デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年1月（1896年）

栄一、函樽鉄道株式会社創立発起人トナリ、是月小樽函館間鉄道敷設免許ヲ請願シタルモ、未ダ政府ノ方針定ラズシテ却下サル。五月北海道鉄道敷設法公布セラルルニ及ビ、六月再願シ、翌三十年四月仮免状ノ下附ヲ受ケシモ資金募集ニ悩ミ組織未ダ成ラズ。

日本鉄道史　　中篇・第六四〇―六四一頁〔大正一〇年八月〕
　　　　第十四章　私設鉄道
　　　　　　函樽鉄道発起
明治二十二年北海道ニ於ケル鉄道ハ炭礦鉄道会社ノ手ニ移リ同社ハ二十五年八月室蘭線ヲ竣成シタリ、而モ小樽函館間ハ未タ企業界ノ計画ニ上ラザリシカ、二十八年二月ニ至リ京都市大野嘉助外九名ハ北海道鉄道ヲ発起シ、資本金八百万円ヲ以テ小樽函館間一百四十六哩ヲ敷設セントシ、政府ニ請願シテ其興業費ニ対シ八箇年間五分ノ利子補給ヲ求メタリ、而シテ其後発起人ヲ増加シテ渋沢栄一外二十四名トシ、二十九年一月函樽鉄道ノ名称ヲ以テ請願シ、前ニ提出シタル北海道鉄道ノ願書ヲ撤回シタリ、然レトモ当時北海道ニ於ケル線路調査未タ著手セラレズ、随テ敷設方針尚ホ確立セザリシカハ政府ハ函樽鉄道ヲ却下シタリ、同年第九回帝国議会ニ於テ北海道鉄道敷設法案通過シ、五月北海道鉄道敷設法公布セラル、該法ニハ其予定線路中ニ後志国小樽ヨリ渡島国函館ニ至ル鉄道ヲ掲ケタリ、是ニ於テ前ニ請願シタル函樽鉄道発起人等ハ政府ハ之カ官私敷設ヲ決スヘキ秋ナリトシ、六月発起人函館区平田文右衛門外二百名ノ連署ヲ以テ再ヒ函樽鉄道ノ免許ヲ申請シタリ、其線路ハ小樽ニ起リ、忍路・余市・長万部・森ヲ経テ函館ニ至ル約一百五十哩ニシテ、資本金ヲ八百万円トセリ、然ルニ同月函館区田代坦之等ノ発起ニ係ル函湯鉄道〔本章第四節第四参照〕ハ、函樽鉄道ノ企挙ニ拮抗シ、其延長線トシテ函館小樽間ヲ申請シタリ、而シテ政府ハ第十回帝国議会ニ北海道鉄道敷設費予算案ヲ提出セシカ、小樽ヨリ函館ニ至ル線ヲ之ニ加ヘズシテ之カ私設ヲ許可スルノ法律案ヲ提出シ、翌三十年三月三十一日小樽ヨリ函館ニ至ル鉄道私設許可ノ法律ヲ公布シ、四月二十九日函樽鉄道発起人ニ仮免状ヲ下付シタリ

青淵先生六十年史　　第二巻・第一〇〇二頁〔明治三三年二月〕
函樽鉄道株式会社ハ明治廿九年一月、先生及森岡昌純・近藤廉平・加藤正義・原六郎・今村清之助・浅田正文等ノ発起ニ係ル、資本金ハ八
 - 第9巻 p.159 -ページ画像 
百万円ニシテ函館小樽間百五十哩ノ鉄道ヲ敷設セントスルモノナリ、然ルニ金融逼迫ノ為メ一時其計画ヲ中止セリ○下略
　　○北海道鉄道敷設法案ハ明治二十九年二月十日貴族院議員近衛篤麿外二名ヨリ提出シ、貴族院並ニ衆議院ニ於テ修正セラレシ後、三月二十六日両院協議会ニテ可決セラレ、五月十四日法律第九十三号ヲ以テ該法公布セラル、右敷設法ニヨレバ北海道予定鉄道線路ハ旭川・網走間外五線ニシテ後志国小樽ヨリ渡島国函館ニ至ル鉄道亦之ニ含マル、之ガ資金ノタメ三千三百万円ノ公債（五分利）ヲ三十年度ヨリ漸次募集スルモノトス。

青淵先生公私履歴台帳　　明治三十三年五月十日調
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
明治廿九年
一函樽鉄道株式会社ノ発起人トナリ其創立ニ尽力ス
　　本会社ハ函館小樽間ニ鉄道ヲ布設セントスルモノニシテ、其発起人ニ加リ創立ニ尽力セリ、其後金融逼迫ニ際シ一時中止セシカ卅二年ニ至リ其再興ニ助力シ遂ニ会社成立ヲ見ルニ至レリ、即チ推サレテ相談役トナリ現ニ其職ニアリ

中外商業新報　　第四一七〇号〔明治二九年一月一七日〕
　　　　函樽鉄道株式会社発起人の集会
　函館・小樽間鉄道発起人は一昨十五日築地柳花苑に集会を催し先づ委員の選挙をなせしに
　渋沢栄一　森岡昌純　荘田平五郎　近藤廉平　原六郎　今村清之助
　浅田正文　園田安賢《（園田実徳カ）》　阿部興文　阪本則美（以上東京の部）
　平田文右衛門　小川為次郎（以上函館の部）
　竹村藤兵衛　朝尾春直（以上京都の部）
　片岡直温（大阪）　高野源之助（小樽）　対島嘉三郎（札幌）
の諸氏当選し、尚委員長に森岡昌純氏を推し仮事務所を日本橋区新右衛門町に設置することに決して散会せりと云ふ。