公開日: 2024.12.1 / 最終更新日: 2025.3.16
四三八 竜門雑誌 第四八五号 昭和四年二月 ○青淵先生説話 ○中略 私は今の婦人にかく望む(DKB80064m)
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四三八 竜門雑誌 第四八五号 昭和四年二月
○青淵先生説話
○中略
私は今の婦人にかく望む
私は若い頃、儒教によつて育てられました。つまり支那式の学問をして来たわけであります。
それで婦人に対しての、私の考へを私の流儀から云へば、男は外に女は内にと云ふことになります。そして婦人はどこ迄も貞操の念つよく、又万事に緻密であり、淑やかであらねばならぬ、などと云ふのですから、勇壮に、活溌にといふ現代の流儀とは大分趣を異にしてゐるのであります。
明治戊辰の五個条の御誓文に
「知識ヲ世界ニ求メ大イニ皇基ヲ振起スベシ」
とあります通り、諸外国と交通の盛んな今日、多くの人と交はつて広く知識を取り入れなければならない今日、さうした昔のやうな引つ込み思案は云つて居られません。
○
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明治十八年に伊藤公が内閣を組織された時、大宝令によつて定められた制度を改革して、従来の日本の習慣に、西洋の風習を加味するやうに改められたのが、既にこの時勢に応ずる趣意から出たので御座います。
しかし、只単に文物を改革するばかりでは駄目である。昔のやうに婦人が家の内に引つ込んで居て、人にも余り接しないと云ふ風ではいよいよ日本婦人は社会におくれ、外国の婦人達に劣るところが多いものとなるからといふので、婦人も男子と同様に社交場裡にも出て、外国の人達とも交はるやうにと計つたのであります。その時の男女の、又外国人との交際場として設けられたのが鹿鳴館、即ち今の華族会館であります。
それのみならず、かうした交際を上手にし新しい事物にふれて行くには、学生時代からこれをしこまなければならないと云ふので、その年に女学校(東京女学館)が設立されました。
○
かうした時代にふさはしい婦人を作り度い、又婦人の地位を高め度い、そして外国の人達にも劣らないやうにと――尤もかういふ事は各人によつて思ひ思ひであつたでせうが、いろいろ論議の末、欧風を加味するやうに努めたので御座います。
然し此風習を改めるとか、洋風加味とかいふこともよく静かに考へてからやつて頂かないと、進んで行けと云へば行き過ぎるし、内輪につつましくと云へば、引つ込み思案になり易いですから、余程注意しないといけません。
誰でもさうでありますが、特に婦人は、物に片より易い傾きがありますから、新しい事を学ぶと同時に、古きを忘れてはならないと思ひます。
あまり新しくなり過ぎた婦人、又あまり旧習にとらはれた婦人、これらの方々では、もし家庭に入つても舅や姑との間が円満に治まつて行きますまい。
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婦人として家庭に這入つた以上、どこ迄も舅姑との間をまるく良人にも仕へるやうにし度いものと思ひます。そして皆を喜ばし、自分も共に喜び、何かしら一家に貢献するところがなければなりません。
しかし、これだけでは立派な国民とは云へないのであります。一家を丸く治めると同時に、社会や国のため、力相応、分相応に尽して行かなければなりません。
かうした事を行ふには、世の中に馴れなければ出来ないもので、つまり世の中に馴れると申しますのは、人との交際もよく出来、社会の新しい事もしり、そしてこれを冷静に自分で批判して行く事が出来るとの謂であります。
また西洋の婦人と日本の婦人と較べてみますと、何といつても日本の婦人は知識の点で劣つて居るでせう。そして其知識の劣つて居る事が、兎角日本の婦人を遠慮がちにするやうに思はれます。
この遠慮といふ事も、度を越しますと卑屈に見えるものですから、
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その程合もよく考へ、敢然としたところも併せ持たなければならないのです。かうしなければ、今の世に処して行く時、常に人に後れをとり、人後にとりのこされるやうな事になりがちなものです。
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といつて、あまりのり出し過ぎますと、又ひが目をもつて見られるといふきらひもありませう。兎角ひがんで物を見るのが社会の目でありますから、進退そのよろしきを得て頂きたいのであります。
かう申しますと、大そうむづかしいやうですが、今までは女は動物視されて居りましたが、近来に至つて女も人間である、国民であるといふ事が考へられ、同時に男子と同じ責任がある。又勉強の必要があると認められるやうになつた。と云ふよりも世界の輿論としてかうした事が唱へられて居ると云うてよろしいでせう。
何しろ我国も世界の舞台に乗り出し、各国人と接する機会の多い今の世の中ですから、婦人も広く知識を求めなければなりません。又この聖代に際会して智能を磨き得る婦人は幸福と申さねばならないと思ふのであります。そして進むといつて行き過ぎず、内輪にとつて引込み思案にならないやうに心掛けて頂き度いと思ひます。
主人を主人と思はぬやうな婦人にも困りますが、どうぞ、今の世の婦人は晴れやかな心持のうちにも、強い決心とつつましやかさを失はないやうに心がけて下さい。(向上の婦人六月号所載)