公開日: 2024.12.1 / 最終更新日: 2025.3.16
四四六 報知新聞 第一九〇〇五号 昭和四年一二月九日 入るを計つて出づるを制するが必要(DKB80072m)
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四四六 報知新聞 第一九〇〇五号 昭和四年一二月九日
入るを計つて出づるを制するが必要
精神を緊張して財政を緊縮すべし
子爵 渋沢栄一翁談
現内閣の緊縮政策によつて一般人心がゐ縮してゐるといふことは、しばしば耳にする処ですが、しかし放漫なその場当りのことよりも、現在では
緊縮政策を行ふ外ないと思ひます。勿論、私は現内閣の提灯持ちをするとか、あるひは緊縮政策が絶対によいといふのではありませんが、少くとも現在日本の財政状態からいつて、私一個人の見地からは、現内閣のする事が時宜に適してゐるものと考へます。従つてゐ縮することもありませうが、大いに将来の飛躍の基礎を強固にする為めよんどころないものと思つて、お互が我慢せねばならぬことだと考へられます。明治の初めに行はれた廃藩置県は
実に重大なる政治問題でありましたが、更に当時の財政状態はまことに疲弊の極を極めて居たのであります。当時、井上さんと、私が井上さんの次官格で奔走してゐましたが、どうしても財政の基礎をつくるには緊縮して一般の人気をひきしめるにあると考へたのですが、革新連と意見を異にして私共はやめてしまひました。大隈さんがその後を引受けられたのですが、たまたま明治十年の西南戦争があつて、財政上更に困窮させられ、銀紙の如きも暴落して一円が五十銭にもなるといふ状態です。やがて松方さんが代つて大蔵大臣となつて
緊縮を行つたのですが、私のこの歴史的回顧において、今日の民政党と政友会の政策を対比するとき、歴史は繰返すの感を深める次第であります。処で前に申した如く、一家においても同様で、放漫な家計の整理はどうしても精神的緊張と財政的緊縮とにまたねばならぬのでありますが、この結果、如何にも金の入る道が閉塞されたやうに考へて悲観するのは非常な誤りであります。この不景気に直面した私共は、その家庭生活において、入るを計つて出づるを制すといふ合理的な方策を講ぜねばなりません。若しなかつたら
食はんでもやるといふ覚悟を以てすれば必ず出来るものです。この大勇猛心を奮ひ、精神こめて勉強する、他を顧みずに自己の本分を尽すことであります。これを青年に対していへば相当に人に信を受けるだけの勤めがなければならぬ、この勤めがなければ信用が出来ません。従つて仕事が来ない、世に働きがなくなる。その結果悲観的となりますから、自分の働きを社会に認められるやうにせねばなりません。私は真の俗人ですが、齢九十の今日まで
忠実と親切とをモットーとして終始したつもりです。如何なる人に対しても自己の忠実と親切を欠いてはなりません。この精神こそ金の貯め方、まうけ方の秘訣であり、人生必勝の秘訣だと考へます。