デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月11日（1899年）

是日第八回定期会第一日ノ会議ニ於テ、前回定期会ヨリノ継続案タル鉄道国有案上程サレシガ、提出者タル京都商業会議所ヨリ撤回セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会報告　　第一五―二五頁　刊
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○継続議案第二号
　鉄道国有附実業振興ノ意見　　　　　　（京都商業会議所提出）
　　理由　本邦国防及経済上ノ状態ニ徴スレハ、目下鉄道ヲ国有トスルノ尤モ凱切ナル問題タルヲ認メ、玆ニ別紙ノ三案ヲ具シ、甲号ニハ本案ノ意見ヲ列叙シ、乙号ニハ之ニ関スル法津上ノ意見ヲ明ニシ、丙号ニハ私設鉄道買収方法ノ大要ヲ示シ、以テ会同諸氏ノ参考ニ供シ、攻究一番邦家百年ノ長計ヲ定メント欲ス、之レ本案提出ノ理由ナリ
（別紙）
　甲　鉄道国有附実業振興ノ意見
　　国家ノ要務ハ現世益々多キヲ加フト雖トモ、其影響ノ著大ナル鉄道事業ノ如キモノハ蓋シ稀ナリ、然リ故ニ国運ノ隆替ハ繋テ鉄道事業ノ興廃ニ在リト謂フモ誣言ニアラサルヘシ、宇内列強ノ思ヲ爰ニ潜メ力ヲ爰ニ集ムル恂トニ故アリト信ス、翻テ本邦鉄道ノ現状ヲ観察スルニ転タ浩歎ノ至リニ堪ヘサルモノアリ、請フ左ノ順序ニ因リテ聊カ所見ヲ陳セン
　　　　第一章　民業鉄道ノ弊害
　　我国ノ既設哩数ハ官業民業合シテ二千八百三十哩、本免状下附ノ分若クハ工事中ノモノ三千百五十四哩、仮免状下附ノ分千九百五十八哩、総計八千〇五十四哩ニシテ、会社ノ全数ハ鉄道局ヲ合シテ一百十三トス、今此総哩数ヲ社数ニ平均スレバ一社ノ有スル線路ハ僅ニ七十一哩ニ過ギス、此ノ如キ営利会社各所ニ割拠シテ随意ニ運動シ、私利汲々トシテ只及ハサラン事ヲ勉ム、又何ノ遑アツテカ公益ヲ顧ミン、於是速力遅緩、貨物ノ渋滞、接続時間ノ不適合、又ハ貨車汽関車ノ過不足トナリ、各社利害ノ反スル所往々其間ニ確執ヲ生シ為メニ旅客荷主ノ被ムル不便ト損害トハ実ニ言フニ忍ビザル者アリ、其他各社間ニ於ケル計算事務ノ煩雑ナル事並ニ巨多ノ人力ヲ徒費スル事等ハ論ヲ待タス、工事ノ脆弱、器械ノ不良、若クハ同盟罷工等ノ危険モ亦此小会社分立ノ弊害ト謂ハサル可カラス、曩ニ英国ハ二百七十有余ノ小鉄道会社ヲ併合シテ六大会社ヲ造リ、仏国ハ四十八ノ小会社ヲ合併シテ六大鉄道会社ヲ成シ、米国ハ十有一ノ独立線路ヲ合セテ紐育中央鉄道ヲ組織シタルノ顰ニ傚ヒ、我邦モ亦二・三ノ大会社ニ統合セントスルノ議アリト雖トモ、如此ハ我国情ニ於テ却テ至難ノ業タルヲ疑ハス、寧ロ此際国家的ノ観念ヲ持シテ法律ノ力ヲ用ヒ一般国有ト為スノ勝レルニ如カス、況ンヤ下章ニ論スル如ク改正条約実施ノ上ニ就テ其絶対的ノ必要ナルヲ認ムルニ於テヲヤ
　　　　第二章　官業鉄道ノ利益
　　「カント」派、若クハ「マンチエスター」派哲学者ハ国家ノ職務ヲ不当ニ狭隘ナラシメ、一国政府ヲ以テ恰モ其境域ノ安寧ヲ保障スル哨兵ト同一視セリ、此ノ如キ陳腐ノ陋見ヲ去ラバ、社会交通ノ最大機関タル鉄道事業ハ正ニ是レ国家本来ノ事業ニ属シ、決シテ私人的事業ニ適当セサルヲ知ルニ足ラン、抑モ鉄道ノ事業タル官業タルニ適シテ民業タルニ適セサル事ハ事業本来ノ性質ニ照シ
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テ明カナリ、夫レ一国ノ交通機関ハ尚人体ノ脈管ノ如シ、脈管ニシテ故障ヲ生センカ循環ノ不調ヲ呈ス、交通機関ニシテ貫聯セスンハ則チ商工業ノ発育ヲ阻害シ、国務ノ緩急ヲ制スル事能ハサルハ必然也、之ヲ以テ国家活動ノ作用ハ交通機関ノ完備ニアリ、而シテ交通機関ノ完備ハ命令ノ一主脳ニ出ツルニアリ、国有鉄道ノ利益ハ実ニ此ニ存ス、故ニ鉄道ヲシテ個々分立セシムルハ、即チ交通機関ノ主脳ヲ分立セシメ命令ヲ区々ナラシムルト一般、脈絡ノ乖離運輸ノ杜絶百弊自カラ生センノミ、仮令法令ヲ以テ多少ノ制限ヲ加フルト雖トモ、各自ノ利害休戚素ヨリ同シカラス、曷ソ画一ノ統合ニ由リ完全ナル目的ヲ達スル事ヲ得ン、加之鉄道ノ国有ハ社会交通ノ最大機関トシテ、完全ナル任務ヲ挙クルト同時ニ不動ノ純益ヲ以テ国庫ノ歳入ヲ期スルニ在リテ、国家ノ財政策トシ他ニ比類ナキ適当ノ財源ト為ルモノナリ
　　　　第三章　改正条約履行ノ為メニ鉄道国有ヲ敢テセサル可ラス
　　鉄道ヲ軍事上若クハ行政上官業ヲ利トスル所以ノ理ハ炳トシテ火ヲ視ルカ如シ、加之近時我商工業者一般ニ其生産資本ニ涸渇スルヤ只管外資輸入ヲ翹望シ、外人ヲシテ我鉄道株式ヲ買収セシメント企ツルモノスラ之レアルニ至レリ、今日事ノ実際ニ於テ此等ノ事早急ニ行ハレサルヘキモ、暮年ノ後新条約実施ノ効力ハ遂ニ我鉄道株式ヲシテ之ヲ外人ニ所有セシムルニ至ルヤ必然ノ勢ナリ、蓋シ現時我国ノ如キ低廉ナル而モ必ス他日ニ望ミアル鉄道株式ハ彼ノ資産豊富ナル二・三ノ外商ノ為メニ大ヒニ買収策ヲ講セラルルノ懼アリ、若シ不幸ニシテ事玆ニ至ラバ鉄道事業利益ノ壟断ハ即チ運賃ノ引上ケト為リ輸兵ノ障害ト為リ、将タ鉄道行政上ノ煩雑ト為ルヤ当然ノ事トス、看ヨ独逸・露西亜・白耳義其他ノ諸国ノ如キハ断乎トシテ国有主義ヲ採リ、既ニ民業鉄道ヲ買収シ又買収シツヽアルニアラスヤ、洵ニ我帝国ノ鑑戒スヘキ点トス、論者或ハ言ハン外人我株式ノ買収ヲ始ムルトキハ株価忽チ騰貴シ其騰貴シタル株式ヲシテ彼等ニ買収セシム、又何ソ畏ルニ足ラント、然レトモ其騰貴シタル日ニ於テ株式ハ既ニ彼等ノ掌中ニ帰シアルコトヲ想ハサル可ラス
　　　　第四章　鉄道ノ経済上ニ及ホス観察
　　我国現今ノ経済界中資金ヲ吸集スル夥シキモノハ銀行・紡績・鉄道等二・三ノ事業トス、而シテ諸他ノ工業会社ハ漸次頽敗ノ兆候アリ、由之観之我国ノ鉄道ハ基礎鞏固ナルカ如シト雖モ是レ決シテ然カルニアラス、観ヨ無数ノ小鉄道会社ハ資本富饒ナラサルカ為メ株式市場常ニ投機者流ノ為メニ翻弄セラレ、彼等カ射利ノ犠牲ト為ル事多キニアラスヤ、此一事以テ其基礎ノ薄弱ナルヲ知ルニ足ルヘシト雖モ、近来資金ノ玆ニ流入セラレタルモノ又其故ナクンハアラス、如今我邦事業界中経営シテ尚ホ巨利ヲ博スヘキ望ミアル者尠ナシトセス、然レトモ進テ之カ企画ノ任ニ当ルモノナキハ一ニ現時経済ノ不良ニ原因セズンハアラス、然リ今ヤ日歩三銭ヲ呼ブノ金利ヲ以テ又何ヲ以テカ事業ノ振興ヲ望ムヘケンヤ、偶々事業ニ着手スルモノハ資金涸渇金利暴騰ニ原因シテ挫折ヲ招
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カサルモノハ殆ント稀ナリ、為メニ国民ノ起業心ヲ阻喪セシメテ事業ノ経営ヲ避クルニ汲々タルノ有様トナレリ、之ニ代フルニ鉄道ハ創設以来玆ニ年アリ、仮令収利ノ大ナルモノアラサルモ不慮ノ損害ヲ蒙ムル事尠ナク、漸々利益ヲ増進スル事ハ既往ノ経歴ニ徴シテ明白ナルヲ以テ、唯タ之レノミニ資金ヲ注入シ姑息ノ安キヲ偸ムノ盗産家漸ク多キヲ加ヘ、延テ一般工業不振ノ傾向ヲ示スニ至リタルコトハ蓋シ蔽フヘカラサルノ事実ナリ、故ニ鉄道資金ノ増殖ハ鉄道基礎ノ鞏固ナルヲ示スモノニアラスシテ、却テ一般工業不振ノ結果ヲ表彰シタルモノト謂ハサルヲ得ス、嗚呼我国工業ノ現状此ノ如ク、鉄道ノ基礎斯ノ如ク薄弱ナリ、豈ニ浩歎ノ至リナラスヤ
　　　　第五章　鉄道国有ヲ論シテ実業ノ振興ニ及フ
　　我国鉄道ヲ経済上ノ方面ヨリ観察スレハ基礎ノ薄弱ナル事斯ノ如シ、今ヤ目前ニ迫マル改正条約実施ノ暁ニ至リテハ、彼ノ富豪ナル外人ニシテ利益壟断ノ目的ヲ以テ内地商工事業ニ放資スルモノ必ス寡ナカラザルヘシ、夫レ欧米ハ我国ニ比スレハ其金利頗ル低廉ニシテ国富ノ程度ニ於テモ我ニ優ル事啻ニ数等ナルノミナラス従テ富豪ノ多キモ遠ク我ノ及ハサル所ナリ、之ヲ以テ彼ノ低利ナル大資本ヲ以テ内地ニ来リ、今日ノ如ク金利高クシテ事業頽敗シ諸種ノ株券暴落セルノ秋ニ当リ大ニ買収策ヲ講スルモノアラハ、一挙ニシテ彼等ノ巨利ヲ博スル事決シテ疑ヲ容ルヘカラス、特ニ鉄道ノ如キハ他ノ工業ニ比スレハ危険ノ憂少ナキヲ以テ、資金ヲ玆ニ集注シテ買収ヲ為サントスル形跡ノアルハ吾人ノ目撃スル所ナリ、斯ノ如クンハ何ヲ以テ我国経済ノ秩序ヲ維持シ国民ノ幸福ヲ期スル事ヲ得ンヤ、夫レ然リ大資本ノ小資本ヲ圧倒スル事ハ経済ノ原則ナレハ、我国ノ商工業ヲシテ彼ト対立セシメンニハ先ツ資本ヲ豊阜ニシテ金利ヲ低クシ、以テ其基礎ヲ確立セシメサル可ラス、之ヲ求ムルノ途果シテ如何、今ニ於テ鉄道公債ヲ外国ニ募リ一定ノ年限間ニ全国ノ鉄道ヲシテ国有タラシムルヨリ良キハナシ、何トナレハ我国鉄道払込金ハ其額殆ンド壱億万円ニ上ルヲ以テ、今之ヲ政府ニ買収スルトキハ数億ノ資金ヲ要スベシト雖トモ此買収シタル資金ハ漸次民間ニ流動シ、所謂資金豊阜金利低落ノ力ヲ得テ一般商工業ヲ発揮スルニ至ルハ自然ノ結果ニアラスヤ、爰ニ列国ト商工業ノ輸贏ヲ争フ事ヲ得ベク、鉄道ノ基礎モ亦従テ鞏固タル事ヲ得ベシ、此ノ如ク一定ノ年間ヲ期シ外資ヲ入レテ鉄道ヲ国有ト為シ、以テ資金ノ潤沢ヲ計リ、而シテ実業ノ振興ヲ促スハ我国現時ト将来トノ得策ナル事ヲ確信スルモノナリ、蓋シ確固タル財源アリテ而シテ外資ヲ入ルヽハ毫モ憂ナキナリ、現ニ米国ヲ見テ知ルベシ、殊ニ近年米作ノ凶歉ニ逢ヒ大ヒニ其輸入超過シタル不測ノ災厄アルニ際シテハ、正貨準備ノ基礎ヲ防守スル方法トシテモ亦外債ヲ募ルノ已ムヲ得サル手段タリ、上ニ述フルカ如ク国有鉄道ハ国庫ノ収入ヲ増加シテ運輸交通ヲ速カニシ、又軍事上ノ政策ヲ便利ニスル等私有鉄道ト日ヲ同フシテ論ス可ラサルナリ、況ンヤ戦後ノ経営、改正条約実施ノ準備トシテ経済上国家
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百年ノ長計ヲ立ツル必要アル今日ノ国情アルニ於テヲヤ、当局者タルモノ此際一大英断ヲ以テ国有策ヲ断行セラレン事ヲ望ム
　乙　私設鉄道買収法律案ニ関スル意見
　　鉄道国有ハ実ニ我国現下ノ最大要務タルヲ是認スルト同時ニ、之レカ実施手段トシテ私設鉄道所有権褫奪ノ形式ニ欠クベカラサル法律案提出ノ必要ヲ認ム、然レトモ世或ハ鉄道国有主義ノ実施ヲ絶対的ニ賛助スルニ拘ハラズ、私設鉄道会社ノ既得権侵害ヲ危懼シ、此ノ如キ法律案提出ヲ当局者ニ促カスノ挙ヲ遅疑スル者ナキニアラズ、吾人豈ニ多少ノ弁ナキヲ得ンヤ
　　抑モ社会進化ノ沿革ニ徴スレハ、所有権ナルモノハ洵ニ社会ノ経済的進化ニ伴フ法律ノ創造物タルニ外ナラザルモノナレハ、国家必需ノ場合ニ莅ミ之レカ褫奪ヲ行フハ国家ノ権力ヲ至当ニ適用スル所以ニシテ、所有権本来ノ性質ニ適合スルモノトス、彼ノ憲法第二十七条ニ依リ所有権ノ鞏固タル所以ノ理ハ、国家ノ権力ノ適用ヲ制限若クハ抑制スル所以ノ理タルニ非ラズシテ、国家ガ其権力ノ適用ヲ為サント欲スル場合ニ在リテハ、必スヤ一定ノ形式ニ準拠スルコトヲ要スル為メナル耳、故ニ今国家カ公益上ノ必要処分ヲ是認シ私設鉄道会社ニ対シ其鉄道所有権ヲ褫奪スルモ所有権不侵ノ原義ニ背反スルモノニ非サルノミナラス、私設鉄道会社ハ正ニ私設鉄道条例第三十五条ニ依リ国家ニ対シ一定ノ期間内鉄道営業ヲ継続シ得ル既得ノ権利ヲ有スルモノナリト主張スル事ヲ許サルヽ所以ナリ、然レトモ此ノ如ク私設鉄道会社所有権褫奪ヲ決行スルニ毫末差閊ヘアルヘキ理ナキニ拘ハラス、之ヲ決行スルニハ一定ノ形式ニ準拠スヘキ事ヲ明言シタルニ過キス、是レ実ニ所有権ノ鞏固ナル、憲法ノ保証アル所以ニシテ、苟モ其形式ニ準拠セハ所有権褫奪ノ容易ナルハ現ニ明治廿五年法律第四号鉄道布設法カ、同廿年公布第十二号私設鉄道条例ニ対スル効力ニ徴シテ最モ明白ナリ、則チ鉄道布設法第十一条ニハ「既成私設鉄道ニシテ第二条ニ依リ敷設スヘキ線路ノ為メ買収ノ必要アリト認ムルモノハ、政府ハ其会社ト協議ノ上価格ヲ予定シ帝国議会ノ協賛ヲ求ムヘシ」トアリテ、所謂私有ノ物件ト権利トハ国家ノ必要アル場合ハ之ヲ褫奪スル事ヲ憚ラス、然レトモ其損害ニ至リテハ敢テ之ヲ賠償セスト謂フニアラサルナリ、換言スレハ国家ハ臣民ニ対シテ公平ヲ保持スルノ責メヲ負フモノナレハ、一個人ノ財産ヲ故ナク官没スル事ヲ為サス、只タ物件ト権利トハ公益ノ為メ買上ヲ為ス事アルモ、其代価ニ至リテハ之ヲ支弁スト云フニ在リ、是ヲ以テ私設鉄道会社ノ私設鉄道条例ニ依リ一定ノ期間鉄道営業ヲ継続シ得ルハ、公権ニ対スル鉄道私有ノ既得権ヲ有スルカ為ニアラサルヤ論ヲ待タス、国家カ一朝公益上ノ必要ヲ認ムルトキハ之ヲ褫奪スルニ蹰躇セサル所以ヲ闡明シ去リテ毫末ノ疑義ヲ存セス、鉄道敷設法ニ照スモ其事甚タ顕著ナルモノトス、各国ニ於ル鉄道法又ハ私設鉄道特許状ヲ見ルニ、多クハ国家必要ノ場合ニハ買上ヲ為ス云々ノ明文ヲ存スルモ、我邦ノ法条ニ此事ヲ見ズ、於是乎多少ノ疑義ヲ生ズルガ如シト雖トモ、此場合ニ於テハ憲法第廿七条第
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二項ニ鑑ミ個人ノ所有権ヲ制限スルニ於テ立法権ノ不覊ヲ認定セザル可ラズ、是ヲ以テ吾人ハ鉄道国有並ニ実業振興ニ関スル意見ニ於テ私設鉄道買収ヲ実施センガ為メニハ、必要ノ形式タル法律案ノ提出ヲ望ミ、殊ニ鉄道敷設法第十二条ノ如キ規定即私設鉄道買収ノ費用ハ公債ヲ発行シ、其代償トシテ公債ヲ与ヘ、又ハ代金ヲ其会社ニ交付スルノ規定ヲ設ケ、速ニ私設鉄道買収ヲ決行セラレンコトヲ促カシタル所以ナリ、普国ニ於テハ私設鉄道一年間ノ平均純益ヲ二十五倍シ、其額ニ対スル公債ヲ以テ年四朱ノ利子ヲ附与セリ、其買上ノ方法順序等ニ至リテハ政略ト経済トノ問題ニ属スレハ当局者自カラ成竹アラン、要ハ唯適当ナル私設鉄道買上法ヲ速ニ創造セラレン事ヲ望ムニ在リ
　丙　私設鉄道買収法私案
　　一　国防上及経済上必要ナル全国ノ私設鉄道ハ凡テ買収スル事
　　二　買収年限ヲ五ケ年トシ、枢要ナル縦貫線ヨリ始メ漸次必要ナル線路ニ及ホス事
　　三　既成鉄道ニシテ開業後五ケ年ヲ経タルモノヽ線路及凡テノ不動産ハ、其期間ニ於ケル純益ヲ平均シタル一年ノ収入ノ二十倍ヲ以テ買上価格トシ、又一部開業ノモノニシテ五年ヲ経タルモノハ、該開業線路ノ純益ヲ平均シタル一年ノ収入ノ二十倍ヲ以テ該線路及不動産ノ買上価格トス、開業後五年ニ満タザルモノ若クハ工事中ノモノ及ヒ鉄道ニ属スル動産ハ凡テ評価ニ拠ル事
　　四　買収方法ハ各私設線路ニ対シ一会社毎ニ予メ相当代価ヲ定メ協議ノ上之ヲ実行ス、若シ協議調ハザルトキハ評価会ノ意見ニ依テ決ス
　　　会社若シ評価会ノ意見ニ不服ナルトキハ鉄道会議ノ裁決ヲ受クル事ヲ得
　　五　買収ノ財源ハ内外国ニ於テ適当ナル額ノ鉄道公債ヲ募集スル事
　　六　第一期及第二期ノ予定線ニシテ本案第一項ニ該当スルモノハ政府ニ於テ敷設シ、其他特種ノ性質ヲ有スル鉄道ノ敷設ヲ請願スルモノハ鉄道会議ノ議ヲ経テ許可スヘシ
　　七　政府ハ鉄道会議ノ規則ヲ改正スル事
　　八　買収ノ方法順序及ヒ買収スヘキ線路ノ指定期限等ヲ鉄道会議ニ諮詢シ、帝国議会ノ決議ヲ経テ之ヲ決行ス
　　九　評価会及評価ノ細則ハ別ニ之ヲ規定スヘシ

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　第四一―四二頁　刊
　　　　○第一日
明治三十二年十月十一日午前十時四十五分開議
　　出席者
　　　委員　　　　　五十一名　○氏名略
○上略
○会長（東京、渋沢栄一君）　ソレデハ継続議案第二号鉄道国有附実業振興ノ意見、之ヲ議題ニ致シマス
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○十八番（京都、大沢善助君）　本案ハ京都商業会議所ノ提出案デ既ニ宿題トナリマシテゴザイマスルガ、諸君ガ御承知ノ通リ本案ハ既ニ日本ノ輿論トナツタト云フ訳デゴザイマスガ、政府ニ於テモ議院ニ於テモ之ヲ採用シテ調査会マデ開カレテ居ルコトデゴザイマス、最早本会議所ノ希望ハ之ヲ以テ達シタモノト認メルノデ、尚ホ此上調査進行ノ模様ニ依リマシテハ更ラニ提出ヲ致シマスルカモ知レマセヌガ、今日ハ最早此聯合会ニ於テ御討議ヲ願ウ必要ハ認メマセヌ、本会議所ハ撤回ヲ致シマス
○会長（東京、渋沢栄一君）　只今御提出者カラ、希望ノ幾部分ハ達シテ居ルカラ此案ヲ此所ニ議スルコトヲ望マヌト云フ御説デゴザイマス左様致シマスト此ハモウ自然ト消滅致シマシタ
　　　○鉄道国有問題ニ就イテハ本巻明治三十三年五月二十三日ノ条、並ニ本資料第二十一巻所収「東京商業会議所」明治三十一年五月二十日、同年十二月七日、同三十四年二月六日、同年九月十五日、同年十一月七日、同年十二月二十五日ノ各条、及ビ本資料第九巻所収「鉄道国有問題」参照。