デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年8月9日（1899年）

是日栄一、当会社発起委員会ニ臨ミ、会社設立ノ大綱ヲ協議ス。

渋沢栄一　日記　　明治三二年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
五月十三日　晴
朝数多ノ来人ニ接ス、午前十一時芝公園内大江卓氏ヲ訪ヒ、尾崎・前島諸氏及大沢中佐ト韓国京釜鉄道ノ事ヲ談ス○下略
　　○中略。
七月九日　雨
午前十時桂陸軍大臣ヲ官邸ニ訪ヒ○中略京釜鉄道ノ起業ニ関シ政府ノ意向如何ヲ問フ○下略
七月十日　雨
此日ハ京釜鉄道ニ関シ委員会ヲ開クノ約アリシモ、病ノ為出席ヲ得サルニ付、書ヲ送テ之ヲ謝ス○下略
　　○中略。
七月十三日　曇
○上略
此日京釜鉄道ニ関シ山県総理大臣邸ニ会同ノ事アリシモ、時間差支ユルヲ以テ出席セス
　　○中略。
七月廿六日　曇
○上略　午後一時山県総理大臣ヲ訪フテ京釜鉄道ノ事ヲ談話ス○下略
　　○中略。
八月九日　晴
午前九時、三十間堀杉山市松宅ニテ京釜鉄道創立委員会ヲ開ク、尾崎三郎《（尾崎三良）》・前島密・竹内綱・井上角五郎ノ諸氏ト会話ス、鉄道会社設立ノ方法ニ付テ種々協議スル処アリ、最後ニ総額ノ資金ヲ二千五百万円ト仮定シ、内五百万円ハ民間ヨリ募集スルモノトシ、他ノ弐千万円ハ政府ノ保証ヲ以テ外国債ヲ募集シ、而シテ民間ヨリ払込ミタル五百万円ニ対シテハ政府ヨリ年六歩迄ノ利益補給ヲ為スモノトシテ、其手続ヲ略記シ内閣ニ提出スヘキ事ニ決ス、其起草ハ尾崎三郎氏之ニ任スル筈ニテ退散ス○下略
　　○明治三十二年二月京釜鉄道線路踏査ノ為メ大江卓・逓信省作業局技師久野知義・参謀本部陸軍中佐大沢界雄等渡韓シ、実地踏査五十余日、同年七月設計線路図及建設費概算書等報告セシガ、資本金総額ハコノ報告ニ依拠シテ決定サレタルモノナリ。大江卓記「京釜鉄道線路踏査報告」参照。

 - 第16巻 p.382 -ページ画像 

東京経済雑誌　　第四〇巻第九八九号・第二五八頁明治三二年七月二九日
　　　　○京釜鉄道の設計
京釜鉄道発起人渋沢栄一・大倉喜八郎・豊川良平・尾崎三良・竹内綱等の諸氏は過般来屡々集会して其設計を定めたるに、参謀本部及外務省も粗ほ是れに同意したる由なるが該設計の大要は左の如しと云へり
　一　資本金を二千五百万円と為し、一株五十円として、第一回に五円を払込ましむる事
　二　五朱の補給利子を政府に請求する事
　三　資本の幾部分は外債に頼らざる可らざるを以て、政府の保証を請ふ事
　四　釜山は海洋より砲弾到着距離内にあるを以て、釜山鎮を基点とし釜山鎮には堅牢なる倉庫を設くる事
　五　鉄道用地は韓国政府より借受くる事となり居れるを以て、成るべく広き地域を借受け、停車場内に倉庫及商館を設置し、商業を隆盛ならしむる事
　六　狭軌鉄道を敷設して列車の幅を広軌同様にするも顛覆の憂無きは参謀本部の調査に依るも確実なるを以て、狭軌鉄道と為す事
　七　工事費は一哩八万円と見積る事