デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治38年7月9日（1905年）

是日栄一、東京ヲ発シ北越地方ニ赴キ、関係会社ヲ視察シ、十六日帰京ス。

渋沢栄一　日記　　明治三八年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月九日　晴　暑甚シ
○上略　六時十五分王子発ノ汽車ニテ北越行ノ途ニ上ル、兼子同伴ス、日本鉄道会社々長曾我氏同車ス、久住秀三郎氏同行ス、高崎ニ抵リテ汽車ヲ替ヘ碓氷ノ険ヲ登ル、軽井沢ニテ小憩ス、小諸・上田・篠井等ノ数停車場ヲ超ヘ、三時長野ニ達ス、北越鉄道会社長渡辺嘉一・第一銀行支店長松井吉太郎二氏来リ迎フ、藤屋本店ニ投宿ス、休足後善光寺ヲ参詣シ、寺内各所ヲ順拝シテ六時帰宿、夜飧後種々ノ雑談ヲ為シ夜十時就寝
七月十日　晴　清暑
午前四時過起床、直ニ朝飧ヲ喫シ旅装ヲ整ヒ、一行旅宿ヲ発シテ長野停車場ニ抵リ、五時五十分発ノ一番汽車ニ搭シ豊野・高田等ノ各停車場ヲ経テ直江津ニ抵ル、岸宇吉・長部松太郎・小畔亀太郎三氏来リ迎フ、一行ニ加ハリテ直江津ヲ発シ、是ヨリ北越鉄道会社ノ線路ニテ柏崎ニ抵ル、日本石油会社重役等・柏崎銀行重役等モ来リ迎フ、牧口義矩氏来リ、汽車中ニテ午飧ヲ饗セラル、調理頗ル佳ナリ、十一時三十分長岡ニ抵ル、同地銀行者・商業会議所議員等多数来リ迎フ、十二時長岡ヲ発シ、久住・朝比奈等ノ諸氏又一行ニ加ハリ、送リテ新潟ニ抵ル、午後三時新潟着、停車場（万代橋）ニハ本県知事始、高等官其他多人数来リ迎フ、夫ヨリ車ヲ馳テ三ノ町会津屋ニ投宿ス、入浴後来訪人数多ニ接シ、銀行員ニ向テ一場ノ訓示ヲ為シ、午後五時過鍋茶屋ニ抵リ地方有志者ノ招宴ニ出席シ、一場ノ挨拶、且経済上ニ関ス《（ル脱カ）》意見ノ
 - 第29巻 p.506 -ページ画像 
概略ヲ述ヘ、酒間数番ノ余興アリテ、夜十時宴散シテ旅宿ニ帰ル
七月十一日　晴　南風
午前七時起床、朝飧ヲ喫シ、後数多ノ来訪ニ接シ、理髪後松井氏ト共ニ阿部知事ヲ訪ヒ、暫時要務ヲ談シ、去テ鍵富三作氏ヲ訪ヒ、十一時帰宿ス、午前後トモニ種々ノ来人アリテ応接ニ遑アラス、午後五時行形亭ニ抵リ、当方ト六十九銀行ト共ニ開催セシ宴会ニ出席ス、蓋シ引揚ニ関スル謝意ト、開店ノ披露ト相共同シテ開宴セシナリ、此日市中ノ商工業者会スル者七十有余名ナリ、席定マリテ松井・長部ヨリ一応ノ挨拶アリ、最後ニ於テ此閉店ト開店トノ顛末ヨリ、将来銀行者ノ取ルヘキ方針マテ詳細ニ演説シ、夫ヨリ盃酒雑沓シテ、夜十時宴散シテ帰宿ス
七月十二日　晴　風涼シ
午前六時前起床、東京本店佐々木氏ヘ一書ヲ裁シテ、旅行中ノ概況及当地着後ノ景況ヲ申シ送ル、兜町事務所篤二宛ニ一書ヲ作リテ、旅中ノ景状ヲ通知ス、朝飧後種々ノ来客ニ接ス、水野禎三ナル狂人五泉町ヨリノ来書ニ対シ返翰ヲ発セシム、十一時過鍵富氏ノ案内ニテ浜手ノ会々楼ニ宴ス、渡辺嘉一・松井吉太郎・兼子モ同伴ス、午後二時宴散シテ帰宿ス、午後五時鍋茶屋ニ抵リ、県知事其他高等官ヲ招宴ス、鍵富父子・渡辺嘉一氏・六十九銀行ノ人々来会ス、夜十時散宴帰宿ス
七月十三日　曇　涼
午前六時前起床、先ツ日誌ヲ整理ス、朝飧後白山神社ヲ詣ス、午前八時半旅宿ヲ発シ万代橋停車場ニ抵ル、県知事及地方ノ紳商等来リテ送別ス、九時発車ノ頃ヨリ雨降ル、午前十一時半長岡着、直ニ北越鉄道会社ニ抵リ、社員一同ニ一場ノ訓示ヲ為シ、多人数ノ歓迎ヲ受ケテ同地若松ニ投宿ス、午飧後休憩シ、午後五時長岡銀行ヲ訪問シ、長岡館ニ抵リ、両銀行及鉄道会社ノ催ニ係ル宴会ニ出席ス、酒間一場ノ謝辞ヲ述ヘ、種々ノ余興アリテ、夜十一時若松ニ帰宿ス
　　　　足立少尉の戦死を悼ミて
　つゝの音のほかの響もきこゆなり君かのこしゝいさをしのかつ
七月十四日　晴　清暑
午前七時起床、朝飧後二・三ノ来人ニ接シ、八時六十九銀行ニ抵リ、重役一同ヲ会シテ将来ノ経営ニ関シテ訓戒的意見ヲ述フ、畢テ九時一寺院ニ抵リ、曾テ長岡商業会議所ノ企望ニ係ル経済演説ヲ為ス、聴衆頗ル多シ、畢テ若松ニ帰ル、日本石油内藤久寛・宝田石油渡辺藤吉二氏来話ス、午飧後感冒ノ気味ナルヲ以テ、医師ヲ招キ服薬シ、且臥床休息ス、夜ニ入テ軽快ニ赴ク
七月十五日　晴　午後軽雷
午前七時起床、感冒ノ気稍愈ヘシモ、未タ全快ニ至ラス、依テ此日ノ発途ヲ見合ハセ、休養スル事ト定ム、種々ノ来訪人アリシモ、多クハ病ヲ以テ謝絶シ、褥中ニ在テ摂養ス、午後ニ抵リ暑気強ク雷雨アリ、雨後涼気ヲ覚フ、病モ大ニ快方スルニ付、明日発足帰京ノ事ニ決ス
七月十六日　晴　清暑
午前五時、起床朝飧ヲ畢リ、六時発ノ汽車ニテ帰京ノ途ニ上ル、来リ送ル者多シ、柏崎・直江津等ニ抵ルマテ送来者アリ、渡辺嘉一氏同行
 - 第29巻 p.507 -ページ画像 
ス、汽車予定ノ如ク午後六時高崎ニ抵リテ、日本鉄道会社線ニ入リ、午後九時王子着、熊谷駅ヨリ諸井恒平氏同伴ス

（八十島親徳）　日録　　明治三八年　　　（八十島親義氏所蔵）
七月八日　晴
○上略
男爵ハ令夫人ヲ伴ヒ愈明朝六時半王子発ニテ新潟ニ向ハルヽ筈、第一銀行新潟支店閉鎖、六十九銀行ヘ引継ニツキ、地方官民ヘ句切的挨拶ノ為メノ旅行ニテ、往復五・六日ノ筈ナリ　○下略
　　　○中略。
七月十七日　晴
去九日出発、新潟ヘ旅行セラレタル青淵先生ハ、昨夜帰京アリ　○下略
　　　○本資料第四巻所収「第一銀行」明治三十八年五月二十日ノ条、及ビ第五巻所収「第六十九国立銀行」ノ各条参照。