公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第4巻 p.499-505（DK040051k） ページ画像
明治27年（1894年）
日清戦役ニ際シ同行戦時金融ニ力ヲ致シ前後二回ニ亘ル軍事公債ノ募集ニ応募セシノミナラズ、京城・仁川・釜山ノ在鮮支店皆中央金庫ノ代理店トナリテ専ラ軍資ノ授受ニ従事ス。此間ニ於ケル同行ノ成績モ亦頗ル良好ニシテ二十六年下半季拾六万余円ニ逓下セシ純益金モ二十八年下半季ニハ二拾五万円ニ増大セリ。栄一頭取トシテ之ヲ指導ス。
第一銀行五十年史稿 巻四・第一三―一五頁（DK040051k-0001）
第4巻 p.499-500 ページ画像
第一銀行五十年史稿 巻四・第一三―一五頁
日清戦役の影響
日清戦役起りてより時局の影響は商業に及びて一時各種事業の中止となり、金融また逼迫を告げたるが連戦連勝の報道は漸次人心を安んじたるに、二十八年四月平和条約締結せられ、遼東還付の詔下るに及びて再び頓挫し、各銀行皆放資を警戒するの有様なりしが、これも一時の現象に過ぎざりき。
日清戦後の事業熱
此戦役の後は帝国の地位大に進み、国民もまた自信の念を高め、加ふるに二億三千余万両の償金を収めたれば同年下半季に入りては各種事
- 第4巻 p.500 -ページ画像
業の勃興を促し、外国貿易も亦好景気を呈せしかば、前年来の不況は一変して頓に繁栄を見たり、此に於て従来農業国たりし我国は今や世界の市場を顧客とする商工業国たらんとす、さればこの必要に応じて日本勧業銀行・農工銀行・台湾銀行等新に設立せられ、国立銀行・私立銀行等も拡張増資を行ふものありて金融次第に繁忙を加へたり。
日清戦役と本行の活動
日清戦役に際し本行は戦時金融の調和に力を致し、軍事公債前後二回の募集あるや、進みて之に応じたるのみならず其取扱をも引受け、更に朝鮮においては京城・仁川・釜山の三店皆中央金庫の代理店となりて、専ら軍資の受授に従ひしが之と共に支店の大整理を行ひて専ら勢力を朝鮮方面に集中するの策を採れり下文参照、本行の営業は常に順調にして、金利も相当の高歩を保ちたるが上に、朝鮮各支店の利益尠からざりしかば、戦役の期間を通じて繁忙を極め、優秀の成績を挙ぐるを得たりき、かの一時純益十六万余円に逓下せるもの、二十八年の下半季には約二十五万円に上れり、此の如くにして本行の進歩発達は年と共に増進せんとす。
明治27―8年営業成績表 年 季 払込資本金 積立金 銀行券流通高 貸出金 預金 有価証券 金銀 経費 純益金 二七 上 二、二五〇、〇〇〇 一、六五〇、〇〇〇 八四四、〇八六 九、七七六、一四五 六、四六五、三九九 一、九四八、〇〇四 一、四四三、一七六 六六、六一六 二〇六、八八二 二七 下 〃 一、六五〇、〇〇〇 八二五、八四一 九、八一二、〇七三 七、三七三、六四二 二、〇〇六、四六九 二、三五七、四二五 六一、六九〇 二〇九、一三三 二八 上 〃 一、六八〇、〇〇〇 八〇七、五三一 一〇、一〇一、八一四 八、六二六、三一四 二、三七九、四四九 二、五八四、五九七 六二、五七五 二二七、一六二 二八 下 〃 一、七〇〇、〇〇〇 七八八、八四六 一二、二三七、九二四 九、二二一、八六四 二、三六〇、二四七 二、三八九、七三四 六三、八八五 二四九、一〇四
第一国立銀行半季実際考課状 第四二回 〔昭治二七年上期〕（DK040051k-0002）
第4巻 p.500-501 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第四二回 〔昭治二七年上期〕
○本支店営業景況之事
玆ニ第四十二回ノ決算ヲ報告スルニ当リ、例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ景況ヲ査スルノ便ニ供セント欲ス、本季商業ノ総情ハ前季ヨリ引続キ生気ヲ帯ヒ蚕麦稍豊作ナルヲ以テ貿遷益繁閙ノ観アリ、蓋東京・横浜ハ全国商機ノ枢軸ニ居ルヲ以テ其市場取引ノ巨擘タル者ニ就キ査考シタル処ノ消長ハ左ノ如シ
米価ハ逐月進潮シ其売買モ亦盛ナリシカ、三月ニ及ヒ深川倉庫ニ輻輳スルモノ甚タ饒ク、四月以後ハ商況復タ前日ノ如クナラス、或ハ此際価ヲ待ツノ情アルカ為ニ其倉庫ニ聚積スル処ノ米穀常ニ九拾万俵余ノ巨数ヲ存セリ、内外紡績糸ハ販路ノ通塞屡変シタレトモ然レトモ毎月六千梱以上ノ銷售ヲ減セサリシカ故ニ各地紡績工場ニ於テハ随テ製シ随テ銷シ残留多数ヲ為スニ至ラサリシ、木綿太物類モ随テ入荷多ク、一ケ月ノ金額ハ寡クシテ八拾万円余多キ時ハ壱百万円以上ノ巨数ニ上レリ、公債証書ハ春来各地方ノ需用頻繁ナルカ為ニ六月上旬頃マテハ其取引旺盛ニシテ価格次第ニ騰貴セシカ、爾後景勢一変シテ頓ニ価
- 第4巻 p.501 -ページ画像
格潮落シ、昨年末ニ比スレハ数層ノ低位ニ降レリ、生糸ハ前季非常ノ盛況ニ慣レ本季ハ始終不活溌ノ感アリシカ、其三月ニ於テハ壱万個余ノ巨数ヲ輸出シ半季間ノ総計ニ至テハ実ニ三万八千百六拾壱個ノ多キヲ為シ、之ヲ昨年上季ニ比セハ殆ト一倍ノ数ヲ増シ其残留ハ九千九百七拾三個ト為ス、復タ好結果ト云ヲ得ヘシ
商情此ノ如キカ故ニ金融ハ前季以来漸次頻繁ニ赴キ、利息モ随テ騰加シ、近来稀ニ見ル処ノ形情ナリシ、各地方ニ至テハ或ハ動静趣ヲ殊ニシ或ハ緩急同シカラサル者アリト雖、其大部分ハ概シテ繁劇ニ属シ利息モ多少加上セリ
商情彼ノ如ク金融此ノ如キヲ以テ銀行ノ営業ハ一般起挙セシ而已ナラス、三四月ノ交ヨリ漸次急繁ニ赴キ、已ニシテ必迫ヲ告ケ資本ノ供給ニ於テ不十分ノ憾アル者少シトセス、当銀行ノ如キハ数支店東西ニ開在シ商業地ト生産地ト事情同シカラス、農業地又其趣ヲ異ニスレトモ要之前季ニ超越スルノ結果アリ ○下略
第一国立銀行第四拾四回株主総会要件録（DK040051k-0003）
第4巻 p.501 ページ画像
第一国立銀行第四拾四回株主総会要件録
明治廿七年七月十五日例ニ依リ、第四拾四回株主総会ヲ東京日本橋区坂本町銀行集会所ニ開設ス当日来会シタル者左ノ如シ
○氏名略ス
以上百五名
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
有終会々長
渋沢栄一
○外二百七名氏名略ス
又他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ又ハ其通知無ク欠席
○氏名略ス
以上二百八十五名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ頭取渋沢栄一病気ニヨリ欠席シタルニ付取締役須藤時一郎ハ本会ノ議長トナリテ前半季間営業ノ景況及事務ノ要件ヲ報告シ次ニ利益金配当ノ事ヲ決定セリ其大要左ノ如シ
当半季利益金弐拾壱万千八拾弐円九銭八厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万四千百参拾六円六拾五銭壱厘ト、滞貸準備金六万円ヲ加ヘタル高金弐拾九万五千弐百拾八円七拾四銭九厘ノ内ヨリ、明治廿七年上半季銀行税金四千弐百円、紙幣消却元資積立金壱万五千円、役員賞与金壱万弐千百五拾円、滞貸準備金拾万円ヲ引去リ、残額金拾六万参千八百六拾八円七拾四銭九厘ヲ純益金トナシ、此内ヨリ金拾参万五千円ヲ割賦金トシ（百円ニ付金六円）其残額金弐万八千八百六拾八円七拾四銭九厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキ計算トナス
第一国立銀行半季実際考課状 第四三回 〔明治二七年下期〕（DK040051k-0004）
第4巻 p.501-502 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第四三回 〔明治二七年下期〕
○本支店営業景況之事
玆ニ第四十三回ノ決算ヲ報告スルニ当リ、例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ景況ヲ査スルノ便ニ供セント欲ス、本季ノ商情ハ都鄙一般前季ヨリ引続キ殷繁ニシテ征清軍興ルニ当リ貿遷一時渋滞セシカ捷報連リニ到ルニ及ヒ世間浪佚ノ用ヲ除クノ外ハ総テ平常ノ
- 第4巻 p.502 -ページ画像
需用ヲ欠カサルノ境ニ復シタル而已ナラス大ニ将来ノ望ヲ引起シタルカ如シ、而シテ全国商業上ニ表裡影響スル生糸ノ輸出ハ毎月多キハ一万数千梱、少ナキモ亦六七千梱ヲ下ラスシテ通計六万四千百十四梱ノ巨数ヲ為シ、昨年ノ下季ニ比シ一万七千梱ヲ増加シ二万二千九百八十九梱残留セリ、各地ノ商情ニ至テハ固ヨリ一律ニ出テスト雖米価ノ貴昂ハ大ニ其出穀ヲ促シ、大市場ニ向テ輻輳スルモノ漸次巨教ニ達セリ太物綿糸等東京入荷ノ数ハ前季ト大同小異ニシテ其綿糸ノ如キハ一ケ月四五拾万円ヨリ八九拾万円ノ間ニ在リ、公債証書ハ八九月ノ頃及十一十二月ノ頃下落シタル而已ニシテ其他著シク異情ナシ
金融ハ全国一般ノ商情ニ随テ緩急アリ、敢テ之ヲ大別スレハ則七八月ハ益繁ヲ告ケ、九十月ハ繁ナラス閑ナラス十一十二月ハ復タ繁忙ニ属スルモノヽ如シ
商情金融此ノ如キヲ以テ当銀行ノ営業ハ稍其予期スル処ヲ得ル而已ナラス幸ニ前季ニ超越スルノ利益ヲ収メタリ ○下略
第一国立銀行第四拾五回株主総会要件録（DK040051k-0005）
第4巻 p.502-503 ページ画像
第一国立銀行第四拾五回株主総会要件録
明治廿八年一月十三日例ニ依リ、第四十五回株主総会ヲ東京日本橋区坂本町銀行集会所ニ開設ス、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外百三十名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ託スル者
○氏名略ス
以上弐百三名
又他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ、又ハ其通知無ク欠席スル者
○氏名略ス
以上弐百六拾三名
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一本会ノ議長トナリテ前半季間営業ノ景況及事務ノ要件ヲ報告シ、次ニ利益金配当ノ事ヲ決定セリ其大要左ノ如シ
当半季利益金弐拾五万八百参拾九円九拾八銭壱厘ニ、前半季ヨリ繰越タル金弐万八千八百六拾八円七拾四銭九厘ト、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘタル高金参拾七万九千七百八円七拾参銭ノ内ヨリ、明治廿七年下半季銀行税金四千弐百円、紙幣消却元資積立金壱万五千円、滞貸消却金参万七千五百六円八拾銭七厘、滞貸準備金拾万円、諸役員賞与金壱万五千五百参拾円ヲ引去リ、残金弐拾万七千四百七拾壱円九拾弐銭参厘ヲ純益金トシ、此内ヨリ金参万円ヲ積立金トナシ、金拾参万五千円ヲ割賦金トシ（百円ニ付金六円）其残額金四万弐千四百七拾壱円九拾弐銭参厘ヲ後半季ニ繰込ムヘキコトトス
○中略
次ニ本支店当半季間利益金ト予算額トノ比較表、及諸経費予算額ト決算トノ比較表ヲ示シ、其大要ヲ報告セリ
次ニ当任ノ頭取取締役ハ成規ニ照ラシ皆其任ヲ解キ、而シテ三井銀行総長代上柳清助・渡部温ノ両氏株主ノ総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封セシニ、渋沢栄一・西園寺公成・三井八郎次郎・須藤
- 第4巻 p.503 -ページ画像
時一郎・三井元之助ノ五氏高点ヲ得タルニ因リ従前之通重任シ、各承諾シテ上任セリ
右議事畢リ午後三時半退散ス
明治廿八年一月十三日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 ○第四十四回 〔明治二八年上期〕（DK040051k-0006）
第4巻 p.503 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状
○第四十四回 〔明治二八年上期〕
株主総会決議之事
一明治廿八年一月十三日、本行第四十五回株主総会ヲ日本橋区阪本町銀行集会所ニ開キ、当任ノ頭取取締役ヨリ前半季間庶務諸勘定ノ要領ヲ報告シ及同季積立金割賦金ノ計算ヲ決議セリ
一右ノ決議ニ因リ本季紙幣消却元資積立金壱万五千円及積立金参万円ヲ設ケ、同割賦金ハ百円ニ付金六円即チ年壱割弐分ノ配当ヲ行ヒ、而シテ金四万弐千四百七拾壱円九拾弐銭参厘ヲ後季ニ繰込ミタリ
一同日又臨時会ヲ開キ本年一月三十一日限リ福島支店ヲ廃止スヘキ議案ヲ提出シ異議ナク可決セリ
一当任ノ頭取取締役ハ成規ニ照シ其任ヲ解キ、更ニ投票撰挙ヲ行ヒタルニ皆従前ノ通リ当撰上任セリ
本支店営業景況之事
玆ニ第四十四回ノ決算ヲ報告スルニ当リ、例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ以テ本支店営業ノ景況ヲ考査スルノ便ニ供ス
本季ハ一般ノ商情前季ヨリ承続シテ概シテ好景気ヲ存セシ而已ナラス一分勝ル所アリシハ蓋征清軍連戦連勝ノ末遂ニ請和ヲ允ルシ我商工業ノ利益ヲ拡張スヘキ約ヲ訂シタルモノ亦与ツテ功アルカ如シ、今其最大物産ノ消長ヲ略叙セハ、則米殻ハ季初ヨリ価格漸進シテ季末ニ至リ始テ一蹶セリ而シテ其出入ノ最多ハ五月ニ在リトス、綿糸及太物類ハ価格屡々高低アリ随テ売買モ冷熱一ナラス市面頻リニ変移セシカ要之前季ニ減セサル光景ニテ、殊ニ綿糸ノ如キハ其製造昨年ヨリ増加セシモ皆能ク之ヲ銷售スルヲ得タリ、生糸ノ輸出ハ一月ニ於テ一万一千余梱ヲ最トシ其他ハ多クシテ五千余梱少キハ二千余梱ニシテ通計二万九千六百七十梱トス、之ヲ昨年上季ニ比スレハ八千四百九十一梱ヲ減スレトモ非常ナル好価ヲ得テ其残留僅ニ千五百五十九梱ナルヲ以テスレハ実ニ有数ノ結果ト称スヘシ、公債証書ノ価格ハ季初ヨリ次第ニ進騰シ其取引ハ概シテ平静ニシテ波瀾甚タ起ラサリシ
金融ハ各地緩急異同アリト雖、之ヲ通視スルニ始終緩慢ナラスシテ殊ニ季初ヨリ二三月ノ頃及季末ニ於テ繁忙ヲ告ケタリ ○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第四十五回 〔明治二八年下期〕（DK040051k-0007）
第4巻 p.503-504 ページ画像
○第四十五回 〔明治二八年下期〕
株主総会決議之事
一明治廿八年七月十四日本行第四十六回株主総会ヲ日本橋区坂本町銀行集会所ニ開キ、当任ノ頭取取締役ヨリ前半季間庶務諸勘定ノ要領ヲ報告シ、同季積立金割賦金ノ計算ヲ決議セリ
右ノ決議ニ依リ本季紙幣消却元資積立金壱万五千円及積立金弐万円ヲ設ケ、同割賦金ハ百円ニ付金六円即チ年一割二歩トシ金参万六千六百六拾四円六拾九銭ヲ後半季ニ繰込ミタリ
- 第4巻 p.504 -ページ画像
○中略
本支店営業景況之事
玆ニ第四十五回ノ決算ヲ報告スルニ当リ、例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ、以テ本支店営業ノ景況ヲ査考スルノ便ニ供セントス
本季間全国商業ノ総情ハ前季ノ盛況ヲ減セサルノミナラス、戦勝ノ気勢ニ乗シ更ニ繁閙ノ光景ヲ現ハセリ、今其売買ノ巨擘タルモノ二三ヲ挙ケテ之ヲ略叙ス、庶幾クハ以テ他ノ万種ヲ推知スルヲ得ン、則米穀ハ豊饒ニシテ各地ノ出穀モ概シテ多キヲ加ヘ而シテ時価ハ八九月ノ交ヲ最高点ト為シ其東京ノ入荷ハ八月十月ヲ最多トセリ、生糸ハ産出未曾有ノ多数ニ出テ毎月ノ銷售多キハ二万三千梱少ナキモ六千七百梱ニ下ラスシテ其総計七万九千二百余梱ト為シ前年下季ノ販売高ニ比シ二割余ノ増加トス、之ニ次クモノハ紡績糸ト為シ其製出高ハ全国各紡績工場ノ総計十七万五千三百梱余ニシテ其代価ハ毎月十六手ノ平均ニ拠ルモ実ニ壱千五百七拾弐万参千余円ト為シ前季ニ比セハ製出ニ於テ一割余代価ニ於テ四割余ノ増加ヲ見ル、尚ホ其種別ニ詳算セハ大ニ此数ヨリ増加スルヲ得ヘシ、公債証書ハ市場ノ気勢始終活溌ニシテ価格モ亦高進ノ一方ニ属セリ
金融ハ軍資ノ散スルモノ尠ナカラサルト生糸代価ノ入金多数ナルト兌換券制限外発行額常ニ数千万円ニ在リシトヲ以テ商況活溌ナルニ当リ緩急其宜キヲ得テ細大ノ需用ヲ充足セシメタルカ如シ、試ニ其運転ノ如何ヲ東京交換所ノ交換高ニ徴スレハ其金額壱億五千七百四拾余万円ニシテ前季ヨリ多キコト弐千五百七拾余万円ト為シ、同盟銀行ノ割引高ハ七月少シク減少セシノミニテ他ハ毎月大ニ増進シ、又其貸付当座貸越等ハ小増減アルニ過キスシテ、一方当座預ニ至テハ七八月稍減少セシモ九月以後ハ毎月畳々増加セリ、而シテ其利息ハ季初ヨリ十月頃マテハ漸次低下セシカ自後復タ少シク上進セリ、当銀行ハ此商情ニ対シテ能ク資本ノ供用ヲ致シ金融ノ緩急ニ従ツテ聚散宜シキヲ得ルヲ以テ本支店利益ノ通計ハ予算及前季ニ比シテ皆超過スルヲ得タリ ○下略
第一国立銀行半季実際考課状 ○第四六回 〔明治二九年上期〕（DK040051k-0008）
第4巻 p.504-505 ページ画像
○第四六回 〔明治二九年上期〕
本支店営業景況ノ事
玆ニ第四十六回ノ決算ヲ報告スルニ当リ例ニ依リ商情金融ノ大略ヲ叙述シ、以テ本支店営業ノ景況ヲ査考スルノ便ニ供セントス
本季ノ商情ハ全国一般前季ニ引績キテ季初ニ殷繁ナリシカ、爾後時トシテ小消長ナキニアラス、又地方ニヨリテハ繁閑必シモ同シカラサルモノアリト雖モ、其大体ニ拠レハ之ヲ平静無事ノ経過ナリト概言スルヲ得ヘシ、而シテ其商業上ニ大関係ヲ有スル米穀ハ季初価格小昂シテ中頃低下ニ趣キ、後前価ニ復セリ、其東京ヘノ入荷ハ二三月ノ交大ニ減シテ爾来復タ大ニ増加セリ、綿糸ハ毎月大略三万梱ヨリ三万四五千梱ノ製造アリテ皆渋滞ナク銷售シ、其価格ハ季初非常ノ騰貴ナリシカ後次第ニ小下落ニ趣キタリ、而シテ其清国ヘノ輸出額ハ漸次増加ノ勢アリ、生糸ノ銷售ハ毎月多クシテ八九千梱、少ナクシテ四五千梱ニシテ、総計三万九千二百梱ト為シ、昨年上季ニ比シ大略一万梱ヲ増シ而シテ一万二千九百余梱残留セリ、公債証書ノ高低及取引ハ始終通シテ平穏ニシテ僅ニ一時小低落アリシノミ
- 第4巻 p.505 -ページ画像
金融ハ一二月ノ交ハ或ハ前季ヨリ繁ナル所アリシカ、爾後漸次緩慢ニ属シ京浜同盟銀行預金ノ如キハ三月以降次第ニ増加シ来ツテ利息モ随テ厘毛ノ低下ヲ見ルニ至レリ
総情此ノ如クニシテ当銀行本支店ハ概シテ金融ノ緩慢ト利息ノ低下トニ制セラレシカ為ニ其結果前季ニ遜レリ各店ノ事情ハ左ノ如シ ○下略