デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商業会議所
■綱文

第56巻 p.156-159(DK560045k) ページ画像

大正13年5月14日(1924年)

是日、当会議所ニ於テ、仏領印度支那総督メルラン一行歓迎午餐会開カル。栄一、陪賓トシテ出席ス。


■資料

集会日時通知表 大正一三年(DK560045k-0001)
第56巻 p.156 ページ画像

集会日時通知表  大正一三年       (渋沢子爵家所蔵)
五月十四日 水 正午 商業会議所会頭主催メルラン氏招待会(商業会議所)


東京商業会議所報 第七巻第六号・第八―一二頁 大正一三年六月 一、仏領印度支那総督一行歓迎午餐会(DK560045k-0002)
第56巻 p.156-159 ページ画像

東京商業会議所報  第七巻第六号・第八―一二頁 大正一三年六月
一、仏領印度支那総督一行歓迎午餐会
 大正十三年五月十四日本会議所楼上に於て、今回来邦せられたる仏領印度支那総督一行の為め歓迎午餐会を開催したり、出席者は主賓仏領印度支那総督メルラン氏・官房長シヤテル氏・政治部長ジアンブロー氏・税務長官キルシエ氏・新聞班長デユプユシユ氏・副官ベルナール氏・属グーヤン氏・河内商業会議所会頭グラヴイツ氏・海防商業会議所会頭ポルシエ氏、陪賓仏国大使クローデル氏・書記官シヤイエ氏録事書記官ゲスネツク氏・通訳官ボンマルシヤン氏・陸軍武官少佐ルノンド氏・航空武官少佐テチユ氏・商務官ロアイエ氏・領事シユヴアリエ氏・フランス商業会議所会頭ビツカー氏・同議員ヂツツエングルメル氏・同書記長シヤル・オツフワウス氏・日仏協会理事エー・エツク氏・同小山田銓太郎氏・同子爵曾我祐邦氏・同伯爵寺島誠一郎氏・同富井政章氏・同子爵渡辺千冬氏・同山本信次郎氏・同山口勝氏・印度支那協会理事牧田環氏・同常務理事松岡新一郎氏・同理事松木幹一郎氏・同加藤恭平氏・同安川雄之助氏・水野内務大臣・藤村逓信大臣
 - 第56巻 p.157 -ページ画像 
佐竹法制局長官・松平外務次官・井上内務次官・西野大蔵次官・岡田海軍次官・鶴見農商務次官・林司法次官・出淵外務省亜細亜局長・山川同条約局長・小村同情報部次長・加藤同欧米局第二課長・森領事・渋沢子・神戸・成瀬・江口・有賀・木村(清)・森村男・末延・諸井磯村・児玉・串田・宮島・米山・結城・白井・松本・梶原・岩原・塩原・中松・浅野・福井・池田・井上(辰)・神田・小池・高杉・松本塩沢各博士の諸氏、其他主なる実業家・新聞通信社員、主催者側本会議所議員・特別議員等総員百三十八名にして、正午一同食卓に着き、デザート・コースに入り、藤山会頭は歓迎文を朗読し(此間に右仏訳文を主賓一行に呈上)、終つて之を金梨地桜花菊花模様蒔絵箱に収め総督閣下に手交し、此一行を歓迎する為め玆に来会の各位と共に杯を
撃げ健康《(挙)》を祝する旨を述べられたり、次で河内商業会議所会頭グラヴイツ氏・税務長官キルシエ氏各一場の演説をなし乾杯、最後にメルラン総督は、一行が日本に到着以来各方面に於て懇篤に愛情を以て迎へられ、尚此一行に特に実業界を代表する三会頭を随伴せるは貴我両国貿易発展に聊かなりとも貢献することあるべきを説きて衷心感謝の意を表し、杯を挙げて日本実業家の為め其健康を祝し、且つ東京商業会議所の繁栄を祈る旨を述べられ、此の歓迎に対し感謝せられ、主客一同歓談の後午後一時四十五分散会したり。(各演説訳文は左に掲ぐ)
    河内商業会議所会頭グラヴヰッ氏の演説
会頭閣下及諸君
 一昨日吾総督が横浜商業会議所会頭閣下の御演説に答へて、印度支那の農産物及鉱産物と貴国日本の工業との間には必らずや相互交換し得べきものあることを確信せられました、即ち此点に於て日本の商工業者を代表せらるる商業会議所の議員の方々及印度支那の市場に興味を有せらるる貿易業者及工業家と共に相互の利益と、既に両国の間に存する各種の問題に就て直接に交渉する目的を以つて、総督は此処に実業使節を其一行に随伴せられたのであります。
 吾々が貴地に到着致しまして以来、京都市長の懇切なる御招待に依り同市主催の工芸品大博覧会を訪問するの機会を得、各方面に渉つて貴国及貴国の殖民地が提供し得べき総ての原料品及加工品を拝見することが出来ました、此興味ある見物は吾々に貴国工業の有力なることを知らしめたのでありました ○中略
 御互の個人的交際殊に吾々の隔意なき交際は申上げる迄もなく総ての問題を容易に解決致すものと存じます、即ち人々は知己と共に働らくことを最も潔よしとするものであるからです、玆に於てか吾々は互により好く了解し合はなければなりません、而してより好く了解するためには屡々御目に掛からなければならぬと思ひます、吾々が此度日本に参りましたのも即ち此為であります、近い将来に於て諸君と印度支那の地に相見ゆること之れ吾々の希望に堪えない所で御座います。
○中略
    税務長官キルシエ氏の演説
○中略
 吾政府が此の専門家の一団に税務官吏を加へましたのは、決して諺
 - 第56巻 p.158 -ページ画像 
に云ふ様に「羊の群に狼を入れる」意嚮ではありませんでした。政府当局と商業家とは相容れないものだと云ふ一般の考を破つて、商業家に対し政治家は実業家の好伴侶なることを示したのであります ○中略
 我々は隣人であり、友人であり、又互に熱誠なる同情を持ち合つて居りますが、交換すべき多種多様の産物あるにも拘らず、総て未だ取引されて居りません。諸君! 税関年報を御調べになれば、貴国は年年四十億円の貿易を行はるるにも拘らず、仏領印度支那との貿易額僅かに二千万円を示すのは何を意味するのでありませうか?余り僅少ではないでせうか?仏国の統計を見ますれば、印度支那の貿易総額は二十億法、其中日本との貿易額は四千万法、何と僅少なる数字ではありますまいか!此統計の示す数字は明らかに何物か不満足の点を示して居るのであります。
 何れともあれ、日本より輸入せらるる貨物は余り沢山ない様であります、又日本が輸入せらるるものは食料品及或原料品の外他に無い様です、そして二十億円に上る他の物資は大部分他国から仰がれて居るのです。
 然し日本はすぐ隣りの印度支那に上等な産物を御求めになることが出来ます、即ち鉱物・植物繊維・材木其他豊富なる原料品及半加工品は云ふ迄もなく、既製品の中には、高尚にして体裁よき美麗なる商品も多々あり、日本の方は美術方面に非常に明るう御座いますから、貴国の製作品に限らず、印度支那の刺繍品・青銅品・赤銅品・象眼細工又は彫刻の家具等を軽んぜず、御求めになつて美くしい御家の御装飾となさつては如何がかと思ひます。
 貴国の方々は、印度支那が禁止的高率輸入関税の柵を以つて支那の万里の長城の様に防禦して居る様に思はれ、御不満の模様です。
 私共が斯様に警戒して居たのは、或は失礼かも知れませんが、実は吾々は日本の卓絶したる商工業の素質に敬意を払つて居たからであります、然し今は最早過去のことは葬りませう、印度支那が経済使節を送つたのは即ち此城壁に穴を開けるためであります。
 諸君、何卒若し吾が関税率表中に於て、貴国の商品が、印度支那市場に於て当然に占め得べき此位《(地)》に達するのを妨でる《(げ)》苛重なる税率が若しありましたならば、それを御示し下さい、後刻私達は腹蔵なく胸襟を披いて御相談申上げませう。
 以上は風に吹かれて飛び去つて行く様な言葉ではありません、御互に尊敬し且同情ある人々の間に於て、事態の改善を企てることになれば、仏領亜細亜と日本は互恵的な了解の下に、欣ぶべき協調地域に達することを衷心より且理性的に確信する所であります。
 諸君!此一致の基礎を造るために何卒御援助を願ひ度く存じます、そして遅滞なく各自の意嚮を其政府に勧説したいと存じます。
○中略
    仏領印度支那総督メルラン閣下の演説
会頭閣下及諸君
 諸君の御話を承はり私は玆に一言御挨拶申上度いと存じます、去り乍ら貴国官憲のみならず、日本実業界の代表者各位から頂いた吾々に
 - 第56巻 p.159 -ページ画像 
対する御鄭重なる御歓待に対し、吾々が心に抱く喜悦の情を、御別れする前に、諸君に依つて了解して頂くことが出来るか否か私かに憂ふる次第で御座います。
私達が御地に参りまして以来、諸君は凡ゆる御歓待を以つて吾々を遇せられ、慇懃之足らざるの有様でございました、私は私の名及び一行の名に於て衷心感謝の意を表する次第で御座います。
 昨日内閣総理大臣が政府としての御意嚮を明らかにせられたる際、国家間の親睦は唯に思想及感情の協調の上にのみ存するに非ず、他面経済上の利害関係を緊密にしなければならぬと御述べになりました、私が印度支那商業会議所の会頭諸氏を勧説して随伴した所以も、即ち此事を確信したためであります、此等の三会頭が貴国の実業家と折衝することが出来ますれば、日本及印度支那両国相互に利益ある通商関係を樹立すべき可能を明らかにすることが出来ると思考致します、即ち私の意途《(図)》を体し、諸君が既に与へられ且つ与へらるべき御指示に元《(基)》づき、諸君の御希望の奈辺に存するやを彼等は充分承知することが出来、又諸君も彼等より其希望が如何なるものかを御了解出来ると存じます、御互の利害関係を正確に知ると云ふことが彼我の通商関係を満足せしめ、殷盛なる貿易関係を生すべきことは私の信じて疑はざる所でございます。
 此度の交渉が相互に取つて期待に反せざる成果を収めんことを玆に切望し、私は東京商業会議所及日本実業界のために杯を挙げたいと存じます。(東京商業会議所翻訳)