公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第4巻 p.509-529(DK040053k) ページ画像
明治29年5月17日(1896年)
営業満期国立銀行処分法ノ公布ニヨリ、本年九月二十五日ヲ以テ営業満期トナルベキニツキ、是日臨時株主総会ヲ開キ、資本金ヲ倍加ノ上株式会社第一銀行トシテ営業ヲ継続スルニ決シ、新定款ヲ議決ス。栄一議長トシテ議事ヲ司宰ス。尋イデ五月十九日東京府知事ヲ経テ大蔵大臣ヘ営業継続ヲ申請シ、六月二十六日許可セラル。
第一銀行五十年史稿 巻四・第七九―八〇頁(DK040053k-0001)
第4巻 p.510 ページ画像
第一銀行五十年史稿 巻四・第七九―八〇頁
営業の満期
営業満期国立銀行処分法の制定公布により、多年の懸案は玆に解決せられしかば、同年○明治二十九年九月廿五日を以て営業満期となるべき本行は、率先して継続を断行せんが為に、五月十七日株主臨時総会を開き営業満期後更に私立銀行として其営業を継続するの件、及新定款を決議せり、其決議は左の如し。
○ 決議事項略、「第一国立銀行臨時株主総会議事速記録」参照。
第一国立銀行臨時株主総会議事速記録(DK040053k-0002)
第4巻 p.510-524 ページ画像
第一国立銀行臨時株主総会議事速記録
明治二十九年五月十七日日本橋区坂本町銀行集会所に於て開会
当日出席したる者 百六十九名
委任状を以て代理を托する者 三百九十六名
午後二時開議
○会長(渋沢栄一君) 皆様今日は御苦労にございます――予て御通知を申上置きました通り、当銀行も本年の九月二十五日で国立銀行として許可された営業時期が満ちまするので、更に此営業を継続致したいと考へまする所から、営業満期国立銀行処分法に従ひまして、玆に臨時総会を開きました訳でございます、此継続に就て御議決を乞ひまする議案と、及び将来継続して往くには斯る定款に依るが宜しからうと云ふ案とは、それぞれ取調べまして既に御通知を致してございますから、今日は其御議決を乞ひますのでございます
此議事に先ちまして此銀行の今日に至りました沿革を概略に申述置たうございます、回顧すれば此銀行は丁度本年で二十年の歳月を経ましたので、其間には追々に株主諸君の変更もあり、今月御列席の各位には或は近頃御加入の御方もあらうかと考へまするので、以前の有様を玆に陳情致すは所謂故を温ねて新を知るの理にして敢て無用の弁とも思ひませぬためでございます、抑も当第一国立銀行が此経済社会に生れ出ましたのは、明治六年の七月でございます、其時の国立銀行条例と申すものは今日に遵奉して居る条例とは少し振合が変りまして、素より亜米利加のナシヨナルバンクの制度に摸倣したと云ふことは同一でございますけれども、其異なる要点は発行紙幣の引換が国の本位貨幣であつた、即ち金貨で引替ると云ふ制度で組立られたのでございます、其頃には会社の組織と云ふものも今日の如く続々成立も致しませず、亦易々と出来ると云ふ時期ではない、しかし御維新以後三井組、小野組若くは島田組抔と申す東京府下の重なる財産家が大蔵省の出納御用と云ふものを勤めて居つたものですから、是等の人達が重立ちまして、一の銀行を組織したいと云ふて、今申述べました金貨引換制度の国立銀行条例に依つて、営業を経営しやうと思ふて組立てたのが、此銀行の濫觴でございます、それが即ち明治六年七月の廿日に開業免状を得たと私は記憶致します、其時の資本は弐百四拾余万円で組立ましたが其翌年の一月でしたか二百五拾万円にしたやうに記憶致します、併し此組織の銀行制
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度は、大体に於ては今日と変つたことはございませぬが、発行紙幣は金貨を以て引換へると云ふことでございますから、金銀の時価が少しでも動きますると云ふと此引換が劇しい、丁度其時分から斯く申上る渋沢抔は矢張重役の位地に居つて事務に従事して居りましたから、其時の恐ろしさも尚今記憶して居りまする、欧羅巴の為替相場が少しでも動きますと、直ぐに発行紙幣の引換が劇しくなつて参ります、従つて一方に金地金を買入れ、金貨を製造して此引換に充るために紙幣を流通させる、紙幣を流通させれば尚更引換が劇しいと云ふ姿で、到底此金貨引換の銀行は其頃の有様にては営業継続が覚束なくなりまして、明治七年末頃には追々発行した紙幣を収縮して引換の苦難を避るやうに致居りました、かてゝ加へて明治七年の十一月二十日でした、其重立たる資本者小野組が破産した、此破産と云ふものは殆ど晴天に霹靂一声と云ふ有様で、東京の経済社会が大に動揺したと云ふても宜い位でございました、それは既に二十余年以前のことでございますから或は御記憶のない方もございませう、此銀行は其為に大に困難を引受けました、如何となれば弐百五拾万円の資本を百万円は三井、百万円は小野、あとの五拾万円は島田其他で引受けて居つた、重なる株主たる小野組が俄に破産したと云ふことでありますから、取引も随分多く関係も甚だ密であつた故であります、既に今申す営業の重要目たる紙幣の発行は其目的を達せず、而して重なる株主が破産したと云ふので、此銀行は大に困難致しましたけれども幸に大損害を引受ることなしに始末が附きまして、小野組との関係の済みましたのは此銀行の幸福でございました、是に於て当銀行の資本高百万円を減じて、百五拾万の株金に致したのは明治八年であつたと記憶致します、併し前に申す通りに実際の有様は、金貨幣引換制度では迚も営業を円滑に行ふことが出来ませぬ、ために其実況を取調べて当時の大蔵卿、即ち今日の大蔵大臣に向て、此銀行は金貨引換の方法では迚も営業継続が出来ぬから此条例の改正をなさるか然ちざれば他に何とか方法を設けなければ、事業の発達は為し得られませぬと云ふことを詳密に申述べました、其時分の私の考へは日本の商売は是よりして追々に文明的に進んで往かねばならぬ、文明的に進まうと云ふには資本を集めて大きい仕事をしなければならぬ、大きい仕事をしやうと思ふには個人では往けない、どうしても会社法でなければ往けない、さうして其基軸たる銀行の事業が進んで往かねばならぬ、けれども独り銀行のみで足るとは申しませぬ、運輸事業も保険事業も肝要でございます、商売に対しては是は殆ど鼎足の如き有様で、経済社会に最も必要であるから之を進めなければ商工業をして十分に足を延ばさすことは出来ない、此必要なる銀行であるのに、今の如き有様では迚も発達致しませぬから困る、と斯様な論理を以て大蔵卿に銀行制度の改正を求めましたのであります、此際政府に於ても、種々なる評議の末其実況を取調るためには私が大蔵省に呼出されたり、或は大蔵省の役員が第一国立銀行へ臨まれたことは数回でありました、結局、明治九年に今の国立銀行条例と云ふものに改正されて、発行紙幣は政
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府紙幣を以て引換ると云ふことに交換法が変りました、折柄政府は禄制を設けられたに就いて、金禄公債証書と云ふものが世間に大なる高を発行された、国立銀行条例の制度の変更と此禄制のことゝ相須つて遂に銀行事業が一時に勃興して、遂に一両年の間に国立銀行は百五十三迄続々と成立つたと云ふ有様でございます、
斯く申上ましたのは世間一般に対して国立銀行の制度及び其成立の梗概を申述べたので、己れの銀行に付ては今一応申上ますが、偖右の有様からして、此第一国立銀行は明治九年の七八月頃それぞれの取調を具へまして改正国立銀行条例に依つて営業をすることを願出ました、其時にも株主に御評議を致しまして其手続を為し、許可を得たのが丁度八月の末で、開業免状の渡りましたのが明治九年の九月二十六日であつたと覚へて居ります、玆に初めて此二十年と云ふ満期を計算すべき土台が建つた訳でございます、左様な訳でございますからそれから数へて丁度当年の九月二十五日で満二十年になります、併し此国立銀行が経済社会に率先して生れ引続き経営致した時日は丁度二十三年少し余に相成ると云ふ次第でございます、如何となれば其前の明治六年からして七八九と此三年の間は今の条例でない前の条例に於て営業を試みたのでございます、偖此銀行の営業の手続と申すものも、当初は決して今日の如き有様ではございませなんだから、先づ稽古半分の微々たる取引と云はざるを得ぬのでございます、為替の取組コルレスポンデンスの約束或は手形の取扱ひ抔と申すものも決して今日と日を同ふして論じられませぬ、百事稽古的に拵へまして、御得意様に御相談申して斯う云ふ便法がございますからと御勧めすると、御得意先も危みつゝ同意することもあり、或は又却つて不便だと云ふ御小言を頂戴することもある、又時として間違があるとやはり古来の風が便利と云ふことで、大層立腹を受けたことも或はないとも申されませぬ、為に業務の進歩して来ると云ふことは中々即時に運ぶと云ふ訳には参りませなんだけれども、今申上まする通り経済社会に於て銀行がコルレスポンデンスを取組むとか、若くか当座の取引を開くとか、或は手形を割引するとか云ふことは、金融上にはどうしてもやらねばならぬ必要のものであつたから、好いものは歳を経て追々好くなるの道理で、漸を以て進んで参つたのでございます、而して此第一国立銀行は、世上の商業を進むると云ふ意念は甚だ強く持て居りましたのと、又一方には官府の出納を取扱ふと云ふことも営業の目的として成立つたものでありますから、彼是以て西に東に支店を開くと云ふ必要が多ふございまして、既に一時支店の多い場合には十六ケ処迄に相成つたことがございます、其場所は宇都宮に福島に仙台に石巻に盛岡に秋田に金沢に新潟に横浜に神戸に大坂に京都に四日市に名古屋に及朝鮮の釜山仁川とへ置きました、其後追々に此銀行の業務の進んで参りまするに従つて世の中も共に進んで参りました、始めには殆ど国立銀行として一番大きい資本で営業を為し居りましたが、歳と共に此金融社会も発達致して種々なる銀行も出来まして、殊に明治十五年頃に日本銀行と云ふものが我々銀行者の頭上に成立つて参つたために、金
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融上には大に便利を増したことでございます、而して亦各地方の支店ある土地に於ても追々地方銀行業務が進んで参るに従つて、其他の取引は我が銀行支店をして始終其地に永続せしむる必要はない有様になりましたから、却つて手を引いた方が宜しからうと云ふ事になつて参つたために、其時々に案を立てまして、株主諸君の御賛成を得て追々に廃店し、専ら商業の盛んなる所にのみ支店を存すると云ふ方針に引直して参りました、或は後に之を減ずるならば、初め置たのは不利益ではなかつたかと云ふ御疑がございませうが、是は世の中の進み工合に連れましたので、敢て定見が無つたと云ふことは申上ませぬ考へでございます、一方には追々世の進むと共に各地に銀行も殖へて参りますし、又其業務を鋭敏に取扱ふ銀行もございましたが、幸に第一国立銀行も其間に立つて一般の愛顧を蒙りて取引も進み、得意も増し、或は利益配当の如きも、一時多い場合よりは今月は減損して居りますけれども、先づ相当なる利益を得て年々余り変化のない所の配当であると考へて居ります、又既に議案にもございます通り、二十年間の営業の経過に於て損害を生じた部分は其年々に株主諸君に諮つて滞貸準備と云ふ金の中から引去つたと云ふものも少くございませぬが、尚ほ玆に愈々営業の継続をなさうと思ふには、飽迄も此銀行を堅固に致したいと云ふ希望を以て、極く綿密に調査を経て此処へ提出致さねば相成らぬと考へまして、明治二十四年頃から営業の整理を心掛まして、幸に其目的も玆に達して現在の滞貸準備の外に、更に全体の積金の中より金参拾万円を控除して一切の滞貸償却に充てましたのでございます、斯様に申すと是迄の取扱が安全でなかつたらうと御譴責を蒙るでござりませうが、何分支店も多く、取引も広く、一も間違のないと云ふことは当任者も御受合申上兼ましたが、力めて堅固に経営致し愈々精算すると云ふことになりまして、斯る結果に相成ました故に積立から滞貸消却の準備を取る事を議案として差出ました所以でございます
回顧して見ますると、前申上ました通り、二十三年に相成りますが幸に当銀行の株主諸君には篤く当任者を御信じ下さる所から、渋沢抔は不肖ながら創立の当時より引続き毎会当任者として、諸君に議案を提出して御議決を請ひ、尚ほ此回の継続に付ても此位地に立ちまするのは諸君の信用の厚き為と大慶に存じまするし、且つ幸栄を荷ふ次第でございます、前途の事は暫く措きて経過致しました概略は今申述べました通りでございます、諸君は此銀行が幸に是迄世間から受けた信用を此儘消滅致さしめぬやうに思召て、此に提出した議案に御賛成下さるであらうと思ひます、一応是迄の事情と今日に至りました経過とを申上ましてさうして此議決を請ひます、既往二十三年の昔を考へて見ますると、大分久しいと共に己れの身体も大分老衰致したかとも思ひますが、併し今日此処に斯く申上げ得るは未だ老耄も致さぬ故とも考へます、して見ると二十三年が却て短いものになります故に、私は将来益々奮励努力する心得でありますから諸君宜敷御聞置を願ひます
(拍手起る)
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○会長(渋沢栄一君) 只今申上ました通り、此臨時総会の議案は第一から第五までを提出してございます、先づ一から五迄を朗読させますから御議決を願ひまして、而して此御議決を得ましたならば併せて此定款の御議決を願ひます、どうかさう云ふ順序に致したいと考へます、議案を朗読致させます――第一
(書記朗読)
第一 当銀行は本年九月二十五日営業満期となるを以て営業満期国立銀行処分法に拠り別紙の如く定款を改正し、株式会社第一銀行と改称し営業を継続する事
(原案賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 別に第一に御異議がございませねば原案に決します――第二を朗読致させます
(書記朗読)
第二 継続後の資本金は従来の資本金弐百弐拾五万円に、積立金より弐百弐拾五万円を加へて四百五拾万円と為す事
(賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 是も只今申上ました通り、営業の結果から積立金を以て株高を加倍することが出来たのでございます、それを加へますると払込は直様出来る都合で、丁度一株の御方が二株を御持ちなさると云ふ計算になるのでございます、別に御異議がございませねば第二は決定致します――第三
(書記朗読)
第三 右資本金は之を九万株に分ち、一株の金額を五拾円と為し其株券は本年九月廿五日現在株主に対し其所有一株に付二株の割合を以て引替ふへき事
(大賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 即ち第二に申上ました通り、斯う云ふ手続に取扱ふと云ふことを規定したのでございます、別に御異議がございませねば原案の通りに決します――第四
(書記朗読)
第四 当銀行従来の積立金紙幣消却元資積立金及紙幣消却金等合計金弐百六拾五万円(外に当半季積立金をも加算すへし)の金弐百弐拾五万円を第二項株金の払込に充て、金参拾万円を以て回収の見込確実ならさる貸金の消却準備とし其残額を積立金となすへき事
(賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 今朗読致しました此第四の項目ですが是は少し金額を確定仕過ぎた嫌ひがございます、甚だ注意が足りませんで申訳がございませぬ、「元資積立金及紙幣消却金等凡合計金弐百六拾五万円余」斯う申さねばならぬのでございます、はつきりと弐百六拾五万円と申しましては処分に困りませうと思います、併し別に異算がある訳ではございませぬが、是はまだ事実計算を了して居りませぬから、之を結了すると斯様に五万円とならずに幾らか端が生じましよう(外に当半季積立金をも加算すべし)之は明治二十九年の一月から六月までの営業計算で、是は例の通り相当なる配当の案を立てました所で、毎期常
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例の積立金はせねばならぬので、是も幾らか分りませぬのでございます、故に是は斯様に確定致さぬ方がよろしい、議案の文字の誤植と御見做を戴いて、凡そ合計金弐百六拾五万円余の見込を以て其内より金弐百弐拾五万円を第二項株金の払込に充て、金参拾万円を以て回収の見込確実ならざる貸金の消却準備とし、其残額を積立金となすべき事」斯う云ふことに御議決を願ひたい、先に申上ました如く此銀行の営業は力めて堅実にやらうとは考へましたけれども、永年の間支店の多きために、一分の滞貸を生じて其時々株主諸君の承諾を得て消却を致し、尚ほ消却に充つべき滞貸積立金を持つて居る乍去十分其精算を致して見ますると已に積立てある滞貸準備の拾八万円では足らぬ、極く確実に考へまして更に三拾万円を備へて滞貸消却に充てましたならば十分と認める、さう致しまして弐百弐拾五万円を株に組込ましても、尚ほ拾五円から弐拾万円迄位のものが此営業満期、即ち継続の際に積立金を設け得ると云ふ計算が出て来る訳に相成らうと考へます、左様の計算法に致したいと云ふのが第四項に於て御決議を請ひまする趣意である、少し確実仕過ぎた文章になりましたのは甚だ恐入りますが誤植致しましたのと御見做を願ひます――第四項別に御異議がございませねば原案に決します
(異議なし賛成と呼ぶ君あり)
○会長(渋沢栄一君) 第五項
(書記朗読)
第五 当銀行仙台秋田両支店は本年九月廿五日限り廃止すへき事
(賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 是も先に営業の沿革を陳述致す中に申上ました通りで、宇都宮から秋田辺の要地に大抵支店を出して置きましたけれども、今日に於ては遠隔の地に支店を置くのは余り利益がございませぬ、敢て迷惑だと云ふ程ではございませぬが、寧ろ東京に、大阪に、横浜にと申す繁盛なる商業地に専ら力を尽した方が宜しいかと考へます、然らば是迄なぜ斯うやつて居つたかと申しますと、土地の情況が進んで居りませぬでしたから已むを得ず出掛ましたが、今日は仙台にも秋田にも銀行が出来ましたから、我々が其土地のためを図ると云ふ趣意で今迄の如く継続しまする必要はなからうと考へます、故に東京に大阪にと云ふ商業地に力を尽したいと云ふ所から此廃止を立案致した所以でございます
(賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 然らば第一項から第五項迄即ち原案の通りに御議決に相成りましてございます――却説第一項が議決に相成りますると、第一項の継続と云ふのは定款がなければならぬ、其定款は即ち前に草案を具へまして議案に附属して出しました、此定款の御議決を願ひたい、如何でございませうか、逐条に朗読しませうか、一章毎に切つて朗読を致しませうか
(どうか一章毎に願ひたいと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) それでは続いて株式会社第一銀行定款の御議決を願ひます、玆に一応申上ねばならぬことがございます、此定款は草案
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を作りまして以来数々大蔵省に対して御考へをも御聞申し、種々交渉を致してございますので、独り定款の文字上のみならず、此銀行継続に就いては御同省にも新規なこと、我々にも新規なことでございますから、第一国立銀行が一番初めにやらなければならぬので、他の手本になるから成る丈緻密に、成る丈明瞭にやりたいと云ふことで御引合を申して居ります、先日積金の事を交渉致しました事抔も、或は御耳に這入つたこともございませうが、種々の手続を尽して、即ち大蔵省の方で是で宜しいとなりましたから此議案を発しました、其後大蔵省の注意に依りて再び修正の考案を立てました、蓋し趣意に違ひはございませぬが字句に少々の修正がございます、其修正草案は御送りする時日がございませなんだから、此処で朗読致して御聞に達します、前に御手許に上げてある案では「第一章総則第一条当銀行は明治二十三年法律第七十二号銀行条例に拠り銀行事業を経営するを以て目的とす」斯う云ふ文章に相成つて居ります、然るに大蔵省と御引合を申上けた上に「第一条当銀行は営業満期国立銀行処分法に拠り第一国立銀行の営業を継続し銀行事業を経営するを以て目的とす」其基本の立方を七十二号の銀行条例に拠ると云ふよりは、営業満期国立銀行処分法に拠つて第一国立銀行の営業を継続する、と云ふことが全く事実であつて系統の伝りを明かにするやうになる、即ち処分法に拠つて営業を継続すると云ふのが、寧ろ事実であると云ふ方に御評議が整ひましたので、斯様に修正を致したいと云ふのであります、大体に於ては些とも変りませぬが、銀行条例に拠て単独に成立つ銀行でない、「営業満期国立銀行処分法に拠つて第一国立銀行の営業を継続し、銀行事業を経営するを以て目的す」と斯様に成立を異に致しますだけの違ゐでございますから修拠致したいのでございます、夫からもう一つが第二条に但書を添へとる即ち、「当銀行の資本金は四百五拾万円にして、其責任は銀行の正財産に止まるものとす」是が本文であります、是は前の通りでございますが、「但本条の資本金は営業継続の日に於て全額を払込みたるものとす」是はなぜと申すに、商法に会社の株金は払込期節方法が書てなくてはならぬ、けれども私共の考には既に四百五拾万円で定款が定まる上からには、払込んだ上で四百五拾万円と書くのだから宜からうと申しましたが、大蔵省では払込んだ時日がなくては商法に抵触する嫌があると云ふことを申された、即ち「明治二十九年の九月二十五日に於て全額を払込むものとす」斯う云ふ文章を此処へ明記して置いたが宜しいと云はるゝので、大蔵省の御趣意に応じて之を修正致したいと思ふのでございます、それからもう一つが第四条で、原案には「当銀行に於て使用する印章は左の如し」次に社印、割印二つを掲げましたが、此一つの方は削除致しまして前の印だけに止め置きたい、此二つの印を掲げますると、或は其他に用ゆべき印がないやうになります、重立つた社印と云ふものは一つで宜しい故に、次にございます割印と云ふものは、定款に確定することだけは除きたいと云ふことに致しました、今申上ました通り第一条が全文修正第二条に但書が加はる、第四条の割印が削れる、と云ふ
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だけが此程になつて修正が出来上りましたので、今日の会議に玆に修正の必要を申述るのでございます、どうか是れだけを御聞取を願ひたい――第一章の朗読を致させます
(書記朗読)
株式会社第一銀行定款
第一章 総則
第一条 当銀行は営業満期国立銀行処分法に拠り第一国立銀行の営業を継続し銀行事業を経営するを以て目的とす
第二条 当銀行の資本金は四百五拾万円にして其責任は銀行の財産に止まるものとす、但本条の資本金は営業継続の日に於て全額を払込みたるものとす
第三条 当銀行は株式会社第一銀行と称し、本店を東京市日本橋区兜町一番地に設け、支店を大坂市東区高麗橋通三丁目二番屋敷、京都市上京区烏丸通姉小路虎屋町八番地、横浜市本町五丁目七十二番地、神戸市栄町通四丁目十五番邸、新潟市上大川前通八番町十八番地、名古屋市伝馬町四丁目百三十六番戸、伊勢国三重郡四日市町大字浜町八十一番屋敷、朝鮮国釜山浦本町二丁目六番地、朝鮮国仁川済物浦木町通十八号に置く
第四条 当銀行に於て使用する社印は左の如し
株式会社第一銀行印
(表面) 第 号 印紙 株式会社第一銀行株券 一金五拾円也 何某殿 明治二十三年法律第七十二号銀行条例を遵奉し且当銀行の定款を確守し明治廿九年九月二十六日より当銀行株式の内壱株の所有者たる証拠として之を交付す 此株券を売買譲与せんとするときは当銀行へ持参し其証印を受くへし 株式会社第一銀行 明治廿九年九月廿六日 頭取 何某 印
(裏面) 年月日 売譲渡人姓名印 買譲受人姓名印 頭取証印
(原案賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) それでは第一章は原案に確定致しました――第二章を朗読致させます
(書記朗読)
第二章 株式
第五条 当銀行の株式は九万株に分ち一株の金額を五拾円とす
第六条 当銀行の株式は一株毎に株券一通を作るものとす但其雛形は左○上の掲如し
第七条 当銀行
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の株式を売買譲与せんとするときは双方連署の証書を作り、株券を添へて当銀行へ申出て株主名簿に登録を請ひ、且其株券に証印を受くへし
前項の場合に於ては株券一通毎に金五銭の手数料を徴収す
第八条 当銀行の株券を損傷し、又は紛失し、若くは滅失せし者は其事由を明記し、保証人連署の証書を差出し、新株券の交付を請求することを得、但紛失又は滅失の場合に於ては其旨を三日間二種以上の新聞紙に公告し、三ケ月を経て尚発見せさるときは新株券を交付すへし
前項の場合に於ては株券一通毎に金弐拾銭の手数料と公告料とを徴収す
第九条 当銀行は通常総会前に於て三十日以内相当の期間を定め、之を公告して株式の売買譲与を停止すへし
○会長(渋沢栄一君) 大蔵省との交渉に拠つて修正された箇条は前に申述べましたが、其箇条の中に第八条が只今読みました如く修正になつたのを申落しました、同条の三日間二種以上の新聞紙に公告し、次回利益金分配と云ふのが其期に至つて切迫すると工合が悪い、或は大変遠くなつても工合が悪いから、月数に制限を立つたが宜しいと云ふ大蔵省の御注意で、三ケ月と云ふことに致し「三ケ月を経て尚ほ発見せざるときは新株券を交付すべし」と斯様の文章に変りました、是も大蔵省からの御気付でございます、前に申落しましたから申上ます
(原案賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 別に御異議はございませぬか
○片山遠平君 一寸、第一条を修正になつた以上は株券雛形の文字も御修正になつては如何ですか、第一条の法律第七十二号と云ふことを御修正になつたのでございますから……
○会長(渋沢栄一君) 一方は沿革を叙したのですが、此処は株券でございますから法律第七十二号を遵奉し云々といふ文章で宜からうと云ふ考であります
○片山遠平君 左様な訳でございますれば別に異存はございませぬ
○会長(渋沢栄一君) それでは第三章
(書記朗読)
第三章 営業
第十条 当銀行の営業科目は左の如し
第一 諸証券の割引及代金取立
第二 為換及荷為替
第三 諸預金及貸付
第十一条 当銀行は営業の都合に依り左の事業を為すことあるへし
第一 有価証券地金銀の売買及両替
第二 金銀貨貴金属諸証券等の保護預
第十二条 当銀行は左に記載する物件に限り之を引取り之を所有し又は之を買取り之を売払ふことを得
第一 営業上必要なる地所家屋什器
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第二 債務弁済の為め引渡されたる動産不動産
第三 質又は抵当にして裁判上公売となりたる動産不動産
第十三条 当銀行の営業時間は毎日午前九時より午後三時まてとす大祭日祝日及日曜日は休業とす、若し止を得さる事故ありて臨時休業を為すときは地方庁へ届出て予め新聞紙を以て公告すへし
(異議なしと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 御異議がございませねば第三章は是で決定します――第四章
(書記朗読)
第四章 役員
第十四条 通常総会に於て百株以上を所有する株主より三名以上の取締役及二名以上の監査役を選定す
第十五条 取締役の任期は三ケ年とし監査役の任期は二ケ年とす、但再撰に当ることを得
第十六条 取締役は法律定款及総会の決議に依り銀行を代表するの権利を有し義務を負ふものとす
第十七条 取締役は取締役会の決議を以て諸規則を制定し、支配人以下役員の給料を定め之を任免黜陟するの権を有す
第十八条 取締役は専務取締役一名を互撰し、之を頭取と称し、日常の事務を専行せしむ
頭取は取締役会及総会の議長に任す
第十九条 取締役は在任中其所有の当銀行株式百株を当銀行へ預入るへし、但其株券は封印して当銀行に保管し、其預り証書には融通を禁する旨を明記するものとす
第二十条 監査役は当銀行の業務を監視し、諸計算書及利益分配案等を撿査し、必要と認むるときは総会を招集することを得
第廿一条 当銀行取締役監査役の報酬は総会の決議を以て之を定むるものとす
(賛成、異議なしと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 別に御異議がございませねば是も原案に決定致します――第五章を朗読致させます
(書記朗読)
第五章 総会
第廿二条 総会は通常総会臨時総会の二種とす
第廿三条 通常総会は毎年一月、七月の両度に開会し、前期の諸計算書及利益分配案を決議するものとす
第廿四条 臨時総会は取締役又は監査役に於て必要と認むるとき、又は総株金の五分一以上に当る株主より会議の目的を示して申立るとき、取締役之を招集するものとす
第廿五条 総会を招集するには開会の日より十四日以前に其日時場所目的事項等を株主に通知すへし、但要急の場合に於ては本条の日数を減縮することあるへし
第廿六条 総会に於ては予め株主へ通知したる事項の外、他の議事に渉ることを得す
- 第4巻 p.520 -ページ画像
第廿七条 総会の議事は総株金の三分一以上(委任状を以て代理を托するものを加算す、以下之に準す)に当る株主出席し、其議決権の過半数に依て決議す
第廿八条 定款の変更及任意解散に付ては、総株主の半数以上にして、総株金の半額以上に当る株主出席し、其議決権の過半数に依て之を決議す
第廿九条 総会に於て出席株主定数に満たさるときは仮に其議事を決議し、其旨を総株主に通知して更に十四日以内に第二総会を開会するものとす、但其通知には若し第二総会に於て出席株主議決権の過半数を以て第一総会の決議を認可したるときは之を有効と為すへき旨を明告すへし
第三十条 株主の決議権は其所有株式一株毎に一個とす
第卅一条 株主自ら総会に出席し能はさるときは当銀行の株主中に代理を委任することを得
第卅二条 総会の決議可否同数なるときは第廿八条の場合を除き議長之を裁決するものとす
第卅三条 総会に於て決議したる事項は之を記録し、取締役監査役調印して保存するものとす
(賛成、異議なしと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 第五章も原案の通決定致します――第六章を朗読致させます
(書記朗読)
第六章 計算
第卅四条 当銀行は毎年六月十二月の終に於て諸勘定を決算し、計算書、財産目録、貸借対照表、事業報告書及利益金分配案を作り通常総会に提出するものとす
第卅五条 当銀行の損益計算は総益金より諸支払利息諸経費其他損失金を引去り、其残額を純益金とし、左の割合に従ひ積立金及役員賞与金を控除し其残金を株主に配当すへし、但計算の都合に依り後期へ繰越金を為すことを得
一純益金高百分の十以上 積立金
一純益金高百分の八 役員賞与金
(異議なしと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 第六章も別に御異議がございませねば原案の通決します、第七章第八章是は短ふございますで一緒に朗読致させます
(書記朗読)
第七章 解散
第卅六条 当銀行は臨時総会の決議を以て任意の解散を為すことを得
第卅七条 解散を決議したるときは其総会に於て清算人を選定すへし、但其人員及清算事務委任に関する条件等は其際議定するものとす
第八章 定款変更
第卅八条 此定款の条項は株主総会の決義を以て更正加除すること
- 第4巻 p.521 -ページ画像
を得
(賛成と呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) 此継続致しまする銀行の定款は今逐条を朗読致しまして第一章より第八章まで通計三十八条が議決されましてございます、又前に申上ました条項の第一項からして第五項迄も御議決を経ましたが、是は即ち営業満期国立銀行の処分法に拠つて株主諸君の格段決議を以て大蔵省へ申請を致さなければならぬのでございます、此格段決議と申すものは更に十四日以外《(マヽ)》にもう一遍議事を開いて御議決を請ひ、さうして之を格段決議と名けるのでございますが若し株主諸君に於て御異議がなければ、第二の会を略して更に此の処に於て再応の御決議を請ひます、此処に於て二度御議決を下されば、格段決議として申請する事に致度と存します
○渡部温君 一寸建議を致したい、諸君に一応御相談旁建議を致しまして御賛成を請ひたいと存じます、其訳は当銀行は廿余年前に成立ました、以後誠に都合能く営業致され、十分な結果を得まして我々株主に於ては満足を致します、定めて諸君にも此事に就ては御異議あるまいと存じます、会長即ち当銀行の頭取渋沢君に於きましても十分の御尽力でございます、又それに当銀行の夫々御奉職に成て居ります方々も十分御勉強がございまして、何の手落もなく何の不都合もなく十分の営業をされまして、我々へも相応の利益を与へられたのは深く諸君に謝しますることでございます、就きましては今般当国立銀行が終りまして継続する所の株式会社第一銀行が生れ出ますので、是迄の一方ならぬ御尽力に対し我々株主は御慰労を申上、且つそれに対しまして報酬を致したいと存じます、其報酬の高と申しまするものは、今日議になりました所の合計金弐百六拾五万円の内より弐百弐拾五万円と云ふものを第二項の株金の払込に充て、滞貸の消却準備として参拾万円を引去りましても尚ほ拾万円以上の金額がございます、それは此議案に拠りますと「其残額を積立金となすべき事」とありますが是が即ち残金の高でございます、如何でございませうか、此内を以ちまして頭取並に行員諸君の御慰労に酬ひたいと存じます、是は拾万円程残りませうと存じますから五万円の金額を報酬に向けたいと存じますが如何でございませうか、若し御同意でございますならば御賛成を請ひたうございます
(賛成の声起る)
○渡部温君 御賛成でございますならば此事は如何でございませうか高に就きましては定めて御見込もそれそれございませうが、或は株主の御方より致しまして委員でも御撰みになりまして、其御議決でも仰ぎましてそれに拠りまして定めまするか、或は只今小生の申出ました五万円で取極めて宜しうございますか、そこの所を一応御議しを願ひたいと存じます
○会長(渋沢栄一君) 只今御建議がございまして段々御賛成もございますから別に御辞退言葉を申すではございませぬが一応御参考に申上置きますことがございますから一言を陳述することの御許しを得たうございます、只今渡部君の御発議で二十年の間終始一轍に勤めた
- 第4巻 p.522 -ページ画像
而して我々銀行の一株が二株になる満足を得せしめた頭取初め此役員は大に勤労致したものである、依て此差引残りの金が拾万円以上あるから、其内の若干を慰労として贈りたいとの御趣意で、御好意は難有いがどうか御趣意だけを御立を下さるやうに願ひたいと思ふのでございます、と云ふ訳は此銀行に私共始め一同は――勿論満足とは申上られませぬが、自から銘々に自分も慰労を受け人にも慰労するだけの方法が設けてございます、それは決して皆様の株金の内から別に分けて取らうと云ふのではございませぬ、最初からして賞与配当と云ふものが定めて有て其割合が強い、今日百分の八となりましたが、昔日は百分の十七でありました、其代り給料が少い、私即ち頭取にて僅に五拾円の月給で勤めて居つた、此銀行は少し特例であつたのでそれは昔日を申すのでありますが、此頃からして私共の考へでは斯う云ふ株式に拠つて成立つて居る所の団体で有から、期が満ち若くは期は満たぬでも株主諸君の人情に背いて酷く申せば逐出されて出て往かねばならぬ時がないとは云はれぬ、殆ど政党組織の内閣員と同じやうなもの、皆様の思召に背いたならばヘイ左様ならと云つて往かねばならぬ、其代り与へられて居る権利は充分に尽さねばならぬ、百年でも居るつもりで尽さねばならぬのです、斯る有様であるから相当なる慰労積立法でもないと、却つて人情が酷薄になり軽薄に流れる嫌ひがある、かく思ふて特別に慰労積立と云ふものを設けて賞与配当の内から一分を引いて積立を致して居りました、其積立が今日相当な高になつて居ります、他の会社でも今日種々の方法を以て社員に恩給の制度を設けられますが、当行の慰労積立は決して軽微なものではございませぬ、左様申す渋沢も其恩典に均霑致しますし行員も一同に相当なる恵与を受けます、併し今日改めて貰ふのではなくして此前に既に貰つたものを積立つて置たのです、此御建議で思召だけでも得ましたならば之を一緒にしますか之を別にしますか、それは我々が協議致して御高志は貫徹致すやうに仕りませうが、既にそれだけの備へがございますので、営業満期を告げまして更に或は勤続く者もあらうし、又は此際に休職する者もありませうかなれども、永年勤めたが元の編笠一個と云ふことはございませぬから、どうかそれだけは御安心下さいまして、思召の程は私に於て御免を蒙りますとは申しませぬが、其額は成るべくたけ薄い方を希望致します、只是迄はかゝる方立がしてあると云ふことを一応御聞きに入れます
○渡部温君 尚ほ私は続いて――只今の渋沢君の御口上に甚だ感服を致し、且難有き今迄の思召であつたと云ふことを信じ居ります、乍併是迄御積立になりましたのは行員諸君の銘々の賞与金より成立ました金であらうと存じます、之を以て後来の皆様の御用意になることは至極結構なことでございますが、それがために我々の申出しますことは決して引くべきことでないと存じます、此五万円と云ふことを申出しましたのも決して多くない、此多くない、此多額なる金額を御預りに成てそれを運転致して利益を我々へ御分け下つすたと云ふものは、一方ならぬ御尽力である、且つ総額に対しましての五万
- 第4巻 p.523 -ページ画像
円と云ふものは些少な金額であると申して宜しい、それ故に是は心ばかりのことゝ存じて私は申出しました、甚だ如何でございすが若し之を喜んで御受け下さいましたならば、株主諸君も甚だ満足であらうと存じます、如何でございます、尚金高等に就きまして思召がございますならば一応御意見を御陳述下さるやうに願ひたい、且つ右の金額を御分配になる手続等のことに就きましては会頭に総て御処置を乞ふと云ふことを併せて申上ます
○会長(渋沢栄一君) 今の御建議の御趣意は前に申しました通りで営業満期計算の済んだあとにて株金に弐百弐拾五万円を繰込参拾万円を滞貸の消却に減くと云ふことにした残りが凡そ拾万円以上あらうと思ふ、其計算したときに五万円だけを引抜いて重役始め行員一同への慰労として分与するやうにせいと斯う云ふ御建議でございますか
○渡部温君 左様でございます、如何でございます、御論がございませぬなれば一応どうか総起立で御賛成下さることを希望致します
(賛成と呼び満場起立す)
○会長(渋沢栄一君) 只今渡部君から御発議で、行員一同が二十余年の歳月を能く勉励致したに依つて、幸に株主諸君に於ても満足なる結果を見たから、満期に際して慰労として第四項の株金の組込及び滞貸消却に充てた金額の残りが凡そ拾万円以上あらうと云ふ計算に見へるから、其内五万円だけは現在の行員に慰労として給与すると云ふことが御議決に相成ましてございます、其通り議事録に留め置きまして、計算の際に辱けなく御厚意を受けまするやうに致します、此議決のことは今日に実施することは出来ませぬが、今日の御議決は私は申すに及ばず、行員一同御厚意を感謝致すでございます、私が総代として玆に御礼を申します
議事が前に泝りますが、議案の議決は已に相済みましたが格段会議に願ひますにはもう一遍御議決願はなければならず、今玆で再応の決議を致したと云ふことを諸君が御極め下さいますれば、即ちそれを格段会議として御議決を下されたものと致します
(賛成の声起る)
○会長(渋沢栄一君) それでは之を以て格段会議として決定することに御同意の御方の御起立を請ひます
(起立者 満場)
○会長(渋沢栄一君) 格段会議に於て決定致しましてございます――さう致しますと「すべし」とか「ものとす」とか云ふ文字の修正が大蔵省に於て更にないとも申されませぬが、其場合は如何致したものでございませうか、定款を監督官庁に上申するに当つて意味に少しも違ひないと云ふことであつたならば、文字だけの修正は取締役に任じて下さることを御議決下さりませうか、さう致しても甚しき不条理なことではないと存じて玆に御相談を致します
(無論でございますと呼ぶ者あり)
○会長(渋沢栄一君) それでは定款を監督官庁に上申するに当つては字句の修正は取締役に一任することに致します
(異議なしと呼ぶ者あり)
- 第4巻 p.524 -ページ画像
○会長(渋沢栄一君) 定款を其筋に出します上は蓋し許可を得ますのは不日であらうと思ひます、さう致しますと追々に継続準備をなしつつ参ります、而して此銀行の通常総会を七月開かねば相成ませぬが其前にも継続の認可を得れば尚ほ創業総会の如き重役を選挙する会議を開くことになるかも知れませぬ、或は若し其時機が至つて短くなりましたときにはどうで通常総会を開かねばならぬから、其通常総会と共に役員を選挙して戴くこと又は議決を請ふことになるかも知れませぬ、若し時宜によりましたならばもう一遍の御集会を乞はなければならぬかも知れませぬ、是も予め申上て置きます、今日は色々手間取まして大に御苦労に存じます、是で議事は終りましてございますから散会を告げます
(拍手起る)
午後四時二十分閉会
○右定款ハ後大蔵省ノ内示ニヨリ第二条但書末文「払込ミタルモノトス」ヲ「払込ムヘキモノトス」ト訂正シ、第十四条通常総会云々ノ「通常」ノ二字ハ之ヲ削除シタリ。
第一国立銀行半季実際考課状 第四六回 〔明治二九年上期〕(DK040053k-0003)
第4巻 p.524-525 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第四六回 〔明治二九年上期〕
○株主総会決議ノ事
○上略
一五月十七日臨時総会ヲ開キ、本行本年九月廿五日営業満期ニ付継続ノ事宜ヲ決議セリ
○諸達及願伺届ノ事
○上略
一五月十九日東京府知事ヲ経テ大蔵大臣ヘ営業満期国立銀行処分法施行細則第一条ニ拠リ本月十七日株主臨時総会ニ於テ決議セシ所ノ継続事宜ヲ稟議シ、六月廿六日私立銀行トシテ営業ヲ継続スル事ヲ允准セラレタリ
一六月一日大蔵大臣官房第三課長ヨリ本年同省令第八号国立銀行満期処分法施行細則第一条財産目録貸借対照表上申ニ際シ、同第二条ノ旨ニ依リ資産負債各金額中増減ヲ生スル時ハ其事由ヲ別記シ、営業継続申請書類ト共ニ差出スヘキ旨ヲ達セラレタリ
一同二日大蔵大臣ヘ過日開申セシ当銀行営業継続出願書類ニ遺漏セシ貸借対照表事由書ヲ進呈セリ
一同日同大臣ヘ五月十七日株主臨時総会ニ於テ、議案第四項計算残額ノ内ヨリ金五万円ヲ現任ノ頭取取締役及役員一同ヘ慰労賞与トシテ給与スヘキ事ニ決議シタル旨ヲ上申セリ
一同十八日大蔵大臣官房第三課長ヘ甞テ同省管保スル所ノ当銀行減株還納紙幣金弐拾万千六百円ハ、営業満期ニ接近シ其交換ノ必用ナキヲ以テ、廃棄ノ手続ニ処セラレン事ヲ上申セリ
一同日大蔵大臣ヘ東京府知事ヲ経テ、過日営業継続願書ニ附属シテ開申セシ定款第十四条通常総会ニ於テ云々ノ通常ノ字ヲ刪除セシ旨ヲ上申セリ
一同廿九日同大臣ヘ先般当銀行営業継続願書ニ添付稟議シタル定款第二条但書中、払込ミタルモノトストアルヲ払込ムヘキモノトスト訂
- 第4巻 p.525 -ページ画像
正セシ旨ヲ開申セリ
一同日大蔵大臣官房第三課長ヘ、当銀行ハ已ニ営業ノ継続ノ允准ヲ得タルヲ以テ、営業満期国立銀行処分法施行細則第八条ニ拠リ、営業満期ノ日一旦諸帳簿ヲ締メ諸報告表ヲ開申スヘキニ付テハ、同日マテノ利益金ハ株主総会ヲ開キテ配当スヘキヤ、又ハ継続後第一期ノ計算ニ繰込ムヘキヤヲ稟議セシニ、其季日ニ於テハ其利益金ノ配当ヲ為サヽルモノト心得ヘキ旨ヲ指令セラレタリ
第三課文書類別 農商―銀行 明治二九年(DK040053k-0004)
第4巻 p.525-528 ページ画像
第三課文書類別 農商―銀行 明治二九年 (東京府庁所蔵)
○ 進達案
明治廿九年五月廿一日 内務部第三課主任属 ○氏名略
知事
内務部長 第三課長 農商掛
第一国立銀行営業継続願書
進達案
今般第一国立銀行ヨリ本年一月法律第七号ニ拠リ営業継続願書進達方願出書ニ付調査候処不都合ノ廉無之ト被認候条別紙之書面及進達候也
年 月 日 知事
大蔵大臣宛
当銀行営業継続之義本月十七日之株主臨時総会ニ於て決議いたし候ニ付、営業満期国立銀行処分法施行細則第一条ニ拠リ、別紙之通申請仕候間大蔵大臣ヘ御進達被成下度此段上申候也
東京
明治廿九年五月十九日 第一国立銀行 印
東京府知事 侯爵 久我通久殿
○ 第一銀行営業継続願
当銀行之義ハ本年九月廿五日を以営業満期と相成候ニ付、明治廿九年法律第七号営業満期国立銀行処分法ニ拠り、本月十七日株主臨時総会ニ於て格段会議之方法を以、別紙議案之通決議いたし、本年九月廿六日ヨリ株式会社第一銀行と改称し、資本金を四百五拾万円ニ増加して営業継続仕度候間、御許可被成下度、仍て同法施行細則第一条ニ拠り別紙決議案並ニ改正定款及財産目録貸借対照表相添此段奉願候也
東京
明治廿九年五日十九日 第一国立銀行
大蔵大臣 子爵 渡辺国武殿
臨時総会議案 ○略
株式会社第一銀行定款 ○略
貸借対照表
東京市日本橋区兜町
明治廿九年四日三十日 第一国立銀行
財産目録
東京市日本橋区兜町
明治廿九年四日三十日 第一国立銀行
○東京本店以下各支店ノ貸借対照表及ビ財産目録ハ之ヲ省略シタリ。
○ 定款訂正届
明治廿九年六月十九日 内務部第三課主任属 (印)
知事 (印) 参事官
内務部長 (印) 第三課長 (印) 農商掛 (印)
銀行定款訂正届
第一国立銀行
一営業継続定款訂正届
右調査候処不都合無之候ニ付第三式経由印ヲ捺シ農商務省ヘ進達スルモノトス
先般営業継続願書ニ添付差出候改正定款第十四条中通常総会ニ於テ云云者有之候処通常ノ二字ヲ削除シ総会ニ於テ云々者訂正仕候間此段上申仕候也
明治廿九年六月十八日 第一国立銀行
大蔵大臣 子爵 渡辺国武殿
- 第4巻 p.527 -ページ画像
○ 銀行営業継続許可書下付ノ件
明治廿九年六月廿九日 内務部第三課主任 (印)
知事 (印)
内務部長 (印) 第三課長代 (印) 農商掛 (印)
銀行営業継続許可書下付ノ件
第一国立銀行
右営業継続ノ義今般許可相成候処、別紙之通大蔵大臣官房第三課長ヨリ照会有之候ニ付、役員ヲ召喚シ不備ノ廉訂正届出サシメタル上許可書本行ノ下付スルモノトス
坤第八〇八八号
廿九年五月廿三日付内三丙第四〇一三号ノ二ヲ以テ第一国立銀行営業継続願御進達之処今般許可相成候得共、左記之廉不備ニ付訂正、其旨更ニ届出サシメ候様御示諭相成度、此段及御照会候也
明治廿九年六月廿六日
大蔵大臣官房第三課長 添田寿一 印
東京府知事 侯爵 久我通久殿
一定款第二条但書中「払込ミタルモノトス」トアルヲ「払込ムヘキモノトス」ト訂正スヘシ
第一二九三号
東京府
廿九年五月廿三日付第一国立銀行営業継続願進達ニ付別紙許可書送付候条其銀行ヘ下付スヘシ
明治廿九年六月廿六日
大蔵大臣 子爵 渡辺国武 印
大蔵省指令第一二九三号
東京第一国立銀行
営業満期国立銀行処分法ニ依リ私立銀行トシテ営業ヲ継続スルコトヲ許可ス
明治廿九年六月廿六日
大蔵大臣 子爵 渡辺国武 印
御請書
一第一国立銀行営業継続許可書
但大蔵省御指令第一二九三号
右御下附相成正ニ受領申候也
明治廿九年六月廿九日 第一国立銀行 印
東京府庁御中
○ 定款訂正ノ義ニ付回答案
明治廿九年六月三〇日 内務部第三課主任属 (印)
知事
内務部長 (印) 第三課長 (印) 農商掛 (印)
- 第4巻 p.528 -ページ画像
第一国立銀行定款訂正ノ義ニ付回答案
本月二十六日付坤第八〇八八号ヲ以テ第一国立銀行定款中訂正方ノ義ニ付御照会ノ趣了承、即チ其旨本行ニ示達候処別紙訂正届書差出候ニ付及送附候条、可然御取計相成度此如及回答候也
(印) 年 月 日 知事
大蔵大臣官房第三課長宛
当銀行営業継続願書ニ添付いたし候改正定款中訂正之項有之別紙之通上申いたし候間大蔵大臣へ御進達被下度此段上申いたし候也
明治廿九年六月廿九日
第一国立銀行 印
東京府知事 侯爵 久我通久殿
先般営業継続願書ニ添付差シ出候改正定款第二条但書中払込ミタルモノトスと有之候処、各《(右)(マヽ)》者御支払込ムヘキモノト訂正仕候間此段上申仕候也
明治廿九年六月廿九日
第一国立銀行
大蔵大臣 子爵 渡辺国武殿
銀行通信録 第一二八号・第二―三頁 〔明治二九年七月〕 伺指令(DK040053k-0005)
第4巻 p.528 ページ画像
銀行通信録 第一二八号・第二―三頁 〔明治二九年七月〕
○伺指令
第一国立銀行営業満期ニ及ヒ私立銀行トシテ其事業ヲ継続スルニ決シタルハ前号已ニ掲載シタリト雖、此継続ニ際シ一旦国立銀行収支決算ヲ為シ、株主総会ヲ開キ其利益金配当処分ヲ為スヤ否ハ甞テ同行ノ疑義スル処ナリシヲ以テ、同行ヨリ当路者ヘ経伺シタルニ右ノ場合ニハ其利益ノ配当ヲ為サヽルモノト心得ヘキ旨指令アリタレハ其全文ヲ掲ケテ以テ当事者ノ参考ニ供ス
当銀行営業継続之義御認可相成候ニ付テハ、営業満期国立銀行処分法施行細則第八条ニ拠リ、営業満期之節一旦諸帳簿ヲ締上諸報告計表ヲ差出シ可申筈ニ付、同日マテノ利益金ハ株主総会ヲ開キ配当可致哉、又ハ継続後第一期ノ計算ニ繰込可申哉ヲ評決可致儀ト奉存候ヘトモ、少シク疑義ニ渉リ候間此段奉伺候、至急何分之儀御指揮被成下度候也
明治廿九年六月三十日 第一国立銀行 印
大蔵大臣官房第三課長 添田寿一殿
(坤第八四四五号)
東京 第一国立銀行
廿九年六月三十日伺営業満期日ニ在テハ其利益金ノ配当ヲ為サヽルモノト心得ラルベシ
明治廿九年七月六日
大蔵大臣官房第三課長 添田寿一 (印)
青淵先生六十年史 (再版) 第一巻・第五五八頁 〔明治三三年六月〕(DK040053k-0006)
第4巻 p.528-529 ページ画像
青淵先生六十年史(再版)第一巻・第五五八頁 〔明治三三年六月〕
第一銀行慰労
- 第4巻 p.529 -ページ画像
渋沢栄一
一金壱万八千四百円
右者当銀行営業満期ニ付慰労金トシテ給与候事
明治廿九年九月
第一銀行
○右ハ五月十七日ノ臨時株主総会ニ於ケル決議ニヨリ贈ラレタルモノナルベシ。