之ヲ放置スルニ於テハ、唯ニ邦人生命財産ノ被害計リ知ル可カラサルモノアルト共ニ、我対支工業発展ノ根底ニ甚大ノ打撃ヲ与フルノミナラス、延テハ日支善隣ノ友好ヲ破壊スル結果トモナリ、誠ニ寒心ニ堪エサル次第ナルヲ以テ、此際支那政府ニ厳重抗議ヲナシ、同政府ヲシテ徹底的ニ煽動者並ニ暴行者ノ所罰ヲ行ヒ、且ツ騒擾ニヨリテ蒙リタル邦人ノ一切損害ノ責ヲ負ハシムル様機宜ノ措置ヲ採ラレタシ、殊ニ御配慮ヲ乞フ旨、外務大臣宛打電シタ、御尽力願フ
                           以上


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0002)
第55巻 p.320 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓
今回の上海邦人紡績会社罷業に関し、本日上海日本人商業会議所会頭宛左の通り架電致候
 「今回の騒動に対し中華学芸社に於て卒先尽力する様交渉願はれ間敷哉
  寄附金勧誘の材料にも役立つへし」
                          以上
  大正十四年二月二十一日
                     日華実業協会


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0003)
第55巻 p.320-322 ページ画像

日華実業協会往復(一)         (渋沢子爵家所蔵)
 - 第55巻 p.321 -ページ画像 
(写)  御参考
上商外第一、三二七号「親展」
           上海日本人商業会議所 田辺輝雄
  大正十四年二月廿三日
    日華実業協会殿
    一、上海邦人紡績工場ニ於ケル罷業問題ニ関スル件
拝啓 去ル九日当地内外棉会社紡績工場ニ起レル罷業騒動ハ、其後形勢日ヲ逐フテ悪化拡大シ、今ヤ六社二十二工場ハ為メニ全然操業ヲ停止シ、残余ノ三社又其禍中ニ汲入セラレントシ、人心浮動、事態頗ル重大ト相成候事、既ニ御承知ノ如クニ御座候
 今次ノ罷業風潮ハ従来行ハレタル普通ノ労働争議ト全然其性質ヲ異ニシ、被傭職工カ要求条件ヲ提ケ自発的ニ資本家ニ対抗セントスル労働運動ニアラスシテ、第三者ノ脅迫強要ニヨリ、身辺ノ危害ヲ恐レ、余儀ナク不本意ナル罷業ニ出テタルモノニ有之、彼等脅迫不逞団体ノ背後ニハ、之ヲ操縦シ煽動スル露国共産党員及ヒ之ト密接ノ関係ヲ有スル国民党幹部策士ノ暗中飛躍アルコト今ヤ蔽フヘカラサル事実ニシテ、罷業煽動費ハ当地ニ於ケル共産党ノ赤化宣伝機関トシテ設ケラレタル大夏大学(学生約二百名)ヲ経テ北京「カラハン」氏ヨリ供給セラレ居ル由報道セラレ、一般ニ事実トシテ確信被致居候、即チ今次ノ罷業風潮ハ、共産党カ周到ニ考案セル赤化政策ノ第一歩トシテ開始シタル運動ニ係リ、其ノ真ノ目的タルヤ、単ニ日本紡績業者ニ対スル反対運動ニ止ラス、更ニ一歩資本階級ニ対スル反抗ナルヲ以テ、従テ其運動範囲モ逐次支那各地ニ蔓延スル可能性ヲ有スルモノニ有之候、只彼等カ第一着手トシテ邦人紡績工場ニ及ヘルハ、維レ当地租界内ニ於ケル警察行政カ英人之ヲ掌握シ、租界外ハ支那官憲ノ取締リアル関係上、其ノ中間勢力タル邦人工場ニ対シテ之ヲ実行スルノ容易且ツ効果アルノ見地ヨリ此挙ニ出テタルニ過キス、若シ此種危険有害ノ運動ヲ現状ノ儘放置スルニ於テハ、其ノ禍ノ及フ所測リ知ルヘカラス、斯クテハ啻ニ邦人対支工業発展ノ基礎ヲ覆サルルニ至ルノミナラス、支那国家ノ前途亦寒心ニ不堪モノ有之、此際速ニ之ヲ鎮圧シ、更ニ将来ノ禍根ヲ絶滅スル方法ヲ講スルノ必要有之候様思考致ヲ以テ、当所ハ役員会ノ決議ヲ以テ、本月十九日、不取敢別紙ノ通リ外務大臣並ニ北京公使宛電請スルト共ニ、内地六大商業会議所・日華実業協会・日本工業倶楽部・大日本紡績聯合会ニ同様事情報告ノ上、運動方ヲ出電依頼致候ニ就テハ、事斉シク在支邦人ノ将来ニ関係スル重大問題ナルヲ以テ、貴方ニ於カセラレテモ何卒適宜有効ナル方法ニ依リ一致御行動相願度、此段右御報告旁々得貴意候 敬具
(別紙)
    一、外務大臣並ニ北京公使宛電文写(二月十九日発電)
今次当地邦人紡績工場ニ勃発セル罷業風潮ハ、日ヲ逐フテ益々悪化シ今ヤ九社三十ノ工場ハ殆ト全部操業不能ノ危機ニ瀕シ、生命財産ノ危害甚シク、事態頗ル重大ナリ、今次ノ争擾ハ今日迄ノ経過ニ徴シ普通ノ労働争議ト趣ヲ異ニシ、風潮ヲ煽動スル不逞分子ノ背後ニハ、之ヲ幇助操縦スル共産党員ノ暗中飛躍アルコト事実ナルカ如ク、若シ現情
 - 第55巻 p.322 -ページ画像 
ノ儘之ヲ放置スルニ於テハ、啻ニ邦人生命財産ノ被害測リ知ルヘカラサルモノアルト共ニ、我対支工業発展ノ根柢ニ甚大ノ打撃ヲ与フルノミナラス、延テハ日支親善ノ友交ヲ破壊スル結果トモナリ、洵ニ寒心ニ不堪次第ナルヲ以テ、此際支那政府ニ厳重抗議ヲナシ、同政府ヲシテ徹底的ニ煽動者並ニ暴行者ノ所罰ヲ行ヒ、且ツ騒擾ニ依リテ蒙リタル邦人ノ一切損害ノ責ヲ負ハシムル様機宜ノ措置ヲ執ラレ度、特ニ御配慮ヲ乞フ


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0004)
第55巻 p.322 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
「会長・副会長・幹事各位宛」
拝啓
這般ノ上海邦人紡績罷業問題ニ関シ、上海日本商業会議所ヨリ左記ノ通リ申越ニ接シ候間不取敢入貴覧候 敬具
  大正十四年三月二十三日        日華実業協会
 左記
    一、在上海邦人紡績工場罷業問題ニ関スル件
拝啓 先般来種々御配慮相煩ハシ申候本件ハ、其後貴方ノ有力ナル御後援ニヨリ、風潮漸ク鎮静ニ帰シ、各社工場斉シク操業常態ニ復シ申候段、同慶ノ至ニ不堪、玆ニ貴方ノ深甚ナル御同情ト絶大ノ御尽力ニ対シ満腔ノ謝意ヲ表シ申候
先般既ニ申上候通リ、這次ノ罷業風潮ハ普通一般ノ労働争議ト全然其性質ヲ異ニシ、一般資本階級ニ対抗セントスル共産党員ノ赤化運動ナルヲ以テ、将来ノ諸種ノ機会ニ乗シ反復セラルヘキ様思考被致候而已ナラス、今次罷業ニ際シテモ、我紡績業ハ単ニ営業上多大ノ損害ヲ蒙リタルニ止ラス、豊田紡績原田事務長ノ死去ニ因リ貴重ナル人命ヲ犠牲トシタルハ誠ニ遺憾ニ不堪、之カ解決ニ関スル今後ノ交渉等亦貴方ノ御後援ニヨリ遺憾ナキ様致度ニ就キ、何分ノ御配慮賜ハリ度、右礼旁々御願申上候 敬具
                 上海日本商業会議所
                    会頭 田辺輝雄


日華実業協会往復(一) 【上海ノ暴動情報】(DK550063k-0005)
第55巻 p.322-323 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
    上海ノ暴動情報
五月三十日○大正一四年来ノ上海暴動
内外棉会社工場第二次罷業ノ際ノ支那職工死亡事件発生後、五月二十三日右事件ニ干スル寄附金募集伝単撒布ノ支那学生六名カ租界警察ニ逮捕セラレシ為メ、之ニ対スル輿論喚起ノ為メ、五月三十日后三時学生ヲ主トスル数百ノ群集ハ、逮捕学生ノ援助、日貨抵制、租界道路延長反対、印刷法案反対、其他排外的意味ノ旗ヲ立テ、日英米仏ノ帝国主義反対ノ伝単ヲ撒布シ、租界目抜ノ場所ヲ撰ヒ、南京路ニ於テ路上演説ヲ為シ気勢ヲ揚ケ、工部局警察隊之ヲ阻止セントシテ数名ノ学生ヲ引致セシニ激昂シ、群集ハ外国人ヲ殺セト絶叫シ、警官ノピストルヲ奪ヒ巡査ヲ打倒ス等暴挙ニ出テ、遂ニ警官側ハ発砲スルニ到リ、群集中ヨリ即死者四名、負傷後死亡者三名、其他多数ノ負傷者ヲ出スニ
 - 第55巻 p.323 -ページ画像 
到リ、同夜工部局ハ警官ノ非常召集ヲナシ、又義勇隊ノ一部出動ヲ命シタリ、之回ノ事件ニツキ煽動者側ハ右死傷事実ヲ宣伝材料トシ、輿論喚起ニ努メ居レルモ、一般新聞ハ、一ハ起訴ヲ恐レ、又一ハ煽動的ノモノハ予メ裏面ノ渡リヲ付ケアル為メ大体過激ノ論調ヲナサヾレトモ、同盟罷工ハ漸次排外的風潮運動ニ調化《(マヽ)》シ、又裏面ノ大ナル勢力伏在スルモノト確認サレ、排外的又ハ反工部局色彩ヲ帯ヒ来リ、工部局ノ態度モ断乎タル処置ニ出テタルモノト認メラル(五月三十一日)
五月三十一日后四時、総商会ニ於テ各種団体ノ聯合大会ヲ開キ、学生聯合会ハ総商会・納税華人会・各路商会総聯合会ニ対シ、六月一日ヨリ全市罷業ノ実行ノ賛成ヲ求メ、総商会ハ賛成ヲ強制サレ、遂ニ逮捕学生ノ釈放、死傷者ニ対スル撫恤、外人ノ謝罪、印刷物法案及碼頭税法案ノ撤回、会審衙門ノ回収、各項カ円満解決スル迄継続スルコトニ決議ス
六月一日ハ雨天ニモ拘ラス、野次ハ租界警察署ニ雨集シ、又々警察隊ト衝突シ、警察署ヲ襲撃シタルニ依リ、消火水管ニ依リ退散セシメントセシモ効ナク、発砲スルニ到リ、死者四名、負者十三名、其他多数ノ逮捕者ヲ出セリ
同日正午、日英米仏伊ノ五国領事ハ非公式ニ会合シ、市参事会々長ヲ招キ事情ヲ聴取セリ
参事会々長ノ話ニハ「総商会副会長方氏ハ工部局ニ出頭シ、学生ノ強要ニ依リ止ムヲ得ス一般罷業声明ニ署名セシモ本意ニ非ス」ト申出タリ、又事態険悪ナルニ依リ、水道及発電所保護ノ為メ三・四百ノ陸戦隊上陸ヲ希望シ、又形勢悪化ノ場合ハ、二千名ノ兵上陸シ得ル様各国軍艦ニ当地碇泊方取計ハレタキ希望ヲ述ヘタリ、工部局トシテハ租界秩序維持ノ為メ、アクマテ強硬ノ態度ヲ持続スルコトニ参事会全会一致議決セリ、日本側紡績ノ内外棉第三・第四・第十四工場及同興紡績東部・西部工場ハ二日ヨリ休業ス(六月二日迄ノ分)


日華実業協会往復(一) 【日華実業協会幹事会】(DK550063k-0006)
第55巻 p.323-324 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
    日華実業協会幹事会
六月十日正午、同会ニ於テ
 木村亜細亜局長、村田巽氏(最近視察帰朝)、野平道男氏(上海ニ永ク在リテ事情ニ最通ゼル人、暴動勃発ノ前日上海出発帰朝)ノ談話聴取、喜多又蔵氏ノ意見書廻覧
具体案ナシ、暴動モ漸次静穏ニ赴ク、排英ヲ目的トシ日本ハ傍杖ノ形ナリト伝ヘラルヽモ、之ハ在支日本人側ノ宣伝ニシテ、要スルニ各国共同ノ問題ナリ、租界ハ大体ニ於テ英人ノ左右スル所ナレバ、英人ヲ目標トストノ見解モ出来ルガ、租界ハ各国共同ノ責任ニシテ英人ノミニアラズ、其租界ニ起リタルコトハ矢張リ共同ノ責任ナラザルヲ得ス原因ニ付テハ第一ニロシアノ煽動ト云フコトナルガ、之ハ上海辺ニアル赤露ノスパイガ自分達ノ効《(マヽ)》ヲ吹聴スル為メ頻ニ宣伝シ、如何ニモ夫ラシク伝ヘラルヽモ、事実其力少シ、米国ハ之ヲ非常ニ気ニカケテ居ル、次ハ不平政党タル国民党ノ煽動ナルガ、之ハ相当有力、又労働争議ブローカーノ煽動、之モ亦中々盛ナリ、又紡績事業関係デ、支那ノ
 - 第55巻 p.324 -ページ画像 
紡績ハ夜業ヲ廃シ昼間亦操業短縮シ居ルニ拘ラズ、日本人紡績会社ハ夜業ハ続行スル、配当ハ多イト云フ所カラノ嫉妬モ大ナル原因、然シ大体ニ於テ大シタコトハナシ、トハ思ハルヽモ、如斯事ヲ絶ヘズ繰返スモノト見ル方適当ナラン、就テ将来支那ニ於テ企業スル場合ハ騒擾アル場合ニ支那人モ直ニ其影響ヲ受ケル組織トシテ之ヲ予防スル事等重要ナランカ、之ニ依テ講究シ更ニ会合ノ筈


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0007)
第55巻 p.324-325 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓仕候
昨十日当方幹事会ニ於テ、白岩幹事ヨリ御報告有之候在大阪喜多幹事ヨリ御廻付ノ対支時局御意見書、別紙同封御手許ニ差出候間、御覧置願候 敬具
  大正十四年六月十一日         日華実業協会
(別紙)
  大正十四年六月八日
                     喜多又蔵
    白岩竜平殿
        (朱印)
        親展
拝啓
    ○日華実業協会幹事会
今次ノ上海暴動事件ニ関シ、来ル十日正午幹事会開催、当日木村亜細亜局長臨席、時局ニ対スル御話旁々実業家側意見モ聴取御希望ノ由、当日ハ是非出席ノ上小見申述度存候得共、事件発生以来日々其善後措置講究其他要務有之、乍遺憾此度ハ上京覚束ナク被存候儘、出席ニ代ヘ拙見左ニ略記致置候間、貴台ヨリ協会幹事諸氏及木村局長ニ御伝達ノ上、充分ナル対応策御講究ノ程願上候
    ○国権回収運動
事件突発以来、形勢重大暴動化シ、其範囲モ拡大各地ニ伝播シ、諸工場罷業接踵、租界ハ挙ケテ危険状態ニ陥リ、事態誠ニ憂慮ニ堪エス、過日対支関係紡績業者ノ代表委員トシテ外務省及各政党本部ヲ歴訪シ其措置ニ付機宜ノ対策懇請致シ置キ、上海紡績聯合会ト連絡ヲ保チ、善後策連日講究中ニ有之候
暴動モ一昨夕来漸次平穏ニ帰シツツアル旨入電ニ接シ居ルモ、夫ハ全ク円満ナル解決ノ結果ニ非スシテ、嵐ノ前ノ静寂ノ観有之候、抑モ今回暴動ノ素因タル各種ノ原因未タ解決セスシテ、其儘存在セルコトヲ思惟セハ、向後ノ対策コソ極メテ重大ニシテ、慎重ノ考慮ト之ニ対スル覚悟コソ肝要ト存居候
元来此度ノ騒擾ハ、全然労資争議ト其性質ヲ異ニシ、其根底ハ深ク反帝国主義思想ニ胚胎シ、標榜スル主義、列挙セル諸要素ハ、凡テ政治的問題ノ範疇外ニ出テス、裁判権・行政権ノ回復、即不平等条約ヲ廃棄シ、国権ヲ回復シテ完全ナル行政権ヲ欲求シツツアルモノニシテ、暴動ノ余波ヲ受ケ、上海所在邦人紡績ノ罷業ハ、労働団ノ同情的ニ敢行セルアリ、又工場自体暴徒ノ乱入ヲ防ク自衛上ノ手段ニヨリ工場閉鎖セルモノニシテ、工場経営者ハ事態ノ悪化ヲ懸念憂慮、一致協調ヲ
 - 第55巻 p.325 -ページ画像 
持続、対応策ヲ講シツツアリ、暴徒ノ素因単ニ労資争議ニ発セハ、賃銀・待遇条件等ヲ考慮、事件ノ解決収拾ハ比較的容易ナルモ、在支那人紡績ノ職工ハ、英支人経営工場ニ比シ其待遇条件等有利ニシテ、職工ハ満足シテ労働シツツアルコト贅言ヲ俟タス、李某ノ発表(日華実業協会翻訳)ニテモ明白ナル事実ニ候
乍然、官辺有力者及実業家中、暴動ヲ目シテ労資争議ノ転化セルモノト皮相ノ観察ヲ下シ、誤解セル諸士亦尠カラサルハ甚タ遺憾至極ニシテ、殊ニ在支紡績業者種々政府ニ対シ後援ヲ懇請スル場合、勝手ナ事ノミ申ス様曲解セラルルハ甚タ遺憾ニ候、殊ニ今回ノ如キ場合ニ於テ尚且其感アルハ我国将来対支経済発展上誠ニ嘆カハシク、近ク関税問題等眼前ニ横ハレル際、平素ヨリ之ガ対策ト発展トヲ講究スルコトノ緊急ナル事言ヲ俟タス、抑モ今次ノ運動ハ、当初ヨリ全然労働運動ニ非スシテ、労資協調ニ依リ解決スヘキ範囲外ニアリ、形式ハ暴動ナル非常手段ニヨリ発現サレ、一見労働争議ノ形式ヲ存スレトモ、其基調ノ原因及関係ヲ顧慮セハ、国権回収及政治的運動ヲ加味スル暴動タル事ノ真相ヲ闡明シ得ヘシト存候
    ○向後ノ対策、政府ニ対スル要望
政府側ハワシントン会議以来、支那ニ対シテハ内政不干渉主義ヲ標榜シ、余リニ支那ノ感情ニ重キヲ置クノ観ナキニ非ス、若シ万一暴動ノ飛沫ヲ受ケ、暴徒ノ襲来ニヨリ工場占領・破壊・火災等ノ不祥事勃発センカ、斯ル場合ニ処スル我政府ノ対策如何、外交的交渉ニヨリ支那政府ニ賠償要求ノ手段ヲ採ルモ、支那政府ハ財政窮乏、果シテ其好果ヲ得ヘキヤ疑問ナル旨、外務当局ハ洩シ居ラレ、寒心ニ不堪、遂ニハ対支関係者ハ安ンシテ経済的投資ヲ為スコトヲ逡巡スルニ至リ、退嬰ノ止ムナキニ至ラン、小生ノ憂フル主点ハ此処ニアリ、現ニ這般上海罷業ニ際シ、豊田紡社員中死亡者二名ニ対スル賠償請求ノ如キ、外務当局ハ震災時ノ問題ヲ顧慮、逆抗議ヲ恐レ、之ガ要求ヲ逡巡、遂ニ交渉スルニ至ラザリシト聞知ス、事実ノ真否ハ兎ニ角、小生ノ我政府ニ要望スルハ、将来支那ニ於テハ今回ノ如キ運動ガ常ニ繰返サルルコトヲ覚悟セサルベカラズ、故ニ我国将来ノ経済的発展ニ対シ密接ノ関係ヲ有スル隣邦ニ対シテハ
 居留地ノ内外ヲ問ハズ、邦人諸工業ニ対シ、又邦人生命財産ニ対シ仮令支人暴動《(那脱)》ヲ惹起シタル場合、常ニ我政府トシテハ国家ノ権威ヲ以テ一歩タリトモ仮借セス、厳然トシテ彼等ヲ染手セシメサル様ノ手段ヲ取ル
事コソ、向後度々発生スヘキ騒擾ニ対スル準備トシテ樹立シ置クコトハ、対支発展上最モ緊要ト思惟致サレ候儘、日華実業協会トシテモ充分御協議ノ上、当局ニ御談合ノ程特ニ御願申上候 匆々
  ○書翰封筒ニ栄一筆ニテ左ノ書入アリ。
    現下之支那動乱ニ対し、本書喜多氏之意見ハ、政事経済両方面ニ論及せられ、少しく錯雑致候様相見ヘ候得共、本協会としても篤と審案之上、一定之対案相立申度と存候、就而ハ常任幹事諸君ニ於て早々ニ其御調査被成下度と希望仕候也
      六月十七日             栄一

 - 第55巻 p.326 -ページ画像 

日華実業協会往復(一)(DK550063k-0008)
第55巻 p.326-327 ページ画像

日華実業協会往復(一)           (渋沢子爵家所蔵)
(別筆)
渋沢会長
      (別筆)
      案
          (別筆)
          大正十四年七月八日児玉謙次・白岩竜平二氏帯同、事務所ニ渋沢子爵ヲ訪問シタル際持参シ、子爵承認ヲ与ヘラレタルモノナリ
    外務大臣宛               会頭名
支那各地ニ頻発スル国内動乱又ハ排外運動ハ、近年著シク其数ヲ増シ其内容モ世界思潮ニ伴ヒ漸次複雑険悪ヲ加ヘタルガ、今回ノ上海ニ於ケル工部局対抗争議ニ到リ、之ヲ動機トシテ全支国民的排外気勢ノ熾烈ナル、従来曾テ見ザル現象ラ呈シ候
列国ノ之ニ関スル対策ハ、華府会議ノ精神ニ立脚シテ飽迄支那国民ノ立場ニ同情シ、其援助支持ヲ第一義トスヘキコト何人モ異論ナキ処ナルモ、我国ハ列国ニ比シ其関係特殊ニシテ、支那ノ安危ハ直接ニ我盛衰ヲ招来スヘキ位置ニアルヲ以テ、此危局ニ面シテ常ニ慎重ノ態度ヲ取リ、支那及列国ヲシテ能フ限リ軌道ヲ逸セズ、過悞ニ陥ラシメザル様、常ニ指導啓沃ノ位置ニ立ツコト必要カト奉存候、随テ問題ノ真相及帰趨ニ付テモ、御方針ノ在ル所ハ随時御内示ヲ蒙リ、国論ノ一致ニ資スルハ勿論、在外邦人ヲシテ其挙措ニ迷フコトナカラシメ、官民上下心ヲ一ニシテ此東洋稀有ノ難局ニ処スルノ必要ヲ痛感仕候ト同時ニ顧ミテ本会責務ノ愈重大ナルヲ覚ユル次第ニ御座候
玆ニ、最近上海租界問題ニ関スル卑見ヲ添ヘテ、御参考ノ一端ニ供シ奉候
    上海工部局問題ニ関スル卑見
上海工部局事件ニ対スル解決方針ハ、華府会議ノ精神ニ基ツキ、支那ノ向上援助ヲ第一義トスルコト勿論ナルガ、租界ヲシテ将来ノ秩序ト安寧トヲ維持保障スルニ足ル警察力ヲ充実ナラシムルハ、善後策ノ関鍵トナスヘク、随テ相当其威信ヲモ保タシムルノ要アルハ言フマデモナク、之ガ為メニハ支那側一時ノ感情ニ左右セラルベキニアラズ
然ルニ、北京公使団ハ図ラズモ事件解決ノ前提トシテ、市参事会長・警察庁長其他ノ罷免懲戒処分ヲナスヘク上海領事団ニ訓令ヲ発シタルガ、之レ実ニ我等ノ期待ヲ裏切ルモノナリ、仮ニ北京公使団ノ決定ハ主義トシテ公正ノ処置ナリトスルモ、支那側ハ現ニ不法手段ヲ以テ対抗シツツアルニ際シ、工部局側ノ懲戒処分ノミヲ先ヅ発表シ、之ヲ強制セントスルハ片手落タルヲ免レズ。斯ル手段ハ事件ヲ平和ニ導カントシテ、寧ロ支那側ニ気勢ヲ揚ゲシメ、却テ局面ヲ悪化スルノ憂アル拙策ナリト信ズ
本件解決ニ関シ、世間或ハ我国ハ宜シク此機会ヲ利用シテ、英国ノ積勢ヲ排削スルノ方途ニ出ヅベシト説クモノアルモ、我等ハ之ニ異リ、列国ノ協調ヲ必要トスルハ論ナキモ、現ニ支那ノ実際利害ニ最モ重要緊切ノ位置ヲ占ムル日英両国ノ協調ハ、此際絶対ニ必要ナリト認ム。当局ニ於テモ必ズ我等ト所見ヲ同ジクセラルルコトヲ信ズルニ由リ、
 - 第55巻 p.327 -ページ画像 
速カニ何等カ善後ノ方法ヲ講ゼラレンコトヲ望ム。言フマデモナク、本件ハ影響スル所甚大ニシテ、一歩ヲ悞ランカ、支那ニ於ケル我商工業者ノ利益ハ将来永ク収拾ノ途ナキ苦境ニ陥ルベシ
尚本件ハ其後本国政府ノ訓令ニ因リ公使団ニ於テ撤回セラレタル趣仄聞スルモ、已ニ発表サレタル事実ハ中外ニ宣伝セラレ、事件解決上今ヤ一層ノ困難ヲ加ヘタルハ頗ル遺憾トスル所ナリ、政府当局ニ於テハ更ニ慎重ニ善後ノ措置ヲ講ゼラレンコトヲ切望ニ堪エズ


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0009)
第55巻 p.327 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
        (別筆)
          (七月二十二日幹事会ニテ決定案文)
(別筆)

  大正十四年七月 日
                日華実業協会
                 会長 子爵 渋沢栄一
   外務大臣
    男爵 幣原喜重郎殿
謹啓
七月八日附対支時局ニ関シ卑見及開陳候処、右ハ現ニ帝国政府ニ於テ執ラレ居ル御方針ト大体ニ於テ一致シ居ル趣拝承、随テ政府ニ於テハ局面ノ打開収拾ニ関シ、支那及列国トノ間ニ引続キ最善ノ努力ヲ尽サレ居ル儀ト窃ニ感謝罷在候
別紙ノ陳述ハ、右ニ関聯セル重要項目ノ一トシテ、此際御参考ニ資スルヲ可然ト認メ候ニ付、玆ニ追申仕候、本項ニ付テモ御方針ノ在ル所御内示ヲ蒙リ候ヘハ仕合ニ奉存候 敬具
(別紙)
    支那騒擾事件ニ関シ追申
 一、上海・漢口・重慶・九江及広東等ノ地方ニ於ケル暴行損害ニ対シテハ飽迄支那側ノ責任ヲ問ハレタキ事
今回ノ暴動ニ際シ、前記各地ニ於ケル邦人ノ蒙リタル生命財産ノ損害ニ対シテハ、当然賠償ノ責ヲ支那側ニ負ハスヘキハ議論ノ余地ナキ処ニシテ、之ニ関スル支那側ノ支払能力有無ノ如キ予メ考慮スルノ要ナク、又他ノ交渉案件ト牽連サルヘキニアラス、此度ノ事件ハ事件トシテ、一先ツ厳重ノ交渉措置ヲナスコト絶対必要ナリ
要スルニ、不法ナル暴行ニ由リ蒙リタル損害ニ対シテハ、速カニ相手方ニ賠償ノ責ヲ負ハシムヘク、若シ然ラザルニ於テハ、年々暴動ノ絶間ナキ支那ノ現状ニ照シ、我在留邦人ハ業務ノ種類、資本ノ大小如何ニ拘ラス、将来安ンジテ居留営業スルコト能ハサルヘク、是実ニ事小ナルニ似テ、関スル所甚大ナリト信ス
尚事件ノ内容ニシテ、若シ日本側ニ過悞又ハ非違アル場合ハ、保留ナク発表シテ公明ナル態度ヲ中外ニ示スハ、最モ必要妥当ナル措置ナリト思考ス           以上


(油谷恭一) 書翰 白石喜太郎宛 (大正一四年)七月二二日(DK550063k-0010)
第55巻 p.327-328 ページ画像

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日華実業協会往復(一)(DK550063k-0011)
第55巻 p.328 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
  (朱印)                   (油谷)
  親展                     (印)
拝啓
去ル二十二日幹事会ニテ申合セノ建議書ハ、渋沢会長ノ御承諾ヲ得、直ニ副会長ヨリ外務次官ニ会見ノ上提出サレ候処、全然建議ノ主趣ニ同感ニテ、最善ノ処置ヲ採ルコトヲ約サレ候間御承知置被下度
此段不取敢御報告迄得貴意候 敬具
 追而右建議書モ前回建議書同様外部ニ発表セサルコトニ申合セ候間御含置願候
  大正十四年七月廿九日
                      日華実業協会
    会長 渋沢子爵閣下


日華実業協会往復(一)(DK550063k-0012)
第55巻 p.328-329 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
拝啓
時下愈御清勝ノ段奉賀候、陳者上海紡績罷工問題ニ関シ、其後矢田総領事ト支那側交渉員トノ間ニ漸次折衝ヲ重ネ居候処、最近大体別紙記載ノ条件ニテ落着スル模様ニテ、右ニテ解決ノ上ハ支那官憲側ニ於テモ、職工ノ思惑如何ニ不拘厳重取締ヲ励行スヘキ旨申述居レル趣ニ有之候、右御参考迄申進旁此段得貴意候 敬具
  大正十四年八月十二日
 - 第55巻 p.329 -ページ画像 
                      木村鋭市
   日華実業協会
     渋沢会長殿
        (朱書)
        親展
(別紙)
    八月七日矢田総領事ト許交渉員取極ノ
    上海紡績罷業解決条件
第一、(工会承認ニ関スル件)工場ハ治安維持ノ確定スルヲ待チ、支那政府発布ノ工会条例ニ依リテ組織シタル工会カ職工代表権アルコトヲ承認スルコトヲ得
第二、(罷工中ニ於ケル賃銀)罷工中ニ於ケル職工工賃ハ支給スルコトヲ得ス、但シ善良職工カ長期失業ノ為メ受ケタル困難ニ対シテハ各社ニ於テ憐惜同情ヲ表示シ相当ノ幇助ヲ講スヘシ
(註)本項ニ依リ出勤奨励ノ意味ニテ職工ニ支給スル筈ナル総額約十万弗(約四日分工賃)、支給方法ハ総商会ニ於テモ同額ノ救済金ヲ支給シ度ト称シ居ル関係モアリ、未タ決定スルニ至ラス
第三、(賃銀増加問題)各職工ノ工賃ハ技術進歩ノ程度ニ応シ増額スルコトハ勿論ニテ、其他職工生活状況ヲ斟酌シ各国紡績工場ト協議弁理スヘシ
第四、(大洋勘定問題)職工賃ハ従来モ大洋勘定ニシ、唯慣習上其端数ヲ小洋ニテ支給シタル次第ナル処、今後ハ端数ヲ次回ノ計算ニ繰入レ、以テ一率ニ大洋ニテ支給ス、賞与金ニシテ工賃支払帳ニ記入セラルルモノモ大洋ニテ支給ス
第五、(武器携帯問題)工場ノ日本人ハ平時入場ノ際ニハ当然武器ヲ携帯スルコトナシ
第六、(職工解雇問題)故ナクシテ職工ヲ解雇スルヲ得ス、且ツ職工ヲ優遇スル様注意スヘシ
第七、(復業時期)各工場ニシテ自家発電装置アルモノハ一率ニ先ツ操業ヲ開始スルコトトシ、其ノ他ノ復業ハ工部局送電開始以後タルヘシ
  (註)以上ノ外七月卅一日総領事交渉取極ニ於テ、内外棉関係事項タル(1)慰籍料《(藉)》(2)職員転勤方ハ右一般解決条件トハ別問題トシテ取扱ヒ、(1)ハ交渉員モ一万弗ニテ結構ナリト云ヒ居リ、(2)ハ会社側ノ都合ヲ考慮シ、成ル丈元木《(マヽ)》ニ対スル自発的処分ニ止ムル様話合中ナリ


日華実業協会第五回総会報告書 第二―五頁 大正一四年一二月刊(DK550063k-0013)
第55巻 p.329-330 ページ画像

日華実業協会第五回総会報告書  第二―五頁 大正一四年一二月刊
    第五回会務報告 大正十三年十二月以降
○上略
      一、上海ニ於ケル邦人紡績職工罷業並ニ支那各地ニ於ケル騒擾ノ件
 近来支那各地ニ勃発スル国内動乱又ハ排外運動ハ著シク其ノ数ヲ増シ、其ノ内容モ世界思潮ニ触レテ複雑且険悪ヲ加ヘ来レルガ、先般上
 - 第55巻 p.330 -ページ画像 
海ニ於ケル邦人紡績工場罷業事件ヨリ更ニ工部局対抗争議トナリ、之ヲ動機トシテ全支那ノ国民的排外運動トナリ、其ノ気勢ノ熾烈ナル、従来曾テ見サル現象テアリマシタ
 其ノ詳細ハ玆ニ申上クル迄モアリマセンカ、経済問題ヨリ社会問題・思想問題・政治問題トナリ、更ニ国際問題トナリ、之等各種ノ原因カ相関聯シテ益紛糾拡大致シマシタ次第テ、協会トシテハ、事件勃発来上海商業会議所ヤ関係各方面ヨリノ情報及意見ヲ聴キ、其ノ成行ヲ注視シ、之カ対策ニツキ慎重ニ審議ヲ致シテ居リマシタカ、必要ト認メマシタ事項ニ対シテハ、其ノ決定意見書ヲ政府当局ニ提出シテ参考ニ供シマシタ、其ノ趣旨ノ大要ハ
  列国ノ支那ニ対スル対策ハ曩ノ華府会議ノ精神ニ立脚シテ飽迄モ支那国民ノ援助支持ヲ第一義トスヘキ事勿論テアリマスガ、我カ国ハ其ノ特殊関係ニ鑑ミテ慎重ノ態度ヲ採リ、支那及列国ニ対シ常ニ指導啓沃ノ位置ニ立ツ事必要テアリマシテ、之ノ見地ヨリ上海共同租界事件ニ対シ、北京外交団ノ採レル措置ニ関スル意見書及ヒ更ニ年々暴動ノ絶間ナキ支那ノ現状ニ照シ、我在留邦人ハ其業務ノ種類資本ノ大小如何ニ拘ラス、安シテ居留営業スルコト能ハサルニ至ルヘク、関スル所重大ナリト考ヘ、今回ノ支那各地ニ於ケル騒擾事件ニ際シ、支那側ノ暴行ニ対シ之カ責任ニ関スル意見書ト右前後二回ニ亘リテ当局ニ提出シマシタ
 支那ノ国情ヨリ観マシテ、今後ト雖モ些細ナル事件カ意外ニ拡大スル素質ヲ充分ニ具備シテ居ル様ニ考ヘラレマスノテ、之カ対策ニツキテハ一層慎重考究ヲ要スル次第テアリマス
○下略



〔参考〕日華実業協会往復(一)(DK550063k-0014)
第55巻 p.330-331 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
                 (ゴム印)14.2.19
                 東京市丸ノ内仲通六号
                 日華実業協会
                 電話大手五一三三

拝啓
    上海紡績罷業ノ件
今回ノ上海紡績罷業ニ関シテハ、之カ真相対策及今後ノ観測等、上海商業会議所ニ電報照会致置候得共、右ノ諸点ニ干シ、其筋着電中左記不取敢摘要御報申上候
「二月十三日着電」
今回ノ内外棉会社罷業ハ、私立大学大夏大学生参加シ、反帝国主義又ハ排日的色彩ヲ帯ヒ、伝単ニハ「日本資本家ハ支那人職工ヲ牛馬奴隷ノ如ク虐待シ、ソノ血ヲ吸ヒ皮ヲ剥カシ」云々ト記シ居レル等ヨリ見テ、単テル労働争議ト認メ難ク、租界当局及支那官憲ト協力シ鎮圧ニ努メ、其真相調査中
「二月十四日着電」
紡績罷業ハ其後大日本紡績・日華紡績ニ波及シ、職工ハ会社ニ対シ要求ヲ提出スルナク、職工ノ出勤ヲ防止シ、煽動的演説ヲ為ス等外部ヨリ画策シ居リ、中心ハ社会主義青年団又中華共産党ニシテ、両団体ノ
 - 第55巻 p.331 -ページ画像 
首領ニシテ同時ニ労農政府ノ中央執行委員トシテ直接「モスコー」本部ト連絡シツツアル陳独秀(国民党共産派ノ急進)ハ、一月廿日頃迄当地ニテ画策シツツアリシ形跡歴然タリ、又前電大夏大学(労農政府ヨリ補助金ニヨリ成立ストノ噂アリ)教授李黄等裏面ニ奔走シ居レル模様ナルヲ以テ、或ハ天津・青島ニモ波及スル虞ナキニモ非ス
「二月十八日着電」
東洋及同興紡績モ操業休止ノ止ムナキニ至リ、鐘淵紡績ハ平素ヨリ職工ノ出勤ヨク操業中、内外棉ハ単ニ出勤職工ノ記名丈ナシ居リ、出勤者ハ平素ノ七割ナリ
今回ノ罷業ハ
 (イ)相当ノ資本ヲ有シ居レル如シ
 (ロ)組織的ニシテ手段巧妙ナリ
 (ハ)中心人物突止ムルコト困難ナリ
 (ニ)演説者ハ青年男女学生ニシテ、中ニハ通訳ヲ要スルモノアルヨリ見レハ、広東・香港ヨリ左傾分子入リ込メル如シ
 (ホ)独リ本邦紡績業者ノミニ限レルニ鑑ミ、政治的原因ト想像スルモノアルモ、何レモ憶測タルヲ免レス、尤モ支那側ニ対シテモ襲撃ノ風評アリ、相当金額ヲ提出シテ罷工ヲ免レ居レルモノカト疑ハル
 (ヘ)豊田紡績ノ職工ノ大部分ヲ占ムル江准同郷会長ニテ中国晩報沈卓吾氏調停ニアタル事トナレリ
上海言論界ハ国民党派ノ民国日報(主筆邵ハ過激派思想宣伝ノ為メ会審中)ヲ除ク外、何レモ中立ノ態度ヲ採リ、(ノースチヤイナ)ハ内外棉会社ノ施設ヲ賞揚シ、過激分子ノ煽動ナリト述ヘ、支那官憲ノ取締手温キヲ攻撃シ居レリ
        以上
外務省ニテハ、支那地方及ヒ中央官憲ニ対シ、徹底的取締要求方訓令シ、尚上海ノ警備ニ対シテハ万一ノ場合ヲ虞リ、旗艦対馬今明日中上海入港ノ筈ナリト
内外棉会社ニ対スル暴行ノ際ノ重傷社員ハ一時危篤ノ報アリタルモ、其後経過良好ナリト
同社ニ対スル今回ノ暴行ハ、会社ノ所在地ハ租界外ニテ、支那官憲ノ所轄ナルモ、暴行ハ租界管轄ノ道路上ニテ行ハレ、支那官憲ノ怠慢トノミ認メ難キモ、罷業団ノ首領ハ、何レモ支那街ニ窃ミ、策動シ居レリト
 参考
              錘数              錘数
  内外棉    二五四、〇八四  上海紡     九六、四二四
  日華紡    一〇七、七〇八  豊田紡     六〇、七六八
  〃(宝城)  一一〇、〇〇〇  同興紡     六九、六〇〇
  大康紡     五八、八八〇  裕豊      四五、六〇〇
 操業中ノモノ
  日華紡(華豊)  二、五〇〇  鐘淵紡(公大) 三九、九五二
  東華紡     四五、三六〇
                以上

 - 第55巻 p.332 -ページ画像 


〔参考〕日華実業協会往復(一) 【上海紡績罷業ニ関シ其筋着電摘要報告 (二)】(DK550063k-0015)
第55巻 p.332-333 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
  一、上海紡績罷業ニ関シ其筋着電摘要報告 (二)
十九日○大正一四年二月着電分摘要
 (一)支那側紡績業者ハ十八日会合、自家防衛手段ヲ協議シ、其結果進テ罷業事件ニ対シ調停ニ当ル事トナリ、十九日邦人側同業者側ト会見シタリ
 (二)今回ノ罷業ニ対シテハ英人及支那側同業者ノ煽動及援助ノ事実ナシ、只支那側同業者中ニハ罷業団体側ノ脅迫ニ会ヒ、出資ヲ余儀ナクサレタルモノアラスヤト想像サルノミ
二十日着電分摘要
 一、民国日報主筆邵ハ目下保釈中ナルカ、今回ノ罷業カ世間ノ同情ナキニ鑑ミ、之ヲ排日ニ転化セントシ、宣伝文ヲ各新聞社ニ配布セシモ、各社ハ職工ニ非サル第三者タル煽動者ノ宣伝ナリトテ、何レモ掲載セサル事ニ決セリ
 二、支那側紡績業者代表崔士傑(王正廷氏部下)来訪シ、罷業煽動団ヨリ屡々職工ノ救済資金醵出ヲ強要サレ、立場ニ困リ、真剣ニ調停ニ当ル事ヲ申出タリ
  支那側調査ニヨレハ、煽動者ハ上海大学(民国日報邵氏校長)及南方大学教授・学生ニシテ、何レモ陳独秀系ノ赤化分子ニシテ、応援隊続々広東方面ヨリ入リ込ミ居レリ(大夏大学ハ関係ナキモノノ如シ)之等ノ学生ハ何レモ学生服ヲ脱シ労働服ヲ着シ居レルニヨリ、目下ノ努力ハ学生ト真ノ職工ノ分別ニ集中シ、之カ成功ハ解決ヲ容易ナラシムモノト思ハル
二十二日着電ノ分摘要
 滬西四路聯合会代表者(内外棉所在地町内組合)ハ商総会ノ内意ヲ受ケ、二十日内外棉代表者ト会見シ、左記要求ヲ提出セリ
  一、職工ノ殴打禁止
  二、賃金一割増シ
  三、賃金ヲ二週間目毎支払トスル事
  四、解雇職工四十名ノ復職
  五、罷業中ノ賃金全額ノ支払
  六、賞与貯金ノ廃止
  七、濫リニ職工ヲ解雇セサル事
  八、逮捕職工ノ釈放
 右ニ対シ内外棉ハ、一、ハ夙ニ禁止ノ命令ヲ発シ居レリ、二、上海ニ於ケル所有工場ノ賃金ヨリモ高率ヲ給シ居レリ、三、ハ会社側異議ナシ
 四、復職出来難キ事情ヲ述ヘシニ、先方モ之ヲ除外セリ
 五、操業ヲナサヽルモ現在三割ノ支給ヲナシ居レルヲ以テ、之レ以上支給出来難シ
 六、職工ノタメニ賞与ノ半ヲ貯蓄セルモノニテ、職工側ノ要求ハ誤解ナリ
 七、当然ナリ、八、刑事問題ナレハ会社トシテ如何トモ致シ難シ
 - 第55巻 p.333 -ページ画像 
 右ノ回答ヲ諒トシテ引取リ、問題ハ第五項ノミナルカ、要スルニ本邦同業者ハ共同ノ歩調ヲ以テ解決スル事ニナリ居リ、単独ニ行動シ難キ関係ニ在リ、且ツ右代表者ハ直接罷業者側ノ代表者ニ非ス、未タ重要ノ発展トハ認メ難キモ将来ノ端緒トナルヘシ
                           以上
尚今回ノ罷業カ単ニ邦人側ニノミ行ハレタル事由トシテハ
 一、今回ノ罷業ハ端ヲ内外棉会社ニ発セル事、二、附近ニ邦人工場密接ニ居ル事、三、本邦人ノ会社ノミ活溌ニ操業シ支那側ハ無配当ニテ営業不振ニシテ「ストライキ」ノ威嚇モ我ニ対スル程有効ナラス、四、我紡績業ノ圧倒的成功ニ対スル支那側及外国側ノ「ゼラシー」ヲ利用セントシタル事
以上ノ諸点主ナル理由ト観測サレ居レリ



〔参考〕日華実業協会往復(一)(DK550063k-0016)
第55巻 p.333-334 ページ画像

日華実業協会往復(一)         (渋沢子爵家所蔵)
(写)
通二普通合第二八五号
  大正十四年二月二十四日
               外務省通商局長代理
                   斎藤良衛(印)
   日華実業協会々長
    子爵 渋沢栄一殿
    上海紡績工場罷業ニ関スル件
本件ニ関シ今般在上海横竹商務官ヨリ別紙写ノ通リ電報有之候ニ付及御送付候也
(別紙)
    東京着大正十四年二月二十三日 (東方通信社経由)
一、上海紡績工場総錘数約百九十万、罷業中日本紡績六会社五十七万錘、罷業前綿糸相場現物十六手、百六十八両、二十一日相場百七十三両、即チ罷業中錘数ハ総錘数ノ約三割ニ当リ、綿糸相場モ略三割見当釣リ上カレル次第ナリ。罷業前棉花混棉四十一両トシ、綿糸現価百六十五両半即チ一俵ニツキ二両半ノ利益、現在棉花混棉四十二両トシ、綿糸現価百六十九両即チ一俵ニ付四両ノ利益
二、罷業開始ヨリ二十一日マテニ起レル生産減少約一万三千俵、其ノ予定利益二両半トセハ損害額三万三千両、而シテ若シ今後此儘継続スルモノトセハ、一日生産減少約千八百俵、若シ時価計算ニ依レハ損害七千二百両
三、罷業中職工総数三万五千人、一日銀四十仙トシ約一万四千弗即チ約一万両、而シテ若シ休業中職工ニ対シ半額ノ工賃ヲ支払フモノトセハ損害約五千両
四、邦人従業員給料其他工場維持費損害約二千四百両
五、即チ以上三口一日損害額合計約一万四千六百両
六、他ニ上海工部局電力供給収入減少額、運転錘数四十万トン約七千両
七、即チ暴動ニヨル直接損害ヲ除キ、単ニ紡績経営上ヨリ見レハ、現
 - 第55巻 p.334 -ページ画像 
在マテニ工場側損失約三万三千両、今後一日ニ付一万四千六百両見当ノ損害ヲ見積リ得ヘシ
八、以上ハ直接損害ヲ金銭ニ見積リタルモノナルカ、此上罷業カ長引クトキハ、製品減少ノタメ二月受渡品ニ差支ヲ生シ、之迄売込ミタル商標ヲ中絶スル事トナリ、且ツ職工中離散者ヲ生スル時ハ、将来再ヒ其ノ養成ヲ要スル事トナリ、間接損害モ尠カラサルモノアリ
九、要スルニ右紡績側ノ損害ニ加ヘ、職工相手ノ支那小売商等ノ売上減少、売掛金回収不能ノ度ヲ考慮スルトキハ、蓋シ今回ノ罷業ノ及ホス影響ハ甚大ナリト云フヘシ



〔参考〕日華実業協会往復(一) 【青島邦人紡績会社職工罷業ノ件】(DK550063k-0017)
第55巻 p.334 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
    青島邦人紡績会社職工罷業ノ件
右ニ関シ青島商業会議所ヨリ左記電報ニ接シ候間、不取敢入貴覧候
   電文 四月廿四日 午后二時五分発
        〃   午后六時四〇分着
 「原因ハ過激思想ヲ持ツ外部煽動者及内部不良職工ノ煽動強迫ニヨリ決行セラレ、一般職工ハ別段不平ヲ有セス、故ニ是カ解決ニ付テハ不良分子ノ処分ヲ急務トシ、工場ハ飽マテ強硬ナル態度ノ継続ヲ要シ、支那官憲ノ取締リ緩慢ナル故、尚拡大ノ虞アリ」商業会議所
                          以上
  大正十四年四月廿五日
                   日華実業協会



〔参考〕日華実業協会往復(一)(DK550063k-0018)
第55巻 p.334-338 ページ画像

日華実業協会往復(一)         (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
拝啓
過般上海ニ於ケル邦人ノ紡績工場罷業事件ハ比較的速ニ終熄ヲ見タルニ、今回又々青島ニ於テ同様ノ罷業勃発シ、容易ニ終熄スヘキ模様無之、我対支企業発展上誠ニ遺憾ノ次第ニ有之候、別紙本協会評議員内外綿会社武居綾蔵氏ノ支那ニ於ケル日本紡績会社ノ態度ニツキテノ意見書同氏ヨリ本協会ニ寄セラレ候間、御参考迄ニ入貴覧候 敬具
  大正十四年四月廿七日
                      日華実業協会
(別紙・謄写版)
    在支日本人紡績会社ノ態度      武居綾蔵
二月十八日上海学生聯合会其他四十一団体カラ内外綿社長宛手紙カ到着シタ(上海ノ支那新聞ニハ其ノ前日公表サレテ居ル)、其ノ文意ノ大要ハ左ノ通リデアル
 「日本人ハ支那ニ於ケル原料及低廉ナル労銀ヲ利用シ、支那国内ニ盛ニ工場ヲ起シ、支那ノ紡績業者ヲ圧倒スルニ至ツタ、如此経済的侵略ハ到底黙視シ得サル所テアル
  今回内外綿始メ大康・日華・同興・豊田等多数日本人紡績ノ支那工手三万人カ罷工シ、「反対日本人打人」ヲ叫ンテ居ル、是レハ日本人カ従来支那人工手ヲ奴隷視シ殴打嘲罵ヲ擅ニシタ結果テア
 - 第55巻 p.335 -ページ画像 
ル、弊会同人等ハ同胞工人ノ虐待サルルヲ黙視スル能ハス、玆ニ後援シテ日本人ノ横暴ヲ已マシメント決議シタ、日本人ニシテ果シテ日支親善ノ誠意アラハ、須ラク是等工人ノ要求条件ヲ容認セヨ、停業シテ罷工々人等ノ生活ヲ脅スナカレ、若シ此ノ忠言ヲ容レス、尚停業ヲ継続シテ工人ノ要求条件ヲ聞カサレハ、弊会等ハ全国ノ商工業家相団結シテ、日本人ノ工場カ弊国ヨリ跡ヲ絶ツニ至ル迄罷業工人ヲ後援シテ対抗スヘシ」
以上ノ如キ意見ハ全ク紡績工業ナルモノヲ十分理解セサルモノノ謂フコトテアリ、識者ハ一笑ニ付シ去ルコト勿論テアルカ、併シ多数支那人ノ中ニハ斯ル謬見ニ惑ハサルルモノ無キヲ保セサレハ、一言弁明ヲ試ミルコトニシタ
(一)統計ニ徴スルニ、十数年以前ニ於テハ印度及日本ヨリ年々支那ニ輸入サレル綿糸布ノ額ハ夥シキモノテアル、恐ラク年額数億円ニ達シテ居ルテアラフ、然ルニ当社初メ多数ノ日本人紡績カ創設サレシ結果ハ如何、現在殆ント印度綿糸ハ其ノ跡ヲ絶チ、僅カニ日本綿糸布ノ少額カ輸入サルルニ過キナイノミナラス、上海ノ日本人紡績ハ逆ニ日本ニ輸出スル場合モ屡々アル、殊ニ最近上海カラ印度・南洋・亜弗利加・小亜細亜方面ニ輸出スル綿糸布ハ夥シキ数量ニ達シテ居ルコトヲ知ラルルヤ如何、之レヨリ生スル利益ハ日本資本家及支那工人共ニ均霑シ居ルコトハ申マテモナイ、当社カ支払フ工銀ノミニテモ年額二百五十万元ニ達スル、上海ニ於ケル日本人紡績全部ヲ合スレハ恐ラク一千万元ニ達スルテアロフ(支那全体ノ日本人紡績カ支払フ工賃ハ一千五百万元ニモ達スヘシ)若シ昔日ノ如ク綿糸布ノ大部分カ外国ヨリ輸入セラルルモノトセハ、少クトモ是等工賃ハ外国労働者ヲ利スルコトトナリ、華工人ハ毫モ之レニ均霑セサルコト明カテアル、サレハ日本人ノ紡績増加ハ其レタケ支那ノ資本ヲ増加シタト同一ノ結果トナルノテアル、今ヤ投資額一億三千万円ニ達シ彼我共ニ利スルトコロ大ナリ、日支共存共栄ノ道ニ外ナラス、真ニ日支親善ヲ具体化シタル好範例ト称スヘキテアル、此点誤解ナキ様研究セラレタシ
(二)華国ノ原料ト低廉ナル労銀ヲ利用スルトノコトナレトモ、日廠ハ支那綿ノミナラス、印度綿及米国綿ヲ多量ニ使用シテ居ル、十数年前ニハ支那綿ノ産額ハ二・三百万担ニ過キナカツタカ、日廠増加ノタメ、今ヤ千万担以上ニナツタ、支那農民ノ利益莫大テアル、彼等ノ購買力カ近年著シク増加シタノハ此ノタメテアル、若シ日廠カ支那綿ヲ使用シナカツタラ、過剰トナツテ、支那ノ棉作農業ハ甚タ不利ノ地位ニ立ツ場合カ有ルコトハ明カテアル、此ノ点モ大ナル誤解テアル
(三)労銀ニ対シテハ華工人ノ生活状態ヲ参酌シテ充分ニ支給シテ居ルカラ、工人其者ハ昨今ノ収入ニ対シテ何等増加ヲ要求シテ居ナイ、恐ラク之レハ後援者ガ善イ加減ニ想像シテ、物価騰貴トカ工銀増加トカ云フ常套語ヲ真似タニ過キナイ、日廠各社一律テハナイ、多少ノ相違ハアルカ、平均一日四十五仙乃至五十仙ニモ達スルモノカアル日本・支那ノ如キ米食国テハ、米価ナルモノカ労働賃銀ヲ決定スル
 - 第55巻 p.336 -ページ画像 
基本トナルコトハ明カテアル、今両者ヲ左ニ比較シテ見ルト

 日本内地ノ紡績  弗価     日本米価       上海米価
  各社一日平均   換算     一升         一升
     円      元     円           元
 男工 一、五四六  一、〇八  〇、四五(〇、三一)  〇、一六
 女工 一、二二五  〇、八六
 平均 一、三八五  〇、九七

 此統計ハ日本紡績聯合会月報一月号ニヨル(二月、三月モ殆ト同一ナリ)
 故ニ日本ノ工人ハ一日米三升(一〇 《(听カ)》)ニ相当スル収入テアル、華人工手ハ一日二升八合乃至三升一合ノ収得テアル、サスレハ現在ノ為替相場テ換算スレハ、華人ハ技術優秀ナル日本人ト同様好遇サレテ居ルコトカ明瞭テアル、異存ノアルヘキ筈カナイ、又二月十四日「字林西報」(ノースチヤイナ・デリー・ニユース)ノ投書欄ニ「工人カ一割増給ヲ要求スル理由ハ、英人紡績ハ平均一日工賃昼業四十仙、夜業四十二仙、支那人紡績ハ約之レニ同シ、独リ日人紡績ノ工賃ハ昼三十六仙、夜業四十仙ナリ、故ニ一割増加セハ英支紡績ト同等トナル」トアリ、此ノ中日廠工銀ニ関スル点ノ誤リナルコトハ前記ノ通リテアル、殊ニ当社ノ如キハ男女平均四十七仙五厘ニシテ、一日ノ操業時間十一時間ニ過キサレハ、怖ラク上海ニ於ケル紡績会社中最多額ノ工賃ナラン
 更ニ考フヘキハ、紡績ハ婦女又ハ十四・五・六才ノ如キ独立ノ生計ヲ営ンテ居ナイ者カ多数テアルカラシテ、上記ノ如キ収得アラハ怖ラク上海ニ於ケル他ノ工業賃銀ニ比シテ遜色ナキモノト考ヘラル、日廠ニ働ク華人工手ノ生活状態カ近来著シク改善サレ、若キ婦人ノ耳輪ヤ指輪ノ銀カ金ニ変リ、汚損セル衣服カ美シキ絹服ニ変リツツアル点ヲ一見セハ、彼等ノ収得カ如何ニ必要以上ニ達セルモノナルカヲ知ルニ足ラン、工銀ノコトニ付特ニ一言シタキコトハ、日廠ハ総テ大洋テ支払フテ居ルコトテアル、華廠ノ中ニハ小洋テ支払フモノモアル、故ニ工賃ノ多少ナト論議スルトキニハ数字丈ケノ比較テハ何ニモナラナイ、貨幣ノ善悪、操業時間ノ長短ナト比較シナケレハ正当トハ謂ヘナイ、若シ正式ニ比較スルトキハ、日廠ノ工賃ハ華廠ノ夫レニ比シ多額ナルコト疑ヲ容レナイト思フ(大洋ハ小洋ヨリ三割高ナリ)
(四)日廠ハ豊富ナル資本ト、優秀ナル技術ト、合理的経営方法トヲ以テ華人紗廠以上ノ成績ヲ挙ケテ居ルノテアル、此結果ハ支那ノ紡績工業ヲ刺戟シ、善導シ、技術ヲ伝ヘ、華人資本家ヲモ労働者ヲモ共ニ若返ラセ、有形無形ニ利益ヲ与ヘ居ルコトハ夥シキモノカアル、然ルニ華国ノ紡績ヲ経済的ニ圧倒スルト謂フカ如キ言辞ヲ弄セラルルハ迷惑千万テアル、若シ日廠其他外来ノ刺戟カナカツタナラハ、華国ノ工業ハ進歩トコロカ、寧ロ年々退歩逆行シテ居ツタテアロフ
 日廠ハ言語相異ノタメ操業上不便尠カラサレトモ、華廠ニハ此不便ナシ、加之原料買入レ、製品販売ニモ、日廠ニ比シ便利多シ、経営法サヘ宜シキヲ得ハ相当利益ヲ挙ケ得ヘシ、華人諸君ハ十分此点ニ注意セラレタシ
(五)殴打ヲ禁スルコト、工人ヲ殴打スルコトハ日廠各社トモ社則トシテ
 - 第55巻 p.337 -ページ画像 
厳禁シテヰル、外界テハ日人紗廠カ工人ヲ牛馬ノ如ク虐待シテ居ルカ如ク吹聴シテ居ルカ、是ハ全ク誤解テアル、内部ノ事情ヲ全ク知ラナイ人ノ言テアルト思フ、然ラサレハ、特ニ此ノ同情ヲ喚起シ易キ言辞ヲ用ヒテ、故意ニ日廠ヲ中傷セムトスルモノト思フ、斯ル人ハ宜シク実地ニ就テ深ク研究スヘキテアル、日人紗廠ハ、相当手続ヲ以テスレハ、華人ニ工場縦覧ヲ許ス点ニ於テ吝ナルモノテナイ、且又工人ヲ酷使シテ工場ノ成績カ向上シ得ラルルモノテナイ位ノコトハ、日本人経営者ハ充分ニ知悉シテ居ル、酷使トコロカ、寧ロ優遇シテ幸福ナル生活ヲナシ得ル様、常ニ苦心シテ居ルノテアル、其ノ一・二ノ例ヲ示シテ見ルト
  甲、食堂設備 日人紗廠ハ全部食堂設備カアル、之レハ内外紗廠カ開設ノ時創設シタモノテ、熱湯ト煮茶トカ十分ニ準備サレテ、如何ナル寒中ニテモ工人ハ愉快ニ食事カ出来ル訳テアル、当時一般ニ他ノ華人紗廠ニハ此ノ設備カナカツタ、現在テモ無イ会社カアル、立チナカラ工場テ食事ヲシテ居ル
  乙、学校ヲ建テテ工人子弟ノ一部ヲ教育シテ居ル所モアル、内外紗廠ノ如キハ五人ノ華人教師ヲ傭聘シ、民国ノ小学規定ニヨリ三百人ノ生徒ヲ無料ニテ教育シツツアル
  丙、工人社宅 多数ノ工人社宅ヲ設ケ、極メテ安キ家賃ニテ遠来ノ工人ニ貸シテ居ル、内外紗廠丈ケニテモ平屋建、二階建、合計二千戸ノ社宅ヲ設ケ、家賃ハ十二元ノモノヲ四元、六元ノモノヲ二元ノ安家賃テ貸シテ居ル、此ノ二千軒ニ住居スルモノ一万四千五百人、内工人ハ六千四百人テアル
  丁、労働時間 十一時間ニ短縮シテ居ル社モアル、食事中充分休憩時間ヲ与フル社モアル、内外紗廠ノ如キモ毎日十一時間テ、日曜日毎ニ昼夜共休業シテ居ル、日本内地ノ紡績ト全然同一テアル
  戊、貯金賞与 内外紗廠ニハ此ノ制度カアル、夫レハ工人ノ儲蓄奨励ノ意味テ設ケタモノテアル、華工人ヲ准技男特選工、普通工等ニ別ケ、金額ニモ六十元ヨリ十元マテノ相異カアル、何レモ賞与金ノ一部ヲ貯蓄シタモノテアル、今回ノ罷業ニテ生活困難セル工人ハ特別ヲ以テ其ノ一部ノ支給ヲ受ケ、此ノ貯蓄ヲ以テ工銀ノ一部ヲ積立テタモノト誤解スル人モアル、之レハ工銀テハナイ、工銀トハ全ク関係ナキ特別賞与テ、内外紗廠ノミノ工人優遇方法テ、工部局警視庁ノ同意ヲ得、数年来実行シテ居ルノテアル
 其ノ外立派ナ病院ヤ、大ナル浴室ヲ設備シテ、工人ニ便宜ヲ与フル社モアル、運動会・活動写真・蓄音器ナトノ慰安及設備ヲ有シテ居ル社モアル
 斯様ニ工人ノ幸福ヲ与フルコトニ就テハ各社大ニ努メテ居ル、果シテ現在ノ支那工業界ニ於テ、是レ以上好遇サレテ居ル社カ多数アルトハ考ヘラレナイ
 或ル人ノ説ニヨレハ、華工人ハ学校モ要ラナイ、病院モ好マヌ、社宅モ望マヌ、是等以外ノ或ルモノヲ渇望スト、或ルモノトハ謂ハスト知レタ工銀ノ増額ナラン、ガ工賃ニ付テハ上述ノ通リ当内外廠ハ勿論、他ノ日廠モ華廠ヨリハ多額ニ支払フテ居ル、モシ現在以上ノ
 - 第55巻 p.338 -ページ画像 
工銀ヲ要求スルトセハ、其ノ働カスシテ報酬ヲ要求スルト殆ト距離カナイ、到底不可能テアル、尚一言シタイノハ、一昨年ヤ昨年上半期ノ如ク綿業界ノ不況時ニ際シ、華廠ヤ外国人ノ工場ハ半分以上休業シ、又ハ操業短縮ヲナシタル為メ、工人ノ困難スルモノカ非常ニ多カツタ、其際日廠ハ休転セス、又操業短縮モ割合ニ少ナカツタノハ畢竟工人ノ収入減少ヨリ生活ヲ脅スニ至ルヲ怖レタ結果テアル、日廠トシテハ華廠同様休業又ハ操業短縮ヲスル方カ損失ヲ減シタニモ拘ス、操業ヲ継続シタ訳ヲ承知シテモライタイ、全ク工人ノ境遇ニ同情ヲ寄セタニ外ナラナイノテアル
 以上述ヘタ通リテ、日廠創設ハ華廠ヲ圧迫スルモノテナク、反対ニ華廠ニ好刺戟ヲ与ヘ、日支両国民親善ノタメ、両国共存共栄ノタメ最上ノ事業テアルコト最モ明白テアルト思フ、又華工人ニ支払フ工賃モ、世上ニ喧伝セラルルトコロハ一種為ニスルトコロノモノテ、其ノ実際トハ雲泥ノ差アルコトヲ承知シテモラヒタイ
 是等ノ事実ハ手紙到着ト同時ニ疾ク説明スヘキテアツタカ、罷業最中ハ神経過敏テアルカラ、却テ誤解ヲ深クスルノ怖無キニアラス、其ノ影響ヲ顧慮シテ其儘ニ過キテ居タノテアル、今ヤ未曾有ノ大罷業モ終熄シ、無事平穏ニ操業スルニ至ツタノハ彼我ノタメ大ニ祝福スヘキテアル、何卒将来斯ル忌ムヘキ罷業ノ再発シナイ様ニ致シタイモノタ、其レニハ多数華人ノ誤解ヲ解ク必要カアルト思フテ、遅マキナカラ以上ノ説明ヲ試ミタ訳テアル、何フカ四十二団体ノ華人諸君ハ、最モ冷静ナル態度ヲ以テ、上来ノ説明ヲ熟読玩味セラレンコトヲ衷心ヨリ希望スル次第テアル



〔参考〕日華実業協会往復(一) 【青島邦人紡績工場罷業事件 (四、二二○大正一四年着電)】(DK550063k-0019)
第55巻 p.338-339 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
    青島邦人紡績工場罷業事件 (四、二二○大正一四年着電)
 在青島邦人経営紡績工場ニ於テハ、上海ニ於ケル罷業事件来職工ノ待遇動静等ニ関シ注意ヲ怠ラナカツタカ、先頃ヨリ膠済鉄道四方機廠職工カ公会ノ承認及ヒ賃金ノ値上等ヲ要求セル等、同地方ニモ労働運動擡頭ノ兆アリ、約十日前四方大康社廠(大日本紡績)職工間ニ不穏ノ空気カ顕レタカ、十九日同工場職工ハ工会ノ承認、賃金ノ値上等左記十三箇条ノ要求ヲ提出シ、三時間以内ニ回答センコトヲ要求シ、会社側ニ於テ之ヲ容レサルヤ、同夜九時過夜業中ノ職工二千五百余名ハ工場外ニ出テ罷業状態ニ入ツタ、工場ハ目下日支両国ノ警察官及保安隊ニ依ツテ保護セラレテ居ルカ、罷工職工ハ建築・機械等ニ対シテハ何等ノ損害ヲモ与ヘナイ、今ノ処他ノ工場ハ比較的平穏テアル
 一、工会ノ承認
 二、日給十仙増給
 三、夜業職工食料代(三仙)ノ倍加
 四、請負仕事賃銀ノ二割五分増額
 五、未払賃銀全部ノ支払
 六、宿舎料ノ免除
 七、就業中負傷セル場合ニハ給金ヲ支払フコト
 八、食事時間ヲ一時間ニ延長スルコト
 - 第55巻 p.339 -ページ画像 
 九、今後日本人ハ支那人ヲ殴打又ハ罵詈セサルコト
 一〇、職工ノ工場規則違反ノ際ニハ公会ノ同意ヲ経テ処分スルコト
 一一、公会代表ヲ免職セサルコト
 一二、会社カ職工処罰ノ結果得タル金員ハ補習教育ニ充ツル為之ヲ公会ニ交付スルコト
 一三、会社ニシテ右条件ヲ承認スル場合ニハ保証人ヲ立テ契約書ヲ作成スルコト
二十三日后六時会社側ト支那官憲及職工代表ト会見ノ上、前項要求条項中ノ
第一一及一二項ハ問題トセス、第二・三項ハ職工ノ主食品タル麦粉ヲ工場ヨリ廉価ニテ供給スルコト、第四項ハ昼夜両班トモ増金壱仙増給第八項食事時間ヲ従来通リ六十分トシ別ニ昼夜食トモ十五分宛ノ休憩ヲ許スコト、第五・六・七・九等ハ大体ニ於テ従来通リ実施スルコト第一〇項ハ警察庁ニ於テ採用シ、同額ノ給料ヲ与フルコトトシ、大体諒解ヲ得タルニ、罷業中ノ大日本紡績職工側ノ強要ニヨリ、今日后六時内外棉工場ノ昼夜班交替時ニ際シ、同工場モ罷業スルニ至リタルモ未タ何等具体的要求ヲ提出セス
        以上
無産階級及農工会同盟、軍閥打破、外国資本家駆逐、集会結社罷工ノ自由権等ヲ力争セル共産主義宣伝雑誌多数押収セラレタル等ヨリ見テ大体ニ於テ共産主義ノ影響ヲ受ケ、鉄路工会ト密接ノ関係アルモノノ如ク、煽動者側ハ工会ノ承認ヲ得ルヲ目的トシ、職工側ハ之ノ機会ニ賃金増額ノ目的ヲ達セントスルモノノ如シ
参考
    青島ニ於ケル本邦人紡績業

        錘数     日本人  支那人(従業員)
 長崎紡績  二〇、〇〇〇   八〇  一、八〇〇
 日清紡績  二〇、〇〇〇   三〇    九一九
 富士ガス  三一、三六〇   二九  二、四〇〇
 鐘淵絹糸  四〇、〇〇〇  一九〇  三、一九八
     (外ニ織機八六五)
 大日本紡  五八、〇〇〇   四〇  四、五〇〇
 内外綿   六三、二〇〇  一一七  四、〇〇〇




〔参考〕日華実業協会往復(一) 【上海其他ニ於ケル排外騒擾経過概要(其ノ三)】(DK550063k-0020)
第55巻 p.339-343 ページ画像

日華実業協会往復(一) (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
 (表紙)
                      (ゴム印)
                      日華実業協会

   上海其他ニ於ケル排外騒擾経過概要(其ノ三)

 上海事件ニ対スル新聞論調
     目次
   一、上海
   二、北京
 - 第55巻 p.340 -ページ画像 
   三、天津
   四、日本
   五、米国
   六、英国
   七、独逸
   八、仏国
   九、露国
上海
 上海支那新聞ハ概シテ煽動的記事論説ノ掲載ヲ避ケ居レルカ、商店ノ罷業ト第二回傷害事件ノ発生ニ対シテハ何レモ悲痛ナル論調ヲ示シ、学生ノ行動ヲ是認スルニアラサルモ、抵抗力無キ群集ニ対シ発砲スルノ非ナルヲ論シ、人種的差別等ノ偏見ヲ去リ、苦痛ヲ忍ヒテ休業シ居ル商民ノ心配ヲ察シ、公平ナル判断ヲ下シテ解決ノ方法ヲ立ツヘシト為シ居レルカ、一・二ノ新聞ニシテ外人側ノ支那人圧迫ノ存スル限リ此種事件ハ再発ノ虞アリ、六月二日○大正一四年ノ納税者特別会議ニ提出セラルヘキ印刷物及埠頭税法案ノ如キモ其ノ一例ニシテ、将来ノ禍根タルヘキモノナリト附言セルモノアリ
北京
 各漢字新聞ハ事件ノ重大ナルヲ特筆大書シテ煽動的論説ヲ掲ケ、不平等条約ノ廃棄及反帝国主義運動ノ急進ヲ力説セルモノアリ、又事件ノ拡大ヲ上海ニ於ケル日英両国当局ノ責任ニ帰シ、之ニ攻撃ノ論鋒ヲ加フルモノアリ
天津
 上海事件ニ関シ同地支那新聞ハ概シテ大活字ヲ以テ報道ヲ掲載スルニ止マリ居ルモ、六月三日益世報ハ社説ヲ以テ大要、工人罪ナシ、工人ヲ援助セル学生更ニ罪ナシ、禍ノ基ク処誠ニ租界ノ害、不平等条約ノ崇ナリト記述シ、同日漢文「タイムス」(奉天派機関)ニ於テハ、其ノ咎学生ニアルヤ否ヤハ暫ク措キ、是レ外人ノ我国人ヲ蔑視スル心理ノ表現ニシテ、上海一隅ノ問題ニアラス、実ニ全国人ノ生死栄辱問題ナリトノ論説ヲ掲ケ、其ノ対策トシテ、第一、全国学生商工界ヲ聯合シ、一致ノ行動ヲ執リ、帝国主義者ニ抗スルコト、第二、学生被害顛末ヲ各友邦ニ通電シ、是非ヲ明ニスルコト、第三、全国各界ヨリ代表ヲ選抜シテ北京ニ分駐シ、当局ヲ監督シ、厳重抗議ヲ促スコトニ依リ最後ノ勝利ヲ期スヘシト為シ、且路透東方通信ノ、唯学生ヲ誣イテ排外トナシ暴徒ト為スヲ憤リ、四日同報ハ今次外交部提出ノ抗議杜撰ヲ極メ、政府既ニ頼ルヘカラス、国人一致シテ中国ニ於ケル英人ノ排華運動ニ抵抗スヘシト論シ、彼ノ常ニ同文同種ノ説ヲ以テ我ヲ誘フモノ白人ト硬結シテ工人ヲ惨殺ストテ、英人ト連ネ攻撃ノ筆鋒ヲ日本ニ差向ケ居レリ
日本
 今回ノ上海騒擾ニ対シ我新聞ハ概ネ、目下関税会議ノ開催近キニアルニ際シ、支那カ斯ル無力ナル状態ヲ暴露セルハ、臨城事件ノ如ク支那自ラ対外信用ヲ毀損シ、再ヒ共同管理論、関税特別会議延期説ニ有力ナル言質ヲ与フルモノニシテ、支那自ラノ招ケル損失ナレト
 - 第55巻 p.341 -ページ画像 
遺憾ニ堪エサル所ナリト論シテ、支那国民ノ反省ヲ促シ、且我政府当局其他ニ対シ、今後支那ニ於ケル労働運動並ニ反帝国主義、不対等条約廃棄論等ノ対外運動、更ニ之等ノ背後ニ伏在セル共産主義其他ノ諸運動ニ対シ、深甚ナル注意ヲ払ハンコトヲ求メ居レリ
 尚我国カ在留民ノ生命財産保護ノ為列国ト共同シテ自衛的手段ニ出テントスルハ、当然ノ措置トシテ一般ニ之ヲ認メ、二・三新聞ハ、特ニ今回ノ罷業ハ端ヲ我紡績工場ノ罷業ニ発スト雖モ、今ヤ暴動ノ中心目標ハ工部局従ツテ其実権ヲ握レル英国ニ向ヘルニ際シ、我国カ卒先武力手段ニ訴ヘテ、支那側ノ反感ヲ我ニ集注スルカ如キコト無カランコトヲ望メリ
米国
 各新聞ハ依然上海ノ暴動ノ悪化ヲ伝フルト共ニ、広東・長沙方面ニ於ケル騒擾ヲ報シ、目下張・馮両将軍ハ対抗シテ戦備ヲ急キツツアレハ、其衝突ハ免レ得サルヘク、而モ之ニ《(ハ)》間接ニハ馮ニ依リ支那ニ優越的勢力ヲ扶植セントスル露国ト、張ヲ助ケテ南満ノ勢力維持ヲ図ラントスル日本トノ衝突ニ外ナラストシ、尚今回ノ上海事件タル元来日本紡績工場ニ於ケル職工罷業問題ニ過キサリシヲ、露国ノ煽動ニ依リ稀有排外運動化セルモノニテ、而モ右暴動カ往年ノ団匪事件ヲ再演スルカ如キニ至ル際、日本ハ果シテ各国共同一致ノ態度ヲ持スルヤ疑ナキ能ハスト為シ、日本ノ態度ニ就テハ薄々ナカラ不気味ヲ感シ居レルカ如ク、此ノ際列国ノ兵力使用ハ其度ヲ過キレハ、却テ禍乱ヲ大ナラシムルノ惧レアリ、殊ニ米国トシテハ其兵力使用ハ単ニ米国ノ生命財産ノ保護ニ止ムヘシト為スモノ多シ○中略
 尚本件ニ関スル米国新聞ノ論調ニツキ当方ニ於テ入手シタルモノヲ挙クレハ、六月三日華府「ポスト」ハ社説ニ於テ、支那ノ醜状ト題シ、今回ノ暴動ハ日本紡績工場職工ノ同盟罷業ニ由来スルモノナルカ、其後労農側ノ煽動ニ依リ一般的排外運動ニ悪化シ、且ツ上海以外ノ地ニモ波及スルノ虞アリトナシ、最後ニ、右暴動ハ各国ヲ又復混乱ノ渦中ニ誘致スルノ端緒トナルヤモ計リ難キヲ以テ、米国トシテハ周到ノ注意ヲ以テ行動スルノ要アリ、其兵力ノ使用ハ米国人ノ生命財産ノ保護ニ限定スヘシ云々ト報セリ
英国
 三日ノ各新聞ハ何レモ相当ノ紙面ヲ割キ、上海ノ学生暴動ニ関スル記事ヲ掲ク
 「タイムス」ハ社説ニ於テ其労農宣伝ニ負フコト大ナルコトヲ述ヘ此排外風潮ノ将来ノ発展測リ知ル可ラスト警告シ、之ニ備フルノ途ハ列国ノ結束ニアリ、従来列国カ或ル共同行為ニ付真剣ニ結束セル時ハ、支那ハ之ニ屈服スルヲ常トセリ、支那大局ノ問題ニ付テハ列国ノ利害ハ共通ナリ、然ルニモ拘ハラス、従来列国ハ動モスレハ各自此利害ニ制セラレ、充分ノ結束ヲ欠ケリ、来ル関税会議ハ大局ニ着眼セル更ニ賢明ナル方策ヲ考慮スヘキ好機会ナリト述ヘ
 「テレグラフ」モ亦略同趣旨ノ論説ヲ掲ケ、殊ニ最近張作霖ノ使嗾ニ依リ、支那政府カ東支鉄道ノ非労農使用人解雇ヲ実行セサリシ為メ、労農政府ハ張ノ真意並ニ張ト日本トノ関係ヲ疑ヒ、其復讐ニ上
 - 第55巻 p.342 -ページ画像 
海労働者ニ排日ヲ煽動セシコトカ、延テ今日ノ暴動ニ化セルモノナリト述ヘ、此際列国カ条約上ノ権利擁護上些少タリトモ弱味ヲ見スルハ致命的ナリト述フ
 「エキスプレス」(五日)
 上海暴動ニ関シ日本外務大臣ハ、三日、日本ハ列国ト協調スルコトナク行動ヲトルコトナカルヘシトノ「ステートメント」ヲ発セラレタルニモ不拘、日本政府ハ其後直ニ支那政府ニ書面ヲ以テ、若シ同政府カ支那都市ニ於ケル秩序ヲ維持スル能力ナケレハ、日本ハ暴徒ヲ屈服サスニ十分ナル陸海軍必要力ヲ支那ニ送ルヘシト申入タル趣ナルカ、右日本ノ行動ハ英国カ専ラ同国人生命財産ノ安全ヲ維持スルカ為行動ヲ取ラントシツツアルニ反シ、支那ノ内政ニ関与スルモノニシテ、結局カノ二十一ケ条ノ要求ヲ復活セントスルニ等シト
独逸
 漢堡ナハリヒテン(四日)
 本騒擾ハ青島日本紡績工場「ストライキ」ニ於ケル官憲ノ圧迫ニ激シ、余波上海ニ及ヒ青年運動ト相合シテ支那人平等待遇ノ要求運動ト化シ、就中日英人居留区域ニ於テ熾烈ナルハ其原因種々アレトモ顕著ナルハ其裏面ニ莫斯科政府ノ手廻シアルモノニシテ、即チ莫斯科政府ハ最近日露協定ヲ締結シタルモ満洲ニ於テ日本ト利害相反スルコト多ク、又英国ニ対シテハ露国ト条約ヲ結フノ必要ナルヲ悟ラシメンカ為メ、何レモ支那ヲ煽動シテ所謂牽制運動ヲ為セルコトヨリ、支那政府カ北京外交団ニ為セル抗議ハ其国民擁護ノ為メニ当然ノ権利義務ヲ行ヒタルモノナリ、従来ノ報道ニ依ルモ此種騒動ニ於テ独逸人カ危害蒙ラサリシハ、独逸カ「ベルサイユ」条約ノ結果支那ニ於ケル治外法権ヲ撤廃シ支那ト平和ノ地ニ立チタル為ナリ
仏国
 一般ニ格別論評ナク、只「ヒユマニテイ」カ列国ノ帝国主義的対支政策ヲ攻撃シ居ル位ニシテ、其他二・三新聞ニ、英国「エキスプレス」ノ「日本政府ハ支那側ニ於テ暴動ヲ鎮圧セサレハ出兵スヘシ」ト云々ノ記事三・四ノ新聞ニ記載シアルノミ
露西亜
 「イズベスチア」(五日)
 全聯邦職業組合中央委員会ハ上海暴動ニ関シ会長「トムスキー」ノ名ニ於テ、支那労働者ニ対シ電報ニテ之ニ同情ヲ表シ、且ツ今回ノ労働運動ノ成功ヲ確信シ、全世界ノ労働者ハ挙テ該運動ニ同情スト為シ、且今回ノ労資争闘ハ益々世界職業同盟ノ必要ヲ証明スルモノニシテ、及国際青年共産党執行委員会ハ支那学生団ニ宛テ電報シ、英国官憲ノ支那学生ニ加ヘタル暴挙ヲ攻撃シ、支那学生団ノ示威運動ハ決シテ英国人ノ圧迫ニ依リ鎮静セラルヘキモノニアラス、且該学生団カ共産党及青年共産党ノ指揮ノ下ニ陣容ヲ立テ、護民団ト協同シテ、数百万ノ労働者・農民ヲ糾合シ、帝国主義ニ対抗シテ支那ヲ開放シ、以テ社会経済上ニ於ケル労働者階級ノ自由回復ヲ希望スルモノナリ
「プラウダ」紙
 - 第55巻 p.343 -ページ画像 
  六月五日同紙上ニ於テ「ラデツク」ハ今回ノ上海労働者罷業事件ニ関シ長文ノ論評ヲ試ミタルカ、其ノ要旨左ノ如シ
 数十年ニ亘リ専横ナル外国資本家ノ圧迫ニ堪ヘ忍ヒ、窮状ニ苦ミ来レル支那労働階級ハ、遂ニ彼等ニ反抗シテ立テリ、英国新聞ノアルモノカ之ヲ以テ莫斯科ノ煽動ニ基クモノナリト臆測セルハ、畢竟支那国民ハ未タ中昔ノ遺物ニ過キサル督軍ノ圧制ノ下ニ在リテ、何等組織的闘争力無キモノト見縊リ、其罪却テ従来之等自己ノ利益ノ為メ酷使シ来レル自身ニアルヲ知ラサルカ為ナリ、日英警察隊ハ資本保護ノ為砲火ヲ以テ、右労働運動ヲ鎮圧セントセルカ、「ブルジヨア」国ハ如何ナル方法ヲ以テスルモ、此ノ運動ニ対抗シ得ヘキモノニ非ス、又右新聞ハ日本資本家ニ対シ、日露条約ハ同盟罷業ヲ予防シ得ルモノナラサルコトヲ警告セルカ、同協約ニ於テ露国ハ日本ニ対シ斯ル運動ノ危険ヲ保障シタルモノニアラス、露国ハ唯自ラ斯ル運動ヲ組織セサレハ足ル
 今回ノ事件ハ即チ外国資本階級ニ反抗セントスル支那国民ノ国民的自覚ノ発現ニシテ、支那労働階級ハ此精神ト共ニ、将来益々目醒メ来リ、帝国主義及資本主義ニ対シ革命的闘争ヲ試ム可シ
 共産「インタナシヨナル」、職業組合「インタナシヨナル」及青年共産「インタナシヨナル」執行委員会ハ、六月七日「プラウダ」其ノ他「ソヴイエト」新聞紙上ニ於テ、支那労働者ノ闘争ヲ支持セヨトノ題目ノ下ニ、労働者・農民等ニ対シ与ヘタル檄文ヲ掲ケタルカ其ノ上今回ノ支那労働者罷業ニ対スル日本ノ行為ハ、自己ノ利益ノ為彼等ヲ圧迫シ酷使セントスル奪掠的目的ヲ飽ク迄実行セントスルモノニ外ナラス、労働者ハ平和的ニ其ノ目的ヲ達セントセルニモ拘ラス、日本ハ支那政府ノ薄弱ニ乗シ、警察及憲兵等ヲ以テ工場ヲ警護セルカ、遂ニ五月二十九日砲火ヲ以テ之ヲ脅威シ、非人道極マル惨酷ノ行為ニ出テタルヲ以テ、上海ヲ中心トスル全支那ノ労働階級及智識階級ノ青島労働者ニ対スル同情ハ、遂ニ帝国主義外国ノ覊絆ヲ絶チテ其ノ苦痛ヲ除去センカ為、革命的運動ヲ起スニ至レルモノナリト論シ、極力支那労働者ヲ援助セサルヘカラサルト檄シ、資本家ニヨリ点火セラレントスル新戦争ノ危険ノ排除ニ努力センコトヲ主張シ、支那・「モロツコ」等ニ於ケル外国ノ横暴ナル帝国主義ヲ以テ、同地其ノ他植民地等ニ於ケル外国軍隊ノ撤退ヲ要求シ、最後ニ東西諸国ニ於テ資本ノ補助或ハ奴隷トナレルモノヲ解放スヘキ使命ヲ帯ヘル世界革命ヲ高唱セリ
 又同新聞ニ於テ「ジノウイエフ」ハ上海事件ノ歴史的意義ト題スル論文ヲ掲ケ、支那労働階級ニ対シ同情ノ意ヲ表セリ



〔参考〕日華実業協会往復(一) 【上海暴動情報(第二)】(DK550063k-0021)
第55巻 p.343-344 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
    上海暴動情報(第二)
前報第二回ノ衝突後事態重大トナリツヽアルモ、我国ヨリ卒先シテ大型軍艦ヲ急派スル等ノ事ハ却テ煽動者側ノ宣伝ノ目標トナル可ク、在留民ハ激昂ノ徴アルモ、武力ノ使用ハ英米ニ追随シ、我ヨリ(イニシ
 - 第55巻 p.344 -ページ画像 
アチーブ)ヲ採ラザル方針ニテ、又我陸戦隊ノ上陸ハ事情ノ許ス限リ差控ヘ、在留民ハ成ル可ク危険ヲ避ケ、事端ノ起ラザル様注意中
                     (六月一日○大正一四年)
上海ノ一般新聞紙ノ論調ハ、大体前報ノ如ク、死傷事件ニ対シ悲痛ノ意ヲ表セルモ、煽動的ニ亘ラズ、殊ニ印刷職工聯合会ハ各新聞紙ニ出版停止方交渉セルモ之ヲ拒絶シ、新聞社トシテハ民衆運動ニハ便宜ヲ与フルモ、今回ハ射殺事件ヲ重要視シ、反帝国主義及労資問題ニハ触レサルコトヽ決定セリ (六月二日)
一、日本人殺害ノ報アリタルモ、取調ノ結果事実無根ナリ
一、二日后六時南京路西端ニ於ケル支那人暴徒ハ警戒中ノ義勇隊ヲ攻撃シ、之々応戦《(マヽ)》シテ機関銃ヲ発射シ、多数ノ死傷ヲ出セリ
日本人住宅ハ支那街ニ隣接ノ地ニ散在セル為メ、襲撃掠奪ヲ蒙リタルモノ数軒、又日本人ノ負傷事故頻出シ、一方煽動者側ハ一般労働者及従業員ニ対シ頻リニ罷業煽動シ居レリ
伊・英両国ハ二日后陸戦隊ヲ上陸シ、我国ハ碇泊砲艦三隻中ヨリ五十九名上陸シタリ、各国海軍指揮官トノ協定ニ基キ上陸セルモノナリ
                        (六月三日)
(北京)
 一般漢字新聞事態重大ヲ大書シ、煽動的論調ヲ掲ケ、根本問題タル不平等条約撤廃、反帝国主義運動ノ急進ヲ力説シ、且事件重大ノ責任ハ日英両国ニ於テ負フ可シト論スルモノアリ
 北京警察総監未深氏ハ公使館ヲ訪ネ、日本側ハ冷静慎重ナル態度ヲ持シ、強圧乃至反抗的態度ニ出テザル様懇談シタル趣、種々不穏ナル風説アル為メ相当警戒中ノ処、北京大学ニ集合セル学生約三千ハ隊ヲ作リ執政々府外交部ヲ歴訪中ナルモ、警備ハ厳重ヲ尽クセリ
                        (六月三日)
(長沙)
 二日二・三千人ノ学生及職工ハ教育会ニ集合シ、隊伍ヲ作リ示威運動ノ為メ省長公署ニ押掛ケタルモ、警戒厳重ノ為メ退散シタリ、主トシテ国民党系共産派ノ煽動ニ依ルモノヽ如ク、排英ヲ主張セル如キモ、六・一事件等ニ鑑ミ排日ヲ加味シ居レリ (六月三日)
新聞紙ニ依ル一般上海電報ハ、其筋着電ニ比シ報導ヲ急ク為メカ、多少誇張セラレ居ル嫌ヒアルモノヽ如シ、尚当地商業会議所ハ本日上海総商会宛(貴会最善ノ努力ニヨリ、出来ル丈敏速ニ平和的秩序ガ回復セラレ、通商並ニ国際関係ガ妨害セラルヽ危険ガ除カレンコトヲ切望ス)右意味ノ電報ヲ申遣リタリトノ事        以上



〔参考〕正金週報 第二四号・第三―五頁大正一四年六月一九日 上海動乱に就て(DK550063k-0022)
第55巻 p.344-347 ページ画像

正金週報  第二四号・第三―五頁大正一四年六月一九日
    上海動乱に就て
 内外棉会社罷業に端を発し、各所に蔓延したる同盟罷業は、南京路に於ける工部局警官の自衛発砲によつて口火を附けられ、遂に暴動と化し、今や支那全土の主要地に亘つて拡大しつゝある、暴動は排外反帝国主義の旗幟に相絡むに経済的要求を以つてし、其背後には過激思想の暗影を帯び、益々騒擾を紛糾悪化せしめんとして居る。今度の事
 - 第55巻 p.345 -ページ画像 
件は其根底に於て、其内容に於て、彼の支那年中行事の一である日貨抵制・外貨排斥とは其範を異にせる如く見ゆる。六月七日付の私信を以て上海動乱の発端・経過並に世論について我が上海支店より詳細なる報導に接したから、玆にその儘を掲げる事とした。
 前略 事の起りは既に新聞其他にて御承知の事とは存候へ共、内外棉会社に暴動起り候節、不幸にして二・三の職工印度巡捕に射殺致され、其葬式を示威運動に使用し、学生団のもの不穏の排外演説を試みしにより、工部局に於て其首謀者を捕へ、南京路警察署へ投獄し、会審衙門にて有罪の宣告を下し候(日本会審官と支那会審官立会)、然るに学生団は之を不都合なりとし、南京路其他にて、五月卅日道路演説を為せるを、警察にて禁止せし上、二・三首動者を捕縛せる為、学生は憤慨し、大挙して南京路警察署に殺倒し、暴動と化し、警察署に迫りたれば、警官は之に解散せざれば発砲すべき旨を言明せるも、既に狂へる彼等は容易に退散せず、却つて多勢に無勢の警察官を追ひ込み場合によつては其武器を奪取せん勢となりしかば、遂に警察署前の道路にて、英国人巡査の指揮の下に、印度巡捕約十二人にて一斉に発砲し、四人を即死せしめ、十数名の負傷者を出し候、此時最初には向ひ来りたるものを打ちたるも、第二発目よりは逃ぐる者を打ちたるものと伝へられ、跡にて学生団が死傷者の直面よりの発砲に依るに非ずして背後より打ちたる者なりと抗議し、工部局を批難する有力なる証拠を挙げ居る由に候。
 従来工部局はかゝる場合に空中に向けブランク・シヨツトを打つを例となし居るに不拘、此場合に限り直接に発砲したるは如何なる理由なりや知るに苦しむ処に候も、恐く其暴動者の勢余りに猛烈にして制止の到底不可能なるを知り、不得止るに出でたるものと存ぜられ候、之を動機として翌日南京路にて同様事件あり、此方は工部局側は些の手落なく、最初は水道にて追散らしたるも効なく、却つて投石する者あり、二階よりサイダーの空瓶を投げる者あり、止むなく発砲せるらしく候、其後新世界より逆に同所警戒中の米国隊に何人とも知れず発砲せる者あり、米国義勇隊の一人を傷けたるを以て、同隊は機関銃にて新世界に向け一斉射撃を行ひ、大分死傷者ありたるらしきも、此点発表せざれば不明に候。
 丁度其時六月二日工部局納税者会議開催の筈にて、議案は印刷法案碼頭税引上げ等にて、支那側は悉く反対なりし為、当地商総会は此事件を利用し反対気勢を昂げ、若干学生側に加担せる形跡あり、学生団も之を理由に商総会と手を握りたるらしく、納税者会議は、遂に流会(出席定員なかりし為め)と相成申候。
 其後の状勢は凡て混沌。
 一、南京路初め全市悉く閉鎖、但し仏租界だけは開市。
 二、紡績工場は漸次に罷業、今は僅かに二・三運転せるのみ、日本工場にては豊田及鐘紡運転し居れり。
 三、英国系工場英米煙草を初め大半罷業。
 四、ホテル・アスターハウス、マチエステイク・ホテル、上海倶楽部使用人罷業、日本倶楽部・米国倶楽部無事。
 - 第55巻 p.346 -ページ画像 
五、電車・乗合自動車運転せるも支那人乗らず、運転は不規則。
六、電車に投石するもの頻々、多少乗客外国人及日本人に被害あり。
七、印刷工罷業 英字新聞皆影響を受け、平常の三分一ページにて僅かに続刊。
   支那新聞は完全に発行、宣伝盛なり。
八、マーケツト閉鎖 仏租界を除く外マーケツト悉く閉鎖、尤も支那人マーケツトは開き居るものあり、支那人雇人をして買入れしむる時は、無頼者其買入れたるものを検査し、之は日本人又は外国人の食物なりとて掠奪する例多々あり、併し日本人は粗食に慣れ居り、米食なれば未だ困らず、外国人はパン絶無に閉口、生肉も買入出来ず、屠牛所閉鎖、目下食料品管理官を設け冷肉・パン粉輸入等計画中。
九、碼頭苦力罷業 碼頭苦力の罷業は到底起らざるべしと期待せる所、之も遂に罷業せり、尤も浦東側丈けは従業、彼等は其日暮しの最も甚敷ものなれば、自発的の罷業に非ずして、脅迫によること明なり、復業を望めるもの多し、上海側にては虹口上海碼頭(即ち怡和のもの)丈け義勇隊保護の下に強行従業を為し居れり、之れは食料船荷役の為なりと称せるも、事実は不明、浦東側苦力罷業せざる為未だ荷役には差支なきも、荷動なき為倉庫充満、浦東側に収容力乏しくなり来れり。
十、電話使用人罷業 電話使用人罷業せる為め支那人電話使用者の通話を拒絶し、外国人・日本人丈けの通話をVolunteerを募り実行し居れり、外国婦人及日本婦人の臨時電話交換手なれば混線間違多く閉口なり。
十一、電信会社使用人罷業 各電信会社配達夫罷業、電信配達不能にて一時閉口せるが、其後外国人子供によりて補充せられ稍々緩和、未だ遅達を免れず。
十二、水道・電灯は多少罷業あるも之れ丈けは全力を尽して保護し場合によりては外国人丈けにて差支なき様手配何等故障なし。
十三、糞桶(モードン)汲取人の罷業は未だなきも、目下計画中、之をやられる時は最も痛手なるべし。
 其他細きことは種々有之候へ共、却つて繁雑に付省き可申、罷業の方面は益々拡大する恐れあるも、今日より以上大した事も無之ことヽ存候、只問題は永続するや否やに候が、永続する時の結果は強盗掠奪と相成こと必然にて、之を恐れ申候、今回の騒動、運動の方法其他に就ては連絡準備相当に有之、学生丈の仕事としては手際佳過ぎ申候が之れには国民党の後援あること確なる様に候、馮玉祥一派の奉天派に対する画策及共産派、露国赤化主義の宣伝を加味せられ居る証拠もある様に候、工部局は過日Burlington Hotelに宿泊中の露人一名を拘留し、材料を取上げ、上海大学をraidして諸種の宣伝ビラ・往復文書を押収せる由、其他にも此方面に活動学生の根拠を衝き居り候。之等は又々他日問題の種と相成可申も、事件の解決を早からしむべき事と存候。
 - 第55巻 p.347 -ページ画像 
 尚当地商務総会の態度は最初学生団に反対なりしも、彼等に脅迫せられ余儀なく賛成したる旨、工部局にも言明せる所、其後支那人側輿論反工部局説盛となりし結果、今日にては矢張り一般と同一歩調にて工部局に対し強硬なる態度を持ち居り候、併し調停の労を取るべきことを申出で、他方罷業に対しては慰撫復業を勧め、穏便に交渉すべきことを説き居り候が、工部局との交渉最低条件は
 (一)工部局の謝罪、(二)巡捕の処罰、(三)死傷者に対する見舞金交附、等に有之、一寸出来ない相談なれば六ケ敷、今後曲折可有之候。
 当地銀行公会及銭業公所は、其金融機関として重要なる地位に在りながら、突如休業致候、而して工部局に対して銀行業者より抗議書を発し、工部局の謝罪其他前記と大同小異のことを申立て居候。銭業公所の休業は支那商人の痛手なるが、其目的は外国銀行も之によりて休業すべく、然る上は凡てが混乱を来すと言ふ計画なりしものヽ如く候も、外国銀行は出来る丈け営業を続けんと言ふことを決議、持久戦をすることに相成申候。
 支那商人は大分閉口たれ来り候間、他の罷業と共に余り永続きせずと観るもの多く候。最も困りたる物は弗銀にて、支那銀行なき為め弗銀調達出来ず、紡績会社其他の工賃支払に差支を生じ可申候。
 罷業は永続するや否やに就ては諸説あるも、先づ資金の方より永続せずと見るもの多き様に候。上海にて支払ふ工賃は一日五十万元(之れは翌日まで持ち越しの出来ざるもの丈け)と云ふ計算の由なれば、夫れ丈けの費用を誰が負担するや、又此外に商店員の経費をも加算すれば、不日其方面より不平を生ずべく、又其日暮しの苦力は掠奪に出づべく、何れにするも上海の労働者生活程度にては持久戦は困難に候へば、永からざるべしと考ふる方至当なるべしと存候。
 乍併此問題の全部解決は永引き候様に候、工部局の態度も排英丈けに中々強硬、且つ香港にての失敗に鑑み、英国人は今度は一寸も退かずと云ふ態度を目下は示して居り候、尤も変通自在なる英国人の事なれば、何時妥協点を見出すやも難計候も、兎に角簡単には済み申す間敷候、排日も色々と申居候も、排英に比すれば軽き方に候、之は今度の事件の当局者が工部局であり、工部局は英国のものと云ふ支那人の頭から割出して、英国悪しと云ふ風に一途に思ひ込んで居ることによる次第に候。
 尚今度の事件を一層悪化せしめたる原因は、当地に当時軍艦の滞留少く、事件突発の時上陸し得る海兵、英国僅かに五名、米国三十名、日本五十名、伊太利五十名に過ぎざりしことに候、今は皆補充せられ只日本丈けか今度は少く候処、漸く本日竜田入港にて、列国の同数位に相成、目下は全部にて約二千名近く有之、之れにて今後は暴行等減少可致候。
 仏租界丈けは平穏無事に何等影響なく、独り涼しき顔を致し居り候恐くは今度の事件の調停者と云ふ事に相成り可申事と存候 下略。
  大正十四年六月七日



〔参考〕日華実業協会往復(一) 【横浜正金銀行上海支店支配人席報告写】(DK550063k-0023)
第55巻 p.347-352 ページ画像

日華実業協会往復(一)          (渋沢子爵家所蔵)
 - 第55巻 p.348 -ページ画像 
(謄写版)
                    (ゴム印)
                    日華実業協会
    横浜正金銀行上海支店支配人席報告写
                  (大正十四年六月八日附)
  当地ニ於ケル排外熱暴動並ニ罷市罷工ニ就テ
今回ノ当地騒動事件ニ付テハ其都度電報ヲ以テ御通知申上候間大体御承知ノ事ト存候得共、重ネテ左ニ御報告申上候
去ル五月十五日内外棉会社第五工場ニ於ケル工部局警官隊ト罷業団トノ不幸ナル衝突ハ、職工一名ノ死亡者ヲ出シ、罷業応援ノ学生団中法ニ触レタル数名ハ拘禁セラルヽヤ、学校並ニ学生団及諸団体ハ熱心ニ被捕学生ノ釈放運動ヲ試ミシモ、工部局当局ハ事件ノ性質ニ鑑ミ厳トシテ之レニ応セス、被捕学生ヲ会審衙門ノ裁判ニ廻付スル事トナリシ折柄、青島ニ於ケル本邦紡績会社ノ同盟罷業ハ暴動ト化シ、次テ帝国軍艦ノ出動トナリ、漢口ニ於テハ英米煙草会社・冷蔵肉工場・棉花圧縮工場等ノ同盟罷業発生シ、愈々支那全土ニ波及セントスル風潮ヲ呈シ、形勢険悪ヲ現ハシ、当地内外棉会社ノ罷業ハ会社ト職工対峙シテ下ラス、事件ハ益々紛糾シ惹テ日貨排斥再燃セントスル状態ナリキ
此ノ秋ニ当リ、排日運動ノ主謀者ト目サレタル上海各路商界総聯合会総務主任兼文路商界聯合会長藩大州氏ハ、上海総商会及内外棉紗廠工会ニ宛テ極力調停ヲ計リタルモ、内外棉会社ニ於テハ強硬ナル態度ヲ持シテ確実ナル回答ヲ為サヾルヲ以テ、断然手ヲ引ク云々ト声明シタリ、然ルニ曩ニ罷業煽動ノ廉ニヨリ工部局官憲ニ検挙サレタル文治大学・上海大学ノ学生六名ノ公判ハ五月三十日午前十時半ヨリ開始セラルヽ筈ニ付、景平女学校合作社上海分社・東方大学・大夏大学・南洋大学等六十余団体代表者百余名集合シ、援救被捕学生聯合会ヲ組織シ
一、罷業事件ト被検挙学生ノ釈放ニ関スル特別印刷物ノ発行
二、大道演説隊ノ組織
三、之レ等ニ要スル経費ハ各団体ノ自弁トシ外部ニ向テ資金ノ募集
四、交際部ハ当地各団体トノ聯絡ヲ計リ共同一致進行スルコト、尚ホ必要ニ応シテハ委員会ヨリ代表者ヲ特派ス
ト決議セリ、三十日ニ至リ被検挙者六名ハ百弗ノ保証金ニテ保釈ヲ許サレシモ、既ニ工部局処置ニ憤激シ熱狂的ナル学生団ハ自制力ヲ失ヒタリシニ乗シ、滬西工友会幹事劉華コト鄧中夏一派ハ学生ヲ煽動シ、国民党左傾系ノ諸大学ヲ糾合シ、上海全市ニ亘リ実行経済絶交、反対越界築路、抵制日貨、反対印刷附律、援救被捕学生等ノ赤字伝単ヲ配布シ、数百人一隊トナリ各所ニ煽動ト宣伝ニ努メタリシニ、午後五時頃南京路ニテ路傍演説、不穏伝単ヲ撒布シ形勢愈々不穏ナリシカハ、工部局巡警ハ其游行ヲ阻止セシニ、学生団ハ之レニ反抗シ、五名老閘警察署ニ引致セラレシヲ以テ、興奮セル学生団ハ大挙喊声ヲ挙ケ警察署ヲ襲ヒ、検挙セラレタル学生ノ奪回ヲ試ミントセルヲ以テ、遂ニ印度巡警隊ハ発砲シ阻止ニ努メ多数ノ死傷者ヲ生シ、附辺ノ商店ハ門戸ヲ鎖サシ、電車・自動車全部通行止メトナリ、学生数十名検挙セラレ一部学生ハ三々五々各所ニ帝国主義反対不穏文書並ニ排外的伝単等ヲ配布シ大ニ気勢ヲ昂ケ、形勢益々悪化、事態重大トナレリ、而シテ到
 - 第55巻 p.349 -ページ画像 
ル処ニ流言蜚語盛ニ行ハレ、工部局ハ非常会議ノ結果義勇隊ノ非常召集ヲ決議シ、ゴルドン義勇団司令官ハ非常召集ノ命令ヲ下スコトヽナレリ、幸ニモ午後八時頃ヨリ降雨アリシヲ以テ学生群集退散セリ、翌三十一日ニハ工部局各警察署・虹口発電廠・各所ノ電気調節場・水道会社・電話局等租界ニ於ケル重要機関ハ武装セル警官ニヨリ厳重ニ警戒サルヽニ至リ、学生団ハ豪雨ニ不拘全市ニ亘リ猛烈ナル示威運動ヲ開始シ、学生カ印刷条令及碼頭税ニ反対セル為メ工部局警察ハ学生十数名ヲ射殺シタリ、同胞諸君、罷市罷工ヲ決行シテ之ニ対抗セヨ云々ト、女学生モ混合シテ大道演説ヲ行ヒ、外人巡捕群集解散ニ努力スレドモ効果ナク、学生ハ各商店ヲ歴訪シテ罷市罷工ヲ勧告シ、強制的ニ之ニ加入セシメ、全国・上海両学生会、上海各路商会(町内会)総聯合会ハ午後三時上海総商会ニ於テ各団体聯席会議ヲ召集シ、各団体代表及各大中学校生等集マリ会議ヲ開キ、劉華及趙某悲憤慷慨ノ熱弁ヲ揮ヒ、商会ニ向テ罷市ヲ要求シ、各団体ヨリ代表二名宛ヲ推挙シテ委員会組織ヲ決議シ、要求スヘキ事項ハ
一、学生ヲ釈放スル事
二、負傷者及死者ノ遺族ヲ慰撫スルコト
三、外国人ニ謝罪セシムルコト
四、印刷物取締法ノ取消シ
五、碼頭税引上ケ問題ノ取消シ
六、会審衙門ノ撤回
右六ケ条ヲ議決シ、更ニ沈漠民・郭塵狭二名ヲ代表ニ推薦シ警察署ニ向ハシメ、又総商会ニ罷市賛成ヲ要求シ各路総聯合会ハ会員一致賛成シ、次テ納税華人会賛成シタリ、而シテ総商会ハ脅迫サレ止ムナク加入シ、北京政府ニ打電シテ政府代表者ノ来滬ヲ申請シタリ、工部局ハ巡警ノ総動員ヲ行ヒ、義勇隊ノ召集等、自由ノ都上海ハ戒厳令施行状態ニ陥リ、人心恟々タリ、一方六月二日ニ納税人特別会議開催セラレ工部局提案八ケ条附議セラレントス、其ノ内第三・第四・第五・第六ノ四案即チ
一、碼頭捐税率ノ引上ケ
二、印刷物取締リ附則
三、取引所ノ登録
四、童工使用ノ取締
ニシテ、上海商業各団体ハ前三条ニ就テハ法律上・国権上及事実上ヨリ見テ一致反対シ、最後ノ一案ニ対シテハ或ル条件ノ賛成スヘシトテ条件ヲ表示シタリシカハ、納税特別会議ノ推移如何ハ極メテ重大視セラレタリ、然ルニ各所ニ於テ示威運動、大道演説、不穏ビラ撒布セラレ、南京路ニテ電車・乗合自動車ヲ阻止シ、支那人乗客ニ下車ヲ強要シ、混雑其極ニ達シ、殺気立チタル学生及群集ノ一団ハ投石シ、甚ダ危険ナルニ付、警戒ノ消防隊ハホースヲ群集ニ向ケ水攻メノ策ニ出テシモ効果ナク、巡警ハ発砲シ市街戦ヲ演シ、負傷者多数ヲ出セリ、学生団ハ交通機関ノ破壊ヲ謀ラントシ、運転手ヤ車夫ヲ脅迫的ニ勧告シ好妙ナル各種ノ方法ヲ以テ、中国ハ外国ノ侮辱ヲ受クルコト久シク、既ニ其極点ニ達ス、外国人ハ中国ノ皇帝タラントシ、中国人ハ外国人
 - 第55巻 p.350 -ページ画像 
ノ奴隷トサレン、諸君ハ日毎ニ外国人ノ嘲罵侮辱ヲ受ケ、且ツ十数人ハ銃殺セラレタリ、挙テ起チ罷業罷市ヲ断行シ、外国人ニ反抗スヘシト宣伝シタリ、然ルニ当地日英仏米伊領事ハ、此レカ対抗策ニ就テ協議ノ必要ヲ認メ、伊太利領事館ニ非公式ニ会合シ意見ヲ交換シタル結果、這般ノ事件ハ現在ノ処巡査ノ発砲問題ニ事端ヲ発シ、工部局対暴徒ノ問題ニシテ、領事団トシテ此レガ一般的ストライキ乃至ハ政治的問題ニ推移セサル以上、別ニ立チ入ルヘキ場合ニアラストシ、形勢観望ニ一致セリ、然ルニ工部局提案ニ反対スル上海総商会・上海各路商会総聯合会・上海日報公会・書業公会等ノ有力ナル諸団体ハ、一日ヨリ全上海ノ排外的ボイコツトヲ敢行シ、在留外国人ニ深甚ナル脅威ヲ与ヘタルモ、工部局官憲ト列国義勇隊協力ノ結果、軍艦ヨリ陸戦隊ヲ上陸セシムル程危機ニ瀕セサルモ、外国人殊ニ日本人ノ被害多ク、日本小学校・女学校ハ早退ヲ行ヒタル状態ナリ、二日杭州・南京ヨリ数千名ノ学生応援ノ為メ来滬ストノ噂伝ハリ、租界ノ警戒益々厳重、重大視セラレタル納税大会ハ流会トナリシモ、競馬場側新世界ヨリ南京路警備ノ騎馬隊ニ向テ突然乱射セル不逞ノ支那人アリ、人馬負傷スルニ至リ、警備ノ義勇隊ハ機関銃ヲ新世界西側ニ向テ一斉ニ発射シ、物凄キ市街戦ヲ現出シ、応援隊ト共ニ新世界ヲ包囲シ数百人ヲ検束セリ玆ニ於テカ、暴徒ハ方面ヲ転シテ警備薄キ虹口一帯ヲ襲ヒ、邦人被害頻々、北京政府ハ当地ノ警察行動ニ対シ抗議ヲ提出スヘク、本事件調査ノ為メ交通次長曾宗鑑氏派遣ニ決定シタリト報シ、共同租界電話交換手四百名及電信従業員ハ会合シテ、被捕者ノ釈放、工部局ノ謝罪、死傷者ノ家族慰撫等六ケ条ヲ提出シ、罷業ヲ決行シタルヲ以テ、外国人ヲ代用スルニ至レリ、法政大学・上海大学等三十五校ノ教職員聯合会ハ委員ヲ撰定シ、一切ノ事務ヲ取扱ハシメ、北京外交総長並ニ北京外交団ニ左ノ抗議ノ電報ヲ発セリ
 上海学生ハ、日本紗廠ノ罷業事件ニヨリ射殺サレシ職工ノ為メ寄付金募集演説ヲ試ミタル六名ハ逮捕セラレ、五月三十日及六月一日南京路ニ於テ大道演説試ミ中英人警官ノ為メ発砲サレ、死傷者数十名ヲ出シ、其行為タルヤ人道法律ニ外レ我国民ヲ蔑視スルモノ、貴団ハ常ニ正義ヲ主張スル以上、即刻共同租界横暴行為制止ノ電報ヲ発セラレ度、尚ホ中国人ノ生命財産保護上租界ノ警察権ヲ返還サレ度
尚ホ銀行公会・銭業公会モ被捕者ノ釈放、死傷者ノ遺族ノ慰撫及将来斯ル事件ノ発生セサル保証ヲ工部局ニ要求シタリ、斯クテ事件ハ益々紛糾拡大、従来暴徒ハ武器ヲ有セサリシモ、今回ハ支那内地及仏国租界ヨリ供給サレタル形跡アリ、外国人ノ生命財産益々危険ニ瀕シ、続続各所ニ被害発生、工部局並ニ義勇隊ニテハ、租界ノ安寧秩序維持益益困難、遂ニ日米伊ノ陸戦隊上陸シタリ
三日、引続キ各商店ハ閉鎖、罷業ハ遂ニ桟橋苦力ニ及ヒ、銭荘・支那銀行及各取引所一斉ニ休業ヲ発表シ、益々混沌、当地排外行為ハ杭州・南京・漢口・北京・天津等ニ及ハントシ、将ニ支那全土ニ蔓延セントス、而シテ七十余校ノ学生生徒女界国民会議促成会《(マヽ)》、電話会社職員六三紀念大会ヲ催シ、上海租界回収、領事裁判権取消、印刷附律及碼頭捐抗議、商工聯合起来一切不平等条約取消等ヲ記シタル大小旗幟ヲ押
 - 第55巻 p.351 -ページ画像 
シ立テ、示威運動ヲ試ムルノ状態ニ付、人心恟々、紡績会社ノ殆ント全部及学校ハ休業シ、警備ハ充実セス、在留邦人蹶起シテ町内会ヲ組織、自警団ヲ編成スルニ至リシモ、被害ハ毫モ衰ヘス、遂ニ総領事ハ陸戦隊ノ増員ヲ打電セリ
四日、陸戦隊続々上陸シタルト、工部局突然策源地タル上海大学ヲ襲ヒ、暴動及煽動嫌疑者ヲ検挙シ、且ツ赤旗、過激ナル宣伝文ノ押収ニヨリ、暴動団ハ稍々影ヲ潜メ、静寂ヲ装ヒ、剣ヲオサメ、筆舌ヲ専ラニシ、好妙ナル方法ヲ以テ使用人(支那人)ヲ脅迫又ハ煽動シ、罷業ヲ拡大シ、遂ニ支那巡捕及或ル銀行会社ニ及ヘリ、而シテ学生団ハ交渉員陳世交氏ノ名義ニテ、最初ニ発砲セル巡捕ノ処罰、被害者ニ対スル救恤、外人代表ノ謝罪、今後斯ル事件ノ起ラサル保証ヲ提出セリ
五日以来暴行ハ実際峠ヲ越シ衰ヘタルモ、租界外人警官・会審衙門関係外人・衛生局員ノ暗殺、各警察署・電気局・水道局ノ破壊等ノ伝単配布セラレ、租界外ニ於テハ支那側モ保衛団ヲ召集シ、開市機運ノ曙光ヲ認メラレシモ、其反面ニハ罷業愈々拡大シ、工部局ハ仏租界バーリングトン・ホテルヲ露国赤化主義者ノ集合所ト認メ、之レヲ捜索シ不良分子数名ニ退去ヲ命シタリ
六日ニ至リテハ対日・対英外交聯合会開催セラレ、各団体ノ代表者集マリ、国民党ノ首領タル前司法総長、現法政大学校長徐謙氏今回ノ事件ニ対シ同会今後ノ方針ヲ協議シタル結果、左ノ諸項ヲ決議セリ
一、国民対日外交大会ノ名称ヲ国民対英対日外交大会ト改ム
二、上海全市中等学校以上ノ各学校生徒代表者ヲ召集シ、暑中休暇中ニ於ケル対英対日宣伝方法ヲ議ス
三、全国ニ通電ヲ発シ、各地ニ対英対日団体ノ速カナル組織ヲ求ム
四、学生・労働者ノ被殺事実ヲ調査ス
五、特別パンフレツトノ発行
六、馮玉祥ヲ名誉会長ニ推薦シ、対英対日問題ノ協助ヲ乞フ
七、越軋行動ヲ避ケ、謂レナキ印刷物ノ濫発ヲ廃止シ、一定ノ目標ヲ定メ、対英対日ニ関シ他国ノ干渉ヲ免カルヽ様各界ニ通知ス
八、各馬路商会聯合会ニ通知ヲ発シ、各茶館・商店ニ於ケル英日商ノ広告ヲ全部廃除セシム
九、対英対日国恥歌ヲ作製シ、全国学校ニ配付シ、宣伝ニ資ス
又工商学聯合会ハ左ノ解決条件ヲ発表セリ
 一、戒厳令ノ解除ヲ宣布スルコト
 二、海軍陸戦隊ヲ撤退シ、並ニ義勇団及巡捕ノ武装ヲ解除スルコト
 三、被捕華人ヲ全部釈放スルコト
 四、公共租界ニ於テ封鎖及占領セル各学校ヲ原状ニ恢復スルコト
尚ホ交渉ノ正式条件トシテ左記十三項ヲ列挙シタリ
 一、発砲射殺者ヲ懲罰シ支那政府派遣委員立会ノ下ニ処刑スルコト
 二、死傷者・罷工・罷市・学校等ノ直接間接ノ損害ヲ賠償スルコト
 三、英日両国公使ハ両国政府ヲ代表シテ支那政府ニ謝罪シ、且ツ今後此種事件ヲ再発セシメサル保証ヲ与フルコト
 四、工部局書記長ヲ更迭セシムルコト
 五、華人ハ租界ニ於テ言論・集会・出版ノ絶対自由ナルコト
 - 第55巻 p.352 -ページ画像 
 六、工部局ハ華人納税会ト共同シテ工人保護法ヲ設定シテ、虐待スルヲ得ス、並ニ工人ニ工会ヲ組織シ及罷工スル自由ヲ承認シ、又今回ノ罷工ニヨリ工人ヲ解雇スルヲ得ス
 七、警察署ニ華人署長ヲ設ケ、各級巡捕ノ半数ヲ華人トスルコト
 八、印刷附律・碼頭税引上・交易所登録案ヲ撤消スルコト
 九、越界築路ヲ制止ス
 十、会審衙門ヲ撤廃スルコト
 十一、租界ハ条約ニ遵ヒ期限ニ達セハ回収ス
 十二、領事裁判権ノ取消ノ要求
 十三、英日両国駐滬陸海軍ヲ永遠ニ撤退ス
上記各種ノ提案ハ素ヨリ工部局ノ承認スヘキ性質ニアラサルニ付、外交問題トシテ北京政府経由解決ノ外途ナキト想像ス、本件ノ近因ハ南京路発砲事件ナルモ、既ニ久シキ以前ヨリ潜在セル過激思想ト排外思想ヲ有スル者ノ煽動ニ依ルコトハ確実ニシテ、罷業或ハ暴動ノ背後ニ露国共産党系ノ活躍アリ、逮捕セラレタルモノ数名、而シテ資金ハ寄附又ハ脅迫及各地ヨリノ送金ニテ調達セラレ、其額判然セサルモ、罷業・罷市依然継続シ、何時常態ニ復スルヤ全然見込付カサル状態ヨリ察スレバ、相当額ニ達シタルモノナラン、然ルニ各商人及労働者中ニモ生活難ヲ惹起シ、開店従業ヲ希望スルモノ多数アレ共、後難ヲ恐レ雷同スルノ有様ナリ、斯ル危険不安中ニ当店員並ニ家族ニ一人ノ被害者モ生セサリシハ誠ニ幸甚ト云フヘシ
事件発生以来各取引所・銭荘・支那銀行・商店休業セルヲ以テ、市場ハ全ク沈静シ、資金ノ移動少ク金融緩漫ナルモ、為替組合銀行ニ於テハ Native Order 及支那銀行券受入ノ拒絶ヲ協定シタルヲ以テ全ク無商売ノ状態、当地ノ物価殊ニ食糧品ハ非常ニ騰貴シ、本邦輸入品ノ大宗タル綿糸布及ヒ Local Yarn ハ買気潜在スルモ、支那側金融杜絶ニヨリ殆ント取引ナシ