デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

2章 労資協調及ビ融和事業
1節 労資協調
3款 其他 6. 労働自治会
■綱文

第31巻 p.602-604(DK310101k) ページ画像

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■資料

渋沢栄一 日記 大正一四年(DK310101k-0001)
第31巻 p.602 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正一四年     (渋沢子爵家所蔵)
一月二十二日 快晴 寒
○上略 溝部義臣氏来リ労働自治会ノ事ヲ依頼セラル、近日赤根氏ナルモノト来報《(訪)》ノ由申出ラル、依テ協調会ニ紹介スヘキ事ヲ答ヘ置ク ○下略
一月二十三日 晴 寒
○上略 溝部氏、赤根某氏ノ労働自治会ノ事ヲ来話ス ○下略
   ○渋沢子爵家所蔵「諸労働団体関係書類」ナル綴込ニ左掲資料(印刷物)ヲ保存シアリ、表紙ニ左ノ如ク墨書ス。
     「大正十四年一月二十三日、湯河原客舎ニ来訪ノ此会顧問溝部義臣氏ト御会談、此会々長ハ赤根組長赤根祐次氏ナル由、来三月此会ノ為御講演ヲ願度旨ヲ申出ラレタルモ、総テ帰京ノ上ノ事トシテ同氏辞去セリ」
    尚、名刺二葉ヲ添付ス。一ハ「北支那デーリー・ニユース(英文)理事溝部義臣」。一ハ「労働自治会会長赤根祐次」。



〔参考〕労働自治会趣意書会則 同会編 第一―二頁 刊(DK310101k-0002)
第31巻 p.602-604 ページ画像

労働自治会趣意書会則 同会編  第一―二頁 刊
    労働自治会趣意書
 - 第31巻 p.603 -ページ画像 
 「働かざる者は食ふべからず」去にても働く者にのみ饑へ、凍へ、悶へ苦しむ者の而かく多きは何ぞや
 曰く労働は神聖なりと その然る所以は単に生活の必需品を提供するのみならず、労働そのものが人生本然の意義に合致するからである
 平たく謂へば、人間は本来働くべく造られたる故である
 果して然らば労働に従事する人が衣食に窮せざるべきは勿論、進で社会上に於ても相当の地を占むべきは当然である、然るに事実は全く正反対に、終日額に汗すれども住むに安価の家なく、手足を労して一塊のパンを得んとする謙虚なる欲求をすら遂けられずして、失業放浪の徒日に多きを加へ、人心の不安、社会思想の険悪は、光輝ある我帝国をして、興亡一髪の危地に転落せしめんとして居る、心あるもの誰か措手して之を傍観するに忍びようぞ
 然らば之が対策は奈何、社会政策の実行、労働組合の組織等、其の方策一にして足らざるべきも、先づ彼等をして容易に職業を得せしむるの機会を与ふると同時に、衣食住の安定を得せしむるを以て、最も実行し易き焦眉の急務とはする
 尤も、官公当局に於ても、這般設備の見るべきものなしとはしないが、官公署のみを以て万遺憾なき功果を期待する事の難きは、既に衆知の事実である
 本会設立者赤根祐次、身を労働者より興し、其志を得るや、常に社会公共の事に尽瘁拮据すること多年、深く感ずる所ありて、昨年独力労働自治会を創立し、芝浦に於て壱百余坪の労働自治館を新築し、多数労働者の品為に業を授け衣食の安定を得せしむると共に、娯楽・衛生・修養等の諸機関を設けて、彼等生活の向上と性の陶冶を計りたる結果は、彼等通有の悪習漸次影を潜めて、勤倹の美風大に興り、創立日尚浅きに拘らず、多数独立自産の良民を輩出するに至り、事漸く緒に着かんとするに当り、玆に千秋の恨事と為すべきは、東京一帯を廃墟の如くなしたる客秋九月一日の惨禍に依つて、吾自治会館も亦礎石の一介をすら余す所なき烏有に帰せしめたる一事である、而も事業の性質上一日も放擲し置くべきでないので、赤根会長は当時物情淆乱の際に於て、自治館に宿泊せる多数の鮮人並に支那人労働者を保護すると共に、芝浦一帯の救護に尽瘁する傍ら、乏しき材料を蒐集して、余燼尚ほ冷へざる焼跡に、三棟壱百四拾四坪のバラツクを急造、九月五日再び自治会館を復興し、不備なりと雖も目的の為に奮励して居るのである
 惟た然しながら、本会創立以来の経験と成蹟とに鑑み、貴重なる本事業をして、規模に於て設備に於て、より大により完全なるものたらしむると共に、枢要の地に支部を設け、弘く全国に及ぼす事の、国家社会事業として一日も忽諸に附すべからざる緊急たる事を痛感する次第であるか、固より吾人の微力を以てして、此大事業を遂行する不可能なるは論を俟たない、仍而敢て大方に愬へ、普く後援幇助を仰がんとする所以のもの、寔に一片憂国の至情の外又他意ないのである、庶幾すらくは、本会趣意の在る所を諒とせられ、甚大の賛襄を賜らんことを焉
 - 第31巻 p.604 -ページ画像 
    労働自治会綱領
一、労働者をして規律正しく真面目に働く習慣を講習せしむること
一、勤倹貯蓄を奨励し、独立自産の良民たらしむることを期すること
一、穏健着実の思想を養成し、過激不穏の言動なからしむる事を期すること
一、互に相親睦して一致団結し社会に尽すの気風を養成すること
   ○労働自治会ハ本部ヲ東京市芝区芝浦南浜町九番地ニ置ケリ。