デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
8節 製糖業
6款 大日本製糖株式会社
■綱文

第11巻 p.312-316(DK110048k) ページ画像

明治42年1月(1909年)

監査役瓜生震、整理案ヲ立テテ第一銀行頭取タル栄一及ビ三井銀行常務取締役早川千吉郎、三菱合資会社銀行部長豊川良平ニ救済ヲ請フ。栄一等之ヲ拒絶ス。


■資料

日糖最近二十五年史 第一二―一五頁〔昭和九年四月〕(DK110048k-0001)
第11巻 p.312-313 ページ画像

日糖最近二十五年史 第一二―一五頁〔昭和九年四月〕
 ○第一、創業篇
    四、瓜生氏の整理案
○上略
 瓜生監査役は、主として善後の方策に付、日夜尽力、第一銀行渋沢男爵、三井銀行早川千吉郎氏、三菱銀行豊川良平氏に対して救済を求め、大略左の趣旨の立案を為したり。
 (一)、取締役監査役の選定は現在監査役に一任し、第一・三井・三菱銀行の意見を聴き、之を決定する事
 (二)、台湾工場を担保として流通資金三百万円以内を前記三大銀行より借入れ、内、約金弐百万円を以て無担保支払手形の弁済を為す事
 (三)、受取手形諸債務の切捨を要するもの約金四十一万六千四百二十円五十九銭、四十一年十一月、持荷下落の損失金七十万八千円、同年十二月より四十二年四月に至る製品下落損、利息社債利子其の他一切の損失予算金百十五万円、合計金二百二十七万四千四百二十円五十九銭の損失金は、同年度台湾工場の利益金三十万円、内地工場三四両月分利益金十五万円を以て償却し、其の損失残高金百八十二万四千四百二十円五十九
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銭を積立金を以て塡補する事
 而して政府並に債権者に対する支払方法に付、提案したる所を簡約すれば左の如し。
    △負債の部
 大蔵省滞納税金            四、〇四七、〇〇〇円
 無担保預入、債権担保、原料代     五、七四五、〇〇〇
  合計九百七十九万二千円也
    △償却資金
 鈴木商店負担消費税金受取額        四五〇、〇〇〇円
 大蔵省に提供消費税担保定期預     一、二二〇、六〇〇
 受取手形担保処分代金           七九三、六〇〇
 抵当流込動産並に有価証券処分代金     三〇五、五〇〇
 預合関係当社株券処分代金         八七二、八〇〇
 同 勘定元金回収見込額          一八九、八〇〇
 同 提供物件処分代金           二七〇、〇〇〇
 社有有価証券売却代金           四九一、六〇〇
 受取手形代金                五〇、〇〇〇
 製品頭金                 七一七、二〇〇
 原糖頭金                 一一三、八〇〇
 消費税戻税                 一一、八〇〇
 名古屋精糖処分代金            三五七、三〇〇
 株式払込延滞分               六四、〇〇〇
 銀行より預入金            二、五三四、〇〇〇
 営業利益金              一、三五〇、〇〇〇
  合計九百七十九万円二千円也
 而して、明治四十二年三月より四十五年四月迄を四期に分ち、第一期・第二期は各二割五分、第三期は二割二分、第四期に至りて残額二割八分を償却せんとするに在り。而して営業上の利益は内地精糖・糖蜜・対清・対韓輸出精糖並に台湾等を合せて金百五十九万千二百四十円の予算を立てたり。此の整理案は瓜生監査役等の諸氏より債権者会及び大株主会に提出し、数回の斡旋尽力に努められたる結果、総て其の認容する所となれり。時に明治四十二年二月上旬にして、整理は手に唾して成る可しと信ぜられたり。然るに滞納税金担保中当社株券の存在する事に関し一部の物議を招き、遂に台湾工場を債務のため三大銀行の担保に提供する事は政府の同意を得る能はざりし外、其の他にも亦已むを得ざる事情の存するありて三大銀行は金三百万円の貸出を為す事を拒絶せり。是に於て前記整理案は根柢より破壊せられ、整理の前途は暗憺たるに至れり。


渋沢栄一 日記 明治四二年(DK110048k-0002)
第11巻 p.313-315 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四二年
一月十三日 雪 寒甚
○上略 銀行集会所ニ抵リ、豊川・早川二氏ト共ニ製糖会社善後処分ノコトヲ談ス、酒匂・瓜生・藤本三氏ノ依頼ニ応シタルナリ、種々ノ評議アリテ後、明後日午後二時ノ会見ヲ約シ夜飧ヲ共ニシ夜九時散会帰宿
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ス 下略
一月十四日 曇 寒
○上略 午前○中略佐々木氏ニ電話ヲ通シテ昨夜銀行集会所ニ於テ製糖会社ノコトヲ協議セシ顛末ヲ通知ス○下略
一月十五日 晴 風寒
○上略 午後二時兜町事務所ニ於テ大日本製糖会社ノコトニ関シ豊川・早川及酒匂其他ノ監査役四氏ト会見ス、一昨日来調査セシ諸計算書類ヲ一覧シ種々ノ談話ヲ為ス、更ニ他日ノ会見ヲ約ス○下略
一月十六日 晴 寒
○上略 銀行倶楽部ニ抵リ早川・豊川・佐々木ノ諸氏ト製糖会社ノコトヲ談ス、午飧後三時ニ及フ○下略
一月十七日 曇 寒
○上略 午飧二時桂侯爵ヲ三田邸ニ訪フ、豊川・早川二氏来会、日糖会社ノコトヲ談ス○下略
一月二十日 晴 寒
○上略 午後○中略二時半銀行集会所ニ抵リ早川・豊川二氏ト共ニ日糖会社善後案ヲ協議ス、畢テ酒匂其他ノ監査役諸氏ヲ招キテ前来協議セシ決案ヲ通知ス○下略
一月二十六日 晴 寒
午前 ○中略日糖会社ノコトニ付、酒匂・藤本・瓜生諸氏来会ス○下略
一月二十七日 晴 寒
○上略 正午銀行倶楽部ニ抵リテ午飧シ、後早川・豊川二氏ト共日糖会社諸氏ト其整理案ヲ協議ス○下略
一月二十八日 晴 寒
○上略 午前八時桂総理ヲ三田ノ私邸ニ訪ヒ、日糖会社ノコトヲ談ス、豊川・早川二氏来会ス、後井上侯爵ヲ麻布ニ訪ヒ同シク日糖会社整理ニ関シ後任者ノコトニ付談話ス、後銀行倶楽部ニ抵リ又豊川・早川二氏ト会シ井上侯ト談話セシ要領ヲ通ス○下略
一月二十九日 晴 寒風強シ
○上略 午前九時銀行集会所ニ抵リ豊川・早川二氏ト共ニ日糖会社監査役ニ会シテ同会社整理ノコトヲ議ス○下略
二月八日 晴 寒
○上略 十二時兜町事務所ニ抵リ酒匂・瓜生・藤本氏等ト日糖会社ノコトヲ談ス○下略
二月十日 晴 寒
○上略 十二時倶楽部ニ抵リテ午飧シ、食後豊川氏ト日糖会社ノコトヲ談ス○中略二時半兜町ニ帰リ○中略多数ノ新聞紙記者来訪シテ東鉄・日糖二会社ノコトヲ質問セラル○下略
二月十一日 晴 風寒
○上略 午後四時兜町事務所ニ抵リ○中略酒匂常明氏ノ来訪ニ接シテ日糖会社ノコトヲ談ス○下略
二月十二日 曇 寒
○上略 午前十時兜町事務所ニ抵リ瓜生震氏ノ来訪ニ接シ日糖会社ノコトヲ談ス○中略三時貴族院ニ抵リ若槻次官ニ面会シテ日糖会社ノコトヲ談
 - 第11巻 p.315 -ページ画像 
ス ○下略
二月十五日 晴 寒
○上略 午前○中略酒匂常明氏来リ日糖会社ノ近状ヲ談話ス○下略
二月二十一日 曇 寒
○上略 午前○中略酒匂・瓜生二氏来リテ日糖会社ノコトヲ談ス、午飧後尚其談話ヲ為シ○下略
二月二十四日 曇 寒
○上略 午後二時銀行集会所ニ抵リ豊川・早川二氏ト共ニ日糖会社ニ関スル談アリ、酒匂及監査役来会ス○下略


報知新聞 第一一四二九号 〔明治四二年一月二三日〕 日糖整理談(渋沢男の談)(DK110048k-0003)
第11巻 p.315 ページ画像

報知新聞 第一一四二九号〔明治四二年一月二三日〕
    日糖整理談(渋沢男の談)
渋沢男、銀行代表者として曰く『大日本製糖会社の監査役より提供せられし整理案に就き、其の後豊川・早川の両氏と共に鳩首熟議せしが最も困難なる問題は融通資金の点にして、我々商業銀行は回収鈍き固定すべき性質の資金を巨額に貸付ることは到底応じ得ざる次第にして頗る苦心せし点なるも、さりとて会社整理の要点は資金融通の一事に在れば、之に向て援助方法を講ぜざれば幾んど拾収すべからざるに至るが故に、我々は曾て提示せられし個条的の整理案よりも更に具体的に精細に貸借関係を数字的に列挙し、如何なる程度迄援助を与ふれば立ち行くかを見んことを要求し、且つ債権者及株主の意嚮を確むるの必要を希望し置きたり、如何となれば若し三井・三菱及第一の三銀行にて資金を融通することとせんか、債権者は急遽に幾んど無制限に償還を希望し来るべし、斯ては如何に三銀行と雖も其要求に応じ得ざる次第なり、又株主は此後の配当率の如きも不正実なる前記同様か少なくとも一割位の配当は之れあらんと予想するなるべし、然るに五分は愚か無配当を見る時に於ては又々種々の苦情紛出すべし、故に此の二点に就て別様の整理案を要求したり』云々と、因に具体的整理案の件は二十四日の大株主会議に提議せらるべく、監査役藤本清兵衛氏も昨日急遽上京したり


毎日電報 第一八八九号〔明治四二年一月二三日〕 【日糖整理経過 △渋沢男の談】(DK110048k-0004)
第11巻 p.315-316 ページ画像

毎日電報 第一八八九号〔明治四二年一月二三日〕
    日糖整理経過
○上略
△渋沢男の談 今これ等整理始末に就きて、渋沢男の語る所によれば『提出整理案を承認するや否やを決する先決問題として確め置かざる可らざるが(一)債権者の態度及び(二)株主の意向なり、整理に対する予等(渋沢・早川・豊川)は若し引受けを為すとせば既に個人の関係にあらずして、三井・三菱・第一の公関係を生むものなるを以て右大銀行の引受あるが故に会社債権者の総攻撃を受くるが如き事ありては禍を自ら招く如きものにして、又此憂を除く事を得るとするも昨今糖業界の不況に瀕し居れば、予等にして引受を為すも直ちに好況を呈するの理もなければ、従来一割或は二割の配当に馴れたる株主が引受後、僅少の配当或は無配当に帰するに甘ぜず、兎角に非難攻撃の的
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となりては是亦整理実行を遂げ難ければ、若し会社側にして右二難問を確め来らば整理引受けに応ずる考なり云々』


時事新報 第九一一二号〔明治四二年二月一二日〕 日糖善後の成行(渋沢男爵の談)(DK110048k-0005)
第11巻 p.316 ページ画像

時事新報 第九一一二号〔明治四二年二月一二日〕
    日糖善後の成行(渋沢男爵の談)
日糖会社をして破滅に終はらしむるは吾人の忍びざる所にして、出来得る限り援助を与ふる考へなるも、尚ほ充分の調査を遂げざる点あれば、其調査の結了したる暁に於て何れにか決す可し、却説其調査とは如何、(一)無担保債権者中二三の支払猶予を肯ぜざる向もあり、又債権者の一なる神戸鈴木商会が果して如何なる返答に出づるや目下交渉中なるものあり、(二)滞納国税に対して大蔵省が同じく多少の猶予を与ふるや否や、(三)台湾糖と内地糖との課税関係を双方共事実上に打撃を蒙らざる程度に改むるや否や、及び其他二三の廉に就て監査役並びに酒匂社長をして夫れ夫れ調査せしめつゝあり、然し此等債権者並びに政府に対する交渉事件が吾々の希望通りになりたればとて尚直に引受く可らざる事情あり、即ち(五)外国の原料を輸入して精製する我糖業が今後果して相当の利益あるやは大問題に属す、従来は毎度実施せられたる砂糖消費税の引上げを見越しては原料を輸入したるを以て、普通の製糖事業以外の利益を挙げたる事甚だしかりしが、将来に於ては是迄の如く税率の変更も頻繁ならざるべく、従て一時的僥倖を得るの機乏しと見ざるべからず、果して然りとせば将来に於て監査役の具情する如く一俵に付て六十銭の利益あるや否や、吾人は好んで是を疑ふにはあらざるも人の予算想像は往々にして錯誤に出づる事も少なからざれば、尚一層充分の審査を為したる上、愈々相当の利益を見る事を得ば吾人は躊躇なく整理を引受くべし


報知新聞 第一一四五〇号 〔明治四二年二月一三日〕 日糖整理の前途(DK110048k-0006)
第11巻 p.316 ページ画像

報知新聞 第一一四五〇号〔明治四二年二月一三日〕
    日糖整理の前途
日糖会社の整理問題は一難去て一難生じ来り、今や前途に横はる難関の為めに全く一頓挫を告げつゝあるの窮地に陥れり、之に就て渋沢男が往訪の記者に語る処によれば『余人は知らず我輩一個人の考に於ては整理の相談を受けし当初の考と毫も変りなく、誠心誠意一刻も早く整理の実を挙げん事に焦慮しつゝあり、然れども過般提示せられし彼の整理案の如き一向我々をして首肯せしむるに足らず、剰さへ各債権者の意嚮の如きも区々にして第百銀行を始め安宅商店・三井銀行等は支払猶予に承諾を与へず、又鈴木商店との社債償還法の如きも明確を欠き且又大蔵省の未納金延期の諾否及将来の精糖事業に対する政府の方針等も判明せざる有様にして、為めに整理談は行悩の現状なれば整理の曙光を認むるは果して何日なるや、前途暗澹として明言し能はずとて大に悲観的観察を下し、尚内地の精糖業をして不秩序に急激に膨脹発展せしめ而して今日の如き実況に沈淪せしめし原因の一半は、政府課税方法の宜しきを得ざるに基きしものにして再三税率引上毎に当業者は前途の高直を見越し、不知不識の間に生産過多を来せし所以なり云々。』