デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正14年9月25日（1925年）

是年十月下旬、北京ニ於テ開カルベキ中華民国特別関税会議ニ関シ、当協会ハ屡次幹事会ヲ開キテ、之ガ対策ヲ議シ、是日、副会長児玉謙次ヨリ、当協会意見書ヲ外務省当局ニ提出ス。

次イデ二十九日、全権大使トシテ右会議ニ赴クベキ日置益ヲ、東京銀行倶楽部ニ招待シテ、懇談会ヲ催ス。栄一、病気静養中ナリシモ、特ニ出席ス。

対支回顧録　対支功労者伝記編纂会編　　上巻・第五五五―五五七頁昭和一一年六月再版刊
　○第四編　第五節　張作霖時代
　　　　第三項　奉直戦時代の張作霖
○上略
　翻つて第二次奉直戦に勝利を博し、揚々として天津に乗込んだ張作霖は、南方派を代表する孫文の未だ入京せざるに、北京にあつては馮玉祥が事実上の主権者たらんとする形勢であり、反直隷派の大同団結も其結果頗る怪しいものがあつたので、此際段祺瑞を出馬せしめて時局を収拾するに若かずとし、十三年十一月廿五日、臨時執政政府を組織し、段祺瑞が臨時執政に就任した。次で十二月三十一日、孫文の入京を俟つて、段・孫・張・馮の所謂四巨頭善後会議となつて、執政政
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府は張の奉天軍及び馮の国民軍によつて支持することに決したので、張作霖は中央政治には自ら干与せずと称し、突如十四年一月十二日帰奉した。然るに執政政府組織に参加するため、南方派を代表して入京していた孫文が病を得て三月十二日死去するや、南方派と執政政府との聯繋も緩み、時局善後会議の如きも、屡々之を開いたけれども、何等の効果を収めず、或は却つて内乱の原因となつた位であつた。即ち段祺瑞は張・馮の間の勢力争ひを緩和する意味に於て、地盤の配分に苦心した結果、主として津浦線一帯から、長江下流地方は張作霖の縄張りと定め、直隷督弁に李景林、蘇皖魯三省剿匪総司令に張宗昌を任命し、馮玉祥には京綏線及び京漢線方面を与へて、予・陝・甘三省剿匪総司令に綏岳、河南督弁軍務善後軍宜に胡景翼、察哈爾都統に張之江、綏遠都統に李鳴鐘を任じ、馮玉祥を西北屯墾督弁に特任した。
　然しながら張作霖と馮玉祥との関係は、日に悪化するばかりであつた。殊に段祺瑞執政の態度は、動もすれば馮派に有利の如く見え、加ふるに馮玉祥が労農露国と接近する傾向にあることは、軈て露国勢力の満洲侵入を誘引するの虞ありとなし、馮の勢力を減殺する必要を痛感した張作霖は、その心全く関内にのみあつて、満洲経営、東三省整備を顧るの遑なき有様であつた。既にして直隷・山東は勿論、江蘇・安徽にまで勢力を拡張し、上海・南京をも其の支配下に置く黄金時代を出現した張作霖は、折柄執政政府が、十四年十月廿六日から、北京に関税会議を開催するに決してゐたので、之が成功のためには大いに助力の意向のやうであつたが、偶々浙江督弁孫伝芳が、呉佩孚を始め旧直隷派及び一部国民軍と連絡して、十月十一日兵を挙げ、突如、十六日上海に現はれて奉天系の治安総司令邢士廉に立退きを命じた。之導が火線となつて、福建の周蔭仁、江西の方本仁、漢口の蕭燿南等が呼応して起ち、又もや長江方面が動乱の巷と化さんとした、然し張作霖は北京に開かるゝ関税会議の成功と、東三省の保境安民を保障するため、直隷・山東を保有せんとする消極的防禦方針を樹て、徐州に兵を集めて孫軍に対せしむると共に、馮軍に対しては、段政府の調停を求めて、和平解決に努めた結果、十一月十五日、天津督弁公署に於て奉国両軍の和平条約を調印し、両軍共に兵を北京城内に駐めず、北京に両軍辦事処を設置し、国民軍から鹿鐘麟以下六名、奉天軍から張学良以下六名を其代表に決定した。和平条約に於ては、馮玉祥は保定・大名を得て北京から撤兵し、張作霖は三河県から撤退するといふ約定であつて、両軍の衝突を避け、中央部に対して将来の実力を扶植する以外積極的に何等の進出を策さなかつたのが、当時の張作霖の心境のやうである。彼は十一月十四日、次の如き声明を発して其の所信を披瀝してゐるのを見ても、一時雄心を抑圧して段執政を支持しようとした、例の機会主義的打算振りを窺知することが出来るのである。
　○中略　作霖不敏と雖も、上に執政の憂慮と、下は人民の苦痛を察せざるに非ず、決して鬩牆の争を為すため軽々しく戦端を開くを欲せず既に直隷・山東の両省に戦争停止の命令を下し、中央の命を待たしむ。作霖の率ゐる部隊は全部撤退せしめ国内の安きを期せん。
されど好事魔多しとの譬に漏れず、彼の最も危惧した赤化の魔手は突
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如彼の最も信頼する部下、灤州駐屯の第三方面軍第十軍長郭松齢が、麾下七万の兵を率ゐて、十一月二十四日、彼に対し叛旗を翻すの事件を惹起し、馮玉祥また赤化擾乱の措置に出でたので、彼は敢然として討赤の大業を企図するに至つたのであつた。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（朱印）
極秘　親展
　　　　八月十四日幹事会ニ於ケル支那関税会議ニ関スル
　　　　小田切氏談話要領
近ク開カル可キ支那関税会議ノ目的ハ
　（一）一九〇二年ノ英支「マツケー」条約ニ依ル関税一割二分五厘実行準備、及
　（二）右ノ中間規定トシテ現在五分ノ関税ニ二分五厘ノ附加税ヲ課シ、即輸入税ヲ七分五厘
トスル二点ニアリ
右ノ英支条約中注意ス可キハ第八条ニテ、其ノ大要ハ
　一、輸入税ハ現実五分ノ上ニ、附加税トシテ七分五厘ヲ課シ、計一割二分五厘トス
　一、輸出税ハ数十年前規定セルモノニテ、当時ハ現実五分ナルモ、今日ハ二分五厘乃至三分ナル故、之ヲ現実五分トシ、之ニ附加税二分五厘ヲ課スルコト
　一、除外例トシテ生糸ハ現実五分トス
　一、内地厘金税外一切ノ通過税ヲ全廃スル事
　一、支那ニ於ケル製造業特別規定トシテ
　　外国人ノ支那内地ニテ工場製造業ヲ営ム者ハ、其ノ製品ニ対シ従価ノ一割ノ生産税ヲ課ス、但シ支那人工場モ同様ナリ
　　棉ハ除外例トス
　　例令、紡績棉ヲ外国ヨリ輸入ノ場合ハ輸入税五分、附加税七分五厘、計一割二分五厘ヲ支払フモ、之カ綿糸トナル時ハ、外国棉ハ輸入税ノ五分、附加税ノ三分ノ二即一割ヲ払戻ス規定ナリ
　　　　又支那工場ニテ使用スル支那棉ハ税ヲ課スモ、綿糸トナル場合ハ消費税其他一切ノ税ヲ払戻ス（此等ノ税額ハ未定ナリ）即外国産ノ棉ハ一割二分五厘ノ税ニ対シ、綿糸トナレル場合ハ一割、支那綿ハ全部払戻ス
　　　　而シテ内地到ル処課税ヲ免ルモノトス
以上輸出入税及製造品ニ対スル特別税ノ大体ナルガ
右条約ハ一九〇四年一月一日ヨリ効力ヲ生ジ、支那政府ハ其レ迄ニ内地厘金税一切ヲ廃止スルト同時ニ、之等諸税ノ徴収官吏ヲ悉ク免除スルコトヲ条件トセリ
翌年一九〇三年亜米利加ト条約ヲ結ブ、大体ハ英国ト同様ナルモ、日本ハ一割二分五厘ノ増率ハ不同意ナルモ、一割迄トスル事ニハ同意ス可キ旨申込ミタルモ、支那委員之ヲ承諾セス、故ニ当時日本ハ他日列国ガ同意スル加税免厘案ハ同意ス可シ（列国ノ中ニハ日本モ含マル）
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ト折合ヒ之ヲ追加条約第一条ニ規定セリ
而シテ今日ニ到ル迄支那政府ハ英支条約ノ厘金廃止責任ヲ果サザルモノニテ、之レ支那政府ニ取リ不利ノ原因ナリ
巴里会議ノ際、支那全権ヨリ関税問題ヲ提議シ、列国平和条約ノ中ニ右一九〇二年ノ条約ヲ挿入ス可シト提出シ、支那トシテハ関税主権ヲ希望スルモ、之ノ前提トシテ「マツケー」条約ノ実行ヲ提議ストノ旨趣ヲ述ベタリ
本提議ハ戦争ニ直接関係ナキ故ニ成立セス、依テ支那全権ハ当時関税自主権ニ関スル声明書ヲ発表ス
　内容ハ一、関税上ノ優遇ハ相互的ナルコト
　　　　一、奢侈品・必要品・原料品ハ之ヲ区別シ等差ヲ附スル事
　　　　一、必要品ニ対シテハ一割二分五厘以下ニセザルコト
　　而シテ右条項ヲ含ム新条約ハ一定ノ期間ヲ経タル後ハ自主権ヲ得ル事
更ニ過般ノ華府会議ニ於テハ
　　其ノ総会ニ於テ陳述セル意見ノ要点ハ
　一、輸入税ヲ直ニ一割二分五厘ニ引上クル事
　一、一九二四年ノ一月迄ニ厘金ヲ全廃スル故ニ、各国ハ英支一九〇二年、米支一九〇三年ノ条約ニ依ル附加税ヲ実行スルコト
　一、奢侈品ニ対シテハ一割二分五厘以上ノ税ヲ課スルコトヲ得
　一、右実行後五ケ年以内ニ輸入税ヲ二割五分迄引上クル自由ヲ与フル事
　一、十ケ年後ニハ支那ト列国トノ間ニ定メシ凡テノ関税条約ヲ廃スルコト、即一九二四年ヨリ十ケ年以後ハ自主権ヲ得ルコト
列国ハ関税自主権ニ対シテハ同意ヲ表スルモノナカリシモ、或ル程度ノ増税ハ考慮スルコトトナリ、総会ヨリ分科委員会ニ移シテ討議立案スルコトトセリ
右委員会ニテ立案シ、後総会ニテ決定セルモノガ即去ル八月五日公布ノ関税条約ナリ
右関税会議ハ華府会議条約批准後三ケ月以内、即本年十一月五日以前ニ開会セラル可キモノナリ、之ノ会議ニ関スル英国ノ意見ハ
『「マツケー」条約ノ実行準備ヲ充分ニナシ、其ノ規定ハ大体「マツケー」条約ニ做フモ厘金全廃ヲ前提トス、併シ厘金全廃ハ支那政府困難ナル事情アル故ニ、漸次ニ廃止スルモ亦可ナリ、二分五厘ノ増収入ニ関シテハ
　一、全然外債整理ニ充用ス可シ
　一、全然外債整理ニ充用スルハ不条理ニテ行政費用ニモ充ツ可シ
　一、輸入税ノ負担者ハ商業者ナル故、之ヲ支那ノ生産業ノ目的ニ使用ス可シ
　トノ意見アルモ、全然外債整理ニ使用スルハ不可ナリ』
英国ハ昨年春特ニ一官吏ヲ亜米利加ニ派遣シ打合セ、米モ大体英ト意見合致セル如キモ、其後日本ニモ協議シ来リ、之ニ対シテ日本モ自見ヲ開陳主張セリ、日本ハ内部ニ種々ノ議論アリ一致セス
　一、全然外債整理ニ充用ス可シ
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　一、対支借款中ノ西原借款ハ三銀行即政府ノ責任ナル故、是ハ別個ノ方法ニテ整理シ、二分五厘ノ増収入ハ之ヲ支那ニ於ケル有利ノ事業ニ使用ス可シ
等アリ、容易ナラザル問題ナリ、昨今大蔵・商工・外務ニテ関係官第一回会議ヲ開ケルモ、種々ノ意見アリ、未ダ纏ラザルモノノ如シ
種々ノ意見アルモ、要スルニ華府会議々定当時ノ精神ニ依リ決定ス可キモノト思フ
第二条ノ条件・目的・期日等ノ規定アルモ、其ノ精神ハ日本側ノ意見ニ依リ出来上リタルモノニテ
英国ハ当時七分五厘ヲ直ニ実行スル案ニテ、列国トモ異論ナカリシガ日本ヨリ異論出テ、当時平均三分五厘位ノ率ナル故ニ之ヲ現実五分トナシタル上、更ニ二分五厘ノ附加ヲ実行スルコトハ、日本ノ産業上打撃甚大ナル故、少クモ三年・五年ヲ置ク必要アリトス、依テ一旦委員会ヲ閉ヂ、約一ケ月間妥協案作成ニ費シ出来上リタルモノ也
日本ハ三年・五年ノ後実行ヲ条件トシ、且支那全権ハ増税ニ依ル収入ハ、主トシテ公共事業ニ使用ス可シト云フモ、外債整理ニ使用ス可キヲ主張ス、又条件トシテハ、関税ハ之迄ノ如ク外国ノ一・二ノ銀行ニ取扱ヲ限ラズ、日本ノ銀行ニモ預入ル可シト主張ス
又税関ニ日本人ノ使用数比例少ク不便ナル故ニ、日本人使用人ヲ増ス事、日本ハ今日ニ到リ之以外ノ条件ヲ多ク提出スルハ徳義上不可ナル可ク、只一ノ条件ハ「ボーイコツト」ニ対シ支那政府ハ暗ニ奨励シ、又充分取締ヲナサザルハ不可ナルヲ以テ、之ニ対スル厳重取締方法ヲ提議スルモ可ナル可シ
　七分五厘ニ依ル増収予想ハ
　　昨年ノ輸入税総額三千五百万両即五千万弗
　　　之ノ二分五厘即二千五百万弗
　　　　奢侈品税ヲ加ヘ二千七・八百万弗
　　　　　　　　（支那税関総収入ハ一ケ年約三百万弗位宛増加ス）
之ハ主トシテ外債整理ニ充用ス可ク、日本ノ如キ此ノ際之迄ノ債権ヲ確実ニシ置カザレバ、之ノ先対支投資ハ事実上不可能トナル可シ、一般ニ対支投資ヲ忌避スルニ到ル可ク重大問題ナリ
之ニ対シ外国ノ苦情アランモ、規定当時ノ事情ヲ説明セバ諒解サル可シ、分科委員会ニ於ケル日本ノ提議ニ関シテハ英・米・葡ハ可否言明セザレドモ、他ノ列国ハ賛成セリ、米国ハ後ニ至リ関税預入銀行問題ニ関シテ日本ニ同意ヲ表セリ
　（併シ此ノ増収ノ用途ハ他ニ問題ナシトセバ、最モ支那ノ為メ有効ナルハ鉄道敷設ニアルヘク、之ノ増収ニ依リ二億五・六千万元ノ公債ヲ発行シ、予定線ヲ敷設スルニアリト思フ、次ニハ適当ノ地域ニ棉花栽培事業ヲ起ス事等ナリト思フ）
支那ノ関税自主権ハ最初米ヘ相談シ、米ハ他国ニ相談セシ如キ様子ナルモ、実行不可能ノ議論ナリ、又会議ノ範囲拡大ノ説モ、米ハ一時之ノ説ヲ為セシモ結局実行不可能ナル可シ
一割二分五厘実施ハ厘金廃止ヲ伴ヒ、厘金廃止ハ即内政統一問題ト関連シ、実行容易ナラザル可シ
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外債中担保不確実ノモノ（担保ノ用ヲ為サザルモノモ含ム）
　（日・英・米・仏ノ分）
　　　約五億四千万弗（十二年六月卅日調査）
　　　　内日本側三億二千万余弗（西原借款ヲ含ム）
十四年六月末日ニハ、右外債元利合額六億弗トナリ、日本側債権総額ハ三億六千万弗ヲ計上セラルヽナラン
塩税収入平均年九千五百万弗
　内四千万弗ハ地方的ニ使用セラレ、又ハ地方督軍等ノ為メ抑留セラレ、支那政府ノ手ニ入ルハ
　約五千万弗内外ナリ、此中ヨリシテ塩税担保借款ノ元利ヲ支払フ、其ノ額約三千万弗位
　　支那政府ノ自由ニ使用シ得ル額ハ
約二千万弗内外ナラン
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
尚右増収ニ依ル債権整理ニ対シ、幹事会ニ於テ出テタル意見ヲ綜合スレバ
　西原借款ハ政府ニ於テ責任ヲ負ヒ始末スルモ、民間ノ担保不確実ナル分ハ三銀行関係ノ西原借款ヨリ優先的ニ考慮ス可キモノト思フ
　第一トシテ永年懸案トナレル暴動又ハ排日運動ノ為ニ蒙レル直接ノ損害賠償、第二位トシテハ民間ノ担保不確実ナル対支債権、第三位トシテ政府関係ノ借款ヲ考慮ス可キモノト思フ等ノ説アリタリ。
　協会トシテ引続キ審議対策研究ノ事トス。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（朱印）
極秘　親展
　　　　八月廿五日正午幹事会ニ於ケル木村局長談話要領筆記
今回ノ関税特別会議ニ関スル之迄ノ経過ヲ述ブルニ、先ヅ其ノ取扱方ニツキ二ツノ見方アリ
　第一、今回ノ上海事件ニ関連シテ起レル支那側ノ不対等条約修正要求ト全然無関係ノ場合ノ取扱方
　第二、上海事件ニ関連シ支那側要求ノ不対等条約修正要求ト関連シテ取扱フ場合ト二ノ見方アリ
第一ノ場合ニツキテ述ブレバ、曩ニ華府会議ニ於テ決定セル対支関税条約ハ、仏国トノ金「フラン」問題解決遷延ノ為メ関税会議開催モ従テ今日迄延期シ来レルガ、関税問題ニツキ英米両国ニ於テハ非公式打合ヲ為シ、即大正十二年一月頃（彼ノ臨城事件後）当時米ノ極東局長「マクマレー」氏（現駐支公使）ト英ノ「ウエレスレー」氏トノ間ニ打合ヲ為シ覚書ヲ作成シタリ、其ノ後右ノ決定事項ヲ日本ニモ通知シ来リシガ、其ノ内容日本ノ主張ト一致セザルモノアリ、日本ハ唯英米両国間ノ非公式打合トシテ之ニハ取リ合ハザリキ
之ニ次テ、金「フラン」問題解決後、更ニ米ノ「ラモント」氏、英ノ「アヂス」氏トハ昨年十一月頃関税会議ニ関スル打合ヲ為シタリ
一方支那側ニアリテ、之ノ間、内政其他事態ノ変化アリタリ
第一ハ彼ノ臨城事件ニテ、之ノ事件ノ為メ先ノ華府会議当時ニ於ケル
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英米ノ好意的態度ハ非常ニ変化シ来リタリ
第二ハ仏ノ金「フラン」問題解決
第三ハ五月卅日ノ上海事件勃発
右ノ第三ノ上海事件後ニ至リ、関税会議ニ関シ始メテ日英米三国間政府直接意見ノ交換ヲ開始シタリ
一、特別関税会議ニ関シ問題トナルハ
　第一、会議ニ於ケル討議事項ノ範囲
　第二、二分五厘増徴ニ対シ如何ナル条件ヲ附スルカ
　第三、右増収ノ使途如何
　第四、交渉ノ相手方トシテ支那ノ何レノ政府、政権ヲ撰ブベキカ
大体以上ノ四項ナルガ、先ノ
「マクマレー」、「ウエレスレー」両氏ノ打合ニ依レバ、大体「マツケー」条約規定ノ種々ノ条件ニ依リ七分五厘附加増徴ノ方針ニ依リ、従価二分五里増徴ノ条件・時期ハ、特別会議ニ於テ協議ス可シ、即英米トモ七分五厘ノ附加税ヲ増徴シ一割二分五厘迄引上グルハ止ムヲ得ズ、又二分五厘増徴ノ条件ハ余リ考慮セザルモ、増徴ニ依リ得テタル収入ノ使途ニツキテハ考慮シ、即不確実ノ対支借款整理ヤ投機的不生産的ノモノニ使用スルヨリモ、支那一般ノ公共的ノ目的ニ使用ス可ク即鉄道ノ延長等ニ使用ス可ク、又一部ヲ中央及地方政費ニ充ツ可シト云フ、今日ニテモ之ノ考ヲ仄メカシ居レリ
又右第四項ノ交渉ノ相手方トシテハ、現在ノ臨時政府ハ臨時的ノモノニテ基礎不安定ナル故、地方ノ有力ナル督軍ヲモ集メテ之ニ加フ可シト云フ
右ノ内最モ重要視ス可キハ第三ノ増収ノ使途ナルガ、第二項ハ二分五厘位ニテモ駄目、更ニ厘金ヲ廃シ七分五厘迄増徴シ一割二分五厘トス可シト云フ
金「フラン」解決後借款団側ノ意見
　英ノ「アヂス」氏ヨリ米ノ「ラモント」氏ニ対シ、先ノ英米両極東局長ノ話合ヲ支持シ、更ニ進ンデ二分五厘増徴ヨリ七分五厘増徴、厘金廃止ニ到ル迄ノ中間提案トシテ、之ノ際二分五厘以上ノ増徴ヲ計リ、其ノ収入ハ之ヲ中央政府ニモ地方督軍ニモ交付セス、銀行団ニ於テ之ヲ保管シ、厘金廃止ノ実行ノ成績如何ニ依リ之ノ保管金ヲ渡シ、漸次ニ厘金全廃ノ実行ニ移ル可シ、又
　仮政府ハ其ノ基礎不安定ナル故、此ノ際ハ先ノ両極東局長打合ノ如ク、中央政府ノミヲ指サズ、地方督軍即実際勢力実力アル者ヲ会議ニ参加セシム可シ
　又増収ノ使途ハ、鉄道、其他生産的事業及ヒ政費ニ振向ク可ク、列国ノ監督ヲ必要トシ、其ノ方法ニツキ意見ヲ述ベ、之ニ対シ「ラモント」氏ハ大体賛成シタルモ、深ク具体的ニ賛成ヲ表セザリキト云フ
亜米利加ノ態度
　亜米利加ノ態度ハ華府会議以後変化シ、殊ニ上海事件以後殊ニ甚シク変化セリ
「マクマレー」氏ト幣原外相トノ会見
 - 第55巻 p.361 -ページ画像 
マ氏ハ本年四月日本ニ来リ、六日北京ニ赴任シタルガ、日本ニ於テ外相ト前後四時間ニ亘リ会見、意見ノ交換ヲ為セリ
目下米政府側ニハ支那関係ノ人少ク、マ氏ノ意見ハ大体米政府ノ意見・態度ト見ル可シ、先ノ四項ノ内
第一項ノ討議範囲拡張、外相ト同意見ニテ、討議ノ範囲ヲ現実ニ実行シ得ル範囲ニ止メ、実行困難ノ問題ハ範囲ニ入レザル方針即先ニ取極メノ二分五厘増収ヲ目的トスル事
第二項増徴ノ条件ハ、華府会議ノ精神ヨリ見テ支那ノ産業保護政策ヨリ来リタルモノニ非ス、即収入ヲ増加スル目的ナル故ニ、支那側ニ於テモ相当ノ義務ヲ負フ可シ、即輸入品ニ対シ附加スルト同様ニ、支那生産品ニ対シテモ同様ノ負担ヲ為ス可シ（一種ノ生産税）、之ヲ地方政府ノ収入トスレバ地方官憲モ収入ニ努力ス可シ
　　　之ノ意見ニ対シテハ不同意ナラザルモ、具体的ノ問題ハ尚考慮ス可シト答フ
第三項増収使途ノ問題
　　　先ノ考ヘトハ変化シ、生産的目的、就中鉄道延長等ニ振向クル案ハ英米ノ確定意見ニ非ス、故ニ之ハ不確実ノ債務ニ振向クルコトハ考慮セザル可カラス、内外債ノ整理ハ必要ト認ム併シ使途不確実ノ借款、即現実ニ金ヲ渡サザル債権等ハ之ヲ除外スルカ、他ノ方法ニ依ル可シト云フ
第四項ノ交渉ノ相手方ノ問題
　　　之ハ中央政府不安定ト云フモ、中央ヨリモ地方督軍ノ方ガ尚不安定ニテ、尚地方ノ督軍ヲ参加セシムルコトハ却テ会議ヲ紛糾セシメ、収拾ス可カラザルニ到ル可シトノ日本側意見ニ同意ヲ表セリ
　大体ニ於テ右ノ如ク、全ク主義上意見ノ一致ヲ見タル次第ナルガ、マ氏モ具体的問題ニハ多少議論ノ余地アルコトヲ述ベタリ
英国ノ態度
　先般米ヨリ極東部事務官「パーチンス」氏ヲ英ニ派遣シ、当時吉田参事官モ参加シタルガ、米ノパ氏ハマ氏ノ如ク支那ニ対シ確定意見ナク、重要ナル意見交換ヲ見ザリキ、併シ英ハ米ノ如ク大正十二年頃ト今日ト其ノ態度ニ変化ヲ見ズ、大体ウ氏マ氏取極メ当時ノ考ヘヲ持シ居レル如シ、唯増収ニヨル使途ニツキテハ、一部ハ不確実ノ債務ニ充ツ可ク、尚二分五厘位ニテハ僅少ナル故ニ、更ニ四分位増徴シテハ如何トノ考ヲ持チ居ル事明カトナレリ
第二　上海事件後ノ経過
　五月卅日ノ上海事件後、支那政府ハ六月廿二日附華府会議関係ノ八ケ国ニ対シ同様ノ公文ヲ発シ
　一、不対等条約ノ修正ト同時ニ
　　上海事件ニ関連シ十三ケ条ノ要求ヲ提議シ来レリ
　之ノ提案ニ対スル回答文ノ最初ノ提案者ハ英国ニテ、八月四日第一回ノ提案アリ、最初日本ニ来リ、更ニ米ニモ発ス、相前後シテ三回提案シ来ル
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　日本ハ英ノ第二回提案ニ対シ全文修正ト認ム可キ修正案ヲ発ス、英ハ日本ノ修正案基礎トシ、更ニ米ニ交渉ス、最後ニ
　日本ノ修正案ト米案トハ間隔アリ、米国モ三回提案シ来ル、最後ニ大体意見一致シタルモ、特別会議ノ範囲ノ点一致セス、漸ク一昨々日八月廿二日ニ到リ同意シ来ル
　英モ勿論同意シ来ル可ク、之ニテ対支重要国ノ意見ハ一致ヲ見タル故、近ク支那政府ニ交付サル可シ
　　交渉ノ主体ハ
　第一、在留外人ノ生命財産ノ保護ノ責任ニ対シ、支那側ニ対シ如何ニシテ責ム可キカ
　第二、治外法権ノ撤廃
　第三、関税会議開会ノ問題
第一ニ対シ英国ハ外人ノ生命財産ノ保護ノ意志ト能力トノ証拠ヲ示シテ責任ヲ明カニス可シトス
第二・三ノ治外法権ノ調査委員会ノ開催、華府会議決議ノ関税会議ヲ開ク案件ハ、支那側ノ秩序ヲ維持セザル限リ開会スルコト能ハストシ、用語モ厳ナリ
　之ハ英国ハ目下ノ時局ヲ如何ニシテ打開ス可キカヲ考慮シタルモノナリ
　日本ハ之ニ対シテ完全ナル秩序維持ヲ支那ニ要求スルハ事実不可能ナリ、之ヲ要求スルモ実行シ得ル力ナシ、故ニ相当ノ秩序維持スベキコトヲ警告シテ、右ノ委員会及関税会議ヲ開ク可シト云フ、但シ会議ノ進捗ハ支那政府ノ秩序維持ノ責任ノ意志ト証拠ヲ示ス程度如何ニ依ル事トシ、之ノ提案ニ一致シタリ
第二ノ治外法権ノ撤廃
　英ハ強硬ニテ、単ニ華府会議ノ決議ニ依リ調査委員会ノ申合アルコトヲ指摘スルコトニ止ム可シト云フ
　米ハ英ヨリモ友誼的ノ態度ニテ、治外法権撤廃ニ対シ採ル可キ「ステツプ」ヲ列国政府ニ建議ス可シト云フ
　日本ハ治外法権ノ撤廃ハ最後ノ目的タルコト華府会議ノ精神ニ鑑ミ明白ナル故ニ、之ノ目的ノ為メニ相当ノ年月、相当ノ条件等実際的ニ且具体的ニ進ム可キ意嚮ヲ述ベ、意見ノ一致ヲ見タリ
第三ノ問題ハ関税会議ノ開会ナルガ、英国ハ
　秩序ノ維持ヲ条件トスル事、及ビ更ニ関税会議ヲ開会シ得ルコトヲ警告スルニ止メントシ
　米国ハ之ト異リ、支那側ヨリ申出ヅベキ希望アラバ之ノ会議ヲ利用シ広汎ナル会議ト為スコト、即各般ノ条約改訂ヲモ考慮スル考ナリ日本ハ之ニ対シ関税会議ヲ関税以上ノ広汎ナル会議ト為スコトニ反対シ、修正案ハ治外法権ノ撤廃ノ為メ調査委員会及関税会議ノ開会トモ華府会議ノ精神ニ鑑ミ充分之ヲ履行スルコトトシ、友誼的トシ英ハ同意シタルモ、米ハ同意セス、米ハ英ノ如キ考以外ニ関税自主権ヲ与フルコトヲ目標トスル条約ノ改修ヲモ付議シ得ルトノ意見ナリシガ、後ニ関税自主権ノ字ヲ削ルコトトナレルガ、関税問題ト共ニ一切ノ問題ヲ取扱フ広汎ナル会議ト為スコトヲ更ニ提議シ来ル
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　松平公使ハ屡米政府ト折衝ノ結果、米ノ意志ハ唯漠然タル考ヘニテ華府会議当時ノ取極メノミニ止メス、支那政府ノ各種ノ提案ヲ此ノ会議ニ於テ聴クコトヲ得ルトス可シトノ考ヘナルコト明カトナレル故、日本ハ之ニ対シ、名目丈広汎ニシ実質之ニ伴ハザレバ、支那政府ハ失望ス可ク、目下ノ時局ヲ見テモ失望ノ結果更ニ根底ノアル反抗ヲ見ルニ到リ却テ紛糾ヲ来ス可シ、依リテ支那政府ノ理由アル提案ハ之ヲ会議ニ受入ル可シ、但シ華府会議ノ精神ニ依ルコトトス
　斯クシテ修正案ヲ同意シ、漸ク一ケ月余ニテ成文トナリタル次第ナリ、今回支那政府ノ関税会議召集文ハ穏健ニテ、国内ニ於テハ先ニ全然関税会議ヲ開カザル事、又ハ自主権ノミヲ議スル事トノ説アリシモ、右三国間ノ打合ニ応ジテ種々ノ国内ノ議論モ変化スルモノニテ、最後ニ穏健説ニ決定シタルモノナリ
　米国ハ対支知識ヲ有スルモノ少ク、方針動揺シ居レルモ、目下ハ大体マ氏ノ意見ヲ重ジ居レリ
　関税問題ハ英米二国ハ日本ノ如ク大ナル影響ナキ為メ、支那政府ノ提案次第ニテ相当紛糾ヲ免レザルベシ
日本ハ之ニ対シ
　経済上増税ノ最大限度ヲ何レニ置クカ、又
　政治上支那側ノ要求ニ対シ何処迄加担ス可キカ
　ノ二点ヲ慎重ニ考慮ス可ク、英米ハ大体治外法権撤廃ニハ反対ナル可キモ、関税ハ少々譲歩シテモ差支ナキ考ナリ
　日本ハ之ト反対ノ立場ニアル故、会議ニ於テ具体的問題ニ移ラバ何処迄協調スルヤ疑問ニテ、日本ニ取リテハ重大問題ナル故、右ノ二点ニツキ玆一ケ月位ノ間ニ、協会トシテモ研究ノ上何分ノ意見決定セラレンコトヲ希望ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
当日話題ニ上リシ重ナル点
一、支那ニ於ケル棉製品ヲ工場ヨリ他ニ移出ノ場合ハ、百斤ニツキ九銭ノ徴税アリ、之ノ税ハ納入者ノ撰択ニテ何レノ条約ニヨル可キカヲ定ム、一九〇二年ノ条約ニヨル方軽減ナリ、之ノ税ノ収入ハ大部分ハ開港場ナル故海関ノ収入トナリ、少部分ハ厘金局又ハ常関ノ収入トナル、即棉糸一俵（三百十斤）二両七九仙、一俵三二〇円即五十六両替ニテ一七〇両、即右課税ハ約一分六厘ニ当ル
　支那生産品海外輸出ノ場合ハ免税ナル故、青島ノ「ビール」ノ如キ日本ニ来ル時ハ免税サルモ、大連ニ来ル時ハ課税サル、故ニ却テ高価トナル
　増収ノ使途ニツキ、マ氏ト外相トノ打合ハ内外債ノ不確実債務整理トアル故、内債モ含マル、即原則トシテハ凡テノ債務ニ充ツルトシ収入ニ限度アル故、自ラ調節問題起ル可ク、債務ニ依リ順位ヲ置ク必要起ル可ク、早期決済ノ分ハ利子ヲ安クシ、長期ニ亘ルモノハ利息ヲ高クスル方法ヲ採ル外ナカル可シ
　西原借款ニツキテハ別途ノ方法ヲ講ズル必要アル可シ
一、支那政府交通部ノ考ヘハ、交通部ノ有力ナル財源ヲ有スル故、其ノ債務ハ別途トスル考ニテ、又肩ヲ軽クスル為メ性質上ヨリ区別シ
 - 第55巻 p.364 -ページ画像 
ナル可ク財政部ニ移ス考ヘヲ持チ居レリ
　目下日英米仏ノ不確実ノ債権ハ約六億弗ニテ、之ニ内債ヲ加フレバ十億トナル可シ
　自然増収（年三百万両宛）担保ノ解除等ニ依リ二分五厘ノ増徴ノミニテモ五・六年ノ後ニハ六千万弗位ノ余裕トナリ、一九四〇年ニハ一億万弗位トナル計算ナリ、又二十六年後ニハ団匪賠償解除サレ余裕ヲ見ル計算ナリ
一、三千万弗ヲ引当テニ三十年期限ニテ四億万弗ノ外債ヲ得、現在ノ債務ヲ三十年ノ末ニ受取レバ幾何、之ニ直ニ受取レバ幾何トシ、一時ニ償還スル方法モ一案ナル可シ
一、支那ニ於ケル紡績錘数

一、支那側ノ云フ所ニ依レバ、関税自主権ヲ得レバ、左記税率ニ依ルト云フ
　　　奢侈品ハ　　三割乃至十割
　　　無益品ハ　　二割乃至三割
　　　入用品ハ　　一割乃至二割
　　　必要品ハ　　五分乃至一割
一、外務・大蔵・商工各省最近二回ニ亘リ打合セタル方針ハ
　（一）増徴ハ七分五厘ニ限ルコト、同時ニ内地生産品ニ対シ均衡的生産税ヲ課スルコトヲ実施セシメ、之ヲ地方ノ収入ニ充ツルコトトスルコト
　（二）華府会議当時幣原全権発議ノ門戸開放、制度ノ開放、原料品輸出ノ自由等ヲ提議スル事、居住・営業ノ自由等条約上規定サレ実施サレザルモノヲ実施セシムルコト
　（三）関税ノ預入銀行ヲ英国以外ノ他ノ日本ノ銀行ニモ預ケ入レシムル事
　（四）税関使用外人中日本人ヲ更ニ増加セシムル事
　増収ノ使途ハ二分五厘ノ増収、自然増収、担保解除等ニ依リ相当ノ収入アル可キニ依リ、債務ヲ一定ノ比例ニ依リ分チ、内外債整理ノ為メニ公債ヲ発行セシメ、一部ヲ中央政府ノ政費ニ充テシムル事、従来ノ賠償金等ハ之ノ中央政府ノ分ヨリ支払ハシムル方法ヲ採ル事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
以上ナルガ、日本側トシテハ最後ノ腹案トシテ
　一、二分五厘以上何処迄増徴ス可キカノ最大限度ヲ決メ置ク事
　一、関税自主権ノ要求ニ対シ如何ニ取扱フ可キカ
之ノ二問題ニ対シ慎重考究ノ必要アリ、協会トシテモ対策考究ノ事ヲ申合ス。

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日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
謹啓
今秋開催サルヘキ支那特別関税会議ニ関シテハ、之カ対策ニ付御当局ニ於テハ慎重御講究中ノ趣拝承罷在候処ニ御座候得共、当協会ニ於テモ慎重熟議ヲ遂ケタル上、同会議ニ対スル所見別紙ノ通リ上申仕候ニ就テハ、願意貫徹出来候様御高配被成下候ハヽ難有奉存候　敬具
　　大正十四年九月　日
　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵　渋沢栄一
　　　外務大臣
　　　　男爵　幣原喜重郎殿
 - 第55巻 p.367 -ページ画像 
（別紙）
　　　　　　（朱書）
　　　　　　確定提出ノ分
　　　　支那特別関税会議ニ対スル意見
一、関税増加ノ範囲及限度○前掲再修正案ニ同ジ、略ス。
二、関税引上ニ対スル条件並ニ用途
　　一、各国カ条約上得タル支那ニ於ケル通商上ノ権利ヲ確保スル為メ、従来屡繰返サレタル国内ノ排外的運動・暴動及之等煽動者並ニ各地ニ於ケル不法ナル課金ニ対シテハ、支那政府ヲシテ之カ徹底的取締方ニツキ厳重ナル保障ヲ為サシムル事
　　二、従来懸案未決ノ儘ニ置カレタル暴動其他ノ不法行為ニ依リ邦人ノ受ケタル損害ハ、借款整理ニ先テ第一ニ賠償セシムル事
　　三、仕払不確実ナル対支外債ノ整理ヲ為サシムル事
　　四、従来借款ノ担保トナレル塩税及鉄道収入等ノ如キ、地方官憲ニ於テ抑留私用シ、契約上ノ義務ヲ履行セサルモノニ対シテハ此ノ際根本的ニ之ヲ禁遏セシムル事
三、希望条件
　　一、通商区域ノ拡張、商埠地ノ増設並ニ資源開発上必要ナル現行法規ノ改訂ヲ為サシムル事
　　二、関税保管制度及関吏任用方ヲ改善スル事
　　三、陸境関税率ニ関シテハ特ニ考慮ヲ払ハレタキ事
　　四、現行輸入税負担ノ均衡ヲ保ツ為メ、期限ヲ俟タズ速ニ品目ノ整理改定ニ着手スル事
　　五、二分五厘引上ノ増収ハ之ヲ外債整理ニ充当スルヲ主眼トス可ク、其ノ一部ヲ内債ノ整理ニ使用スルノ止ムヲ得サル時ハ、左記諸点ニ付考慮ヲ払ハレ度キ事
　　　　一、内債ノ整理ニ当リテハ其ノ性質ヲ厳重ニ吟味スル事
　　　　一、酒・煙草ノ専売制度ヲ設ケシムル如キ国内諸税制ヲ整理シテ其ノ増収ヲ図ラシムル事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
一、関税自主権ノ要望並ニ厘金税撤廃ニ伴フ関税一割二分五厘引上ノ件
　関税自主権ノ要望ハ巴里会議以来支那側多年ノ主張ニシテ、○中略　今回ノ会議ニ於テ直ニ之カ実現ヲ期スルコトハ至難ニシテ、支那トシテハ将来ニ於テ現存条約ノ規約ヲ遵守スルノ誠意ヲ示スト同時ニ、内政ノ整頓其他各般施設ノ準備改善ヲ為シ、以テ前記目的達成ノ気運ヲ促進セシムルコトニ努ム可キナリ
　次テ今回会議ノ議題タル可キ所謂英支「マツケー」条約ニ依ル厘金税撤廃ニ伴フ関税一割二分五厘引上準備モ、之カ必須条件タル厘金税及其他内地税ノ廃止ハ、中央政府ノ権力地方ニ及ハスシテ、各省ハ或ハ自由ニ内地税ノ設定ヲ為スカ如キ、或ハ鉄道貨物厘金課税ノ如キ、或ハ国際的契約ヲ無視シテ塩税ノ自由処分ヲ為スカ如キ、凡テノ規約及法規ノ完全ニ行ハレサル現状ニ於テハ、到底之カ実現ハ不可能ニシテ、強テ直ニ之カ実行ヲ約スルモ、其ノ結果ハ唯ニ列国ヲ利セサルノミナラス、支那自身ノ信用ヲ内外ニ失墜シ、却テ弊累
 - 第55巻 p.368 -ページ画像 
ヲ繁カラシムルニ終ルノミト信ス　以上
　　大正十四年九月　日
　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵　渋沢栄一
　　　外務大臣
　　　　男爵　幣原喜重郎殿
謹啓
　　　　我カ対支債権整理ニ関スル件
支那特別関税会議ニ関シ具陳仕候別紙○前掲当協会意見書中ノ我カ不確実ナル債権整理ノ順位ニ関シテハ、先ツ売掛金及民間実業借款ノ整理ヲ第一ニ考慮セラレ、次テ他ノ借款整理ニ及ハルヽ様御考慮相願度、此段特ニ上申仕候　敬具

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日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月二十九日前十一時於東京銀行倶楽部日華実業協会幹事会
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日置益
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　安川雄之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　奥村氏代　斎藤延
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　荻野元太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　森弁治郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　角田隆郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　倉知鉄吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　白岩竜平
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　児玉謙次
 - 第55巻 p.369 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　森広蔵
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　白仁武
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小野英二郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　門野重九郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢子爵

日華実業協会第五回総会報告書　　第六―七頁大正一四年一二月刊
　　　　第五回会務報告　大正十三年十二月以降
○上略
　　一、支那特別関税会議ニ対スル対策
　今秋○大正一四年ヨリ北京ニ開催中テアリマス支那特別関税会議ハ、我カ対支経済貿易上ニ及ホス影響重大ナルノミナラス、更ニ政治上ニモ国際上ニモ重大結果ヲ来スモノテアリマシテ、協会トシテハ政府当局ノ意嚮ハ勿論、関係各方面ト意見ノ交換ヲ致シ、屡次幹事会ヲ開キテ、之カ対策ニツキ慎重審議致シマシタ結果
　一、関税引上ノ範囲及限度
　一、関税引上ニ対スル条件並ニ用途
　一、希望条件
　一、関税自主権ノ要望ニ対シ
　一、我カ対支債権整理ニ関シ
　以上ノ諸項ニ亘リテ政府当局ニ意見書ヲ提出シ、其ノ参考ニ供シ、又其ノ一部ハ当時新聞紙上テ発表致シマシタ次第テアリマス
○下略

竜門雑誌　　第四四五号・第五九頁大正一四年一〇月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　九月中
健康も日増快復に近く○中略　日華実業協会幹事会催日置大使招待会（二十九日）等に出席せられたるも、尚ほ摂養に努められつゝあり。

集会日時通知表　　大正一四年　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月廿四日　木　午前九時半　日置大使来約（アスカ山邸）
九月廿九日　火　午前十一時　日華実業協会幹事会（銀行クラブ）

日華実業協会第五回総会報告書　　第一五頁大正一四年一二月刊
　　　　役員会並ニ諸会合（大正十四年一月以降）
○上略
招待会　九月二十九日午前十一時ヨリ丸ノ内銀行倶楽部ニ会合ヲ催シ支那特別関税会議ニ帝国全権トシテ赴任ノ日置全権ヲ午餐ニ招待シ病気静養中ノ渋沢会長モ特ニ出席サレ、関税会議ニ対スル意見ノ交換ヲ為ス
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
 - 第55巻 p.370 -ページ画像 
（朱書）
原案
(秘)
　　　　支那特別関税会議ニ対スル意見要項
一、関税自主権ノ要望並ニ厘金税撤廃ヲ伴フ関税一割二分五厘引上
　関税自主権ノ要望ハ巴里会議以来支那側多年ノ主張ニシテ、今回ノ特別関税会議ニ際シテモ之ガ提議ヲ見ル可キハ明カニシテ、税権ノ拘束ヲ脱セントスル希望ニハ深ク同情シ、之ガ目的達成ニ対シテハ進ンデ援助ヲ与フ可キハ勿論ナルモ、政治経済財政等ノ状態安定シ且ツ其ノ安定ガ常識的、継続的性質ヲ発現シ来ル時ニ於テ、始メテ自主権ノ事実的認容ヲ考慮ス可キモノト認ム
　支那ノ現状ハ、曩ノ華府会議当時ト比較シテ何等対内的改善ノ事実ナキノミナラス、華府会議ノ延長トモ認ム可キ此回ノ会議ニ於テ、直ニ之ガ実現ヲ期スルコトハ到底困難ニシテ、支那トシテハ現存条約ノ規約ヲ遵守スルノ誠意ヲ示スト同時ニ、内政ノ整頓其他各般施設ノ準備改善ヲ為スコトニ努力ス可キモノト思フ
　次テ今回会議ノ議題タル可キ一九〇二年及一九〇三年ニ亘リ支那ト日英米ノ諸国トノ間ニ締結セラレタル所謂英支「マツケー」条約ニ依ル厘金税撤廃ニ伴フ関税一割二分五厘引上ケ準備モ、之カ必須条件タル厘金税及其他内地税ノ廃止ハ、中央政府ノ権力地方ニ及バズシテ、各省ハ或ハ自由ニ内地税ノ設定ヲナスガ如キ、或ハ鉄道貨物厘金課税ノ如キ、或ハ国際的契約ヲ無視シテ塩税ノ自由処分ヲ為スガ如キ、凡テノ規約及法規ノ完全ニ行ハレザル現状ニ於テハ、到底之カ実現ハ不可能ニシテ、強テ直ニ之カ実行ヲ約スルモ、其ノ結果ハ一ノ空文ニ終リ、支那自身其ノ信用ヲ内外ニ失墜スルニ終ルノミト信ズ
一、関税二分五厘引上並ニ之カ条件及用途
　関税二分五厘引上ハ今回ノ会議ニ於テ現実ノ問題トシテ当然協議サル可ク、従テ之カ条件並ニ用途ニツキ世上種々ノ議論アルモ、曩ニ華府会議ニ於テ経済上最モ打撃ヲ被ル可キ日本ガ之ニ賛成シタル主旨ハ、決シテ支那ノ内国産業ヲ保護セシムル為メニ非ズシテ、其目的ハ窮乏セル支那ノ財政ヲ援助スル為メ賛成シタルモノナレバ、之カ条件ノ如キモ可成多岐ニ亘ルヲ避クルヲ妥当ト信ズ
　即支那資源開発上ノ諸障害ト認メラル可キ現行鉱業法ノ改訂、通商区域ノ拡張ノ如キ、又防穀令撤廃ノ如キ此ノ機会ニ除去セシムルコトモ可ナルヘキモ、其ノ最少限度ノ条件トシテハ、各国ガ条約上得タル支那ニ於ケル通商上ノ権利ヲ確保スル為メ、従来屡繰返サレタル国内ノ排外的運動及暴動並ニ之等煽動者ニ対シ、支那政府ヲシテ之カ徹底的取締ヲ主義上厳重ニ認メシムルコトヲ要ス、此約定ハ仮令将来一片ノ空文ニ終ルコトアリトスルモ、今回ノ会議ニ於ケル当然ノ条件ト思惟ス
　又華府会議当時日本側ノ希望タル関税保管制度及関吏任用ノ如キモ当然之カ条件タラシム可シ
　関税ノ保管ハ第一革命以来英・独・露ノ三銀行ノミ之ヲ保管シ、最近専ラ英国側銀行ニノミ保管サレ居ルモ、右ハ或一国ノ銀行ニ対シ
 - 第55巻 p.371 -ページ画像 
テ特殊ノ資金ヲ供給スルモノニシテ、此レカ為メ他国ノ銀行ハ著シキ不利ヲ蒙ムリ、延テハ貿易上影響ヲ与フルヲ以テ、之ヲ矯正スル為メ、今後ハ各国ノ対支貿易額ト海関収入ヲ担保トスル債権額トニ応シ、一定ノ比率ヲ設ケ、夫々之カ機関銀行ニ保管セシムルコトトス可ク、従テ当然日本ノ銀行ニモ之カ保管ヲ托セシム可キナリ
　次ニ海関ニ使用スル外国関吏ノ採用標準ハ、主トシテ或一・二国人ニ偏重シ居レルモ、日本ノ如キハ従来最モ不公平ノ取扱ヲ受ケ居リ支那人ニ至リテハ一層不公平ナル立場ニ置カルヽ状態ナルニ由リ、通関ノ手続ヲ簡便ニシ、且ツ待遇ノ公平ヲ保ツ為メ、通商貿易上関係密切ナル日本国人ノ関吏ノ数ヲ更ニ増加スルト共ニ、又一面ニ於テ新式教育ヲ受ケタル有用ナル支那人登用ノ方ヲ講ス可シ
　次ニ今回ノ関税引上ヨリ生スル増収ノ用途ニ対シテハ、各国其利害ヲ同シクセサル為メ議論区々ニシテ、或ハ鉄道建設、港湾設備等主トシテ経済及貿易関係ノ改善ニ使用ス可シト説クモノアルモ、今回ノ増税ハ華府条約訂結ノ精神ヲ尊重シ、支那ノ財政交通《（五字衍）》ノ窮乏セル財政ヲ救助スルコトヲ以テ之ガ主眼トセザル可カラズ、而シテ目下支那ノ財政窮乏ハ、主トシテ期限ノ迫レル多額ノ内外債ノ為メニ其ノ財政ヲ圧迫サレ居ル為メナルヲ以テ、此際其増収ヲ以テ之ガ整理ニ着手シ、財政上ノ圧迫ヲ除クト共ニ、内外ノ信用ヲ恢復スルニ非レバ、将来財政ヲ確立セシムルノ時期ナカル可シト信ズ
　又我国ノ投資関係ヨリ見ルモ、従来ノ投資ノ多クハ元利共未払ノ状態ニ陥リ、其ノ結果一般ニ対支関係事業ノ投資ヲ忌避スルニ到リ、両国ノ経済関係ニ顧ミ誠ニ憂慮ス可キ状態ニ在リ、此点ヨリ見ルモ此機会ニ従来ノ投資借款ノ整理及ヒ之ガ償還ノ途ヲ講セザル可カラズ
　而シテ吾国ノ対支借款整理ニ際シテハ、先ツ担保不確実ナル民間実業借款（鉄道材料ノ如キ其他各種ノ売掛金）ノ整理ヲ第一ニ考慮シ次テ他ノ関係借款ニ及ブベク、又従来懸案未決ノ儘ニ置カレタル暴動其他ノ事由ニ依リ各地ニ於テ邦人ノ受ケタル直接損害ハ、此機会ニ支那ヲシテ至急解決賠償ノ途ヲ立テシム可キナリ
一、関税増加ノ最大限度及財政上必要ノ施設
　今次ノ会議ニ於テ一大問題トナル可キハ、今回ノ増収ニ依リ果シテ内外債整理ヲ完了シ、更ニ其一部ヲ支那ノ行政費ニ充ツルノ余裕ヲ見出シ得ルヤ否ヤノ点ニシテ、支那側ノ熱心ナル関税自主権要望、及ヒ関係各国ノ利害及ヒ態度ノ一致シ難キ点ニ鑑ミ、会議ノ所期目的達成至難ニシテ、吾国ノミ窮地ニ陥リ、他ニ適当ナル妥点《（協脱カ）》ナキ場合ハ、万止ムヲ得ズ内外債務ノ整理完了ヲ条件トシテ更ニ関税一分程度ノ増税ヲ覚悟スル必要アル可ク、且ツ中央並ニ地方ノ行政費ヲ補充シ、同時ニ内外債務整理ノ補助担保ヲ提供セシムル為、左記諸点ノ実行ニ着手セシム可シ
　一、交通関係ノ鉄道・電信其他ノ収入ヲ、従来ノ如ク勝手ニ軍閥ノ私用タラシメズ、適当ノ方法ヲ設ケテ確実ナル銀行ニ預托セシムル事
　一、酒・煙草ノ専売制度ヲ設ケテ、之ガ組織ハ現在ノ塩税ノ制度ニ
 - 第55巻 p.372 -ページ画像 
倣フ事
　一、在支外国式工場ノ生産品ニ対シ、今回ノ附加税ニ対スル均衡的生産税ヲ設置セシムル事
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
（朱書）
修正案
(秘)
　　　　支那特別関税会議ニ対スル意見
一、関税増加ノ範囲及限度
　支那ニ於ケル輸入税率ヲ現行率以上ニ増加スルコトハ、他ノ列国ト異リテ我対支貿易上ニ最モ重大ナル影響ヲ与フルモノナルニ依リ、今回ノ会議ニ於テ増税ノ程度ハ飽ク迄華府会議議定ノ範囲内（二分五厘）ニ局限セラレ度シ
一、関税二分五厘引上並ニ之ガ条件及用途
　関税二分五厘引上ハ今回ノ会議ニ於テ現実ノ問題トシテ当然協議サル可ク、従テ条件並ニ用途ニツキ世上種々ノ議論アルモ、曩ニ華府会議ニ於テ経済上最モ打撃ヲ被ル可キ日本ガ之ニ賛成シタル主旨ハ決シテ支那ノ内国産業ヲ保護セシムル為メニ非ズシテ、其目的ハ窮乏セル支那ノ財政ヲ援助スル為メ賛成シタルモノナレバ、之ガ条件ノ如キモ可成多岐ニ亘ルヲ避クルヲ妥当ト信ズ
　即支那資源開発上ノ諸障害ト認メラル可キ現行鉱業法ノ改訂、通商区域ノ拡張ノ如キ、又防穀令撤廃ノ如キ、此ノ機会ニ除去セシムルコトモ可ナルベキモ、其ノ最少限度ノ条件トシテハ、各国ガ条約上得タル支那ニ於ケル通商上ノ権利ヲ確保スル為メ、従来屡繰返サレタル国内ノ排外的運動及暴動並ニ之等煽動者ニ対シ、義和団事件ニ関スル列国トノ条約並ニ当時ノ上諭ノ趣旨ニ基キ、支那政府ヲシテ之ガ徹底的取締ヲ主義上厳重ニ認メシムルコトヲ要ス、此約定ハ仮令将来一片ノ空文ニ終ルコトアリトスルモ、今回ノ会議ニ於ケル当然ノ条件ト思惟ス
　又華府会議当時日本側ノ希望タル関税保管制度及関吏任用ノ如キモ当然之ガ条件タラシム可シ
　次ニ今回ノ関税引上ヨリ生ズル増収ノ用途ニ対シテハ、各国其利害ヲ同シクセザル為メ議論区々ニシテ、或ハ鉄道敷設、港湾設備等主トシテ経済及貿易関係ノ改善ニ使用ス可シト説クモノアルモ、今回ノ増税ハ華府条約訂結ノ精神ニヨリ、支那ノ財政交通《（五字衍）》ノ窮乏セル財政ヲ救助スルコトヲ以テ之ガ主眼トセザル可ラズ、而シテ目下支那ノ財政ハ主トシテ期限ノ迫レル多額ノ内外債ノ為メニ其ノ財政ヲ圧迫サレ居ル為メナルヲ以テ、此際其増収ヲ以テ之ガ整理ニ着手シ、財政上ノ圧迫ヲ除クト共ニ、内外ノ信用ヲ恢復スルニ非レバ、将来財政ヲ確立セシムルノ時期ナカル可シト信ズ
　又我国ノ投資関係ヨリ見ルモ、従来ノ投資ノ多クハ元利共未払ノ状態ニ陥リ其ノ結果一般ニ対支関係事業ノ投資ヲ忌避スルニ至リ、両国ノ経済関係ニ顧ミ誠ニ憂慮ス可キ状態ニ在リ、此点ヨリ見ルモ此機会ニ従来ノ投資借款ノ整理及ビ之ガ償還ノ途ヲ講ゼザル可カラズ
 - 第55巻 p.373 -ページ画像 
而シテ吾国ノ対支借款整理ニ際シテハ、先ツ担保不確実ナル民間実業借款（鉄道材料ノ如キ其他各種ノ売掛金）ノ整理ヲ第一ニ考慮シ次テ他ノ関係借款ニ及ブベク、又従来懸案未決ノ儘ニ置カレタル暴動其他ノ事由ニ依リ外国人ノ受ケタル直接損害ハ、此機会ニ他ノ借款整理ニ先テ支那ヲシテ至急解決賠償ノ途ヲ立テシム可キナリ
一、前記内外債務整理完了シ財政上ノ余裕ヲ見ルニ至ラバ、専ラ鉄道敷設ノ如キ、棉花栽培事業ノ如キ、経済貿易関係改善上ノ費用ニ充テシム可シ
一、支那政府中央並ニ地方ノ行政費ヲ補充シ、同時ニ内外債務整理ノ補助担保ヲ提供セシムル為メ、左記諸点ノ実行ニ着手セシムヘシ
　イ、裁兵ヲ実行シテ経費ノ節減ヲ図ル事
　ロ、交通関係ノ鉄道・電信其他ノ収入ヲ従来ノ如ク勝手ニ軍閥ノ私用タラシメズ、適当ノ方法ヲ設ケテ確実ナル銀行ニ預托セシムルコト
　ハ、酒・煙草ノ専売制度ヲ設ケテ、之カ組織ハ現在ノ塩税ノ制度ニ倣フ事
　ニ、在支外国式工場ノ生産品ニ対シ、今回ノ附加税ニ対スル均衡的生産税ヲ設置セシムル事
一、海関公用語トシテ日本語ヲ加ヘシムル事
一、将来適当ノ機会ニ現行輸入税負課ノ基準ヲ実際ト適応スル様整理改定セシムル事
一、関税自主権ノ要望並ニ厘金税撤廃ヲ伴フ関税一割二分五厘引上関税自主権ノ要望ハ巴里会議以来支那側多年ノ主張ニシテ、今回ノ特別関税会議ニ際シテモ之ガ提議ヲ見ル可キハ明カニシテ、税権ノ拘束ヲ脱セントスル希望ニハ深ク同情シ、之ガ目的達成ニ対シテハ進ンデ援助ヲ与フ可キハ勿論ナルモ、政治経済財政等ノ状態安定シ且ツ其ノ安定ガ常識的、継続的性質ヲ発現シ、他ノ不対等条約更改ノ如キ問題ヲ考慮ス可キ時期ニ於テ始メテ自主権ノ事実的認容ヲモ考慮ス可キモノト認ム、然ルニ支那ノ現状ハ、曩ノ華府会議当時ト比較シテ何等対内的改善ノ事実ナキノミナラズ、却テ著敷悪化セル際、華府会議ノ延長トモ認ム可キ今回ノ会議ニ於テ直ニ之ガ実現ヲ期スルコトハ至難ニシテ、支那トシテハ将来ニ於テ現存条約ノ規約ヲ遵守スルノ誠意ヲ示スト同時ニ、内政ノ整頓、其他各般施設ノ準備改善ヲ為シ、以テ前記目的達成ノ気運ヲ促進セシムルコトニ努ム可キナリ
　次テ今回会議ノ議題タル可キ所謂英支「マツケー」条約ニ依ル厘金税撤廃ニ伴フ関税一割二分五厘引上準備モ、之ガ必須条件タル厘金税及其他内地税ノ廃止ハ、中央政府ノ権力地方ニ及バズシテ、各省ハ或ハ自由ニ内地税ノ設定ヲ為スガ如キ、或ハ鉄道貨物厘金課税ノ如キ、或ハ国際的契約ヲ無視シテ塩税ノ自由処分ヲ為スガ如キ、凡テノ規約及法規ノ完全ニ行ハレザル現状ニ於テハ、到底之ガ実現ハ不可能ニシテ、強テ直ニ之ガ実行ヲ約スルモ、其ノ結果ハ一ノ空文ニ終リ、支那自身其ノ信用ヲ内外失墜スルニ終ルノミト信ズ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上

 - 第55巻 p.374 -ページ画像 

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　（宛名朱書）　　　　　　　　　　　　　　　　（朱書）
　　　　渋沢子爵閣下　　　　　　　　　　　　　　　　竜平
拝呈　陳者去月二十日華族会館に於ける会合にて支那問題に関する御協議を仰き候処、爾来委員会並に特別委員会に於て慎重審議御決定の条々別紙の通整備候間、御高覧被成下度候
尚ほ来る九月八日（火曜日）午後五時華族会館に於て総会開会、御決議を仰くことに執計候間、同日は是非御繰合せ御出席願上候
　　大正十四年九月一日
　　　　　　　　　　　　　　　東亜時局研究会
　　　　　　　　　　　　　　　　座長　伯爵大木遠吉
（別紙、謄写版）
　　　　対支問題綱要申合
一、帝国ノ外交ハ正義公道ニ合シ、且国民ノ支持、諒解ノ基礎ニ樹立セラレタルモノナラサル可カラス
二、東洋平和ノ確保ト彼我国民幸福ノ増進ヲ基調トセル帝国ノ対支政策ハ、徹底セル平和ノ方針ヲ以テ共存共栄ノ目的ヲ達成スルニ在リ
三、吾人ハ支那カ速カニ統一サレタル政府ノ下ニ鞏固ナル財政ノ基礎ヲ樹立センコトヲ要望ス
四、吾人ハ支那国民ノ税権・法権等ノ恢復ニ対スル要望ニ深甚ナル同情ヲ有ス、故ニ苟モ公正適切ナル主張ニ対シテハ其促進ニ協力センコトヲ欲ス
五、日支経済提携ハ相互ノ共通利益ニ合シ、従ツテ両国民間ノ親善ヲ増進スルト同時ニ、東洋平和ニ貢献スル所以ナルヲ惟ヒ、吾人ハ彼我国民的外交ノ上ニ其実現ヲ期センコトヲ欲ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
　　大正十四年八月二十四日華族会館ニ於ケル委員会ニテ決定
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東亜時局研究会
（別紙、謄写版）
（表紙）

　　　　（花押）
　　　支那税権・法権恢復問題に対する意見

　　　　支那税権・法権恢復問題に対する意見
来十月二十六日北京に於て開かるべき支那の関税に関する特別会議の目的は
一、一九〇二年及一九〇三年支那と英・米・日との間に締結せられたる条約に規定する関税附加税賦課の為め、釐金の急速の廃止及他の条件の履行準備
二、右履行に先ち適用せらるべき暫行規定の考量
三、華盛頓会議に於ける九国条約第三条及第五条の実施に関する問題と、調査すべき極東問題諮議院構成の細目案起草
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に在り。事已に帝国々民の経済に影響する処甚大なり、而かも支那現時の情勢に徴するに、会議の進展に伴て議題は関税自主権の回復、若くは治外法権撤廃等に拡大し、更に帝国の政治・経済及国際関係上に重大なる根本的変化を招徠するの結果となるなきを保し難し。吾人は極東大局の保持に顧み、又九国条約の精神条項に則り、今次支那問題に関して帝国の執るべき根本方針の綱要を発表したり。吾人は其趣旨に基き、玆に当面諸問題の解決に関して、左に具体的要項を列挙し、国論を喚起して、以て帝国政府当局をして倚依する所あらしめんと欲する者なり
第一、関税問題
　一、関税特別会議に於ける主要問題は一九〇二・三年の諸条約に依る釐金税の廃止及他の条件の履行準備に関して必要なる措置を執るに在り、故に帝国政府は急速に此実行を確保すべき手段方法に付徹底的に協議を遂ぐべし
　二、華盛頓会議に於ける支那関税条約第三条（暫行規定として従価二分五厘の附加税賦課）の規定実行に関する商議は、我国家経済の大局より打算して公正なる協定を要すると同時に、関税改正の根本目的たる釐金税廃止の期日及実施方法と関聯するところ大なるべきに顧み、帝国政府は彼此不可分の問題として本件を措置するを要す
　三、関税自主権は釐金税及内地貨物税の廃止が完全に実行せらるべき確実なる保障を得るに於ては、帝国政府は其回復を促進するの趣旨を以て之を考量すべし
　四、経済共通の原則及日支両国共存共栄の趣旨に基き、釐金税廃止の実行と同時に、国内交易の自由、輸出税の廃止及防穀令其他資源の開発に関する経済的障壁の撤廃に付、帝国政府は支那政府の確実なる保障を要求すべし
　五、海関行政の管理に関し、帝国政府は此際出来得る限りの範囲に於て支那の自治を容認し、且支那列国間に於ける貿易の実際に徴して、行政の公平正当を期する為め、監督上適当なる革正を加ふることに付支那及列国と協商を遂ぐべし
第二、治外法権問題
　一、華盛頓会議に於ける支那の治外法権に関する決議に基き、帝国政府は速に支那の法律及司法制度調査委員会の開催に関して支那及列国と協議すべし
　二、前項調査委員会の報告及勧告に依り、支那が立法及司法上の改善を実行し、且つ外国人の内地雑居及土地所有権を承諾するに於ては、帝国政府は進で治外法権撤廃の承認を考慮すべし
第三、上海共同租界問題
　一、上海工部局の参政権及会審衙門の回収に関し、帝国政府は支那の正当にして条理ある主張に関しては其達成を援助すべし
第四、支那政府及国民に対する要望
　吾人は支那の主権回復の要求に対しては深甚の同情を有するが故に其達成を促進せしむる為め左の諸項の実現に付支那国民の深刻熱誠
 - 第55巻 p.376 -ページ画像 
なる考慮を要望す
　一、速に全領土の統一政府を樹立する事
　二、鞏固なる財政の基礎を確立する事
　三、国内の治安を維持する事
　四、外人の生命財産の安固を保障する事
　五、不正不当なる排外運動に対し適切なる措置を執る事
　　　　以上　　　　　　　　　　　　　　　　　麹町内幸町
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　栄文社印刷
大正十四年八月二十九日華族会館に於ける特別委員会にて決議
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東亜時局研究会

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
支那特別関税会議ニ対スル上海商業会議所ノ意見
右別紙同所ヨリ廻示有之御参考迄ニ入貴覧候　敬具
　　大正十四年十月十五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
（別紙一、謄写版）
（朱書）
親展
　　　　支那特別関税会議ニ対スル希望事項（第一案）
　　　　　　第一、関税増収ノ使途ニ関スル件
　二分五厘附加税徴収ニヨル増収使途ニ関シテハ、左記二項ヲ優先考慮セラレ度キコト
　一、永年懸案トナレル暴動又ハ排外運動ノ為ニ蒙レル直接ノ損害賠償ニ充当スルコト
　二、外債整理ニ充用スルコト、殊ニ支那政府ガ各国商社ニ対シテ負ヘル債務ノ弁済ニ充当スルコト
　　　　　　第二、関税引上ノ程度及奢侈品ノ範囲
　厘金廃止ヲ条件トスル関税引上ノ程度ハ「マツケー」条約及米支条約ニハ七分五厘（現在ノ五分税ガ一割二分五厘トナル）ト定ムルモ、日支追加通商条約ニハ税率ヲ明定シ居ラサルヲ以テ、特別関税会議ニハ此点ヲモ考量シテ適当ノ引上ヲ見ル事トナランガ、英国政府当局ニ於テハ、支那ノ債務整理ニ対シ二分五厘ニテハ僅少ナルヲ以テ、四分位迄増徴スルニ異議ナシトノ見解ヲ有スル由ナルガ故ニ、或ハ右会議ニ於テ二分五厘以上増徴案ノ提出アルヤ測ラレザルモ、今次ノ特別会議ハ華府条約第二条ニ記載スル諸条約ノ条項ニ規定スル厘金ノ廃止及他ノ条件ノ履行ニ先チ適用セラルベキ暫行規定ヲ考量シ、有税輸入品ニ対シ一率従価二分五厘ノ附加税ヲ賦課セントスルモノ（華府条約第三条）ナルヲ以テ、関税引上ノ程度ハ前記華府条約ノ規定通リ二分五厘引上ヲ妥当ナリト認ム
　次ニ奢侈品ニ関スルモノハ、奢侈品又ハ高級品重課ノ主義ニ基キ、従価二分五厘以上五分以下ノ範囲内ニ於テ附加税ヲ課セントスルモノニシテ、奢侈品ノ範囲及各品目ノ税率ニ付当該貨物ノ貿易ヲ過度ニ阻
 - 第55巻 p.377 -ページ画像 
害スルコトナキ様、其貿易状況ヲ顧慮シテ之ヲ決定スヘキモノナルガ商品中解釈如何ニヨリ奢侈品ノ範囲ヲ決定スルコト頗ル困難ナルモノアリ、例ヘバ精巧ナル加工綿布中奢侈品ト見做シ得ベキモノ無キニ非ス、此種精巧ナル商品ヲ奢侈品ノ項目ニ包含セシムルハ、日本当業者ニ取リ将来有利ナリト云フ可カラズ、現在ノ我対支貿易ヨリ見テ現行支那税率表ノ分類ハ精巧品ヲ供給スル欧米ニ有利ニ、我ニ不利ナルガ如キモ、今ヤ我対支那輸出品ガ漸次精巧品ニ向ヒツヽアル現状ヨリ推シテ、奢侈品ノ範囲ヲ大ナラシムルハ、将来日本ニ不利ヲ来ス虞レアルヲ以テ、奢侈品ノ範囲ハ酒類及煙草ノ程度ニ限定シ、其奢侈品タル関係上之ニ対スル附加税ヲ従価一割迄引上グルヲ可トス
　　　　　　第三、支那海関傭聘日本人増員要求ニ関スル件
　支那海関ニ於ケル各部重要ノ地位ハ、上ハ総税務司ヨリ以下内班・外班及船舶港湾部ニ至ル迄英国人之ヲ占メ、事実上英人ガ支那海関ヲ意ノ儘ニ運用シ居ル関係上、在支英商ハ之ニ依テ幾多ノ利便保護ヲ享受シ居ルニ対シ、日本品殊ニ英国品ト競争ノ立場ニ在ル本邦商品ハ、厳重ナル規則ノ励行ニ依リ、常ニ通関上多大ノ不便ヲ感ジツヽアリ、勿論支那海関ガ其制度及運用共ニ今日ノ発達ヲ遂ゲタルハ、実ニ英国ノ努力帮助ニ負フ所頗ル多ク、一八六三年「ロバート・ハート」氏ガ総税務司ニ任命セラレテヨリ、爾来英人ガ支那海関ニ致セル功績ヤ没ス可カラザルモノナリト雖モ、今日文明各国ノ通義トシテ尊重セラルル国際通商ノ公正維持ノ趣旨ヨリ之ヲ観ルトキハ、支那海関ノ管理ハ甚ダ衡平ヲ失シ、之ガ改善ノ要アルヲ認メザルヲ得ズ
　抑モ英国ガ支那海関ノ実権ヲ掌握スルニ至レルハ、一八九八年二月時ノ駐支英国公使「マクドナルド」氏ヨリノ申出ニ対シ、清国総理衙門ガ同年二月十日及十三日附ヲ以テ回答セル両度ノ覚書ニ依ルモノナルハ明カニシテ、右二月十日ノ覚書ニ於テ
　　（前略）衙門ハ外国通商ニ清国ノ港湾ヲ開放セル以来商業及歳入ハ確ニ増進シツヽアルコト、英国商人ニ依テ支払ハレタル関税ハ外国ニ依テ支払ハレタル総額ノ殆ンド八割ナルコト、而シテ之ガ為メ一英国民「サー・ロバート・ハート」ヲ総税務司トシテ傭聘シタルコトヲ認ム云々
ト述ベ、更ニ同二月十三日ノ覚書ニ於テ
　　（前略）過去ニ於ケルト同様、将来ニ於テモ亦英国人ヲ総税務司トシテ雇入ル可シ、然レドモ、若シ将来ニ於テ或ル他国ノ通商ガ種々ノ清国港湾ニ於テ、英本国（Great Britain　トアリ）ノ夫レヨリモ一層盛大ナル如キコトアラバ、清国ハ其際ハ総税務司トシテ英人ヲ必ズ雇入レザル可カラザル拘束ヲ受ケザルコト勿論ナル可シ云々
トアリ、即チ「ロバート・ハート」氏以来英国人ガ総税務司ノ地位ヲ占メ来レル所以ノモノハ、（一）英本国ノ対支貿易ガ他ノ各国ヲ凌駕セルコト、（二）英国商人ニ依テ支払ハレタル関税ガ最高額ナルコトノ理由ニ基クモノニシテ、一八九八年二月三日附ヲ以テ英国公使ヨリ清国政府ニ送レル文書中ニ
　　（前略）英国ノ対清通商ガ他国ノ夫レニ比シ遥カニ広大ナル優勢
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ヲ示スヲ以テ、総税務司ノ過去ニ於ケルガ如ク将来ニ於テモ英国民タル可キコトハ、英国ノ通商利益ニ重大ナル関係ヲ有ス云々
トアルニ徴シ、右ハ単ニ総税務司ノ地位ノミヲ指スモノニ非ズシテ、其レ以下ノ海関吏ニ於テモ同様ノ精神ニ依テ之ヲ案配セラル可キモノナリトノ意味ナルハ事実ノ立証スル所ナリ、尤モ前掲覚書ニ明記シアル如ク、或ル他国ノ対支通商ガ英国人ノ夫レヲ凌駕シタル場合、支那ハ総税務司トシテ英人ヲ必ズ雇入レザル可カラザル拘束ヲ受ケザルト同時ニ、其最高貿易額ノ或ル他国人ヲ之ニ任命スルノ義務ヲ負フモノニハ非ザルモ、総税務司（夫レ以下亦同様）ニ英人ヲ傭聘シタル動機並ニ根拠ニ鑑ミ、英人ノ対支貿易ガ昔日ノ如ク絶対優勢ノ地位ニアラザル今日、依然海関ニ於テ英人ニ絶対優越ノ地位ヲ与ヘ居ルハ明カニ国際通商ノ衡平ヲ失セル措置ナリト思考ス、今参考ノ為メ英本国並ニ日本ノ最近十二年間ノ対支貿易額趨勢ヲ見ルニ左ノ如シ（単位海関両）

　　　年次　　　　　　　英本国　　　　　日本
　　　　　　　　　　　　　％　　　　　　　％
　一九一三年　　　　　一一・六〇　　　二〇・〇〇
　一九一四年　　　　　一三・八〇　　　二〇・七〇
　一九一五年　　　　　一一・九二　　　二二・六七
　一九一六年　　　　　一〇・五〇　　　二七・三〇
　一九一七年　　　　　　七・七一　　　三二・三五
　一九一八年　　　　　　七・二一　　　三八・六七
　一九一九年　　　　　　九・五〇　　　三四・六〇
　一九二〇年　　　　　一三・六一　　　二八・五四
　一九二一年　　　　　一二・〇〇　　　二五・三〇
　一九二二年　　　　　一一・五〇　　　二四・四四
　一九二三年　　　　　　九・六九　　　二四・四三
　一九二四年　　　　　　九・八五　　　二四・三五
　十二ケ年平均割合　　一〇・七四　　　二六・九四

即チ日本ノ対支貿易額ハ各年ヲ通ジテ英本国ノ夫レヲ凌駕シ居ルヲ見ル可ク、之ニ対シ海関ニ於ケル外人数ヲ比較スルニ左ノ如シ
　　支那海関ニ於ケル外人数（一九二四年現在ノ内班）

　職名　　　　英国　　日本　　丁抹　　葡国　仏国　和蘭　伊太利　米国　其他　　　計
総税務司　　　　　一　　―　　　―　　　―　　―　　―　　　―　　―　　―　　　一
税務司　　　　　二七　　二　　　一　　　二　　七　　一　　　一　　一　　一　　四三
署税務司　　　　一〇　　一　　　―　　　―　　―　　―　　　二　　―　　一　　一四
臨時代理税務司　　一　　―　　　―　　　―　　―　　―　　　―　　―　　―　　　一
副税務司　　　　一八　　五　　　二　　　二　　―　　―　　　一　　一　　一　　三〇
署副税務司　　　　九　　二　　　―　　　―　　―　　一　　　二　　二　　二　　一八
超等帮辦　　　　一〇　　七　　　―　　　一　　一　　三　　　三　　―　　五　　三〇
一等同　　　　　一五　　六　　　一　　　―　　三　　―　　　二　　七　　九　　四三
二等同　　　　　　七　　八　　　一　　　―　　二　　―　　　―　　一　　二　　二一
三等同　　　　　一七　　一　　　―　　　一　　二　　―　　　二　　一　　六　　三〇
四等同　　　　　　九　　三　　　―　　　―　　一　　―　　　―　　五　　二　　二〇
另用同　　　　　　二　　六　　　―　　　―　　一　　―　　　―　　―　　一　　一〇
　　計　　　　一二六　四一　　　五　　　六　一七　　五　　一三　一八　三〇　二六一

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即チ支那海関内班ニ於ケル外国人総数ノ四割八分強ハ英人ニシテ、日本人ハ僅ニ一割五分ニ過ギズ、更ニ近年ノ趨勢ヲ見ルニ、英国人ノ員数異動ナキニ反シ、日本人ハ近年減少シ来レルハ洵ニ遺憾ニシテ、試ニ一九一六年ト一九二五年トヲ比較スルニ、現在ニ於テ十名減少シ居ルニ加ヘテ、今年末ニハ税務司級ニ於テ一名、副税務司級ニ一名ノ優退ヲ見ル可ク、更ニ定員外ノ者六名アルヲ以テ、帮辦級以上ノミニテ十六名ノ減少ヲ告グル次第ナリ
　前述スル所ニ就テ之ヲ見ルニ、今日既ニ英本国ノ対支通商関係ガ我国ノ夫レニ及バザルニモ不拘、尚海関ニ於ケル英人ノ地位ハ爾カク優勢ナルハ、英人総税務司傭聘ノ精神ニ添ハザルモノナルヲ以テ、此際我国トシテハ対支通商関係ノ重大ナルニ鑑ミ、少ク共支那海関ニ於ケル邦人ノ地位並ニ員数ハ、英国人ト伯仲ノ関係ニ置カシムル様主張スルモ敢テ不当ノ要求ナラザル可ク、来ル可キ特別関税会議ニ於テ此点ヲ考量シ、左記事項提案アランコトヲ切望ス
　一、外人ガ総税務司ノ如キ重要ナル地位ヲ占ムルハ、支那国家ノ体面ヲ維持セシムル所以ニ非ザルヲ以テ、将来総税務司ハ支那人タラシムルト同時ニ、副総税務司ノ定員ヲ二名トシ、貿易額ノ順位ニヨリ外国人ヲ任命スルヤウ致サレ度キコト
　二、我国ガ海関ニ於ケル邦人ノ増員ヲ要求スルトスルモ、遽カニ税務司級（税関長）ニ英人ト同数ノ日本人ヲ採用スルコトハ実際ニ於テ行ヒ難キ事情アルヲ以テ、適宜ノ便法トシテ左ノ二項ヲ要求スルコト
　　（イ）支那海関中我国ノ通商関係ガ他国ノ夫レニ優越セル開港地ノ税務司ニ日本人ヲ任命スルコト
　　（ロ）税務司以下ノ海関吏ニ於テモ貿易額ニ準ジテ日本人ヲ増員スルコト
　　　　　　第四、関税預入銀行ノ範囲ヲ拡張スルコト
　関税預入銀行ハ従来ノ如ク一・二外国銀行ニ限定セズ、其範囲ヲ拡張シ、対支那政府債権額ニ応ジ日本ノ銀行ニモ分担保管セシムルコトトセラレ度キコト
（註）香上銀行ノ如キ支那関税預入銀行タルノ故ヲ以テ之ニ依リ巨額ノ銀資ヲ有利ニ融通シ当業者ハ為ニ幾多ノ便益ヲ受ケ居ルガ此種利益ハ一・二外国銀行ノ独占ヲ許ス可キモノニ非ズト信ズ　以上
（別紙二、謄写版）
（朱書）
親展
　　　　支那特別関税会議ニ対スル希望事項（第二案）
　　　　　　第一、附加税二分五厘以上引上ノ場合其使途ニ関スル希望
　来ル可キ特別関税会議ニ於テ決定セラル可キ附加税率ハ、当然華府条約第三条ノ規定ニ依リ一率従価二分五厘賦課ノ程度ニ止ム可キモノナレ共、英国政府当局ニ於テハ第一案第二ニ記セル如ク、支那ノ債務整理ニ対シ二分五厘引上ニテハ僅少ナルヲ以テ、四分位迄増徴スルニ異議ナシトノ見解ヲ有スル由ナルガ、一方支那政府ニ於テモ該会議ニ
 - 第55巻 p.380 -ページ画像 
於テ関税自主権ヲ要求シ、若シ容レラレザル際ハ、之ガ交換条件トシテ華府条約第三条規定ノ範囲ヲ超エタル或ル程度（二分五厘）ノ引上ヲ要求セントスル意志アリト推察セラルヽ点無キニ非ザルヲ以テ、之等四囲ノ事情ヲ考量シ、前記四分又ハ其レ以上引上ヲ承認セザル可カラザル事トナリタル場合、該増徴ニヨル附加税収入使途ニ関シテハ第一案第一ニ掲ゲタル二項目ヲ優先実行スルコトトシタル上、更ニ第二段ノ使途トシテ左記目的ニ之ヲ使用セラレンコトヲ望ム
　一、支那一般的ノ公共事業タル鉄道敷設費ニ充当スルコト
　二、中央及地方ノ行政費用ニ充ツルコト
　　　　　　第二、治外法権ト支那内地開放ニ関スル件
　目下支那ニ於テハ各種ノ工業勃興シツヽアルヲ以テ、最モ多ク下級品ヲ供給スル日本内地ノ工業中原料・工賃・地理・市場等ノ関係ヨリ左ナキダニ是等支那内地製品トノ競争益々困難ナラントスル秋ニ際シ関税引上ニヨリ一層不利ノ地位ニ陥リ、到底利益採算不可能ニ立至ルモノ不尠ヲ以テ、紡績・燐寸・石鹸其他比較的職工ノ熟練ヲ要セザル程度ノ工業ハ、将来続々支那ニ移動シ来ル可キハ明カニシテ、維レ我邦工業立国ノ宿命ヨリ視テ当然ノ趨勢ナリ、即チ我国情ヨリ見テ国家ノ各種下級工業ノ支那移動ヲ進デ奨励ス可キモノニシテ、日本ガ内地産業保護ノ見地ヨリ有ラユル保護政策ヲ講ズルト雖モ、滔々支那ニ萌芽セル企業ノ勃興ヲ抑圧スルニ由ナク、将来到底支那市場ニ於テ支那内地製品ト角逐スルモ勝算ナカル可キヲ以テ、之等支那ニ於テ生産セラルヽ程度ノ工業ハ之ヲ支那ニ移シ、日本内地ニ於テハ専ラ精製工業ヲ奨励シ以テ支那市場ニ於テ欧米品ト競争スルノ方針ヲ以テ、両々相俟テ進ムノ要アリ、即我国家産業ノ大局ヨリ観テ、在支那人工業《（邦）》ノ発展ヲ促進シ、之ガ順調ノ発達ヲ助成スルノ法策ヲ講ズル必要アリト雖モ、開港地以外ノ支那内地ニ於テ居住営業ノ自由権ヲ有セザル現状ニ於テ、殊ニ現存ノ租界ニ於テハ地域狭隘ナルノミナラズ、之等ノ全部ガ工場地ニ適セルモノニ非ザル現状ニ於テハ、本邦工業ノ支那異動《（移）》ハ到底其目的ヲ達スル能ハザルヲ以テ、此際何等カノ便法ニ依リ此種障礙ヲ除去セザル可カラザルガ、今日ノ時代ニ於テ各国ガ従来通リ治外法権ヲ有シツヽ、支那ニ向テ内地居住ノ自由権ヲ要求スルハ至難事ナル可ク、去リトテ中央ノ政令行ハレズ、匪徒草賊ノ跳梁甚ダシク、在留外人ノ遭難事件頻々トシテ起リ、開港場ニ於テサヘ尚外人ノ居住ガ幾多ノ不安ニ襲ハレツヽアル支那現時ノ国情ニ鑑ミ、近キ将来ニ於テ我国人外国人ガ支那官憲ノ保護ニ信頼シテ、生命財産ノ安定ヲ托シ得ルノ時代ハ到底期待シ難カル可キヲ以テ、今日治外法権ノ撤廃ハ絶対ニ時期尚早ニシテ、且ツ仮令治外法権ヲ撤廃シ、外人ニ内地雑居ノ自由ヲ与フルトスルモ、其保護ハ到底行届カザルニヨリ、右ハ部分的ニ逐次実行スルヨリ他ニ途ナカル可シト思考セラル、支那ガ華府会議ニ於テ各国ガ認メタル附加税二分五厘ノ増徴ヲ以テ足レリトセズ、更ニ其レ以上ノ引上ヲ要求シ、各国亦支那ノ財政援助ノ目的ヲ以テ多大ノ苦痛ヲ忍ビテ之ヲ承認セザル可カラズトセバ、支那トシテモ右引上ニヨリ外人ガ蒙ムル打撃ノ代償トシテ、相当交換条件ヲ認ムルハ至当ニシテ、支那ト対日英米条約ニ於テモ関税引上ノ条件トシテ厘金廃止其
 - 第55巻 p.381 -ページ画像 
他事項ノ履行ヲ規定セル如ク、関税引上ハ条件附引上ニテ、殊ニ当然拠ル可キ華府条約規定ノ範囲ヲ超ヘタル二分五厘以上ノ引上ヲ行ハントスルニ於テハ、各国モ新タニ交換条件ヲ提出スルハ敢テ不当ノ要求ニ非ザル可シト信ズ
　以上ノ理由ニヨリ特別関税会議ニ於テハ本件ハ交換条件トシテ左ノ通リ主張セラレンコトヲ望ム
　一、治外法権ハ支那ノ司法制度及其運用ガ完全ナリト列国ガ認メタル時期ニ之ヲ撤廃スルノ条件ノ下ニ、支那ノ法律及司法制度調査委員会ニ於テ之ヲ協議スル程度ニ止ムルコト
　二、若シ附加税二分五厘以上引上ノ要求又ハ提議アリ、之ヲ承認セザル可カラザル事情アリタル場合ハ、治外法権ニ関係ナク、引上ノ一交換条件トシテ、或ル一定ノ地域ヲ商埠地ノ如キモノトシテ開放セシメ、外国人ノ居住営業ヲ自由ナラシムルコト
　　　　　　第三、支那海陸関税率均一実行ノ可否
　本項ハ華府会議関税条約第六条ニ於テ認メタル支那ノ一切ノ陸境及海境ニ於テ賦課スル関税率ハ均一ナルヘシトノ原理ニ基キ、現行支那国境関税率ノ廃止方法ヲ定メ、之ヲ実行セントスルモノナレ共、我南満租借地ノ如キ之ガ廃止ニヨリ多大ノ影響ヲ蒙ムルモノナレバ、之ガ廃止後ノ公平ナル調整ヲ要スル次第ナルガ、元来該軽減率ナルモノハ地方的経済上ノ便益ニ鑑ミ許与セラレタルモノナルヲ以テ、之ガ廃止ニ因ル不便ヲ緩和スル方法ヲ講ズルヲ前提条件ト為スヲ要ス、即チ華府条約六条ニ於テモ之ヲ認メ、陸境軽減率廃止ニ対シテハ地方的経済上ノ便益ヲ考量シ、之ガ衡平ナル調整ヲ為スコトヲ得ト規定セリ、然レドモ倘シ関税会議ニ於テ華府条約ノ範囲ヲ超エテ二分五厘以上ノ附加税設定ヲ承認スルガ如キコトアリトセバ、本件亦必ズシモ華府条約ノ規定ニ拘束セラルヽ必要ナカル可キヲ以テ、此場合本項ハ左ノ通リ措置アランコトヲ要望ス
　一、支那陸境関税率ハ現状ノ儘存続セシメラレ度キコト　以上

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
　　　　上海日本商業会議所
　　　　支那特別関税会議ニ対スル意見
先ニ第一案及第二案御送附申上候処、第三案ノ送付ニ接シ候間、御参考ノ為メ入貴覧候、尚外部ニ御発表無之様御取計願度候　拝具
　　大正十四年十月二十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　子爵　渋沢会長殿
（別紙、謄写版）
（朱書）
親展
　　　　支那特別関税会議ニ対スル希望事項（第三案）
　　　　　　第一、支那内地生産税引上ニ関スル件
　現在支那ニ於テ徴収シツヽアル生産税ナルモノハ、国内産業保護政
 - 第55巻 p.382 -ページ画像 
策ヨリ出デ、該税ヲ納付スルトキハ各地輸送ノ際、厘金其他沿途一切ノ税金ヲ免除スル国内法ノ規定ニシテ、条約ニ依テ制定セラレタルモノニ非ザルヲ以テ、将来厘金ノ全廃セラレタル場合ハ、本税ハ自然消滅シ、新ニ条約ニ依テ輸入外国品保護ノ見地ヨリ生産税ヲ制定セラルルモノナルガ、其税率ハ一九〇二年ノ「マツケー」条約第八条ニ於テ英国ハ支那ノ輸入税ヲ一割二分五厘迄引上ヲ承認シ、其緩和策トシテ支那ニ於テ生産セラルヽ機械製品ニ対シテ従価一割ノ単一生産税ヲ課ス可キコトヲ規定セリ、即チ来ル可キ関税会議ニ於テ関税附加税増徴ニ対スル調整方法トシテ生産税増率問題ノ附議セラレタル場合、「マツケー」条約ノ規定ニ拠ル一割単一税ノ制定ハ厘金廃止ノ困難ナル現状ニ於テ到底不可能ナル可キニヨリ、支那政府ガ現行国内法ニ依リ本税ヲ如何ニ処理スルカノ問題ニ帰シ、此種国内問題ニ対シテ列国ハ干渉スベキ筋合ノモノニ非ザルガ如キモ、一方英支条約ニ於テ生産税制定ニ関スル条件ヲ議定シ居ル関係上、仮令国内法ニヨル現行税率ヲ改訂スルモノトスルモ、条約上ニ明定シアルモノト全然同一性質ノ生産税ニ対シ、之ガ引上ヲ行ハントスルニ際シ、関係列国ノ了解得ベキモノニシテ、他方各国トシテモ支那ニ対スル国際友誼ヲ尊重シ、深甚ノ好意ヲ以テ其財政援助ノ目的ノ下ニ、多大ノ苦痛ヲ忍ビテ附加税増徴ニ応ゼントスルモノナレバ、本税引上ノ決定ニ対シテモ、実際上ノ利害関係ヲ考量シタル合理的条件ヲ附スルハ至極妥当ノ措置ニシテ、殊ニ我国在支工業ハ之ニ依テ不尠影響ヲ蒙ムル結果トナル次第ナレバ、生産税ノ引上ハ慎重考慮ヲ要スル問題ナリ、而シテ之ヲ我国ノ立場ヨリ見ルニ、既ニ第二案第二項ニ於テ述ベタル如ク、我国家産業ノ大局ヨリ観テ在支那人工業《（邦）》ノ発展ヲ促進シ、之ガ順調ノ発達ヲ助成スルノ法策ヲ講ズルハ正ニ現下焦眉ノ急務ニシテ、今ヤ日本内地ノ工場ガ漸次支那ニ移動セントスル趨勢ヲ示シツヽアル際ニ於テ、支那内地生産税ヲ増率スルハ日本ノ対支工業発展ヲ阻害スルモノナルヲ以テ、少ク共此発展ノ初期時代ニ於テ、此種課税ノ負担ヲ重カラシムルハ策ノ得タルモノニ非ズト思考スルヲ以テ、来ル可キ関税会議ニ於テハ、本件ハ左ノ通リ決定アランコトヲ望ム
一、生産税ノ設定ハ厘金廃止ヲ前提条件トスルモノナルヲ以テ、支那ガ「マツケー」条約ニ規定セル厘金廃止ノ条件ヲ完全ニ実行シ、輸入関税ガ一割二分五厘ニ引上ラルヽ迄、生産税ヲ現行率以上ニ引上ゲザルコト
二、単一生産税ノ特典ヲ許可スルト否トハ支那政府ノ任意ニシテ、同様ノ在支外人ノ製品ニ対シテ該特典ヲ許与セザル場合アリ、又同様特典ヲ有スル工場ニシテ戻税ノ如キ形式ヲ以テ支那人工業ヲ保護シツツアルモノアルガ、如斯ハ日支通商条約ノ規定ニ反スルモノナルヲ以テ、今後此種差別的取扱ヲ為サシメザル様致サレ度キコト
三、生産税ハ工場生産品ガ支那各地ニ散布セラルヽニ当リ、海関通過ノ場合ニノミ課税シ、海関ヲ通過セザル開港地以外ノ地方ニ輸送スル場合、之ヲ課税セザルヲ以テ、厘金局ヲ経由スルヲ要セザル地方ニ供給スル支那人工場製品ハ何等税金ノ負担ナク、租界地内ニ於ケル外人工場製品ニ比シ著敷有利ノ立場ニアリ、更ニ現行率以上本税
 - 第55巻 p.383 -ページ画像 
ノ引上ヲ見ンカ、在支外人工業ハ一層不利ニ陥ル結果トナルヲ以テ居留地ノ内外ニ関セズ、外支人工場製品ニ対スル一切ノ課税ハ絶対ニ衡平ナラシムル様致サレ度キコト
　　　　　　第二、原料品ノ輸出ヲ自由ナラシムルコト
　条約上輸出禁制品ナラザル棉花・豆・胡麻其他原料品ニ対シ、支那中央及地方官憲ハ随時随意ニ輸出禁止令ヲ出シ、輸出上障害ヲ与ヘタルコト一再ナラズ、事実之等原料品ガ異常ノ不作ニテ相場暴騰シタル為メ、其調節策トシテ輸出禁止ヲ行ハントスルモノナルニ於テハ、事情已ムヲ得ザルベキモ、従来ノ実例ニ就テ之ヲ視ルニ、多クハ支那人当業者が自己ノ商略ヨリ地方官憲ヲ動カシ、該当路亦或種ノ目的ノ為メ禁止令ヲ発布セルモノニシテ、一九二二年来支那政府ガ上海華商紗廠聯合会ノ請願ニ基ツキ支那棉花ノ輸出ヲ禁止セントシタルカ如キ、又昨年再ビ棉花輸出禁止令ヲ出シタル際ノ如キ、孰レモ支那人棉花商並ニ紡績業者ガ彼等ノ見込違ニヨル損失ヲ防止セン為メ、当路ニ運動シタル結果ナリ、如斯ハ国際通商上ノ修交精神ニ反スル措置ナルヲ以テ、此際支那政府ヲシテ今後此種不当ノ輸出禁止令ヲ出サシメザル様適当ノ方法ヲ講ゼラレンコトヲ切望ス
　　　　　　第三、関税自主権ノ承認ト其条件
　今日ノ時代ニ於テ支那ガ尚関税上列国ノ束縛ヲ受ケツヽアルハ、国家ノ体面上忍ビ難キ所ニシテ、之ガ自主権回収ノ要求ニ対シテハ勿論之ヲ諒トシ、各国斉シク主義ニ於テ承認ニ異議ナカル可シト思考スルモ、支那現時ノ国情ハ他文明列国ノ夫レト著敷趣ヲ異ニシ、政治及財政ハ紊乱ノ極ニ達シ、政府有レ共無キガ如ク、其威令更ニ地方ニ徹底セズ、各種不法不当ノ課税ヲ行フ而已ナラズ、国際条約ニ規定セラレタル条件ヲ履行スルノ誠意ト実力無キ現時ノ状態ニ於テ、各国対支通商上最モ重大ノ関係ヲ有スル関税自主権ヲ支那ノ自由独裁ニ帰スルハ幾多ノ危険及弊害ヲ伴フ可キハ明カナルヲ以テ、本件ハ漸進主義ニヨリ、支那ガ能ク条約上ノ義務ヲ履行シ、其実行成績如何ニヨリ、適当ト認ムル時期ニ於テ自主権ノ確立ヲ期スルノ要アリ、仍テ関税会議ニ於テ支那側ノ本件要求ニ対シ左記条件ニ基キ措置セラレンコトヲ望ム
　　関税自主権回収ニ対スル条件
一、関税自主権ノ回復ハ漸進的方法ニ依ルコト
二、外債ノ整理、貨幣及度量衡ノ統一、其他支那ガ各国トノ条約並ニ華府会議ノ規定スル支那ノ履行ス可キ各種ノ義務ヲ完全ニ遂行スルヲ要スルコト
三、厘金廃止問題ハ支那ノ現状ニ徴シ到底実現不可能ト認ムルヲ以テ其準備行為トシテ完全ニ廃督裁兵ヲ実行シ、名実相伴フ確固タル中央政府ヲ樹立スルコト　　　　　　　　以上