デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治28年9月26日（1895年）

是日第四回定期会第二日ノ会議ニ於テ、堺・広島両会議所ノ提案ニ係ル、万国博覧会開設ヲ建議・請願スルノ件上程セラル。栄一特ニ委員ヲ設ケズ各会議所ニ於テ自由ニ考慮スベキ旨ヲ述ブ。栄一ノ主張ノ如ク決定ス。

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会報告　　第三三―三六頁　刊
○第九号議案　　堺商業会議所提出
　　万国博覧会開設ノ件
外国貿易ノ振張及内地商工業ノ発作ヲ幇助奨励センカ為メ、我国ニ万国博覧会ヲ開設セラルヽヲ必要ト認メ、農商務大臣ニ建議シ、貴衆両議院ニ請願スル事
　（理由）外国貿易ノ振張ニ、内地商工業ノ発作ニ籌画経営シ、以テ国家永遠富強ノ基礎ヲ立ルノ一日モ忽カセニスヘカラサルハ、玆ニ喋々ヲ要セス、殊ニ今ヤ東洋ノ平和ヲ克復セラレ、我国ハ之ガ盟主タルノ地歩ヲ占ムルニ至リタルヲ以テ、将来一層力ヲ玆ニ致サヽルヘカラサルナリ、而シテ之カ手段トシテ採択実行スヘキ要件ハ固ヨリ一途ニアラサルヘシト雖トモ、其方法ノ一トシテ、我国ニ万国博覧会ヲ開設セラルヽヲ必要ト認メタリ、果シテ之ヲ開設セラレタルトキハ、博覧会其物ノ性質トシテ、内外各国ノ製産品ヲ一場ニ蒐集シ、彼此校較審案スル上ニ於テ、相互ニ利益スル所勝テ数フヘカラズ、其結果ハ内国製産品ノ改良、輸出販路ノ拡張等諸般ノ便益ヲ獲得シ、以テ外国貿易ノ振張、内地商工業ノ発作ヲ幇助シ、著大ナル効顕アルヘシト認信ス、果シテ然ルトキハ、国家永遠富強ノ基礎此ニ於テ乎自ラ確立スルノ日ニ会スルヤ疑ヒ無シ、而シテ其開設ノ時期、会場ノ位置、出品ノ種類及諸般ノ設計、経費予算等ヲ定ムルニハ且ラク当路ノ経営ニ任スト雖モ、可及的速ニ此等ノ諸件ヲ決定シテ本会ヲ開設セラレン事ヲ切望シテ止マサルナリ
○中略
○第十二号議案　　広島商業会議所提出
　　数年ノ後ヲ期シテ万国大博覧会ヲ本邦ニ開設アラム事ヲ政府ニ開申スル事
我国輓近国力増進ノ効果大ニ海外貿易ノ気勢ヲ加ヘ、加フルニ日清事変発生以来国勢発揚ノ及フ所、今ヤ彼国肆店本邦商品ヲ排陳セサル者ハ相衒フノ資ナキヲ感スルニ至レリ、然リト雖トモ東西傜俗ノ等シカラサル、毀誉褒貶尚ホ多ク其要ヲ得スシテ、未タ以テ彼等満腔ノ嗜好愛玩ヲ惹クコト能ハサル者アルカ如シ、是ノ時ニ当リテ彼等諸洲ノ人
 - 第22巻 p.35 -ページ画像 
ヲシテ本邦美俗ノ真情ヲ解セシメ、工芸美術ノ精髄ヲ暁ラシメムハ、其道一ニシテ足ラスト雖トモ、玆ニ数年ノ後ヲ期シテ万国大博覧会ヲ開設シ、以テ広ク彼等ノ出遊観風ヲ誘致シ、厚ク彼等ノ目撃耳触ニ訟フアラム乎、其影響ノ及フ所効果決シテ戸説家諭ノ比ニ非ラサルナリ是レ本案ヲ提出シテ以テ本会ノ評決ヲ求メムト欲スル所以ナリ、若夫其施設方法並準備等ニ至リテハ聊其説無キニ非ラズト雖ドモ、要ハ暫ク之ヲ我政府有司ニ一任スル所アルヲ可ナリトス

明治二十八年九月開設
第四回商業会議所聯合会議事概録　　第二七―二九頁　刊
　　　○第二日　〇九月二六日午前九時一〇分開議
○上略
会長（奥田正香君）　○中略　第九号議案ノ第一読会ヲ開ク、之レハ広島ノ十二号議案ト大同小異ナルヲ以テ、両会議所ヲ提出者ト見做シ、併セテ議セン
　書記長朗読
　　第九号議案・第十二号議案　　（堺・広島提出）
　　　　万国博覧会開設ノ件
第三十七番（水登勇太郎君）　堺提出案ニハ開設年限ノ事ナシ、広島ハ数年ノ後トアルガ、定メテ何カ御意見アラン、蓋シ堺会議所ノ意見トテモ直チニ開設スルニハアラザルベシ、其場処及ビ経費等ニ就テノ御考ヘアラハ承マハラン
第十一番（柴谷武次郎君）　慥カニ何年ヲ期シテ開クト云フコトハ予定シ難シ、又場処ヲ撰択スルモ至極困難ナリ、是等ノ事実ハ嘗テ一回モ開設シタル事ナキヲ以テ、何レヲ模範トスベキヤ当会議所ニ於テモ種種調査ヲ試ミタレ共猶判然セズ、政府ニ於テスラモ取調ヘハ困難ヲ感セラルヽ位ナレバナリ、併シ大博覧会ヲ開クハ頗ル必要ト認メタルヲ以テ、政府ニ建議シ置キタシト云フ意見ナリ
第四十番（松本九郎右衛門君）　広島会議所ニテモ未タ経費・場処等ノ調ベナシ、兎ニ角之ヲ開設スルハ必要ナル事ト認メタルヲ以テ、玆ニ提出シタルモノナリ、又数年後ト書シタルハ到底一年・二年ニテハ開設スル能ハズ、何レ十年・七年ノ後ナラデハ調査及準備等モ行届カサルモノト思フガ故ナリ
第四十四番（門司軌君）　本案ニ付テハ博多会議所モ既ニ政府ニ向テ建議シタル事アリ、経費トカ何年ノ後トカト云フ如キハ定ムル能ハズ、只政府ニ注文シ置クガ宜シ、本案ヲ賛成ス
第五番　浜岡光哲君）　此事ニ付テハ日本現時ノ社会発達ヨリ申セバ勿論賛成セザルベカラズト雖トモ、苟モ聯合会ニ於テ之ヲ定メントセバ充分ニ順序ヲ立テヽ調査セザルベカラズ、漠然ノ中ニ決スルハ甚タ不可ナリ、宜シク提出会議所ナリ又ハ重ナル会議所ニ委托シテ調査ヲ遂ゲ、而シテ後ニ之レガ議決ヲナサン事ヲ望ム、抑モ万国博覧会ノ事タル、六十年前英国ニ開設シタルモノヲ以テ嚆矢トス、近時ニテハ仏国ノ専有物ノ如クナリテ、其結果ニ於テモ何時モ仏国ハ充分ニシテ他ノ国ハ之レニ劣レリ、此ノ如キ有様ナルニ、此日本ガ之ヲ開設セントスルニハ深ク注意ヲ要スルナリ、又開設期ノ如キモ已ニ明治三十二年ニ
 - 第22巻 p.36 -ページ画像 
ハ仏国ニ開設セラルヽノ風聞アルヲ以テ、我国ニテ開カントセバ必ス其後ニ開設セザルベカラズ、又仏国ニテ経費千万円ヲ要ストセバ、我国ニテハ弐千万円ニテモ不足ヲ感スル位ナラン、勿論之ヲ開設スルニ就テ、各会議所ニ委員ヲ撰ミ充分ノ運動ヲナシタランニハ、大好結果ヲ得ルヤモ知ルベカラズ、吾国ハ山水明媚、自然ノ一大美術国ナレバナリ、何分事重大ニ属ス、深ク思慮ヲ回ラシテ調査シタル上ニテ我政府ニ建議スルコトニ致シタシ、夫ノ「サイベリヤ」鉄道ノ如キモ既ニ数年ヲ出ズシテ全通スベシ、内ニ在テハ大阪ノ築港、東京ノ市区改正モアリ、国ノ進歩上大ニ便利ヲ得ル処アルニヨリ、宜シク責任ヲ負ンテ調査スルコトヽシ、即チ本案ハ未決ノ儘ニテ調査委員ヲ設ケラレン事ヲ望ム、敢テ御賛成ヲ乞フ
第二十七番（三浦碧水君）・十四番　須永信夫君）ハ五番ニ賛成ス
第一番（渋沢栄一君）　五番ノ委員ト云フハ宿題ト云フノ意ナル歟、若シ調査ノ上ニスルガ宜シトセハ、各会議所ハ責任ヲ負ンデナサヽルベカラズト雖トモ、之ヲ会議所ニ持帰リテ、其会議所ガ不必要トスル個所モアリタランニハ、他ノ委員タル各会議所ハ甚タ迷惑ナリ、故ニ委員ヲ撰マズ、会議所各自ノ考ニ任ス方ガ宜シカラン、廃案トナスハ提出者ニ対シ忍ヒサルコトナレ共、斯ル未来ノ事ヲ日進月化ノ今日ニ於テ委員ニ附托スルハ早計ナリト云ハザルベカラズ、五番ト意思ハ同様ナルモ、寧ロ委員ヲ設ケサルガ宜シト思考ス
第十八番（貝塚卯兵衛君）・第九番（亀岡徳太郎君）・第十七番（伊藤伝七君）ハ一番ノ説ヲ翼賛ス
第五番（浜岡光哲君）　委員ニ托スルト云フハ畢竟一番ノ説ト其主意ニ於テ異ナル所ナシ、只本員ハ委員ニ托シテ調査ヲナサントスルニ、一番ハ委員ガ困ルカラト云フノ差アルノミニシテ、此建議案ヲ重ンスルニ至テハ則チ一ナリ、要スルニ充分材料ヲ集メテ精密ノ調査ヲ遂ケントスルニ外ナラス
会長（奥田正香君）　採決セン、一番ト五番トハ其主旨大同小異ナリ、故ニ別ニ委員ヲ設ケス、宿題トスルニ決シテハ如何
　　　（満場異議ナシ）
会長（奥田正香君）　然ラハ本案ハ宿題トナシ、各会議所ニテ調査ヲナシ、次会ニ討議スルコトニセン
　　　○本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年十二月二十三日ノ条参照。