デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治32年10月12日（1899年）

是日第八回定期会第二日ノ会議ニ於テ、富山商業
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会議所ノ提出ニ係ル富山・直江津間鉄道急設ノ儀上程サレ、可決セラル。栄一会長トシテ議事ヲ司宰ス。

明治三十二年十月開設
第八回商業会議所聯合会議事速記録　　第八五―九八頁　刊
　　　　○第二日
明治三十二年十月十二日午前十時五十分開議
　　出席委員　　　　　五十六名　○氏名略
○会長（東京、渋沢栄一君）　○中略　此八号カラ議事ニ付シマスヤウニ仕リマス、議案ヲ朗読致シマス
　　　〔書記議案ヲ朗読ス〕
　議案第八号　　　　　　　　　　　　　　富山商業会議所提出
　一富山・直江津間鉄道急設ノ件
　　　　理由
　熟々宇内今日ノ状勢ヲ見ルニ、欧米亜各国ノ実業界ハ運輸交通機関ノ競争ニシテ、実業ノ優勝劣敗ハ全ク運輸交通機関ノ整備如何ニ因テ之ヲ決スルノ有様ナリ、去レバ我国ニ於テモ、朝ニ東京ヲ発スレバ一昼夜ヲ経スシテ大坂ニ着シ、尚ホ瀬戸内海ニ進テ支那海ヲ馳駆スレバ、絶海ノ新領土彼ノ台湾島ニ達スルコト正ニ三日間ヲ費サヽルヘシ、而シテ此ノ如キ交通機関ノ発達ハ特ニ鉄道及汽船ノミニ止ラス、電車・電信・電話等幾多文明利器ノ効用ハ所謂地域縮少ノ譬ニ洩レス、随テ全国実業ノ繁賑ハ真ニ異常ノ激変ヲ来シ、其進歩発達頗ル急劇ナルハ亦喜フベキノ現象タリ
　翻テ北陸地方ノ形勢如何ト云ハヽ、土地膏腴・物産豊饒・人口夥多ナルニ拘ラス、山岳魏然トシテ三面ニ聳ヘ、一面海洋ニ臨ムト雖モ其舟航甚ダ危難ナレバ、為メニ旅客貨物ノ運輸交通ハ壅塞セラレ、事業ノ発達亦阻碍セラルヽコト極メテ大ナリ、是ニ於テ政府ハ明治二十六年北陸鉄道線路ノ工事ニ着手シ、本年三月ニ至リ漸ク之ヲ富山市ニ開通セリト雖モ、其以東直江津ニ達スル線路ハ、鉄道布設法第一期線外ニ属スルヲ以テ、果シテ幾年ノ後ニ起工ヲ見ルヘキヤ待遠キモ亦甚シト云ベシ、今日実業界ノ進歩彼レガ如キ迅速ナルニ、独リ北陸地方ノ交通機関此ノ如キ不利不便ナルハ、実ニ嘆スヘキノ極ナラスヤ
　蓋シ富山・直江津間鉄道ハ僅ニ七十五哩ノ距離ニ過キスト雖モ、其関係広ク且大ニシテ之ヲ布設スルノ暁ニ於テハ利益スル所頗多キノミナラス、北陸地方ト東京・横浜・奥羽ノ各地、及京都・大阪其他九州地方ト北陸地方トニ往来スルニハ多大ノ捷径ヲ来シ、今日ノ如キ迂路ヲ取ルヲ要セス、而シテ其距離ヲ縮少スルノ里程左ノ如シ

　　　　　　　　富山・東京間　　金沢・東京間　　福井・東京間
　　　東海道鉄道　四三九・三三　　四〇一・三三　　三五四・三三
　　　信越鉄道線　二五六・一〇　　二九四・一〇　　三四一・一〇
　　　　縮小里程　一八三・二三　　一〇七・二三　　一三・二三

　即チ時間・賃金ノ経済上ニ於テ個人ハ勿論国家ニ大利アルヲ知ルヘキナリ、尚一歩進ンテ之ヲ論スレバ、北陸地方タル一葦帯水ヲ隔テ
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テ露領西比利亜ト相対シ、伏木港ヨリ二日ニシテ絶東商業ノ有望地ナル浦塩斯徳ニ達シ得ヘク、加フルニ同港及七尾港ハ本年八月ヲ以テ貿易港トナリ、将来彼我ノ間漸ク多事ナラントスルハ識者ヲ要セスシテ明瞭ナル所ナリ、本会議所ニ於テハ其関係ニ密接ナル富山・直江津間鉄道ノ急設ヲ希望シ、曩ニ明治二十八年十月第三回商業会議所聯合会ヘ該鉄道急設ノ建議案ヲ提出シ、其協議会ニ於テ聯合各会議所ノ賛同ヲ得、同十一月之ヲ当局ニ建議セリ、然レトモ事未タ採用セラレス、爾来戦争ノ余響ハ事業膨脹ノ結果ヲ来シ、或ハ該鉄道布設ヲ民間ノ起業ニ移サントノ勢ナリシモ、引続キ経済界ノ変態ニ遭遇シ、全国一般新事業中止ノ姿ニ誘ハレ、該鉄道布設計画ノ声モ亦其跡ヲ絶ツニ至レリ
　顧フニ富山・直江津間鉄道ノ如キハ僅ニ七十五哩ノ短距離ナリト雖モ、帝国本洲帯貫鉄道ノ一ニシテ、国家ノ所謂国道タルヘキモノナレバ、帝国ノ経営ハ此鉄道布設ニ因テ始メテ其目的ヲ達シ得ヘキモノトス、然ルニ該鉄道ノ布設タル、之ヲ第一期線外ニ置キ、幾多ノ歳月ヲ経過シタル後ナラデハ其起工ダモ見ル能ハザルトセバ、之ヲ国家ノ経済上及商業上其他ニ於テ、果シテ当ヲ得タルモノトスヘキヤ、決シテ其然ラザルヲ信ス、希クハ全国実業界ノ進歩計画ニ眼識ヲ有スル聯合各商業会議所ハ速ニ富山・直江津間鉄道急設ノ件ヲ其筋ヘ建議シ、之ヲ第一期線ニ組込ミ、一日モ早ク工事ニ着手シ、以テ竣工ニ至ランコト是本会議所ノ希望シテ止マザル所ナリ
○五十二番（富山、若林元四郎君）　本案ヲ提出シマシタ理由ヲ、今朗読致シマシタコトデアリマスケレトモ、今爰ニ壱・弐ヲ述ベヤウト思ヒマス、ソレデ此本案ハ本会議所二十八年、此名古屋ニ於キマシテ提出致シマシタコトデ、其当時ハ満場ノ御賛成ヲ以テ其筋ヘ建議ニナリマシタ、然ルニ其後此日本経済上ノ紊乱トカ言ヒマシテ其手続ニ宜ウ致シマセナンダコトハ、誠ニ吾々ハ遺憾ニ堪ヘナイ次第デゴザイマス然レドモ近年此鉄道問題ト云フモノハ大ニ段々進ンデ参リマシタ、昨年此議会ニ此鉄道国有論或ハ東海道ノ複線法ナント云フコトハ、国家問題トシテ現ハレテ居ルヤウナ訳デゴザイマス、然ルニ此富山・直江津間ノ距離カ七十五哩ニ致シマシテ此鉄道ノナイノハ、富山・直江津間ニ拘ラズ、或ハ東北、或ハ北陸ハ申スニ及バズ東北地方《（海）》、延ベマシテハ関西・九州ト云フ所ニ、大ニ此実業上ノ関係ニ不便ヲ来シテ居ル次第デゴザイマス、ソレデ此富山・直江津間ニ此敷設ガナイトシマスレバ、例ヘテ申シマスレバ恰モ帯ノナイヤウナモノニ思ヒマス、ソレデアリマスカラシテ此実業界ナリ聯合会ガ、幸ニシテ我会議所ノ提出案ヲ御賛成アランコトヲ希望シテ止マヌ次第デアリマス
○三十一番（鹿児島、宮里正静君）　只今此富山・直江津ノ鉄道敷設ノコトニ付キマシテハ私ハ聊カ賛成ガ出来ナイノデアル、願クバ斯ウ云フノハ、成程鉄道ノ必要ト云フコトハモウ何レモ分ツテ居ルモノデアリマスケレドモ、一昨年我鹿児島モ所謂名古屋ノ鉄道ノ急務ヲ言ヒマシタ次第デアリマスガ、其節ハ既ニ地方論ト云フコトデ全会一致デ之ヲ撤回サレタノデアリマス、マアソレ等ノ事モアルカラ、富山商業会議所ノ提出ハ此富山県ノ有志諸君ガ十分ニ御運動ナサツタ方ガ余程経
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験ガアラウ《（効カ）》、其証拠ト云フモノハ吾々ハ県下ノ有志者ト共ニ運動致シマシテ、応分ノ醵金ヲ募ツテ政府ニ三年程運動ヲ致シマシタ所ガ、其結果余程宜シウゴザイマシタカラ、願クハ私ハ此建議ニ付テハ賛成ガ出来マセヌ
○番外十八番（富山、北村竹四郎君）　本案ニ付キマシテハ既ニ名古屋ニゴザイマシタ聯合会ニ於キマシテ決議シタコトデアリマシテ、昨今ニ至リマシテハ其必要ヲ感ジ、当局ヘ急設ヲシテ欲シイト云フコトヲ建議ヲサレマシタ会議所ハ多数アリマス、即チ富山商業会議所ハ勿論ノコト、金沢、ソレカラ高岡、ソレカラ直江津、ソレカラ新潟ノ各商業会議所、此ノ如ク北陸地方ノ商業会議所ハ一生懸命ニ此急設ヲ希望シテ居ルノデアル、而シテ其鉄道タルヤ如何ナルモノカト云フト実ニ国家ノ所謂国道タルモノデアル、サウシテ極メテ必要ナルモノニモ拘ラズ尚ホ今日ニ於テモ出来ナイ有様デアル、実際此鉄道ノ敷設サレナイ為ニ関係地方ノ不利益ヲ来タスト云フコトハ実ニ悲シイ有様デ、既ニ日本全国ニ於テ有数ナル立派ナル御方ニ於テ、北陸地方ニ足ヲ向ケタ、足ヲ踏ミ込ンダト云フ人ハ極メテ少ナカラウト思ヒマス、是ガ所謂交通不便ノタメ其土地ニ従ツテ行クノガ面倒デアル、用ガアツテモ成ルベク出懸ケナイ算段ヲシヤウト云フ有様ニナリ居ル、従ツテ其北陸地方ニ於ケル諸種ノ計画ハ何デモ後ト廻シニナルノデ、何事ニ依ラズ後ト廻ハシニナル、後ト廻シニナツテモ構ハヌカト云フト決シテサウデナイ、北陸地方ノ物産ハ豊饒デアルシ、実ニソレハ立派ナル土地デアリマス、本州ノ一部ノ大ナル部分ヲ占メテ居ル、其地方ヲ抛タラカシテ置イテ斯ウ云フ計画ヲ忘レテ居ルト云フノハ、国家経済ヲ処理スル上ニ甚ダ不都合ナル挙動ト私ハ言ハナケレバナラヌト思フ、ソレカラシテ此御承知デモアリマスル彼ノシベリア鉄道、是モ段々進ンデ来ル様子デアル、浦塩斯徳ジヤトカ云フモノハ北陸地方ハ僅カニ四十八時間ニシテ達スルモノデアル、ソレニ付テ富山県ノ伏木港、若クハ石川県ノ七尾港、其外敦賀港ナドハ将来非常ニ多事ヲ来タス土地デアラウト思フ、誠ニ急ヲ要スル此交通機関ノ乏シイノハ、一大欠点デアルニモ拘ラズ、今日マデ悠々閑々トシテ居ル、之ガ僅カニ上野トカ或ハ横浜トカ云フヤウナ小サナ距離ノ鉄道デアツテ其関係ガ極ク小サイモノナレバ、或ハ地方問題トシテ排斥サレルコトモアラウト思フケレドモ之ハ本州ニ連絡スル一大関係ノ多イ鉄道デアルノデ、既ニ鹿児島ノ宮里サンナドハ前ノ聯合会ニ於テ自分ノ鉄道ガ排斥サレタカラ、是モ排斥スベシト云フ御話モアルガ、是等ノ鉄道ノ如キハ大ニ賛成シテ早ク竣功ニ至ラシメンコトヲ希望スルノデス、又鹿児島ノ鉄道ガ関係ガ重大ニシテ聯合会ガ満場ノ賛成ヲ得ル程ノ鉄道ナレバ、飽マデ之ヲ励行シテ速カニ竣功セラレンコトヲ私ハ希望スルノデ、成ルベク此問題ハ速カニ全国各商業会議所ガ挙ツテ此計画ヲ速カニセンコトヲ吾々ハ希望シテ措カヌノデアリマス、尚ホ之ニ付テ申上ゲルコトハ色々アリマスガ暫ク……
○五番（水戸、塙七平君）　五番ハ此案ニ賛成致シマス、デ賛成致シマス理由ハ、只今北村君カラ種々述ベラレマシタガ、此北陸ニ事業ノ起ラヌト云フコトヲ北村君ガ頻リニ慨歎サレマシタガ、之ニ付テハ吾々
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モ大ニ同感デゴザイマス、デ只今反対者ガ三十一番カ、地方的事業デアルカラ地方デヤルガ宜シイト云フ御議論モ一応御尤ノコトデ、北村君ガ言ハルヽトキニハ之ハ国道デアル、全国ニ影響スル所ノモノデアルカラト言ハル、之ハ或ハ我田引水流ニナルカモ知レナイ、ソレハ矢張リ地方的感情ヲ以テサウ言ハルヽノカ、其辺ノ所ニ付テハ実地踏査ヲ致シマセヌカラ分リマセヌケレドモ、要スルニ北陸ニ、日本ノ勢力ガ北部ノ中ヘ、箱根山向フノ方ノ仕事ハ大抵政府ガ取ツテ以テ能クヤツテ呉レル、箱根山此方ノ方ヘ来ルト誠ニ政府ガ冷淡デアツテ、何モシテ居ラヌト云フコトハ今日ノ現況デゴザイマス、デ斯ウ云フコトデハ誠ニ困リマスカラ、ドウカ今日ノヤウナ全国ノ有志諸君ガ御集リニナツタ会ニ於テハ、成ル丈ケ全国平均論ヲ御取リ下サツテ、斯ウ云フ事業ヲモ単ニ一ツノ一局部ニ偏スル事業トシテ見捨テズニ、共ニ共ニ力ヲ添ヘテ此事ヲ成立タシテ、サウシテ追々ニハ全国ノ平均ヲ得ルヤウナコトヲ私ハ希望シテ止マナイノデゴザイマス、ソレデ別ニ此鉄道ガ必ズ国家ノモノデアルトカ何トカ云フコトニ付テハ、踏査ノ結果デゴザイマセヌデハ明言致スコトハ出来マセヌ、或ハ疑ヲ存シテ居リマスケドモ、兎ニ角要スルニ只今北村君ガ述ベラレタ北部ニハ事業ガ起ラヌト云フ御言ニ感ジテ、私ハ此案ヲ賛成シテ置キマス
○十八番（京都、大沢善助君）　私ハ此案ヲ賛成致シマス、私ハ京都商業会議所トシテ此京阪地方カラ信越地方ニ荷物ヲ送リマスルニハ、矢張リ東海道線ヲ迂回シマシテヤルノ外荷物ヲ運送スル途ガナイ、非常ニ不便ヲ感ジテ居リマスモノデゴザイマス、デ又此商工業上ニ付テ不便多キコトハ、此理由書ニ書イテゴザイマスカラ別段ニ私ノ喋々ヲ要シマセヌ、ソレデ京阪地方カラ向フニ商品ノ運搬上ニハ至極必要ナ線路ト認メマスル、ソレデ之ヲ少サク地方ノ問題トシテ議論スルト云フコトニナリマスレバ、或ハ色々ナ地方的ノ感情ガ起ツテ参ルノデゴザイマセウガ、皆様ガ此聯合会ニ御出デニナリマスルニ付テモ何レ東海道鉄道ニモ乗ルデゴザイマセウガ、彼ノ汽車ノ箱ノ中ニ日本鉄道ノ画図ヲ掛ケテ置キマス、彼ノ上ノ方ノ川ニフイト枝ガ出マシテ、サウシテ其中ノ所ガ少シ許リ切レテ居リマスル所ヲ見マスルト、誠ニドウモ日本ト云フモノヽ鉄道ノ不完全ニシテ何故此間僅カ七・八十哩ノ所ヲ宜ウ繋ガヌデアラウカト云フ感念ハ、何誰デモ起ルデアラウト思フデ一方ノ方ハ鹿児島ノコトハ既ニ宮里君ノ今ノ御話デアリマシタガ、彼所ヲ繋ガヌデ置クト云フコトハ日本ノ鉄道事業ノ上カラ、鉄道政略ノ上カラ、又深ク言ツタラ軍事上ノ上カラデモ又甚ダ不都合ノモノデアラウト思フ、デ彼ノ地勢ト云フモノハ日本全体ノ上カラ見テ至極必要ナ事柄デアル、且ツ又彼ノ辺ニ鉄道ノ連絡ガ付イテ、北陸地方ト関西地方トノ聯絡ガ能クナリマスレバ、商工業ノ発達ニモ非常ナ利益ヲ与ヘルコトデアツテ、之ハ即チ日本ノ問題トシテ此聯合会ガ討議スルノニ少シモ恥デナイ線路デアルト考ヘマス、此鉄道ニ付キマシテハ京都商業会議所ハ純然タル賛成ヲ表スルノデアリマス
○番外二十番（金沢、伊藤鏢三郎君）　私ハ此問題ニ付マシテ極ク簡単ニ其二箇条ノ事柄ヲ申述ベマシテ、第一ニ付キマシテハドウカ皆様ニモ其事ニ付テ御尽力ヲ願ヒタイ、第二ノコトハ唯ダ御参考マデニ申述
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ベタイ、金沢商業会議所ニ於キマシテモ本問題ニ付キマシテハ其必要ヲ認メマシテ、幸ヒ富山商業会議所デハ夙ニ此問題ニ付テ御尽力ニナツテ居ルト云フコトヲ認メマシタデ、従来色々御尽力ニナツタコトヲ認メマシテ、ソレデ私共ノ方デモソレゾレ其望ヲ遂ゲルヤウナ手順ヲ運ビマシタ、尚ホ此事ハ何レ鉄道会議ニモ出マセウシ、又帝国議会ニモ掛ル問題ダラウト思ヒマスカラ、爰ニ御列席ノ方々ハ先ヅ日本ノ此実業界ニ於テ有数ノ御方デアルカラシテ、従ツテ此鉄道会員ノ中ニモ時々御出入ニナルダラウト思ヒマスカラ、其折ニハ是非此本会ノ、否ナ北陸三県ニ於テハ実ニ此問題ニ付テハ熱心ニ希望シテ居ルト云フ事ヲ、ドウカ御伝下サルヤウニ願タイ、ソレカラ第二ノ点ハ此問題ハ決シテ一地方ノ問題デナイ、日本ノ此全国ノ陸運ノ大系統ノ上カラ論ジマシテ、此問題ハ是非ヤラナケレバナラヌモノト存ジマス、ト云フノハ此日本ノ国ト云フモノハ細長イ国デ周リガ海デアルカラ、何ニカ一朝事ガアルト云フト海陸相俟ツテ仕事ヲ為ナケレバナラヌ場合ニ至ルト思ヒマス、私共ハ未ダ年ガ若クテ能ク知リマセヌガ、日清戦争ノ時ノ例ヲ見マシテモ陸運ガ迫ツタ為メニ、此海運ノ力ニ依ツタト云フ事実ガアツタラウト思フ、其時分丁度私ハ渋沢サンニモ十月ノ幾日カ御目ニ懸ツタコトガアリマシタ、其折ニ大変此米ガ北陸ノ方ニ閊ヘテ居ル、郵船会社デモ廻シテ運ブ手順ヲシテ置クト云フコトヲ金融ノ御話カラ承ツタコトガアリマス、其時ハ陸運ガ迫ツタノデアリマスガ、若シ海上ニ戦争ノアツタトキニハ多クハ此港湾ヲ鎖シテ、サウシテ商工業者ヲ苦メルト云フノガ先ツ一般ニ行ハレル所ノ戦略デアリマス、沿海ノ港湾ガ塞ツタトキニハ従ツテ此軍事部ノ如キモ大ニ困難スルコトガアルダラウト思フ、斯ウ云フトキニハ兎モ角モ陸運ヲ盛ンニシテ置イテ、出来ルダケハ陸運ノ便宜ニ依ツテ東北ナリ或ハ北陸ノ方ノ港湾カラ貨物ノ輸出入ヲシナケレバ、安全ニ商工業ヲ保ツテ行クコトハ出来ナイト思ヒマス、或ハ大キナ問題デ架空ノ論ト云フ御考モアラウカト思ヒマスガ、今日ハ日清戦争ノ如キ戦争ハ直グニ起ルト云フコトヲ覚悟シテ居ラナケレバナラヌト思ヒマス、其外日常ノ事ニ付テ不便ヲ感ジテ居ルコトハ、既ニ諸君カラ縷々御述ベニナリマシタカラ申述ベマセヌ、尚此近頃ノ実際デ以テ北陸デ許リ米バカリ三千モ閊ヘテ居ルサウデアリマス、斯ウ云フヤウナ訳デアリマスカラ、全国ノ経済ノ調和ヲ保ツト云フ上カラ一日モ早クシナケレバナラヌ、鉄道会議ハドウ云フ所ニ眼ヲ着ケテ居ルカ、是ヲ第二ニ置クト云フノハ実ニ慨歎ニ堪ヘマセヌ、ソレデ私ハ此二箇条ノコトニ付テ篤ト御考ニナツテ、成ルベク諸君ノ御尽力アランコトヲ偏ニ希望致スノデアリマス
○三十六番（岡山、香川真一君）　三十六番モ賛成デアリマス、私ハ三年続イテ実地ヲ跋渉シマシタ、能ク事情ハ分ツテ居リマスルガ、実ニ此加賀・越中ト云フ方ハ沃野千里ノ国ト云フテ宜イ、ソレデ商工業ハト云フト、工業ハ至ツテ開ケヌ所デアリマス、是マデ交通ガ不便デアツタカラ定メテ開ケヌノデアリマセウガ、今唯北陸線ガ続イテ居リマス、此北陸線ガ随分不完全ナモノデアリマス、先達モ大ナル破壊ヲシマシタ、丁度私ハ其時分参ツテ居リマシタガ、客月デゴザイマシタ、八日カ七日ノ大雨デ大破ガアリマシタ、モウ交通ガスツパリ止ツテ仕
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舞ツテ、袋ノ中ノ鼠ノ如ク動クコトガナラヌ、サウシテ彼ノ線路ガ一番オ仕舞ニ開通シマシタガ、併シ未ダ其本統ニハ開通シテ居ルマイト存ジマス、疋田・敦賀間ハ非常ナ破損デゴザイマス、又大雨ガアツタナラバ随分又破壊スルコトガ出来ルト思ヒマス、是亦修築スルニ中々手間ガ取レマセウト思ヒマス、ソレカラ又スイツ《（杉津）》又今庄ト云フ所ハ全ク牢屋ヲ行クヤウナ有様デ、隧道ヲ出レバ又隧道ニ這入ル、随分損害シ易イ所ガ沢山アリマス、是ガ一度損破シマスレバ全ク交通ガ遮断サレテ仕舞ツテ、運輸ノ便ハ失ツテ仕舞ウヤウナ有様デアリマス、サウシテ富山ニ参ツテ見マスト山ノ大キイ立山ガ横ツテ居ル、モウ是デ鉄道ノ線路ガ於仕舞ヒト思フト実ニ歎ハシイ、只今モ十八番ガ申サレマシタ通リ僅ノ所デゴザイマス、凡ソ六・七十哩ノ事ト思ヒマス、是ガ開ケマシタナラバ越中・加賀地方ハ余程開ケテ参ラウト思ヒマス、之ハ唯ダ決シテ一地方ノ問題デゴザイマセヌカラ、ドウカ之ハ皆サン御賛成ヲ願ヒタウゴザイマス
○五十五番（栃木、桜井源四郎君）　本案ヲ賛成致シマス、只今各会員諸君カラ種々ナル御説ガゴザイマシテ、私モ直江津ニ参リマシタ時分ニ、是カラ富山ハ何方ニ向ツテ居ル、即チ彼方ラガ富山ダ、此越後地方ノ一朝災害ノアツタ時分ニハ、富山カラ貨物ヲ送ツタラ宜カラウト云フコトヲ直江津ノ商人ニ聞キマシタ所ガ、凪サヘ宜ケレバ一日カ二日ニ参リマスガ、一朝事ガアルト滞在シテ居ナケレバナラヌ、此ノ如ク眼ノ前ニ品物ガアリナガラ引付ケルコトハ出来ナイト云フコトデ、実ニ其時分ニ私ハ憤懣ニ堪ヘ兼ネマシタ、デ段々此北陸地方ニ見マスルト只今三十六番ノ御述ノ通リ鉄道ハ不完全デゴザイマス、併シ不完全デアリマスルガ如何ニモ海浜デゴザイマスカラ砂地ガ多イ、砂地ガ多イノデ完全ノ鉄道ヲ敷カヌト云フコトハ望ム所デハゴザリマスガ出来マセヌ、ドウカ之ヲ富山商業会議所ニ於テハ鉄道ヲ完全ナラシメ、北陸地方ヲ富強ナラシメ、天下公衆ノ便ヲ謀リ、益此砂地ヲシテ完全ナル鉄道ニシナケレバナラヌト云フ希望ヲ私ハ抱イテ居リマスカラ、此賛成致シマス所デアリマス
○九番（金沢、阿部太右衛門君）　只今富山カラ提出ニナリマシタ此議案ト云フモノハ、最モ国家問題トシテ実ニ必要ノ事デアラウト本員ハ考ヘル、デ我ガ北陸地方ノ近来起リマスル所ノ羽二重ノ産出高八千五百万円ニ達シテ居リマシテ、其原料ハ何方カラ来ルカト云フト、或ハ横浜カラ引キ、一方ハ奥州或ハ信州アタリカラ多ク原料ヲ引イテ居ル次第デ、最モ国ヲ富マスト云フコトニ付テハ、実業ヲ発達セシムルノ必要ナルハ論ヲ俟タヌ話デアツテ、又事業ヲ発達セシムルニハ交通ノ便ヲ図ルノハ最モ大切ナコトデアリマス、デ先程三十一番サンデシタカ一地方問題デアルト云フ御説モゴザイマシタガ、決シテ然ルモノデハナカラウト本員ハ考ヘル、故ニ全国一体ニ励シテ国道線ト称シテ決シテ過言デハナカラウト本員ハ考ヘテ居リマス、故ニ一日モ早ク此鉄道ヲ敷設スルヤウニ各員ノ御賛成ヲ仰キ、且ツ今後鉄道会議ナリ其他ノ事ニ付テ、ドウカ御尽力アランコトヲ本員ハ希望致シマス
　　　（「採決」ト呼ブ者アリ）
○会長（東京、渋沢栄一君）　大抵御説ハ尽キマシタヨウデゴザイマス
 - 第22巻 p.480 -ページ画像 
反対ハ御一人デ未ダ成立チマセヌ、賛成ノ御説ガ多ウゴザイマスカラ本案ニ対シテ決ヲ採リマス、本案賛成ノ御方ノ御起立ヲ願ヒマス
　　起立者　　多数
○会長（東京、渋沢栄一君）　多数デゴザリマス
○二十番（静岡、北村五郎兵衛君）　之ハ二次会・三次会ヲ略シマシテ……
○会長（東京、渋沢栄一君）　甚ダ私ガ悪ウゴザイマシタ、二次会・三次会ヲ兼ネテ確定致シタト御見做シヲ願ヒマス
　　　（「異議ナシ、々々」ト云フ者アリ）
　　　○本巻明治三十四年一月二十三日ノ条参照。

日本鉄道史　鉄道省編　　中篇・第一二九―一三一頁　大正一〇年八月刊
　○第十二章　第二節　建設改良其他ノ工事
　　　　第三　北陸線富山線
○上略
明治三十九年度ニ於テ富山線ノ建設ハ開始セラレタリ、初富山線ハ鉄道敷設法ニ於テ北陸線及北越線ノ連絡線トシテ予定セラレシモ、第一期線ニ加ヘラレザリシカ、直江津以東北越線ハ明治二十八年北越鉄道株式会社之カ敷設免許ヲ得テ直江津・柏崎間ノ工事ニ着手セントシ、北陸線亦金沢ニ至ルマテ起工セラレシカハ、北陸地方ニ関係ヲ有スル有志者等ハ北陸線ト北越其他諸線トノ連絡ヲ計画シ、二十九年三月十四日東京市麹町区永田町銀林綱男等二百余名発起人ト為リ、北信鉄道株式会社ノ創立ヲ願出テタリ、其目的トスル線路ハ直江津ニ起リ海岸ニ沿ヒ名立・糸魚川・親不知・泊ヲ経テ魚津ヲ過キ、富山ニ達スル七十五哩四分ノ三ヲ本線トシ、糸魚川ヨリ分岐シテ小滝・千国・大町・穂高ヲ経テ松本ニ至ル六十哩半ヲ支線トシ、合計一百三十六哩四分ノ一ニシテ資本額ヲ八百五十万円トセリ、然ルニ同月十九日東京市京橋区築地田中平八等一百余名亦資本額五百五十万円ヲ以テ同一線路ノ敷設ヲ願出テタリシカ、幾モナク両者発起人ノ間ニ合同ノ約成リ、四月一日ヲ以テ後者ハ願書下戻ヲ申請シ、田中平八等ハ前者ニ加入セリ、三十二年三月ニ至リ北陸線ハ富山ニ達シタリシカハ地方人民ハ富山・直江津間ノ連絡ヲ希図スルコト愈々急ニシテ、鉄道速成ノ建議・請願ハ富山・金沢・直江津・福井・高岡・新潟間ノ商業会議所又ハ諸団体ヨリ陸続トシテ提出セラレタリシカ、政府ハ此線路ヲ官線トシテ敷設スルノ企図ナリシヲ以テ、明治三十七・八年戦役ノ局ヲ収ムルヤ、三十八年十二月鉄道会議ニ諮詢シテ北信鉄道ノ願書ヲ却下シ、翌三十九年一月第二十二回帝国議会ニ鉄道敷設法中改正案ヲ提出シ、同法第七条ニ富山ヨリ直江津ニ至ル鉄道ヲ加ヘ、其協賛ヲ経テ三月二十二日法律第十四号ヲ以テ之ヲ公布シ、又富山・直江津間鉄道建設費一千四百三十七万六千五百五十六円ノ予算ハ、三十九年度以降八箇年度ノ継続費トシテ同議会ヲ通過シタリ
○下略