デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治三年庚午九月三日（1870年）

大蔵省租税司ノ職制及ビ処務条例ヲ立定ス。栄一租税正トシテ之ニ与ル。

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法規分類大全　第一編　官職門十　官制　大蔵省一　第二二四―二三一頁
　　租税司職制　三年九月三日
第一章　此司ハ大蔵省ノ所轄ニシテ一切租税貢調ノ事務ヲ掌管ス、但其事務ヲ執行処分スルハ都テ本省ノ決裁ニ従フヲ則トス
第二章　各地方官又ハ各局ニテ司掌スル凡ソ郡村ノ地租雑税及ヒ海関ノ諸税、又ハ商工ノ物品職業ニ賦征スル諸税、其他運上冥加ト称スル類ト云トモ都テ既定ノ成規ニ従テ本省ニ申牒シ、其指令ヲ乞フニ当リ、此司ニ於テ之ヲ点検査合シテ其処分ヲ審議シ、法案ヲ作リテ之ヲ省議ニ附シ、以テ其事ヲ確定スルヲ則トス
第三章　新タニ税則ヲ立テ、又ハ従前ノ法則ヲ更ントスルハ、各地方官又ハ各局ノ建議、或ハ本省ノ立論トヲ問ハス皆此司ニ於テ之ヲ審案細議シテ後其処分ヲ確定スヘシ、但各地方官又ハ各局ノ建議ハ予メ其処分ノ法案ヲ作リテ本省ニ申牒スルヲ則トス
第四章　収税ノ方法旧制ヲ更メ新則ヲ立ル又ハ慣行ノコトヽ云トモ此司ニ於テ法案ヲ作リ決ヲ本省ニ取ルニ当リ、其処置ニ仍テ大ニ民情ニ関係スルコトアレハ民部省ニ廻議シテ其処分ヲ決スルコトアルヘシ
第五章　此司事務ヲ専執スルノ権ナシト云トモ、之ヲ検査照合スルノ任ヲ有ス、故ニ凡ソ租税貢調ニ関スル事務ハ本省ト云トモ此ノ司ノ審案ヲ経スシテ其事ヲ処置シ、又ハ其条規ヲ立ルヲ得ス
第六章　凡ソ司中ノ事務之ヲ処分スルニ当リ、事本省ト両議アリテ若シ本省ノ議其当ヲ得サルトセハ正権正之ヲ卿輔ト抗議シテ決ヲ取ルヲ得ヘシ、若シ正権正大佑以下ト両議アレハ共ニ決ヲ本省ニ取ルヲ得ヘシ
第七章　司中ノ官員本官ヲ以テ他ヘ出張シ、又ハ他ノ職務ヲ兼任スル
 - 第2巻 p.448 -ページ画像 
時ハ其拝命ノ次第ニヨリテ権任ノ制限アルヘシ
第八章　凡ソ貢調ノ方法期限其他一切租税ニ関スルノ事務成規アルハ、詳明ニ之ヲ類別シ、未タ定則ナキハ法案ヲ設ケテ之ヲ修整シ以テ各地方官又ハ各所其事務ヲ司掌スル局々ノ成績ヲ規スハ又此司ノ責任タリ
第九章　本課ノ外併テ左ノ事務ヲ掌管ス
第十章　全国ノ歳入前年収得ノ総額ヲ年ノ六月ニ至リ之ヲ概算シテ予メ其全数ヲ量知シ、以テ本年会計ノ目途ニ供シ、其年末ニ至リテ更ニ前年歳出ノ額ヲ集計シテ歳入出ノ総計表ヲ作リテ覧閲ニ便ニス
　　但出納司ト共ニ議テ計算ヲ明ニスヘシ
第十一章　貢米ノ廻漕ハ定則ニ従テ之ヲ輸入セシム
第十二章　貢米ノ内定則アリ、石代納及ヒ臨時願請スル石代納又ハ買納ノ如キハ成規ニ従テ之ヲ処分ス
第十三章　各地方米穀ノ相場ヲ詳知ス
第十四章　全国ノ石高、各地方官管轄ノ区分ヲ詳知ス
第十五章　各地方租税ノ五箇年平均ヲ詳知ス
第十六章　荒地取下場ノ免合ヲ点検査合ス
第十七章　諸府県ノ歳入出及ヒ常費常備金ノ類ヲ検査シテ年々比較ノ総計表ヲ作ル
第十八章　諸府県準備又ハ蓄積スル金穀出入ノ計算ヲ照合ス　但十七十八両章ハ出納司ノ任タリト雖モ、当司ノ関係多端ナレハ両司合議シテ総計表ヲ作リ、計算ヲ照合スヘシ
右租税司ノ職制本省ノ決裁ニヨリテ確立スル所ナリ、若シ他日増減セサルヲ得サルノ事アラハ、更ニ審議シテ決ヲ本省ニ取リテ之ヲ更革スヘシ、但シ司中職員処務ノ制限ハ職員令及ヒ処務条例ニ照準シテ各其事ニ従フヘシ
　租税司職員令
正　　　　　　一員
権正　　　　　定員ナシ
　司中ノ諸務ヲ総判シテ各分課ヲ幹理スル事ヲ掌ル
　司中官員ノ能否勤惰ヲ監視ス、但其褒貶黜陟ニ於テハ本省ノ専執タリト云トモ、之ヲ進退シ或ハ之ヲ他方ヘ出張セシムル等ハ、此職ニ諮詢セスシテ執行スルヲ得ス
　司中事務ノ閑劇ニ従テ官員ヲ進退シ、或ハ新タニ之ヲ薦メ又ハ之ヲ黜ソケ及ヒ功労ニヨリテ其等ヲ進メントスル等、皆此職ニ於テ之ヲ審案シ、奉薦退黜ノ状ヲ本省ニ出シテ其進退ヲ乞フ
　司中大小ノ事務之ヲ処分施行スルハ、都テ本省ノ決裁ニヨルト云トモ、其法案ヲ作為スルハ当司ノ務ニシテ皆此職ノ担当審判ニ従フ
　処分既済ノ事務、又ハ後覧ニ供スル等ノ類ニテ事緊要ナラサルハ此職ニ於テ検閲シテ本省ニ達セサルコトアルヘシ
大佑
権大佑
　司中細大ノ事務成規例格ニ照準シテ之ヲ司掌シ、及ヒ簿冊記録編輯計算等ノ事ヲ掌ル
　文書ノ往復稽失ヲ検出スルヲ掌ル
 - 第2巻 p.449 -ページ画像 
　司中分課アレハ、各其課中ノ事務ヲ担当スルヲ得ル
　大令史以下処務ノ順序ハ、此職ニテ指令スルヲ得ル
少佑
権少佑
　職掌大佑権大佑ニ亜ク
　司中分課アル時其課中大佑権大佑ナケレハ、此職ニテ課中ノ事務ヲ担当スルヲ得ル
大令史
少令史
　法案文書記録編輯等、凡ソ廻議ニ附スルノ事務、又ハ後覧ニ供シ又ハ他方ヘ往復スル等、之ヲ浄書補綴スルヲ掌ル
　　諸簿冊ヲ点検シテ其計算ヲ照合スルヲ掌ル
　　大佑以下少令史ニ至ル迄職員ノ定限ハ、司中ノ事務ニ従テ追テ之ヲ定ムヘシ
　　凡ソ職ニ在ル者、方正以テ其身ヲ持シ、廉直以テ其務ニ処シ、謹勉以テ其事ニ従フヘシ
　　各員其主課アリト云トモ相補助協力シ、事ニ当リテハ最モ、瘠酬討論シテ正理ヲ考究スヘシ
　　長上ヲ敬シ順序ヲ正フスルハ法令ヲ遵守スルナリ、衆論ヲ商搉シ、公理ヲ攻索スルハ職務ヲ督励スルナリ、宜ク因依偏頗ナク各其所長ヲ尽スヘシ
　　右租税司職員令本省ノ決裁ニヨリテ確定スル所ナリ、各員謹守恪奉シテ敢テ違犯アルヘカラス
　　　　諸課通判
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　桑山大佑
　甲課　　　　　　　　　　　　　　　　大竹権大佑
　　　地方官申牒書類　　　　　　　　　橋本権大佑
　　　臨時文書　　　　　　　　　　　　間宮少佑
　　　諸官省往復　　　　　　　　　　　竹村少令史
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松田少令史
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　本多少令史
　乙課
　　収納期限
　　貢米廻漕　　　　　　　　　　　　　田中権大佑
　　租税帳　　　　　　　　　　　　　　桜井権少佑
　　大積明細帳　　　　　　　　　　　　鯰江大令史
　　石代直段　　　　　　　　　　　　　清水少令史
　　各地方米穀相場　　　　　　　　　　三橋少令史
　　御証印
計算編集
　　各地方官管轄地石高
　　租税五箇年平均　　　　　　　　　　久保寺権大佑
　　勘定帳　　　　　　　　　　　　　　山下少佑
　　釐附帳　　　　　　　　　　　　　　山田権少佑
　　諸県常備金　　　　　　　　　　　　天野少令史
　　荒地取下場　　　　　　　　　　　　秋山少令史
　　諸簿冊編輯　　　　　　　　　　　　下妻少令史
租税司処務条例
 - 第2巻 p.450 -ページ画像 
第一章　司中ノ諸務、之ヲ職制ニ照準シテ以テ其事ニ従フヘシ
第二章　処務順序ハ職員令及ヒ分課ノ科目ニ従ヒ、踰越紛雑ノ患ナク各員其主務ヲ整理スヘシ
　　但各課其主務ノ繁閑ニヨリテ、便宜他ヲ補助協力スルヲ得ヘシ
第三章　各地方官ヨリ申牒スル諸願伺届等其他諸方往復ノ書牘及ヒ簿冊ノ類ノ如キ、先ツ本省ニ達シ大少佑之ヲ正権正ニ附シテ後各課ニ附スルヲ則トス
　　但各地方官出張ノ官員等ヨリ、或ハ直ニ当司ニ達シ来ルコトアリト云トモ、必ス之ヲ本省ニ達シ順ヲ追テ其事ヲ処分スヘシ
第四章　申牒ノ書類往復ノ書牘及ヒ諸簿冊ノ類ハ各課ニ附シテヨリ後各其課ニ於テ之ヲ点検シ、之カ処分ノ案ヲ設ケテ廻議廻覧ニ供スヘシ
第五章　廻議廻覧ニ供スル文書簿冊等ハ、毎課廻冊ノ号数ト月日トヲ記シテ廻達スヘシ
　　但正権正ニテ別ニ其冊子ヘ本司ノ朱印ヲ押スヘシ
第六章　申牒ノ書類其外往復書牘簿冊ノ内、其事務ノ処分既済ノ後届出ルノ類、及ヒ後覧ニ供スル等、事切要ナラサルハ、正権正ヨリ監督司ヘ廻覧スル而已ニテ、本省ニ達セサルコトアルヘシ
第七章　冊子廻議廻覧シ了リテ後正権正之ヲ検閲シ、本案ノ儘決議セシハ之ヲ各其主課ニ附シテ速ニ其事ヲ処分セシメ、モシ廻達中他ノ異議アルハ正権正ヨリ之ヲ審聴シテ改議スヘシ
　　但廻議既ニ了リ簿冊本司ヘ復スルニ到リ、再ヒ正権正ニテ本司印ノ下ヘ検印シテ各其主課ニ附スヘシ
第八章　廻議廻覧セシ事務廻達シ了リテ後其事各地方官ヘ通達指令スル等ハ、本省ノ押印ヲ以テ之ヲ証スヘシ
　　但此押印ハ各課ノ大少佑ヨリ本省ノ大少丞ニ乞フテ調注スヘシ
第九章　廻議廻覧了リシ冊子ハ、各其課ニ於テ其月毎ニ之ヲ補綴シテ冊子ニ目次ト号数トヲ記シ、他日検出覧閲ニ便ナラシムヘシ
第十章　定額アル租税及ヒ見取場其他諸雑税トモ、年々各地方官ヨリ送致スル収得ノ簿冊概算又ハ明細ナル書類ヲ検査照合シテ遠邇トモ既定ノ貢納期限ニ従テ之ヲ輸送セシメ、若シ延期アラハ之ヲ監督スヘシ
第十一章　石代ヲ以テ貢納スル租税定額アルハ、其定価ニ照準シ、臨時願出スルハ至当ノ処分案ヲ作リ決ヲ本省ニ取リテ其事ヲ指令スヘシ
第十二章　定免継年季又ハ新規免ヲ定ムルノ類、其外運上冥加等ノ諸税新規又ハ切替トモ既定ノ成規ニ照準シテ之ヲ審判スヘシ
第十三章　新ニ税額ヲ立、又ハ従前ノ税額ヲ変更スル其他収税ノ順序ニ就テ新則ヲ設ケ、旧規ヲ更ムルノ類ハ総テ正権正之ヲ審案シテ司中ノ商議ヲ尽シ、其処分ノ案ヲ定メテ決ヲ本省ニ取リ上裁ヲ経テ之ヲ施行スヘシ
第十四章　年々冬十月中、三府及ヒ切要ナル地方ノ米穀相場ヲ書出サシメテ、石代直段其他計算ノ比較ニ供スヘシ
第十五章　貢米ノ廻運ハ成規ニ従テ廻漕社ノ運船ヲ以テ期ヲ追テ輸入
 - 第2巻 p.451 -ページ画像 
セシムヘシ
　　但廻漕社運船ノ都合ニヨリテハ、各地方ニテ便船ヲ傭ヒ輸送セシムルコトアルヘシ
第十六章　諸国ノ貢米、三府及ヒ其他ノ地方共配賦スヘキ穀数ノ多寡等、予メ毎歳十一月之ヲ議定シ、遠邇ニ随ヒ廻漕局運船ノ季節ヲ予定シ、船号穀高等兼テ輸出ノ地方官ヘ通達シ、運船著港ノ節船積ノ便ヲ失ハサラシムヘシ
　　但廻漕局運船配賦ト輸出ノ穀数等ヲ較計シ、若シ穀高有余アリテ運船不足ノ時ハ其他傭船ヲ以テ運輸ノ令前以テ通達スヘシ
第十七章　全国ノ石高ヲ詳ニシ、各地方管轄ノ区分ヲ明ニシ、年々収得ノ租税及ヒ費用ヲ計算シ、一地方毎ニ其割合ヲ算出シ之ヲ集成シテ地方ノ歳入歳費ヲ総計表出スヘシ
第十八章　各地方収得ノ租税五箇年ノ平均ヲ計較シテ石高ト正租税ノ差別ヲ明ニスヘシ
第十九章　各地方石高ノ内荒地高引ノ類ハ其簿記ヲ詳細ニシテ年々起返リシ高ヲ査合シ、且取下免ノ如キ年季ヲ追テ本免ニ復スル等其簿冊ニヨリテ之ヲ検閲スヘシ
第二十章　年々各地方官ヨリ送致スル諸簿冊類ハ件ヲ追テ之ヲ点検査合シ、部類ヲ分チテ編輯シ後日ノ覧閲ニ便ナラシムヘシ
第二十一章　凡ソ収得ノ租税ハ、何地何局ノ司掌ヲ論セス当司ニテ之ヲ検査照合シテ年々全国歳入ノ額ヲ総計シテ、表出スヘシ
第二十二章　新ニ堤防ヲ築キ溝澮ヲ開キ、或ハ廃田ヲ起シ荒蕪ヲ墾スル等、其他冥加運上ト唱フル雑税廃興ノ類ノ如キ凡事租税ノ増減ニ関スルハ類別シテ之ヲ詳記シ、覧閲ニ便ナラシム可シ
第二十三章　歳ノ凶歉ニ当リテ破免検見其他不作不毛、或ハ田畑損耗等、凡ソ除租減税アルハ、各地方官ノ申牒ニ従テ丁寧ニ之ヲ詮議シ、其租ヲ本省ヘ達スヘシ
第二十四章　済貧恤窮ノ如キハ本司ノ務ニ属セスト云トモ、若シ収得ノ租税ヲ以テ直ニ其地方ヘ交附スル類ハ各地方官ノ申牒ニ従ヒ当否ヲ審案シテ指令ノ案ヲ作リ、決ヲ本省ニ取リ民部省ニ合議スヘシ
第二十五章　凡ソ各地方官申牒ノ書類其他書牘簿冊ノ類、事租税ニ関渉スルハ、之カ処分指令ノ法案ヲ設クルハ当司ノ務タルヘシ、然リト云トモ之ヲ決裁スルハ本省ノ断案ニ従フヘシ
　　但尋常推問通議督促ノ類ニテ事決裁判案ニ関セサル文書ノ往復ハ正権正ニテ之ヲ処置スルヲ得ヘシ
第二十六章　民部省及ヒ各司合議ノ簿冊廻達アラハ速ニ廻覧シ、異議ナキハ検印シ、若シ其意了解シ難キハ主掌ニ審問シ或ハ異議アリテ同意シ難キハ其旨趣ヲ書テ決ヲ請フヘシ
　　但シ事後来ニ渉リ規則照準トナルヘキ簿冊ハ、写テ以テ本司ニ遺スヘシ
第二十七章　置司以来各地方官ヘ達セシ条規ノ類及ヒ申牒セシ事務ヲ指令シタル等ハ、布告編集ノ例ヲ以テ之ヲ抄出補理シ、向後逐件相続シテ司中ノ成規粲然覧閲ニ便ナラシムヘシ
第二十八章　各員出勤退出ノ時限及ヒ休暇等一ニ本省ノ式ニ従テ遅参
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稽留アル可ラス
第二十九章　各員病気ニテ出勤シ難キ時ハ、其旨趣ヲ同課ノ者ニ報知シテ之ヲ正権正ニ達シ、併テ省中ノ庶務掛ヘ通達スヘシ
　　但正権正病気ノ節ハ相互ニ之ヲ報知シテ本省ニ達スヘシ
第三十章　各員若シ其身上ニ属スル願請ノコトアラハ、必ス正権正ノ検印ヲ乞テ其書ヲ上達スヘシ
　　但正権正ノ願請ハ直ニ之ヲ本省ニ達スヘシ
第三十一章　右当今司中処務ノ条例本省ノ決裁ニヨリテ確定スル所ナリ、各員能ク成規ニ照準シテ処事沈滞紛雑アル可ラス、若他日改メサルヲ得サル事アラハ審議シテ増減更革ヲ得ヘシ

　　　租税司ヨリ大蔵省ヘ伺　三年九月三日
　租税司職制職員令及司中処務条例別紙ノ通条規相定置、司中官員奉職ノ準拠トイタシ候様仕度、尤本省職掌ノ事務及ヒ処務ノ制限等未タ判然御確定ニモ不相成様被存候得共、凡官ニアル者ハ其方向ヲ明示シ其事務ヲ分別シ平素各其職掌ヲ詳知シ候様相成候ハヽ、所謂官無曠職責有専帰ト申場合ニモ可立至ト奉存候間篤ト御参考ノ上御高裁奉仰候也　決判