公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第4巻 p.487-498（DK040046k） ページ画像
明治23年7月（1890年）
是年経済界ハ稀有ノ恐慌ニ遭遇シ、爾後明治廿五六年ニ至ル迄不況期ヲ経過セリ。カヽル情勢ナルヲ以テ同行ガ曩ニ決定セル増資額ノ払込ヲ期スル能ハズ。是月一株ノ額面百円ヲ五拾円ニ改メ、払込資本金弐百弐拾五万円ヲ四万五千株ニ分チ、新旧両株共払込済ノモノトナス。他方、同行ノ営業モ此間著シク不振、純益金ノ如キモ二十三年上半季弐拾五万七千円ヨリ二十六年下半季拾六万参千円ニ逓減シ、配当率モ一割八分ヨリ一割二分ニ減ズ。栄一、恐慌克服ノ為メニ尽力スルト共ニ、頭取トシテ此間ニ於ケル同行ノ業務ヲ指導ス。
第一銀行五十年史[第一銀行五十年史稿] 巻四・第六頁―第一三頁（DK040046k-0001）
第4巻 p.487-489 ページ画像
第一銀行五十年史[第一銀行五十年史稿] 巻四・第六頁―第一三頁
明治二十三年の恐慌
明治十九年に回復の端を開ける商工業は、二十一二年の交繁栄の極に達したるが、此の如き企業熱の継続は巨額の資本を固定せしめたるのみならず、二十二年度における農産物の凶作と銀塊の騰貴とは、相待ちて我貿易上に障害を与へ、輸入の超過正貨の流出となり財界の平調を攪乱せしかば、玆に前年の反動を生じて所謂二十三年の恐慌時代を現出せり、かくて幾多の泡沫会社は相次で破産し、確実なる会社も其波動を受けて株券の下落を招き、金融ますます逼迫するに至れるは、亦已むを得ざる次第なり、されば如何にして金融の逼迫を救済し、産業の沈衰を拒ぐべきかに関し、世上の議論囂々たりし時、本行の頭取渋沢栄一は急激なる救済手段は却て危険を伴ふものなれば、力めて之を避けざる可からずとて、熱心に同業者間に遊説し、遂に東京同盟銀行の意見として「今日の救済策は姑息且急激の手段を避け、其根本に着目して施設すること肝要なるが故に、日本銀行は我同盟銀行に対する取引を増進すると共に、取引上の制限は日本銀行にて之を定め、同盟銀行は各自日本銀行に対する取引の限額に応じて担保品を納め、其取引金額を以て実際の運用に力を致し、若しなほ余裕ある時には之を日本銀行への預金として、其出納は当座貸借の手続に従ひ、小切手を使用して受払を為すべく、又其担保品の種類は九州山陽等の緒鉄道株券を充用せんことを日本銀行に請求する」の議を定め将に実行する所
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あらんとす。
見返担保品制度の創始と本行の周旋
時に大蔵大臣松方正義は日本銀行総裁川田小一郎と共に大阪にあり、同地の同盟銀行は松方等に説くに、各国立銀行諸鉄道会社など日本銀行において確実と認むるものは、其株券を抵当として日本銀行より貸出を許すか、或は大阪同盟銀行の連帯責任を以て、低利に五百万円を日本銀行より貸与するか、其一を択びて時局を収拾せんことを以てせり、されど政府が之に応ずること困難なる事情ありたれば、東京同盟銀行中の有力者を招きて熟談を遂げんとて、遥かに其下阪を促したり。是において本行の頭取は安田善次郎等と共に東京同盟銀行の総代となりて大阪に赴き、同地の同盟銀行と会同協議の結果、遂に東京同盟銀行の意見に従ふことゝなり、其担保品は日本鉄道会社以下十会社の株券と定めて、要求書を日本銀行総裁に呈出せり、政府即ち兌換銀行条例第二条を改正して、保証準備制限額を八千五百万円に拡張し、日本・九州・山陽以下十一鉄道会社・日本郵船会社・東京海上保険会社等合せて十五種の株券を担保として手形割引の途を開き、所謂日銀見返品の制度を創始せり。
本行の株式額面の変更
見返品制度の創始によりて一時金融界を緩和したれどもなほ大勢を挽回すること能はず、よりて本行は曩に行へる倍額増資の他の半額を三年以内を期して払込ましむることに定めたれども、今や財界の不況なる到底払込を望むべからざるがゆゑに、明治二十三年七月に至り株式一株の額面一百円なりしを五十円に改め、払込資本金二百二十五万円をば四万五千株に分ち新旧両株共皆同一に払込済のものとなしたり、
本行に対する中傷
かくて不景気は翌二十四年に至りても尚改まらず、私立久次米銀行の休業に次で東京米商会所事件の破裂あり、其波動は国立銀行にも及び福島第六・名古屋第四十六・八戸第百五十の三行は休業又は営業停止を為すなど物情静かならず、かゝる折しも世上流言を放ちて本行は営業上容易ならざる陥欠《（マヽ）》を生ぜしかば其秘密を保たんが為に黄白を散じて新聞社を籠絡せんとしたれども意の如くならず、頻りに苦悶せりといふものあり、此説民権新聞に掲載せられてより、報知・日本等の新聞ほゞ同様の記事を載せたるが、更に之を誇張して今にも破産するが如き記事を印刷して各商店資本家等に配附せる狡児さへありたれば、さなきだに財界の恐慌に疑懼の念を抱ける世人等いたく驚き、一犬虚に吠えて万犬実を伝へ、遂に一時取付の奇厄に遭遇するに至れり、然れども元より事実にあらず、金融界を攪乱して何事をか為さんと企てたる者の奸策なりしかば、斯ることによりて多年の借用を損傷すべきにあらず、疑雲いつしか散じて信用却りて厚し。
景気回復の気運
此時に当り銀価の下落は輸出貿易の盛大となりて正貨の流入を促したると米作の豊饒生糸の騰貴とによりて金融も自ら緩和せられ、商業の沈衰は二十五年を極度として翌二十六年以降は気運回転の機に向ひ、曩に放資せる鉄道紡績等企業の収益も大に挙りしかば、本行の如きは
- 第4巻 p.489 -ページ画像
一時預金の多きに苦しむの有様なりき、従つて公債株券の市価再び上騰して各種の事業に放資するもの漸く多く、銀行界一般に好況を呈したるに、二十七年に至り清国との国交破れて宣戦の詔勅発布せらるゝに及び、警戒相踵ぎ、事業は概ね中止せられ金融頓に壅塞を来せり、
本行営業の困難
経済界の推移此の如くなるが故に、久しく一割八分の配当率を持続せる本行も大勢に抗し難く、二十一年には一割六分、二十四年には一割四分となり、二十五年下半季よりは更に一割二分となすの已むを得ざるに至り、其純益金も二十六年の下半季には十六万三千余円に逓下せり、思ふに配当率の減少は前年増資の結果なるべしといへども、金融界の不況が重なる原因を為したるや明なり、当時営業の困難推察に余りありといふべし。
明治23―26年営業成績表 年 季 払込資本金 積立金 銀行券流通高 貸出金 預金 有価証券 金銀 経費 純益金 二三 上 一、五〇〇、〇〇〇 九五〇、〇〇〇 九九三、七九一 七、四四二、四九五 五、四九八、六六三 二、〇七二、二六三 一、五九七、三七八 七四、七一五 二七四、四八八 二三 下 二、二五〇、〇〇〇 一、六〇〇、〇〇〇 九七六、二九四 七、六〇一、〇九七 五、三六四、三二三 二、〇六七、四八五 一、六八五、八九一 七三、一二五 二四六、四八四 二四 上 〃 一、六二五、〇〇〇 九五八、七〇〇 七、一七四、六二七 五、七三七、二〇二 二、〇七二、四六三 一、九四六、五八七 六八、五六二 二二七、一一六 二四 下 〃 一、六三五、〇〇〇 九四〇、七七五 七、四〇二、〇二六 五、二九七、三六三 一、九五〇、四〇九 一、四一七、二九八 七二、〇八二 二二三、八五二 二五 上 〃 一、六五〇、〇〇〇 九二一、九一四 七、六四七、七四四 六、二三七、一〇一 一、九一〇、五六〇 一、七四四、三六六 六二、四四四 一八八、〇一三 二五 下 〃 一、六五〇、〇〇〇 九〇四、〇一二 八、一〇一、九六三 七、四八九、五七六 二、四〇四、〇九二 二、一二二、一四二 六五、六五〇 二二九、七八一 二六 上 〃 一、六五〇、〇〇〇 八八四、三七五 八、四二九、六九二 七、八五〇、一二三 二、二九〇、四五九 二、五二〇、七三六 六〇、二一〇 一六九、五八四 二六 下 〃 一、六五〇、〇〇〇 八六一、七三五 九、二五一、一三一 六、八七四、三一三 二、二七二、二二五 一、六〇一、三九五 六九、七九五 一六三、三四三
第一国立銀行半季実際考課状 第三四回〔明治二三年上期〕（DK040046k-0002）
第4巻 p.489-490 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三四回〔明治二三年上期〕
○本支店営業景況ノ事
爰ニ第三十四回決算報告ニ当リ、例ニ依リ本季間都鄙商情金融ノ概要ヲ叙シ以テ本行各店営業ノ消長ヲ査考スルノ便ニ供ス
本季ノ初ハ前季ニ引続キ商情一般振ハサレトモ米価ノ漸貴ニ随ヒ金融ハ次第ニ繁忙ヲ告ケ、二月ニ至リ米価又踴躍シ、各地方多ク出穀ヲ為シ、加フルニ納税期ニ迫ルヲ以テ金融一層緊急ニ赴キシカ、三月中旬ヨリ少シク引緩ミ、爾後米価ノ小高低ヲ為シ其気勢ノ変遷アルニモ関セス漸次緩弛ニ赴キタリ、六月ニ至リ米穀已ニ余数ナキヲ以テ大ニ強勢ヲ持チシカ、実際巨額ノ取引ナキト一般ノ商情益沈淪シタルカ故ニ金融ハ却テ甚シキ必迫ヲ告クルニ至ラサリシ
糸業ノ景況モ前季ニ引続キ一月中ハ巨数ノ売込アリ、二月モ亦相応ノ取引アリシカ、其月末ヨリ市情較衰退シ曾テ活溌ノ取引ナシ、六月中旬ニ及ヒ欧洲養蚕不十分ナリトノ報アリシヨリ自来大ニ活気ヲ生シ糸価モ随テ騰貴セリ、而シテ本季間ノ総計ハ売込額壱万七千参百余個ニ
- 第4巻 p.490 -ページ画像
シテ、昨年ノ上季ニ比シ三千七百余個ヲ増シ、其残留高ハ新古合セテ二千七百余個ナリ、此結果ヲ以テ見レハ本季ノ糸業ハ蓋昨年下季ノ盛業ニ亜キ且平年上季ノ商況ヨリモ優リタル者ト謂フヘシ
公債証書ハ前季ノ末ヨリ本季ノ初ニ渉リ価格漸次高進シ、爾後一時小蹶セシカ全勢進価ノ一方ニ向ヒ遂ニ本季ノ末ニ至テハ殆ント旧価ノ高点ニ将近セリ
我邦商業ノ消長ハ常ニ米糸二業ノ如何ニ原因セサルナクシテ殊ニ米価ノ高低ハ影響尤著シキカ為メニ、前季米価ノ一躍ハ久シク沈鬱シタル商業ヲ振起セシメタリト雖、其実米穀欠乏ヲ告クルノ先駆タリシヲ以テ、本季ニ入リ米価日ニ騰ルニ随ヒ殆ント凶饉ノ状ヲ為シ、一旦起色アリシ商業モ次第ニ退縮シ、遂ニ諸工業会社ノ困難ニ及ヒ、其株券ノ価格甚シク低落スルニヨリ終ニ一般ノ金融ヲ否塞セシメ、三四月ノ頃ニ於テハ市面全ク活気ナク、商工業共ニ相率ヒテ苦境ニ沈淪スルノ状アルヲ以テ、各地銀行営業者ノ間ニハ之レカ救済ノ方法ヲ講究スル等ノコトアリシカ、五六月ニ至リテ金融漸次緩弛ニ赴キ敢テ甚シキ変動ヲ見ルニ至ラサリシ、此際銀行ノ営業ハ概シテ繁閙ヲ極メ大ニ融通ニ苦シミタル者アリト雖、本行ノ如キ務メテ融通ノ便ヲ計リ資本ノ運転細大意ヲ致シ、孜々経営シタルヲ以テ玆ニ決算ニ至リ本支店ヲ通シテ前季ニ伯仲スルノ結果ヲ得タリ ○下略
第一国立銀行第三十六回株主総会要件録（DK040046k-0003）
第4巻 p.490-491 ページ画像
第一国立銀行第三十六回株主総会要件録
明治廿三年七月二十日例ニ依リ第三十六回株主総会ヲ東京日本橋区坂本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百四十四名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百四拾三名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上百九十九名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間営業ノ景況及事務ノ要件ヲ報告シ、次ニ利益金配当其外議事ヲ決定スルコト左ノ如シ
一当半季利益金弐拾九万五千拾九円弐拾六銭参厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万九千五百四拾弐円弐拾四銭六厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金四拾弐万四千五百六拾壱円五拾銭九厘ノ内ヨリ、明治廿三年上半季銀行税四千弐百円、滞貸消却金壱万六千参百参拾円七拾六銭六厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金参万千百円ヲ引去リ残額金弐拾七万弐千九百参拾円七拾四銭参厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トシ、金五万円ヲ積立金トナシ、金拾弐万円ヲ旧株割賦金トシ（壱株ニ付金八円ノ割）金六万円ヲ新株割賦金トナシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額金弐万七千九百参拾円七拾参銭参厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ
- 第4巻 p.491 -ページ画像
一同異議ナキ旨ヲ表シ、原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、及当半季利益金ト予算額トノ比較表諸入費決算ト予算トノ比較表、本年下半季営業予算表等ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
一次ニ臨時総会ヲ開キ議案ヲ衆議ニ付セシニ一同異議ナク原案ニ決定セリ
臨時総会議案
第一 当銀行資本金額ヲ弐百弐拾五万円ト定ムル事
説明
当銀行ノ資本金ハ百五拾万円ナリシ処、明治二十年四月臨時総会ニ於テ更ニ資本金百五拾万円ヲ増募スルコトニ議決シ、其半額ハ同年九月迄ニ払込ヲ了シ、其残額金七拾五万円ト割増金六拾万円ハ三ケ年間ニ払込マシムルノ予定ナリシニ、爾後其時機ナク今日ニ至リ、已ニ其期限モ経過セシニヨリ此際其払込ヲ了スヘキ筈ナレトモ、目下金融逼迫ノ際ニ付之レヲ数年間ニ分割シテ払込マシメントスルモ大蔵省ニ於テ認可セラレサルカ故ニ、止ムヲ得ス旧株金百五拾万円ニ増株ノ現払込高金七拾五万円ヲ加ヘ、資本金総額ヲ金弐百弐拾五万円ニ改定シ、大蔵省ノ認可ヲ得ントス
第二 当銀行株式壱株ノ金額ヲ五拾円ニ改正スル事
説明
前項ノ如ク資本金ヲ改定シタルガ故ニ増株ノ仮券状ハ本券状ト交換セサルヘカラス、而シテ株式ノ金額モ亦同一ニ改メサルベカラス、故ニ株式壱株ノ金額ヲ五拾円ニ改定シ、日ヲ定メテ旧来ノ新旧株券ヲ新株券ト交換セントス
右議事畢リ午後五時下退散ス
明治廿三年七月廿日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第三五回 〔明治二三年下期〕（DK040046k-0004）
第4巻 p.491-492 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三五回 〔明治二三年下期〕
○本支店営業景況ノ事
玆ニ第三十五回ノ決算ニ当リ例ニ従ヒ都鄙商業ノ総情ヲ提記シ、以テ各店営業ノ景況ヲ考フルノ便ニ供セント欲ス
本季ハ我商業ノ枢軸タル米穀ハ幸ニ豊饒ヲ占メタリト雖トモ、新穀上市ノ期晩ク、且其価格漸次低落セシ為メニ出穀ノ数モ甚タ多カラスシテ市場ノ売買活溌ナラス、又生糸ハ前季ノ末ヨリ售路次第ニ杜塞シ、八九月ノ交マテハ毎月弐千余梱ノ輸出ニ過キス、九十月ノ交ヨリ其数稍増加セシカ歳尾輸出ノ総計ハ弐万四千余梱ニ止マリ、昨年下季ノ盛況ニ比スレハ蓋其半数ニ及ハスシテ且弐万八千余梱ノ巨額ヲ残留セリ米糸ノ二業此ノ如クナルヲ以テ地方一般ノ購買力依然薄弱ニシテ市情鬱トシテ開ケサリシ、臘尾ニ近ツキテ聊カ生意ヲ生シ綿糸織物類其他普通必需ノ物貨少シク運動スルヲ得タリ
公債証書ノ価格ハ本季ノ初ヨリ九月頃マテハ漸次小進セシカ、爾後復タ徐々低価ニ回リ、遂ニ季初ノ価位ヨリモ下点ニ達シタリ
以上述フル如キ商情ナリシカ故ニ金融ハ概シテ前季ノ末ヨリ引続キ沈
- 第4巻 p.492 -ページ画像
静ナリ、然レトモ敢テ之ヲ区別スレハ則季初ハ緩慢ニシテ、季中ハ少シク緊急ノ気味ヲ為シ、後又少シク緩ミタリト謂フヲ得ヘシ
当銀行ノ各支店ハ東西諸地方ニ設在シ、商業地ニ在ルモノ有リ生産地ニ在ル者アリ消費地ニ在ル者アリテ各地商情ノ模様多少異同ナキニアラス、随テ其収益モ亦厚薄アリト雖本支店合一ノ利益ハ幸ニ予算ヨリモ超過スルヲ得タリ、因テ各店ノ景況ヲ略叙スルコト左ノ如シ ○下略
第一国立銀行第三十七回株主総会要件録（DK040046k-0005）
第4巻 p.492-493 ページ画像
第一国立銀行第三十七回株主総会要件録
明治廿四年一月十八日例ニ依リ第三十七回株主総会ヲ東京日本橋区坂本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百十五名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百七十四名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上弐百拾三名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間営業ノ景況及事務ノ要件ヲ報告シ、次ニ利益金配当其外議事ヲ決定スルコト左ノ如シ
一当半季利益金弐拾六万弐千弐百四拾五円六拾三銭三厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万七千九百三拾円七拾三銭三厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金三拾九万百七拾六円三拾六銭六厘ノ内ヨリ、明治廿三年下半季銀行税金四千弐百円、滞貸消却金壱万千五百六拾円八拾七銭壱厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金弐万七千八百円ヲ引去リ、残額金弐拾四万六千六百拾五円四拾九銭五厘ヲ純益金トナシ此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トシ、金弐万五千円ヲ積立金トナシ、金拾八万円ヲ割賦金トシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額金弐万六千六百拾五円四拾九銭五厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ、原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書価格表、及当半季利益金ト予算額トノ比較表諸入費決算ト予算トノ比較表等ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
一次ニ臨時総会ヲ開キ議案ヲ衆議ニ付セシニ一同異議ナク原案ニ決定セリ
臨時総会議案
第一 定款第七条中三拾株以上トアルヲ六拾株以上ト更正スル事
説明
従来当銀行ノ株式壱株ハ金百円ナリシカ故ニ取締役ノ被撰資格ヲ三拾株以上ト定メタリ、然ルニ廿三年七月ノ臨時総会ニ於テ壱株ヲ金五拾円ト政定シタルヲ以テ、銀行条例ニ準拠シ更ニ六拾株以上ト改正セントス
第二 社印ヲ方一寸一分ニ改正スル事
従来当銀行ニ於テ使用セル社印ハ其形大ニシテ押用ノ際不便少ナ
- 第4巻 p.493 -ページ画像
カラサルニ付、更ニ方壱寸壱分ニ改正セントス
一当任頭取取締役ハ成規ニ照ラシ、皆其任ヲ解キ、而シテ今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ、従前ノ通リ《（マヽ）》高点ヲ得ルニ因リ各承諾シテ上任セリ
一上任ノ頭取渋沢栄一ハ本年上半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後五時退散ス
明治廿四年一月十八日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第三六回 〔明治二四年上期〕（DK040046k-0006）
第4巻 p.493 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第三六回 〔明治二四年上期〕
○本支店営業景況之事
玆ニ第三十六回ノ決算ニ当リ例ニ依リ都鄙商情ノ概要ヲ提シ以テ各店営業ノ事情ヲ査考スルノ便ニ供セント欲ス
本季ノ商情ハ前季引続キ沈静ナリシカ二三月ノ交及五六月ノ交ニ於テ一時東京大阪トモ綿糸綿織物類大ニ銷售シ、各地ニ於テモ商業地ハ此際亦多少起色アリシカ、要之昨年米穀豊饒ノ結果ハ未タ十分購買力ヲ生スルニ至ラサル者ノ如シ、又生糸ノ業ハ前季ノ残留幾ント参万梱ヲ擁セシカ、本季ニ入リ外国為替ノ低下シタル為メ幸ニ毎月多少銷售シテ大略四万梱ヲ輸出シ、昨年ノ前季ニ比シ一倍余ノ増加ヲ得、其残留僅ニ参千余梱ニ減シタレトモ、前季以来糸業者皆疲弊ヲ被ムリ本季銷售ノ結果ハ亦以テ購買力ヲ喚催スルニ足ラサルカ如シ
商情此ノ如キヲ以テ金融モ亦之ニ準シテ始終緩慢ナリシカ、敢テ之ヲ大別スレハ則季初ハ緩弛ニシテ二三月ノ交稍緊急ヲ告ケ、爾後一着緩慢境裡ニ徜徉シテ本季ヲ経過セリ、故ヲ以テ公債証書ノ如キハ少シク気勢ヲ持シ価格徐々漸進シタルノ跡アリ
本季銀行ノ営業ハ概シテ前ニ叙スル所ノ情態ナリシヲ以テ本行各支店営業モ亦概シテ十分ノ運用ヲ為スニ至ラス、而シテ其結果ハ各店優劣アルモ之ヲ通計スレハ則前季ニ及ハサル者トス ○下略
第一国立銀行第三十八回株主総会要件録（DK040046k-0007）
第4巻 p.493-494 ページ画像
第一国立銀行第三十八回株主総会要件録
明治廿四年七月十九日例ニ依リ第三十八回株主総会ヲ東京日本橋区坂本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百六十一名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上百三十三名
又他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク欠席スル者
○氏名略ス
以上弐百四十七名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ前半季間営業ノ景況及事務ノ要件ヲ報告シ、次ニ利益金配当ノ事ヲ決定セリ、其大要左ノ如シ
一当半季利益金弐拾四万弐百参拾参円参拾弐銭四厘ニ、前半季ヨリ繰
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越タル金弐万六千六百拾五円四拾九銭五厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金参拾六万六千八百四拾八円八拾壱銭九厘ノ内ヨリ、明治廿四年上半季銀行税金四千弐百円、滞貸消却金八千九百拾六円七拾九銭八厘、滞貸準備金拾万円、緒役員賞与金弐万五千五百円ヲ引去リ、残額金弐拾弐万八千弐百参拾弐円弐銭壱厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金壱万五千円ヲ紙幣消却元資積立金トシ、金壱万円ヲ積立金トナシ、金拾八万円ヲ割賦金トシ（壱株ニ付金四円ノ割）其残額金弐万参千弐百参拾弐円弐銭壱厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、一同異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有諸公債証書ノ価格及当半季利益金ト諸入費トノ予算決算ノ比較表ヲ示セリ
爰ニ本年下半季ノ営業予算ヲ報告スルニ当リ株主諸君ニ一言セントス諸君ノ已ニ知ラルヽ如ク本月一日以降東京府下二三ノ新聞紙ハ本行ニ関スル虚報浮説ヲ掲ケテ大ニ本行ノ信用ヲ害セントセリ、然レトモ株主諸君ハ当任者ヲ信セラルヽノ厚キヲ以テ敢テ此妄説ニ迷誤セラレズ又全般ノ得意先ニ於テモ之レニ迷ハサルヽモノ少キニ依リ、本行ハ其損害ヲ蒙ル事極メテ少ナカリシハ実ニ不幸中ノ幸ト云フベシ、然レトモ当任者ノ此際ニ於テ本年下半季ノ営業予算ヲ立案スルニハ大ニ警戒ヲ加ヘ、勉テ退守ノ方針ヲ取リ、益々業務ノ堅固ヲ謀ラサルヘカラス故ニ今此予算ニ拠リテ推測スルトキハ後季ノ利益ハ幾分ヲ減少センモ知ルヘカラス、是レ当任者カ今日予メ株主諸君ノ領諾ヲ請フ所以ナリ然リト云トモ当任者ハ只退守ニ安ンセス向後益々奮励刻苦シテ其業ニ従事シ、株主諸君モ亦之レヲ補翼スル所アラバ、今日ノ談ハ当任者ノ杞憂ニ止リ、将来株主諸君ト共ニ満足ノ結果ヲ見ルヲ得ベシ
一次ニ本年下半季営業予算表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
右議事畢リ午後五時退散ス
明治廿四年七月十九日
議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 ○第三七回 〔明治二四年下期〕（DK040046k-0008）
第4巻 p.494-495 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状
○第三七回 〔明治二四年下期〕
本支店営業景況之事
玆ニ第三十七回ノ決算ヲ報スルニ及ヒ例ニ依リ都鄙商情金融ノ概況ヲ叙シ以テ本支店営業ノ消長ヲ参考スルノ便ニ供セント欲ス
本季ノ商情都鄙通シテ之ヲ平穏ナリト概言スルヲ得ヘシ、然レトモ其間固ヨリ繁閑ナキニアラサルヲ以テ、試ニ之ヲ大別スレハ、蓋本季ノ前一半ハ稍起色アリテ後一半ハ較々退落シ、歳尾ニ近クニ及ンテ復少シク活気ヲ生シタルカ如シ、而シテ濃尾震災ノ如キハ一時当局ノ諸産業ヲ廃没シ、其工作商業トモ未タ以テ全然回復ニ至ラスト雖トモ、是カ為メ局外ノ商工業ヲシテ其不足スル処ニ供給セシメタルノ跡アリ
生糸ハ本年豊成ナリシ而已ナラス、其産出モ亦非常ニ増加セシカ為メニ、本季ノ初ニ当テハ其輸出却テ不十分ノ感アリシカ、爾後漸次售出ノ数ヲ増シ、殊ニ十一月以後ハ尤盛況ナリシヲ以テ、本季輸出ノ通計ハ則五万六千九百余個ノ多キニ至レリ、然レトモ其産出ノ多キカ為メ
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ニ歳尾尚弐万八千余個ノ残留アルヲ見タリ
内外ノ商情此ノ如クナルヲ以テ金融モ亦一緩一急其情同シカラサリシカ、要スルニ生糸代金ノ収入巨大ナリシト本季ノ初ヨリ冬初ノ候ニ至ルマテ米価ノ平穏ナリシカ故ニ、通シテ緩慢ノ境ニ徜徉シ、歳尾ニ近ツクニ及テ或ハ少シク引締リタルモノアリシ
公債証書ハ本季間常ニ小高下アリシカ、歳尾ニ至リ季初ノ価格ヲ顧ミレハ、乃チ僅ニ昇リタルヲ見ルヘクシテ其市場ノ景況ハ繁ナラス閑ナラズ、概シテ平静ト云フヲ得ヘシ
以上述フル処ノ景情ハ即当銀行営業ノ淵海タリ藪沢タルヲ以テ幸ニ応分ノ収獲アリテ本支店利益ノ合計ハ予算及ヒ前期ニ比シテ皆少シク超過セリ、因テ各店ノ情態ヲ略叙スルコト左ノ如シ ○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第三八回 〔明治二五年上期〕（DK040046k-0009）
第4巻 p.495-496 ページ画像
○第三八回 〔明治二五年上期〕
株主総会決議ノ事
一明治廿五年一月十七日、本行第三十九回株主総会ヲ日本橋区坂本町銀行集会所ニ開キ、当任ノ頭取取締役ヨリ前半季間庶務諸勘定ノ要領ヲ報告シ、及同季積立金割賦金ノ計算ヲ決議セリ
一右ノ決議ニ因リ本季紙幣消却元資積立金壱万五千円及積立金壱万五千円ヲ設ケ同割賦金ハ百円ニ付金七円、即チ年壱割四分ノ配当ヲ行ヒ而シテ金弐万七千四百八拾四円参拾八銭七厘ヲ後季ニ繰込ミタリ次ニ当任頭取取締役ハ成規ニ遵ヒ、其任ヲ解キ、更ニ投票撰挙ヲ以テ皆重任セリ ○下略
本支店営業景況ノ事
玆ニ第三十八回ノ決算ヲ報スルニ当リ例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ述ヘ本支店営業ノ事情ヲ知ルノ便ニ供セント欲ス
本季ハ米穀ノ変動紡績糸ノ盛售生糸残留数ノ多カラサル等、皆以テ商業ノ大原因ヲ為シ、而シテ都鄙一般ノ景状ハ則前季引続キ本季ノ初ヨリ四五月ノ交マテ概シテ沈静ニ傾キ、五六月ノ交稍起色有リ、金融ハ季初ニ当リ、東京・大坂繁閑稍反スルノ跡アリシカ、自後ハ高低相背カスシテ、東京割引日歩平均ノ如キハ平年ヨリ尚一層低下ニシテ、季末ニ至リ還タ少シク低下セリ、各地方モ概シテ両地ニ準シテ高低シ、独名古屋ハ始終低利ナリシカ如シ、今之ヲ約言シテ商情平静金融閑慢ト為スハ甚タ其実ヲ失ハサル者ト云ヘシ
生糸輸出ノ盛衰ハ毎ニ商情金融ニ大関係アルヲ以テ特ニ其要ヲ提スレハ、則一月ノ輸出高ハ七千八百余梱ノ多数ナリシカ自後月ニ其数ヲ減シ、総計参万千四百四拾六梱ニシテ残留参千弐百余梱ナリ、之ヲ前年上季ニ比セハ輸出高ハ大略四分ノ一ヲ減シ、残留高ハ大差無キカ如シ公債証書ハ季初ニ於テハ概略前月ト同価格ナリシカ、二月末ヨリ徐々小進シ、五六月ノ交低下ニ向ヒタルハ其利息ノ有無ニ関係シタル固ヨリ論ヲ俟タスト雖、其進点期ノ較々早キヲ以テ之ヲ看レハ、蓋幾分諸株券ノ景況ニ相伴ヒタル者ト云ヲ得ヘシ
本季銀行ノ営業ハ前ニ叙スル処ノ商情金融ノ間ニ在テ経営セシヲ以テ多少前季ニ遜ラサルヘカラス、殊ニ本行ノ支店ハ米産地及糸業地ニ在ル者多ク其影響著ルシキカ故ニ、本支店相声応シテ挙措機ヲ失ハス施為皆宜シキヲ得ルト雖、通計純益ニ至テ前季ヨリ減少セシハ実ニ免ル
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ヘカラサル所ナリ ○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第三九回 〔明治二五年下期〕（DK040046k-0010）
第4巻 p.496 ページ画像
○第三九回 〔明治二五年下期〕
株主総会決議ノ事
一明治廿五年七月十七日本行第四十回株主総会ヲ日本橋区阪本町銀行集会所ニ開キ、当任ノ頭取取締役ヨリ前半季間庶務諸勘定ノ要領ヲ報告シ、及同季積立金割賦金ノ計算ヲ決議セリ
一右ノ決議ニ因リ本季紙幣消却元資積立金壱万五千円ヲ設ケ、同割賦金ハ百円ニ付金七円即チ年壱割四分ノ配当ヲ行ヒ、而シテ金弐万四百参拾七円五拾七銭九厘ヲ後季ニ繰込ミタリ
本支店営業景況之事
玆ニ第三十九回ノ決算ヲ報スルニ当リ例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ事情ヲ知悉スルノ便ニ供セムト欲ス
夫レ商業ノ動静金融ノ緩急ハ都鄙固ヨリ同一ナラス、又生産地消費地等各其趣ヲ殊ニシ、加之時ニ或ハ静中動アリ緩中急アルヲ以テ敢テ俄ニ概言スル易カラストイヘトモ、玆ニ其実際ヲ詳査シ其情態ヲ分別シ斟酌折衷其要領ヲ挙ク、庶幾クハ以テ大差ナカルヘシ、蓋東京ノ商況ハ九月ヲ最盛ト為シ七月八月之ニ次キ十月ニ至リ農家繁忙ノ為メ銷售較々減シタレトモ、元来各地ノ農家ニ購売力《（マヽ）》ヲ有スルカ故ニ物価常ニ低下セス、綿糸ノ如キハ臘尾ニ至リ更ニ高価ヲ告ケ銷售随テ盛ナリシ而シテ各地方ニ於テハ七月ニ動静相半シ、八月ノ織物産地ノ如キ頗ル起色アルヲ以テ、強半好景気ト称スヘク、九月モ同情ニシテ十月ハ動静相半シ、十一月十二月ハ較々沈静ナルカ如シ、而シテ金融ハ商情ノ動静ニ随ヒ聊緩急アリシト雖、要スルニ閑漫過溢ニシテ利息割引日歩トモニ低下ノ一方ニ傾キ、剰ヘ常ニ資金ヲ閑却セシムルコト多シ
生糸ノ銷售ハ九月ヲ最盛トシ、八月之ニ次キ、十二月又之ニ次キ、七月・十月・十一月ハ其数各半額ニ及ハサレトモ、本季間輸出通計ニ至リテハ、五万六千五百七十八個ノ巨額ヲ見ル、然レトモ是ヲ廿四年下季ノ輸出ニ比スレハ、其高少シ減少シ、而シテ残留ノ荷物モ亦同季ニ比シ殆半数ノ少キヲ見レハ、其産出減少シテ銷售却テ盛ナリシヲ徴スヘシ
公債証書類ハ金禄起業ノ両種ニ巨額ノ償却アリテ、一方ニハ市公債ノ発行アリシト雖モ、其価格ハ別ニ変動ノ跡ヲ見ス、八九月ノ交価格少シク進ミ、七月初旬及九十月ノ交稍低価ニ居リ、其他ハ大同小異ニシテ其売買ハ整理其外一二種ニ止マリ、取引甚タ寂寥ナリシ
商業ノ総情既ニ此ノ如ク銀行ノ営業モ之ニ随テ消長シ、而シテ其商業地生産地ニ於ケル者ハ稍良結果アリト雖、近来金融ノ大勢頻リニ緩慢ニ流レ、利息常ニ低下ニ傾クノ情態ナルヲ以テ、運用甚タ意ノ如クナラザルノ憾アリシ、然ルニ本行ハ二三支店ヲ除クノ外営業皆幸ニ前季ヨリ超越スルノ成績アリ ○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第四〇回 〔明治二六年上期〕（DK040046k-0011）
第4巻 p.496-497 ページ画像
○第四〇回 〔明治二六年上期〕
本支店営業景況之事
玆ニ第四十回ノ決算ヲ報スルニ当リ例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ事情ヲ推知スルノ便ニ供セムト欲ス
本季間全国商業ノ総情ハ諸種ノ報道ニ拠リテ之ヲ徴スルニ蓋甚シキ変
- 第4巻 p.497 -ページ画像
化無キカ如シ、然レトモ其間常ニ小波瀾ヲ生シ、或ハ活溌起色アリ或ハ沈静淪伏シテ其遷移一様ナラサリシ、然而シテ東京横浜ハ貿遷ノ枢区聚散ノ総府ナルヲ以テ爰ニ両地貿遷ノ巨大ナル者数項ヲ挙ケ其情態ヲ略叙ス、庶幾クハ全国ノ大情ニ於テ大差ナキヲ得ヘシ、則東京ノ米穀ハ出入時ニ増減アレトモ大勢需用多キヲ以テ価格ハ一月已降徐々登進シ、中間微シク倦色アリシノミ、呉服太物及内外綿糸類ハ售路屡々開塞シ、一躍一潜其価格モ時ニ少シク高低シ、就中綿糸ノ如キハ浮沈昂低当業者ヲシテ方向ヲ定ムル能ハサラシムルノ観アリシ
公債証書ハ実際ノ売買ハ甚タ少数ニシテ、其種類モ常ニ二三ニ止マレトモ価格ハ逐月騰進シテ未タ底止スル処ヲ知ラス
横浜ニ於ル生糸ノ商業ハ昨年ニ比シ産出ノ減スルト且前季盛ニ銷售セシ後ナルヲ以テ毎月ノ輸出漸次減少セシカ、六月ニ至リ新糸既ニ市ニ上ルヲ以テ前月ニ比シ稍増加スルヲ見タリ、而シテ其総計ハ一万九千六百八十五個ニシテ昨年上季ヨリ減スルコト壱万千七百六十一個其残留荷物モ随テ八百四十個ノ少数タリ
他ノ諸地方ニ至テハ其生産地聚散地ノ大小形勢ニ因リ素ヨリ異同アリト雖、要之大阪ハ常ニ東京ト相牽引シテ互ニ変遷ヲ促シ、他ハ皆東京大阪横浜等ニ従テ消長セシニ外ナラス、尚一言以テ之ヲ約評セハ多静少動ノ時期ト言フヘキ耳
金融ノ繁閑ハ常ニ商業ノ消長ニ相伴ヒテ恰モ主客タルカ如シ、然ルニ近来輸出超過公債償還等ノ諸因ヲ以テ大ニ其権衡ヲ失シ、商業ノ繁閑ト甚タ密着セサルノ観ヲ呈セリ、故ニ商業ノ景情ハ前章叙スル如ク波瀾アリ抑揚アリシカ東京横浜諸銀行ノ預金ハ一月以来増加ノ一方ニ偏シ、其供給即貸附割引等ハ総テ減額ノ一方ニ傾キ、其間四月ノ統計ニ於テ纔ニ預金額ニ減シテ貸出ノ種類ニ増シタルヲ見ルノミ、各地方ノ実況ニ至テモ其商業ト金融トノ対比ヲ失シ、即商業ハ之ヲ平静ト形容スルモ金融ハ益緩慢ナリト称シ、或ハ商業起色アリ金融ハ依然緩慢ナリト記スカ如キヲ以テ之ヲ看レハ到処貨幣ノ汎溢ヲ証スルニ足レリ
商業金融此ノ如キヲ以テ銀行ニ収ムル所ノ利息ハ益低度ニ達スルト雖仕払フ所即期限有ル預金利息ノ如キハ俄ニ其率ヲ同フスヘカラサルヲ以テ出入其平ヲ得ス、銀行営業ノ困難未タ此時ヨリ甚シキ者アラス、是ヲ以テ当銀行本支店ハ資本供給ノ途ニ於テ孜々汲々精細経理セシモ功労竟ニ相償ハスシテ純益総額ニ至リ、前季ニ比シ百分ノ二十二ヲ減少セリ、因テ各店情態ノ要点ヲ略叙スルコト左ノ如シ
○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第四一回 〔明治二六年下期〕（DK040046k-0012）
第4巻 p.497-498 ページ画像
○第四一回 〔明治二六年下期〕
本支店営業景況之事
玆ニ第四十一回ノ決算ヲ報スルニ当リ例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ事情ヲ推知スルノ便ニ供セント欲ス、本季ハ全国秋穫豊饒ニシテ而シテ米価徐々騰貴セシカ為メニ農家ノ出穀適度ヲ得テ市場概シテ好景気ヲ呈シ、生糸ノ産出モ亦饒多ニシテ其輸出ハ季初甚タ渋滞セシカ、爾後銷售次第ニ増加シ、遂ニ十一月ニ至リ商情頗ル活溌ニシテ其取引高モ亦前日ニ数倍シ、通計四万七千九百五十個ノ輸出ヲ為シ、昨年ノ下季ニ比セハ八千六百余個ヲ減少シテ二万五千九百
- 第4巻 p.498 -ページ画像
余個ノ残留ヲ見ルモ其輸出セシ所ノ数固ヨリ少キニアラス且其価格モ亦次第ニ登進セリ、米糸ノ二業此ノ如キヲ以テ一般ノ商情大ニ気力ヲ生シ市場ノ巨壁タル綿糸及太物類ノ如キハ售路始終活溌ニシテ殊ニ綿糸ハ本季ノ中間ニ当リ、価格尤登進シ、各地紡績工場ハ概シテ其需用者ニ促サルヽノ形状ナリシ、公債証書モ亦売買起色アリテ時トシテハ其供給周ネカラサルノ情態ヲ現ハシタリ
金融ノ情状ニ至テハ東京大坂ヲ首トシ、各地方通シテ漸次繁急ニ赴キ諸銀行ノ預金ハ大略減少ヲ告ケ、貸付割引等随テ増加シ、利息日歩ハ八月ハ七月ヨリ上リ、九月ハ八月ヨリ進ミ、遂ニ歳尾ニ及ヒ京浜同盟銀行ノ平均割合ハ七月ニ比シ大約二割五歩ノ増進ヲ見ル、然レトモ当季ノ初ニ在テハ其割合殊ニ低下ナリシヲ以テ為メニ銀行ノ収益ヲ増スニ至ラサリシ
夫レ生産ハ貿遷ノ淵源ニシテ貿遷ハ銀行営業ノ機軸タルカ故ニ本季当銀行ノ営業ハ上陳景況ノ範囲内ニ在テ操縦其宜シキヲ制スルヲ得タリ、殊ニ当銀行ハ十数ノ支店各地ニ散在シ営業ノ事情聊カ異同アルモ之ヲ総約スレハ蓋前季ニ超越スルノ成跡アリ
然ルニ爰ニ一失事ノ報道セサルヘカラサル者アリ、十一月廿八日福島支店ニ在テ該地方裁判所ヨリ贋札被告事件ノ為メ召喚アルニ依リ、同店現在紙幣ヲ同裁判所ヘ携帯シ、検事ノ仮預証ヲ以テ五円紙幣弐万七千円ヲ交付シタル後初テ其詐偽者ニ騙取セラレタルヲ知リ、爾来今日ニ至ルマテ其筋ニ於テ百方捜索ニ従事セラルレトモ未タ其犯者ヲ逮捕スルヲ得ス
前条陳述スル所ニ因リ各店景情ノ概略ヲ叙スル左ノ如シ
○下略
○栄一が明治廿三年ノ恐慌ニ際シ如何ニ活躍セシカニ就テハ第六巻銀行集合所[銀行集会所]明治二十三年四月十四日[十五日]ノ条ニ詳シ。同条ヲ参照スベシ。