公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第4巻 p.472-487（DK040045k） ページ画像
明治20年4月3日（1887年）
明治十九年一月政府紙幣ノ正貨交換ヲ機トシ経済界ハ数年来ノ不況ヨリ脱シ二十三年ニ至ル迄好況ヲ呈セリ。同行モ亦是日株主臨時総会ヲ開キ資本金ヲ増加シテ参百万円トナスノ儀ヲ決定シ、爾来頗ル順調ナル発達ヲ遂グ。栄一頭取トシテ之ヲ指導ス。
青淵先生伝初稿 第九章下・第五五―五七頁〔大正八―一二年〕（DK040045k-0001）
第4巻 p.472-473 ページ画像
青淵先生伝初稿 第九章下・第五五―五七頁〔大正八―一二年〕
第一国立銀行の増資
然るに十九年に至り、政府紙幣の交換実施せられ、通貨の性質安定せるに及びて、商況始めて回復し、二十年には漸く復活の状況を示せしが、金利尚安かりしかば、市場の人気は一般に鉄道其他事業の株券に集まり、諸会社創立の計画を勃興せしめたるが上に、生糸其他商品の取引活溌にして、各地の銀行は一般に金融の繁忙を告げたれば国立銀行の増資する者も尠からず、孰れもプレミアムによりて多くの利益を
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得たり。先生此気運に順応して第一国立銀行の業務を拡張するの必要を認め、明治二十年四月三日株主臨時総会を招集して資本金増加の件を決議し、従来の資本金百五十万円 一万五千株 に、更に百五十万円 一万五千株 を加へて、資本総額を三百万円 三万株 とし、同年九月新株の半額七十五万円の払込を終れり。而して此増加新株は、一株百円に対する時価百八十円の割合にて払込ましむることゝなしたれば、半額払込と共に総計六拾万円の割増金を得たるを以て、之を積立金中に加へたり。
第一銀行五十年史稿 巻四・第四―六頁（DK040045k-0002）
第4巻 p.473-474 ページ画像
第一銀行五十年史稿 巻四・第四―六頁
明治二十年以降の事業熱
明治十九年政府紙幣の正貨兌換実施せられて後、商況回復の運びに向へる際銀貨相場の下落は貿易上輸出超過となりて正貨の流入を誘導し為に金融の緩慢を来したり、而して金利の低落は有価証券の騰貴を伴ひ証券の騰貴は新事業の勃興を促し、同二十年に入るや鉄道其他の企業盛んに起り生糸取引の活溌また其勢を助けて、銀行業者一般の金融の繁忙を感ずるに至れり、かゝる情勢は日に月に進み二十一二年の交には各種の企業殆んど空前の盛況を呈し、運転資本の需要ますます急なるがゆゑに国立銀行中増資するもの前後に多く私立銀行の新設増資に至りては枚挙に遑あらず、此際に乗じて漸進的に健全なる発展を遂げつゝある本行が同じく増資せるは誠に事宜に適したるものなり、
本行の倍額増資
即ち明治二十年四月三日株主臨時総会の決議を経て従来の資本金百五十万円を三百万円となすと共に、其増資株式は一株八十円の超過金を以て株主より募集し、同年九月まづ其半額を払込ましめ、他の半額は今後三年間に便宜徴集せんとす、当時本行の株式一株額面百円なるもの時価実に三百三十円に上れるを一株百八十円の真価と見積りて株主に分配せるなり、かくて本行は新株の半額払込と共に六十万円の割増金を収入し、一時に多額の流通資金を得たれば、之を京浜の両地に利用せり、
二十年末に於ける営業成績
明治19―22年営業成績表 年 季 払込資本金 積立金 銀行券流通高 貸出金 預金 有価証券 金銀 経費 純益金 一九 下 一、五〇〇、〇〇〇 六三五、〇〇〇 一、一一五、二六四 五、九二五、四三八 六、六四一、二八二 一、八四七、九三九 二、四九二、五八一 六三、五三九 一九八、五三六 二〇 上 〃 六五五、〇〇〇 一、〇九八、九四六 五、五六三、一三〇 五、九三二、五七六 二、三八二、八九〇 二、四〇六、六四七 六六、八三二 二二二、三〇三 二〇 下 〃 七〇〇、〇〇〇 一、〇八一、六〇二 七、一四七、〇〇四 五、六一四、五二七 二、四一八、九一一 二、一〇一、八一三 七〇、二三一 三一〇、一一九 二一 上 〃 八〇〇、〇〇〇 一、〇六三、九三二 六、〇一七、二四一 六、〇六七、六四一 二、三六五、八九七 二、五六五、六九二 六八、七〇二 二四四、六八五 二一 下 〃 八二〇、〇〇〇 一、〇四六、七六五 六、九九九、二六四 六、〇八四、七〇六 二、二二四、二七八 二、二八八、〇〇五 七三、八六六 二八七、五五三 二二 上 〃 八八〇、〇〇〇 一、〇二九、一八九 七、〇八四、五五九 六、一一七、二五八 二、二二八、〇一一 二、一三五、四四三 六九、八七五 二四七、三五〇 二二 下 〃 九〇〇、〇〇〇 一、〇一一、三四五 七、七〇三、〇八一 五、八六〇、二二〇 二、一九五、六四八 一、九六五、九四四 七三、〇八八 二七六、一三八
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此時に当り本行支店の数も漸く増加して十四ケ所に及び各地方に其勢力を扶殖せるのみならず、遠く海を越えて朝鮮へも達したるが、いま二十年度末における本支店営業の景況を按ずるに十五年末に百九十九万八千余円なりし預金は五百十二万九千余円に進み、三百五十三万八千余円ないし貸付金は、七百三十四万円に進み、毎半季の純益も概ね二十万円を越え、多きは三十二万九千余円に上り毎半季資本金に対して年一割八分の配当を行ひ、積立金は八十万円に増加せり、僅かに数年の間にかゝる進境を示せるは、畢竟するに経営の方法宜しきを得て堅実なる営業振が世上の信用を博したるによるものにして本行の特色実にこゝに存す。
第一国立銀行半季実際考課状 ○第二七回〔明治一九年下期〕（DK040045k-0003）
第4巻 p.474 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状
○第二七回〔明治一九年下期〕
本支店景況之事
本季ノ始メ一般ノ商情ハ微シク活動ノ兆ヲ現ハシ自来漸次相進ミタリシカ後又一歩ヲ退キ終ニ再ヒ進ム所ナクシテ経過セリ然レトモ其景況ハ近年引続キタル不景気ノ歎声ヲシテ一転セシメタルニ足レリト云モ不可ナキカ如シ蓋此機運ニ転シタルハ本年生糸産出ノ豊饒ナルト夏作秋収共ニ稔年ヲ占メ二者相待テ各地方ノ購買力ヲ喚起シ未タ十分ノ需用ヲ告クルニ至ラサルモ凡ソ常需ノ物貨ハ大ニ地方ニ向テ售路ヲ開キ是カ為メ連年愁眉ヲ重ネタル諸工業或ハ俄ニ供給ヲ促カサレ又ハ甞テ造積セシ所ノ製造品ヲ一時ニ銷售シタルヲ以テ売買ノ路大ニ繁閙ヲ告ケタルニ外ナラサリシナリ且此運転ノ機ハ前季間既ニ蚕麦ノ景況ヲ以テ窃ニ翹望セシ所ナリシカ果シテ此好結果アリシハ実ニ近年ノ一幸ナリト云ヘシ
然リト雖トモ此運転ノ機ハ多クハ養蚕地方ノ商情ニ関係スル所ニシテ他ノ農民一般ノ間ニ在テハ尚前日ノ不景気ヲ唱ヘ生産消費ノ二力共ニ依然前季ト異ルコトナシ故ニ当行本支店間ノ金融及利足割合ニ就テ東京以北養蚕地方ト大坂以西養蚕ナキ地方トノ実跡ヲ対比スレハ一目瞭然其別アルヲ知ルヲ得ヘシ
諸公債証書ノ価格ハ本季ニ至リ漸ク下落ノ色ヲ現ハセリ蓋此ノ如キモノハ上述商情ノ一転ニ因リ資本ノ需用稍々生スルト此際又整理公債ノ発行アツテ将来公債ノ利子ニ望ミヲ薄フシ彼此相待テ其熱情ヲ冷却シタルカ如シ然レトモ養蚕地方生糸売買ニ関係スルモノヽ外ハ未タ全ク商情回復セリト云難キモノアルヲ以テ一旦下落ニ傾キシモ他ニ生財ノ道開ケサルニ於テハ又再ヒ高騰スルニ至ルモ未タ以テ知ルヘカラサルナリ
一般ノ商情前ニ叙述スルカ如クナルヲ以テ銀行ノ営業モ稍々繁劇ニ赴キタリ而シテ本行ノ如キハ生糸輸出ノ途ニ向テ尤モ資力ヲ注キ及ヒ荷為替ノ事務ニ対シテ大ニ勉強ヲ加ヘ本支店ノ間資本ノ運転極メテ宜シキヲ得ルニ因リ其利益ハ通計シテ大ニ前季ヨリ超過セリ
此ニ各店ノ景況ヲ述ヘ及ヒ其業務ノ要項ヲ将テ前季ト比較スルコト左ノ如シ
○下略
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第一国立銀行半季実際考課状 ○第二八回〔明治二〇年上期〕（DK040045k-0004）
第4巻 p.475 ページ画像
○第二八回〔明治二〇年上期〕
株主総会決議之事
一同年○明治二十年四月三日臨時総会ヲ開キ本行増株ノ議案ヲ提出シ格段会議ヲ以テ之ヲ討議シ、本案払込期限ニ小修正ヲ加ヘ其他ハ都テ原案ヲ賛成シ、則更ニ壱百五拾万円ヲ増加シテ総資本ヲ三百万円トシ、内半額ハ本年九月ヲ期シテ募集シ、残半額ハ三ケ年間ニ更ニ協議ヲ経テ募集スヘキコトニ決議セリ
第一国立銀行第二十八回株主総会要件録（DK040045k-0005）
第4巻 p.475-477 ページ画像
第一国立銀行第二十八回株主総会要件録
明治十九年一月十六日例《（二十）》ニ依リ第一国立銀行第二十八回株主総会ヲ東京本店ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
○中略
右来会諸氏ハ午後第三時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間事務ノ諸報告及ヒ議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一議長ハ先本支店前半季間営業ノ景況要旨ヲ報道セリ
一当半季利益金分配ノ事ハ総益金弐拾壱万九千三百弐円三拾九銭三厘ニ前半季ヨリ繰越シタル金弐万三千八百四円五拾弐銭三厘、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金三拾四万三千百六円九拾壱銭六厘ノ内ヨリ、明治十九年下半季銀行税四千弐百円、紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備金拾万円、同償却金壱万九百三円八拾銭八厘、営業用家屋代消却金五千六百六拾弐円拾八銭八厘、諸役員賞与金弐万七千八百円ヲ引去リ、残額拾七万九千五百四拾円九十二銭八厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ弐万円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（一株ニ付九円ノ割即年一割八分ニ当ル）其残金弐万四千五百四拾円九拾弐銭八厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、当半季利益金ト予算額トノ比較表、諸入費決算ト予算トノ比較表等ノ大要ヲ報告セリ
○中略
次ニ議員ハ左ノ議題ヲ提出シ一同ニ告ケテ曰ク、本題ハ格段会議ニ於テ議スヘキモノニ付日ヲ定メテ更ニ格段会議ヲ開クヘキヤ或ハ本会ヲ以テ引継キ格段会議ヲ開キタルモノト見做シ、之レヲ議スヘキヤヲ問フ
一沢太郎左衛門氏先起テ曰ク、定式総会ニ引続キ格段会議ヲ開キタルコトハ先例モアルコトナレハ、直ニ本会ヲ格段会議トシテ議決センコトヲ述フ、衆之ニ同ス
○定款改正ノ議案付諸役員給料改正見込案
今般当銀行諸役員ノ給料ヲ別表ノ如ク改正シ、定款ニ定ムル所ノ役員賞与金ハ純益金ノ百分ノ十七トアルヲ更メテ百分ノ十二ト為スニ付、定款第三十六条以下利益金分配ニ係ル条項ヲ左ノ如ク改正セントス
利益金分配ノ事
第三十六条
当銀行ノ総勘定ハ毎年両度六月十二月其精算ヲ為シ、総益金ノ内ヨリ一切ノ諸経費ヲ引去リ、利益金ヲ現ハシ、一月七月ノ総会ニ於テ明瞭
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ニ之レヲ報告シ、而シテ其利益金ノ内ヨリ銀行税、営業用地所家屋代価ノ償却、滞貸損失ノ消却、及滞貸ノ準備等ヲ引去リ、其残高ヲ純益金トナシ左ノ割合ヲ以テ之レヲ配当スヘシ
一純益金高 百分ノ十二 諸役員賞与金
但シ是レハ頭取取締役ノ考案ヲ以テ相当ニ之レヲ配与スヘシ
一金壱万五千円 紙幣消却元資積立金
右差引残高 総株高ヘ配当
但シ割賦金壱割五分以上ナルトキハ此内ヨリ相当ノ積立金ヲ為スヘシ
第三十七条
積立金ノ上別段ノ二字ヲ削ル
第三十八条
積立金ハ銀行ニ蓄積シ自ラ銀行ノ利益ヲ増スモノナレハ勉メテ其増殖ヲ図ルヘシ、故ニ毎半季ノ純益金目途額ヨリ増加セシトキハ此積立金モ成ルヘク之レヲ増蓄スヘシ
第三十九条
第四十条
右両条ハ頭取取締役ニ於テ別段ニ準則ヲ設クヘキモノニ付削除ス
役員給料改正見込案
従前之分 等級 月給 増手当 一等 五拾円 弐百円 二等 弐拾円 内一人増拾円 三等 三拾円 四等 弐拾弐円五拾銭 増弐円 五等 拾七円五拾銭 同弐円 六等 拾弐円五拾銭 同弐円 七等上 拾壱円 同弐円 七等 九円五拾銭 同弐円 八等上 八円三拾銭 同弐円 八等 七円三拾銭 同弐円 九等上 六円四拾銭 同弐円 九等 五円五拾銭 同弐円 十等上 四円八拾銭 同弐円 十等 四円三拾銭 同壱円 十一等上 四円 同壱円 十一等 三円七拾銭 同壱円 等外一等 三円 同五拾銭 同二等 弐円 同五拾銭 改正見込 等級 月給 増手当 一等 百五拾円 弐百円 二等 上給 六拾円 二等 下給 五拾円 三等 上給 七拾円 三等 下給 六拾円 四等 上給 五拾円 四等 下給 四拾円 五等 上給 三拾五円 五等 下給 三拾円 六等 上給 弐拾五円 六等 下給 弐拾円 七等 上給 拾七円 七等 下給 拾五円 八等 上給 拾弐円 八等 下給 拾円 九等 上給 九円 九等 下給 八円 十等 上給 七円 十等 下等 六円 等外 一等 四円 同 二等 三円
一議長ハ本題改正案ノ要旨ヲ説明シテ曰ク、今此改正案ヲ提出スル所
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以ノモノハ従来本行諸役員ノ給料ハ別表ノ如ク一等五拾円ヨリ漸ク逓下シテ最低僅カニ弐円ニ底ルノ割合ナレ共、賞与金ノ額ハ他ニ比シテ稍多キヲ以テ之ヲ今日迄改正セサリシト雖トモ、中等以下ノ役員ニ於テハ殆ント生計ヲモ支ヘ難ク、不知不識ノ間負債ノ端緒ヲ開キ、竟ニ其負債ノ為メニ意外ノ弊害ヲ醸生スルノ恐レナシトセス、依テ今本題ノ如ク賞与金ノ割合ヲ減シ、月給ヲ増加セント欲スルモノナリトノ事情ヲ詳述セシニ、一同異議ナク原案ノ通リニ決ス
一当任頭取取締役ハ例ニ依リ其任ヲ解キ西村虎四郎氏、三井三郎助氏株主総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ、旧員皆高点ヲ得ルト雖トモ三井高朗氏ハ都合ヲ以テ辞退セラルヽニ付、次点ノ井口新三郎氏新任ノ当撰ヲ得、皆何レモ肯諾セリ
一新任ノ頭取渋沢栄一ハ本年上半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
右等ノ議事完ク畢リ、午後第五時下一同退散セリ
明治二十年一月十六日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二八回〔明治二〇年上期〕（DK040045k-0006）
第4巻 p.477-478 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二八回〔明治二〇年上期〕
○本支店景況之事
玆ニ本年上半季本支店営業ノ成跡ヲ記載スルニ当リ例ニ照ラシ全般ノ景況ヲ概言スレバ本季ハ昨年下半季ヨリ引続キ物貨ノ需用漸次増進スルニ随ヒ諸工業共ニ繁盛ヲ致シ、商業社会ニ向テ其取引ノ途ヲ求ムルカ為メニ貸借稍々繁劇ナルニ至レリ、試ニ之ヲ人身ニ譬フレハ累年ノ病痾正ニ回復ニ向ヒ元気稍々発スル者ニ似タリト云フモ不可ナキカ如シ
夫レ比年商情ノ不景気モ昨年下季以来幸ニ善遷シテ本季ノ現象ヲ見ルニ至リシハ所謂潜会黙移ノ理当ニ此ノ如クナルヘシト雖、其尤商業社会ニ於テ感覚アリシモノハ、彼ノ不景気ノ原因トモ云ヘキ不換紙幣ノ昨年以降一変シテ兌換紙幣トナリ、銀貨トノ差全ク絶無ニ帰シ、百般取引上ノ便利ヲ得ル実ニ鮮少ナラス、尋テ同年ハ蚕麦共ニ豊産ヲ占メ殊ニ蚕糸ノ輸出ハ未曾有ノ好結果ナリシ為メニ産糸地方ノ富ヲ増シタルハ言ヲ俟タス、其影響ヨリ間接ノ利ヲ得タルモノ延テ各地方ニ波及セリ、加之全国ノ秋収十分ノ豊稔ヲ占メ、彼此相待テ積年ノ愁眉一朝喜色ヲ展キ未タ一般ニ玩弄高奢ノ具ヲ求ムルニハ至ラスト雖普通日常ノ物貨ハ都鄙共ニ大ニ其需用ヲ惹起シタル等則是ナリ、而シテ其勢延テ本季ニ至リ公債ノ利益ハ漸次其望ヲ薄クシ随テ鉄道其他諸工業ノ計画陸続世ニ現ハレ貿遷ノ途多少進広スル所アルヲ得タリ
公債証書価格ノ高低ハ銀行営業上緊要ノ関係ヲ有スルヲ以テ其概情ヲ提セハ本年一月ノ平均価格ハ昨年十二月ヨリ少シク上リ、二月モ同情ニテ三四両月ハ少シク騰貴シ、五月六月ハ還タ降テ恰一二月ノ価位ニ復シ、爾来尚低下ニ赴クノ傾キアリ、要之前季以来低下ノ方向ニ帰スルモノハ将来其利息ノ一様ニ減スヘキカ為メ已ニ求需ノ念ヲシテ漸ク薄カラシメタルモ固ヨリ其原因ノ一部分ニ在リト雖、商情一変ノ為メ資本需用ノ途ヲ開キタルト同時ニ諸種新事業ノ為メニ株金ニ給注スル資本ノ次第ニ増加スル等、尤其原因ナリト謂ハサルヘカラス
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一般ノ商情此ノ如クナルニ当銀行ハ前季数々報道スル如ク近年不景気ニ対スルノ営業地歩ヲ開拓シ、本支店協心戮力シテ為替荷為替ノ途ニ専心従事シ務メテ商業ノ便利ヲ企図セシカ幸ニ本季ノ如キ商情繁劇ナルト与ニ其勉励ノ功ヲ奏シ、本支店純益金ノ合計ハ大ニ前季ヨリ優超ナルノ結果ヲ得タリ、各店営業ノ事情ニ至テハ左ニ之ヲ開列ス
○下略
第一国立銀行第三十回株主総会要件録（DK040045k-0007）
第4巻 p.478 ページ画像
第一国立銀行第三十回株主総会要件録
明治廿年七月十七日例ニ依リ第一国立銀行第三十回株主総会ヲ東京本店ニ開設ス当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百十二名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百四十七名
右来会諸氏ハ午後第二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間事務ノ諸報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一議長ハ本年上半季間本支店営業ノ景況要旨ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾四万弐千七拾壱円九拾弐銭四厘ニ前半季ヨリ繰越シタル金弐万四千五百四拾円九拾弐銭八厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金三拾六万六千六百拾弐円八拾五銭弐厘ノ内ヨリ、明治廿年上半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金壱万五千五百六拾八円七拾七銭六厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金弐万六千六百円ヲ引去リ、残額弐拾弐万弐百四拾四円七銭六厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トナシ、金四万五千円ヲ積立金トシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（壱株ニ付九円ノ割即年一割八分ニ当ル）其残額弐万五千弐百四拾四円七銭六厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、当半季利益金ト予算額トノ比較表、諸入費決算ト予算トノ比較表等ヲ示シ、各其大要ヲ報告セリ
次ニ格段会議ヲ開キ本行ニ於テ昨年以来開設セシ金沢出張所、今年以来開設セシ宇都宮出張所等ハ従前日本銀行代理店トシテ国庫金出納ノ取扱ヲ為シ、傍ラ銀行ノ事務ヲモ間接ニ取扱居タリシカ該地ノ事情ヲ詳察スルニ将来相当ノ営業ヲ為シ得ヘキ目的アルヲ以テ更ニ支店ト為シ、銀行一般ノ営業ニ従事スヘキ議案ヲ提出セシニ衆皆之ヲ賛成スルヲ以テ原案ニ可決シ、且此決議ノ旨ヲ大蔵大臣ヘ上申シ允准ヲ経テ開設スヘキ事ニ決議セリ
右議事畢リ午後五時下退散ス
明治二十年七月十七日
議長 渋沢栄一
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第一国立銀行半季実際考課状 第二九回〔明治二〇年下期〕（DK040045k-0008）
第4巻 p.479-480 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二九回〔明治二〇年下期〕
○本支店営業景況之事
爰ニ本行第二十九回ノ決算ニ当リ、例ニ依リ本支店営業ノ景況ヲ報道スルカ為メニ本季間商業ノ総情ヲ提略スルハ其原因結果ヲ参考スルニ於テ必無用ノ弁ニアラサルヲ信セリ
前季ヨリ引続キ九十月ノ交ニ至ルマテハ一般ノ商情頗ル活溌ナリシカ、十一月頃ヨリ又退歩シテ漸ク不盛ノ境ニ入リ、竟ニ本季ノ末ニ至ルマテ同情ニテ経過セリ、而シテ其生糸ノ一業ハ昨年ニ引続キ生産豊饒ノ為メ出荷益多ク、古糸ノ持越高一万二千余箇アリシニ新糸ノ出荷高ハ十二月ノ末マテニ総計五万三千三百余箇ノ巨額ニ上ルヲ以テ価格常ニ潮進スル所ナク市情随テ活溌ナラサリシカ、英国為替ノ相場低度ノ傾アリシカ為メ外商ハ窃ニ得色アツテ間断ナク買入ニ従事シタルカ故其輸出ノ合計ハ三万九千余箇ニ上リ昨年ニ比スレハ百分ノ三十八余ヲ超過セリ、而シテ臘尾ノ有高即チ本季横浜ニ残留セシ数ハ二万六千余箇ニシテ昨年ヨリ多キ事三千余箇ナリ、此ノ如キ情態ナルヲ以テ本年ノ糸業ハ十分満足ノ結果ニハアラサレトモ亦以テ冷淡ノ光景ナリシト云ヘカラス、金融ノ景況ハ東京大坂ヲ首トシテ商業地ハ概シテ前季以来頻促ノ勢ヲ持シ年尾ニ近ツクニ随テ殊ニ急劇ノ情ヲ呈シ、利息ノ如キモ前季以来依然トシテ低減セサルノミナラス時トシテハ却テ騰貴シ又地方ニ因リテハ屡次高低セシ所アリ
又金融上常ニ大関係ヲ有スル公債証書ハ前季ノ末ヨリ価格沈底シ随テ売買モ繁閙ナラス、恰モ其名誉ノ地位ヲ諸株式ニ譲リ自ラ商業世界ヲ脱却シテ韜晦高逸シタル者ノ如シ、故ニ本季間其価ノ小高低アリシ情景ハ此ニ略シテ記載セス
商業ノ総情此ノ如クニシテ其退歩セシ原困ハ直接ノ影響アリ、間接ノ刺衝アリ、又主客其勢ヲ殊ニスル者アリテ甚タ交錯盤結ナルヲ以テ敢テ簡単ノ言ヲ以テ之ヲ尽ス能ハスト雖、試ニ実跡上ヨリ観察スル所ニ拠レハ昨年以来都鄙通シテ稍々購買力ヲ生スルカ如キモ、其実ハ農産上資力ノ厚富ヲ致シタルヨリ発生シタル所ニアラス、需用者久シク不足ニ堪ヘ殆ント其極ニ達シ纔ニ、衣食ノ料ヲ需用スルニ際シ経年紊乱セシ諸物価稍々静定ニ帰スルヲ以テ商業者ハ悦テ之カ供給ニ従事シ、工業者ハ得意其製造ニ勉強シ、供給頻ニ加ルニ至リ竟ニ以テ需用ノ度ヲ踰ヘ、所謂貨物、人ヨリモ多ク、商業為メニ挫折セシ者ト云ヘキカ果シテ然ラハ前日需用セシ貨物消費ノ期ヲ告クルニ至ルマテハ又偶然起色アルヘカラサルヲ知ルヘシ
又一方ヨリ窺ヘハ頻ニ会社法ヲ以テ諸種ノ工業ヲ計画スル者恰モ春草ノ一雨毎ニ発生スルカ如ク日一日ヨリ多キヲ加ヘ、其資本ハ未タ確実ノ統計ヲ得サレトモ既ニ数千万円以上ニ上リタルヤモ知ルヘカラス、物ヲ開キ務ヲ成スハ多々益弁スルヲ厭ハスト雖又此競争ヨリ生スル反動ハ果シテ何等ノ情態ヲ現出シ来ルヘキヤ若シ其創設ノ後予期ノ利益ナキニ於テハ或ハ株金募集ノ頻繁ナルニ際シ金融上非常ノ劇変ヲ起シ所謂「パニツク」ノ恐ナシトスヘカラス、故ニ方今商工業ノ情態ハ一喜一憂ノ間ニ在リ之ニ対スル銀行ノ営業ハ尤以テ戒慎スヘキ秋ナリ
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商工業ノ情態此ノ如クナルヲ以テ本行ハ昨年以来更ニ営業ノ方針ヲ按シ主トシテ資本操縦ノ敏捷ヲ計リ一朝事アルニ際スルモ之ヲ収拾スルニ不便ナラサラン事ヲ期シ、各店心ヲ一ニシテ勉励之ヲ経営シ玆ニ決算ニ至リ、其利益ハ都テ前季ヨリ優超シ、却テ予算ニ対シテ過大ナル所アルハ是皆各店営業区ノ広伸シタルカ為メニ実際ノ業務日々増殖シ、此望外ノ果ヲ結ヒタル所以ニシテ殊ニ本店ノ如キハ公債的籖ノ金額数万円ニ上リ、彼此相待て特別優利ヲ収ムルニ至リシナリ
○下略
第一国立銀行第三十一回株主総会要件録（DK040045k-0009）
第4巻 p.480 ページ画像
第一国立銀行第三十一回株主総会要件録
明治廿一年一月十五日例ニ依リ第一国立銀行第三十一回株主総会ヲ東京本店ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百二十七名
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百弐拾九名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百五拾六名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間事務ノ諸報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一議長ハ本年下半季間本支店営業ノ景況要旨ヲ報道セリ
一当半季利益金三拾弐万九千九百六拾四円六拾四銭壱厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万五千弐百四拾四円七銭六厘ト滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金四拾五万五千弐百八円七拾壱銭七厘ノ内ヨリ、明治廿年下半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金六千九百弐拾五円九拾三銭弐厘、営業用家屋代消却金八千七百拾九円、新株払込金ニ対スル利払金弐万六千弐百五拾円、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金三万弐千三百円ヲ引去リ、残額弐拾七万六千八百拾三円七拾八銭五厘ヲ純益金トナシ此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トナシ、金拾万円ヲ積立金トシ、金拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（壱株ニ付九円ノ割即年一割八分ニ当ル）其残額弐万六千八百拾三円七拾八銭五厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、当半季利益金ト予算額トノ比較表、諸入費決算ト予算トノ比較表等ヲ示シ各其大要ヲ報告セリ
一当任頭取取締役ハ成規ニ照ラシ皆其任ヲ解キ、而シテ西村虎四郎氏今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ、旧任者皆高点ヲ得ルニ因リ各承諾シテ上任セリ
一上任ノ頭取渋沢栄一ハ本年上半季営業予算表ヲ示シ其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後五時下退散ス
明治廿一年一月十五日 議長 渋沢栄一
- 第4巻 p.481 -ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三〇回〔明治二一年上期〕（DK040045k-0010）
第4巻 p.481 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三〇回〔明治二一年上期〕
○本支店営業景況之事
爰ニ本行第三十回決算報告ノ期ニ届ルヲ以テ例ニ依リ本季間一般ノ商情ヲ提略セハ蓋昨季ト大同小異ナリトノ一言ヲ以テ之ヲ蔽フニ過キサル可シ、然リト雖トモ当行支店ノ数モ既ニ十余ニ及ヒ、地方ノ事情ニ随ヒ消長ナキ能ハサルヲ以テ、其金融ノ如キモ各地繁閑ノ情態ヲ殊ニシ、必ス一轍ニ出テサルモノアリ、而シテ米穀ノ如キハ比年豊饒ノ為メ東京ノ販路不充分ナルカ故ニ悄然トシテ活溌ナラサリシカ、一般ノ物業ヲ観察スルニ至テハ時勢ノ進動ト共ニ自ラ其歩ヲ進ムル所アルヲ覚フ、殊ニ鉄道工事アル地方ノ如キ或ハ諸般ノ工業ヲ開設スル地方ノ如キハ其光景繽紛トシテ金融モ繁閙ヲ告ケ、小商零売ノ業ハ得々喜色アルカ如シ
又生糸ノ業ハ一般ノ商情ニ感影スルカ為メ聊カ一言ヲ提セハ、其生産十分ノ豊裕ナリシニモ拘ハラス售路能ク開ケ、昨年ハ二万六千余個ノ残数アリシカ本季ハ米国ノ售路間断ナクシテ六月三十日ノ残留ハ六千二百余個ニ至リ、前季ト比シ二万個ヲ減セリ、即其入荷ノ数ハ一万五千百余個ニシテ売込高ハ三万五千二百余個ナリ、抑糸業ハ例年下半季ニ於テ十分取引ヲ為ス者ナルカ本季ハ前季ノ残留饒キカ為メ異常ノ盛況ヲ呈スルニ至レリ
前季ニ於テ昨年以来会社ヲ創設スルノ風潮甚タ奮迅ナルカ為メ各十分ノ好結果ヲ看ルハ甚タ難ク、或ハ損壊スルモノナキヲ得スシテ所謂其極「パニツク」ノ恐アランコトヲ報道セシカ、此半季間ハ幸ニ未タ其事ナシト雖トモ、試ニ鉄道事業ノ如キ尤巨資ヲ要スル者ニ就テ之ヲ論スレハ、其多数ノ株金ヲ担当スル株主ノ如キハ皆其金額ヲ庫中ニ存在スル者ト云フ可カラス、必スヤ善価ヲ待テ之ヲ売ラント欲スル者アラン、果シテ然ラハ他日金融繁忙ノ時ニ際セハ之ヲ売ル者益々多クシテ之ヲ買フ者甚タ少ク、其切迫ノ情勢終ニ経済世界ノ恐慌ヲ生スルニ至ラン、豈寒心セサルヘケンヤ
公債証書ハ営業上ニ大関係アルヲ以テ丁寧ニ其事情ヲ報道セント欲スルモ、前季以来依然トシ退隠者ノ如ク、価格モ随テ変動ナキカ故ニ、敢テ之レヲ記スヲ得サルナリ
以上陳フル所ノ如クニシテ再ヒ之レヲ概言セハ一般ノ商情ハ可モナク不可モナク、生糸ノ商業ハ相応ニ運動シ、小商零売ノ業ハ稍々繁盛ヲ告クルト雖トモ金融ハ渋滞シテ始終円滑ナラス、自然諸株式ヲ嫌フノ情ヲ強クシ、合本ヲ厭フノ念ヲ生シ、苟モ余財アルモノハ之レヲ貯蔵スルノ傾キアルヲ以テ、此際当行本支店ノ営業ハ益慎戒ヲ加ヘ、万ニ一誤ナキヲ要シ、資金ノ操縦毫モ貸ス所ナク較々防範ニ過クルヲ以テ収利ノ額ハ十分ニ至ラサレトモ、上季ノ下季ニ及ハサルノ結果ナルハ是亦例年ノ通常タルヲ免カレサル所ナリ ○下略
第一国立銀行第三十二回株主総会要件録（DK040045k-0011）
第4巻 p.481-482 ページ画像
第一国立銀行第三十二回株主総会要件録
明治廿一年七月十五日例ニ依リ第一国立銀行第三十二回株主総会ヲ東京本店ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
- 第4巻 p.482 -ページ画像
渋沢栄一
○外百三十七名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百五十四名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百三十六名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間事務ノ諸報告ヲ為シ、次ニ利益金配当方法其外議事ヲ決定スルコト左ノ如シ
一議長ハ本年上半季間本支店営業ノ景況要旨ヲ報告セリ
一当半季利益金弐拾六万三百九拾九円九銭四厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万六千八百拾三円七拾八銭五厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金三拾八万七千弐百拾弐円八拾七銭九厘ノ内ヨリ、明治廿一年上半季銀行税金四千弐百円、滞貸消却金壱万千五百拾三円五拾三銭、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金弐万九千三百円ヲ引去リ、残額弐拾四万弐千百九拾九円三拾四銭九厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却積立金トシ、金弐万円ヲ積立金トシ、金拾弐万円ヲ当半季ノ旧株割賦金トシ（壱株ニ付金八円ノ割）金六万円ヲ新株割賦金トナシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額弐万七千百九拾九円三拾四銭九厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、当半季利益金ト予算額トノ比較表、諸入費決算ト予算トノ比較表等ヲ示シ、各其大要ヲ報告セリ
一頭取渋沢栄一ハ本年下半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
○中略
右議事畢リ午後五時下退散ス
明治廿一年七月十五日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第三一回〔明治二一年下期〕（DK040045k-0012）
第4巻 p.482-483 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三一回〔明治二一年下期〕
○本支店営業景況之事
爰ニ軍三十一回決算ノ報告ニ当リ例ヲ照ラシ都鄙一般商業ノ事情ヲ提略シ、次ニ本支店ノ景況ヲ叙述スヘシ、是レ敢テ弁ヲ好ムニアラス銀行営業ノ伸縮シタル原因ヲ稽査スルニ於テ已ムヲ得サレハナリ
夫レ商業ノ消長ハ農家ノ盈虧ニ原因シ農家ノ盈虧ハ米価ノ高低ニ原因セスンハアラス、而シテ此農商ノ二途ニ大関係有ルモノハ即生糸輸出ノ一業ナルヲ以テ米糸ノ二物ハ常ニ農商ヲ生死セシムルノ機関ナリト云モ不可ナキカ如シ、故ニ商業ノ盛衰ハ毎ニ金融ニ響応シ延テ公債諸株式ノ相場ニ波及スルヲ以テ玆ニ其本季間ニ在テ消長シタル所ノ痕跡ヲ提セハ、則米価ハ本季ノ交ヨリ月々騰貴ヲ為シ、十二月ニ至テ還タ少シク逡巡セシカ、要之前季ニ比スレハ其価格数点ヲ進ミタルカ故ニ農家ハ多少元気ヲ発生シテ購買力モ亦随テ増生セシカ如シ、又生糸輸出ノ市況ハ前季以来售路断続ニシテ八九月ノ交ハ一時不捌ニテ有荷巨
- 第4巻 p.483 -ページ画像
額ニ上リシカ、尚少数ノ取引アリテ十月ニ入リテ銷售大ニ開ケ、十一月中旬マテハ更ニ盛衰アリシカ爾後還タ盛銷シテ本季ヲ終ルマテ其気勢毫モ減セサリシ、玆ニ査スル所ニ拠レハ前季横浜ニ残留ノ数ハ六千弐百余個ニシテ本季間入荷ノ数ハ六万三千百余個、合計六万九千三百余個ノ内五万三千四百余個ノ多数ヲ輸出シ、本季末日ノ残留高ハ即チ壱万五千九百余個ナレハ昨年此季ノ残留高ニ比シ略々壱万個ヲ減シタルノミナラス、其售価モ一時非常ノ高位ヲ占メタルヲ以テ其金額実ニ巨大ニ上リ、聞ク所ニ拠レハ外国銀行モ運転資本ノ欠乏ニ苦ミタリト云、此際生糸商賈ノ内或ハ前季以来価格屡変ノ為メ此盛售ニ遇フモ得失相償ハサルヲ歎スル者アリト雖モ要之本季糸業ノ所得ハ能ク其生産地方ヲ潤飾スルノ資力トナルヲ以テ、直接ニ間接ニ諸商業ノ運動ヲ催喚シタル所亦甚タ大ナリト云フヘシ
米糸ノ結果此ノ如クナルヲ以テ本季間一般ノ商業ハ大ニ起色アリテ諸工業モ概シテ前季ヨリ増進シ、略々好結果ヲ得ルカ故ニ金融ハ緩急一様ナラサリシモ甚タシキ必迫ヲ告ケス、亦甚タシキ緩弛ニモ至ラス、之ヲ分解セハ東京ノ金融ハ七月ハ緩ニシテ八月ハ急ナリ、九月ハ益急繁ニシテ割引日歩等モ大ニ騰貴シ、十月ニ入リ尚同情ナリシカ、其中旬ヨリ漸ク緩弛ニ赴キ爾後終季同情ナリシハ、思フニ彼ノ盛ンニ銷售シタル生糸ノ代金陸続入到セシト、之レニ加フルニ公債的籤ノ金額モ亦少ナカラサルヲ以テ一時余資ヲ生シタルカ故ナルヘシ
公債証書ハ本期ノ初ヨリ九月マテハ尚能ク価格ヲ保チ前季ト大同小異ニシテ其常ニ金融ト密接ノ関係ヲ有シ、金融閑ナル時ハ其価進ミ、金融繁ナル時ハ其価退クノ性質ヲモ併セテ較々一変シタルハ蓋シ新事業ノ漸次興起シ其利公債ヨリモ甘美ナルカ為メニ投資ノ途モ亦既ニ軌ヲ転シタルカ如シ
以上叙述スル所ハ即本期間銀行ノ営業ヲ左右シタル所ノ原因ナリ、而シテ当行本支店ハ過半米糸商業ノ要区ニ当ルヲ以テ殊ニ其需要ニ応スルノ計画ヲ為シ、勉メテ之ヲ実行シタルカ故ニ、各応分ノ利益ヲ収メ之ヲ綜合シテ予算ノ額ニ超過スルヲ得タリ ○下略
第一国立銀行第三十三回株主総会要件録（DK040045k-0013）
第4巻 p.483-484 ページ画像
第一国立銀行第三十三回株主総会要件録
明治二十二年一月二十日例ニ依リ第三十三回株主総会ヲ東京日本橋区阪本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百四十名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百五拾七名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百四十五名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間事務ノ諸報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一議長ハ本年下半季間本支店営業ノ景況要旨ヲ報道セリ
- 第4巻 p.484 -ページ画像
一当半季利益金三拾万弐千三百三拾八円九拾八銭弐厘ニ前半季ヨリ繰越タル金弐万七千百九拾九円三拾四銭九厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金四拾弐万九千五百三拾八円三拾三銭壱厘ノ内ヨリ、明治二十一年年下半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金壱万五百八拾五円、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金三万弐千七百円ヲ引去リ残額弐拾八万弐千五拾三円三拾三銭壱厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トナシ、金六万円ヲ積立金トシ、金拾弐万円ヲ旧株割賦金トシ（壱株ニ付金八円ノ割）金六万円ヲ新株割賦金トシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額金弐万七千五拾三円三拾三銭壱厘ヲ後半季ニ繰込ムベキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、及当半季利益金ト予算額トノ比較表諸入費決算ト予算トノ比較表等ヲ示シ、各其大要ヲ報告セリ
一当任頭取取締役ハ成規ニ照ラシ皆其任ヲ解キ、而シテ西村虎四郎氏今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ渋沢栄一・西園寺公成・須藤時一郎・三井八郎次郎・三井源右衛門ノ五氏高点ヲ得ルニ因リ各承諾シテ上任セリ
一上任ノ頭取渋沢栄一ハ本年上半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後五時下退散ス
明治廿二年一月廿日
議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第三二回〔明治二二年上期〕（DK040045k-0014）
第4巻 p.484-485 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三二回〔明治二二年上期〕
○本支店営業景況ノ事
爰ニ第三十二回決算報告ノ期ニ届リ例ニ依リ本季間金融ニ関スル全般ノ総情ヲ提略シテ之ヲ冒頭ニ置キ、以テ各店営業ノ根基スル所ヲ推知スルノ便ニ供セムトス
本季間ハ諸物貨ノ価位昂低少キヲ以テ商況金融共ニ平穏ナリ、但米価屡高低アリシト鉄道又ハ他ノ工業会社ノ起工益敷衍スルト生糸ノ荷物ノ間断ナク輸出セシニヨリ、或ル地方ニ於テハ金融一時聊カ繁忙ヲ告ケ又ハ閑慢ニ偏スル者ナキニアラサレトモ、概シテ繁閑其宜キヲ得タリト云フヘシ、尚之ヲ区別スレハ則本季ノ初ニハ歳尾ノ余勢ト旧暦ノ節季ニ際スルヲ以テ供給繁ナリシカ、爾後忽チ緩弛ニ傾キ、四月ニ入リテ復タ多少供給ヲ促シタレトモ甚タシキ必迫ニ至ラスシテ本季ヲ経過セリ
横浜ニ於ル本季糸業ノ景況ハ一月中七千五百余梱ヲ銷售セシカ、爾後残留荷物漸ク減シ、入荷モ亦減少スルヲ以テ取引頻繁ナラス、半季間銷售ノ総計壱万三千六百九十余梱ナリ、実ニ能ク集リテ能ク散シタルモノト云フヘシ、
公債証書ハ已ニ数季ノ前ヨリ価格沈着シテ変動ナク、売買モ亦甚タ静穏ナルカ為メ其細情ヲ述ルノ必要ナシ
以上記ス所ノ情態ナルカ故ニ各店ノ利益ニ至テハ多少優劣アリテ之ヲ前季ニ比スレハ十分ノ一余ヲ減スルモ、予算ニ比スル時ハ百分ノ十四
- 第4巻 p.485 -ページ画像
余ヲ増加セリ ○下略
第一国立銀行第三十四回株主総会要件録（DK040045k-0015）
第4巻 p.485 ページ画像
第一国立銀行第三十四回株主総会要件録
明治廿二年七月十四日第三十四回株主総会ヲ東京日本橋区阪本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百二十五名氏名略ス
委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
○氏名略ス
以上百四十一名
他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百八十七名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ、前半季間事務ノ諸報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一議長ハ本年上半季間本支店営業ノ景況要旨ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾六万三千五百四拾円九銭壱厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万七千五拾三円三拾三銭壱厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル金三拾九万五百九拾三円四拾弐銭弐厘ノ内ヨリ、明治廿二年上半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金壱万千九百八拾九円三拾三銭弐厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金弐万九千七百円ヲ引去リ、残額弐拾四万四千七百四円九銭ヲ純益金トナシ、此内ヨリ壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トナシ、金弐万円ヲ積立金トシ、金拾弐万円ヲ旧株割賦金トシ（壱株ニ付八円ノ割）、金六万円ヲ新株割賦金トシ（壱株ニ付四円ノ割）其残額金弐万九千七百四円九銭ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ、原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、及当半季利益金ト予算額トノ比較表諸入費決算ト予算トノ比較表等、及本年下半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後五時退散ス
明治廿二年七月十四日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第三三回〔明治二二年下期〕（DK040045k-0016）
第4巻 p.485-486 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三三回〔明治二二年下期〕
○本支店営業景況ノ事
爰ニ第三十三回決算報告ノ期ニ届リ例ニ依リ本季間都鄙商情金融ノ総況ヲ叙略シ以テ本行本支店営業ノ事情ヲ査閲スルノ参考ニ供ス
本季ノ初ニ当テハ前季ノ末ト同情ニシテ金融平穏ニ居リシカ、七月下旬ヨリ近年久シク沈低シタル米価ノ俄カニ踴躍スルト、横浜生糸市場ノ好景気ナルトニ因リ商情大ニ繁閙ニ赴キ、金融随テ急ヲ告ケ、八月中旬ニ至リ益甚シク、九月下旬ニ至テハ各地方ノ出穀愈多ク、其価格大略四五割ノ増進ニ及ヒ、諸物価モ亦之レニ準シテ騰貴スルト諸株式払込ノ期ニ届ル者多キトヲ以テ金融殆ント逼迫ニ至リシカ、十月中旬後ヨリ米価較々低下シ又生糸代金ノ入ル者莫大ナルカ故ニ資本ノ需用
- 第4巻 p.486 -ページ画像
モ自ラ緩弛シ、自後復タ変動ナク本季ヲ経過セリ
糸業ノ景況ヲ提略セハ本季ノ初ハ銷售不十分ナリシカ爾後取引大ニ開ケ、時トシテ一起一跌ナキニアラサレトモ要之間断ナク輸出スルヲ得タリ、今其統計ニ拠レハ則本季ノ持越高ハ千二百八十梱ニシテ入荷ノ数ハ六万四千七百三十八梱、此内銷售ノ数五万五千五百八十七梱ノ多キヲ為シ、其残留数ハ壱万四百三拾壱梱ナレハ実ニ十九年度以来未曾有ノ盛業ナリト云フヘシ
又公債証書ハ近来売買甚タ寂寥ニシテ価格ノ高低モ亦極メテ微秒《（妙）》ナルカ故ニ敢テ之レヲ記載スルノ用ナシ、但タ其異情ト云ヘキモノハ九月ノ末ニ於テ金融緊迫ノ為メ、整理公債ノ価格一時額面以内ニ退キタル一事ノミ
夫我邦ノ商業ハ常ニ米糸ノ豊歉ト其時価ノ高低ニ因テ盛衰シ、金融ノ変化モ毎ニ此ノ二物ニ原因セシカ、本季ノ如キハ其影響最モ著シキ者ト云ヘシ、且本季米価ノ騰貴ハ各地水害ニ原因スル所ナリシカ、其結果ニ至テハ却テ多少購買力ヲ誘導シ、之レニ加ルニ養蚕地ノ潤利浅少ナラサルカ故ニ諸物貨大ニ銷售シ、商業一般繁忙ヲ告ケ銀行ノ営業モ為メニ繁劇ヲ極メ、本行ノ如キハ幸ニ前季ニ超過スルノ実効アリ ○下略
第一国立銀行第三十五回株主総会要件録（DK040045k-0017）
第4巻 p.486-487 ページ画像
第一国立銀行第三十五回株主総会要件録
明治二十三年一月十九日例ニ依リ第三十五回株主総会ヲ東京日本橋区阪本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
○氏名略ス
以上百弐拾七名
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
渋沢栄一
○外百五十六名氏名略ス
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百七拾九名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、取締役須藤時一郎ハ頭取渋沢栄一病気ニ付本会ノ議長ヲ代理スル旨ヲ告ケ、引続キ前半季間事務ノ要件ヲ報告シ、且議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一当半季利益金参拾万弐千参百八拾九円弐拾参銭九厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万九千七百四円九銭ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金四拾参万弐千九拾参円参拾弐銭九厘ノ内ヨリ、明治廿二年下半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金弐万弐千五拾壱円八銭参厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金参万千参百円ヲ引去リ、残額金弐拾七万四千五百四拾弐円弐拾四銭六厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トシ、金五万円ヲ積立金トナシ、金拾弐万円ヲ旧株割賦金トシ（壱株ニ付金八円ノ割）金六万円ヲ新株割賦金トナシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額金弐万九千五百四拾弐円弐拾四銭六厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一当任頭取取締役ハ成規ニ照ラシ皆其任ヲ解キ、而シテ西村乕四郎氏
- 第4巻 p.487 -ページ画像
今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ従前ノ通リ渋沢栄一・西園寺公成・須藤時一郎・三井八郎次郎・三井源右衛門ノ五氏高点ヲ得テ各上任セリ
一取締役須藤時一郎ハ頭取ニ代リ本年上半季営業予算案ヲ示シ其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後四時下退散ス
明治廿三年一月十九日
議長代理 須藤時一郎